第142話 死者への手向け

 当時はろくに歩いたことも無い森の中から、俺が以前生活していた開拓村の跡地を探し出すのは至難だろう。


 だが実際はそうでもなかった。


 それというのも、怨敵デストラムが一年前に利用したと思われる大きな獣道を見つけたからだ。奴の巨体が通れる場所など、この森の中では限られている為、木々が倒れ強引に作られたこの獣道こそ奴の痕跡なのは明白であった。


 更にゴーレム君を使った空からの偵察も加わり、目的地である開拓村は思ったより早くに発見できた。




 久しぶりに村へ帰った俺は、何ともいえない感慨に浸っていた。


 あの時からまだ一年しか経っていない筈なのに、とても懐かしく思えたのだ。それ程この一年が濃密だった証拠だろう。


 本来なら他の村人たちも俺と同じように、それぞれの一年間を過ごしていたはずである。いや、一年と言わず、何年でも、何十年でも……


 だが、彼らの時間はたった一夜にして、全て奪われてしまったのだ。



「ここが寄りたかった場所?」

「廃村? いや、戦場跡に近いものを感じるな……」

「矢野氏、ここは……?」


「俺が転移した直後、しばらく世話になっていた開拓村です。ご覧の通り、魔物に襲われ壊滅しました……」


「そうか……」

「それは、何と言うか……」

「…………」


 思いつきの行動だったので、三人には何も告げずにここまで連れて来てしまった。


 俺はこの村での出来事を掻い摘んで説明した。




「なるほどな。多人数で森を荒らし、森の主を誘引してしまった訳か……。疎かな統治者の為に……痛ましいことだ」

「お悔やみを申し上げるわ。折角ここまで開拓したのに……彼らもさぞ無念だったでしょうね」

「それでも俺は、矢野氏に生き残って貰って良かったと思っているぞ! だから、あまり自分を責めないことだ」


 慰めてくれた乃木に俺は笑顔で答えた。


「……大丈夫。一年も経てば、心の整理くらいはついているよ」


 当時はひたすら悲しくて、それを忘れる為に冒険者活動では色々と無茶な事もした。そんな俺の一番の慰めになった存在は、ケイヤだけでも生き残ってくれていたという事だ。たった一人でも、この悲しみを分かち合える存在がいるというのは、思っていた以上に心の支えになっていたのかもしれない。



 そんな俺の心境が呼びこんだのかは知らないが、村外れに向かった俺たちは、予期せぬ者と遭遇した。



「け、ケイヤ!?」

「イッシンか!? 来ていたのか!」


 まさか、この場でケイヤと出会うとは想像の埒外であった。


 彼女の他には馬以外誰もいないようだ。どうやらケイヤ一人で開拓村を訪れていたようだ。


 彼女の前には見覚えのない石の墓碑が建てられていた。彼らの遺体は俺がデストラムと相打ち覚悟で放った全力【ファイア】の所為で全て燃え尽きてしまった。故に死体の埋葬も行わず、ケイヤに事後処理を押し付けて俺は村を去ったのだが……


「……それ、ケイヤが建ててくれたのか?」

「……ああ、半年前にな。私も忙しい身だが、偶々連休が取れたので半年ぶりにここへ来たんだ。まさか、君と居合わせるとは思いもしなかったぞ」


 そう呟くと、彼女はあらかじめ用意していたのか、花を墓碑の前に捧げて祈った。俺もその隣で村人たちのご冥福をお祈りする。






 場所を村の広場に移し、俺たちは改めて挨拶をした。


「そちらの人は見たことがあるな。確か……ウノという日本人の役人だったな」

「新日本政府の宇野正義という。君は確かフローリア王女殿下の警護に当たっていた騎士だね」

「同じく、新日本政府の朝山静歌よ。話題の美人女騎士様に出会えて光栄だわ」


 予期せぬ出会いであったが、顔バレしている以上は誤魔化せないと思ったのか、宇野は堂々と挨拶し、朝山もそれに続いた。



 エイルーン王国の使節団が新東京を訪れた際、護衛として来ていたケイヤはマスコミやネットにその美貌がフォーカスされ、ちょっとした有名人となっていた。


 可憐なフローリア王女、キュートなアーネット侯爵令嬢、そして美人女騎士ケイヤと、当時はネット上で熱く取り沙汰されていたのだ。


「そしてこっちの男が乃木、鹿江コミュニティの住人だ」

「や、矢野氏!?」


 俺の紹介に乃木が焦っていた。


 別に恥ずかしがっての行為ではない。俺が鹿江コミュニティの存在を暴露したことについて慌てているのだろう。まだ王国側には知らない情報だ。


 だが、彼女なら問題無いのだ。


「ああ、森の先にあるという日本人のコミュニティだな。大丈夫、私はその件を既に知っているので、今更隠し立てする必要はない」

「そ、そうなのか? 改めて、乃木だ。よろしく、ケイヤ殿」


 こちらの挨拶が終わると、改めてケイヤが名を名乗った。


「ケイヤ・ランニスだ。今は王国聖騎士団所属だが、かつてはイッシンと共にこの開拓村で従事していた者だ。宜しく頼む」

「ランニス? まさか……ランニス子爵の?」

「ああ、クロード・ランニスは私の父だ」

「そうだったか……」


 宇野は納得した表情を浮かべると、再びケイヤに質問を投げかけた。


「君はこの先にあるコミュニティの存在を知っていると言ったが……それでは王国側も既に把握しているのかね?」

「……いや、恐らく私しか知らないだろう。私もイッシンに教えてもらってその事を知った」


 ケイヤの発言に宇野は驚いた。


「君は王国の騎士なのだろう? ならば、その事を王政府に報告しなくてもいいのかい?」

「……私がその事を知ったのは、イッシンが私を信用して話してくれたからだ。確かに私は王国に忠誠を誓った身だが、自分に恥じることはしたくない。王国に仇なす気が無いのであれば、ここで会った事は関知しないし他言もすまい」

「こういう奴なんです。だから下手な隠し事はせず、正直に事情を説明して理解して貰った方が、話が早くて助かります」

「……なるほど、心得た」



 それから宇野は、今回ここまで足を運んだ経緯を説明した。




「そうか。東の地に港町が……」


 既にそこまで発展している事にケイヤは驚いていた。


「我々としても、王国と事を構えてまで領土を掠め取るつもりは毛頭ない。ただ、既にあの地には暮らし始めている元邦人……日本人の者たちがいる。それを踏まえた上で、王国とは穏便な交渉を進めたいと願っているのだ」

「私としても、東の地が栄えるのなら、こんな喜ばしい事はない。港町が出来たと王政府が知れば、やがてこの森も再び開拓を進めるだろう。そしてその成功こそが、死んでいった村民たちの手向けになるのだと、私はそう信じている」

「ケイヤ殿の思いは確かに受け取った。我々新日本政府としても、これ以上この地に無用な血が流れぬよう、尽くしたいと思う」


 場所や話の内容があれだけに、やたら重苦しい雰囲気になってしまったな。


「そうだ。佐瀬とも連絡が着いたし、もう少しすればエアロカーで送ってやれるぞ? 時間に余裕があれば、鹿江町を見て回ることも可能だけど、どうする?」


「…………いや、遠慮しておこう。サヤカたちには会いたいが、私がその地へ赴く時は、然るべき手順を踏まえてからだ」


 生真面目なケイヤの事だ。きっとそう言うだろうとは思っていた。


 彼女は連れて来た馬に跨ると、最後にこんな事を言い残した。


「非常に魅力的なお誘いだったが、それはまた後日の機会としておこう。何より私は、未だ海とやらを間近で見たことが無いんだ。イッシンが頑張って両国の関係改善をしてくれたら、私も大手を振って海に行けるというものだ。その日を楽しみにしているぞ!」

「え、ええ……? 俺がかよぉ……」


 ケイヤはこちらの返事も待たずに去ってしまった。だが、最後の台詞だけは彼女の年相応らしい言葉が聞けた気がする。


「ふふ、美人女騎士様にお願いされたんじゃあ、頑張らない訳にはいかなくなったわね?」

「勘弁してくださいよ。俺に期待し過ぎです」


 こちとら住所不定の冒険者様やぞ? 荒事ならともかく、政治的解決は無理だってばさ……




 その後、佐瀬がエアロカーに乗って迎えに来てくれた。丁度良いので彼女らにも開拓村について話をする。


 ここについての出来事は既に三人にも話したことはあったが、実際に来るのは当然初めてである。



「イッシンは何処で暮らしてたの?」

「あー、あの辺りだったかなぁ。何しろほとんどの建物が吹き飛んだからなぁ……」


 デストラムが荒らし回った上、何処かの馬鹿が最大火力で村を焼き尽くしたのだ。


 石造りの建物以外はほとんど残されていなかった。


「ねえ、イッシンにい! こっちにこんな物が落ちてたんだけど……」


 そう言ってシグネが瓦礫の山から拾い上げたのは、平べったい石板であった。


 ただの壁の破片じゃないの?


 ……いや、待て! あれは……


「え!? まさか……⦅神意石しんいせき⦆か!?」

「⦅神意石⦆って確か、鑑定能力のあるマジックアイテムよね?」

「何でそんな物が瓦礫の山に?」


 あそこは丁度、教会が建っていた場所だ。


 確かにあの教会には、村唯一のシスターであるリンデ婆さんが⦅神意石⦆を保管していた。俺が初めて自分のステータスを鑑定したのもこの場所でこれを使ったのだ。


「てっきりケイヤか国が回収したのかと思っていたが……」


 ケイヤにしては珍しく忘れていたのだろうか?


「これじゃあ、他の瓦礫と勘違いされても不思議じゃないよねぇ」


 確かに、裏返しで捨て置かれていては、⦅神意石⦆はただの石板にしか見えないのだ。


「うん。しっかり使えるみたいだよ」


 使い方を【鑑定】スキルで知ったのか、シグネは早速自分の鑑定をしていた。確かこれの上位版である⦅神意緋石しんいひせき⦆も存在し、そちらは【解析】と同等の鑑定性能があるが、⦅神意石⦆では闘力と魔力は4桁までしか表示されないのだ。


「ありゃ、闘力も魔力も9,999としか表示されない……」

「俺たちには使い道がないな」

「矢野氏……どれだけ強くなってるんだ……」


 それを見ていた乃木がドン引きしていたが、多分お前も近い内そうなるぞ?


「ちょっとそれ見せて!」


 朝山女史も食いつき、シグネからひったくるように⦅神意石⦆を握って使用した。


「ほわぁ! 凄い! この仕組みを解明できれば……鑑定し放題じゃない!!」


 やはり優秀な科学者というのは頭のネジが一本抜けているようだ。大の大人が子供から石板を奪って奇声を上げ始めるとは……世も末だ。


「矢野君。そのマジックアイテム、どうするのかな?」


 宇野が俺に尋ねた。


「王国に返還しようと思います。この村から盗みたくは無いですからね」

「そうか。良かったらその返還、鹿江町に任せてはどうかな?」

「……え?」

「返そうにも、既にケイヤ君は去ってしまっただろう。君たちなら返す手間もそう掛からないだろうけど、鹿江の領地問題と合わせて、その石板も一緒に返還すれば、少しは向こうの心証も良くなるかなと思ってね」

「…………確かに」


 ただ返すより、領土と一緒に近くで拾った⦅神意石⦆をセットで返還する方がより効果的だ。交渉材料は大いに越したことはない。それに預かっている間は鹿江町でも有効活用できるだろう。


「必ず返却するという条件でしたら、俺も反対はしません」

「よし! では、こちらは花木代表に事情を説明して預かってもらおう」


 これは、もしかしたら開拓村の人たちからの贈り物なのかもしれないな。これで少しでも円満に交渉を勧められれば良いのだが……




 いい加減日も暮れそうな時間が迫ってきたので、俺たちはエアロカーに乗って鹿江の港町へと戻ってきた。



 俺は一人で町中を歩いていると、誰かが声を掛けてきた。


「あ、矢野君! 久しぶりだね!」


 佐瀬と名波が所属していた写真部の元部長、会沢真木である。


 昨日は佐瀬たちと仲良くお喋りしていたので、挨拶する隙が無かったのだ。


「久しぶりだな! 広報の仕事は順調か?」


 佐瀬たちの話だと、彼女はこの港町の広報担当らしい。その撮影技術を買われ、外に向けた情報発信用の写真をアップしたり、町や港を建設する工程を将来の為に記録して残したりと、その仕事内容は多岐に渡る。


 きっと彼女の仕事ぶりは後世にきちんと評価されるのだろう。


「うん! 私は工作とか力仕事は出来ないけれど、ここは私たちの町だからね! 何か協力できればと思って頑張っているよ!」


 彼女の言葉には頭が下がる思いだ。


(俺は基本、癒しもするが壊す方が多いからなぁ……)


 ついさっき、自らが焼き尽くした開拓村の跡地を見て来たばかりの俺には眩し過ぎる言葉である。せめてそんな彼女らが平穏で暮らしていけるよう、可能な限り助力をしてあげよう。



 思えば、以前の俺とはだいぶ考え方も変わってきた気もする。


 当時はなるべく彼らと関わらないスタンスでいたからだ。それは一種の彼らの自立を促す為でもあったのだが、俺自身もどこかで人を避けてきたのだろう。


 改めてそう自己評価できたのも、こんな俺に付いて来てくれた三人がいたからこそだ。


(……ありがとうな)


 俺は佐瀬と名波、シグネの三人に、心の中で感謝の言葉を送った。



「そうだ。花木君を見なかったか? いや、もう代表とお呼びするべきか?」

「あはは! 矢野君にそう畏まられちゃあ、花木君も困っちゃうよ」


 あの生真面目男なら、そういった反応をするに違いない。


「さっき家畜小屋の様子を見に行ったよ。明日は視察団の人たちも町の生産性を確認したいって言っていたから、その最終確認かも……」

「本当に仕事熱心だなぁ。分かった、ありがとう」


 俺は拾ってきた⦅神意石⦆を花木に託すため、彼の後を追った。




(家畜小屋……確か町の外周部に設けられていたか?)


 何でもニワトリのように卵を良く生み、食肉としても美味しく、更に乗ることもできる三拍子の揃った鳥の魔物クーエを飼育しているそうだ。


 その他にも牛のような魔物ミートスバッカや、普通のヤギなんかも飼育している。


 ところで羊とヤギって似てるよね。


 ……え? もうその話は要らないって?



 俺は家畜小屋のある方角へ歩いていると――――


 ――――パンッ! パンッ! パンッ!


 乾いた大きな音が三度響いてきた。その直後、遠くから人の悲鳴と家畜たちの鳴き声が聞こえてきた。


(今のは……まさか銃声!?)


 前世界では画面越しでしか聞いた事のない発砲音だが、そうとしか思えない音が響いてきたのだ。


 その音は俺だけでなく、偶々近くに通りかかっていた宇野にも聞こえたようだ。


「矢野君! 今のは間違いなく銃声だぞ? あっちには何がある?」

「家畜小屋のある方角です! それと……今は花木がいるはずですが……」

「何!? まさか……彼が狙いなのか!?」

「――っ! 見てきます!」


 俺は何をのんびりしていたのだろう。


 音がした直後にさっさと向かうべきであった。


 全力疾走した俺はあっという間に現場だと思われる場所に着いた。そこには既に人だかりができており、誰かが腹部や喉から血を流して倒れていた。


「誰か!? 急いでポーション持ってきて!」

「いやああっ! 花木君!?」

「とにかく止血を!」

「駄目だ! 全然血が止まらねえ!」


 現場は阿鼻叫喚となっていた。


「どいてくれ! 俺に任せろ!」

「アンタは……っ!?」

「うぅ、花木君が……花木君が撃たれて……」


 急いで花木の容体を確認する。これは……相当酷い。


(腹に二発……それと喉にも被弾しているな……)


 特にその喉がヤバい。そこから血がドバドバ出ており、このままでは確実に出血死する。


 俺に大分遅れること、宇野も現場に到着した。


「なんてことだ……っ! これは、とても……」


 花木の姿を見た宇野は一目で助からないと判断したのだろう。


 だが、そうはならない。何故ならこの場には、怪我を癒す事にかけては世界一の俺が居るのだから……


 ただ、このまま直ぐに治療は行えない。一つ問題があったからだ。


「銃撃は三発だけか? 発砲音は三回だけだったが……」

「そ、そんな事より、早く花木を何とかしてくれよぉ……!」


 涙目になりながら訴えてきた青年の肩に俺は手を置いた。


「大丈夫、絶対に治す。その為には重要な事なんだ! 花木が受けた銃弾は、全部で三発だけなのか?」

「わ、私……見ました! 顔を隠した不審者が、花木君を撃ったのを……! 発砲したのは、多分三回で間違いないです!」

「そうか! 銃弾は……全て貫通しているのか……?」


 花木の被弾した箇所を調べていると、後ろに近づいて来た宇野が声を掛けてきた。


「矢野君。恐らく一発だけ……腹部の中に銃弾が入ったままだ。左脇の方だ」


 恐らく、現場の状況や被害者に付着した血に弾痕などを見て、瞬時にそう判断したのだろう。さすが、レンジャー持ちの元自衛官は優秀だ。


「花木、痛いだろうが絶対に治してやる。だから……我慢してくれよ!」


 俺は一方的にそう告げると、彼の左脇の傷口に手を突っ込んだ。花木は既に悲鳴も上げられない状態なのか、それでも痛覚はまだあるようで、身体をビクビクと震わせていた。


「きゃああああっ!?」

「アンタ! 一体何を……!?」


「必要な行為だ! 大丈夫、絶対に治るから!」


 死にはしない限り……いや、例え死んだとしても彼が無事生還するのは既に確定事項だ。ただし、このまま治療すると体内に入ったままの弾丸もそのまま残ってしまうのは、ゴブリン君たちの人体実験で把握済みだ。だから先に弾を取り除く必要がある。


 そこまではチート【ヒール】も融通が利かないのだ。


「よし! 取り除いた!」


 俺はすかさず【ヒール】を全力使用した。通常より眩しく輝く光景に、周囲で見守っていた者たちは目を細めた。


 弾丸さえ取り除けば、後はもう一瞬だ。


 先程の酷い有様が嘘であるかのように、彼の身体から傷は完全に消え失せた。ただ残った血の多さだけが、その凄惨さを物語っていた。


「宇野さん。花木を頼みます!」

「ああ。犯人を追うんだな?」


 勿論、こんな惨事を引き起こした下手人を逃すつもりは無い。


 俺が力強く頷くと、宇野から助言が送られた。


「さっきの銃声はどうも奇妙だった。弾丸も見た事が無い型だし、作りも相当荒い。恐らく地球産の正規品ではないのだろう。射程距離はそんなにない筈だが……射手の腕はいいようだな。全弾しっかりと命中させている。十分気を付けるんだ!」

「アドバイス、感謝です!」


 その場を立ち上がって周囲を見渡すと、先ほど発砲現場を見たと言っていた女の子がいたので俺は声を掛けた。


「さっき見た不審者がどっちに逃げたか見たか?」

「あっちの森の方へ……」

「ありがとう!」


 彼女が指した森の方へ向かおうとすると、何時の間にか⦅白鹿の旅人⦆のメンバーが全員集結していた。


「イッシン! 何があったの!?」

「花木が撃たれた! 銃を持った不審者が森の中へ逃げて行ったそうだ。名波!」

「んー、それっぽい反応があるね。東の方角へ走ってる」


 名波の【感知】は自分や周辺にいる仲間に悪意ある反応を自動で捕捉する。だが、いくら索敵範囲内でも、近くにいない人間が襲われる事までは察知しようがない。


 ただし、常に範囲内で活動している生物の反応は無意識化で捉えており、意識するとその範囲や精度はさらに伸びるらしい。そこらへんは少しだけ技能スキルっぽい。


 さすがに羽虫レベルの大きさだと判別は難しいそうだが、余程気配を消すのが上手い達人か、人混みに紛れて潜伏していない限り、それぞれの位置情報はかなり正確に把握できる。


 その彼女の射程圏内で、明らかに挙動不審な反応があったそうだ。その反応は現在森の中を、町とは別方向に走って移動中らしい。


「行くぞ!」

「「「おー!」」」


 俺たちが四人揃えば、例え相手が機関銃を持っていようと問題ない……はずだ。


(……最悪、ゴーレム君を突っ込ませればいいか)


 相手がロケットランチャーでも持っていない限りは、それで詰みだな。

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