第159話 サンクトランドの盗賊団

 久しぶりに地上へ出た。


 時刻はまだ日中だったので太陽が眩しく感じられる。思わず腕で顔を隠してしまった。


「約束の一カ月まで正確にはどのくらいの時間なの?」

「んー、丁度一カ月後となると、あと五日間だな」

「じゃあ、そろそろ戻った方が良さそうね」

「だな」


 帰りはエアロカーで直帰する予定だ。


 恐らく四日間もあれば到着するだろうが、少し余裕を持たせる為にも本日中にはこの島を発ちたい。



 そう思っていたのだが、サンクトランドの町に戻って早々、厄介事に巻き込まれてしまった。




 ギルドに着いて買取カウンターに不要な素材を査定に出していた。それを待っていると、ギルド長であるメバックに声を掛けられた。


「白鹿の、随分長い間ダンジョンに籠っていたらしいな。中々戻らないからくたばったのかと思ったぞ」

「ご心配をおかけしました。俺たち、結構長時間ダンジョンに潜るもので……」


 そういえば何時ぐらいに戻るとかをギルドに伝えていなかったな。


「そうか……。ちなみに査定中の品を少し覗いたんだが……お前さんら、一体何階層まで行ったんだ?」

「115階層をクリアしました」


 正直に話すと、俺たちの会話に聞き耳を立てていた冒険者たちがギョッとした。


「嘘だろ!? 115階をクリアした? お前らが!?」

「おいおい、何の騒ぎだ?」

「あいつらが最高到達階層更新したって言うんだよ」

「あん? 女子供ばかりじゃねえか」

「ホラだろう。ほっとけって……」


 ギルド内にいた冒険者たちは虚偽だと思っているようだが、目の前にいるギルド長はそう思わなかったようだ。


「115階をクリアしたかどうかは知らないが……少なくとも110階層までは達しているな。シーサーペントの鱗は110階のボス部屋でしか獲れない筈だからな」

「あー、あの大きな蛇だね」

「水中から出てこないから、逆に魔法を撃ち放題だったわね」


 佐瀬はそう言うが、あのシーサーペントの体長は12メートル以上もある。あれだけの巨体に対して、ましてや水中にいるにも関わらず有効打を撃てるのは、彼女の雷魔法くらいなものだろう。


 俺とメバックギルド長の会話を聞いていた冒険者たちは驚いていた。


「ま、まさか……マジなのか?」

「115階のボスってなんだっけ?」

「馬鹿! カリブディスだ! 水中から上級の水魔法をバンバンぶっ放すバケモンだよ!」

「本当にあの四人が倒したってのか……」

「信じられん……」


 もうこの反応にもだいぶ慣れてきたな。


「しかし、査定中の品にカリブディスの素材は見当たらなかったが……」

「ああ、これですか?」


 メバックに尋ねられたので、俺は大きなSSランクの魔石を取り出して見せた。


「――っ!? いや、凄まじい魔力を感じるな……。ちなみにそいつは売らないのか?」

「申し訳ありません。ちょっと使い道がありまして……」

「うーむ。仕方あるまい。だが後学の為、それも査定だけはさせてもらえんか? 必ず返却する」

「ええ、構いませんよ」


 ギルド長直々の依頼だし、まさか盗んだりはするまい。俺は二つ返事で了承して彼にそれを手渡した。メバックはそれを職員に預けると、再び俺たちの元に戻ってきた。


「白鹿の……あー、君は何て言ったかな?」

「イッシンです」

「そうか、イッシン。査定結果次第だが、あれは間違いなくSSランク相当の魔石だろう。結果が出次第、君たち“白鹿の旅人”はクリスタルダンジョンの最高到達階層記録保持者として認定される」

「光栄です。ですが……それって何かメリットあるんですか?」

「……名声だけだな」

「ですよね~」


 分かってはいたが聞いてみただけだ。


「ところでイッシン。話は変わるのだが……君たちは三週間ほど前に盗賊を捕縛した件を覚えているかな?」

「ええ、覚えてます。なんでも賞金首だった場合は報奨金が出るとか……」


 どうせ出ても少額だろうが、貰えるものなら貰っておきたい。


「……すまないな。連中は確かに賞金首だったのだが、報奨金は出ない」


 ギルド長の言葉の俺は耳を疑った。


「え? 賞金首だったのに……報酬無しなんですか?」

「ああ。実は君らが捕まえた二人が牢屋から脱獄した。故に報奨金も無しとなる」

「ええ!? そんな馬鹿な……」


 それは完全に行政側の落ち度だろう。


 いや、ギルド長に文句言っても仕方がないのか……


「どうも連中の逃亡を手引きした兵士がいるらしくてな。その裏切り者も一緒に森の中に逃げたそうだ」

「そうでしたか……」


 なんとも面白くない話を聞かされたが、そういう事情なら致し方あるまい。納得はしていないが、ここはギルド長の顔を立てて引き下がろう。


「そこで提案なのだが……近日中に森へ盗賊集団の討伐部隊を送る予定なのだ。君らもそれに参加しないか?」

「無理ですね。俺たちは本日中に島を出る予定です」

「む。そ、そうなのか? それは……残念だ……」


 SSランクの魔物を倒すほどの冒険者なら、ぜひ欲しい戦力だろう。メバックは心底残念そうにしていた。


 だが、ここでめげないのがギルドの長だ。


「よし、こういうのはどうだ? もし仮に盗賊団捕縛に参加してくれれば、私の特権で君たちをAランク冒険者にしてあげよう」


 それは魅力的な提案のように思えるが、そのまま馬鹿正直に首を縦に振るほど俺は愚かではない。


「……ギルド長。Aランクへの昇級は一支部長の推薦だけでは通らないでしょう? どうせ俺たちの昇級も、既に秒読み段階なんじゃありませんか?」

「ぐっ!? さすがに騙されんか……」

「……ハァ、話はそれだけですか? でしたら査定が終わり次第、この島を発ちますが……」

「ま、待ってくれ! 分かった! 正直に話そう。実は今回の査定が終わり次第、諸君らはA級冒険者に昇級となる。115階攻略の真偽は別として、100階以上進んでいる時点で実力的には申し分ない。既に他の支部からも推薦されているようだしな」

「他の支部?」

「ああ。ブルターク支部、クレイム支部からだな。そこに私も推薦するから、これで文句なしにAランク昇級となる。おめでとう!」


 それが本当なら、俺たちは既にAランク冒険者の資格を得ていた訳か。


「じゃあ、盗賊云々の件はなんなんです?」

「すまん! ハッキリ言って手持ちの戦力では足りんのだ! だから、どうしても君たちの力を借りたかった!」


 ぶっちゃけてきたなぁ……


「……まぁ、正直に言ってくれたので、それ以上は追及しないことにしますが……どうも腑に落ちないですね。盗賊団はそんなに強大なんですか? ここは仮にも冒険者の島なんでしょう? ギルド長自身、そう言っていたじゃありませんか」

「むぅ、それは間違いないのだが……その冒険者の中にも裏切り者が潜伏している可能性が高いのだ」


 おいおい、仮にもギルド長がギルド支部内でそんな発言をしていいのか? 冒険者たちも聞いて呆れて……ないな。何人かは頷きすらしている。


 どうやらここに長く居る者にとっては周知の事実らしい。


「また、どうしてそんな事になってるんです? その逃げたっていう賞金首も兵士が裏切って手助けしたんでしょう? ギルドも町の兵士もそんなに腐敗してるんですか?」

「……それ以上はここでは口にできぬ。少し別室で話そうか」


 別にこのまま話を聞かず、貰う物貰って去ってもいいのだが、多少は俺たちも関わっているのと、何より好奇心が勝ってしまい、ギルド長の後を大人しく付いて行った。


 おそらくギルド長の執務室だと思われる場所で話の続きを聞いた。


「この島の事情は何処まで知っている?」

「えーっと……昔、西ラビア王国とエストール共和国が領有権を巡って争い、最終的には共同管理で原住民の子孫が自治州として統治していると……」

「うむ。しっかり情報取集していたようだな。感心だ」


 そこら辺の情報をどうでもいいと考える冒険者も多いらしいが、長期滞在する場合には調べておいて損はないと思う。下手打って揉め事を起こさなくて済むようになるからだ。


 まあ、調べてもこんな感じで巻き込まれる事もあるのだけれど……


「色々と複雑な事情はあるのだが、簡単に説明する。実はこの島には複数の盗賊団が存在し、それぞれの盗賊団を、それぞれの勢力が裏から支援している」

「……なるほど。ちなみに何処の勢力が?」

「西ラビア、エストール、そしてサンクトランドだ」


 ん? 今、最後だけ聞き間違えたか?


「今……サンクトランドと言いましたか?」

「言った。現自治州政府も秘密裏に盗賊団を囲っている」

「この町を統治する側が、町民を襲う盗賊団を支援してるの!?」


 これには佐瀬も驚いていた。


「ああ、そうだ。ちなみにお前さんらが捕まえた盗賊や冒険者はエストール派の連中だ。逃亡を手引きした兵士もエストールの尖兵だろうな」

「どうしてまた、こんな状況に……?」

「要するに……西ラビアもエストールも未だ、サンクトランドを実効支配することを諦めていないという事だ」


 しかし、両国はこの島を共同管理するという停戦条約を結んでしまっている。そこを無視して再び侵略戦争を始めれば、他国からの批難は免れないだろう。


 そこで考えたのが、冒険者たちを使って島の統治を乱し、それを口実に島への実効支配に移行するという計画だ。質が悪いことに、両国がそれぞれ自前の冒険者を送り込むか、現地で人を雇うなどして、盗賊紛いの行為をさせていたのだ。


 それに一番頭を抱えたのはサンクトランドの統治を任されている行政だ。


 このままでは町の運営も立ち行かなくなり、いずれはどちらかの国に島を乗っ取られてしまう。


 そこでサンクトランド行政府が取った行動は、彼らと同じく冒険者たちを雇う事であった。人口の少ない島民を兵士にするよりかは、それが遥かに効率的であったからだ。


 だが冒険者とは言ってしまえば、腕自慢のならず者たちである。言うことを聞かせるのには、ある程度のガス抜き――――多少の盗賊行為なんかも黙認し続けていたのだ。


 西ラビアとエストールも同じ真似をしているので、そこを指摘する訳にもいかず、こうしてこの島は冒険者たちによる代理戦争が数年間に渡って続いている状況だそうだ。



「我々ギルドは中立機関なので、政治的介入は避けている。ただし、関係ない者への盗賊行為だけは見過ごせん。その為に何度も討伐部隊を編制して送っているのだが……正直鼬ごっこでキリがない。その上、最近では盗賊団の方が力を付け始めてしまい……もう限界なのだ!」

「うわぁ、救いがないじゃないですか……」


 確かにここは冒険者の島なのかもしれない。ただし、その冒険者自体が各勢力の手駒となって盗賊行為に手を染め、最早収拾がつかなくなってきているのだ。


「そこで今回、まだ何処の勢力にも染まっていないと思われる君たちを加え、各盗賊団の戦力を一気に落としておきたいのだ! そうすれば、この島も少しは平穏な時間を取り戻せる筈だ!」

「根本的な解決になっていないような気もしますが……」

「そこまでは私も求めておらん! ギルドとしても、あまり踏み込むつもりはないが、何も知らずに巻き込まれている町民や冒険者だけでも、可能な限り救いたいのだ!」


 うーん、そう言われると断り辛い。


「ちなみに、その討伐部隊に参加して、俺たちの報酬は?」

「うっ! ほ、他の冒険者たちとの兼ね合いもあるので……そこまで法外な報酬を君たちにだけ出す訳にはいかん。すまんな」


 それだとこちらにはデメリットしかないな。第一、近日中に開始では時間が無いのだ。


「分かりました。なら、こういうのは如何です? 今日中に俺たちだけで盗賊団を粗方潰しておきます。その場合だと、他の冒険者への報酬も気にしなくて良いですよね?」

「そ、そんな事が可能なのか!? い、いや……例え出来たとしても、それでは君らに迷惑が掛かるぞ!?」

「ん? 迷惑? 連中が報復してくるって事ですか?」


 多分、この島には二度と来ないと思うので、それは別に構わないのだが……


「サンクトランド行政府はともかく、西ラビアとエストールを両方とも怒らせると面倒だぞ? 連中の派閥はそれぞれの港を支配している。君たちが単独で大暴れして悪目立ちすると、最悪港から船を一隻も出して貰えなくなるぞ。つまり、この島から出られなくなる」


 なるほど。これは他の冒険者にも効く脅しだな。西ラビアにエストールも、かなり狡猾なようだ。


「そういう事ですか。何も問題有りませんね。それで……どうです?」


 俺たちにはエアロカーがあるので船は要らない。ノープロブレムだ。


「……分かった。だが、さすがに今日中では厳しいんじゃないのか? もう昼を過ぎているのだぞ?」

「ある程度、盗賊団が潜伏していると思われる場所さえ教えてもらえれば、多分日が暮れる前には終わらせられますよ」


 俺も索敵能力が上がったし、名波もいる。島中を飛び回れば、多分すぐにでも見つかると思う。


「よし、そこまで言うのなら君たちに任せよう! 報酬も期待してくれて構わない!」


 おお! 言い切ったな?


 でもこのおっさん、最初は俺たちを騙そうとしてくれたので、ここでキチンと言質を取らないと不安で仕方がない。


「あー、お金は要らないので、何かマジックアイテムでも貰えませんか? こいつと同じ物があれば嬉しいんですが……」


 俺はダンジョンで手に入れたばかりの“相愛の鎖”を取り出して見せた。このマジックアイテムは局地的な方位磁石代わりになり得るアイテムなので、是非とも複数押さえておきたいのだ。


「ほお? “相愛の鎖”か。なかなか良い所に目を付けるじゃないか。確かにそれがあれば、小舟でも自力で島から脱出する事も可能かもしれないな」


 ギルド長は少し勘違いして納得したようだが、その口ぶりから察するに、どうやら他の者たちもこの鎖の有効的な使い方に気が付いているみたいだ。詳しく話を聞いてみると、どうやらこの辺りの大型定期船では航海するのに必須とされているアイテムらしい。


「良いだろう。ギルドにはそれのストック分がある。もし盗賊団を壊滅状態に追い込めるのなら、二組用意しようじゃないか」

「二組だけ? もっと無いの?」


 佐瀬は少し不服そうであった。


「うーん、それ以上はちょっとなぁ。“相愛の鎖”は金貨50枚相当するアイテムなんだぞ?」

「「「金貨50枚!?」」」


 思ったより高額であった。希少レア級のマジックアイテムだからもっと安いかと思っていたのだが、どうやら先の事情もあり、船の多いこの近海では高値で取引されているみたいだ。


「分かりました。その条件で飲みましょう」

「よし! それじゃあ早速盗賊たちが居ると思われる場所を教えよう」


 ギルド長は島の地図を取り出すと、目星を付けている場所を俺たちに教えてくれた。








 エアロカーで島上空を旋回していると、横から佐瀬が尋ねてきた。


「盗賊団ねぇ。結構な規模らしいけれど、私たちだけで大丈夫かしら?」

「さすがにS級レベルはいないだろう。最初は少し様子を見ながらだな」


 盗賊団とは言っても、仮にも国の後ろ盾がある武装集団だ。万が一、聖騎士団長レベルの賊がいたら、そのままエアロカーで半島まで逃げてしまおう。



「矢野君! この下辺り、複数の反応があるよ!」

「よし! 何処かに着陸させよう!」


 近くの岩場にエアロカーを着陸させ、俺たちは気配を殺しながら反応のあった場所を目指した。




「……あの穴の中だね」

「おお! いかにも盗賊団のアジトって雰囲気だね!」


 岩山に人が通れるくらいの横穴が空いており、その先に複数の人の反応があるそうだ。穴の付近には見張りすら立っていない。この辺りは既に彼らの勢力圏内らしく、町の者は勿論、冒険者たちも不用意に近づかないエリアだそうだ。


「よし、潜入開始!」


 内部は思ったより明るかった。あちこちにランタンが設置されていたからだ。


『賊に出会ったらすぐに制圧するの?』

『そうだな。だが殺すのは連中が盗賊だという物証を得てからだ。俺の予想だと、すぐに見つかると思うんだけど……』


 念話をしながら洞窟内を進むと早速三人の男たちと遭遇した。


「なんだ、テメエら? 冒険者……にしては幼いなぁ。それに……へへ!」


 佐瀬と名波の姿を見た男は嫌らしい笑みを浮かべていた。


「私たち、盗賊狩りに来たんだけど、アンタたちがそうなのかしら?」


 堂々と佐瀬が尋ねると、男三人はそれぞれ顔を見合わせた。


「おいおい、それはとんだ誤解だぜぇ!」

「俺たちはここで暮らしているだけさ」

「そうそう。住めば割といい場所なんだぜぇ?」


 うむ、こちらを舐めて暴露してくれれば楽だったのだが……


「それよりどうよ? 姉ちゃんたち綺麗だし、家を案内するぜ?」

「奥には酒も食事もあるから来ないか?」

「歓迎するぜぇ?」


「……信用できないけれど、まぁ奥を見られるのなら構わないわよ」


 佐瀬が同意すると男たちは喜色をあらわにした。


「おし! 決まりだな!」

「ほら、嬢ちゃんもおいで」

「……別に、野郎は帰ってもいいんだがなぁ」


 そうは言いつつも、目撃者である俺を消す気満々なのか、三人の男たちは俺たちを包囲するように位置取りして奥の方へと案内した。


『シグネ、ちなみにこいつらのステータスは?』

『んー、全員闘力2千以下だね』

『なら余裕ね』


 だが、逆に言えば2千近い闘力の者はいるわけか。そんな連中がゴロゴロしていれば、確かにギルドも手を焼くはずだ。



 奥に進む道中、男たちが何度か佐瀬や名波にお触りを試みたが、あえなく躱されるか手で打ち払われた。それでも男たちは余裕の態度を崩さない。どうやら奥にはそれなりの戦力がいるのだろう。


 ……大丈夫。少なくとも化物レベルの気配は感じない。


 すれ違う男連中全員がそれなりの使い手だが、よくて全員B級止まりの実力だ。




 やがて奥の広間に到着すると、そこは既に酒池肉林となっていた。昼間から酒を煽っているゴロツキどもに、裸の男と女が、まぁ……致しているのだ。


「わっ!? なになに!?」


 咄嗟に名波がシグネの目を塞ぐ。そのまま【ブラインド】の闇魔法で隠してもいいかもしれない。


「……幼い子が居るのに、とんでもない場所に連れてきたものね?」


 ギロリと佐瀬が男を睨みつけた。


「へっへっ! 強がっても無駄だぜ? もうここまで来ればこっちのもんだ!」

「おい! テメエら! この嬢ちゃんたち、俺たちを捕まえに来たんだってよぉ!」

「ぎゃはははは! カモがネギ背負って来たわけだぁ!」


 ゲラゲラと下品な笑みを浮かべた男たちが俺たちの周囲を囲みだした。さすがに名波もシグネの目から手を離した。まぁ、男たちが壁になってあられもない姿はここからでは視えないだろう……多分。


「……はぁ。それじゃあアンタたちは結局盗賊って事で……いいわけね?」

「その通りだ! 俺たち“竜覇団“は――――ぶげっ!?」


 なんちゃら団の団員さんは名乗りを上げる前に佐瀬の槍によって串刺しにされた。


「て、テメエ!?」

「何時の間に武器を……!?」


 普段の佐瀬は杖装備だが、今回は至近距離だったのでマジックバッグから槍を選択して取り出したのだろう。


「イッシン、もう良いのよね?」

「聞く前に手を出してんだろうに……うん、良いよ!」


 物証……というか証人を見つけた。もうこいつらに用はない。


「名波!」

「分かってる!」


 名波は【シャドーステップ】を発動させると、自身の影に潜り込み、そこから別の影へとワープした。その場所は……先程裸で運動中だった野郎の傍だ。


「センシティブな行為、禁止!」

「ぐわぁつ!?」


 無防備だった男は名波の包丁で首を切断され、男に覆いかぶされていた女性は怯えていた。


「ひぃ!?」

「大丈夫だよ。私たちは味方だから」


 名波はマジックバッグから毛布を取り出すと、女性の裸体をそれで隠した。


 その女性の首や足には枷が付けられていたのだ。恐らく何処かで攫われ、男たちの慰み者にされていたのだろう。


(ちっ! やっぱり予想は当たっていたか……)


 いくら国のバックアップがある武装集団とはいえ、盗賊団を名乗るような無法者であればガス抜きが必要なのだろう。恐らくそういった人たちが囚われているのではと予想していたが……悪い予感が当たってしまった。


(だが、これで証人は得られた!)


 あとはこいつらの首を集めるだけだ。


「テメエら! この人数差で勝てると思っていやがるのか!」

「やっちまえ! 女は生け捕りにしろ!」


 この状況下でまだ盛っているのか、男たちは無謀にも佐瀬たちを生け捕りにするつもりのようだ。


「ふふ、出来るものなら……やってみなさい!」

「悪い盗賊団は殲滅だー!」


 佐瀬とシグネが暴れ始めた。


 佐瀬は一切手加減の無い【ライトニング】を連射した。膨大な魔力を籠めた上に、適性スキルで更に威力増し増しの魔法攻撃だ。あれは最早、最下級魔法なんて次元を超えていた。


 魔法耐性をろくに持たない男たちは雷のレーザー攻撃を受けて次々と絶命していく。女の敵に佐瀬は容赦がなかった。


 シグネも幼いながらも状況は理解しているのか、相手に対していつもより遠慮がない。炎の剣を生み出して男たちを次々に切り倒していく。あれで焼き斬られたら死ぬほど痛そうだな。


「このガキが!」

「余所見してるんじゃねえ!」


 確かに俺は余所見していたが、それなら黙って奇襲すればいいだろうに……


(ま、【捜索】スキルで丸わかりだけどね)


 俺は背後を確認しないまま剣で男二人を瞬時に斬り飛ばした。俺の今の闘力は6万越えである。この程度の相手なら、目隠しして両手を塞がれてたって勝つ自信があった。



 適当に襲ってくる賊たちを撃退しながら、俺はずっと探し物をしていた。


「……居た! あいつだ!」


 一人だけ奥の部屋に逃げようとしていた男を捕まえようとしたが、俺より一歩先に名波が動いていた。


「逃がさないよ! 貴方がここの頭目さんだね?」

「くっ!? 畜生! 離しやがれぇ!! 俺を殺すと後悔するぞぉ!」

「……へぇ? どういう風に後悔するのかなぁ?」


 あ、やべ。ブラック名波さんになってる。


 彼女も女性が乱暴されている姿を見て、かなりご立腹のようだ。



 この後、賊の頭目は散々拷問された上に、全てを白状してから始末された。

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