第176話 魔蝶との死闘

※ボスの名称を 飛緑ひえん翅風はねかぜに変更




 60階層のダンジョンボス翅風はねかぜと戦ってから一週間、俺たちはボス部屋には行かず、階層に徘徊している魔物を相手に実戦訓練を続けていた。


 しかもチームを三人と三人の二つに分け、少人数でダンジョン内を徘徊した。だが、三人ずつだと一人余る。


 一人余ったのは……俺だ。


 そういったチーム分けを提案したのは佐瀬であった。


「イッシンのヒールに頼るのを止めようと思うの」


 それは何も俺に対して思うところがあるわけでは無く、このままチートヒールありきで探索を続けていると、その内痛い目を見るだろうという判断から佐瀬が提案してきたのだ。


 それには全員思うところがあったらしく、満場一致で決まった。


 毎日俺抜きでチームを変え、回復魔法に頼らないよう立ち回りを気にしながら三人チームでダンジョンを周っていた。


 最初は皆、相手の数に押されて手古摺ったが、それにも徐々に慣れてきた。


 俺も一人で探索する羽目になったが、極力回復魔法の使用を避けて戦ってみた。


(なるほど……こっちの方が緊張感あるし、色々と事前に考えながら戦う必要もある。良い訓練になるな)


 今までの俺は、とりあえず死なない程度に一当たりしてから考える戦い方であったが、それでは遅すぎる事もある。


 例えば前回の翅風はねかぜ戦。仮にゴーレム君が囮にならず、初手から俺が突撃をしていたら、恐らく腕か脚を切断させられていただろう。


 辺りどころが悪ければ即死もあり得た。


 まぁ、予約蘇生魔法ですぐ復活する筈なのだが、まだその検証は実際に行われていないのと、ロイとレーフェンの二人に俺の蘇生魔法が露見してしまう。


 万が一を考えたからこそ、前回はゴーレム君と名波が俺の代わりに翅風はねかぜへと突撃してくれたのだ。


 今後、無茶しなくていい場面での無茶は止めよう。




 少人数での戦いにも慣れて一週間、俺たちはいよいよ翅風はねかぜへのリベンジマッチを行うことにした。



「今度は全員で行くぞ! ヒールも解禁するが、すぐに回復出来ない状況もあるかもしれない。その場合は各自、手持ちのポーションを使ってくれ」


 一等級ポーションは一つしか無いが、名波に預けてある。部位欠損も失った直後なら治せるという優れものだ。


「毒の鱗粉はシグネとロイが風魔法で対処。その二人と後衛の佐瀬をレーフェンとゴーレム君がカバー。俺と名波、ケイヤがアタッカーで奴と斬り結ぶ。いいな?」

「「「了解!」」」


 毒の鱗粉はこちらの風魔法で押し返せば、少なくとも後ろまでは届かない。


 アタッカーである俺たち三人には来るだろうが、その都度俺が【キュア】で治していく算段だ。


 本当は毒の効かないゴーレム君も前に置きたいのだが、あの風の刃は高速で、至近距離だとゴーレム君のスピードでは回避不可能なのだ。



 扉をゆっくり開くと、奴は前回と同じく広場の中央で舞っていた。


「行くよ! 【シャドーステップ】!」


 今度は初手から名波が突撃をした。


 相手の影から飛び出した名波が斬りかかる。


 ――――っ!?



 それを察知した翅風はねかぜは、咄嗟に全方位へ強風を発動させた。


「うっ!?」


 為すすべなく名波は吹き飛ばされていく。


 そこへ追撃するべく風の刃が名波へと襲い掛かったが、彼女はそれを見抜いていた。


「【シャドーステップ】!」


 闇魔法【シャドーステップ】は移動するのに若干のタイムラグが生じる。咄嗟に使用する場合だと瞬時に回避するのは厳しいが、予め攻撃を予測してさえいれば、余程速い攻撃か至近距離でなければ回避は間に合う。


 名波が次に飛んだ先はゴーレム君の影であった。


 転移した名波は素早くゴーレム君の右手の上に飛び乗る。


「お願い、ゴーレム君!」

「――――!!」


 ゴーレム君は片手で名波を放り投げた。


 空中に飛び上がった襲撃者に翅風はねかぜは警戒するが、生憎こちらは七人掛かりだ。


「余所見している暇があるのかしら? 【ライトニング】!」


 姉仕込みである佐瀬の雷マシンガン攻撃が翅風はねかぜへと襲い掛かる。


 ――――っ!


 見た目以上に素早い動きで魔蝶は回避するも、何発かは命中した。


 だが、魔力耐性が高いのか、そこまでダメージを与えるには至らないようだ。


「ちっ! やっぱ上級魔法じゃないと有効打にならないか!」


 佐瀬が悪態をついた。


「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ!」


 俺とケイヤが剣で奴へと斬りかかった。


 奴は接近戦を嫌うのか、後方に下がりながら不規則に舞って回避運動を試みる。


 だが、空中にいた名波がそれを許さない。


 何時の間にか弓に持ち替えていた名波の矢が翅風はねかぜの片翅に命中した。


 ――――っ!?


「今だ!」


 動きが鈍った隙を逃さず、ケイヤの剣が翅風はねかぜを捉えた。


 だが――――直撃の瞬間、奴は突然姿を消した。


「なっ!?」

「何処に行った!?」


 近くにいた俺とケイヤは瞬時に周囲を見渡す。


 だが……何処にも居ない。


 思わず後ろの仲間たちの方へと振り替えるも、全員が翅風はねかぜの姿を見失っていた。


(馬鹿な!? 一体どういうことだ!)


 俺が混乱していると、突如上空に強い魔力反応を感じた。


「上か!?」

「名波!?」


 何時の間にか翅風はねかぜは名波の上空を飛んでいた。


 自由落下し始めていた名波を更にその上から風の刃で狙い撃ちにしてきたのだ。


「くっ!? 【シャドーステップ】!」


 身体を捻らせながら急いで影へと転移しようとするも間に合わず、風の刃が名波の左腕を切断してしまった。


「うぁ……っ!」


 左腕だけを上空に残し、俺の傍にワープしてきた名波が苦痛の声を上げていた。


「待ってろ! 【ヒール】!」


 飛んで来た場所は大正解だ。


 俺は一瞬で名波の左腕を元に戻した。


 その間に頭にきていた佐瀬が魔法を放った。


「よくも留美を……! 【リバースサンダー】!!」


 ――――っ!?


 地面から雷が天へと昇って行くが、魔蝶は空高くに居た為、着弾までには僅かな時間がある。それを魔蝶は悠々と躱す。


 逆に空から落ちる上級魔法【サンダーストーム】なら絶好のチャンスであったが、あれは広範囲な上に音と光が激しく、近くに居る俺たちにも悪影響を及ぼす。その為、連携には不向きな大技であった。


 かといって、他の中級魔法レベルだと威力不足である。佐瀬の魔法選択は間違っていなかった。


「くぅ……! あいつ、なかなか当たらない!」


 奴は上空が安全だと判断したのか、そこから毒の鱗粉を広範囲に散布し始めた。


「来た!」

「【ゲイル】!」


 シグネとロイが風の魔法【ゲイル】で毒の鱗粉を余所へと受け流した。


 毒の鱗粉が通じないと判断した翅風はねかぜはすぐに他の攻撃へと転じた。


 上空から再び突風を発生させた後、風の刃を地上へと打ち下ろす。


「あぶねっ!?」

「避けろ!」


 この一週間、俺たちは翅風はねかぜ戦を想定して特訓を重ねていた。


 今更その距離で風の刃を食らうほど間抜けではない。


 …………


 その様子を観察していた翅風はねかぜは次の瞬間――――またしても姿を消した。


「またか!?」

「くっ! 今のはなんだ!?」


 全員が警戒している中、いち早く位置を捕捉したのは、やはり名波であった。


「矢野君、後ろ!」

「――――っ!?」


 俺は咄嗟に回避しようとするも、背後から死の気配が近づいて来るのが分かった。多分、至近距離から風の刃を連発されたのだろう。


(あ……駄目だ、これ……)


 俺の胸部と右太ももが切断されるのを知覚する。位置的に見て、斬られては不味い臓器なども切断されたのだろう。


 視界が真っ暗になり、俺の意識が消えていく――――直後、切断された痛みを僅かに感じながらも、俺の視界が明るくなっていくのを感じた。もう……痛みは無かった。


(斬られた箇所は……治っている!?)


 服だけが斬られていた。


 この感覚は……どうやら【リザーブヒール】と【リザーブリザレクション】が自動発動したのだろう。俺も初めて死の体験をしたようだが、あまりにも一瞬でよく分からなかった。


 手足がしっかり動くのを俺は感じた。


「やってくれたなぁ!!」


 ――――っ!?


 まさか胸と脚を斬られた直後、いきなり復活して反撃してくるとは想像の埒外だったのだろう。


 魔蝶は俺の反撃を避け切れず、片翅を根元からバッサリ切断された。


 トドメとばかりにケイヤが追撃するも、奴はふらふら飛びながら剣が直撃する瞬間、またしても姿を消した。


 その際、膨大な魔力量が消費されるのを間近に居た俺は感じ取った。


「こいつ、魔法を使っている! 多分、瞬間転移……そうか! きっと【テレポート】の魔法だ!」

「「「――――っ!?」」」


 俺の言葉に全員が驚愕していた。


 No.103 テレポート 習得者:1名


 魔法書にはそう記載されていた。


 ナンバリングから察するに、原初八十四の魔法ではなく、新たに人類が生み出した新魔法とされている。


 人と魔物の魔法は違うと聞くが、まさか奴が人と同じ【テレポート】を使ってくるとは思わなかった。


 こいつが使うということは、【テレポート】は風属性に分類される魔法なのだろうか?



「シグネちゃんの上にいるよ!」

「わわっ!?」


 片方の翅を失った魔蝶はそれでも飛行を続けていたが、先ほどのような軽快な動きは見られなかった。


 風の刃でシグネやロイたちを襲うも、それをレーフェンの盾が防いだ。


「くっ!? 重い……!」


 レーフェンの特注である盾と彼女の魔法耐性が上回り、辛うじて相手の攻撃を防いでみせた。


 その隙にシグネとロイは【エアーステップ】で上空へと駆け上がり、魔蝶を追い詰めていく。


「だいぶ動きが鈍くなってきたよ!」

「今なら……倒せる!」


 …………っ!?


 相手も重傷で精彩を欠いていた。


 さっきの【テレポート】は恐らく奴の切り札なのだろう。魔力消費量も相当な筈だ。


 本来ならその切り札を使って外敵から逃げるのだろうが、ダンジョンの守護者に逃走の二文字は無い。必死に外敵を駆除しようと魔蝶は最後まで応戦していた。


 上空で近接戦闘を仕掛けてくる二人を引き剥がそうと、翅風はねかぜは再び強風を放ってシグネたちを吹き飛ばした。


 だが、それを待っている者がいた。


『チャンス到来! 全員、撃つわよ!』

『ああ、問題ない!』


 予め佐瀬が念話で事前通達をしていたのだ。奴が強風で味方を吹き飛ばした瞬間、大技を放つと……


 俺たちは全員、準備OKだ。


 各々がサングラスを掛けたり目を細め、両耳を塞いだ。


「――――【サンダーストーム】!」


 ――――っ!?


 何発もの雷が爆音と光を放ちながら、魔蝶とその周辺を焼き焦がす。


 流石の翅風はねかぜも【テレポート】を連発する魔力と体力が残っていなかったのか、佐瀬の大魔法を直撃して息絶えた。



 激しい落雷が収まった場所には宝箱とドロップ品が残されていた。


「……ふぅ。倒せたかぁ…………」


 やはりSSランクは手強い。


「やったな! みんな……え?」


 俺が周囲を見渡すと、何名かが苦しそうに吐血していた。


(あいつ……! 死に際に毒を撒いてから消えやがったな!?)


 最後まで悪辣な奴である。


 俺は急いで全員に【キュア】を施した。








「あれがSSランクの魔物か……」

「イッシン抜きでは当たりたくないな」

「ああ、命が幾つあっても足りないぞ……」


 結局最後は俺の回復魔法に頼ってしまったが、アレはしょうがない。


 人類がまともに戦って勝てる相手ではないからだ。


 S級冒険者レベルの使い手たちが数人がかりでボコってなんとか勝てる。それがSSランクなのだ。


 そして、それでも倒せなかった“氷糸界”カルバンチュラなどが災厄認定とされる。台風や地震と同じだ。どうしようもない。


(まだだ。まだ、あいつは倒せそうに無いなぁ……)


 せめて同じメルキア大陸内に居なければ、奴への報復も諦めて忘れ去るのだが……何時気紛れを起こして俺たちや知り合いの下にやって来るか分からないのが厄介だ。


 だからアレは必ず倒す!



「む! この宝箱……罠があるかも!」

「え?」

「マジ!?」


 ボスからの宝箱で罠というのは、俺たちも初の経験であった。


「あの蝶……どこまで性格悪いのよ……!」

「名波、どういう罠か分かるのか?」

「ごめん。罠があるってだけで、原理までは……」


【感知】スキルは罠の構造までは理解できないのだ。


 チョイチョイ


 誰かに肩を叩かれた。


「ん? ゴーレム君? まさか、宝箱を開けてくれるのか?」


 コクコク


 マジか……なんか今回の探索ではゴーレム君を荒っぽく利用しているようで気が引けるのだが……正直助かるな。


 何しろあの魔蝶から出てきた宝箱の罠なのだ。どんな凶悪な罠か想像も付かない。



 お言葉に甘えて、ゴーレム君に宝箱の開錠をお願いした。


 俺たちは部屋の隅で様子を見守る。


 いよいよゴーレム君が宝箱の中を開けると……中から短い矢が飛んで来た。


 ピュン……ポテ!


 …………終了。ゴーレム君にそんな矢は効かないのだ。


「……思ったより呆気なかったな」

「でもこれ……毒が塗られてるね」

「うわぁ、地味だけど嫌な罠……」


 本当だよ!


 やっと強敵を倒して気が緩んだところで、こんな玩具の矢の毒で倒れたら、死んでも死にきれないぞ!?


 ゴーレム君は宝箱の中から一冊の本を取り出した。


「……本だけ?」

「なんだ、武器じゃないのか……」

「なんかガッカリね……」


 聖騎士団トリオの反応は鈍い。


 しかし、俺たち“白鹿の旅人”の四人は焦っていた。


「ね、ねぇ……あれ……」

「うん。なんだか見たことあるような……」

「あれ、魔法書じゃないか?」


 それは俺たちが既に所持しているのと瓜二つ、この世の全ての魔法が記載されているという魔法書であった。


 それは本の中身を読み始めた三人も直ぐに察したようで、ごくりと唾を飲み込む。


「こ、こ、これ……っ!」

「う、嘘だろ……!?」

「間違いない……“魔導書”だ!」


 残念ケイヤ。多分、それ……“魔法書”の方だ。


“魔導書”は火・水・雷・土・風の五属性分しか記載されていないが、“魔法書”はそれに加え、光と闇属性の合計七属性、全ての魔法が記載されている。


 噂によると“魔導書”どころか、光属性しか乗っていない“聖書”、闇属性の“死者の書”でも国宝級らしい。


“魔法書”レベルになると、国同士で所有権を争う程の戦争にまで発展するそうだ。



 最初は何故魔法の目録如きでと思っていたが、いざ魔法に触れていく事で、そのヤバさが実感できた。


 魔法習得に必要な要素は"魔力量”と“魔法名”、それと魔法の“効果”を知る事が肝要だ。これにはその三大要素の一つ、魔法名が全て記載されているのだ。


 それに、どの魔法の使い手が現在何人いるのかも魔法書によって読み取れる。俺の蘇生魔法【リザレクション】や新魔法であるリザーブ系魔法も記載されている。


 既に所有者全員にその事実が知られているだろう。


 新魔法の存在をいち早く知れるのも、この”魔法書”最大のメリットなのだ。



「確か冒険者活動中は手に入れたマジックアイテムなども自由にしていいってニコライ団長が話していたよな?」

「「「…………」」」


 俺が一応確認するも三人は黙ったままだ。


 やがてケイヤが口を開いた。


「流石にこれは……報告しない訳にはいかないだろう?」

「ああ、王に献上するべき品だ。だが……」

「私たちだけで手に入れた物じゃあ、ないからねぇ」


 三人は根が真面目だから、上には黙ったまま所持しようとか、何処かに売ってしまおうという考えが浮かばないのだ。


(まぁ、そんな俗な者が聖騎士団員にはなれないか)


 そこで俺は助け舟を出した。


「分かった。そいつに関してはケイヤたちに譲る。それをどうするかは三人で決めてくれ」

「いや、それは流石に……」

「気にしないでくれ」


 もう既に俺たちも一冊持っているのだ。これ以上の厄介事は御免である。


「その代わり、先ほどの戦闘での内容についてはあまり他言しないでくれ。俺たちも色々と切り札を見せちゃったからな」

「先ほどの……」

「戦闘……」

「…………」


 どうやらレーフェンとロイは場所が遠かったからか、俺が一度死んだとは思っていないようだ。


 だが、間近で見ていたケイヤは俺が一度致命傷を受け、予約蘇生魔法で瞬時に復活した事を察したかもしれない。


 ケイヤにはどうせ蘇生魔法の存在を知られているので、問題は無いだろう。


「ちょっと! これ見てよ! 光魔法【リザレクション】習得者一名って!」

「リザレクション……復活魔法って事か!? じゃあ、この新魔法【リザーブリザレクション】なんかも……!」

「ああ、どちらも伝説の神級魔法だろうね。こいつは新発見だよ!!」

「…………」


 レーフェンとロイが興奮する中、ケイヤだけは気まずそうに黙ったままだ。


(も、問題は無い……筈だ)


 何時かは蘇生魔法を所持していることがバレるのだろうが、あのTS聖女姿を姉に見られるのだけは避けなければ……!



 ドロップ品は魔法書の他に、一等級のキュアポーションとSSランクの魔石があった。


(あ、一応救済措置はあったのね)


 罠で毒に掛かった間抜けは一等級ポーションを使用する羽目になるようだ。気を抜いたばかりに一等級ポーションを手放すとは……大損である。


 一等級のキュアポーションであれば、余程の毒でない限り完治するそうだ。


 ただし、難病や特殊な病気には無効らしい。


 更にそれ以上のキュアポーションが存在し、どんな病気も治せるという噂だが、そこまでいくと国宝レベルになるらしい。


 なんでも大昔、王族が不治の病にかかり、隣国にある秘宝トレジャー級キュアポーションを巡って戦争になったとか……くわばら、くわばら……








 メルキア大陸東部、バハームト王国――――



「ええい! 放せー!! なんとしても隣国にある秘宝トレジャー級キュアポーションを奪取するのだー!!」


「落ち着いてください、王!」

「そんな真似をすれば、戦争になりますぞ!?」

「王が御乱心だー!!」


 娘である王女が流行り病に罹り、バハームト王フリーデルは愚王と化していた。


 それに一番頭を悩ませていたのは、側近である大臣であった。


 彼は普段の王の素晴らしさを知っていると共に、家族思いであることも熟知していた。


 この王は、家族の為ならば「やる」と言えば必ずやりかねない。


「な、なんとかせねば……このままでは大変な事になるぞ……!」

「大臣、如何致しましょう?」

「病を治せる者、マジックアイテム、何でも良い! とにかく王女様をお救い出来る情報を集めるのだ! だが、何よりもまずは聖女ノーヤの捜索! 彼女をなんとしても探し出せ!! 予算に人員は気にしなくても良い! 最優先事項だ!!」

「「「ハハーッ!」」」



 メルキア大陸東部での騒動はバーニメル半島にも広がり始めるのであった。

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