第141話 はじまりの森
【探索者】高ランク魔物情報共有スレ Part.14
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601:名無しの探索者
この前森ですっげー怖い虫と遭遇した
自分より何倍も大きいイノシシを食ってたんだけど
あれも魔物なのか?
靴くらいの大きさの芋虫みたいなやつ
602:名無しの探索者
図鑑アプリで写メ撮れ、以上
603:名無しの探索者
おっかなくて撮影する余裕なかったって!
即、逃げたわ!!
604:名無しの探索者
これは無能探索者だわ
せめて写真くらい撮ってこいよ!
605:名無しの探索者
>604
おい、ここでは危険行為を唆す発言はNGやぞ!
生きて帰るのがベテラン探索者の最低条件だ
601が無事で何よりよ
606:名無しの探索者
ベ・テ・ラ・ンwww
探索者制度始まって、まだ半年くらいだぞ?
みんなルーキーみたいなもんだろw
607:名無しの探索者
でも実際、未知の魔物と遭遇したら
図鑑アプリ開いてる余裕なんてねえよな
608:名無しの探索者
>607
わかりみ
>601
ちなみにそいつはソイル・ビーじゃないか?
魔物図鑑アプリにも載ってるCランクのやつ
それ以外で芋虫の魔物は知らん
609:名無しの探索者
あ、コイツだ!
図鑑に登録されてたんだ……
610:名無しの探索者
森に入るなら、せめて虫型の魔物くらい
事前に把握しておけよ……
まぁ、戦わなくて大正解だったな
Cはそこらの探索者にはまず無理よ
611:名無しの探索者
こいつ、小型の癖にCランクとか……
見た目詐欺にも程があんぞ!
612:名無しの情報通探索者
見た目詐欺と言えば……
噂だが、あの⦅赤獅子⦆が連合国に出たらしい
613:名無しの探索者
はぁ!? マジでか!?
新たな日本が増えたと思ったら……
日本連合国……お前は良い奴だった
614:名無しの探索者
さらば日本連合国
お前が日本国、NO,1だ!
615:名無しの連合国探索者
勝手に滅亡させるな!
まだまだ、こっちは元気に戦争やっとるわ!
616:名無しの情報通探索者
すまん、言葉足らずだった
連合ってバーニメル通商連合国の方ね……
>615
え!? 戦争って……何???
617:名無しの連合国探索者
周囲が日本にちょっかい出してきよるから
しばき倒しとんで
一昨日も防衛作戦に駆り出されたわ!
俺も森で魔物狩ってのんびりしたいのに……
618:名無しの探索者
日本連合国、乱世過ぎる……
619:名無しの探索者
一気にきな臭くなってきたなぁ……
というか、徴兵制度とかあんの?
620:名無しの探索者
これ以上はスレチ
余所でやれや!
>612
それより、ミケアウロが出たってマ?
621:名無しの情報通探索者
うん、マジみたい
しかも、やけに強い大蜘蛛も暴れてるらしく
半島の西側は大騒ぎ
蜘蛛の方は一応魔物図鑑アプリに写真もあるけど
今のところは不確定情報扱いになってるな
622:名無しの探索者
あ、それ見たわ!
≪氷糸界≫って新たなネームドで
アーススパイダー亜種じゃなかった?
623:名無しの探索者
画像見た
確かに大きいけど……
推定SSランクとか、さすがに盛り過ぎっしょw
624:名無しの情報通探索者
いや、案外本当にヤバいかもしれない
通商連合国にも壊滅的被害が出ていて
周辺国家の冒険者ギルドにも支援要請が出てる
625:名無しの連合国探索者
ああっ! コイツや!
コイツが日本連合国の近くに出たってんで
ここら一帯は大騒ぎしてんねん!!
ま、そのお陰で西の隣国
オラニア王国も大人しくなったんやけど
626:名無しのスーパー冒険者
討伐隊も返り討ちにあったらしいよ!
S級冒険者が参加しても駄目だったって!
627:名無しの情報通探索者
>626
それは初耳だったが……
ちなみに、その情報源は何処から……?
「同じパーティのメンバーからだよ!」と書き込もうとした私だけど、突如後ろから伸びてきた手によって妨害されてしまった。
「シグネちゃーん? 一体何をネットに書き込もうとしているのかなぁ?」
「あわわ!? ルミ
「魔物の脅威を周囲に知らせるのは別に構わないけれど、身バレするようなコメントは避けるようにね!」
「……はい」
ルミ
初めての航海での護衛任務で、最初こそ気を張っていた俺たちだが、魔物は一切襲ってくる気配もなかった。しかも同じ景色を眺めていた所為か、段々と眠くなってきた。
シグネなどは護衛の任務など忘れ、スマホを弄っている有様だ。何やら名波が注意しているようだが……
「ねえ、そろそろ予定時間の半分だけど、休憩はどうする?」
「あー、二人ずつで二時間でもいいかな?」
索敵型スキルを持つ俺と名波は分けた方が良いだろう。バランス的に俺とシグネがペアな形かな?
「やぁ、白鹿の。護衛の任務はどうだい?」
様子を見に宇野事務次官が声を掛けてきた。
「うーん、遠目では危険そうな奴はいませんねぇ」
「スキルに何度か反応あったけど、皆こっちとは反対方向に行っちゃったよ?」
どうやら名波の【感知】には幾度か魔物が引っかかるらしいが、船を見ても襲って来なかったみたいだ。
「……ふむ。思った以上に海棲の魔物は大人しいのかな?」
「どうなんでしょう? ニューレ港の船乗りに聞いた話なんですけど、襲われるかどうかは運次第だとしか…………」
「運頼みで航海はしたくないが…………分かった。引き続き、護衛の方を宜しく頼む」
そう告げると宇野は去って行った。
「魔物の襲撃が全く無いのも退屈よね。海上での戦闘も試してみたかったんだけど……」
佐瀬もすっかり俺たち色に染まってしまったようで、台詞が武闘派のそれだ。
(いや、こいつは元来、好戦的な性格だったな……)
人質となった際も、一切躊躇いなく自分ごと魔法を撃ちこむ女だ。
「そういえば、佐瀬の実家は東北だっけか? 大学で鹿江町に来たのか?」
「そうよ。もう少し成績が良ければ地元の県立大学も狙ったんだけど……。でも、社会人になったら、どうせ上京していたと思うわ」
上京と呼べるほど鹿江町は上等な場所ではないが、佐瀬の実家は冬の時期だと雪で歩くのも難しい田舎町なのだそうだ。そっちと比べると遥かに都会なのだろう。
俺の実家は同じ関東圏内だが、両親や姉とはこの世界に来てから一切連絡が取れていない。まぁ、あの人たちの事だから、どこかで逞しく生きていると思うので、探しているのはついでみたいなものだ。
俺は俺でこっちの生活を満喫するとしよう。
「……佐瀬は、家族を探したいか?」
「んー、心配はしてるけど、そこまでは……。やっぱり転移前にお別れを言えたのが大きいかしら?」
あの当時は連絡一つ取るのに苦労させられた。
佐瀬は両親や妹とも連絡ができたようで、恐らくあっちの世界では会えないだろうと覚悟して別れを済ませてきたそうだ。
「だから私の心配は不要よ! それより、さっさと休憩回しましょう! そっちから先で構わないわ」
「ああ、ありがとな」
俺は佐瀬と名波に警戒を任せ、シグネと共に休息する事にした。
船は予定より少し早い時間で、無事に鹿江町の港へと到着した。
港では過去最大規模となる輸送船の来航に、ギャラリーたちで沸き立っていた。
「お、ちゃんと誘導する小舟も用意してるのか!?」
「こう実際に入港すると、思った以上にちゃんとしてる港よねぇ」
港から出た小舟が中型輸送船へと近づいて来た。曳船らしき小舟だと思っていたが、よく見ると人がオールで漕いでいた。
(まさか……あれで牽引する気じゃあないよな?)
小舟に乗っているのは、オーク騒動でも一緒だった警備班の元男子学生だ。
彼は船からロープを取り出すと、それを輸送船の方へ投げてよこした。そのロープを受け取った船員がやや困惑しながらも、それをしっかりと舳先へ結ぶ。一体どうやって船を動かす気なのか、船乗りたちにも分からないようだ。
ロープが結ばれたのを確認した学生は、小舟をそのまま桟橋まで漕いで引き返した。すると、そこで待機している男にロープの反対側を手渡した。
その男とは乃木である。
乃木はロープをしっかり持つと、なんとそのまま引っ張り始めたのである。
「まさかの人力!?」
「乃木ぃいいいい!?」
これには乗船している者全てが呆けていたが、更に驚く事に、輸送船が徐々に動き出したのだ。
(と、とんでもないパワーだなぁ。あいつ、また闘力を上げたな……)
もしかして、俺や名波くらいになると、この船を引っ張れるくらいの膂力があるのだろうか?
今度試してみたいかも……
結局、乃木ほぼ一人の力で輸送船を桟橋に着岸させてしまった。
恐ろしい男だ、乃木……
船から降りると、出迎えてくれたのはどれも顔見知りの者たちばかりだ。
「ようこそ! 鹿江港へ! それと初の航海の成功、おめでとうございます」
そう告げたのは、鹿江地域の新たな代表者となった花木であった。
出会った当初は頼りなさそうな学生たちであったが、数々の苦難を乗り越え、見事に港の竣工まで成し遂げた彼らのリーダーは、もう立派な大人の顔となっていた。
「初めまして。私は新日本政府の総務省行政評価局総務行政相談部の部長、田辺と申します」
長い、長い、長い!
まるで念仏や呪文のような所属名だ。
そういえば、早口言葉でお馴染みの東京特許許可局って、実在しないってほんと?
「はは、随分偉そうな肩書ですが、要は貴方たちの相談役と思って頂ければ結構。鹿江コミュニティは新日本政府の統治下にはないので、我々の意見は参考程度に思って頂ければいいでしょう。宜しくお願いしますよ?」
「これは、ご挨拶が遅れまして……。鹿江コミュニティの代表を務めております花木と申します。若輩者ですが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
「ははは。そう肩肘張らないで、気楽にしてもらえればいいですから」
「は、はぁ……」
相手の田辺部長とやらは、だいぶ陽気な御仁であった。
ただ、状況が状況なので、あまり楽観的でも困るのだが、あの人は大丈夫なのだろうか?
俺が不安そうに田辺を見ていたのを見抜かれたのか、宇野がこっそり教えてくれた。
「あの人はあんな性格だが、実務の方はしっかりやる大ベテランだよ。心配ない」
「宇野事務次官のお知り合いなんですか?」
「うん。彼も小山派だよ」
あの人もロリコン総理の……失礼、元総理大臣のシンパなのか。
「鹿江コミュニティの件は我々小山派に一任されているんだ。王国との交渉において、鹿江町の存在は蛭間派からしたら厄介な危険牌だからね。誰も関わりたくないと思っているのさ」
成程、納得だ。
だが交渉が上手くいけば、鹿江町はこれ以上もない裏ドラ牌へと変貌を遂げる。なにせ王国領にある唯一の港町だ。誰が統治者におかれようと、この町が二国間の交易拠点となるのは間違いがないのだ。
「あ、お父さん!? お母さんも!!」
声がする方を振り向くと、そこにはリンクス夫妻がいた。どうやらダリウスさんとジーナさんも船が来るのに合わせて港町へ遊びに来ていたようだ。
佐瀬たちも級友たちと談笑していた。
俺だけ宇野事務次官と一緒とは貧乏くじを引かされたかと思っていたら、一際目立つ男がこちらへとやって来た。
乃木である。
「矢野氏! 久しぶりだな!」
「乃木……もうちょっとスマートな船の誘導方法はなかったのか?」
「はっはっは。あれが一番簡単だったんだよ!」
中型の輸送船を引っ張るのは、どう考えても簡単じゃあない。
「やぁ、君はさっき船を引っ張っていた青年だね! う~む、素晴らしい筋肉だ! どうだね? 自衛隊に入らないかね? 推薦書も出すぞ?」
「おお!? 彼の宇野正義殿にそこまで評価されるとは……。筋肉を磨き上げた甲斐がありますね!」
「「はっはっは……」」
二人は何か通ずるものでもあったのか、初対面なのに妙に仲良くなっていた。
その隙に俺はこっそりその場から抜け出すと、懐かしい二人に声を掛けられた。
「イッシン、久しぶりだな」
「また凄まじく腕を上げたようだなぁ」
「ナタル! オッド! 元気だったか?」
元⦅黒星⦆の二人、女獣人族のナタルとエルフ族の青年(45才)オッドである。
二人も日本の船が気になって見物に来ていたようだ。
鹿江町にはナタルたちの家族を始め、帝国の収容所に囚われていた者たちも新たな生活を送っていた。そんな彼らとしても、新日本政府や鹿江町の動向が気になるのだろう。
そういえば、二人は帝国情報部の裏切り者として、暗部から姿を眩ませるためにここで生活していた筈だが、今後鹿江町が外に開かれるとなると、この先どうするのだろう?
不安に思った俺が尋ねてみるも、二人は平静を保ったままであった。
「帝国暗部の動きはこっちでもそれとなく監視しているが……どうやら連中、王国への人員を減らしたようだな」
「そうなのか?」
意外である。前の戦争では敗走し、これまで以上に情報収集に躍起になるかと思いきや、そうではなかったようだ。
「どうも帝国領内が随分騒がしいようだな。恐らく、あのワンという男たちの活動が上手くいっているのだろう」
ワン・ユーハン……ナタルの家族たちと一緒に囚われていた元中国人の青年である。彼は帝国から家族や同胞を助け出すべく、ゲリラ活動を行っているようだが、別れた以降は音沙汰無しであった。
「帝国領内もそうだが、連中はどうやら西側への侵攻に舵をきった様だぞ? 暗部の人員も西に送り始めているらしい」
それは初耳だ。というか、どうやってそんな情報を仕入れているんだ?
(流石は元⦅黒星⦆……帝国は厄介な二人を敵に回したな)
どうやらその情報も既に連合国側へリークしているらしい。帝国は二人からそれほどまでに恨みを買っていたのだ。
「暗部の連中も、生きているかどうかも分からない我々の存在にかまけている余裕は無いさ。それにここは気に入ったから、私たちは当分この地で暮らすつもりだよ」
元B級冒険者が力になってくれるのは大変心強い。
今日は船の長旅で疲れ、日も落ち始めていたので、俺たちは港町にできた新しい旅館で一泊する事にした。護衛の任務は海上のみとなっているので今は自由行動中だが、三日後には再び新東京湾へと戻る予定となる。復路も当然護衛任務の予定だ。
翌朝、政府の視察団は花木たちと共に鹿江コミュニティから出掛けた。このエリア内の主要コミュニティ全てをこの短い間で見て回る予定らしい。
以前とは違い、道も大分整備されて馬車も普通に通っているので、移動はそれほど苦ではないようだ。
「……宇野事務次官は視察に行かれないんですか?」
「私は辞退した。海上警備ならともかく、視察団への同行は管轄外だ」
そういえばこの度、宇野事務次官の所属が変更になったらしい。
役職が防衛省の事務次官なのはそのままだが、領域外調査庁から野外調査庁という名称に変更となったそうだ。その際、幾つかの組織が改名、吸収合併となったが、俺たちに関係するところだと、長谷川氏が課長から次長職へと昇進し、領域外管理局保安課からギルド管理局保安部へと所属を移した。
人類踏破領域という名称は今後使用されなくなるのに合わせての変遷らしいが、本人たち曰く、やることは変わらないどころか、責任と業務が増しただけだとぼやいていた。
政府の人材不足はやはり深刻なようだ。
話が脱線したが、とにかく宇野は今フリーな状態らしく、なかなか取れない休暇も兼ねて、鹿江港で魔物狩りでも楽しもうかと企てていた。俺と乃木もそれに誘われたのである。
しかも意外な人物まで名乗り出た。
「私も参加するわ! ゴーレム君の戦ってるところが見たい!」
朝山参事官である。
仕方がないので、俺はこの濃いメンバー4人で出掛けようとしたが……
「あー! 森に行くの!? 私も一緒に行くー!」
シグネまで加わった。
(濃すぎる!? もう、胸焼けしそうな面子だよ!)
自分の事は棚に上げ、俺は変人たちとパーティを組んで言い知れない不安に襲われたが…………
「あー! シグネちゃん! あっちでスライムをテイムした子が、スライム七変化ショーをやるんだって! 一緒に見に行かない?」
「うん、行く行くー!!」
シグネはUターンすると、そのスライム七変化ショーとやらを見に行ってしまった。
(何それ!? 俺もめっちゃ気になるぅ!?)
シグネは嵐のように現れ、嵐のように去ってしまったが、俺はこの三人を放置する訳にもいかず、仕方なく即席パーティで森の奥深くへと踏み込んだ。
「さて、我々はこの森に不慣れだから、行き先は君たちに任せよう」
「エスコート、宜しくね」
宇野と朝山にそう言われ、俺と乃木は二人して顔を見合わせた。
「なぁ、どこか丁度良い狩場はないかなぁ?」
「うーん、この辺りは強そうな魔物を一通り狩ってしまったから、少し遠方まで行かないと……」
俺に尋ねられた乃木は困っていた。
この辺り一帯はすっかり平穏になったらしく、時折EランクのゴブリンやDランクのケルピーが出没するだけのようだ。
「そもそも、お二人はどの程度のランクを倒せるので?」
疑問に思った乃木が宇野たちに尋ねた。
「ふむ、私はソロならCランク相手がやっとだな」
「私はDランクかしら? 前の視察以来、あまり実戦経験がないのよ。特訓はしているけどねぇ」
思ったより強かった。この人たち、政府の官僚だよな?
「ふむ……。やはりこの辺りの魔物だと退屈させてしまうようですね」
やはり遠征しかないか……。
だが今はエアロカーを佐瀬たちに貸していた。彼女らは友人たちを連れてブルタークの街を案内する気のようなので貸したのだ。佐瀬の魔力量ならブルタークと鹿江間の飛行距離であれば問題ない。
(エアーバイクはお蔵入りだしなぁ……)
あれは聖女ノーヤが公に使ってしまったので、今後は女装時にのみ利用する事が決定してしまった。迂闊にあのバイクを使うと、俺と聖女ノーヤの関係性を疑われてしまうからだ。
蘇生魔法の秘匿は俺たちパーティ内では最重要の機密だ。あの魔法だけは、俺が持っていると悟られるわけにはいかない。
だが、仮に俺の知り合いがどうしようもない場面に出くわしたら、その時は躊躇なく使用するつもりでもいた。蘇生魔法で人生縛られるつもりは無いが、だからといって気にし過ぎて逆に使わないのもナンセンスだ。
あれこれ行き先を悩んでいる内に、俺たちは例の渓谷沿いの道に出た。
「そうだ! 矢野氏、ここから南に行ってはどうかな?」
「南? この渓谷を飛び越えるのか?」
確かに、そっちの方は地形上、鹿江町の人間も踏み込んだ形跡はなく、魔物もそれなりに棲息しているのだろう。
「え? この渓谷を飛び越えるの? 本気?」
一方、それを聞いた朝山は不安そうに尋ねた。
「大丈夫です。ゴーレム君は空も飛べるので、お二人なら一度に運べますよ」
「そういう事ならOKよ! 早速行きましょう!」
(この人、ゴーレム君を好き過ぎんだろう!?)
どことなく、第三王女とキャラ被りしないでもない。
宇野の了承も取れたので、ゴーレム君に二人を運ばせ、俺たちは自力で飛び越えることにした。
「乃木、この距離なら大丈夫だよな?」
「問題無しだ!」
さすがは船を引っ張る男。
(もう既に人間止めてるな、コイツ……)
俺と乃木は10メートルほどの距離と1メートルほどの高低差がある対岸へと、悠々と飛び移った。
(ごめん、俺も人間止めてたわ。結構余裕だったね……)
渓谷を挟んで南側の森は、ほとんど人が踏み入れた様子が無いのか、薄っすらとしていた。
「ほぉ、これは盲点だった。中々良い狩場を見つけたな!」
乃木は嬉しそうにほほ笑んでいた。
「ゴーレム君は出しておきます。彼の傍なら、余程の強敵が現れない限り、どうとでもなりますよ」
「それは心強いな」
「ゴーレムきゅん……!」
可哀想に……。すっかり拗れてしまい、最早人外しか愛せなくなってしまった独身アラフォー女性がそこにいた。
(……そういえば、オッドはああ見えて45才……年上だな。今度、朝山女史を紹介してみようかな?)
あんな彼女でも年上エルフとなら案外上手くいくかもしれない。
寿命の違いすぎる種族間との恋愛は、一体どのような結末を迎えるのか個人的にも興味がある。この世界にはハーフエルフという存在も居るそうだが、この辺りでは全く聞かない。それ程、種族の違う恋愛は難しいのだろうか?
しばらく森の中を彷徨っていると、早速魔物が登場した。
(あれは……初めて見るな)
俺はポケットからスマホを取り出すと、魔物図鑑アプリで写真を撮って調べた。
(……なるほど。Cランクの羊タイプか)
確かに羊っぽいが、色がかなりカラフルだ。毛が紫や赤みがかっている。
「こいつ、ポイズンシープですって。どうやら角に毒があるみたいです」
それにしても、ヤギと羊ってどっちだったか混乱するのは自分だけかな?
シープは羊でヤギはゴート……また忘れそうだ。
「矢野氏!? 角! 角ぉ! さっきから、その毒角とやらで突っつかれてるからぁ!」
俺はポイズンシープに頭部で小突かれながら考え事をしていた。
「いやはや……君にとってはCランクの魔物など、鎧袖一触という訳か」
全く平気そうな俺の様子に、宇野と朝山は呆れて見ていた。
「自分、状態異常にはめっぽう強いので、安心して戦ってください」
折角なので宇野と朝山に倒して貰う事にした。これぞ異世界流接待術、パワーレベリングである。
二人は自己申告通りの実力で、盾役さえいればCランク相手は物ともせず倒して見せた。
それからも未踏の森を歩き続けて狩りを続けた。渓谷を跨いだだけで、凄まじいエンカウント率となった。しかもどの魔物も好戦的なのだ。まるでダンジョンである。
これには乃木もニッコリであった。
(こんな危ない森だったのか……)
渓谷を超えたこの先は、俺が初めて転移した日に踏み入れた、あの森である。くくりとしては、鹿江大学の学生たちがいた元拠点も、鹿江港周辺も全て”東の森”という名称ではあるが、この辺りの開拓は手付かずだったらしく、あの当時のままのように魔物が徘徊し続けていた。
このままずっと南に進むと、例の開拓村跡がある筈だ。
「…………ちょっと寄りたい場所があるのですが、いいですか?」
「ん? ここから近い場所なのかい?」
「多分、そう遠くないと思うのですが……」
最悪、遅くなりそうなら後で佐瀬に連絡して、エアロカーで拾ってもらえばいい。
思えば今は冬の時期で、そろそろ春へと転じる季節が近づいていた。
そう、この時期は丁度、あの惨劇が起こった季節なのだ。
(……あれ以来、一度もあの場所には戻っていなかったなぁ)
この機に俺は墓参りをしようと考えたのだ。
提案は了承され、俺たちはそのまま森を南下し続けた。
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