第149話 世界最弱

※一部訂正のお知らせ


ディオーナ・メイスンのステータスが闘力30万以上という会話をしてしまいましたが、現時点でのシグネによる鑑定スキルでは”99,999"と10万以上は視れない仕様です。


よってその部分を訂正しておりますが、ディオーナ婆さん自身の力は変更ありません。

既にここまで読んでいる方はこのまま読み進めてもらっても問題ございません。


ご指摘してくれた方、どうもありがとうございます。

読者の方も、混乱させて大変申し訳ございませんでした。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 今夜はこの港町の宿で泊まることにした。風呂付きでトレイも個別にある。提供される食事も海の幸が多く使われ味も文句なし。俺たちは大満足であった。


「うん……かなり良い宿ね」


 名前も分からない焼いた貝を食べながら佐瀬がそう評価した。


「そうでしょう? 私たち兄妹もこの港町に来たら、必ずこの宿を利用するのよ」


 佐瀬の言葉に返答したのはリンネである。



 ギルドでひと騒動起きてから俺たちはカーター兄妹と行動を共にしていた。原因はシグネだ。彼女の披露した【エアーステップ】にリンネが強い興味を示したのだ。


 そこから話が弾み、俺たちがこの町に来たばかりなのを知るとカーター兄妹がこの宿を紹介してくれたのだ。


「へぇ、お前らはバーニメル半島から来たのか!」

「ディオーナさんと同じ出身地ね。半島人と出会ったのはあの人以来だわ」

「二人はディオーナお婆ちゃんを知ってるの!?」


 シグネが尋ねると二人とも頷いていた。


「ああ。かなり前にだが、一緒に依頼を受けたな」

「口煩い人だったけれど、お陰で良い勉強になったわ」


 まさかこんなところで縁があるとは思いも寄らなかったが、トップクラスの冒険者同士、そういったコネクションがあるのかもしれない。


「なあ。バーニメル半島出身なら、”氷糸界”カルバンチュラは知っているか?」

「カルバ……なんだそれ? 氷糸界なら勿論知っているが……」


 そんな名前は初耳である。


「ライル、あいつの名前は決まったばかりだから、まだ四人とも知らないはずよ。貴方たちの故郷バーニメル半島から出没したとされる氷蜘蛛が、正式に災厄認定されたのよ。名前も新しく付けられて、”氷糸界”カルバンチュラって命名されたわ。推定討伐ランクはSSSね」

「本当!?」

「うわぁ、トリプルSかぁ……」


 うん、妥当だと思っている。S級冒険者含めた討伐隊でもどうしようもなかったらしいので、ギルドもいよいよ災厄認定に踏み切ったらしい。


「つまり、これからは”八災厄”ってことになるな。俺たちも討伐隊に駆り出されて一当たりしたんだが……呆気なく返り討ちにされちまった……」

「ええ、あんな化物と関わるのは金輪際ごめんよ……」


 どうやらあの氷蜘蛛、カーター兄妹にもしっかりトラウマを植え付けてくれたようだ。


『ねえ、イッシン。この二人ってもしかして……』


 佐瀬が念話で語り掛けてきた。彼女の言いたい事は何となく察せられる。


『ああ。前に話した、蘇生させたS級冒険者の内の二人だ。ノーヤの姿では一度会っているが、俺とは初顔合わせだから、三人ともそのように振舞ってくれ』


『はーい』

『了解であります!』


 元気の良い返事だが、シグネちゃん、本当に大丈夫?


「”氷糸界”は俺たちも会った事あるが、そんなに手強かったのか?」


 会ったどころか、実際に戦闘までしている。S級冒険者視点ではどうなのか気になって尋ねてみた。


「ああ、とんでもねえ化物だ。結局傷一つ負わせられずに殺された……あ、いや……殺されかけた」

「私の魔法も全く通用しなかったわね。そもそも私の得意属性が火だから無理があったんだけど……あれは属性がどうのという次元じゃあなかったわ」


 ちょっと意外だ。


 いや、彼らの攻撃が通じなかったのは想定済みだが、それをわざわざ他の冒険者に暴露するのが不思議であった。上の冒険者ほどプライドが高い者も多く、少しでも自分たちを強く見せようと見栄を張って弱みを見せないように振舞うのが普通だ。


 だからS級冒険者という頂点の存在である二人がB級冒険者の俺たちに弱音を吐く姿を意外に思ったのだ。


 佐瀬たちも同じ気持ちだったのか不思議そうな顔で話を聞いていると、俺たちの心情を察した二人が理由を教えてくれた。


「幻滅したか? S級冒険者と言っても、所詮はこんなもんさ」

「ええ。どうしたって勝てない存在はいる。貴方たちも知ってるんじゃない?」

「…………ああ、そうだな」


 それに関しては全く持ってその通りだと心の底から同意した。


「ダンジョンに籠ってひたすら奥へ目指すと、嫌でもそんな存在にはぶち当たっちまう。ほとんどの上級冒険者はそれを経験している筈なんだが……妙に自信過剰な馬鹿どもが多い……」

「S級だからって、勝てないものは勝てないのよ! それをあいつらと来たら、陰でこそこそと……!」


 酒も入った影響か、二人の話は徐々に愚痴も混じってきた。


 どうやらカーター兄妹が”氷糸界”カルバンチュラの討伐任務に失敗した事実は、冒険者たちの間でも広がり始めているらしい。普段S級冒険者として持てはやされている二人だが、それを快く思わない者たちも多く、この機に乗じて色々と陰口を叩いているそうなのだ。


「オリハルコンの槍でも傷ひとつ付かない相手にどうしろってんだ! ちきしょうが……!」

「【エクスプロージョン】を直撃させたのに、ケロっとしているのよ!? 信じられる!?」

「あー、はい……」

「そうですねぇ…………」


 気持ちは分かる、痛いほど良く分かる。何故ならここにいる俺以外の全員が一度奴に殺されているし、俺自身も苦汁を嘗めさせられた。


 聖女ノーヤの時に蘇生魔法の事は極力内緒にするようお願いしておいた為か、二人は殺されて蘇生された件については一切話さなかった。だがそれが却って、二人が氷蜘蛛に臆して逃げ帰ったのではないかという噂に拍車をかけてしまっているらしいのだ。


 そんな二人の愚痴は酒で寝落ちするまで続けられた。






 翌朝、食堂で二人と再会したが、兄妹は二日酔いで頭を痛そうにしていた。


「あー、だるぅ……」

「気持ち悪い…………」


「……大丈夫か?」


 不憫なので軽く【キュア】を掛けてやった。


「お? おお!? すげぇ……一発で治った!」

「二日酔いって【キュア】でこんなすっきり治るものなのね」


 どうだろう? 俺のチート【キュア】だけかもしれない。




 改めて六人で朝食を取りながら、雑談に花を咲かせた。


「……へぇ、火竜退治の為の武者修行ねぇ」

「火竜は空を飛ばれると厄介ね。あいつ、強かったなぁ」


 カーター兄妹は別の火竜と戦闘経験があるらしい。しかもキッチリ討伐したそうだ。さすがはS級冒険者だ。


「本当は二人も誘えれば良かったんだけど……」


 佐瀬の言う通り、二人は助っ人として考えれば最高の戦力だろう。


 だが、ここで一つ問題がある。


 それは実に下らない問題なのだが、火竜討伐の指名依頼を受けたのがディオーナ婆さんである理由の背景だ。わざわざA級冒険者のディオーナ・メイスンを指名したのは、件の火竜がギルドの工作によって討伐難易度Aランクとされたままだからだ。だが実際はもっと強い個体であった。


 別にギルドの事情を一切省みず、堂々とS級冒険者を投入して派手に討伐しても良いとは思うのだが、それでギルド側や獣王国側から不興を買うのはディオーナ自身なのだ。それはちょっと面白くない。


 ここは大人しく、相手がAランク相当の魔物という事情を踏まえた上で、慎ましい戦力で臨むのが最良だとディオーナが判断した。だからこそ彼女は俺たちB級冒険者に声を掛けてきたのだ。


 そうでなければ顔の広い婆さんのことだ。知り合いだというこの二人もきっと誘っただろう。



「話を聞く限り、婆さんの考えもイッシンと同じだろうな」

「ま、私たちは既にドラゴンスレイヤーの称号を得ているからね。今回は貴方たちに譲るわ」

「……そうだな。相手が“氷糸界”ならともかく、火竜なら何とかなるかな」


 本心では、火竜を倒したら「今度は氷糸界テメエの番だ!」と言ってやりたい気分だが、俺が”氷糸界”を倒せるようになるのはまだまだ先の話だろう。


 その前に何処かでくたばらなければ、だが……


「そういうことなら丁度良い! なぁ、イッシン。これから俺たちと一緒にダンジョンに行かないか?」

「ダンジョン?」

「やっぱりこの町にもダンジョンがあるの?」


 シグネが身を乗り出して尋ねるとリンネが頷いた。


「ええ、そうよ。”クレイヤードダンジョン”って言うんだけど……知らないの? てっきりそこ目当てでこの町に来たんだと思っていたけれど……」


 カーター兄妹曰く、この町に冒険者が多い理由は大半がそのダンジョン目当てで来ているからだ。そこは階層型ダンジョンらしいのだが、一風変わった方式のダンジョンらしい。


 その話を聞いたシグネが案の定食いついた。


「行ってみたい!」

「私もー!」


 シグネだけでなく名波も好奇心を掻き立てられたようだ。


 特に反対する理由も無いし、寧ろS級冒険者と探索する絶好の機会だ。


「ああ、俺たち”白鹿の旅人”も参加するよ!」

「そうこなくっちゃな! じゃあ、昼からダンジョンに入るが準備の方は大丈夫か?」

「平気だ。物資はある程度用意してある」


 俺は自分の所持しているマジックバッグを指した。


「お、やるなぁイッシン。随分身軽そうだから持っているとは思っていたが……」


 S級であるライルたちも当然マジックバッグ系アイテムを保有していた。まぁ、彼らほどの存在が持っていないのもおかしな話だろう。


 聖女ノーヤでメッセンの町を救った俺は、商人ギルドの長から三つのマジックバッグを頂いたのだ。俺たちの本命は伝説レジェンド級の二つだが、こっちの貰った秘宝トレジャー級の方をダミーとして普段使いしている。


 秘宝級のマジックバッグでも相当な量を詰め込めるので、ダミーとして使うには贅沢過ぎる逸品だが、時間経過の遅延効果は伝説級には及ばないので、生モノ関連はそっちの方に納めていた。




 俺たちの準備が出来ていると知ると、さっそく六人全員でダンジョンを目指した。クレイヤードダンジョンはここからかなり近い距離にあるらしい。


 ちなみにこの地はメルキア大陸西部にあるロラード王国で、カーター兄妹の母国だそうだ。この町はクレイムといいダンジョンだけでなく漁業でも有名な港町らしい。


 クレイムだけでなくロラード王国内の沿岸部はどこも漁業が盛んだそうだ。それを羨む北の国家から何度も侵略戦争を仕掛けられている歴史を持つ国でもある。二人も若い頃には戦争に駆り出されたそうだが、今ではS級の特権を使って参加を拒否し続けているらしい。


「へぇ、S級冒険者ともなると、そんな拒否権まであるのか」

「国やその時の情勢次第だな。さすがに国家滅亡の危機にまでなったら、国も家族を人質に取ってでも俺たちに参戦を迫るだろうさ」

「私たちも故郷が大事だからね。そんな状況になったら参戦するかもだけど……」


 今現在は戦争の気配は遠ざかっているらしい。というか、各国それどころではない状況のようだ。


「最近は何処の国も内側で手一杯さ。大勢の迷い人が湧いて出てきたからな」

「え? 迷い人?」


 それは十中八九、地球人のことだろう。


「ああ、去年辺りから信じられない数の迷い人が各地で現れたんだ。バーニメル半島はそうじゃないのか?」


 まさか俺たちがその”迷い人”であるとは知らずにライルが尋ねてきた。


「いや、こっちもそれなりに出たようだが……その迷い人がどうかしたのか?」


 気になった俺はライルに尋ねた。


「迷い人にも色々な勢力があるらしくてなぁ。静かに暮らしてる奴もいれば、新国家を名乗る集団も出て来るし、怪しい宗教を始めた連中もいる。確か……女神アリス教……だったかな?」


 うん、間違いなく地球人だな。


「ロラードの西部にもチュウカ共和国……だったかしら? そう名乗る一派が領主の城や町を占拠してね。西側はそれで大騒ぎなのよ」

「北の国もサハとかロシアとか名乗る一派が内乱を起こしているらしい。だからこっちに侵略戦争仕掛けてる場合じゃないんだろうな」


『中国人にロシア人はこっちの方にも転移しているのね』

『サハって何だ? 聞き覚え無いんだけど……』

『んー、確かロシア連邦の一部じゃないかなぁ?』


 ユーラシア大陸の東部にいた人々はどうやらメルキア大陸内に転移している確率が高そうだ。しかし、転移して一年以上も経過すれば、いよいよ過激な行動に出る団体や、逆にこの世界の国から攻撃されるコミュニティなんかも増えているみたいだ。


 あちこちで騒乱を巻き起こして、最終的には全世界で迷い人狩りが始まるだなんて深刻な事態に発展しなければいいのだが……先行きがかなり不安だ。



 カーター兄妹は故郷を大切に思う気持ちはあるようだが、反面国の存続にはそこまで強い関心がないようだ。その為か、迷い人に関しても悪感情を抱いている訳ではないらしい。



「おう、もう着いたぞ」


 この辺りの情勢を聞きながら歩いていたらあっという間に目的地へ辿り着いた。なんと町から徒歩で30分も掛からなかった。


「うわぁ、冒険者が沢山いる!?」

「あれがダンジョンかな? 長蛇の列ができてるよ……」


 ダンジョンらしき場所は直ぐに見つかった。奇妙な塔が建っていたのだ。遠くから見て察するに高さは7階建てのビルくらいはありそうだが、きっと内部はもっと広いのだろう。


「あれが”クレイヤードダンジョン”だ。階層型ダンジョンだが、ここは降りるんじゃなくて上って進むタイプだな」


 確かに珍しいタイプだが、それにしても凄まじい冒険者の数だ。塔の入り口から長い列ができており、入場までにはかなりの時間が掛かりそうだ。


「一体何故こんなに人気なの?」


 佐瀬の疑問にライルが答えた。


「ここはボス部屋しかないダンジョンなんだ。しかも、リスポーン時間はたったの数分だ!」

「ええ!? 数分!?」

「ボスしかいないの!?」

「ボスラッシュダンジョンだね!」


 これは驚きの仕様である。


(とんでもないダンジョンだな。だが人が多いのも納得だ)


 ボスを討伐すると初回時にはほぼ100%ドロップ品や宝箱が出現する。二回目以降からは出現率が激減するが、それでも高価なマジックアイテムや素材が手に入る可能性があるのだ。リピーターも結構な数が居るのだろう。


 なにせダンジョンのボスは初の挑戦者を一人加えるだけでほぼ宝箱が出る仕組みなのだから。



 驚いている俺たちを余所に、カーター兄妹はサクサクと列の前の方へ進みだした。列の最後尾を素通りして進む二人に俺たちは慌てて付いて行った。


「お、おい。列に並ばなくていいのか?」

「俺たちはいいんだ。S級は並ぶ必要がない」

「ギルドでキチンと決められているのよ。ランクが高いほど並ぶ時間は少なく済むわ」

「うへぇ、さすがはS級冒険者様だ……」


 某ランドのファストパスとは違い、まさに弱肉強食なシステムである。


(あのランド、もう一度行きたかったなぁ。今頃隕石でぺしゃんこか?)


「あ! カーター様!?」

「よぉ、邪魔するぜ! 俺たちと後ろの四人、六人で挑戦予定だ」


 ダンジョンの塔入り口にはギルドの職員らしき者と兵士が立っていた。どうやらギルドと国が共同でこのダンジョンを管理しているみたいだ。


「かしこまりました。ちなみに、後ろの方たちのランクは?」

「四人ともB級だが、実力は多分A級並にあるから問題ない」

「承知いたしました。では、次の組のあとにお入りください」

「ああ」


 そのやりとりだけで俺たちの入場手続きは終わってしまった。きっと本来はもっと時間が掛かるのだろう。



 俺たちは係り員案内の元、二番目に入場予定であった者たちの前に割り込ませて貰った。


「悪いな。先に入らせてもらうぜ?」


 ライルが後ろの冒険者パーティに声を掛けると、彼らは笑顔を見せながらそれを了承した。


「ああ、アンタたちなら当然の権利だ」

「ライルさん、いよいよ8階層挑戦っすか!?」

「頑張ってください!」


「んー、調子が良ければそこまで行くかもな」

「ふふ、ありがとう」


 ライルとリンネの兄妹はやはり人気なようだ。


 氷蜘蛛討伐失敗で少し株を落としたが、それでもロラード王国唯一のS級冒険者である二人は、国内では壮絶な人気を誇るらしい。



 前の冒険者パーティも塔に入り、次はいよいよ俺たちの番となった。


「ライルさん! 頑張ってくれよー!」

「新記録、ぜひとも更新してくれー」

「きゃーー! リンネお姉さまー!!」


 本当に凄い人気ぶりだ。S級冒険者のカーター兄妹が挑戦すると知られると、列に並んでいた冒険者たちもそこから飛び出てまで二人を応援しに駆けつけていた。おまけである俺たちは二人の横で愛想笑いを浮かべ続けていた。


「す、凄い熱気ねぇ……」

「新記録、更新するぞぉ!!」


 佐瀬は若干引いていたが、シグネはやる気をみなぎらせていた。


「お待たせしました。”双炎”の皆様とお連れの方、どうぞお進みください」


 俺たちの番となり、塔に設けられている扉が開かれた。ちなみにライルとリンネのパーティ名は”双炎”だ。双子なのとリンネが得意とする炎の魔法からそう名付けたらしいが、カーター兄妹の方が知名度としては上らしい。


 塔に入ると中は大きな広間であった。内部にはギルドの人間らしき者と兵士も立っていた。それ以外はダンジョンでよく見る光景であり、左側には転移陣らしきものも床に設置されていた。そこから何組かの冒険者が戻って来ては外へと出て行く。


 どうやら一度帰還した者は再び最後尾に並び直す仕組みのようだ。


「やっぱここの転移陣の仕組みも初挑戦だと先へは飛べない感じなのか?」

「そういえば説明がまだだったな。ここの転移陣は帰還専用だ。ここはどんなに上の階層へ進んでも、戻ってきたら一から出直しになるダンジョンなんだ」

「ええええ!?」

「それは……少し面倒ね……」

「でもボスだけの戦闘なら、トータルでそんなに手間じゃないのかも?」


 確かに、迷宮の中を長時間歩かされないのなら、メリットの方が上回るかもしれない。普通の冒険者にとって、ダンジョン内での寝泊まりはリスクが高い行為なのだ。



 俺たちは話をしながら一階広場内に出来ている列に並ぶ。ここでも並ばされるようだが、外の列よりはだいぶ短くて進みもかなり早い。


「ほら、サクサク行くぞ。あそこの扉を抜けたら最初の守護者部屋だ」

「もうボス戦!?」

「楽しみだなぁ」


 あっという間に俺たちの番となり、ボス部屋の扉前へと誘導される。


 俺たち四人は意気揚々とボス部屋に乗り込んだ。


 その部屋の中央には…………小さなスライムがいた。


「……え? これがボス?」

「まさかぁ……」

「ただのスライムと見せかけて強い個体なんじゃぁ……」

「……水スライムって鑑定でるよ?」


 水スライム……見紛うことなく討伐難易度Fランクのクソ雑魚モンスターである。


「あっはっはー! やっぱ驚いたなぁ!」

「くふふ、これも立派な守護者よ。”クレイヤードダンジョン”名物、世界最弱のボスだけど……ふふっ!」

「あー、そういうこと……」


 どうやらこのダンジョン、Fランクのボスから徐々に強くなっていくシステムらしい。相手は子供でも倒せるFランクの雑魚スライムだが、ダンジョン産なだけあって健気にも俺たちへ勇猛果敢に挑んできた。


 ちょっとだけ罪悪感に駆られたが、軽く剣で突くとしぼんでから消滅した。


 ボス戦、もう終わってしまった……


「ほら、宝箱が出たぞ」

「スライムからの宝箱……ある意味凄いレアだなぁ」


 気になった俺はさっそく開けてみると、中にはドロッとした液体の詰められた瓶が入っていた。スライムの粘液だろうか?


「こいつは……」

「まぁ、スライムの報酬にしては当たりな方だ。なんでも錬金術の材料になるらしい」


 野生の水スライムは汚物などを綺麗に消化してくれることから、ギルドから益魔物に指定されており、基本的に討伐ではなく捕獲を推奨されている。その水スライムの粘液となると確かにあまり出回っていないのだろうが……


「価値にして銅貨数枚ってところだろうな」

「並んだ末に報酬がこれだけだと割に合わないな」

「奥へ進めば景気も良くなるさ。ポーション使うような大怪我さえ負わなければ、ここは確実に儲かるダンジョンだからな」


 ライルの言葉を信じて、俺たちは部屋の奥にある扉を通って階段を上った。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


別作品

「ハードモードな異世界を征け!」

https://kakuyomu.jp/works/16818093072862247555


こちらは当面、毎日21:00更新しております

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