第155話 タコパ
【探索者】高ランク魔物情報共有スレ Part.18
768:名無しの探索者
なあ、この情報本物だと思う?
↓【速報】海王、迷宮内で発見される Part.1
https------------------------
769:名無しの探索者
あー、それ知ってるわ!
迷宮スレの方でうpされた画像ね
ま、100%デマ情報だろう
770:名無しの探索者
そうか?
ダンジョンの奥に進めば進むほど
魔物が強くなるんなら
EXランクも出るんじゃね?
771:名無しの探索者
>770
海王は海竜の亜種って話だし
ダンジョン内に魔物の亜種は一切出ない
よってフェイク情報!
はい、論破!
772:名無しの探索者
>771
何言ってんだ、こいつ?
そんなの確定情報でもなんでもないし
ゴーレムは亜種も出てんだぞ、情弱が!
はい、論破論破www
773:名無しの探索者
いちいち喧嘩すな!
でも確かに胡散臭い情報だよなぁ
しかも、その写真撮った場所
9階層って書いてあったらしいし……
画像もすぐ削除されたようだから
やっぱ嘘だったんじゃね?
774:名無しの探索者
9階層www
そいつ、素人過ぎだろ……
せめて100階層以上に盛っとけよw
775:名無しの探索者
9階層にEXランクが出て溜まるか!
ボス部屋は5階層か10階層毎だろう?
嘘つくならもう少しクオリティ上げて出直せ!
776:名無しの情報通探索者
>775
いや、そうでもないらしい
ダンジョンによっては変則的な場所に出たり
一階層毎にボスが出る迷宮も存在するそうだ
777:名無しの探索者
情報通ニキ キタ――(゚∀゚)――!!
各階ボスって凄いな……
778:名無しの探索者
まさにボスラッシュだな!
そのダンジョン、何処にあんの?
779:名無しの探索者
ボスしか出ないとか……
報酬の宝箱狙い放題やんけ!
780:名無しの情報通探索者
>778
えーと、確かバーニメル半島の外にある国で
クレイ……ダンジョン……だったかな?
最高到達階層が7階で
8階ボスがSSランクのヒュドラらしい
781:名無しの探索者
ヒュドラ!?
782:名無しの探索者
やべー!
一度見てみたい!
783:名無しの探索者
推定討伐難易度SSランクかぁ
Bランクでも死にそうになるのに……
784:名無しの探索者
はいはい、無理ゲー……解散!
785:名無しの探索者
でもさぁ
そのダンジョンなら9階層にEXランクが居ても
不思議じゃないんじゃね?
786:名無しの探索者
その可能性は……あるなぁ
ヒュドラを倒せれば、だが……
787:名無しの探索者
いや、ムリムリのムリだって!
SSランク倒せるか?
788: 名無しの情報通探索者
探索者の中にもようやく
Aランクの魔物を倒したクランは出ている
しかし、SSランク討伐となると
冒険者の中にもいるかどうか……
789:名無しの探索者
あのぉ……
こんなスレ見つけてしまったのですが……
↓【速報】S級冒険者、SSランクの守護者を撃破
https------------------------
790:名無しの探索者
あ
791: 名無しの情報通探索者
え?
792:名無しの探索者
これ……マ?
793:名無しの探索者
ウソやろ……
794:名無しの探索者
じゃあ、あの画像……本物?
ロラード王国のクレイム港町を出て三日間、俺たちはエアロカーに乗ってひたすら南沿岸部沿いを飛行し続けていた。
そして、ようやく目的地の手前である西ラビア王国の港町アージャに辿り着いた。
西ラビア王国は大陸東部でもやや中央寄りな場所で、この国の東側には広大な砂漠地帯、ラビア砂漠が広がっていた。
王国の西側には、この大陸でも有数の大河――モーリス川が流れており、そこより東側を基本的に”メルキア東部”と呼称するそうだ。
港町アージャは今まで見てきた中で一番大きな港町である。交易が盛んなのか人の出入りもかなり激しかった。
「ここは中東みたいなイメージねぇ」
バーニメル半島よりかは北に位置する筈の地だが、気候の影響かやけに蒸し暑く感じた。町の人々も白いゆったりとした服を纏っており、頭を何かしらの布で隠して直射日光を避けていた。
「この辺りも全く電波が届いてないんだね」
さすがの魔導電波も、ロラード王国の東側からは一切届いていないのか、三日前からネットに接続できなくなっていた。
「もしかして、君たち地球人?」
いきなり声を掛けられた俺たちは一斉にそちらへ振り向くと、そこには肌の焼けた青年が立っていた。
どうやら彼も元地球人なのか、シグネがスマホを取り出していたところを見て話し掛けてきたようだ。
「ああ、そうだけど君もかい?」
「そうだよ。僕はスリランカ人さ! 君たちは……アジア系? 中国の人かな?」
「日本人だよ」
「私だけリトアニア人!」
この元スリランカ人の青年はナダラジャというらしく、家族でこの街に暮らしているそうだ。他の人たちとも一緒に転移してこの地に来たそうだが、多くのスリランカ人は西ラビア王国の民として生きる選択をしたみたいだ。
「南アジアのほとんどはこの国か、周辺国の何処かに転移されて来ているよ。でも日本人を見るのは君たちが初めてだなぁ」
「へぇ、そうなんだ」
この辺りには日本人コミュニティは転移してきていないのか。
「ねぇ、リトアニア人は知らないかな?」
「うーん、そもそもアジア圏外の人は見た事ないや」
メルキア大陸の東部でも見たこと無いとなると、いよいよもってシグネの祖国の人々は他の大陸に転移した可能性が高い。
俺たちはナダラジャからこの国の事を色々と聞き、最後に港の定期船乗り場の場所を教えてもらってから別れた。お礼に彼にはキュアポーションを手渡しておいた。俺たちにとっては無用の物だが、回復魔法の術がない者にとっては貴重品なので、プレゼントすると大抵喜ばれるのだ。
ナダラジャの助言に従い、港近くにある青い屋根の建物を目指した。そこが船の案内所になっているらしい。
西ラビア王国の南部には大小様々な島があり、そのどれかに今回のお目当てであるサンクトランドという島がある。ディオーナ婆さんの話だと、その島には小さな町やギルド支部も備わっているらしく、冒険者たちがダンジョン目当てでやってくる場所だそうだ。
さっそく案内所に入ってサンクトランド行きの船を聞いてみると、どうやら今日の最終便は既に出航し終えたようで、明日の朝と昼頃にまた船が出ると言われた。
仕方がないので今日はこの港町で泊まることにした。
翌朝、船着き場には大勢の人で賑わっていた。
昨日も人が多いと思っていたが、朝の港はそれ以上の活気だ。
「えーと、サンクトランド行きの船は……あれだな!」
キチンと船に乗るタラップの手前に人が立っていて、“サンクトランド行き”と書かれた立て札を持っていた。その人に声を掛けると一人の運賃が銀貨3枚と言われたので支払った。
「思ったより安いわね」
「まあな。でも、個室とかある訳じゃあなさそうだぞ?」
サンクトランドには四時間程度で着くそうなので、乗客たちは各自甲板の上で適当に寛いでいた。装いから察するに、客のほとんどが同業者みたいだ。
俺たちも彼らに倣い適当な隅っこに腰を下ろすと、二人組の男たちが声を掛けてきた。
「なあ、姉ちゃんたちも冒険者か?」
「俺たちC級冒険者だぜ? 島に着いたら一緒にダンジョン行かね?」
どうやら女性陣目当てのナンパらしい。そういう時、真っ先に対応するのは決まって佐瀬であった。
「そうなの? でも結構よ。私たちこう見えてB級冒険者だから、四人で間に合っているわ」
銀製の冒険者証を取り出して見せるも、男たちは気にした素振りを見せなかった。
「そりゃあいいぜ! 俺たちももうすぐB級だしなぁ!」
「むしろ実力的には既にA級くらいあると思ってんだけどなぁ」
こういう馬鹿たちは痛い目に遭わせるか、ハッキリ実力差を見せつけないと理解できないのだ。普通の冒険者なら、まず俺たちの装備を見てから絡むかどうかを判断する。
これでも俺たちは結構稼いでいる訳で、装備にもかなりのお金を掛けていた。メイン武器はプライスレスなモノも多いが、目敏い冒険者たちは俺たちの恰好から只者ではない事を察して迂闊な真似を避けるのだ。
目の前の二人は当然、そんな知識は持ち合わせていないのだろう。俺たちのやり取りを見守っていた他の冒険者たちは、彼らがA級云々の話をした辺りで可笑しかったのか、思わず噴き出している者もいた。
「船上って魔法を使うのはありかしら?」
「さぁ、ライトニングくらいならいいんじゃね?」
船を出禁にされたら、最悪エアロカーで後を追跡するからやっても構わないよ。
俺からGOサインが出たと判断した佐瀬は、あれからも鬱陶しく“俺たち強いから”アピールを続ける冒険者たちを絶妙な匙加減のライトニングで眠らせた。
(もう芸術的なライトニングだね。97点!)
気絶した二人の冒険者を名波とシグネが足を持って引きずり、適当な場所に運んで寝かせておく。もう何度も見た光景だ。
一方、乗船客の中には、この馬鹿二人と同じように俺たちの実力を見誤っていた者たちがいたようで、何人かは口を開けたまま固まっていた。
(これで見せしめになったな。良い船旅になりそうだ)
いよいよ船は出航し、南にあるサンクトランドに向けて動き出した。
海に出て三時間が経過した。
予定ではあと一時間くらいで到着する筈だが、ここで予期せぬ事態が起こった。
「魔物の群れだ!」
「迎撃しろ!!」
海の魔物が襲ってきたのである。
寝ていた俺は【探知】を使用していなかったので気が付けなかった。
(しかし、名波に気付かれずにこうまで接近されるとは妙だな)
横を向くと、名波はまだ眠っていた。
「お、おい。名波さん? 敵襲! 敵襲だぞ!」
「うーん……雑魚ばっかりだから大丈夫…………」
駄目だ。既に魔物自体は察知していたようだが、あまりにも雑魚だったのか、起きもせずに夢の中だ。
佐瀬も眠そうにしていたが、シグネは「敵襲!」の言葉に反応して飛び起きた。
「イッシン
海賊王を目指しているシグネちゃんは元気である。
パーティメンバー全員が魔物の襲撃を放置したまま寝ているのも体裁が悪いので、ここは俺とシグネで対処する事にした。
俺は近くにいた船乗りに状況を尋ねた。
「魔物はどこだ?」
「右舷方向からクランパの群れが襲って来てるんだ!」
「「クランパ?」」
俺とシグネは二人して首を傾げた。海の魔物にはあまり詳しくないのだ。
百聞は一見に如かずということで右舷デッキに向かうと、そこには黒と白の模様をした魔物が海面付近に浮かんでおり、船に体当たりをしていた。
「わあ! あれってシャチじゃない?」
「似ているなぁ……」
一見可愛らしそうに見えるが、口を大きく開く表情はまるで肉食獣のそれだ。しかも、勢いよく当たりしてくるので、このままだと船が沈められてしまう。
「畜生! なんだって執拗に船を襲いやがる!?」
「クランパってこんな好戦的だったか?」
「いや、待て! 連中……そのまま船を避けて通り抜けていくぞ?」
そろそろ本気でヤバそうだから殲滅しようかと思っていたら、シャチ擬きの群れは船を避けてそのまま去ってしまった。どうやら船を襲っていたのではなく、通り抜けるのに邪魔だったので体当たりしていたみたいだ。
「一体何だったんだ……?」
船員らしきおっさんが困惑していると、俺たちの元へ名波がすっ飛んで来た。
「矢野君、ヤバい! 敵襲、魔物が来てるよ!!」
「へ?」
「ルミ
焦る名波の横には無理やり起こされたのか、佐瀬が眠たそうに立っていた。
「ううん、あんな雑魚じゃない! もっと強いのが海底から来てる!」
「何だって!?」
俺は急いで海底に向けて【探知】スキルを使用した。
「げっ!? かなり大きい!」
「この船くらいに大きな化物だよ!」
(さっきのクランパという魔物の群れは、こいつから逃げていた訳か……!)
俺たちのやり取りを横で聞いていたおっさんが慌てて問い質してきた。
「お、おい! 今の話は本当だろうな!?」
「ああ、俺も名波も索敵型スキル持ちだ。間違いない!」
「右後方からこっちに向かってるよ!」
それを聞いたおっさんは顔つきを変えた。
「おい、野郎共! 船の進路を左に変えろ!」
「「「へい、船長!」」」
どうやらこのおっさんが船長だったみたいだ。
「来る!」
名波の言葉と同時にそれは海面から姿を現した。
そいつは赤い皮膚をしており、長い足を八本持つ化物であった。
「く……クラーケンだああああっ!?」
冒険者の誰かが悲鳴を上げる。
海の魔物に詳しくない俺でも、さすがにクラーケンは分かる。ざっくりな説明だと、要は巨大なタコだ。ただし、その大きさは中型船のこの船よりも大きかった。倍近くはある。
(これだからファンタジーって奴は!?)
タコまで非常識サイズだ。これでは安心して海も渡れない。
「佐瀬、この位置だと
「駄目ね。確実に船を巻き込むわ!」
既に船の後方に奴の足が食らいついていた。この至近距離で【サンダーストーム】を放てば船ごと破壊しかねないか。
「俺たち前衛で奴の足を斬り落として船から引き離す。佐瀬は通常の魔法攻撃で、チャンスがあればアレで一気に仕留めてくれ!」
「了解よ!」
俺たちは急いで後方デッキへと向かった。
「おい、まさか戦う気か!?」
「無茶だ! クラーケンはSランクだぞ!」
周囲の冒険者たちが俺たちを引き留めようとする。
(へぇ、クラーケンはSランクなのか……)
気持ちは分かるが、今動かなければ船が破壊され海に放り出される。さすがにクラーケン相手に水中戦は御免だな。泳いで逃げるなど論外だ。
「それは朗報だな。Sランクならどうにかなる」
「へ?」
「何を言って……」
呆気にとられる冒険者たちを余所に、俺たち四人はクラーケンへと立ち向かった。
「【サンダーボルト】!」
佐瀬はとりあえず中級魔法をぶっ放した。直撃したクラーケンはかなり痛そうにしており、怒りを買ったのか佐瀬の方へ足の一本を振り下ろしてきた。
「させないよ!」
名波がその間に割って入って足へと斬りつける。太すぎる足は名波の一撃だと斬り飛ばせなかったようだが、弾き返すのには成功した。
「これ以上船を攻撃させるな! 足の数を減らしていくぞ!」
「「了解!」」
俺は船の最後尾まで来ると、まとわりついていた足を斬り飛ばす。シグネも【エアーステップ】を利用して海面すれすれまで飛び回り、足を斬り落としていく。
「あ、こいつ! 斬られた足を再生していくよ!?」
「畜生! なんでこう、数が多い系は毎回こうなんだ!」
まるでヒュドラ戦の再来だ。
「名波、手が足りん! ゴーレム君を呼び出せ!」
「了解だよ!」
ゴーレム君はいざとなれば空も飛べるし佐瀬の護衛に回せれば、それだけ攻撃の手数も増やせる。
だが、そう上手くは事が運ばなかった。
突如、船体が大きく揺れたかと思ったら、船の底から嫌な音が鳴り始めたのだ。
「た、大変だ船長! 船底に穴が開いちまった!」
「何ぃ!? さっさと予備の木材使って塞ぎやがれ!」
「む、無理ですよぉ! 凄い勢いで海水が入ってきて……とても押さえきれねえ!!」
(なんてこったい……)
目的地の島まではまだまだ距離があり、近くには小島のような影も見えない。これではクラーケンを倒しても船が沈没してしまう。
「……イッシンは穴塞ぎに行って! ここは私たちに任せて!」
「おう! それしかないか……!」
船底の穴を塞げるかなんて知らないが、闘力の高い俺なら水の勢いにも負けないだろう。
クラーケン討伐は佐瀬たちに任せて、俺はその船底とやらに急行した。
船底に行くには甲板から階段で降りられるが、その室内は既にひざ下くらいまで浸水していた。
「うわ、これはヤバい! その板貸して!」
「あっ!」
俺は近くの船員が抱えていた板を引っ手繰ると、ドバドバ水が入ってきている穴に向かって突き進んだ。そして強引に板を当てて水が入ってくるのをせき止めた。
「おお、止めだぞ!」
「凄いパワーだ!」
感心して見ている場合じゃないぞ?
「誰か、釘と槌を貸してくれ!」
「あ、ああ!」
浸水が収まったので船員たちも穴に近づけるようになった。
俺は釘と槌を借りると、素人感覚で適当に釘を打ち、当てた板を固定させた。
思ったより手際よく作業できている自分に驚き、そういえば俺には【木工】スキルがあることを思い出した。念の為、一度穴の開いた箇所は更に板を当てて固定していく。
その作業中、凄まじい轟音と揺れが連続して起こった。
「うわぁ、今度は一体なんだぁ!?」
「もう駄目だああああっ!!」
あまりの出来事に船員たちは半狂乱するも、逆に俺は冷静になれた。
(今の衝撃……佐瀬の【サンダーストーム】が炸裂したな……)
という事は、もう最終局面か、既に決着した頃合いだろう。
恐らくここは大丈夫そうなので、船員たちに槌を投げ返して俺は甲板上に上がった。するとサングラスを掛けていた佐瀬がこちらを振り向いた。
「あ、イッシン。クラーケンは仕留めたわ!」
「やっぱり……」
俺ももう少しクラーケンと戦いたかったなぁ……
無事にクラーケンを討伐し、船も何とか沈没だけは免れた。点検してみたところ、短い距離の航行なら支障ないそうだ。
「お陰で助かったぜ……。ありがとな、お嬢ちゃんたち!」
「アンタたち、マジですげえな……!」
「あれでB級だって? S級じゃあないのか?」
ほぼ三人とゴーレム1体で討伐難易度Sランクのクラーケンを倒した佐瀬たちは一躍ヒーローとなっていた。一方の俺は船底で大工作業をしていたのであまり実力を披露できなかった。
(ぐぬぬぬぬっ!)
「なあ。あのクラーケンの死体、どうすんだ?」
「解体すんなら手伝うぜ?」
海にぷかぷか浮かんで焦げているクラーケンの死体を指して冒険者たちが尋ねて来た。手伝うと言いつつもおこぼれに預かる気満々である。冒険者同士での「解体作業を手伝う」は、「その代わり駄賃は貰う」という意味が付け加えられる。
『イッシン、どうする?』
それを理解している佐瀬が念話で尋ねてきた。
別にここで解体する必要は俺たちにはない。何故ならマジックバッグで丸々収納出来ちゃうからだ。
ただクラーケンサイズを丸ごととなると、それはかなりレアなマジックバッグ持ちということになり、行く行くは伝説級バッグの存在を嗅ぎつかれる恐れもある。
このまま船を進ませて、後でゴーレム君にこっそり回収させる手もあるのだが……
「ああ、頼む。ただし、大事な素材部分は俺たちが貰うからな?」
彼らに任せる事にした。
「勿論だ!」
「俺たちは足の先っぽを貰うくらいで構わねえさ!」
「よっしゃあ! さっさと解体すっぞ!」
ここは先行投資だ。これから一緒の島で活動する冒険者同士、ある程度仲良くしておいて損は無いだろう。
クラーケンの死体をみすみす逃す手は無いという理由で、船はしばらくその場に留まって解体作業を行った。船からもボートを一隻降ろして頂き、それに乗った冒険者たちがクラーケンの死体を切り分けていく。
作業を手伝った者にはクラーケンの死体の一部を渡す約束となった。
「ねえ、イッシン
「ん? タコパって……もしかして“たこ焼きパーティー”の事か?」
俺自身はあまり使い慣れない言葉だが、シグネは何時そんな単語を覚えたんだ? それともこれも【自動翻訳】の仕業なのだろうか?
「たこ焼きって……確かにクラーケンはタコみたいだけど、鉄板が無いだろう?」
「あるよ」
何故かシグネのマジックバッグから鉄板が出てきた。しかもタコ焼き専用の丸い穴が空いている奴である。
「え? 何で持ってるの? でも、材料が……」
「材料もあるよー!」
今度は調味料や食器類まで出てきた。タコ焼き専用の粉や卵、青のりにソース、串まで全部揃っている。
「え? え? 何、これ……?」
「あー、これは以前、鹿江コミュでタコ焼きパーティーした時の余剰分だねぇ」
俺の疑問に名波が答えてくれた。
どうやら俺が留守だった間、鹿江の港町でタコを大量に獲って来た誰かが「タコパしようぜ!」と言い出したらしいのだ。そこからは皆の行動は早かった。必要な材料を集め、不足している物は佐瀬たちがエアロカーを飛ばして、わざわざ新東京まで行って仕入れてきたそうだ。
(こいつら、人が必死に救助活動している間に、俺をのけ者にしてタコパしてやがった!?)
寧ろ、その事にショックである。
拗ねているのがバレたのか、佐瀬がフォローしてきた。
「まぁまぁ、私が美味しいタコ焼き作ってあげるから」
「サヤカ
「……ごちになります」
まぁ、いいか。この世界に来て初めてのタコ焼きである。一体何時ぶりだろう。
そんな訳で船上では急遽タコ焼きパーティーが開催された。冒険者たちが切り落としていったタコ(クラーケン)を使って、佐瀬や名波が次々とタコ焼きを作り上げていく。それを乗船客と船員全員に振る舞った。
「なんじゃ、こりゃあ!?」
「すげーうめえ!?」
「タコってこんなに美味しい生き物だったのか!?」
地球でも昔はタコを食わず嫌いしている者が多かったが、それはこの世界でも同じなようだ。初めて食べたタコの触感に感動している冒険者たちがほとんどだ。
「お、俺たちにもいいのか?」
「アンタたちだけ上げなかったら可哀想でしょ、ほら!」
「す、すまねぇ……姉御!」
「誰が姉御か!?」
佐瀬たちをナンパしていた自称A級冒険者たちにもタコ焼きをお裾分けした。
(こうやって“雷帝”様は舎弟を増やしているのだな……)
その後、クラーケンも無事に解体し終えた俺たちは、何とか船が沈没する前にサンクトランドの港に入港できた。
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