第127話 リストアの魔法
メッセン古城ダンジョンに籠って一週間が経過した。
「おはよう」
「ふわぁ、おはよ……」
珍しく夜更かししたのか、佐瀬が大きな欠伸をしながら挨拶を返してきた。
「昨日も遅くまで魔法の練習か?」
「んー、そろそろ新魔法を覚えられそうな気がするのよね……」
最近の佐瀬は新たな雷魔法を習得するべく、色々と奮闘していた。
それというのも、あの魔法書を手に入れてからだ。
マジックアイテムの魔法書には全ての魔法名と習得者の人数が記載されている。つまり、未だ習得していない魔法でも名前だけはこの本で知る事ができるのだ。
実はこれは、魔法を習得する上で結構重要なファクターらしい。
“魔法を発動させるには最低限の魔力量が必要で、その他にも魔法名や魔法の効果なども熟知していると覚えも早い”
昔、ケイヤから魔法を教わった時に、俺はこう習っていた。
雷魔法はレア属性な為、魔法名を知る機会が佐瀬には殆どなかったのだ。
いや、雷に限らず、魔法の情報そのものがあまり市井には広まっていない。
殆どの者が最下級魔法を発動できるだけの魔力量すら持ち合わせていないので、そもそも覚えるのが無駄だという民の考えと、平民にあまり力を持たせたくない為政者側との事情が重なった結果である。
その秘密の情報が、この本一冊で全て知る事が出来る!
……いや、これにも少し語弊があった。正確には二種類の魔法名だけが記載されておらず、その箇所は空欄だったのだ。
魔法名の前にはそれぞれ番号が振られており、光属性魔法から闇属性、火、水、雷、土、風の順番で各十二種ずつ記載されているようなのだ。
恐らくこれが巷に言う“原初八十四の魔法”と呼ばれる基本的な魔法なのだろう。
ここまでは俺も習ったので知っている。
問題はその原初魔法の内、雷属性だと思われるNo.60と多分風属性のNo.82だけが空白なのだ。これでは魔法名が全く分からず、習得もより困難だ。
空欄の右横には習得者人数が0人と記載されているので、初めはそれが原因かとも思ったが、闇魔法No.24の【デス】と雷魔法No.58【リバースサンダー】、No.59【サンダーストーム】、風魔法No.84【テンペスト】も同じく習得者がゼロなのだ。
でも魔法名はしっかり記載されていたので、その法則は当てはまらない。
(――――っていうか、【デス】って何よ!?
恐らく……いや間違いなく、これは闇属性の即死魔法だろう。
そりゃあ蘇生魔法もあるのだから、もしかしたらとは思っていたさ。でもこんな恐ろしい魔法、どう対策しろってんだ!?
【リザレクション】で対抗しようにも、俺が死んだら生き返らせないだろうが!!
こんなふざけた魔法は永遠に習得者人数0人のままであって欲しい。ほんと、マジで……
少し脱線したが、習得者がゼロでも魔法名がきちんと記載されているのもあるので、二種類の魔法名が空欄なのはまた別の理由なのだろう。詳しい者に話を聞きいてみたいところだが、【デス】なんて危険な魔法名が載っている時点で、もしかしたらこの魔法書は禁書扱いの可能性もある。
(成程、為政者たちが魔法を秘匿したがる訳だ……)
魔法名を知られると、それだけ魔法習得の確率も上がる。この魔法書はあまり公にしない方が良さそうだ。
「なんで新しい雷魔法を覚えられないんだろう。他の属性魔法は憶えられたのに……」
魔法名が記載されていて、未だ佐瀬が習得していない魔法はたった三種だけだ。【ライズ】、【リバースサンダー】、【サンダーストーム】……魔法名が載っていても詳しい効果までは流石の魔法書にも書かれていない。
サンダーストームは魔法名で何となく想像できるが、他の魔法はどのような効果なのだろうか? この魔法名も俺たち元地球人が所有する【自動翻訳】で表示されているので、実際の名称は違うのだろうが、名前から想像できることもある。
「まぁ、単純に魔力量の不足によるものかもしれないし、あまり根を詰め過ぎるなよ?」
「はぁ、そうよねぇ……」
溜息をついている佐瀬だが、他の属性魔法は順当にレパートリーを増やしているので、それ以上は強欲というものだ。
(ほら、君のすぐ後ろ。
魔法書を取得しても、相変わらず名波は魔法を覚えられなかった。
「このNo.84までが“原初八十四の魔法”なんだよね? それじゃあ、それじゃあ、No.85以降は違う魔法ってこと?」
シグネの問いに俺は頷いた。
「そうだな。多分それは新魔法だ」
新魔法……正式名称は知らないが、85番目以降の魔法は、神々が与えた魔法とは別で、人類が新たに生み出した魔法である。
新魔法と言っても、No.85の魔法が世に出たのは恐らく何世紀も前の話である。長い年月を掛けて人類は徐々に魔法を増やしていき、この魔法書には現在No.110までの魔法名が記載されていた。
ちなみにNo.110は佐瀬も習得した【マナウェーブ】である。確か新日本政府が魔導電波の技術として使用している魔法の筈だ。
(これって新魔法だったんだ。しかも一番最新の番号……。まさか、最初に開発したのって日本人か!?)
だとしたら歴史の教科書に載りそうな程の偉業だ。今度こっそり宇野事務次官辺りには魔法書を見せてみるかな? 俺たちだけで抱え込むには大きすぎる情報だ。誰か口の堅そうな奴でも巻き込んでやろう。
他にもざっと目を通しただけでも、非常に興味深い魔法名が存在した。
例えば【テレポート】!
これも新魔法らしいのだが、如何せん新魔法は世に生れ出た順に番号を宛てがわれているらしく、属性順で綺麗に並んではいないのだ。これではテレポートが一体何属性の魔法かまるで分らない。
他には【エクスプロージョン】、【フラッド】、【メテオ】、【デビルサーモン】等の魔法名も存在する。
(エクスプロージョンは火属性で、フラッドは……洪水? メテオは火か土辺りか? デビルサーモンって……おいおい、悪魔召喚かよ!? これは間違いなく闇魔法だな)
俺も一通り魔法名に目を通しているが、新たな魔法は全く習得できていない。佐瀬やシグネ程の才覚は俺には無いらしい。
「このNo.84【テンペスト】ってのが風魔法の一番強い魔法なのかなぁ? 原初魔法の中で一番最後に記載されてるし!」
シグネの考察は良い線いっていると思う。俺の【リザレクション】も光魔法の一番後ろ、No.12の位置に載っていた。多分それぞれ各属性の最後、つまり84までの12の倍数に一番強烈な魔法が記載されているのだろう。
その仮説通りなら、以下の魔法が各属性の秘儀だといえる。
No.12 光魔法【リザレクション】1名
No.24 闇魔法【デス】0名
No.36 火魔法【イグニスソード】1名
No.48 水魔法【デミ・アクア】1名
No.60 雷魔法【 】0名
No.72 土魔法【アースフォート】2名
No.84 風魔法【テンペスト】0名
恐らくこれらが噂の神級魔法というやつだ。
ワンランク下の上級魔法ですら戦場に大きく影響を与える大魔法だと専らの噂だが、要塞町フランベールでの籠城戦でも上級魔法を扱う者は現れなかった。それだけ使用者が少ない魔法なのだろう。
それにしても魔法名は英語やラテン語など、色々ごっちゃ混ぜになっていた。これも自動翻訳さんの仕業なのだろうか?
「よし! 魔法談義はそれくらいにして、さっさと朝飯食べて、探索の続きをしようぜ!」
「そうしよう! それがいいよ!」
若干一名は魔法談義に思うところがあるのか、さっさとこの話を終わりにしたそうであった。
オース地区のとある酒場では、筋肉隆々の冒険者同士が口論していた。
「なぁ、ザップ……考え直そうぜ?」
「白金貨10枚ですぜ? 参加しましょうよ! リーダー!」
オースの森に居座る異常気象の元凶、アーススパイダーの亜種に懸賞金が懸けられた。そのあまりの大金に欲をみる者は多かったが、未だ誰一人動けずにいた。それというのも、オース地区最大戦力と称される連合国三大クランの一つ、≪猛き狩人≫が討伐を辞退した為、それを知った者たちが臆してしまっていたからだ。
当初はギルド側からも“待った”が掛かっていたのと、リーダーであるザップの意思もあり自重していたクランメンバーたちであった。
だが、ここに来て事情が一変した。突如、ギルド側も方針を変え、討伐にGOサインを出したのだ。
そんな状況で、白金貨10枚の賞金と聞かされて大人しくしているような冒険者たちではなかった。
特にザップと同じA級である二人の冒険者からは、再三の強い説得がなされた。
「……駄目だ。あまりにも危険過ぎる。俺たちは参加しない」
しかし頭であるザップの決意は固く首を横に振る。それを快く思わない者たちとの間に不和が生じ始めていた。
「危険? 俺たちは≪猛き狩人≫だぜ? 危険な戦いなんて、これまで幾つも潜り抜けてきたさ!」
「ここで引いたらクランの名が廃るってもんだ!」
「馬鹿野郎!! 今回の相手は、そんな生半可なレベルじゃねえんだぞ!? 森の奥にいるだけで、ここら一帯の気象を変えちまうような化物なんだ! 勝ち目のねえ戦いは、俺は御免だ!!」
ザップの言葉に一瞬だけ尻込みをする者もいたが、やはり白金貨10枚という大金は人の目を曇らせるのだろう。
「……分かった。なら俺たちだけで行く! ザップ! アンタとはここまでだ」
「…………何だと?」
ジロリとザップはクランメンバーを見回すと、殆どの者が参戦を希望していた。事ここに至って自分が少数派である事を、クランメンバーたちの顔を見て理解してしまった。
(……まさか、こんなに馬鹿共が多かったとはなぁ)
元々頭の足りない連中は多かった。それでもその不足部分をカバーできるだけの血気盛んな実力者を集めたのがクラン≪猛き狩人≫だ。今までザップは己の腕っ節でそんな連中を纏め上げてきたつもりであったが、どうやら自分にはそこまでの器量がなかったらしい。
(いや、白金貨10枚という大金が連中を惑わせるのか……。タイロンの野郎、余計な真似しやがって……!)
こうなっては破滅へのカウントダウンは最早秒読み段階であった。
仮にここでザップが実力行使で引き止めたとしても、他の馬鹿共が必ず氷蜘蛛にちょっかいを掛けるに違いない。
別に返り討ちになるだけなら問題ない。馬鹿が何人か死ぬだけだ。だが万が一、逃げ出した者が氷蜘蛛を町の方へ誘引するような真似をすれば……そうなればオースはお終いだ。
「…………分かった。俺はクランを抜ける。ただし、一言だけ約束しろ! 死んでもその化物を町に近づけさせるなよ? 死ぬなら勝手にしろ! 逃げるなら、せめて南へ逃げろ! 分かったな?」
「ふん、≪猛き狩人≫のリーダーも堕ちたものだな」
「そんな負け犬思考だから、東の田舎冒険者風情に後れを取るんだ!」
さっきまで仲間であった者たちはザップを“臆病者”だの“卑怯者”だのと罵ると、討伐メンバーを集めに町へと出て行ってしまった。
酒場に一人残されたザップはすっかり温くなった酒の残りを一気に煽ると、急いで町の外へと出た。
(まずはギルドに一報を入れなければ……いや、パナム支部は当てにならねえ! あそこはタイロンのイエスマンだらけだ。向かうなら……ゼトン支部か!)
恐らく……いや、確実に討伐は失敗する。あのイッシンという冒険者と一戦交えてザップはそう確信した。それに歴戦の冒険者である自分の勘が告げていた。このままではオースが……いや、連合国が滅びを迎えると…………
嘗てない恐怖の悪寒に耐えながらも、ザップはゼトンの町へと駆けるのであった。
ダンジョン探索を初めて二週間以上が経過した。
その間俺たちは主にエリア5に出没するAランクの魔物を相手に戦っていた。最初は苦戦していたデュラハンやスケルトンリッターも、ここ最近では破魔矢を封印しても余裕をもって倒せるようになった。
それでもSランクであるエリア5守護者のロイヤルリッチやエリア6のデスペラーレイス相手には
(流石にSランクの壁は厚いな……。しかし、S級相手でも
自分たちはかなり強くなったと思っているが、それでもまだあの氷蜘蛛には届かない。もっともっと鍛錬が必要だろう。
ちなみに現在の俺たちの実力はこんな感じだ。
名前:矢野 一心 ※偽装 ()内がスキルで偽装中
種族:人族
年齢:30才
闘力:19,520
魔力:99,999
所持スキル 【木工】【回復魔法】【剣使い】【スラッシュ】【探知】【怪力】【身体強化】NEW【シールド】NEW【体力】 (【自動翻訳】【偽装Ⅱ】【属性耐性(雷)】NEW【属性耐性(闇)】)
以下、自己申告
習得魔法 【ヒール】【キュア】【リザレクション】【ライト】【レイ】【ファイア】【ウォーター】【ライトニング】【ストーンバレット】【ウインドー】【セイントガード】【クリーニング】NEW【ルイン】
名前:佐瀬 彩花 ※偽装 ()内が偽りの腕輪で偽装中
種族:人族
年齢:20才
闘力:4,973
魔力:32,224
所持スキル 【雷魔法】【放出魔法】【魔法強化】(【自動翻訳】NEW【偽装Ⅰ】NEW【魔法耐性】NEW【属性耐性(闇)】)
以下、自己申告
習得魔法 【ライトニング】【サンダー】【パラライズ】【テレパス】【サンダーボルト】【ライトニングエンチャント】【ウォーター】【サンダーバリアー】【コミュナス】【ウォーターバレット】【ウォーターヒール】【ウインドー】【ゲイル】【ライトニングアロー】【マナウェーブ】【アイスバリアー】【ストーム】【ヒール】【アクアプロテクション】【ウォーターキュア】【サイレント】NEW【アイスニードル】NEW【フォギー】NEW【クリーニング】
名前:名波 留美 ※偽装 ()内がスキルで偽装中
種族:人族
年齢:20才
闘力:21,109
魔力:1,358
所持スキル 【感知】【短剣使い】【双剣使い】【俊足】【弓使い】【的中】【スラッシュ】【捜索】【ショット】【カウンター】UP【限界突破】(【自動翻訳】【気配遮断】UP【偽装Ⅱ】NEW【属性耐性(闇)】NEW【魔法耐性】NEW【五感強化】)
名前:シグネ リンクス ※偽装 ()内が偽りの腕輪で偽装中
種族:人族
年齢:15才
闘力:12,865
魔力:12,148
所持スキル 【解析】【風魔法】【短剣】【スラスト】【剣】【魔法付与】【カリスマ】【ブリーダー】【自然】【スラッシュ】NEW 【農耕】NEW【走力】(【自動翻訳】NEW【偽装Ⅰ】NEW【属性耐性(闇)】)
以下、自己申告
習得魔法 【ウインドー】【ゲイル】【ウインドーバリアー】【サイレント】【エアーステップ】【ウォーター】【ウインドーカッター】【ストーム】【シルフィーム】【ウインドープロテクション】NEW【ゲイルアロー】NEW【ファイア】
以上だ。
全体的に闘力と魔力が爆上がりだ。
やはり強敵との戦闘はステータスを著しく向上させるようだ。しかし当然リスクもあり、俺や名波は何本か手足を斬り飛ばされたりもした。前衛が崩れた後に佐瀬が死にかける危ない場面などもあったが、それでも何とか生還できた。
これが普通の冒険者なら全滅の危機なのだろうが、俺たちにはチート【ヒール】と【リザレクション】がある。メッセン古城ダンジョンのレベル5エリアには他の冒険者パーティの姿は皆無だったので、色々と無茶な戦い方もし放題なのだ。
俺個人の成長としてはスキルを三つ、魔法を一つ覚えた。
【シールド】は透明な盾を展開する防御系の技能スキルだ。既に習得している光魔法【セイントガード】と内容が被るが、このダンジョン内においては大きく違いが感じ取れた。
なにしろ、ここにいる魔物の殆どが闇属性の加護持ちばかりで、光属性の盾だと簡単に破られるのだ。A級レベル相手だと、文字通りの紙装甲である。
逆にこちらの光魔法も有効的なのだが、防御に関しては光と闇では互いに相性が最悪であった。
だからこそ属性に左右されない【シールド】スキルは重宝された。
次に習得したのは適性スキルの【体力】だ。
かなり疲れにくくなった。……これ以上、説明のしようがないスキルだ。
あと【属性耐性(闇)】スキルも会得したが、これは俺だけでなく、パーティメンバー全員が覚えてしまった。多分、面白がって低位アンデッドの攻撃を受けていた事が原因だと思われる。レイスやゴースト相手なら、いくら殴られてもちょっと身体がだるくなるだけだ。面白がって幽霊相手に肉弾戦をしていた結果だろう。
それと初の闇属性魔法を習得した。
【ルイン】という闇属性の魔法弾を放つだけの最下級魔法だが、これで俺は全属性をコンプリートしたことになる。益々器用貧乏さに磨きが掛かった。しかし、回復魔法だけは除く。
「むぅ、雷魔法が覚えられない……」
そう不満を口にしていた佐瀬であったが、新たに三つの魔法を習得済みだ。
水魔法の【アイスニードル】、これはあの氷蜘蛛が使っていた、地面から氷の棘を出す魔法だ。実際に魔法を見て魔法名も知ったのだ。彼女ほどの才覚なら習得するのは容易いのだろう。
それと同じく水魔法の【フォギー】も覚えた。これは原初の魔法ではなく、どうやら人類が生み出した新魔法のようだ。魔法書に記載のあるナンバリングはキリの良いNo.100だが、効果は周囲に霧を発生させるだけと、かなり地味な魔法だ。
記念すべき100個目に生まれた魔法がこれでいいのか、
それと佐瀬も俺が習得していた【クリーニング】を覚えた。異世界物あるあるの、身体の汚れやバイ菌を除去する光属性の下級魔法だ。佐瀬は中級魔法より、そっちの方を習得できたことを非常に喜んでいた。
名波が凄い形相で羨ましそうに見ていた。
あと佐瀬はスキルを三つ、【偽装Ⅰ】と【魔法耐性】、それと【属性耐性(闇)】を習得している。
どうも俺たちは偽装スキルの習得率が高いように思われる。普段から色々隠し事をしていたり、≪偽りの腕輪≫を身に着けていたのが要因だろうか?
【魔法耐性】は【属性耐性(闇)】とは違い、魔法全般の耐性が向上するようだ。試しに手加減して色々な魔法をフレンドリーファイアしてみたり、魔物の魔法をわざと受けてみたりと検証を重ねてもらったが、全属性への耐性だけでなく、状態異常にも強くなっているようである。
正直、めちゃくちゃ羨ましいスキルだ。
一番魔物にボコられ、時折佐瀬の【ライトニング】で折檻される俺より先に習得するとは……世の中は不公平である。
名波は闘力を遂に2万オーバーに達した。ダンジョン前は1万くらいだったので、凡そ倍増と凄まじい進歩を遂げていた。
スキルも【魔法耐性】と【属性耐性(闇)】を当然の様に習得している。更に【五感強化】という技能スキルも身に着けていた。そのスキルを発動すると、一定時間あらゆる感覚が研ぎ澄まされるそうだ。【感知】スキルと併用すれば、最早彼女に死角は存在しない。
更に【偽装Ⅰ】から【偽装Ⅱ】に、【身体強化】は【限界突破】に進化した。
俺と名波は【偽装Ⅱ】の効果によりステータスを好きなように改竄できる。シグネの【解析】でも見破れないのは実証済みだ。佐瀬とシグネもマジックアイテム≪偽りの腕輪≫を所持しているので、これでようやく全員のステータス偽装が可能となった。
ただ佐瀬とシグネはマジックアイテム頼りなので、なんとか【偽装Ⅱ】も覚えてもらいたい。貴族との謁見時にはアイテムが持ち込めない事もあるからだ。検問などで引っかかるケースがあるので、極力スキルの力だけで偽装しておきたい。
【限界突破】スキルは【身体強化】の上位版で、より肉体強化を高められるようだが、その反面フルパワー使用だと消耗もその分激しくなっているようだ。それを知らず名波も最初の内はよく魔力切れをおこしていた。あまり調子に乗って使うと危険なスキルである。
そして魔法の方だが……名波は相変わらず未習得のままだ。
「……まほうってなに? それ、美味しいの?」
……当面の間、彼女の前で魔法談義は無しの方向だ。
シグネは【偽装Ⅰ】、【属性耐性(闇)】、【農耕】、【走力】とスキルを四つも習得していた。【農耕】以外はどれも既に知っていたスキルなので問題無いのだが、何故ダンジョン探索中の、このタイミングで【農耕】スキル?
本当にこの子のスキル構成は予想が出来ない……
「私、パーティを追放されたら辺境の地でスローライフを始めるんだ!」
また異世界物大好きっ子が意味不明なことを言いだした。
(大丈夫、【解析】スキル持ちなんて追放しないよ。というか、逃がさないよ?)
それにシグネちゃんを追放したら、絶対に”ざまぁ”されてしまう。それだけは回避しないとね。
冗談はさておき、魔法の方に関しては風魔法【ゲイルアロー】と火魔法【ファイア】を習得していた。
【ゲイルアロー】はアロー系という事で、追尾性能が備わっている風の矢だ。まぁ、風属性に有利な土の加護持ちはどいつも鈍間な魔物が多いので、あまり意味が無いのかもしれない。
それと俺以外に火属性【ファイア】を習得したのは何気にシグネが初であった。一応名波は【ファイア】の魔法を放てる≪火撃の腕輪≫を所持していたが、火を起こせる人数が増えるのは喜ばしいことだ。
以上がメッセン古城ダンジョンで新たに手に入れた俺たちの力だ。
「思った以上の収穫だ。アンデッドばかりというのは気が滅入ったが、なかなか実りのあるダンジョン探索だったな」
そろそろ長谷川氏とも一度会っておきたいので、俺たちは久しぶりに地上へ戻る事を決めた。
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