第166話 連合国の国王代理

 転移した先の新天地で、日本人たちは現地の国家勢力から目を付けられてしまった。止む無く現地勢力と交戦することになり、この危機に対し複数の日本人コミュニティは互いに協力し合い、一致団結を図った。


 そして日本連合国が誕生した訳だが、国には当然リーダーの存在が必要になる。平時ならともかく、その当時は戦時下であり、強いリーダーシップを発揮できる存在が必須であった。


 そこで名が挙がったのが、元大阪府知事の岩波昇いわなみのぼる氏だ。


 地球時代では“ガンちゃん”の愛称で慕われた政治家である。


 岩波は良くも悪くも行動力のある男で、賞賛と批判の多い人物ではあるが、3期連続で知事選に当選している人気政治家であった。




「そうか。岩波さんが国王代理か……」

「あの方なら、やりかねないですね……」


 宇野と夏野が揃って感想を口にすると稲垣領主代行は慌てた。


「いえ! 誤解して欲しくはないのですが、岩波代理も私も、あくまで他薦です! 私なんかは成り行きでしたが、岩波代理はリーダーシップがありますからね。国民からの支持も高いんですよ。決して独裁政権ではありません!」


 稲垣は岩波を擁護した。



 ちなみに国王や領主には現状、代理や代行といった名称が付けられている。これは後日、国民投票で正式に王や領主を決めようとしているからだそうだ。


 周辺国との関係が落ち着くまで、彼らが上に立って国の舵取りをしているだけらしい。



「それで、岩波さんは今、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「岩波代理は最前線の北部で陣頭指揮に当たっております。ここから馬車だと……二日ほど掛かるでしょう」

「最前線……?」

「まさか……戦地にいるのか!?」


 これはなんとも雲行きが怪しくなってきた。連合の代表者と会うには戦場近くまで行かなければならないようだ。


 もし岩波国王代理との面会を希望するようなら、案内の者と馬車を手配してくれると稲垣は言ってくれた。


 夏野は返事を一旦保留して、俺たち八人で相談した。



「今回は無理でしょう。戦地に赴くのは、流石に……」

「しかし、話を聞く限り日本連合の長は間違いなく岩波氏だ。彼に会わずして帰るのはどうでしょう?」


 夏野は危険だと主張し、宇野は会うべきだと意見が分かれた。


 視察団のリーダーは夏野だ。彼女が「ノー」と言えばそれまでなのだが、夏野はマークスたちにも意見を伺った。


「俺は行くべきだと思いますね。だって今回は視察が目的でしょう? 連合国の現状を知るのに最も適した場所だ」

「私もマークスに賛成ですね。いくら戦地とは言え、仮にも暫定国家元首がいる場所なんですから、危険もそこまでないのでは?」


 マークスとクリスも宇野と同じ考え方のようだ。


 夏野は二人の意見を聞いて真剣に悩んでいた。どうやら彼女にとっても二人の意見は無視できないものがあるらしい。こう言ってはなんだが、いくらCIAのエージェントとはいえ、配慮し過ぎな気もする。彼らはアメリカの大統領でも外交官でもないのだ。


(それとも政治的な理由でもあるのか?)


 もしかしたら、外交官も兼任しているのかもしれない。


「護衛の二人と矢野君はどうかな? やはり危険だと思うかい?」


 宇野がこちらに話を振ると、真っ先に応えたのは喜多野だ。


「なんとも言えませんね。その戦場とやらの状況も分からないので……。それに魔物相手ならともかく、対人戦だと私はどこまでやれるか……」


 喜多野は人との争いごとに関しては少し自信なさげであった。


 続けて藤堂が口を開いた。


「私の方は対人戦の心得もあります。ただ複数が相手ですと、護衛に手が回らなくなるかもしれません」


 藤堂の方は対人戦闘も問題ないようだが、護衛としては不安があるようだ。


「矢野君はどうかな?」

「うーん……あまり大口を叩きたくないのですが……全員死なせず五体満足で帰還するだけでしたら全く問題ないと思います」


 俺が正直に告げると、藤堂が口を挟んできた。


「待ってください。過信するのは危険ですよ。今から向かおうとしているのは戦場付近なのですから、もっと慎重になるべきです」


 うん、軽く怒られてしまった。


 確かに藤堂の言う事は分かる。いや、本当にその通りなのだが……


(死んじゃったら蘇生させればいいし、どんな怪我も治せるしね)


 敵国の兵士がニコライ聖騎士団長クラスの化物でもない限り、先ほどの言葉を撤回する気はない。


「俺は回復魔法が使えます。かなりの大怪我でもない限り、治す事は可能です」

「それは私も保証しよう。矢野君は致命傷に近い怪我人もすぐに完治させていた」


 俺の言葉を宇野が後押ししてくれた。


 花木が銃撃された際、宇野もその現場に居合わせていたので、俺の回復魔法の性能を知っていたのだ。


「そういうことでしたら、私も強くは反対しません」


 宇野の言葉を信じたのか、藤堂は先程の言葉を撤回した。



 人数的には賛成派が多く、夏野は長い間考えてから決断した。


「……いいでしょう。ひとまず現地に赴いて様子を見ましょう。ただし、危険なようでしたらすぐに引き返します!」

「分かりました、夏野大臣」


 さっそく岩波に会いに行くことを伝えると、稲垣はすぐに案内人と馬車を手配してくれると言ってくれた。ただし、馬車の方は断った。


「今はまだここだけの話にして欲しいのですが、私たちは空を飛ぶ移動手段があります」

「空を!? まさかヘリコプターで来られたのですか!?」

「まぁ……似たようなものです」


 いや、全然違うのだが……夏野はエアロカーの存在を誤魔化した。


「そこで、口の堅い案内人を一名お借りしたいのです」

「ううむ、なるほど……」


 稲垣は悩んだ末に、坂本を案内人に指名した。


 坂本は領主代行補佐という立場だがフットワークは軽く、更には水魔法の使い手らしい。その上驚いた事に、彼女は戦争に参加した経験もあるらしいのだ。


 というか、魔法や戦闘スキルを持つ大人のほとんどが戦争を体験しているそうだ。転移後の争いで多くの日本人が亡くなった。その代償として、生き残った者たちはそれ相応にステータスが高く、戦地にも場慣れしているのだ。


「なんだか、新日本とはかなり違いますね……」


 喜多野の感想に宇野が答えた。


「周囲の状況が地球時代の日常を享受する事を許さなかったのだろう。我々も肝に銘じておかないとな」


 転移直後は誰も彼もがそれなりに大変な思いをしている。俺や佐瀬たちもそうだ。だが、この地域の元日本人やガラハド帝国内に転移した者たちは、よりハードな経験をしているのだろう。



「皆さん、宜しくお願いします!」


 準備を終えた坂本が合流した。


 俺たちは街を出て、再び人目のない場所に戻って来た。


「それで……ヘリコプターはどちらに?」

「あー、それはだな……矢野君」

「かしこまりです」


 マジックバッグからエアロカーを取り出して見せると、坂本は目を丸くしながら口を大きく開けた。


「ええええっ!? 今、一体何処から……!? いえ、それよりもこれ、どうやって浮いて……ええ!?」

「魔法の力で飛ぶ乗り物です。申し訳ないですが、製造方法の詳細はまだ明かせません」


 これは事前に決めていたことである。


 まだ新日本と友好関係を結ぶか不透明な内は、連合側にあまり情報を与えたくないという夏野や宇野の意向であった。


 ただ、二人からはエアロカーの存在や製造法について、連合国側に伝えていいかとも事前に尋ねられていたので、俺はそれを了承している。


 恐らくどこかのタイミングで明かすのだろうが、それは今ではないのだろう。


「そういえば、これ八人乗りですよね? 一人多くないですか?」


 藤堂の疑問は尤もだ。


「うん。だから誰かに荷台に乗ってもらいたいんだが……」

「「「……え?」」」


 宇野のまさかの発言に、藤堂だけでなく他の者も驚いていた。


「荷台かぁ……」

「あまり揺れないみたいだし、問題ないのでしょうが……」

「わ、私は無理ですよ!?」

「いくらなんでも、夏野大臣を荷台には乗せられませんよ」


 エアロカーはある程度の遠隔操縦も可能なので、別に俺が荷台側でも良いのだが、その特性についてはまだ明かしていない。故に、俺は操縦するという名目で運転席が確定だ。夏野と宇野、それに案内人の坂本にも席に座ってもらう形になる。


 となると……


 残ったメンバーでジャンケンをした結果、負けたのはクリスであった。


「ハッハー! 悪いなクリス!」

「くぅ……! あそこはペーパーじゃなくてロックだったか……!」


 鑑定士でもジャンケンを先読みできる訳ではない。悪いがクリスには荷台に移ってもらい、後部座席には宇野が、助手席には案内役として坂本が座った。


「こ、これ……墜落しないですよね?」

「大丈夫です! 撃ち落とされない限りは……」

「うーん……高度を取れば魔法攻撃もギリギリ届かない……かなぁ……」


 さすが戦場を経験した女性は言うことが少し違った。



 俺たちは人数を一人加えてエアロカーで北へと向かった。






 先程までいた場所はペザという街らしく、元々子爵家の領地だったらしい。三カ月前に連合軍が侵攻して、ペザを占拠したそうだ。


 現状、連合国の最前線は北部を中心に広がっており、いくつもの戦場が存在する。その中の一つに、岩波国王代理自らが指揮している連合軍の本部が置かれているそうだ。



「え!? レイオールやオラニアの貴族も寝返っているのか!?」

「ええ、主に位の低い地方貴族の方々ですが……。中央貴族に反感を抱いている者も多いらしく、連合国と共闘という形をとっています。その為、戦況は刻一刻と変化してますね」


 道中、坂本からは知り得る限りの情報を聞いていた。


(こっちは情報を伏せてるというのに……その点のやり取りは宇野たちの方が上手か)


 坂本は政治家ではなく、本来はただの公務員だ。そういった腹芸は無理なのだろう。なので、こちらだけが一方的に情報を得ていた。


 尤も連合国側も魔導サーバーを通じて新日本国側のニュースを仕入れているので、全く情報が無いわけではないらしい。


「あ! あの街ですよ! もう着いちゃった……凄い!」


 馬車だと二日掛かる道のりも、空ならあっという間である。


「エアロカーの存在は一般市民には極力伏せておきたい。何処か人目の避けられる場所はないかな?」


 宇野が尋ねると、坂本は周辺を見降ろした。


「あそこの森なんかどうでしょう?」

「ちょっと離れてますけど……仕方ないですか」


 夏野が若干渋い表情を見せていたが、戦場近くに行くと聞いていたので、夏野や宇野たちは先ほどの街で既に着替えを済ませていた。念の為私服も用意していたので、スーツ姿よりかは幾分歩きやすそうだ。



 俺は森にエアロカーを着陸させて、マジックバッグに収納した。


「それが噂のマジックバッグですか……。軍ではかなりの貴重品ですよ!」


 それはそうだろうな。物資を運ぶのにこれほど便利な物は地球時代でも存在していない。去年の帝国との戦争でもマジックバッグ所持者は優遇されていたくらいだ。


(連合の人たちは戦争中だし、ダンジョン探索どころじゃあないんだろうなぁ)


 マジックアイテムの入手法と言えば、やはりダンジョン探索だ。


 対人相手でもステータスは上がるが、敵兵からドロップ品が出るわけでは無い。敵から強奪したマジックアイテムもあるのだろうが、探索活動がブームになっている新日本国より数は少ないのだろう。




 俺たちは徒歩で連合軍の本部が置かれているキプロスの街を目指した。


 さすがに最前線から近いとあってか、すぐに巡回の兵士に見つかった。


「ん? 君たちは何者だ!」

「日本人? 冒険者もいるようだが……」


 どうやら相手も同じ日本人らしい。黒髪の青年四人組の武装した兵士であった。自衛隊服ではなく、現地の服や鎧などを装備しており、統一感はあまりなかった。


「わ、私はペザの街の領主代行補佐を務めております坂本です!」


 そう告げた彼女は、何やら身分証らしき物を彼らに見せていた。


「――っ!? しょ、少佐殿でありましたか!?」

「こ、これは失礼しました!」


 慌てて青年たちが敬礼をしていた。


 一方、今のやり取りを見ていた俺たちは唖然としていた。


「しょ、少佐……?」

「坂本さん。君は……連合軍の将校だったのかい?」

「いえいえいえ! 少佐と言っても、仕方なくと言いますか……成り行きでそうなったに過ぎません! それに、今の私は最前線では戦っていませんし……」


 ううむ。彼女は全く強そうに見えないが、水魔法を扱えるらしいので、戦争を経験して生き残った点も踏まえると、スピード出世でもしたのだろうか?


 しかもどうやら連合軍では自衛隊の階級を使わず、アメリカ・イギリス軍方式を採用しているみたいだ。


「少佐と言えば……自衛隊では3等陸佐でしたか?」

「ああ、立派なものだ。私が現役の時は1等陸尉止まりだったからな。今度から敬礼でもしなければならないな、少佐殿」

「や、止めてください! 恐れ多いですよ!?」


 宇野は自衛隊員だった時には1等陸尉、つまり大尉まで昇進し、確かその後に政界へ転じたと記憶している。現在の宇野は国家公務員に過ぎないが、一時は防衛大臣を務めてもいる。


(それって自衛隊にとって総理大臣の次くらいに偉い役職なんじゃね?)


 司令官だとか幕僚長とかも相当偉いらしいが……詳しい違いはよく分からない。


 とにかく、坂本にとって宇野の前で階級自慢をするのは恐れ多いことなのだ。


「え? あの人って……宇野正義!?」

「宇野……? 誰?」

「馬鹿!! 日本の防衛大臣だよ!! しかも元レンジャー持ちだ!」

「ええ!? じゃあ、この人……ガチの自衛官!?」


 青年兵たちも慌てて宇野に敬礼していた。それを見た宇野は少し困った表情を浮かべていた。


「いや、今の私はもう防衛大臣ではないよ。それに現役の私は戦争を経験したこともない一自衛官に過ぎなかった。実際に戦場近くで任務を行なっている今の君たちの方が、私なんかより勇敢で遥かに優秀だよ。これからも頑張って生き抜いてくれ!」

「こ、光栄であります!」

「っす!!」


 宇野の激励に青年たちは目を輝かせていた。


 これぞ宇野正義のカリスマである。もし仮に彼が山脈の北側に転移していたら、岩波と同等か、もしくはそれ以上のリーダーシップを発揮していた事だろう。



 青年兵士たちの案内も加わり、俺たちはキプロスの街へと向かった。








「何!? それは本当か!?」

「はい! 夏野外務大臣と宇野元防衛大臣が揃ってお越しになっております。案内役として、今はペザの領主補佐を務めております坂本少佐もご一緒であります!」


 士官からの報告に、岩波昇いわなみのぼるは驚いていた。


「なんだってこんな場所に……。いや、そもそもどうやってここまで来たんだ?」


 今の連合国は内陸地であり、港は勿論、沿岸部すら持ち得なかった。となると、直接来たと考えるならば空路しかあり得ないのだが……


(ヘリで来たのか? 自衛隊は所有しているって話だが……)


 新日本国の情報は逐一取り入れていた。別に間諜を送れなくとも、魔導電波を通してネットニュースで自然に流れてくるのだ。あちらの国は戦争とも無縁らしく、最近では隣国エイルーンという国との国交にも成功しているらしい。


 正直言うと、新日本国は妬ましいくらいに羨ましい状況だ。そんな彼らの代表格が、何故かこんな最前線近くの街に来訪したというのだ。


「とにかく会おう! すぐに応接室を準備してくれ!」

「はい、岩波国王」

「……だから代理と呼べと言っているだろう」


 今の自分はあくまで国王代理に過ぎない。


 自分としては、初代国王に成り上がる野心が全く無いわけでもないが、そんなものは戦争が終わってから考えればいい話だ。


(レイオールにオラニアも、さっさと領地を諦めてくれればいいものを……)



 岩波はすぐに会談の準備を進めた。








 キプロスの街に到着すると、俺たち一行は元領主館である建物に案内された。そこに岩波国王代理も居るらしく、夏野たちとの会談をすると言ってきたのだ。


 準備が終わり、その岩波が姿を見せた。


「おお! 本当に夏野さんと宇野さんか!」

「お久しぶりです。岩波さん」

「久しぶりだな、岩波さん。いや、失礼。国王代理とお呼びするべきか」

「いや、それには及ばない。あくまで仮の役職なので、好きに呼んでいただいて結構だ」


 やはりというか、三人とも面識があるようだ。


「それで、そちらの方たちは……?」


 岩波は俺たち同行者の方を見て夏野に尋ねた。


「そのことなんですが……岩波代理。失礼ですが、ここに居る方々の口は堅い方ですか?」

「……問題ない。ここで話し合った事は公言しないと約束しよう」


 岩波氏の言葉に、他の者たちも揃って頷いた。こればかりは相手方を信用するしかあるまい。


「分かりました。では、初めに同席されている方たちをご紹介します」


 成り行き上、俺も含めて視察団の全員が会談の場にいた。


 アメリカ代表のマークスたちは当然として、警護役の二人に加え、俺一人だけ別室待機もなんなので、宇野の口添えで同席していたのだ。



 マークスたちの身分を明かすと岩波は驚いており、喜多野と藤堂もネット上では有名人らしく、やはり先方も知っていた。


 最後に俺の紹介となるのだが……



「エイルーン王国在住の日本人冒険者、矢野一心です。一応、階級はAです」

「A級!?」

「君は……A級冒険者なのか!?」


 これには岩波だけでなく、同席していた他の者たちも非常に驚いていた。その反応は新日本国サイドのメンバーに打ち明けた時以上である。


 連合国の日本人らは新日本政府よりも早く現地の者たちと接触をしていた。


 最初こそ敵対していたが、今ではその現地人とも共栄している関係なので、当然冒険者の存在にも詳しいのだ。


 実際にその冒険者たちを雇って共闘したりもしている。A級冒険者とうい存在がどれくらい凄いのか、新日本政府よりも理解が深いのだ。



「今回この街まで来られたのは、彼が所有する魔法の乗り物を借りたからです。実は我々視察団は今朝、新東京を発ったばかりなのです」

「なんと……!」

「そんな移動手段が……っ!」


 ここで夏野大臣はエアロカーという交通手段の手札をオープンにした。どうせ坂本経由で伝わるだろうし、製造方法も喜多野や藤堂に教えているので、探索者の間で広まるのも時間の問題だったのだ。


 ならば夏野としてはここで情報を開示し、ついでに恩を売っておきたい考えのようだ。


 案の定、岩波たちはその情報に喰いつき、真剣な眼差しで詳細を尋ねていた。




「まさか、そんなマジックアイテムがあるとは……」

「これはダンジョン攻略の方も見直さなければなりませんね」


 岩波の秘書官らしき女性の言葉に夏野が目を細めた。


「おや? 連合国もダンジョンを所有しておられるのですか?」

「ハハッ、目敏いですね。ええ、占領した領地内にもダンジョンがあるんですよ」


 連合国もマジックアイテムの存在を軽視しているわけでは無いのだが、今は戦場が拡がっており、冒険者たちを前線に回すので手一杯なのだ。


 ダンジョン攻略でマジックアイテムを集めたいのも山々なのだが、そうも言っていられない状況らしい。


「ハッキリ言うと、我々は新日本国に支援を求めたい! 見返りに領地を分譲するが……どうかな?」

「――っ!? それは流石に……私の一存では決められませんね」


 今回はあくまで視察がメインなのだ。その上で連合側とどう接するのかを見極めるのが夏野の役目であった。


 連合国の支援を表明するということは、新日本国も戦争に参戦するのとほぼ同義になる。彼女一人では決断できない案件だろう。


 しかし、領地の分譲というのはあまりにも大きな報酬である。これに興味を示さない者は為政者失格ですらあった。


(つまり、連合もそれほど切羽詰まってるって状況なのか……?)


 連合国優勢と聞いてはいたが、恐らく占領地を広げ過ぎたのだ。落としどころを見つけたくても、連合に与する貴族勢力まで現れ、戦争は収束するどころか一気に拡大しているのだろう。


 これでは相手の国も気軽に降伏できまい。


 戦争とは、始めるのは簡単でも終わらせる方が遥かに難しい。


 今後、連合国はどうするべきなのか……岩波代理も頭を悩ませていそうであった。

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