第153話 酒宴

 9階層守護者の扉を開けると……


「…………は? 何、これ?」

「…………海?」


 ……見渡す限りの海であった。


 扉を開けたらあら不思議、海辺に繋がっていた。砂浜と僅かばかりの植物しか生えていない至って普通の海岸線で、その先には大海原が広がっていた。ただ海上は霧が濃くて先の方まで見通せないが……恐らく湖とかではない筈だ。


「おいおい、随分広いフィールドになったなぁ……」

「もしかして……ここからはボス部屋じゃないのかしら?」


 ボス部屋にしてはあまりにも広すぎる。それにボス部屋では必ずある筈のものが二つ見当たらないのだ。


 奥へと続く扉とボスの姿が、今のところ全く見当たらないのである。


「…………中に、入ってみるか?」


 ライルがそう提案するも――――


「――――絶対駄目! いるよ! ボスは……もう奥にいる!」


 それを遮ったのは震えを含んだ名波の声であった。


 どうやら彼女の【感知】は既にボスらしき存在を捉えているようだが、俺にはその姿を見つけられなかった。


「……どこだ? 島の中か? それとも海中か?」

「霧が濃すぎて遠くが見えない……」


「正面のずっと奥……。海面辺りにいる。かなり、大きい……!」


 大きい? そんな巨大な物なら見落とさないと思うのだが……


 首を傾げていた俺たちであったが、僅かに霧が薄くなったタイミングで、全員がそれを見てしまった。


「…………あ」

「う、嘘だろ…………!」

「あの影……島か何かじゃ……ないの……?」

「ううん、あれがボスだよ…………」


 霧の向こうに見えたのは山のように大きな影である。よく見るとその影は動いているように見えた。まるで霧の奥に浮かんでいる巨大な島が移動しているかのような光景に一同唖然としてしまった。


 海を泳ぐ山のように大きな何か、その時点で俺たちはその正体を察してしまった。


「……“海王“リヴァイアサンか……!」

「初めて見た…………!」


 まさかのSSSランクをすっ飛ばして討伐難易度EXランクの怪物、“七災厄”……いや、もう“八災厄“だったか。その伝説の一体が目の前に存在していた。


 俺と佐瀬はそのスケールの大きさに呆けており、名波とシグネの二人はスマホを取り出して撮影を始めていた。


「ん? それは……何やってんだ?」

「んー、魔道具かな。瞬時に絵が撮れるの」


 名波が適当に誤魔化してそれを見せた。


「うわ、すご! めちゃくちゃ綺麗な絵ね」

「それ、便利だなぁ……」


 スマホ画面の写真を見ていた兄弟が物欲しそうにしていたが、さすがにこれは上げられない。


「しかし、リヴァイアサンってのは海竜の亜種だって話じゃあなかったのか?」


 ダンジョンには基本的に亜種は出ない……筈である。ゴーレムなどは何匹か変わり種も確認されているが、基本的にダンジョン産は通常種しか出現しないというのが通説であった。


 つまり、ダンジョン産でも亜種が生まれるのか、それともこのリヴァイアサンというのが実は通常種で、一体だけでなく何体も海洋に棲息しているのか……である。


「これは……学会が知ったら驚くわね……!」

「海王が実は数匹居るかもしれません、てか? 笑えねぇ……」

「ダンジョンにEXランクが出たなんて話は聞いた事がねえな」


 そもそもSSランク討伐自体が偉業なのである。少なくともこの辺りの地域では討伐記録が無いとされているらしい。


「何処にも扉が見えないが……まさかここが終点なのか?」


 ダンジョンを本当の意味で制覇した者は、公式記録上存在しない。自分が攻略したと主張する者は過去に何人もいたらしいのだが、いずれも証明するのが難しく、ギルドでの記録上では踏破者無しとされている。


「いや、これだけ広いフィールドだと、奥の方に扉がある可能性も捨てきれないな……」


 もし仮にそうだとしたら、海を渡るか空を飛ぶ術が必要だ。


「おい! まさか挑戦しようってんじゃあ、ねえだろうなぁ?」


 グラッツが不安そうな表情でライルを見た。


「……止めとこう。ダンジョンルールだと、一度攻撃かまして逃げ帰っても、別にペナルティ無しなんだろうが……それを試すには相手がヤバすぎる」


 さすがのライルも身を引いた。


 EXランクともなると、一手目で瞬殺レベルの反撃を受ける可能性も否めない。それに万が一、ダンジョンルールがここでは適用外だったら……その時は間違いなくこの国が滅ぶ。


 伝説によると彼のリヴァイアサンは津波で島国一つを飲み込んだという逸話を残している怪物だ。


 まだまだダンジョンには未知な部分も多いので、迂闊な真似は避けるべきだと思う。


「ああ、止してくれ。ここは……しばらく封印扱いになるだろうな。ロラード王国は七災厄不干渉の条約加盟国だ。おっと、もう八災厄なんだっけか」


 ギルド職員とも付き合いのあるグラッツも、既にその情報を知っていたようだ。



 俺たちはそのまま扉をしっかり閉めて、下の階にある転移陣から一階へと戻った。




 転移陣から俺たちが姿を見せると、一階広場内で順番待ちをしていた冒険者たちがどよめいた。俺たちというより、正確にはカーター兄妹の姿を見て冒険者たちが反応したのだ。


「ライルさん! 今日も7階層クリアですか!?」

「討伐難易度Sランクの雷竜を倒しちまうんだもんなぁ」

「リンネお姉さま、素敵ー!!」


 やはり二人のファンは多いらしく、次々と冒険者たちに声を掛けられていた。ダンジョン一階はちょっとした喧噪に包まれ始めた。


 だが、本格的な騒ぎになるのは……きっとこれからだ。


「みんな、聞いてくれ! 俺たちは今日、この六人で8階層に挑み……攻略に成功した!」


 ライルの力強い宣言は広場内だけでなく、ダンジョン外の入り口付近にいた冒険者たちの方まで届いたが、居合わせた者らがその言葉の意味を理解するのに一瞬の間を要した。


「……え? 8階……?」

「今まで、ここの最高って……何階だ?」

「雷竜は7階よね? じゃあ、8階って……」

「ヒュドラだよ!? 8階はSSランクのヒュドラだ!!」


 ざわめきはやがて、大歓声へと変わる。


「マジかああああああ!?」

「あのヒュドラを倒したってのか!?」

「SSランク討伐成功なんて私、聞いた事もないわよ!」

「他国のSランククランでも討伐失敗した、あの不死身のヒュドラを、たった六人で倒したってのか!?」

「すげーぜっ!!」


 冒険者は誰しもが賞賛の言葉と驚きの声を上げていた。特にロラード王国出身の冒険者たちは同郷であるカーター兄妹を誇りに思っているのか、今回の偉業を我が事のように喜んでいた。


「ライルー! リンネー! お前らこそ最強だー!」

「「「きゃああああ!! リンネお姉さまーー!!」」」

「お付きの四人も良くやったぞー!!」


 幾人かは俺たちのことも褒め称えてくれた。


「あはは、お付きだって……」

「ま、S級とB級じゃあ、しょうがないさ」

「うぅ、早くS級になりたい……!」

「私たちはその前にA級でしょうよ……」


 さすがにこの騒ぎは直ぐに収まりそうになく、ダンジョンの入場は一時ストップになってしまった。


 慌ててギルド職員と王国の兵士たちが駆けつけてきた。


「グラッツさん! カーター兄妹が8階層を攻略したというのは、事実なんですか?」

「ああ、間違いない。しっかりとこの目で確認してきた。この六人でSSランクのヒュドラを倒した」


 その為に同行したグラッツだ。彼がしっかりとそれを証言してくれた。


 グラッツの言葉を近くで聞いていた冒険者たちは一層歓声を上げた。


「おお! それはなんと素晴らしい……!」

「おそらく、この大陸では初の快挙ではないでしょうか……!」


 ギルド職員や兵士たちも全員、俺たちの偉業を讃えてくれた。


 そして、少し間をおいて一人の職員がこう尋ねた。


「と、言う事は……。まさか、9階層も確認されたので?」

「…………ああ、見た」


 グラッツが頷くと、ギャラリーたちからはどよめきが起こった。


「9階層はどんな化物がいたんですか!?」

「やっぱりSSSランクが守護者か?」

「ええ!? 8階層が終点じゃあないのかよぉ!?」


 様々な質問が飛び交う中、それに答えたのはライルであった。


「みんな、聞いてくれ! 確かに俺たちは8階層を攻略し、9階層の中も見てきたが……今はそれについて発言できない! 悪いが我慢して欲しい!!」


 その言葉を聞いた冒険者たちは酷く落胆し、中にはヤジを飛ばす者もいたが、それがS級冒険者ライルの発言であることを思い出すと、徐々に文句の数も減っていった。


「その件に関しては、後日ギルドか王宮の方から正式に通達がある筈だ! それまではどうか、酒の肴にでもして好き勝手に想像しあってくれ!」


 ライルの説明に冒険者たちも渋々だが納得してくれたようだ。


「それと俺たちはこれからギルドの酒場で祝杯を上げる! 参加は自由だが、あんな狭い酒場に全員一度には収まらん! 俺たちは朝まで飲み明かすつもりだから、来たい奴は空いた時間にでも顔を見せてくれ! 安酒で良ければ好きなだけ奢ってやる! 俺からは以上だ!!」

「「「うおおおおおおお!!」」」

「「「ライル! ライル! ライル! ライル!」」」


 凄まじい熱狂で冒険者たちが喝采を上げた。


「ちょっと! 本当に朝まで飲むつもり……?」


 ジト目で妹のリンネがライルを咎めた。


「うっ!? つ、ついノリで……。でも、こうでもしないと収まりつかないだろ?」

「余計に興奮させただけのように思えるけど……」


 ライルの言葉を聞いた冒険者たちの幾人かは、既に列から離脱を始め、ダンジョンの外へと飛び出していった。恐らく知人にこの事実を伝えに行ったか、ギルドの酒場に一足早く向かおうとしているのだろう。


「勿論、お前らも参加してもらうからな?」


 リンネからの苦言を躱そうと、ライルが俺たちにそんな事を言ってきた。


「うげっ! まぁ、たまにはいいか……」

「私、朝までなんて飲めないわよ!」

「あはは……キュアがあるから、何とかなるの、かなぁ?」

「飲み会! 打ち上げ! 行きたい!!」


 何故か未成年のシグネが一番ノリノリであったが、俺の目の黒い内は好き勝手させんぞ!


 ちなみにリトアニア人は酒を好む者が非常に多いらしいが、近年飲酒の年齢制限が18才から20才以上に引き上げられたそうだ。法律上ではお酒に厳しい国のようだ。


 ここは異世界なのである程度は目を瞑るが、ダリウスさんたちの手前、娘さんをアル中にさせる訳にはいかないしね。






 その後、俺たちはギルドの酒場へ直行するかと思われたが、そうは問屋が卸さなかった。その前にギルドの特別室で、ギルド長から“クレイヤードダンジョン”の9階層について根掘り葉掘り質問されたのだ。


 その場にはギルド幹部の者やグラッツさんたち王国兵も同席していた。



「まさか、海王が待ち受けていたとは……」

「リヴァイアサンの存在を秘密にしたのは正解でしたな」

「ええ。さすがにこれは我々の一存では判断できん」


 ギルドとしても総本部に確認を取らざるを得ないようだ。


 ただ、ギルドは国際的な中立組織と言っても、その支部が置かれている国の意向を完全に無視する訳にはいかない。しかも今回は、万が一の事態が起これば国家存亡にも関わる重大な案件だからだ。


 国側の要望でダンジョンを封鎖する事自体は決して珍しい話ではないそうだ。大抵は国の利権絡みでの一般入場規制がほとんどだが、今回の様に危険だと判断したダンジョンを封鎖する事も前例があるらしい。


「クレイム支部の判断としては、当面9階層への立ち入りを一時禁止とする。また、守護者の情報についても、王宮ないしはギルドからの公式発表があるまで他言を禁ずる。諸君らもいいかな?」

「ああ」

「ええ、問題ありません」


 俺とライルが代表して頷いた。


 こんなつまらないことでギルドやロラード王国に目を付けられては溜まらない。


『留美、シグネも。リヴァイアサンの情報はアップするの禁止だからね?』

『分かったよ!』

『はわわ! りょ、了解です!』


 ん? 一名おかしな返事をしている者がいるぞ?


『……シグネ? まさか、もう図鑑アプリにアップしたんじゃぁ……』

『し、してない! してないよ! ただ……掲示板には、もう書き込んじゃった……』

『え!? ちょっと待て! ここ、電波が通るのか!?』


 今更ながらに気付いてしまった。ここロラード王国は新日本からは大分距離がある筈だ。当然、電波も届かないだろうと思って何も確認していなかったのだが……


『そういえば……写真撮った時にもネット繋がっていたね』

『昨夜も普通にメッセージ送れたわよ?』


 名波と佐瀬も魔導電波があるのは当たり前の生活に慣れていたのか、その事に思い至らなかったようだ。


(おいおい、ここはエアロカーで半日掛けて飛んで来た場所だぞ? 魔導電波、範囲広すぎだろう……)


 まさか、この大陸全土が圏内なのだろうか?


 今度移動する際は、その辺りもチェックしておこう。長谷川氏には喜ばれそうな情報だ。






 ようやくギルド長たちの聴取も終えて、俺たち六人が酒場の方に姿を見せると、そこには既に人集りができていた。もう既にでき上がっている者も何人かいたが、まだ夕暮れ前の時間帯である。


「おお! 英雄様のご到着だー!」

「待ちくたびれて、もう5杯も飲んじまったぜー!」

「おーい! 酒と料理を追加だー!!」

「そこの席を空けろー!!」


 店内だけでなく、ギルドの外にも冒険者たちが集まって酒を飲み始めていた。


 いや、既に俺たちの偉業は町中に知れ渡っており、どこもかしこもお祝いムードになり始めているようなのだ。


「商魂逞しいというか……」

「ここは漁業と冒険者で潤っている町だからな!」

「別に何でもいいから騒ぎたいだけよ」


 ライルとは反対にリンネは静かな方を好むのか、呆れながらため息をついていた。双子の兄妹でもその辺りは感性が違うらしい。


「よーし! テメエら! もう聞いたかもしんねえが、今日は俺たちの8階攻略祝いだ! この店で一番安い酒ならいくらでも奢ってやる! じゃんじゃん飲んでくれ!!」

「「「うおおおおおおっ!!」」」


 ライルが音頭を取るまでもなく冒険者たちは既に騒いでいたが、それが余計に喧しくなった。


「姉ちゃん! 東方葡萄酒、ライルの奢りでー!」

「あ、俺もそれくれー!」

「あたいは王都のラム酒を、ライルのつけでね!」


 次々と冒険者たちが注文を始め、店員は大忙しだ。あまりの人手不足にギルド側でもスタッフの緊急募集依頼を啓示したほどだ。しかも割と高額な依頼である。ニュービーの冒険者たちがその依頼を受けていた。


「おい、ふざけんな! それ、上から数えた方が早いくらいに高い酒じゃねえか!?」


 安酒だけだと言ったにも関わらず、冒険者たちは次々と高級な酒やつまみをライルのつけで注文していく。確かにこれなら高額でバイトを雇っても、ギルド側はかなりの黒字になりそうだ。


 S級冒険者であるライルの文句もアル中どもには効果が薄いらしく、連中は容赦なく高い酒をどんどんと注文し始めた。それを見ていたライルは酒で顔を赤らめるどころか、みるみる蒼褪めていく。


「ぐぅ!? 金を貯めて、どっかでゴーレム購入しようと思ってたのにぃ……!」

「アンタの財布から、ここのお金出してよね?」


 墓穴を掘った兄に妹はとことん容赦がなかった。


「おう! 兄ちゃんたちもライルと一緒に戦ったんだってなぁ!」

「お前らすげえな! 見ねえ顔だが、どっから来たんだ?」


 酒臭い冒険者たちが俺たちにも絡んで声を掛けてきた。


「バーニメル半島からだ。エイルーン王国って所から来た」


 俺もほどほどに酒を飲みながら質問に答えていく。


「「「バーニメル半島!?」」」

「そりゃあ、かなり珍しい所から来たなぁ……!」


 驚きこそされたが、別に田舎者だとか俺たちを侮っている風には見えなかった。ここは連合国と比べて随分と居心地が良さそうだ。


 美人である佐瀬や名波にも男たちが多数寄って来た。その中にはやはり悪さをする者もいたようで、彼女らに無体を働こうとした愚か者は全員、佐瀬の【ライトニング】で強制的に眠らされてしまっていた。


 ギルド長指示で気絶した馬鹿たちを他の冒険者たちが外へと引きずっていく。


「おい! 彼女らに手を出すんなら竜に挑む気でやるんだな!」

「この四人は私たち抜きでS級の雷竜を倒した実力者なのよ?」


 カーター兄妹が忠告すると、それを聞いた冒険者たちが目を見開いて彼女らを見ていた。


「うへぇ!? 俺、手を出さなくてよかった……」

「サセちゃんって言うのか……。綺麗だなぁ……」

「ナナミちゃんも可愛いし……羨ましい……!」

「ハーレムパーティで、しかも強いだなんて……っ! 畜生! 酒だー! 酒、持ってこーい!」



 どんちゃん騒ぎはライルの宣言通り、朝まで続けられた。








「うー、頭痛いよぉ……」

「はいはい。【キュア】」


 俺は悪酔いでダウンしているパーティメンバーや冒険者たちを次々と癒していった。


 さすがにこのまま放置では、冒険者ギルドも機能不全に陥るだろう。それを見ていたギルド長が安堵していた。


「おお! すっげー効くなぁ!」

「ええ。是非イッシンを“双炎”パーティに迎え入れたいわ!」

「酔い覚まし要員で勧誘されてもなぁ……」


 リンネの誘いに俺は苦笑で応じた。


「私は本気よ? イッシンだけじゃない。他の三人も欲しいわね!」

「ああ! そうなったら大陸一の冒険者パーティになるのも夢じゃねえ!」

「二人なら、俺たちが居なくても一番になれるだろ」


 その若さで既にS級なのだ。十分手の届く夢だと思うのだが……


「んー、俺たちも頑張ってはいるんだけどなぁ……」

「何時まで経ってもディオーナさんに勝てる気がしない……」

「……きっとあの婆さんが引退したら一番になれるさ」


 自分で言っていて、それも望み薄なように思えた。あの人、生涯現役でずっと冒険者やってる気もするな。




 結局、二人のステータスがどの程度の数値なのかは不明だが、会話の内容からディオーナ婆さんより下だというのは推察できた。


 シグネは何度もステータスを盗み見ようとトライしていたらしいが、思いの他二人のガードが堅かった。遂には酔った勢いでシグネが「鑑定させて!」と二人に直談判しに行った。


 それを聞いたリンネが「良いわよ?」と言った瞬間……何故かシグネは盛大に噴き出した。お腹を痛そうに抱えながらゲラゲラ笑い転げていたのだ。


 どうも二人は偽装系スキルかマジックアイテムで、俺たちみたいにステータスを自由に弄れるみたいだ。それで相当おかしなステータスでも見せられたのか、笑い上戸のシグネがヒィヒィ言いながら爆笑して撃沈した。



 そうそう。ステータスと言えば、もう一つ挙げておくべき事柄があった。


 それはシグネが撃沈する少し前の話である。






「ルミねえ、魔法スキルを習得してる!?」

「「「ええええええっ!?」」」


 これには俺たち“白鹿の旅人”一同が声を上げて驚いた。


「ほ、本当……? 嘘じゃないよね? 酔ってデタラメ言ってるんなら、9階層に放り込むよ!?」

「こ、怖い! 怖い! ルミねえが怖い!?」

「留美、落ち着きなさい!」


(いかん! あまりの出来事とお酒の勢いで名波が壊れ始めた!?)


 なんとか名波を落ち着かせ、シグネが再び鑑定結果を彼女に伝えた。


「うん! 間違いなく魔法系スキルを習得してるから、多分今なら最下級魔法くらいは扱えるんじゃないのかな?」

「や……やったああああああああっ!!」


 突如泣きながら大喜びする名波に冒険者たちは一瞬驚いたが、事情も知らない連中も含めて盛大に彼女を祝い始めた。


「よく分からんが、おめでとう嬢ちゃん!」

「良かったな、嬢ちゃん! なんか知らんけど……」

「うえーん!! ありがとおおおおっ!!」


 名波は号泣しながら酒を一気飲みし始めた。


「あー、あれは絶対酔い潰れるわ……」


 醜態を晒している親友に佐瀬はげんなりしていた。


「でも、良かったよ。これ以上一人だけ魔法を習得できない状態が続いていたら、何時か名波、闇落ちしそうだなぁって思ってたんだ」


 最近、俺たちが魔法談義をしていると、名波一人だけが離れた場所からこちらを妬ましそうに見ていた……ように思えた。ダークサイドの気配を感じていたのだ。


「あはは、まさかぁ……」


 俺と佐瀬は冗談言い合いながら酒を楽しんでいた。


「それで、結局留美のスキルはなんだったの?」


 そういえば、まだ肝心のスキル名を聞いていない状態であった。シグネの言いようだと、どうも魔法系の適性スキルのようだが……


「うん! 【闇魔法】を習得してたよ!」

「「…………」」


 名波の闇落ちは既定路線だったようだ。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


別作品

「ハードモードな異世界を征け!」

https://kakuyomu.jp/works/16818093072862247555


こちらは当面、毎日21:00更新しております


現在第三章突入!


ぜひ一度お読みください!

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