第143話 鹿江発砲殺人未遂事件
花木を撃った下手人を追って、俺たちは森の中を走っていた。
メンバーの中で一番足の遅い佐瀬に合わせて走っているが、それでも彼女の闘力は5千近くあるのでかなりの速度が出ていた。
だが、妙な事に未だ俺の【探知】スキルでは気配を捉えることができなかった。
「ちぃ! 犯人の奴……結構早いな……!」
「え? そう? もう追いつきそうだよ?」
「え?」
名波がそう言って前方を指すと、確かに逃げている不審人物の背中が見えた。
しかし、未だ俺の【探知】には引っかからない。
「これは……まさか隠密系のスキルか!?」
「ああ、どうりでちょっと感じ取りにくいと思った……」
どうやら俺の【探知】は相手の【隠密】スキルで弾かれてしまっていたようだが、名波がこの場に居たのが運の尽きだ。彼女の探索型スキルは俺のそれより遥かに高性能なのだ。
前を走る謎の人物も逃げきれないと悟ったのか、銃らしきモノを抜いた。それを見た佐瀬が素早く魔法で対処しようとしたが、それをシグネが遮った。
「私に考えがあるんだ! 任せて!」
自信満々にそう告げると、彼女はギアを上げて単身で犯人に突っ込んで行った。
(相手は顔を隠しているけれど、これだけ長時間姿を見続けていれば鑑定は出来たはず……)
であれば、シグネは相手が取るに足らない敵だと判断したのだろう。
ここはあの子に任せてみることにした。
謎の襲撃者は足を完全に止めると、高速で迫りくるシグネに銃の照準を合わせた。
「さあ、来い!」
シグネの言葉と同時に銃は三発、彼女へと放たれた。
それをシグネは…………
「いたっ! いたっ! いたいっ!?」
…………何もせず、そのまま撃たれていた。
「「「シグネちゃーん!?」」」
三人揃っておかしな声を上げてしまった。自信満々で飛び出たにも関わらず、まさか正面から銃撃を受けるとは誰一人思ってもいなかったのだ。
ただ、痛そうにしていたシグネではあったが、どこにも怪我は負っておらず、銃弾は彼女の身体で全て弾かれてしまったようだ。
(マジか……。身体強化、すげぇな……)
これが闘力一万越えの身体能力である。
「何だ! このガキは……!?」
相手もまさか銃撃された人間がピンピンしているとは思わず、悪態をついていた。その声と体型から判断するに、どうやら犯人は成人男性のようだ。
「ふっふっふ……私に銃は効かないよ!」
「ふ、ふざけんな! んな訳ねえだろがぁ!!」
続けてもう何度か銃を放ったが、今度はシグネも受けるつもりがないようだ。高速で手を動かし、なんと弾丸をキャッチしてしまったのだ。
「「おお~っ!?」」
これには俺と名波も感心して声を発した。まるでアニメや漫画の世界のような動きだ。
「ば、馬鹿な!? 馬鹿なぁ……!!」
焦った男はムキになって銃を乱射し続けた。あの銃には一体何発の弾丸が込められているのだろうか?
だが、その連射が良くなかったのか、突如拳銃が暴発し、粉々に吹き飛んだ。
「ぐあっ!? ち、畜生……!」
武器を失った男は咄嗟に逃げようとするも、一瞬で間合いを詰めたシグネに取り押さえられた。
「もう逃げられないよ。イトウユウキさん」
「くっ!? 何故、俺の名を……!」
必死に逃げようとする男、イトウユウキというそうだが、闘力に差があり過ぎる為、シグネの拘束を解く事ができずにいた。
俺もすぐに男の元へ駆けつけた。
「さぁ、何で分かったんだろうな?」
「ちっ! 白髪のガキ……! まさかテメエだけじゃなく、他のメンバーも化物揃いだったとはなぁ……!」
「ん? お前、俺のこと知ってるのか?」
「――――っ!? ちっ、俺なんか憶えちゃいねえってのか……!」
気になった俺は男の顔を隠していた布を解いた。
そして露になった人物は……やはり覚えの無い、黒髪の青年であった。
「「「…………誰?」」」
俺だけでなく、佐瀬と名波も男の顔をマジマジと見るも、記憶の何処にも引っかからない。
「ふざっけんなぁ!! テメエら、同じ大学だっただろうがぁ!!」
「え? 鹿江大学の人?」
「でも、同じ大学ってだけじゃあねぇ?」
やはり二人とも知らないようだが、この男は俺の方も知っているようだし、この世界に来てから出会った人物だろうか?
「三人共覚えてないの? イトウユウキだよ! イトウ!」
どうやらシグネだけは覚えているらしい。
「いやぁ……。伊藤さん、一杯いるし、ねぇ?」
「というか、シグネは知っているのか?」
「うん! この人、【隠密】なんて格好いいスキル持ってたから、シノビじゃないかと思ってて覚えてた!」
「……まぁ、ヒットマンだったし、似たようなものか……」
しかし、全く思い出せそうにないので、更に詳しくシグネに聞いてみると、そこで俺たちもようやく思い出せた。
だいぶ前に、鹿江町コミュニティで悪さしていた学生たちがいた。その件について俺たちは、花木や乃木と共に鹿江大学体育会系コミュニティに赴いて苦情を言いに行ったのだ。
その時出会ったのが、当時の体育会系コミュ代表である武藤司であった。
その武藤を交えて何人かの学生たちに、町での嫌がらせ行為について問いただしたところ、一人だけ嘘を言っている人物がいるのを⦅審議の指輪⦆で見抜いたのだ。
それがこの男、伊藤友樹である。
「あれ? あの後こいつ、どうしたんだっけ?」
「確かしばらくしたら行方知れずになったって聞いた気がする」
名波が記憶を辿りながら答えてくれた。
「どうせ、テメエらだろう! 武藤の奴にチクったのは……! あの日以降、あいつの監視が厳しくなったから、コミュニティを抜け出したんだ!」
そういえば武藤に、あの嘘つきには注意するよう助言した記憶がある。
「抜け出したって……。何か監視でもされると不都合な事でもあったのかしら?」
「そ、それは……」
その問いに対して伊藤は言い淀む。
監視される生活は誰だって嫌だと思うが、この男はどうにも胡散臭い。そもそも過去の話なんか置いて、今のこいつは殺人未遂の現行犯なのだ。
「どうして花木を撃った? というか、その銃はどうした?」
「…………」
男はそれっきり黙り込んでしまった。
(うーん、本来なら【リザレクション】を活用した尋問術で吐かせてやるのだが……)
蘇生魔法を知られるわけにはいかないので、あの尋問方法は最終的に相手を殺す事を前提に行われる。ただ、今回は港町で公にされている事件なのと、宇野といった政府の人間も絡んでいるので、犯人死亡という結果は醜聞がよろしくない。
仕方がないので、男は一旦このまま拘束し、港町に戻る事にした。
町に戻ると、既に花木は目を覚ましていた。
「矢野さん、本当にありがとうございました。お陰で怪我なく生き永らえました」
「ああ、それなら良かった。災難だったな」
伊藤は乃木に引き渡しておいた。
最初は自衛隊員がいるのだから、彼らに任せようかとも思ったのだが、ここは新日本国ではないので、法律的にも干渉するのは拙いみたいだ。
「あの男はどうするんだ?」
「まだ法律やルールの統一化は行われておりませんが、しばらくの間拘留した後、コミュニティからの追放処分が妥当かと……」
「そうか。あの男、闘力はそれほどでもないが、厄介なスキルを所持していた。注意する事だ」
あいつ、【隠密】だけでなく、【的中】スキルも所持していた。射撃や投擲関連が上達する【命中】の進化スキルである。あの拳銃は粗悪品のようだが、どうりで見事な命中精度を誇っていたわけだ。
やはりスキルは侮れない。
「花木君には、狙われたことに何か心当たりはないのか?」
「個人的な私怨は無かったと思いたいですが……。やはり俺が代表に就任したのが原因でしょうか?」
「まぁ、普通に考えるなら、その辺りが犯行動機だよな……」
だが、殺してでも代表就任を阻止してやるとか、普通なるかね?
それに奴は花木に変わってリーダーになりたいという柄にも見えなかった。どちらにしろ、犯人を引き渡した以上、後は彼らに任せるしかない。荒事や犯罪紛いの捜査なら協力できるが、法に則った調査となると……ちょっと苦手だ。
(こっそり⦅審議の指輪⦆を使って問い詰めてやろうか?)
しかしあれは、小賢しい詐欺師や口の回る嘘つき相手には非常に有効なのだが、単純に黙秘を続けられると、その真価を発揮できないのだ。
「でも、こうなると今後も心配よね」
佐瀬の言う通り、仮にこれが集団による犯行で彼が指示されただけなら、伊藤以外のヒットマンが隠れ潜んでいるかもしれない。
一応シグネには周囲の人間をそれとなく視るように指示しているが、拳銃を持ち出されるとどうしても後手に回ってしまう。スキルやステータスは鑑定出来ても、隠している所持品までは視ようがないのだ。
後は荷物検査を行うとかだが……
「そもそも、ここのコミュニティって銃刀法違反ってあるのか?」
「さすがに無いですね。そんな法律作ったら、周り中犯罪者だらけになってしまいますよ」
それもそうだ。俺たちもがっつり武装しているし……
しかし花木の奴、殺されかけた筈なのに、妙に落ち着いているというか、肝が据わっているな。佐瀬やかつての俺もそうだったが、人間一度死に掛ける経験をすると怖いもの知らずになるみたいだ。逆にトラウマで立ち直れない者もいるが、花木は前者なようで何よりだ。
「心配ない。フミヒトの護衛には私が付こう」
そう名乗り出てきたのは、なんとエルフ族のオッドであった。
「オッドさん! でも、そちらも忙しいんじゃあ……?」
「問題ない。外の仕事は片付いたし、世話になっているのに今まで町の事は何も手伝えていなかったからな」
どうやら花木とオッドは既に知り合いのようだ。ちなみにフミヒトというのは花木の名前で、外の仕事というのは恐らく帝国の様子を探る諜報活動の事だろう。
「オッドなら安心だな。あの粗末な拳銃レベルなら、後れを取る事はないさ」
「ふむ、面妖な飛び道具らしいが……武器頼みの賊なら造作もない」
彼は元B級冒険者だ。この守りを抜ける暗殺者など、そうはいまい。
犯行動機の方が気にはなるが、町の警戒レベルも上がったことで、これ以上の問題はそうそう起きないだろう。ここにはオッドだけでなく、ナタルに乃木もいるのだ。花木の身柄はひとまず安心だろう。
さて、では俺はどうするかというと……
その日の深夜、俺は名波と一緒に森の中を散歩していた。
「悪いな、付き合わせて」
「ううん、私も気になっていたから、誘われなくても巡回してたかも」
俺たちは自主的に鹿江エリアを巡回していた。
闘力が上がると視力も強化されるのか、月が明るい今夜の森はよく見えていた。
「ねぇ、今回の事件どう思う?」
「……鹿江モーターズが怪しい」
「だよねぇ」
今回の花木襲撃事件で、仮に彼が倒れたとしたら、一体誰が一番得かというと、それは間違いなく鹿江モーターズの社長、三船銀治だろう。
あの老人は最後まで自分がこのエリアの代表者になるべきだと主張していたそうだが、今まで内向的で、外との交流をほとんど断っていた鹿江モーターズに不信感を抱く者は多い。当然受け入れられる筈もなく、花木が代表者となったのだ。
ただ、今回の代表選はほとんどの者の総意とは言え、正式な選挙や話し合いをして、満場一致で決定した訳ではない。そこに不満を持って犯行に及んだ。そう考えると納得できるのだが、問題は伊藤が鹿江モーターズと繋がりがあるのかという点だ。
「前に町で私たちに絡んできた不良たちは、鹿江モーターズを出入りしてるらしいの。その彼らの件で武藤さんの所に文句言いに行った時、あの伊藤って人が嘘をついていた、という訳だよね?」
「ああ。伊藤もあの不良たちと、何か関りがあったと考えるのが自然だろうな」
もう今更だが、あの時奴をもう少し問い詰めておけば、事前に何か情報を掴めたかもしれない。
「というか、回りくどい事せず、鹿江モーターズに乗り込んじゃえば良いんじゃない?」
「……名波もだいぶ物騒になって来たなぁ」
まぁ、俺も同じ事を考えていた。
ぶっちゃけると、法やら道徳やらを一切合切無視すれば、俺たちにはいくらでも調べられる手段があるのだ。
例えば⦅隠れ身の外套⦆を使って鹿江モーターズの敷地内に潜入して様子を探る、とかね。
「……今日は色々疲れたからパス。とくに進展がなければ、明日の夜決行しよう」
「あ、やっぱりやるんだ」
この一件はなるべく鹿江エリアの人間で処理すべき案件だと思っている。そうでないと花木の統治能力にも疑念を持たれかねない。
(……政府の人間が来ていたタイミングで襲撃したのはわざとか? 随分と周到じゃねぇか!)
まだ鹿江モーターズが黒とは決まったわけではないが、俺は首謀者に対して憤りを覚えた。
翌日、花木代表は新日本政府の視察団と共に、鹿江町周辺にあるコミュニティを視察しに行った。いくら護衛を付けているとはいえ、昨日襲われたばかりだというのに、彼は予定通りに事を進めるつもりのようだ。
「ここで尻込むのは、相手に利する行為になりますからね」
彼はそう言っていた。
(成程、さすがに花木も勘付いているようだな)
自分が襲われた意味を彼は十分理解しているのだろう。
俺たちも護衛に加わろうかと提案したが断られた。なるべく鹿江町の者だけで今回の視察を成功させたいようだ。
その代わり、昨日立候補したオッドに加え、ナタルも花木の護衛に付いた。
ナタルには確か【察知】スキルがあったはずだ。それに獣人固有の優れた五感も備わっている。更には魔法に長けたオッドも加わるのだ。この陣容を崩すのは容易なことではない。
「さて、私たちはどうしようか?」
佐瀬も今日はフリーなようだが、名波はシグネと一緒にダリウスさんたちに会いに行った。
宇野事務次官も視察団に付いていったらしく、俺も今日の予定が空いていた。
「じゃあ、森で狩りにでも行くか? 渓谷の南側、結構面白い魔物が多かったんだ!」
「アンタねぇ……。女の子を狩りに誘う? 普通……。まぁ、いいけど……」
なら、良し!
俺たち二人は、昨日乃木たちと散策した場所へと向かった。
「…………魔物、いないじゃん」
「あれぇ……?」
佐瀬と共に意気揚々と森へやって来たが、昨日とは打って変わり、全く魔物とエンカウントしなくなった。
「昨日は張り切り過ぎたかなぁ? 絶滅させるほど、狩った覚えはないんだけど……」
「どうだか……。ここを南下すれば、昨日の開拓村跡なのよね?」
「ああ、そうだよ」
開拓村時代は、偶に自警団の人たちと森へ狩りに出かけたりしたが、俺一人では全く踏み入らなかった。それに、魔物と実戦する前にまずは素振りと体力作りからだと、元冒険者のマックスとケイヤに言われ、俺はそれを愚直に熟し続けていた。
(……あ! ケイヤで思い出した!)
「佐瀬、魔力って抑えられるか?」
「え? 魔力? 抑えろって言うのならやってみるけど……」
佐瀬は俺に言われた通りに魔力を見事に抑え込んだ。
「すっげー……近くにいてもほとんど感じられないな」
「そ、そうかな? えへへ……」
褒められて彼女は照れていたが、俺は心の底から感心していた。
なにせ俺は未だに自分の魔力を御しきれていないからだ。その為、俺のアホみたいな魔力に恐れをなしてか、弱い魔物はこちらを避け、逆に強い魔物は魅かれるのだと、昔この森でケイヤが言っていた事を思い出した。
今でもケイヤから借りている⦅魔力隠しの指輪⦆の効果で魔力を隠しているのだ。
「多分、魔力が原因だ。佐瀬の大きい魔力に怯えて、森の魔物たちは姿を見せなかったんだ」
「え? そうなの……?」
俺の予想は正しかったようで、それから数分としない内に魔物とエンカウントし始めた。
「ホントだ……」
「だろう?」
それらをあっさり撃退しながら、俺たちは会話を続ける。
「それじゃあ、もしかして海上で魔物が襲って来なかったのも、私の魔力が原因ってこと?」
「…………そいつは盲点だったなぁ」
それはあるかもしれない。
名波も、魔物の反応はあるのに、反対方向に去って行ったと証言していた。
「帰りは魔力を抑えてみようか。実際どの程度航海が危険なのか、把握しておかないと今後不味そうだしね……」
「そうね。今気付けて良かったわ」
この日は佐瀬と森デート? で魔物狩りを行なった。
町へ戻ると、既に実家から戻ってきていたシグネに文句を言われた。
「ぶぅ! 狩りに行くなら言ってくれればいいのに……」
「そんな大した相手はいなかったって」
「そうね。せいぜいCランクが1匹出たくらいね」
それでも一般人からしたら大事なのだが、俺たちにとっては役不足な相手だ。
俺たちが戻ってから1時間後、花木や視察団の人たちも町へと戻って来た。だが、何やら花木の表情は浮かない様子であった。
「ああ、矢野君たちも戻っていたか。ちょっといいかい?」
花木と共にいた宇野から声を掛けられた。
「何かあったんですか?」
「それが……昨夜の事件の主犯だと思われる容疑者が浮上した」
どうやら事件に進展があったようだ。それは何よりな報告だが、それにしては花木の表情が気に掛かる。
その花木の口から説明がなされた。
「その容疑者だと思われる人なんですが……北枝川町コミュニティの人なんですよ」
「え? 北枝川!?」
それは予想外な場所から出たものだ。鹿江モーターズじゃないの?
北枝川町とは、かつて地球時代に鹿江町のご近所にあった大きな町だ。北枝川町には乗換駅や百貨店もあり、その百貨店の店長である大槻礼二氏がコミュニティの代表を務めていた。
ただ、こっちの世界では鹿江町の方が発展も早く、両コミュニティは互いに切磋琢磨しながらこの地域を盛り上げていき、今では鹿江コミュニティの一部として組み込まれているはずであった。
「その容疑者の男は、大槻さんとも親しかった側近のような方らしいんです」
「え? それじゃあその男は、大槻さんの為に襲撃事件を計画したの?」
「……いや、それがどうも大槻さんに指示されたという証言をしているらしいんです。大槻さんは否定していますけどね」
佐瀬や名波も驚いていた。
俺たちは大槻氏とそんなに親しくは無いが、それでも彼が野心的な人だとは思えず、どうにも腑に落ちなかった。
それは俺たちより彼の人柄をよく知っている花木も同様なようだ。
「矢野君。その件と関係あるのだが……鹿江モーターズを君はどう思う?」
「え? いや、まぁ……あまり良い印象はないですね。正直言うと、今回の犯行はあそこだと思ってましたから……」
それがまさかの大槻氏である。これは予想外過ぎる。
「……そうか。今日は私も花木代表と共に鹿江モーターズに赴いたんだけどね。あそこはどうも胡散臭い。それと……」
宇野は周囲に人目がない事を確認すると、ここに居る者にだけ聞こえるようにトーンを下げた。
「……あそこからは火薬の匂いがした。工場で使ったのだと言われてしまえばそれまでなんだが……銃の出処はあそこじゃないかと思っている」
「「「「――――っ!?」」」」
それは……十分にあり得るな。
あそこには俺たちも一度内部に入ったが、かなり外の目を気にしていたし、工場エリアの方には一切立ち入らせてくれなかった。
正直、かなり怪しい……
「実はその容疑者だと思われる男を捕まえて引き渡したのも鹿江モーターズの人間なんです。彼らが言うには、大槻さんの側近の人が拳銃を所持しており、発砲したので取り押さえたのだと……俺が襲撃される前の話だそうです」
「私もその話は横で聞いていた。確かに昨日の犯人と同じような拳銃があったが、その容疑者とは合わせてもらえなかった」
「ちょっと待って下さい! その側近の方は今どこで拘留されてるんですか?」
「……鹿江モーターズ内にある簡易拘留部屋だそうだ」
そんなモノまで用意しているのか、あそこは……
「俺も大槻さんも当然そんな話は鵜呑みにできず、彼の身柄をこちらへ引き渡すよう要求したのですが、撃たれたと訴えている者もいたので、向こうも全く引き下がらず……」
だからと言って合わせすらしないのでは、証言も怪しくなってきた。というか、百パーセント捏造だろう……
これは大事になってきた。
確かに事件の進展を望んではいたが、ちょっと違った形で事が進んでしまった。
「こうなると……その側近という方の命が心配ですね」
「ああ、最悪口封じされてしまうかもしれん。早まらなければいいのだが……」
宇野としても新日本政府の公人である為、今回の一件には迂闊に手出しができない立場だ。そこら辺が法に縛られ過ぎている現代国家の弱点だろう。
例え相手が怪しくても、犯人だと決めてかかって行動には出られないのだ。
いや、不当な理由で元邦人を拘束している以上、もしかしたら法的にもOKなのかもしれない。だが、ここで新日本政府が介入したとなると、それはそれで花木や鹿江町の立場が無くなってしまうのか……
だからこそ宇野は、その話を俺に持ち掛けてきたのだろう。
「……分かりました。人命が掛かっている以上、悠長なことは言っていられませんね」
「え? 矢野さん? 一体何を……?」
「ふふ、私は何も知らないし関わらないよ」
花木と宇野はそれぞれ違った反応を見せた。
花木としては相談したかっただけのようだが、それに対して宇野のおっさんの腹黒いこと……
「大丈夫。一晩経てば、きっと誰かが解決してくれるさ!」
「…………俺はこういう時、引き留めるべきなんでしょうか?」
「そう思うならそうすればいいさ。ただ、俺たちは俺たちのやりたいようにやる」
花木は真っ直ぐな奴で、だから周囲は彼について行こうと思うのだろうが、そんな彼だからこそ不得手なものもある。
そんな時はできる奴に任せてしまえばいいのだ。
その日の夜、俺たち四人は鹿江モーターズのコミュニティへ向かった。
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