第168話 どちらの斧使い

 予期せぬ敵の襲来に、咄嗟に介入してしまった。


 相手から何者だと問われたので、俺は日本人だと名乗ることにした。


 冒険者イッシンや新日本国の所属だと名乗っても問題になりそうなので、今回は日本連合国所属の日本人兵士の一人だと匂わせるように行動することにした。


「こいつ、やりそうだぞ!」

「複数でかかれ!」


 突如乱入した俺に警戒したのか、謎の武装集団は一斉にこちらへと襲い掛かってきた。


(近接戦闘が三人、魔法使いらしき奴が二人……!)


 総勢五人から一斉に殺意を向けられた俺は、少し左側へ位置を移動する。向かって来ている敵の前衛を壁にして、魔法使いらしき者たちの射線から隠れたのだ。


「くたばれ、ニホン人!」


 先陣を切ってきた兵士が槍を突き出してきた。闘力6万越えの俺からすると欠伸が出そうな攻撃だ。槍の穂先だけをノームの魔剣で綺麗に斬り落とした。


「なっ!?」


 己の武器があっさり無効化された兵士が驚く。


「ちぃっ!!」


 槍使いの横を、今度は剣士が駆け抜けて斬りつけてきた。


 そちらも大した強さではなかったので剣を真っ二つにしてから、三番目に駆けつけてきた兵士を巻き込むような形で剣使いを吹き飛ばした。


「ぐぇ!?」

「うあっ!?」


 一瞬で前衛を無力化した直後、射線を遮られていた敵後衛二人が移動し終えたのか、こちらへ魔法を放ってきた。恐らく火属性と土属性の下級魔法だと思われる。


 どちらも戦場では頻繁に飛び交っているポピュラーな魔法攻撃だが、これから火竜を相手しようとしている俺の魔法耐性を突破するまでには至らない。


(避けるまでもない!)


 俺はそのまま魔法が飛んでくる方向に向かって駆け出した。当然、二つの魔法が直撃するも、しっかり全身に魔力を高めていたので、ほんの少し熱や衝撃を感じたのみで軽傷にすらならなかった。


「馬鹿なっ!?」

「ひいっ!?」


 ここでようやく相手はレベルの違いに気付いたのか、顔色を変え始めたが、逃げ出す前に俺の掌底が二人の魔法使いに炸裂した。


「ぐべっ!?」

「がはっ!」


 手加減したから死ぬことは無いと思う。


 あっという間に三人が戦闘不能になり、武器を失った槍使いと、飛んで来た仲間に巻き込まれた兵士の二名のみが辛うじて残っていた。


「こ、こいつ……化物みたいに強いぞ!」

「その身なり……まさか冒険者か!?」


「そういうお前らは何者だ? 何故こんな真似をする?」


 状況から察するに、ほぼ間違いなく日本連合国とやり合っている二国の内の一国、恐らくレイオール王国勢力の者だろう。


 残された二人の敵兵は俺の質問には答えず、大声で助けを求めた。


「こっちに強い奴がいる! 応援をくれー!」

「助っ人の冒険者を回してくれ!」


 二人の声が届いたらしく、近くにいた敵部隊が駆けつけてきた。


 しかも例のモグラもどきの魔物まで連れて来ていた。間近で見ると思ったより大きい。


「もしかして、強敵というのはその白髪の小僧か?」


 こちらの姿を見た新たな増援兵たちは、明らかに俺の事を舐めているようだ。そんな連中たちに先程まで戦っていた兵士たちが釘を刺す。


「決して見た目で侮るな!! 一瞬で三人も倒されたんだ!」

「おい。そのデカい魔物、アイツにけしかけろよ!」


 武器を失った槍使いはモグラもどきの上に跨っている男に提案した。


「そりゃあ無理だぜ! ヒュージモールは見かけの割に臆病な性格なんだ! 戦闘には参加できないって事前に説明しただろうが!」


 そう抗議したモグラの上にいる男は、他の武装した兵士たちとはどこか毛色が違っていた。


(もしかして……同業者か?)


 他にも何名か、国お抱えの兵士というより、冒険者らしき風貌の者も確認できた。中には堂々と冒険者証をぶら下げている者もいる。


 冒険者証を見る限りではBランク冒険者もいるようだ。


「ちっ! 使えねえな! そんな魔物、いちいち出してくるんじゃねえ!」

「コケ脅しに出せと言ってきたのはアンタらだぜ! ふざけんじゃねえぞ!」


 なんだか分からない内に仲間同士で揉め始めてしまった。どうやら何人かは嫌々ながらこの戦闘に参加させられているみたいだ。


(やっぱりここは、少し加減しておくか)


 まだ相手の素性が知れない以上、余裕がある内は気絶させるだけに留めるつもりだ。


 いきなり街に奇襲して人を殺そうとしてきた連中なので、どんな大義があろうが殺される覚悟は持つべきだとは思う。


 だが、それが無理矢理に参戦させられているのだとしたら話は別だ。


 それにあのモグラ……ちょっと興味が湧いてきた。あれはもしかしたら上手く利用できるかもしれない。


「そろそろ仲間割れは終わったか? そのまま大人しく引き返すなら見逃してやるが、まだ向かって来る気なら容赦はしない。さっさと決断しろ」


 他の場所でも戦闘はまだ継続中なのだ。ここで無駄な時間を浪費したくはない。


「テメエ……調子に乗んな!」

「死ね! 異世界人が……!」


 真っ先に動き出したのは、B級冒険者証をぶら下げている冒険者たちだ。腕に自信があるのだろう。幼く見える俺に挑発されてプライドを傷つけられたようだ。


「ば、馬鹿! 迂闊に突撃するな!」

「ええい! あいつらを援護しろ!」


 相手は急造部隊なのか、どうも纏まりに欠けていた。こちらとしては戦い易くてとても助かる。


 先走りした冒険者たちの攻撃を俺は剣で捌き、回避しながら、すれ違う形で敵兵集団にわざわざ囲まれるようなポジションに移動した。拙い連携を取る集団にはそっちの方が効果的だと思ったからだ。


「ちぃ! ちょこまかと!」

「逃げるんじゃねえ!!」


 頭に血が上った冒険者の一人が咄嗟に魔法を放つ。中級魔法の【アイスバレット】だ。意外な大技が飛び出してきたが、その射出角度にも驚かされた。まさかの水平撃ちである。


(おいおい、そんな角度で放つと……)


 俺がなんなく横ステップで躱すと、その氷の弾丸は俺の背後にいた敵兵に直撃した。


「ぐはっ!?」

「ば、馬鹿野郎! 味方を撃つ奴があるかぁ!!」


 まさかのフレンドリーファイアである。俺たちも耐性スキルを獲得する為によくやった手法だが……実戦でそれはないだろう。


「おいおい。まさかの寝返りか? 俺を援護してくれたのかな?」


 俺が挑発すると相手は顔を真っ赤にして怒った。


「う、うるせえ! 避けるんじゃねえ!!」


 懲りずにその冒険者は再び水魔法を放とうとしていた。


 なら、リクエスト通り避けないでやろう!


「くたばれ!」


 今度はやや角度を下げての射出だ。


 流石に二度も馬鹿な真似はしないのか、こちらの足元目掛けて飛んで来た氷の弾丸を、俺は魔力を籠めて蹴り返した。


「ほら、パスだ!」

「へ?」


 蹴飛ばした氷の弾は更に勢いを増し、放った本人の隣に立っていた冒険者に向かって飛んでいった。


「がっ!?」


 思いもしない攻撃に、腹に魔法が直撃した男は後方へ吹き飛んで気絶した。


(やべ! あいつ、生きてるか……?)


 まぁ、今向かって来ている連中はどいつも好戦的な性格なので、死んだら死んだでそれまでだ。わざわざ治癒や蘇生をする気にはなれなかった。


「なんだ、こいつは……!」

「だから侮るなと言っただろうが!」

「誰か“竜旋”を呼んで来い!」


(ん? りゅうせん……?)


 その言葉に俺は反応する。


 まさか……“竜槍”ディオーナ・メイスンか!?


 しかし、実際に呼ばれてきた者は俺が想像していた婆さんではなく、随分大柄な斧使いの大男であった。


「なんだ。婆さんじゃあなかったか」


 しかし、竜の名を冠する二つ名持ちか……


「こいつか? 手を焼いているって相手は? ガキじゃねえか」

「子供だと思って侮るな! B級冒険者でも相手にならなかったんだぞ!」

「ほぉ……面白い!」


 新たに登場した斧使いも冒険者で、しかもゴールドの冒険者証をぶら下げていた。俺と同じA級冒険者だ。



 斧使いにはあまり良い思い出が無い。絡んでくる荒くれ者ばかりのイメージだ。しかし、決めつけるのは良くない。ブルタークの支部長ハワードも斧使いなのだから。


(いや、待てよ? ハワード支部長との間にも、あんまり良い思い出がないような……)


 勝手に貴族の護衛依頼を押し付けて来るは、人の依頼内容を公で口を滑らすはで……決して悪い人ではないのだが、偶にやらかす人なのだ。


(…………うん、人を見た目で判断しちゃあいけないな!)


 まずは対話からだと、俺は相手に話しかけてみた。


「貴方は良い斧使いかな? それとも悪い斧使い?」

「舐めた口利いてんじゃねえぞ小僧。俺様を誰だと思っていやがる! 竜を屠った事もあるこの“竜旋”様がテメエをギッタンギッタンにしてやる!」


 ……うん、悪い斧使いだった。そんな斧使いは綺麗な斧使いに浄化してあげよう。


“竜旋”を名乗る大男は俺の身長より遥かに長い斧を構えて臨戦態勢を取る。その姿を見て俺も少しだけ間合いを取った。


(こいつ……やるな!)


 ドラゴンスレイヤーは伊達ではないということか。


 万が一があるといけないので、俺はこっそり新魔法を発動させた。


(【リザーブヒール】……【リザーブリザレクション】……)


 これで俺の身体が致命傷を受けたら、自動でチートヒールが発動し、その後瞬時に蘇生魔法も起動する。あの恐ろしく鋭利な斧で真っ二つにされるだけなら、当たりどころ次第では自動蘇生されるのだ。


 あくまで理論上であり、実際に試したことは無い。というか、怖くてとても試せない。


「死ね!」


 火の玉直球の殺害宣告をすると同時に“竜旋”が迫ってきた。速さはそこまででもない。純粋なパワータイプだろうか。


 試しにと俺も真正面から剣で迎撃する。


「「――――っ!?」」


 結構な衝撃に、俺は少しだけ眉をひそめた。


 あちらも真っ向から攻撃を防がれるとは思っていなかったのか、一瞬驚いた表情をした後、更に殺意の籠もった視線を向けてきた。


「テメエ……殺す!」

「死ねとか殺すだとか……穏やかじゃないなぁ!」


 なかなかのパワーだったが、想像の域は超えてはいない。大丈夫、十分戦える相手だ。



 それからの俺たちは近接戦闘を繰り返した。


 向こうも流石に二つ名持ちのA級冒険者とあってか、斧を振るう以外にも攻撃手段を持っていた。蹴り技や稀に土魔法を放ってくるのだ。


 魔法技術は俺並に拙いが、魔力量だけは豊富なので威力の方は侮れない。おかけで腕に魔法が掠って軽傷を負ったがそれだけだ。


 ちなみに俺の【リザーブヒール】は傷の程度で自動発動するか否かを設定できる。この魔法は基本的に自動蘇生用の前段階の魔法なので、致命傷以外では発動する事が無い。


 よって、それ以外の傷は自発的に回復魔法を発動して癒すしかないのだ。


 勿論、自動設定のラインを下げれば軽傷を受けたと同時に回復し続けることも可能なのだが、それでは魔力の無駄使いだし悪目立ちしてしまう。それに俺を殺し得る相手だと、いざという時に【リザーブヒール】が発動しないのは少々怖い。


 故に普段は致命傷時にのみ自動発動するよう設定しているのだ。



 両者、五分と五分の戦いを続けていたが、やがてあちら側がバテてきた。パワーは向こうが僅かに上でも、魔力に持久力、俊敏さなどは全てこちらが上なのだ。


「ハァ、ハァ……待て! ここらで……手打ちとしないか?」

「さっきまでと随分態度が違うじゃないか。俺を殺すんじゃあなかったのか?」

「お、俺が悪かった。もう心を入れ替える……許して欲しい!」


“竜旋”もこのままでは勝ち目が無いことを悟ったのだろう。途中から俺がかなりの余力を残している事を察していたようだし、なかなか小賢しい奴だ。


「……なら、大人しくこちらの軍門に下るか?」

「ああ、殺さないでくれ! アンタに従う!」


 これで綺麗な斧使いに浄化された。やったね!


「そうか。他の人はどうする? まだ抵抗を続ける気か?」


「くぅっ! “竜旋”め……!」

「異世界人に投降するなど……!」


 敵兵の中には祖国に忠義を持つ者も少なからずいるようだが、このままでは勝ち目が無いのは薄々察しているのだろう。先ほどまでとは違って言葉に勢いが無かった。


 俺が他の敵兵たちに言葉を掛ける為、身体の向きを変えた直後、死角側となった“竜旋”の気配が急に動き出した。


「馬鹿め! 油断したなぁ!!」


 至近距離、尚且つ完全に相手に背を向けた格好となり、“竜旋”は行けると判断したようだ。俺の背後から奇襲を仕掛けてきたのだ。


 その判断は正しく、俺はすぐに横へ躱すも肩口から右腕をバッサリ斧で斬り落とされてしまった。


「ハッハー!! 間抜けめ!! 誰が降参などするものか!!」


 すがすがしいまでの悪人である。


(やっぱりね)


 俺は奴の攻撃など予測済みであった。


 奴の言葉など端から信用していなかったし、【捜索】スキルで動きは逐一チェックしていた。


 ならば何故攻撃を食らったのか。勿論、これもわざとだ。


 俺は【リザーブヒール】の性能を確かめたいが為に、少しだけ設定ラインを下げて、敢えて致命傷を負うよう攻撃を受けたのだ。


 結果――【リザーブヒール】は即座に発動し、俺の傷は時間が巻き戻るかのように自動修復された。


 切り離された腕はそのままで新たな腕が生えてくるのかと思ったが違った。どうやら多少近くにある身体のパーツは謎の力が働くのか、元の傷口にくっついてしまうらしい。


 以前腕を斬り飛ばされた時は新たに生えてきた筈だが……負傷した直後のヒールだとこのような現象になるのだろうか?


 すっかり元通りの状態となり、俺はゆっくり背後を振り返ると、そこには唖然としている斧使いの姿があった。


「な……なぜ? 今……俺、斬った……よな?」


 あまりの出来事に“竜旋”は混乱しているようだ。


「ああ、お前は確かに斬ったぞ。ほれ見ろ! 俺の服を駄目にしやがって……痛かったぞ!」


 身体は治せても服は修復不可能だ。斬られた肩の箇所だけが切断されているのが、俺が実際に斬られたという事を証明していた。


「うむ。魔法も見事成功だな。実験のご協力、感謝する」

「へ?」


 俺は感謝の言葉と共に“竜旋”の首を跳ね飛ばした。こいつに情けを掛ける必要は無いだろう。



 頼みの綱であるA級冒険者があっさり倒され、この周辺にいた敵兵たちは次々に投降した。








“竜旋”を倒した後も、俺は日本連合国勢力に加担し、街を襲撃していた武装勢力たちを一掃した。


 先程の俺の戦いは連合国の者には一切見られていないし、念の為服も着替えておいた。敵兵たちが俺の腕が再生したと証言しても、俺が否定すれば虚言だと思われるだろう。


 形勢不利を悟った武装勢力の兵は次々に投降し、三時間後には街中の安全も確認された。作られた穴は簡易にだが、土魔法の使い手たちによって塞がれた。


 突如始まった紛争はようやく収束を迎えた。



「君があちこちで助力してくれたのだと聞いた。流石はA級冒険者だ。連合国の代表として誠に感謝する」

「いえいえ。今回は冒険者の依頼としてではなく、あくまで俺個人の意思で動いただけです。あまり大事にせず、そういう形にしてくれると俺も助かるのですが……」


 岩波国王代理から感謝された俺がそう要求すると、彼は即座に頷いた。


「分かった。あまり周囲には実力を知られたくないということだね? 配慮しよう」

「助かります」


 すぐにこちらの事情を察してくれた。宇野同様、話の分かる人で助かった。


 今の俺は多少の厄介事を跳ね除ける力がある。だからこそ派手に暴れたが、それでも避けられる厄介事ならそちらの方がこちらも楽だ。


 空に避難していた宇野たちは既に地上へ降ろしてある。


 彼らに俺の戦闘を見られないようエアロカーの飛ぶ位置に気を遣ってはいたが、あまり離れ過ぎてしまうと操縦できなくなってしまうのだ。


 それでもかなりの高度を保っていたので、常人の目では何が起こっているのか観測出来ていないだろうが……


(索敵型スキルを所持している藤堂には、何かしら勘付かれたかもしれないな)



 岩波たちと話し込んでいると、街を警備していた兵士たちが何やら騒がしかった。


「待ってくれ! こいつは俺のダチなんだ! 殺さないでくれ!!」


 そう叫んでいたのは、鉄製の鎖で拘束されている冒険者風の男であった。彼は例のモグラもどきに騎乗していた男であった。


「そんなこと言ってもなぁ……」

「こんな大きな魔物、放置する訳にはいかねえぞ?」


 件の冒険者とモグラもどきを取り囲むように、連合の兵士たちが集まっていた。他二匹のモグラもどきと飼い主? たちも同じように囲まれていた。


 モグラたちは今にも兵士たちによって処分されそうであった。


 それを見た俺は慌てる。


「あ、やべ! 岩波代理! あのモグラとそれを操っていた者を助けて欲しい!」

「ん? 君はあの巨大モグラに興味があるのかい?」


 岩波が不思議そうに尋ねてきた。


「はい。あのモグラ、ひょっとして利用できないかと思いましてね」

「利用……? ――そうかっ!?」


 俺に言われて岩波は気が付いたようだ。


 すぐ傍で話を聞いていた宇野も同じ考えに至ったのか、感心しながら口を開いた。


「成程な。あのモグラもどきを使って山脈を掘らせる気だね?」

「ええ、それが出来れば最高なんですが……」


 同じ元日本人である新日本国側と日本連合国側のコミュニティはバーニメル山脈という大きな山々によって物理的に分断されてしまった。


 しかし、あの土を掘る魔物なら、その山脈に穴を開けることが可能なのではないだろうか?


 勿論、新日本政府も大型の掘削機などを用いればトンネルを開通できるだろうが、今すぐにとなると中々難しいだろう。あの巨大な山脈を掘るとなると、一体どれ程の年月が掛かるだろうか……


 岩波も興味を抱いたのか、モグラに近づいた。彼の護衛たちも慌ててそれに付いて行く。


 モグラとその飼い主? らしき冒険者を取り囲んでいた兵士たちは、岩波の姿を見て敬礼していた。


「あ、アンタは……?」


 明らかに只者ではない岩波の登場に、冒険者風の男は思わず尋ねた。


「日本連合国の代表者だ。そのモグラは君が手懐けているのかな?」

「代表……まさか国王か!? そ、そうだ! ……そうです! はい!」


 岩波は国の代表者で国王代理を名乗っているが、別に王族でも高貴な血が流れているわけでも無い。それならば首相を名乗ればいいのではと思うのだが、連合国は現地の国家に合わせて国王を誕生させる方針らしい。


(確か選挙で決まる王様とかも地球にいるんだっけか?)


 選挙と言っても、それなりの血筋の中から選ばれるのが大半ではあるので、ただの政治家が国王になるのは異例である事には変わりない。


 ただ地球人全員が異世界に転移してきたこのタイミングで新たな国家や王家が名乗りを上げても別に不思議ではないだろう。


 日本連合国以外にも間違いなく、何処かの勢力が国を興しているに違いあるまい。現代社会で生きてきた地球人が、中世さながらの階級制社会で生活したいと思う者は少数派だ。だったら自分たちで国を作ってしまえばいい。


 ただし、自分たちがその階級制度を設けてしまっては本末転倒だ。だからこその国王代理であり、連合国は後日改めて王を選挙で決める予定なのだ。



 対して元々の統治者である国や王家は気が気では無い筈だ。自分たちの領地やその周辺にいきなり異世界人が湧き出て、しかも国を興し始めるのだ。排除しようと動くのも当然だ。


 だが、それで負けてしまえば悲惨なものだ。


 一度戦いの火蓋が切られてしまった以上、どちらの国も戦争に費やした分の戦果が必要となる。真っ先に浮かぶ賞品はやはり土地だろう。特に元地球人たちは自分たちの土地を欲しがるに決まっている。


 そもそも、どこの国も土地を巡った戦いの歴史を歩んでいる筈であり、今回はその相手が偶々異世界国家であっただけに過ぎない。


 転移直後、レイオール王国側は日本人たちと冷静になって話し合うという選択肢もあった筈だ。しかし迂闊にも、彼らは日本人を強引に排除しようと考えてしまった。その結果がこれなら、もう自業自得と言うしかあるまい。


 一部の王国民は元地球人たちを異分子として見続けるかもしれないが、レイオール王家はなかなかの圧政を敷いていたようで、街の者たちの大半が日本連合国による支配を歓迎しているみたいだ。


 今、目の前にいる冒険者も似たような思いらしい。



「俺たち冒険者の大半は、国から無理やり徴兵されたんだ!」

「アンタたちに従う! だから……どうか相棒を殺さないでくれ!」


 どうも巨大モグラを操っていた者たちは何れも【テイム】や【ブリーダー】スキルを保有しているらしく、今回奇襲作戦に無理やり参加させられたらしい。


 モグラもどき改め、ヒュージモールという魔物らしいが、彼らは比較的温厚な性格で、図体の割に臆病で戦闘能力もあまり高くないらしい。討伐難易度はDランクで国によっては益魔物と認定されている。普段は鉱山などを掘る際に一役買っている魔物だそうだ。


 臆病な気質故、戦場で重用する事はあまりないそうだが……レイオールも後が無いのか、テイマー冒険者たちに無茶ぶりをしてきたようだ。



 テイマー冒険者を始め、レイオールに無理やり従わされていた者たちを、岩波国王代理は受け入れることにした。








※6/30 誤字修正報告

”竜斧”→から”竜旋”へ変更


斧は”せん”とは読まないですね

何かと勘違いしておりました


何時も誤字報告頂ける方、ありがとうございます。


今は忙しくて、細かい修正はすぐにできない状況です。

まずい所だけ修正して、残りは後日……できるといいなぁ

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