第151話 クレイヤードの守護者たち

 ”クレイヤードダンジョン”6階、推定Aランクの守護者がいる部屋に入ると、中に待っていたのは蜘蛛の魔物であった。


 ただし、名波とシグネが予想したアーススパイダーではなかった。


「「「アラクネ!?」」」

「また半人の魔物!? キモっ!」


 佐瀬一人だけ反応が違った。


 ファンタジーでよく登場する女性の上半身が融合した蜘蛛の化物アラクネだが、ハーピーと一緒でやはり不気味な外見をしていた。蜘蛛の部分も気色悪いが、人の部分はそれ以上である。長い髪で顔が隠されているが、その隙間から大きく横に開かれた口と、眼球部分がくり抜かれていた漆黒の目がチラリと見えた。


(アンデッドよりこえぇ!?)


 しかも、そこにいるのはアラクネだけでなく、巨大なアラクネより一回り小さな大蜘蛛と、それより更に小さい蜘蛛型の魔物が数匹いた。


「確か……女王の護衛のソードスパイダーとソルジャースパイダーだ!」

「全部で9匹か……!」

「雑魚から間引くよ!」

「おーけー!」


 今更、大きく不気味なだけの蜘蛛相手で臆する俺たちではない。こちとら正真正銘の化物蜘蛛と対峙した経験があるのだ。


 佐瀬は一番サイズの小さな蜘蛛から一匹ずつ、確実に魔法で倒していった。数が多いと面倒なのでそれが正解だろう。


 名波とシグネは護衛蜘蛛の中で一番大きい2匹の相手をしていた。あれが噂のソードスパイダーに違いない。足が剣のように鋭く、多脚攻撃が厄介なBランクの魔物だが魔法を一切使わないらしい。二人は一本一本脚を斬り落としながら相手の力を削いでいった。


「お前の相手は俺だ!」


 単身でAランクのアラクネを相手する形になってしまったが、時間を稼いでいれば仲間が応援に駆けつけてくれる。


 女王と守らんとする小型の蜘蛛、ソルジャースパイダーをあしらいながら、俺はアラクネと対峙した。


 キシャアアアアッ!


 蜘蛛と人の部分、両方の口から叫び声を上げながら、前脚で俺を攻撃してきた。


(速い!? 速度はアーススパイダー以上だな!)


 だが硬度はそれほどでもなく、容易く前脚を斬り落とした。


 すると奴は一度背後に跳躍し、なんと人型の掌から魔法を放ってきた。


(そっちも攻撃すんのか!?)


「これは……光魔法か!」


 魔物が光属性を使ってくるのは珍しい。恐らく【セイクリッドランス】と呼ばれる中級の光の槍魔法だ。それを避けている間に、アラクネ上部は再び魔法を発動させた。すると、斬り落とした筈の脚がすぐに修復されていった。


「回復魔法まで使うのか!?」


 しかも、護衛である蜘蛛たちにも回復魔法を与えていた。


 そこで俺は守勢から攻勢に転じた。


「させるかよ!」


 光の槍魔法を避けつつ、アラクネの脚を斬り落としていく。


 キシャアアッ!?


 やはりアーススパイダーほどの硬度は無い。こいつは大群で尚且つ後衛にいると活きるタイプと見た。ダンジョン内のボス部屋という狭いロケーションが幸いし、奴にこれ以上の逃げ場はない。


 結局、仲間の応援を待たず、俺一人でアラクネを倒してしまった。




「ぶー! 私もアラクネと戦いたかったなー!」

「悪いって……。でも、思ったより弱かったな」


 シグネを宥めつつも、俺はそう感想を述べた。


「実際、野生よりダンジョン産の方が弱いらしいぜ? 高ランクの魔物ほど、その傾向にあるようだな」

「へぇ……」


 薄々そうではないかと思っていた事実をライルが教えてくれた。


「個体にもよるけどな。生まれたての魔物は弱いし、長い間生きている奴は強い。まあ当然だよな」

「それにダンジョン産の魔物は行動もワンパターンなのよね。慣れてくると魔法もかなり当てやすいわ」


 カーター兄妹のダンジョン談議を聞きながら宝箱を回収し、俺たちは7階へと上がった。


 ちなみに宝箱からはアダマンタイト製の大盾が出てきた。


(盾は使わないんだよなぁ……)


 ゴーレム君に持たせるか、加工して別の武具の素材にするか悩みどころである。




 7階まで上がると、俺たち以外の冒険者は皆無であったが、驚くことにギルド職員と兵士が一人ずつそこにいた。


「お? 珍しい。今日は挑戦者がいるのか?」


 兵士がそうぼやく。


 前の組の挑戦者たちは軒並み転移陣で引き返したらしく、ここまで上がってくる者は珍しいのだろう。


「って、なんだ。ライルにリンネじゃねえか」

「よお! グラッツの旦那!」

「ご無沙汰ね!」


 カーター兄妹は兵士と顔見知りのようだ。ギルド職員の方とも面識があるみたいで軽く挨拶をしていたが、二人は特にグラッツという中年兵士の方と親しいみたいだ。


「紹介するぜ。王国兵のグラッツさんだ。俺の槍の師匠だな」

「よせよ! ガキの頃に軽く教えただけだろうが。今じゃあお前には逆立ちしても勝てねえよ!」


 照れ臭そうにするグラッツ氏だが、ここに居る時点で少なくともアラクネたちのいる部屋を突破したという事だ。結構な実力者なのだろう。


「今日は誰も挑戦してねえのか?」

「まあな。今日どころか、ここ一週間は暇なもんよ……。あー、早く王都に帰りてえ……」


 どうやらダンジョン内の管理は当番制らしく、彼は何と二週間もこのダンジョンに通い詰めているらしい。


 ちなみにここのダンジョンは、朝6時から夜6時までの営業? だ。彼らは早朝からわざわざダンジョンを登り、定時まで各配置場所で見張っているそうだ。


「わざわざそこまでするんですか?」

「ああ、王宮の方針でな。優秀な冒険者を育てる為、無茶する阿呆を止めるのが俺たちの任務だな」


 国の方針には、どうもカーター兄妹も関係があるようだ。自国からSランク冒険者が誕生するのは国の自慢にもなるそうで、二人がSランク認定されたのを転機に、王が冒険者育成に注力するよう働きかけたみたいなのだ。


「お前らの所為で俺が忙しいんだぞ!」


 そう文句を言う割に、彼の表情は明るかった。


「……ところで、お連れの4人はB級冒険者のようですが……大丈夫ですか? 次はSランクが相手ですよ?」


 ギルド職員が不安そうに伺った。


 どうやら先の事情もあって、そう簡単に冒険者に死なれては立場上彼らも困るらしい。


「こいつらなら問題ない。ここに来るまで俺らは一切ノータッチだからな」

「ええ。4人とも、Sランクの討伐経験はあるみたいよ」

「なんと!?」

「おいおい、なんでそれでB級なんだよ……」


 職員が驚き、グラッツさんは呆れていた。


「あー、まだ実績不足でして……」

「ちなみに、ここを突破したらA級昇級の推薦って頂けます?」


 駄目元で佐瀬が尋ねてみると、職員は少し思案していた。


「うーん、どうでしょう。でも間違いなく実績にはなりますので、攻略後は支部長に掛け合ってみてください」

「この部屋に入って無事生きてダンジョンを出られたら、それでSランクのボスを討伐した証明になる。ただライルとリンネが一緒だと、それも微妙かもなぁ……」


 グラッツ氏の言は的を射ていた。このまま6人で部屋に入っても、カーター兄妹のお零れと思われるからだろう。


「……二人とも、悪いけどここの部屋も俺たちだけで挑戦させて貰えないか?」

「おう、いいぜ」

「それと……部屋の扉を閉じてもらう事ってできるか?」


 俺の提案に、グラッツとギルド職員が難色を示した。


「おいおい。それじゃあ危ない時、救援に行けねえぞ?」

「危なくなったら自力で逃げますよ。それくらいはできると思いますし、色々と切り札を使う事になるのでね……」


 最悪、俺のチート【ヒール】が火を噴くかもしれないのだ。目撃者は極力減らしたい。


「良いと思うぜ? お前らなら大丈夫だろう」

「そうね。私たちはこのまま待っているわ」


 カーター兄妹は一切焦る様子を見せなかったので、それで信用したのかグラッツたちも了承した。


 今回はさすがに敵情視察を行う。


「うわ! ここでドラゴンかぁ……」


 島で見た火竜より二回りも小さいが、それでも随分巨体なドラゴンであった。そのドラゴンは四足を地に着け待ち構えていた。巨大な背中には大きな羽もあるが、ボス部屋はそこまで広くないので、空中戦が無い事を願いたい。


 この中で一番遠距離攻撃が不得手なのは俺なので、飛ばれると正直困ってしまう。


「あいつは雷竜よ。雷の加護を持つ竜ね」


「うげっ!? 同属性か……」

「ラッキー♪ 雷ならどんとこい!」


 佐瀬と俺の反応は真逆であった。


 同属性だと多少効果が減少するので、佐瀬の雷魔法が利き辛い。対して俺は佐瀬の魔法を喰らっていた影響からか【属性耐性(雷)】スキルを習得しているのだ。闇属性の次に相性の良い相手かもしれない。



 俺たちはボス部屋に突入する前、光魔法【セイントガード】や雷魔法【サンダーバリアー】などの防御魔法、速度上昇の効果がある風魔法【シルフィーム】を互いに掛けてもらう。名波は【五感強化】スキルの準備をし、事前に強化バフを行なえるだけ行った。


「おし! 行くぞ!」

「ええ!」

「うん!」

「おーっ!」


 俺たちがボス部屋に突入すると、グラッツたちは打ち合わせ通りに扉を閉めてくれた。これでチート使いたい放題だ。


 雷竜は既に迎撃態勢に移っていた。


「まずは羽からがお約束だよね!」


 飛ばれると困るので、名波が破魔矢……”精霊の矢筒”から取り出した必殺の矢を打ち放った。


 グァアアアッ!?


 光属性のアホみたいな魔力が籠められた矢は有効だったらしく、右翼の根元に大きな傷を負わせられた。


 お返しとばかりに、雷竜が吠えながら帯電し始めた。


「来るぞ!」

「っ!? 上!!」


 佐瀬の警告に、全員がその場から散って、頭上から落ちてきた雷を躱した。


 名波より早い反応を見せた佐瀬だが、恐らく普段から雷魔法を使っている分、敵の初動で魔法の種類を見抜いたのだろう。


 俺は近づかないとどうしようもないので、落雷を躱した後、ひたすら雷竜の方へと走り続けた。


 すると奴は口を大きく開いた。口内には先程以上の雷がほとばしっている。


(まずっ!? ブレスか!?)


 回避しなきゃ――――と、思った時には、既に俺の身体に電撃の光線が浴びせられていた。


「か、はぁっ!?」


「イッシン!?」


 一瞬、視界がブラックアウトしかけたが、佐瀬の叫び声に正気を取り戻し、急いで全力ヒールを行使する。


(ぐっ!? 直撃、したのか……? 気付いたら被弾していた……!)


 威力は件の火竜より数段も劣るが、その分ブレスの弾速が半端なかった。さすがは最速の魔法、雷属性だ。【属性耐性(雷)】スキルがなければ危なかった。


 すぐに復帰して立ち上がり、状況把握に努める。


 佐瀬は雷魔法でひたすら雷竜をけん制していた。全くダメージが無いわけではないようで、ドラゴンは佐瀬の攻撃を煩わしそうにしていた。


 名波は俺が抜けた穴を埋めるべく、シグネと共に近接戦闘を試みているものの、攻めあぐねている状況だ。あれ以降ブレスは撃ってこないものの、周囲に放電をまき散らしているので至近距離には近づけないのだ。


「悪い! 俺が前に出る! 名波とシグネは遠距離か死角側に回ってくれ!」

「大丈夫!?」

「ああ! もう無様な真似はしない!」


 ブレスがくる前のモーションはバッチリこの目に焼き付けた。回避は無理でも耐えることは可能そうなので、そうと分かればもう怖くはない。後はひたすら雷に耐えながら近接戦闘を心がければいいだけだ。


 だが、さすがにSランクというべきか、雷竜は雷魔法無しでも強敵だった。ワンランク下のアラクネとは比較にもならないパワーと厚い皮膚に覆われており、奴の爪や牙での攻撃に俺は苦戦を強いられた。


 おまけに近接戦闘をしながらでも奴は絶えず放電し続けられるのだ。


「ぐっ! ちょっとは省エネしろや! 電気トカゲ野郎が!」


 グルウウッ!!


 それでも何とか奴の硬い皮膚に傷を増やす事は出来た。嬉しいことに俺の愛剣、ノームの魔剣は土の加護を持つ剣なのだ。頑丈さもさることながら、雷属性とはすこぶる相性がいい。剣に魔力さえ籠めれば、例えSランクドラゴンの皮膚と言えども防げないみたいだ。


 グアアアッ!?


 奴は俺を一番の脅威と見做したのか、足元に居るこちらへ注視するようになった。


 だが、そんな隙を見逃す程、俺の仲間たちは甘くない。


 再び弓に持ち替えていた名波がドラゴンの左目に矢を射たのだ。


 ギャアアッ!?


 本日一番の悲鳴を上げ、雷竜は残された右目で名波の方を睨みつけた。


「隙ありぃ!」


 名波の射撃に合わせて、背後にまわっていたシグネが傷ついていた右翼を完全に斬り落とした。


 再び竜が悲痛な叫び声を上げる。


 この勢いで俺は竜の首を狩ろうと迫ったが、クールタイムが終了したのか、奴は再びブレスを放とうと首を下げ、口を大きく開いたのだ。


 そこへ絶妙なタイミングで佐瀬が雷魔法【サンダーボルト】をドラゴンの横っ面へと叩き込んだ。


 ガアッ!?


 ありったけの魔力を籠めた魔法だったが、効果はそれほどでもない。ただし、僅かに奴の首が動き、お陰でブレスの射線がズレた。


「もらったああ!!」


 ブレスをギリギリ避けられた俺は跳躍して、雷竜の首へノームの魔剣を叩きつけた。


 グオオオオオーン!!


 もはや悲鳴に近い声を上げた竜は、首から血を流しながら暴れ回った。首を切断するまでには至らなかったが、かなりの致命傷を負わせられた。



 そこからは名波とシグネも近接戦に加わり、雷竜のあちこちを斬りつけて最後に俺がとどめを刺した。






「あぅぅ……、まだビリビリするぅ……」

「髪が少し逆立ってるね……」


 雷竜は絶命する瞬間まで周囲に放電し続けていたので、どうしても雷を身に受けながら我慢して戦うしかなかった。


「あ、でもお陰で【属性耐性(雷)】を覚えたみたい!」

「え? いいなぁ。私は?」

「んー、ルミねえはまだみたい」


 俺とシグネの二人は佐瀬のライトニングでしょっちゅう折檻されているからな。その差だろう。


 ここでじっくりステータス確認を行いたいところだが、カーター兄妹を待たせているのであまり時間がない。それに何時また雷竜がリスポーンするか分からないのだ。


 俺は入り口まで戻って扉を開けた。


「倒したぞー」


 扉を開いてそう告げると、グラッツとギルド職員がギョッとした。


「マジか!? こんな短時間で……!」

「本当に、倒したのですか!?」


「ええ、完勝とはいきませんでしたが……」


 でも、もう一戦くらいしても勝てそうな余力はある。同じSランクの魔物でも、デスペラーレイスよりは弱そうに思えた。


「さすがだな!」

「思ってたより随分早いわね。それに全然平気そうだし……」


 余裕そうな俺たちの様子にリンネも驚いていたが、これは二人が俺のチート【ヒール】を知らないからだろう。それがなければ放電をくらった名波とシグネは未だに呂律が回らない状態だった筈だ。


「早く行こうぜ? 雷竜、復活しちまうぞ?」


 もう既に宝箱とドロップ品も回収済みだ。


 また大盾が出たのだが、なんとマジックアイテムのようなのだ。ドロップ品は雷竜の鱗を手に入れている。当然魔石も一緒に落ちていた。



 拾う物も拾ったことだし先を促したのだが、カーター兄弟は立ち止まったままだ。


「ああ、俺たちも雷竜と戦おうと思ってね」

「私たち全く戦ってないから、ここで肩慣らししておきたいのよ」


 ここより先の8階はSSランクの魔物が出る筈だ。いくらS級冒険者の二人でも生半可な相手ではないのだろう。


 しかしSランクの竜を相手に肩慣らしとは……さすがである。


「おい、待て。肩慣らしって、お前らまさか……8階に挑戦するつもりか!?」


 グラッツが問い質すとライルが頷いた。


「ああ、久しぶりのリベンジだ。イッシンたちが一緒なら、やれると思うんだが……」

「そ、それは……そうかもしれねえが……」


 どうやらカーター兄妹も8階の守護者には手を焼いているようだ。


 お喋りをしている間に雷竜が復活してしまった。


「ちょっと!? どうするのイッシン!?」

「わわわわっ!」

「ひぇ~!」


 中で三人が悲鳴を上げながら戦っていた。


「あ、いけね。とりあえず、あいつを一旦倒すぞ」

「ええ、そうね」


 何事もないかのように二人が話すと、ライルは颯爽と雷竜の足下へと踏み込んだ。


「は、はや!?」


 気が付いたらライルの槍は既に雷竜へ突き刺さっていた。


 グアアアッ!?


「はい、はい。ブレスでしょう? ワンパターンなやつね」


 そう言いながらリンネは火魔法を放った。大きな火の玉は雷竜が丁度大きく開けた口の中に入り込み、直後大きな爆発を引き起こして竜の頭を吹き飛ばした。


 どうやら二人は散々雷竜と戦っていたのか、相手の行動を完全に把握しているみたいだ。


「うわ、瞬殺……」

「つよ……」


 改めて、S級冒険者の凄さを目の当たりにさせられた。


「お、宝箱が出てるじゃねーか!」

「ラッキーね!」


 俺たちは二度目の雷竜戦でドロップ率が下がっている筈だが、それでも運よく宝箱が出たみたいだ。


「これはさすがにライルたちがもらってくれ」

「ん? そうか?」

「ありがとう」


 中には剣が入っていた。恐らく魔剣だろうが、俺にはノームの魔剣があるので今は十分だ。


「うし! それじゃあ早速8階に行こうぜ!」


 ライルの号令で俺たちが先へ進もうとすると、グラッツがそれに続いた。


「待て! 俺も一緒に行く! 証人がいた方が、お前たちも都合が良いだろう?」

「え? 持ち場を離れて大丈夫なのかよ、旦那……」

「ああ、一人残っていれば問題ないしな」


 ギルド職員も頷いていた。どうやら二人で相談して決めたみたいだ。



 こうして俺たちは7人揃って8階層へと上がった。そこには当然、待っている者など誰も居なかった。


「ちょっと休憩させてくれ。それと準備もしたい」

「ああ、勿論いいぜ」


 ライルに断りを入れた俺たちは先ほど消耗した魔力の回復に努めた。


 俺は兎も角、佐瀬はまだ全回復していなかった。


 その間に扉を開けて中の様子を探る。


「……あいつが、SSランクの守護者か」


 一目見てあれが何なのか分かった。超メジャーな魔物が待ち構えていたものだ。


「ああ。あいつの強さは雷竜の比じゃねえぞ?」

「今まで、まだ誰も倒した事が無いの」


 つまり現時点では俺たちもここのダンジョン攻略の最高記録タイというわけか。


「あれだと手数が要るな……ゴーレム君を出すか」

「あん? ゴーレム……?」


 不思議そうにしているライルたちを余所に、俺たちはマジックバッグから秘密兵器ゴーレム君を登場させた。


「な!?」

「ゴーレム!?」

「結構でかいぞ!?」


 グラッツが臨戦態勢を取ったので、俺は慌てて彼を止めた。


「大丈夫です。こいつは俺たちの味方ですから」

「とっても賢いし強いんだよ!」


 ゴーレム君を起動させて、無害である事をアピールする。


 俺たちの言う通りに動く彼を見て、ようやくグラッツも落ち着きを取り戻したようだ。


「こんな代物が存在するとは……」

「ここまで高性能な人造ゴーレム、見た事ないわ……」

「まさか……発掘品か?」


 これにはS級冒険者の二人も驚いていた。俺が作ったと明かすと更にビックリしていた。


「なあ、これって売ってたりしねえか?」

「ゴーレム君は売り物じゃないよ!」

「欲しかったのに…………」


 少数で活動する冒険者にとって、命令通りに動くゴーレムは垂涎ものだろう。リンネは心底残念そうにしていた。


 俺はゴーレム君に命じて扉の先にいるボスを観察させた。事前に情報を叩き込ませる為だ。


「なあ、あれはどの程度の戦力になるんだ?」

「んー、Aランク上位の魔物くらいかな? 相手次第ではSランクでも対抗できる」

「ますます欲しい!!」


 あげないよ? 非売品だよ?


「ただ、水属性には少し弱いな。風属性には強い」

「火属性よりのゴーレムな訳ね。でも、それだと少し厳しいかも……」

「あいつ、多分水の加護持ちだぞ? リンネの火魔法が利き辛いんだ」

「げぇ……」


 それは厄介だが、その分佐瀬の雷が活躍できる訳か。



 俺はライルたちからボスの情報を聞きながら作戦を考えた。

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