第187話 別れと出会い

 転移陣のマジックアイテムを手に入れた事を暴露すると、王様は驚きの声を上げていた。


 ただし、念話しながらである為、俺たち以外の周囲の者には、表情からでしか様子をうかがうことができない。口を開けて目を見開いている王様の反応に、貴族たちもまた驚いていた。


「へ、陛下があそこまで取り乱されるとは…………」

「一体……どんな話をされているのだ……?」


 そんな周囲の疑問を余所に、俺たちは念話で会話を続けた。




『転移陣ってのは……あれか? ダンジョンに置いてある、離れた場所から一瞬で移動出来る、あの転移陣だよな?』

『はい。あの転移陣です』


 俺が強く頷くと王は大きく息を吐いた。


『そんな代物も存在するとは……。ちなみにそのマジックアイテム、国に売る気はねえか?』

『申し訳ございません。たった一つしか手に入らなかった貴重なモノでして……。それに、もう片方の出入り口は既に設置済みです。一度設置したら場所の変更はできない仕様のようです』

『むぅ……そうか……」


 王は少し考えた後、俺に尋ねてきた。


『で? その設置した先ってのは一体何処だ? 場所によっては国内への設置は許可できんぞ? 新日本国か? それともまさか……ヴァーニメル半島の外か?』


 王の言う事は正論だ。


 仮に設置先が敵国であるガラハド帝国であれば、侵攻作戦に悪用される恐れがあるからだ。


『ミーシアナ大陸です』

『んなっ!? ごほっ! ごほっ!』


 予想外過ぎる返答に王は驚いたのか咽てしまった。


 慌てて侍女が王に水を差しだす。


 水を飲んで少し落ち着きを取り戻した王が口を開いた。


『ミーシアナ……確かメルキア大陸から大海を挟んだ南方の大陸だよな? なんでまた、そんな未開の遠方を……』

『いやぁ。遠い場所に置いた方が転移陣の恩恵もあるかと』

『遠すぎだ!!』


 この王様、思ったより感情豊かな人だな。


 普段は威厳ある為政者として振る舞う様に心掛けているのだろうが……念話で本性が出たな。ただし、表情だけは他の者にも丸見えであるのだが……


『しかし、また……なんだってミーシアナ大陸なんだ? あそこは魔物だらけで人が住めねえって聞いていたぞ?』


 俺たちもそう聞いているが……この世界の伝達網はそれほど発展しておらず、しかも南の大陸は果てしなく広い。まだ見ぬ文明国家が存在していても不思議ではないだろう。


『まだ、ほんの一部を見ただけですが……他国はミーシアナ大陸の開拓を進めておりまして、その中には開拓者たちが独立して国を興したケースもあります』


 はい。うちの家族です。


 俺の返答に王は悩ましい表情を浮かべていた。


『うーむ、新たな開拓地……まだ東部の開拓も終えていない状況だ。あまり興味はねえなあ……』


 エイルーン国内では、例の東の森が未開拓状態である。その状況で遥か南方の大陸にまで足を運んで開拓する気は今の王には無いようだ。


『その転移陣を置いた場所は安全なんだろうな? 転移陣からモンスターが出てきたなんて事になったら、テメエに責任取ってもらうぞ?』

『それは大丈夫でしょう。転移陣は“移動する”と意識しない限り発動しませんので、野生の魔物が偶々転移陣の上を通っただけではなんの効果も生み出しません』


 それも既に実証済みだ。


 ちなみに意識さえすればゴーレム君単独でも転移は可能なので、人ならざる者でも通行は出来る。ペットを抱えた状態でも移動可であった。


『で? 転移先は開拓村か? それとも町レベルなのか?』


 王が詳しく尋ねてきた。


『今は町レベルですが…………一応は国を名乗っております』

『ほう? なんて国だ? どういった人種が統治していやがる?』

『……う』


 王の更なる問いに俺は声を詰まらせた。


『なんだ? 言えねえのか? なら、この話は終いだぞ?』

『うぅ……そのぉ…………ボニョボニョ国、です』

『ああん? もっとハッキリ言いやがれ!』

『…………ヤノー国です!! 統治者は……俺の父です』


 俺の発言に王は呆気にとられ、佐瀬たちは笑いを堪えながら聞いていた。


(畜生……! だから言いたくなかったんだ!)


 家族が国を興した件は、俺の中ではちょっとした黒歴史扱いだ。


 異世界転移して新たな国家を建設するぞ! なんて、誰しもが一度は夢見るかもしれない。そんな子供じみた考えを、まさか俺の家族が実行に移すとは……とほほ。


『ヤノー国……お前、まさか一国の王子だったのか? てっきり日本人の一市民だと思っていたが……』

『いえ、あの……まさしくその通りなんです。うちの家族が分相応にも国家の真似事をしているだけなんです……。元はしがない普通のサラリーマンが押しつけられた町会長のノリで王様やってるだけなんです』


 俺の発言でついに堪え切れなかったのか、佐瀬たちは爆笑していた。


『お、おう……そうか……。まぁ、テメエの家族の領土ってんなら……別に問題なさそうだな……うん』


 王様はこちらを気遣ってなのか、それ以上はあまり深く追及して来なかった。






 転移陣の設置については一応の許可を得た。


 設置場所も俺が希望した鹿江エリアで検討するそうだ。


 ただし、設置場所は国外との隣接地となる為、関所などの諸々準備が掛かる。また、鹿江エリアを代行統治している花木代表にも話を通す必要がある為、一ヵ月後に最終判断を下す運びとなった。



『てめえらの所為で俺の仕事が増えただろうが! 今すぐには無理だから少し待て!』

『問題ありません』


 一ヵ月くらいなら想定の範囲内だ。


 エイルーン側からすれば転移陣によって新たな隣接国家が誕生する大事なのだ。当然、そんな情報は王だけの秘密にする訳にもいかない。信用に足る何人かにも話すと王に言われ、俺は即座に頷いた。


(姉さんには“トップシークレット”って言われたけど……俺はトップにしか話していないからセーフ!)


 姉さんだったら本気でこっそり実行するだろうが……完全にアウトだ。


 そもそも他人の国で勝手に転移陣を設置するのが無茶苦茶なのだ。後でそれが知れたら絶対に問題になる。最悪、俺の首が飛びかねない。


 設置場所候補は新日本国内かエイルーン国かで迷ったが、間を取って鹿江エリアに決めたのだ。


 恐らく、この話を日本に持って行ったら、決まるまで一ヵ月どころでは済まないと思われる。宇野事務次官一人の裁量を大きく超えているからだ。必ず上の者に話を通す案件だろう。


 しかも、転移先のヤノー国は元日本人ときた。それが仮にも王制を築いて南の大陸で国家建設中など、世論も含めて問題になりかねない事案だ。


 良からぬ政治家を巻き込んでの大論争に発展する懸念もあったので、どうせ国のトップに知られるのなら、エイルーン王国を選択してしまえと思ったのである。


(なにより新日本国民に……俺の家族が建国したなんて知られたくねえ!!)


 それが最大の理由だ。


(その内、矢野王家を没落させてくれる!)


 今のヤノー国は姉さんがリーダーとなって引っ張っているようなものだ。実権を握っているのは間違いなく矢野春香なのだ。あの土地の開拓が落ち着き次第、矢野一家にはご隠居してもらう予定だ。というか、絶対にそうさせる! あと、国名も絶対に変えさせる!






 一通りの話し合いも終わり、まだ褒賞の決まっていない者は概ね、金銭や名誉が報酬となった。


「イッシン! また大きな獲物を狩る時は私に声を掛けな! 寿命でくたばっていなければ手伝ってあげるよ!」

「はい! ディオーナさんもお身体を大切に!」

「年寄り扱いするんじゃないよ! じゃあね! 」


 ディオーナ婆さんは軽く挨拶し、あっという間に去ってしまった。


(あの様子じゃあ、暫くは健在だろうな)



 ケイヤが俺に話しかけてきた。


「イッシン! 頼みがある! どうか……私をパーティに入れてくれ!」

「OK」

「そんなあっさり!? もっと言い方があるだろう!」


 拍子抜けたケイヤは何処か不満そうな表情を浮かべた。どうやら一大決心して頼んだのに、俺の軽い返事がお気に召さなかったご様子だ。


 ケイヤが冒険者になると言い出した時、既に俺は彼女を誘う事を心に決めていた。あちらもそのつもりだったようで、内心では正直ホッとしている。


「良かったね、ケイヤねえ

「これで……問題無く私たちは抜けられるね」


「…………ん?」


 今、名波はなんて言った?


 名波とシグネは二人揃って俺の前に立った。


「矢野君。ごめんなさい! パーティを抜ける許可をください!」

「お願いします!」


「「ええええええええええええ!?」」


 驚きの声を上げたのは俺と佐瀬の二人だ。どうやら佐瀬も初耳だったらしい。


「ど、どういう事よ!? 留美!?」


 佐瀬は慌てて親友である名波の両肩を掴む。そのやり取りはまるで、先ほどのランニス父娘の再現であった。


 先に口を開いたのはシグネだ。


「九月から探索者の学校が始まるでしょう? だから暫くの間、私はパーティを抜けるね」

「あー、まあ……シグネはそうなるか……」


 シグネは新日本が始めた探索者制度に当初から惹かれていた。


 最初は年齢制限に引っかかって無理であったが、新法案によりその制限も緩和された。ただし、16才未満の場合だと、探索者の養成を行う新東京探索者専門学校に入学しなければならない。


 九月一日から開校となるその学校に入学すれば、最短一ヵ月で探索者の資格を得られるらしい。ただし、16才未満の場合は、専門学校に在籍中でないと資格を剥奪扱いとなる。


 これは元々、探索者資格を得られず、高い能力やスキルを持て余している子供たちに向けて創設された学校である。新日本国の探索者として正式に活動する為には、今のシグネはこの学校の生徒になるしか道は無い。


「試験は七月からだけど、学校は九月からだから、まだもう少し一緒にいられるけれどね」

「シグネの理由は分かったけれど……留美はどうして!?」


 佐瀬が再度尋ねると名波は困ったような笑みを浮かべた。


「シグネちゃんは当分、新日本国内の生活でしょ? 一人だけだと寂しいと思ってね。それに……誰かお目付け役は必要でしょう?」

「「ああー……」」

「えー!? そんな理由なの!?」


 納得の理由に俺と佐瀬の声が揃った。


 しかし、本人だけは不満そうだ。


「それに私の家族も新日本で生活しているしね。私自身も探索者制度に興味はあったから、暫くの間はプロ探索者として活動してみるよ」


 名波はシグネと違い年齢制限も無いので、試験を受ければ間違いなく合格するだろう。


 それに名波とシグネの二人は仲が良く、本当の姉妹のように何時も一緒に新日本の動画を見ていた。恐らくそれが一番の動機なのだろう。


「そんな時にケイヤが冒険者になりたいって話を小耳に挟んでね」

「え!? 名波、知っていたのか!?」

「うん」


 どうやら名波は強化された聴力でケイヤとロイ、レーフェンたちの会話を偶然聞いてしまったようだ。ケイヤが加わるのなら、この機会にとパーティ離脱の件を話すタイミングを前から伺っていたようだ。


「彩花! 私は一足先にパーティを抜けるけれど、何かあったらすぐに駆け付けるから……!」

「留美! これまで私を助けてくれて……ううん。一緒にいてくれて……ありがとう!」


 名波は満面の笑みを浮かべていたが、対照的に佐瀬の方は目に涙を溜めて、今にも決壊しそうだ。


 そんな佐瀬に名波は近づくと、優しくハグしながら言葉を掛けた。


「あんまりうかうかしていると、ケイヤに矢野君を取られちゃうぞ」

「~~~~っ!? る、留美ぃ!?」


 咄嗟にビリビリ放電する佐瀬に名波は慌てて回避した。


「あはは! 冗談だって……!」

「もう……!」


 今の会話……こちらにも丸聞こえなのだが……


 ケイヤも聞こえていたようで、顔を少し赤らめていた。


(名波め……確信犯だな!)


 しかし、俺ってもしかして……モテる?




 王城で何時までも冗談を言い合っている訳にもいかない。佐瀬が場も弁えず雷魔法を使うものだから、先ほどから警備兵が睨みつけているのだ。


 俺たちはそそくさと王城を退散した。








 ケイヤを新たにメンバーへと加えた“白鹿の旅人”はエアロカーで新東京近郊へと飛んだ。


「この辺りでいいよ!」

「シグネは試験を受けてから一度戻って来るんだよな?」

「うん!」


 名波はすぐにでも探索者として活動する方針だが、シグネは試験を受けた後、一度鹿江にいる両親の元へ里帰りする予定だ。


 その後は学校が始まるまで、俺たちと行動を共にしたいと言っていた。


 俺たちも当面は遠出を控える方針だ。


 正直、俺たち自身も少し身体を休めたいと思っていたのだが、王から直々に頼まれてしまったのも理由の一つだ。




「最近、どうにも帝国がキナ臭い。落ち着くまで、王国周辺に居てはくれねえか?」

「……俺たちは冒険者です。戦争には積極的に参加しませんよ?」


 見知った街や人が襲われるのなら防衛にも尽力するが、国家間の戦争には極力関わりたくはない。


「分かっている。だがなぁ……うちは最近、優秀な聖騎士を一人、失ったばかりでよぉ? んー?」

「……ぐっ! ぜ、善処します……」


 そう言われると強く反論出来なかった。




 名波とシグネを新東京へ送り届けた後、俺と佐瀬、ケイヤの新生“白鹿の旅人”メンバーで話し合った。


「当分はエイルーン王国内や近郊で活動するけど構わないか?」

「OKよ」

「勿論だ」


 ケイヤとしても帝国の動きが不穏な情勢下で、祖国を放って遠出をするのは避けたいようだ。


 問題は、何をするかだが……


「近々、ブルタークの街でオークションがあるらしいんだ。それに参加したいと思っている」

「「オークション?」」


 二人の問いに俺は頷いた。


 どうもブルタークでは年に数回、オークションを開催するそうだ。その中でも今度行われるのは二年に一度の大規模な催しらしい。当然出品数に参加者も多いだろう。


「イッシンは調度品にでも興味があるのか?」

「いや。俺が欲しいのはマジックアイテムだ」


 芸術方面はさっぱりだ。


 オークションには様々なジャンルのお宝が出品されるそうだが、俺が狙っているのは実用的なマジックアイテムである。


 欲を言えば、俺の膨大な魔力を活かせる武具系アイテムが欲しいが……武器の類のマジックアイテムは貴重で中々手に入らない。



「へぇ。面白そうね。何時行われるの?」

「一週間後だ。それまで衣装や資金の準備をしよう」


 その競売はドレスコードがあるらしく、その上参加者も限られている。基本的に貴族や大きな商会、街の有力者のみしか参加出来ない競売だが……俺にはとある伝手があった。


 そのオークションの主催者はブルタークの統治者、ランド・マルムロース侯爵なのである。


 既に侯爵からも四人分の参加状を頂いている。


(本当はシグネにも来て欲しかったけれど……)


 鑑定持ちのシグネならお宝を発見出来るかもしれないが、競売会場には雇われの鑑定士がいるようなので偽物を掴まされる心配は無い。マジックアイテムの説明も会場でキチンとされるそうなので、特に問題ないだろう。



 オークションの期日まで、俺たち三人は新東京や鹿江町、ブルタークなどで思い思いに過ごす事にした。








 オークション前日、俺は一人で街中を歩いていると、人気の少ない裏通りで揉め事が起こっていた。


 どうやら若い女性三人組がガラの悪そうな五人の男たちに囲まれているようだ。


「止めてください! 私たちは興味ないと言っているでしょう!」

「そんなつれねえこと言わずにさぁ」

「俺たちと遊ぼうぜ!」

「へへっ! 俺たちこう見えて、C級冒険者なんだぜ?」


 どうやら絡んでいる男たちは冒険者のようだ。五人とも鉄製の冒険者証をぶら下げていた。デザインからしてC級なのは本当なのだろう。


 一方、三人の女性も武装していた。


(あっちも冒険者か……ん?)


 三人とも外見的に日本人女性のようだ。しかも、その内の一人には見覚えがあった。


(確か……藤堂ミツキか!?)


 新日本の探索者クラン”月花”のリーダーである藤堂ミツキがそこにいた。一体何故、新日本で活動中の彼女がブルタークの街に……


 あちらも野次馬の中に混じっている俺と目が合ったようで、声を掛けてきた。


「あっ……矢野君!」


 その一言に男たちの視線は一斉にこちらへと向いた。


「ああん? なんだ、この小僧?」

「妙な髪色してんなぁ」

「その年で白髪かぁ? ギャハハハハ!!」


(まぁ……そうなるよなぁ……)


 俺の白髪は異世界でも少々目立つ。


 しかも、この状況で声を掛けられれば、当然このような事態に陥る訳でして……


 男たちは俺を邪魔者と判断したのか、こちらの周りを囲い始めた。それを見た藤堂が”しまった”といった表情で、俺に対して申し訳なさそうにしていた。


「おいおい! コイツは驚いたぜ! 見ろよ!」


 男の一人が俺の首に掛けられている冒険者証を指差した。


「なっ!? 金の……冒険者証だと!?」

「こいつがA級だってのか!?」


 最近の俺たちは面倒事を避ける為にも冒険者証を積極的に見せていた。その上、俺たち“白鹿の旅人”はドラゴンスレイヤーとして名を馳せていた。


 そんな俺に喧嘩を売る馬鹿は国内にはもう存在しなかった。


「お前……まさか冒険者証を偽造してんのか!?」

「こいつ、なんて堂々と馬鹿な真似を……」

「そんなコケ脅しで、俺たちが怯むと本気で思ってんのか?」


 …………はい、馬鹿がいました。


 これには俺だけでなく、遠巻きに見学していた野次馬たちも呆れていた。


「あーあ。あいつら、終わったぜ……」

「“ゴーレム使い”に手を出すとは……」

「何分で決着すると思う? 俺は一分に銅貨五枚だ!」

「アホか!? 30秒も持たねえよ! 銀貨一枚!」


 なんか賭け事も始まってしまった。


 比較的治安がマシなブルタークでも裏路地に入るとこんなものだ。


 周囲のヤジが聞こえたのか、男たちは顔を赤らめながら、こちらへと殴りかかってきた。


「どいつも舐めやがってぇえええ……ぐほっ!?」

「はやっ!? ぎゃふん!」

「ほげぇええ!?」


 次々に馬鹿どもを伸していく。


 全員気絶させるのに五秒も掛からなかった。


「す、すご……」

「あの子……一体何者なの……?」


 藤堂の傍にいる女性二人は俺の動きに驚いていた。


 藤堂が駆け足でこちらに寄って来る。


「矢野君。申し訳ありません! 貴方を巻き込んでしまって……!」

「いや、全く問題ないぞ」


 藤堂は俺と模擬戦をしたこともある。俺が遅れを取る筈もない事くらい分かるものだが、それでも謝罪するのが藤堂の性分なのだろう。


(というか、藤堂の実力でも余裕だと思うのだが……)


「リーダーの知り合い?」

「君、すっごく強いね!!」


 二人の女性に詰め寄られ、俺は困惑していた。思わず藤堂の方に目を向ける。


「ちょっと! 二人とも失礼でしょう! すみません矢野君。彼女たちは同じクラン“月花”のメンバーです」

「“月花”のサブリーダー、千田せんだ明日香よ」

三枝さえぐさケイだよ!」


 千田明日香と名乗った女性は少し大人びた美人さんで藤堂よりも若干歳は上だろうか?


 三枝ケイは真逆で、藤堂よりも年下の元気そうな女の子だ。


「これはどうも。矢野一心だ」


 俺が名乗ると二人は驚いていた。


「貴方が噂の矢野君なのね!」

「ミツキちゃんが君の事をしょっちゅう話していたよ! 『凄く強い人がいた! 尊敬できる人だー!』って」


「ちょっと!? 二人ともストップ!! 止めて!!」


 二人に暴露され、藤堂は顔を真っ赤にしていた。


(うーん……俺、モテ期に突入した?)


 ようやく俺の時代が来たようだ。

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