第169話 白鷺の盾

 キプロスの街では予期せぬトラブルに見舞われたが、夏野大臣たちは無事に日本連合国の現トップと会談を行う事ができた。


 その後もペザの街の領主代行補佐である坂本の案内で、連合国内の主だった街を視察する事ができた。


 当初の計画通り、丁度一週間となる本日には新日本国に戻れる予定だ。



「初日こそ、どうなるかと思いましたが……連合国内を十分に見て回れたなと思っております」

「そうですね、夏野大臣。戦時下とあって治安なども心配しておりましたが、街中は思っていた以上に平穏そうでした。しかも占領された側の者たちがやたら好意的なのも……正直予想外です」


 この結果は宇野にも意外であったようだ。


 流石に全員とまではいかないまでも、元レイオール国民の半数以上が日本連合国暫定政権に対して好感を抱いていたのだ。それ程までに、貴族たちによる統治の締め付けが厳しかったのであろう。


 しかし、こうなると逆に元レイオールの民は、何が何でも今の体制を維持したくなる筈だ。


 仮にレイオール王国との停戦に踏み切り、その際幾つかの領地返還を要求された場合どうするのだろう。日本政府側はそれを了承しても、果たして民たちが納得するかどうか……


 民が元の国に戻る事を嫌がるようなら最悪、無人の街を明け渡すような事態にもなりかねない。そんな条件をレイオール側が飲むとも思えないが……和平への道はまだまだ遠そうだ。



「しかし、あの巨大モグラ……本当にあれに掘らせるつもりなのでしょうか。岩波さんは……」

「うーん、どうでしょう……。試すだけなら有りなのでは?」


 夏野大臣の疑問に宇野も悩みながらも返答した。


 結局、あのモグラを使役していた冒険者を始め、大人しく投降した者たちを岩波は丁重に迎え入れた。流石に全員を無罪放免とはいかず、実際に戦闘に参加した者は当面捕虜として扱われる予定だが、労働を対価に衣食住の面倒を見ることを約束した。


 良く言えば囚人だが、悪く言えば奴隷扱いである。


 キプロス襲撃では少なくない死傷者も出ているので、それくらいは飲んでもらうしかなかった。


 そして例の巨大モグラ――ヒュージモールとその使役者たちだが、俺の思い付きの提案を岩波は本当に実行する気のようだ。


(今更だけど、魔物にトンネル工事とかマジで大丈夫か?)


 これが地球時代であれば絶対に通らなかったであろう。安全性が確認されない限りは、きっと工事すらままならない。


 だが、ここは地球ではなくリストアで、しかも今は非常時だ。安全性は勿論考慮するべきだろうが、まずは実行あるのみである。


 偶に巧遅拙速という言葉を聞く。


 巧遅は拙速に如かずだとか、拙速は巧遅に勝るだとか言われているが、持論としては状況次第だろう。


 どんなに早く完成しても、いい加減過ぎる作業では意味が無いし、いくら丁寧に作っても膨大な時間が掛かるようでは考え物だ。


 今回、岩波は拙速の方を選んだのだ。


 魔物による突貫工事は大変危険だが、一刻も早く山脈にトンネルを開通させ、半島側と行き来できる状況に持ち込みたいのだろう。


 仮にここ北バーニメル地方とバーニメル半島への経路が陸路で確立されると、これはかなりのビッグニュースとなる。


 大陸中央部からバーニメル半島へ向かうとなると、今までは船を利用するか、決死の覚悟で山脈越えするかの二択であった。そこにトンネルという便利で利用しやすい第三のルートが誕生する訳だ。


 これにより日本連合国はバーニメル半島への交易が可能になるだけでなく、新日本国と離れ離れになっていた家族とも合流できるようになる。


 更に、連合国が今後窮地に立たされた場合でも、山脈の反対側へ逃げることや、逆に新日本国側から応援を呼びやすくなるわけだ。


 このトンネルの件に関しては新日本国側も他人事では済まされないだろう。


 新東京で暮らしている日本人の中にも、一斉転移の際に止む無く離れ離れになってしまい、連合国に居る家族や知人に会いたがっている人が多数いるのだ。その為、政府はトンネル開通に関して断固反対とはいかない。


 かといって国防上は安易に賛成も出来ないが、主導権は現在モグラを手にしている連合側にあるのが厄介であった。


 新日本政府は頭を抱えることだろう。


 何故なら山脈を貫通するトンネルの存在は、新たな火種を生みかねないパンドラの箱でもあるからだ。


 現在戦争真っただ中の日本連合国と物理的に距離が近づくという事はそういう事なのだ。しかも同じ日本人同士。連合国を目の敵にする現地国家は間違いなく新日本国も敵対国だと見做すだろう。


 それに、山脈を通れると知られると、他の周辺国も黙っていないかもしれない。陸路による半島への流通網を独占出来るのは非常に大きい事なのだ。トンネルの通行料や関税だけでもかなりの儲けを生み出せる筈だ。


 それに商人たちの通行量が増えれば、その付近の街にも経済的効果が期待できるだろう。


 山脈付近は魔物が多く、今までは魅力がほとんど無かった土地だが、その価値が一気に急上昇するのだ。半島側のトンネル出入り口はほぼ間違いなく新日本国寄りの北方民族自治区の何処かに開通されるだろうが、そうなるとガラハド帝国辺りが本格的に侵略戦争を仕掛けてくる可能性も否めない。


 山脈の向こう側も、今まで静観していた国家が動き始めるかもしれない。現在戦争中のレイオール王国やオラニア王国は言わずもがなだ。


「やれやれ……大変なことになったな」

「その割には、宇野さん楽しそうですよね?」


 口では困った感を出しているものの、俺が見る限り宇野は先日からご機嫌であった。


 俺の言葉に目を丸くした宇野であったが、チラリと夏野大臣の方を見た後、俺にだけ聞こえるよう小声で心情を語った。


「個人的には今の状況はやりがいを感じている。確かに様々な火種を抱えているのは事実だが、上手く立ち回れば日本は更なる領土と富を得られるからね。トンネルは最悪、潰してしまえばいいわけだし」


 過激な発言にギョッとするも、そういえばこれが宇野の本性だったなと俺は思い直した。彼は心の底から日本の発展を望んでいた。ただ他の政治家より少しだけ踏み込み過ぎてしまうだけなのだ。


 リスクを嫌う政治家たちからすれば、彼の方が異端なのだろう。



 最終日の視察も無事に終え、俺たちは坂本代行補佐をペザの街に送ってから新東京に帰還した。






「この度は本当にお疲れさまでした。お陰様で有意義な視察となりました。また何かございましたら、ご協力をお願い致します」


 夏野大臣は一礼すると、その場から去っていった。


「矢野君。今回の報酬は長谷川から受け取って欲しい。今後も宜しく頼むよ」

「仕事の内容と報酬次第ですね」

「ハハ、実に冒険者らしい回答だね。それじゃあ!」


 宇野も夏野の後を追って去ってしまった。


 その他のメンバーも思い思いに解散していくが、藤堂だけは残って俺に話しかけてきた。


「あの……」

「ん?」


 藤堂は頬を赤らめながらもじもじとしていた。


 これは……まさか!?


 俺が期待しながら返事を待っていると、彼女は意を決したのか漸く口を開いた。


「わ、私と模擬戦をしてください!」

「…………ですよねぇ」


 知ってたさ! 模擬戦かなーと思ってたんだよ。本当だよ!


「なんでまた、俺と模擬戦を?」

「七日前のキプロス襲撃時、矢野君はたった一人で多くの敵兵を討ち取ったと聞きました」


 あの襲撃事件、岩波は約束通り俺の存在を公にしなかったが、全員の口にチャック出来たわけでは無い。恐らく連合の誰かから俺の戦いを聞いたのだろう。


「私は一人でも戦い抜けるよう強くなりたいんです! 貴方にはその力があると思ってます。目標がどのくらい遠いのか……この目で確かめたいんです!」


 あちらも俺の方が格上である事を重々理解した上での模擬戦申し込みであった。


 それは別に構わないのだが、彼女の台詞が気にかかる。


「何故一人に拘るんだ? 藤堂さんは外の世界を見て回りたいと言っていたな。やはり一人旅はお勧めできないぞ?」


 その件は前にも相談を受けて話した筈だが……


「はい。私もそう思い、何人かの知り合いにメッセージで誘ってみたのですが……今のところ色好い返事は貰えず……」

「そうか……」


 一瞬、「なら、俺たちのパーティに来ないか?」と言いそうになったが、藤堂クラスの美人なら男どもに声を掛ければ一個中隊レベルで人員が集まるだろう。


 そういう話では無いのだ。心の底から信頼し合える仲間、出来れば同性が望ましいのだろう。


「なので、初めは一人旅を経験してみて、そこから信頼できる仲間を募ってみようと思います。でも、なかなか踏ん切りがつかず……矢野君との模擬戦で自信が持てればと……そう思ったんです!」


 ほぉ? 俺の模擬戦で自信とな?


 こちらが実力的に上だとしても、それなりに善戦出来れば自信になると思っているのだろう。


(うーん、ここはどうするのが正解なのか?)


 手を抜いて藤堂に妙な自信を植え付けさせても、その後彼女が不幸な目に遭えば目覚めが悪いどころの話ではない。


 と、なると……


「話は分かった。模擬戦をしよう。全力で相手する」

「ありがとうございます!」



 俺たちはエアロカーで場所を変えて、新東京の郊外にある探索者も来なさそうな深い森の中にやってきた。


「この辺りなら人目も無いし、気にせず戦えるだろう」

「全力で挑ませていただきます!」


 藤堂は腰の鞘から刀を抜いた。


 かなり見事な刀身だ。俺、素人だし刀に全然詳しくないが、それでも見栄えだけならシグネの愛刀“鹿角”以上だ。


「行きます!」


 藤堂は身体強化を行ない、左へ右へと高速で移動した。


(思ったより速い。スピードに自信有りって訳か!)


 藤堂は生粋の前衛タイプなのだろう。闘力は一万にも届かないだろうが、それにしても見事な足さばきだ。地球時代では武術でも習得していたのだろうか?


 しかし、圧倒的なステータス差で俺は彼女の動きを完全に見切っていた。


「フッ!」

「なぁ!?」


 俺は一瞬で相手と距離を詰め、刀を握っていた右手と左肩を押さえつけて倒した。


「くっ!?」

「勝負あり、だな」


 倒したと同時に素早くナイフを抜いて彼女の喉元に突きつけた。


 相手に一切攻撃する暇も与えず圧倒した。これが彼女に対する俺の返答だ。


 多少は善戦出来るかもと思っていた藤堂はかなり落ち込んでいた。


「まさか、ここまで差があるとは……」

「ステータス差だ。多分、純粋な剣の腕だけなら君の方が強い」


 ただし、回復魔法込みなら例え同ステータスでも負ける気しないけどね。


「俺レベルの使い手はそう居ない筈だし、実力者ほど弁えている奴も多い。君が一人旅をしたとしても、そう後れを取る事はないだろう」

「そう……でしょうか?」


 一応フォローはしておく。折角外の世界を冒険しようとしている同志を根絶したくはないからね。


「ただ、どんなに実力があろうとも寝込みを襲われればそれまでだ。安心できる宿に泊まるならまだしも、女性一人旅での野宿はお勧めできない。人目の無いダンジョン探索も、仲間を集めるまでは控えた方が無難だな」

「……分かりました。もう少し、自分に自信が持てるようになってから旅をしようと思います。本当にありがとうございました」


 藤堂は俺に綺麗なお辞儀をした。


 藤堂や他の視察団メンバーとは既に連絡先を交換し合っている。何かあればまた相談に乗ると告げ、彼女をエアロカーで送ってから別れた。


(仲間、か……)


 もし藤堂が望むのなら、俺のパーティに入れるのも有りだと思っているが、今は火竜戦というビッグイベントが控えている。流石にこの短期間で火竜と渡り合えるようになるのは無理だろう。


 俺はスマホを取り出して佐瀬たちに連絡を入れた。








 佐瀬たちは丁度ダンジョン攻略中だったようで、合流するには一日掛かると言われてしまった。現在彼女らはブルタークダンジョンの90階層手前まで進んでいるようだ。


(……ん? 90階層ってもしかしてレコードじゃね?)


 確かブルタークダンジョンの最高到達階層は79階層だった筈だ。既に大幅に記録更新していた。


 俺が不在の間はスキル習得に向けて流す程度だと言っていたが……随分飛ばしてるなぁ。それに電話越しの佐瀬はやたら疲れた雰囲気だ。何かあったのだろうか?


 まぁ、ブルタークダンジョンなら10階層毎に転移陣があった筈だ。皆が90階層を攻略するまでは待機だな。


 佐瀬たちを待っている間、そういえば視察団の運転手を務めた報酬をまだ受け取っていない事に気が付き、俺は再び新東京に戻って長谷川氏にアポを取った。




「この度はご苦労様でした、矢野さん」

「いえいえ。それに見合う報酬は貰ってますしね」


 今回は金額も相当振り込まれていたが、その他に魔力で電気を生み出す【魔導発電機】二台と新たなスマホ二つにデスクトップパソコンを一台頂いた。


 スマホは何かあった時の予備とフローリア王女に献上する用だ。


 前にフローリア王女がスマホを入手できなかった事を嘆いていたので、この機会にプレゼントしようと考えたのだ。権力者に媚を売っておいて損は無いだろう。


 それと前々からネット情報を収集したり、動画を見たりするのに大きな端末が欲しかったのだ。


 タブレットやノートパソコンでも良かったのだが、どうせ俺にはマジックバッグがあるので、デカい物も持ち運びには全く困らない。だったらより性能の高いデスクトップ型パソコンを所望しておいたのだ。


 これで暇な時にパソコンで遊べる。この地域は魔導電波の圏内で何処もかしこもフリー回線な状態だ。通信業者には痛手だろうが、エイルーン王国に日本製の情報端末が普及するようになれば革命が起こるだろう。


 ただ、急激な生活の変化は両国とも望んでいないので、そういった科学製品の持ち出しには現状、最新の注意を払っているそうだ。長谷川にも誰彼構わず売ったり渡したりしないようにと釘を刺されたが、王女様ならセーフだろう。



 これで完全に新日本での用を済ませた俺は、再びブルタークへと戻った。








 翌日、俺は久しぶりに佐瀬たちと合流した。


「お疲れさん」

「本当に疲れたわ……早くシャワー浴びたい……」


 佐瀬は思った以上にぐったりしていた。


 マジックバッグには野営用の簡易シャワーも用意してある筈だが、今回の探索には男のロイもいるので色々と気疲れしてしまったようだ。


 ちなみに俺とはもう長い付き合いだし、家族みたいなもんだ。俺の前では普通に下着姿でうろうろしている事もある。しかしガン見すると電撃が飛んでくるので注意が必要だ。


 女心は難しい……



 ケイヤたち三人も俺たちと合わせて、“翠楽停”で部屋を予約したようだ。ただし、三人はそれぞれ個室を選んだ。そこら辺はやはり貴族の出か。


 心身共にリフレッシュしてから七人一同が食堂に会する。


「じゃあ、ダンジョンレコード記録を祝しまして……かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!」」」


 今回、佐瀬たち六人はブルタークダンジョンの90階層を攻略して戻ってきたようだ。


 ちなみに90階層守護者は討伐難易度Sランクのハイオーガであったらしい。通常のオーガよりも二回りは大きく、戦闘能力も桁違いだそうだ。厄介な魔法やスキルとかは特に無かったそうだが、シンプルに強かったとか。


 ケイヤたちが加わり前衛が豊富であったので、相性的には悪くなかったらしい。


「しかし、たった七日間で90階層とか尋常じゃないな。一体どうしてまたそんな強行を?」


 俺が尋ねると佐瀬はジロリとケイヤたちの方を見た。ケイヤたち三人は申し訳なさそうな顔をする。


「す、すまない。つい調子に乗ってしまって……」

「訓練以外でダンジョン探索なんて初めてで……」

「マジックアイテムも出てくるし、楽しくて、だな……」


 要は元聖騎士団トリオがダンジョンにどハマりして楽しんだ結果なようだ。


 肝心の【属性耐性(火)】スキルだが、レーフェンとロイの二人は初日で習得してしまったらしい。しかし、ケイヤだけは中々覚えられなかった。


 そこは事前に織り込み済みであった。恐らくユニークスキル【英雄】の存在が、他のスキル習得を難しくしているのだろう。


 その代わりケイヤは素で魔法耐性が高かった。三人共初日で合格ラインに達していると見做されたのだ。


 そこで、あとは俺が帰ってくるまでダンジョン探索を楽しむ流れになった訳だが、普段厳しい訓練で縛られているケイヤたちにとって、自由なダンジョン探索はとても刺激的だったらしい。


 しかも出てくるマジックアイテムも国に納める必要が無く自分たちの物になるのだ。三人は俺が帰るまでに少しでも奥に進もうと、佐瀬たちを無理やり引っ張って90階層にまで進んだらしい。


「まぁ、やる事やってるし、別にいいじゃないか」

「寝る時以外はダンジョン内を走り回るように探索してたんですけど……」

「あはは……さ、さすがに疲れたね……」

「もうバテバテだったよぉ……」


 道中、疲れた佐瀬たちは交代でゴーレム君におんぶして貰っていたそうだ。


 ゴーレム君も災難だったな……



「しかしこのマジックバッグ、本当に貰って構わないのか?」

「ええ、問題ないわ。それは貴方たち三人が手に入れた物だもの。自由に使って」


 しかも、途中のボス宝箱からマジックバッグが出たようだ。


 ランクは超越エピック級だそうだが、それでも十分凄まじい性能だ。バッグ内の時間遅延効果もそこそこある代物らしい。


「これ、聖騎士団で発見したら、間違いなく取り上げられるわよね……」

「当たり前だ! 超越エピック級だぞ!? 本来は王家に納めるべき品だ!」


 聖騎士から一時除隊し冒険者の身となっている三人はニコライ聖騎士団長から、期間中に得た物は全て自分たちの物にしていいと言質を取っている。とりあえず火竜討伐を終えるまでは三人でマジックバッグを利用し、聖騎士団に戻った後は団長に判断を仰ぐことになった。


(その辺り、宮仕えの人は大変だよなぁ……)


 まぁ、平民でも貴族から無理やり取り上げられる可能性もあるので、貴重なレアアイテムはあまり公表しない方が無難ではあった。


「今回の功績で“白鷺の盾”は一気にC級冒険者に昇格できた。特例らしいぞ」

「ん? しらさぎの盾?」

「ああ、私たち三人のパーティ名だ」


 そういえば、俺はまだ三人のパーティ名を聞いていなかったな。


 今回ケイヤたち三人は俺たちのパーティメンバーではなく、あくまで別パーティでの協同という形で火竜に挑むのだ。


 白鷺はエイルーン王国の国鳥であり、国のシンボルらしい。よくハイペリオン城ほとりの湖に来ているようだ。


 ちなみに城近くで国鳥である白鷺を傷つける行為は死罪相当だそうだ。初耳である。


(危ねー!! んな法律、知らねえよ!?)


 どの道、あの湖の半分くらいは立ち入れない場所なので、国もそこまで問題視していないのだろう。浮島ダンジョンに渡る際にも、白鷺を殺めようとする冒険者を見ると船頭が慌てて注意するそうだ。


 そこは事前に教えておいて欲しかったなぁ……


 死罪相当という重い罰則だが、それはあくまで悪意を持って犯行に及んだ場合という前提条件があるらしく、今では形骸化している法律だそうだ。



 三人は王国のシンボルから“白鷺の盾”というパーティ名に決めたらしい。


 ケイヤはマジックバッグを入手したことよりも、自分たちがC級に昇級した事の方が嬉しそうだ。


(C級って事は、あの面倒な護衛試験も免除された訳か。いいなぁ)


 元聖騎士という経歴あっての特別措置なのだろう。実力的にはA級でも申し分ない程だ。


 ただし実力はあっても、上級冒険者は森中での活動や冒険者としての振る舞いなども問われるので、Cまでの飛び級が限度だったと思われる。



「イッシンも戻ってきた事だし、この後はどうするのだ?」

「んー、やっぱりダンジョン探索って考えてたんだけどなぁ……」


 俺の言葉に佐瀬たちが顔色を青くしていた。


「当分ダンジョンは御免よ!」

「い、今は他の所がいいかなぁ……あはは……」

「ダンジョン反対!」


 この三人がそこまで言うとは……どんだけ無茶したんだよ!


「しかし、ダンジョン以外に魔物の多い場所などあるのか?」

「確か山脈の向こう側に“魔の森”と呼ばれる場所があったんじゃない? そこはどう?」


 折角の提案だが、俺はレーフェンの意見に即反対した。


「いや、あそこは駄目だ。今行ったら……死ぬぞ」


 あそこには現在、八災厄の一匹“氷糸界”カルバンチュラが潜伏していると思われる。


 その事を伝えるとレーフェンは顔色を蒼褪めた。


「流石にそんな化物は御免よ!」

「じゃあ、他に良い場所あるか?」


 俺たちが悩んでいると、名波が口を開いた。


「ねえ。試しに他の大陸に行ってみない?」


 それは意外な提案であった。

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