第167話 奇襲

 夏野外務大臣と岩波国王代理の話し合いは三時間にも及んだ。


 日も暮れはじめてきたので、本日の会談はお開きとなり、翌日二人は更に話し合う事となった。それに岩波はマークスたちアメリカ政府の代理とも話がしたいらしい。


 明日以降も会談は続けられるので、今夜はキプロスの街で泊まる事になった。


 この街も元々レイオール王国の貴族領らしく、占領してまだ日が浅いらしい。街中は戦禍を免れたので綺麗なままであったが、最初に訪れたペザの街ほど日本の建築物はまだ建てられていなかった。


 その中でも割と大きな高級宿を数部屋借りられた。


 俺と喜多野氏が相部屋である。


「いやぁ、こんなおっさんと一緒で悪かったね」

「いえいえ、お構いなく」


 喜多野は見た目がガキの俺でも丁寧に接してくれて、なかなか好感の持てる人物であった。やはりA級冒険者という肩書が効いているのだろうか?


「そういえば気になってたんですけど、喜多野さんのクラン名“和洋シチュー”って面白い名前ですけど、なんか由来でもあるんですか?」

「ああ、私の好物がシチューだからだよ」

「え? それが理由ですか?」


 思った以上に適当な理由であった。


 ただ喜多野氏曰く、“和洋折衷“という言葉も掛けて、異世界の生活にも早く馴染めるようにという願いもあるらしい。決して駄洒落だけではなかったようだ。


 そんなクランリーダーの喜多野は、先日エイルーン王国との友好関係を築けたことについて大変喜んでいた。その内王国にも足を運びたいらしく、そこに住んでいる俺は彼の質問に幾つか答えた。



「え!? 矢野君は王城にも入った事あるのかい!?」

「ええ、偶々と言いますか……」

「さすがはA級冒険者だねぇ」



 逆に俺からは、新日本国の探索者事情について、喜多野からあれこれ質問を投げてみた。



「ん? 始まりのダンジョンかい? 勿論、私も入ったことあるよ」


 始まりのダンジョンとは、新日本国が最初に発見したダンジョンの名である。


 新東京の北部にあるらしく、最初の方は“北の森ダンジョン”という名称であったが、探索者ギルドが名前を公募して、最終的には“始まりのダンジョン”が正式名称となったらしい。


 20階層までは洞窟タイプのオーソドックスなダンジョンで、21階層から古城風になるらしいが……


「あそこはアンデッド系がやたら多くてね。全体的に暗い雰囲気ばかりで気が滅入るけど、その分稼ぎはいいんだよ」

「へぇ、そのダンジョンもアンデッドが出るんですね」

「君は他にもアンデッドの出るダンジョンを知っているのかい?」

「ええ。西バーニメル通商連合国にあるメッセン古城ダンジョンは面白かったですよ」

「西バーニメル……かなり遠いな。あ、そうか! 君はエアロカーを持っているんだったね」


 喜多野が羨ましそうにこちらを見ていた。


 エアロカーを持っていると活動範囲が一気に増す。探索者にとっても垂涎の品だろう。


「うーん、僕らのクランも国外に出て、他のダンジョンを挑戦するべきかなぁ」

「その“始まりのダンジョン”では駄目なんですか?」

「最近、攻略する同業者も増えてきてね。人気の狩場は常に取り合いになるんだよ」

「あー、なるほど……」


 新日本国では現在、二つのダンジョンが存在するらしい。


 南の森中にも“鉱石ダンジョン”と呼称される鉱石類のドロップ率が高いダンジョンが発見されたのだ。


 様々なレアメタルやミスリル、アダマンタイトも出るそうだが、その代わりマジックアイテムなどの排出率はかなり悪いらしい。安定して稼ぐなら悪くないそうだが、喜多野的にはマジックアイテムを欲していた。



 その日は夜遅くまで、喜多野と情報交換をしていた。






 翌朝、二度目の会談が行われた。


 今回は夏野と宇野以外のメンバーは席を外す形になった。護衛の喜多野と藤堂も部屋の外側で待機である。


 その間は俺とマークスたちアメリカ勢の三人組も暇を持て余していた。



「なぁ、イッシンと言ったか?」

「はい?」


 急にマークスが俺に声を掛けてきた。


 もう一人のCIAエージェントであるクリスはムニル青年とお話し中である。


「もう宇野事務次官から話は聞いてるかもしれんが、俺たち三人はこのバーニメル半島に偵察目的で来ているんだ。主に元地球勢力の調査が任務だな」

「あー、詳しくは聞いていないんですが……そうなんですか?」


 日本の調査にとは聞いてはいたが、その口ぶりだと、それ以外の国も調査対象なようだ。


「君はA級冒険者で、しかもあの空飛ぶ乗り物も持っている。活動範囲も相当広いんだろう?」

「……えっと、つまり何をおっしゃりたいのでしょう?」

「ああ、すまん。少し回りくどかったな。単調直入にお願いする。是非、我々の調査に協力して欲しい。具体的に言うと、今回のように俺たちを目的地に運んでもらうとか、元地球人の動向についての調査協力依頼だな」

「うーん……それはちょっとお断りします」


 それではこちら側にメリットが無い。元地球人の動向は俺も気になるが、アメリカ政府のエージェントになるつもりはないのだから。


「そ、そうか……」


 明らかに落ちこんでいたマークスであるが、その彼の背後からクリスが声を掛けた。


「呆れた。マークス、それじゃあ交渉にもなってないわよ」

「ぐっ! く、クリス……聞いていたのか……」


 どうやら途中からクリスも話を聞いていたらしい。ムニルも一緒であった。


「ねえ、イッシン。仮にさっきのお願いを聞いてもらえるとしたら、私たちに払える対価とかないかしら?」


 クリスが少しだけ屈んで俺に目線を合わせてきた。長身でセクシーな彼女が屈むと……その、ちょっと目のやり場に困ってしまう。


(こ、これがハニートラップという奴か!?)


 だが、俺も美少女メンバーを仲間にしているだけあって、女性にはそれなりの耐性を得ているのだ。舐めてもらっては困る。


「い、いや……い、今すぐには……思い浮かばないな……」


 全然平静になれていなかった。


「ふふ、そう。あ、これ私の連絡先ね! イッシンのも教えてくれない? 簡単な情報交換や一度だけの依頼とかなら、気が向いたら応じてくれると嬉しいわ」

「あ、はい。そういうことでしたら……」


 俺氏、撃沈


 俺はクリスやついでにマークスたちとも連絡交換をした。どうやら二人とも、新東京でスマホを入手していたらしい。



 結局、暇な時間中はクリスやマークスたちと、元地球人たちの動向について情報交換を行っていた。


 俺は主に、ガラハド帝国の情報を彼女らに教えた。


 ワン・ユーハンたち元中国人の扱いや、帝国側にも元地球人たちが協力している節がある情報を売ったのだ。


 その見返りとして、俺は彼らアメリカ人たちの大半が転移したという、ルルノア大陸についての情報を幾つか得られた。



「そうか。ルルノアに日本人は見てないか……」

「ああ。少なくとも俺たちは知らねえなぁ」


 話を進めていく内にマークスたちとも打ち解け合い、話し方もだいぶフランクになってきた。


「多分、ユーラシアの中央から東側の国々は、ほとんどここの大陸に飛んできている筈よ」

「だな。ただし、転移には例外もあるみたいだぜ。時折、全然違う地域の連中が混じって転移しているケースもあるんだ」

「ああ。それはこっちでも確認したなぁ」


 鹿江エリアにも、何故か遠くの地――山口県から飛ばされてきたコミュニティも存在した。


 俺の家族はエリアで言うのなら、新日本国やその近辺に居てもおかしく無い筈……


 それが未だに見つからないとなると、その例外とやらになった可能性が高い。


(……気長に探すしかないか)



 話している内に、夏野大臣たちの会談も終わったらしい。


「今度は俺らの番だな」

「じゃあねイッシン。気軽にメッセージ頂戴ね」

「それでは」


 夏野たちと入れ替わる形で、今度はマークスたち三名が部屋に入った。


 次はアメリカ政府と日本連合国との会談予定だ。


 マークスたちは本来諜報機関のエージェントに過ぎないが、どうやらある程度の外交権限を持っているらしい。


(もしくは、あの貝殻のマジックアイテムを使って本国と連絡を取るつもりか?)


 どちらにせよ、この会談に部外者である俺たちは一切断ち入れない。



 俺たちはマークスたちとも行動を共にしている為、会談が終わるまでは再び待ち続けなければならない。俺は護衛の義務があるわけでは無いので、一人で街中に出掛けても良いのだが、ここは他の者と行動を合わせることにした。



 待っている間、今度は藤堂に話し掛けられた。


「矢野君。喜多野さんから聞いたのですが、貴方は外のダンジョンに詳しいのですか?」

「え? ああ、そうだけど……」


 年下の娘に君付けで呼ばれて一瞬困惑したが、そういえばこちらの年齢は言っていなかった気もする。彼女は俺を見た目通りの少年だと思っているのだろう。


 今更実年齢を告げて年上マウントをするのも躊躇われるので、そのまま聞き流した。


「私にも半島内にあるダンジョンの情報を教えてもらえませんか?」

「いいぞ。代わりに探索者や新東京周辺の魔物やダンジョンについても教えて欲しい」

「情報交換ですね。ええ、勿論です」


 やはり藤堂も探索者だけあって、外のダンジョンに興味があるらしい。


 しかも、彼女の興味はそれだけに留まらず、エイルーン王国や近隣諸国の情報までも詳しく尋ねてきた。外への好奇心は喜多野以上に強そうだ。


 それが少し気になった俺は思わず尋ねてみた。


「やけに具体的に質問してくるけど、藤堂さんは外の国に興味があるのか?」

「……はい。やはり一度自分の足で外の世界を見て回りたいと思っています。ただ、女一人での旅となると、色々と…………」

「ん? クランメンバーで行けばいいんじゃないの?」


 藤堂は曲りなりにも女性探索者で構成されているトップクラン“月花”のトップなのだ。彼女が新日本の外に行くと言えば、周りも付いて行きそうなものだが……


「……いえ、私以外のメンバーは外の世界に出る事にはちょっと後ろ向きなんです。別にそれを悪いとは言わないのですが……。仲間たちは未知の世界である外国を出歩くのを、とても不安なようでして…………」


 今回の護衛任務も、元々は月花単体での依頼だったそうだ。護衛対象が女性官僚だったので、初めはそういった計画だったのだが、藤堂以外誰一人外に出たがらなかったらしいのだ。


 そこで急遽“和洋シチュー”にも声が掛かり、それなら両クランのトップ自らがという話になったのだとか。


「なるほど。まぁ、気持ちは分かる。わりかし治安がいいエイルーンでも、地方の村だと女性一人旅は危ないだろうしな」

「やはり、そうなですか?」

「ああ。藤堂さんは美人だから、余計に絡まれる可能性はあるな」

「うーん、それは日本時代でもありましたが……」


 美人のところは否定しないのか。


 佐瀬といい藤堂といい、ルックスが良い人はそれなりの問題を抱えているようだ。


「もし外を旅するなら、やはり複数人で行動する事をお勧めするよ。でないと、おちおち寝ることも難しいだろうしね」

「それはダンジョン内と同じですね。ご忠告ありがとうございます」


 藤堂はトップ探索者の一人だし、ダンジョン内などでの野営も既に経験済みに違いない。その手のトラブルは経験済みなのだろう。


(これは釈迦に説法だったかな?)



 それからも俺は、待機時間を利用してメンバー内と交流を続けていた。


 そんな時、妙な異変を感じ取った。


(……ん? 地震か?)


 この世界に来て、何度か地震は体験している。


 日本ほどではないにしろ、バーニメル半島も稀に地震は発生するのだ。


 今感じている揺れはとても小さく、震度1くらいのものだろう。周囲の人間は誰一人と気にした様子はない。ステータスの高い俺の五感だけが感じ取ったのか、本当に些細な揺れだ。


 だが、その僅かな揺れは一向に治まらず、今もずっと続いていた。そこにきて俺は、ようやくこれがただの地震ではないのだと察した。


(なんだ? この揺れは? 一体どこから……?)


 俺は思わず立ち上がり、近くの窓から辺りを見回す。


 俺の様子を見た探索者たちも、何かを感じ取ったようだ。


「矢野君。どうかしたかい?」

「……分かりません。ただ、さっきから僅かに揺れているんです」

「……あ、本当ですね」


 喜多野に尋ねられた俺がそう答えると、藤堂もようやく揺れを知覚したらしい。それ程までに小さな揺れなのだ。


 すると、突然藤堂が表情を険しくした。


「――――っ! 下に魔物の気配です!!」

「「「――っ!?」」」

「え!?」


 藤堂の警告に俺たちは一斉に地面を見たが、ここは建物の二階だ。当然、何も見えない。


 俺も【探索】スキルを発動してみたが何も感じ取れなかった。


「下って……一階に魔物がいるの!?」


 怯えた様子の夏野が尋ねると、藤堂は首を横に振った。


「いえ、もっと下……恐らく地下です! かなり深い位置にいます。それも複数……そこそこ大きいです!」

「地面を掘る魔物か!?」


 そいつは俺もまだお目に掛かった事が無いな。


 ファンタジー物で定番だと巨大ワーム辺りだろうか?


「――っ!? 待って下さい! 人の気配もします! しかもかなり大勢います!!」

「え!?」

「地下に人も? 魔物と一緒にいるのか?」


 一体どうなっているんだ?


「まさか……!」


 藤堂の説明を聞いた宇野は何かを察したのか、会談中の部屋にノックしてから入った。


「岩波国王代理! 緊急事態だ! 我が国の探索者が地下に巨大な魔物と大勢の人の気配を感じ取った。なにか心当たりは無いか?」

「なんですって!?」


 岩波は即座に席を立ち、続いてマークスたちも臨戦態勢となった。さすがは軍属の者たちだ。切り替えが早い。


「地下に魔物……ルルノアじゃあ遭遇したことはなかったが……」

「我々新日本にも情報は無いな。いや、それよりも大勢の人の気配というのが気になる。一応確認するが国王代理、あなた方の勢力の者ではないのだな?」

「……私には一切報告はきていない。違う」


(まさか、この地下集団……敵国の作戦行動なのか!?)


 そこでようやく俺も今の状況を理解した。


 ここは戦争の最前線拠点でもあり、地下には覚えの無い魔物や人の反応多数。魔物を利用した侵攻作戦かもしれないと考えるのは自然な流れであった。


 岩波はただちに部下に命じてこの事を街中に知らせた。


「矢野君! エアロカーを使って、至急大臣とMr.マークスたちを空に上げてくれ! 避難するぞ!」

「了解です!」


 俺は大人しく宇野の指示に従った。


「岩波国王代理。あと二、三人なら乗せられる。貴方も避難するんだ!」

「……いや、辞退させてもらおう。私一人逃げる訳にはいかない。宇野さんも逃げるべきだ」

「っ!? ……そうか。分かった」


 説得を諦めた宇野はすぐに俺たちと合流した。ここまで一緒だった案内役の坂本もどうやら岩波と共に残るらしい。これは日本連合国の問題なので、部外者である俺たちだけで避難することになった。


 俺たち一行は再び八人へと戻った。


「矢野君。街中で構わん。すぐにエアロカーを出してくれ」

「分かりました」


 例の気配はどうやら地上を目指して上がり始めているようだ。俺の【探索】にもようやく引っ掛かり始めたのだ。


(大きな魔物の気配が三つ、その近くと後ろに大勢の人の気配……)


 魔物は三匹だと判明したが、人の方は数えるのが億劫な程の人数だ。おそらく100人以上の規模になると見た。これは明確に何か目的を持った集団行動だろう。


 マジックバックからエアロカーを取り出すと、皆は急いで乗車した。


「飛ばします!」


 全員乗ったのを確認した俺はすぐにエアロカーを発進させた。


 その直後、街の外壁内空き地に巨大な穴が空いたのを上空から観測した。


「出た!」

「あれが地下の魔物か!?」

「見た事ない個体だ……!」


 俺や探索者組、それにマークスたちルルノア大陸の者たちも初見の魔物であった。


 全長は凡そ5メートルほどで高さは2メートルくらい、魔物の分類上でもギリギリ大型に位置するくらいの生物である。


「あれは……モグラか?」

「……ですかね」


 薄い体毛に覆われており、小型サイズなら愛嬌もありそうな魔物だが、その爪はモグラさながら鋭そうであった。あれで固い地面の下を掘り進めていたのだろう。


 だが、なにより特筆すべき情報は、その巨大モグラの背に人が乗っているのだ。


「あの巨大モグラを飼いならしているというのか!?」


 巨大モグラが出てきた穴からは、続々と武装した者たちが出てきた。だが、そのモグラは近くにいる武装した人間を誰一人として襲わないのだ。完全に従わせていると見て良いだろう。


「確かに野生の魔物は必ずしも人を襲う訳ではありませんが……」


 ダンジョン産の魔物はどれだけ力量差があれども必ず人に牙を向く。反面、野生の魔物は相手が強すぎると戦闘を避ける事もある。また、家畜や乗り物として育てられている魔物は、寧ろ人間たちと共栄までしているのだ。


「もしくは【テイム】スキルかもしれませんね」

「クラン“モフモフ動物園”のメンバーには中型の魔物に騎乗する人もいましたから」


 喜多野と藤堂は、人が魔物を飼いならしている事に対してそこまで驚いていなかった。どうやら二人はあの連中と同じように魔物を操る探索者に心当たりがあるらしい。


「おい! あいつら街を襲い始めたぞ!」

「なに!?」


 マークスの声に、宇野は驚いて彼と同じ方向に目を向けた。


 別の穴からも巨大モグラが出現したらしく、そこから出てきた謎の兵士たちは既に戦闘行動を開始していたのだ。


 意表を突かれた街側の兵士たちは次々と倒されていく。


「まずいぞ! 完全に後手に回ってしまっている!」

「宇野事務次官! 応援に出なくていいのか!?」

「…………」


 マークスは日本連合国側を援護するべきだと主張するも、政治的判断なのか宇野は動けないでいた。


「マークス、止めなさい! 彼らと私たちステイツは、まだ同盟関係に無いのよ!」

「し、しかし……っ!」


 反面、クリスは冷静に手を出すのは拙いという判断を下していた。


 冷酷ではあるが、政治的観点から見ると第三国が介入するのは拙い行いなのだろう。そしてそれは、新日本国に雇われている藤堂や喜多野も同じ立場なようだ。悔しそうに下の戦場を眺めていた。



(…………やっぱりここは俺が出るべきか)


 この中で一番しがらみのない者は俺だ。


 例え相手が誰であろうと、或いは向こう側に正義があろうとも、目の前で同じ日本人たちが襲われているのを、ただ黙って見ている訳にはいかない。


「宇野さん。俺、行ってきます」

「…………そうか」


 他の者は驚いていたが、宇野は何となく俺の行動を予想していたようだ。


「私は君に対して、どうこう言える資格は無い。ただ、我々を無事に運搬する約束だけは全うして貰わなければ困るぞ?」

「分かってます。このエアロカーはある程度なら遠隔操縦ができます。万が一の場合は俺も逃げますので、このまま上空に避難していてください」

「気を付けてな!」


 俺が座席から立ち、身を乗り出すと、藤堂と喜多野は慌てていた。


「無茶です! 一人で行くなんて……!」

「そうだ! せめて状況を見てから支援に徹するのは……」


「ありがとう、二人とも。でも大丈夫。こう見えて戦争経験はあるんだ。それより宇野さんたちの方をよろしく!」


 心配してくれた二人が安心するよう声を掛け、俺はエアロカーから飛び降りた。


(うひゃー!? 思っていたより高いな……!)


 俺の闘力なら問題ないと思うのだが……やはり慣れない高度からの飛び込みは心臓に悪すぎる。



 俺は丁度激しい戦場となっている辺りに着地した。少しだけ身体が前によろめいたが、割と上手く着地が出来て安心した。


 上空から人間一人が降ってきたのだ。それなりに大きい音と衝撃が生じ、周囲にいた謎の武装集団とキプロスの街の兵士たちは揃ってこちらを見た。


「な、なんだ……」

「空から人が……!」

「貴様、一体何者だー!!」


「俺? 俺は、そうだなぁ……日本人だ!!」


 俺はマジックバッグからノームの魔剣を取り出し、胸を張ってそう宣言した。

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