第125話 これって反則?

 古城ダンジョン探索五日目、俺たちはルード少年の助言通りに進み、遂にレベル4エリアである城内へ続く正門付近へと辿り着いた。


 ダンジョンの外側から観察した際は割と近そうに見えた本丸であったが、実際内部に入るとかなりの距離を歩かされた。しかもメッセン古城ダンジョンには転移ポイントが無いらしいので、帰りのことを考えると少し億劫である。


 城内エリアからはレベル4となり、それに伴い当然魔物の質も向上し、討伐難易度Bランクの魔物がいるそうだ。他にも出入口はあるそうだが、ルード少年曰く、正門からが一番楽できるルートらしい。


(別に魔物との戦闘が目的だから、楽じゃないルートでもいいんだけどね)


 だが折角教えてもらった情報なので、最初は正門ルートから試してみる事にした。




 城内もやはり外観より広いらしく、経路もより複雑になっていた。この辺りは階層型ダンジョンを彷彿とさせる構造だ。



「お! 早速来たな!」


 レベル4エリアで最初に姿を見せた魔物は、頭部が三つ、腕と脚が六本ずつある、骨の化物であった。


「鑑定したよ! 名前はトライスケルター、アンデッド・スケルトン種の魔物だよ!」


「トライ……成程ね。スケルトン三体分ってことか!」


 しかしアンデッドはなんでもアリなようだ。


 多脚なスケルトンの姿はカニを連想させるが、六本の腕に剣や盾を装備しているのは非常に厄介だ。それに頭部が三つもあるという事は、その分死角も少ないのだろう。


「ふん! 眼の多い魔物とは、この前やり合ったばかりだ! 【ライト】!」


 俺が魔法名を大声で叫ぶと、三人はすぐに察してくれたのか目を伏せた。少し遅れて俺も目を瞑り魔力増し増しの強烈【ライト】をお見舞いする。


 ―――っ!?


 アンデッドにも目潰しは有効だったのか、閃光弾擬きの【ライト】にトライスケルターは身体をふらつかせた。そこへ名波とシグネが颯爽と駆けつけ、腕を一本ずつ斬り落とした。


 俺も脚を二本砕く。


 ようやく視力を取り戻したのか、トライスケルターは遅まきながら俺たち前衛組を迎撃せんと再稼働し始めた。


 だが多勢に無勢な上に、自慢の手足も早々に数を減らされ、トライスケルターは碌に活躍の場を与えられることも無く散っていった。



「うーん、流石に三人がかりなら余裕だな」


「私、全く出番無かったし……」


 魔法を撃つタイミングすらなかった佐瀬は一人不服そうだ。


「次は二人ずつで行く? あ、おかわり来たよ!」


 遠くからトライスケルターがカシャカシャ音を立てながらこちらに向かってくる。多脚骸骨の走る様はちょっと……いや、かなり不気味であった。


「じゃあ、今度は私も戦うから! 【ライトニング】!」


 佐瀬の放った魔法は最下級レベルだが、【放出魔法】や【魔法強化】の魔法系適性スキルによる補正と、更には魔力量の多さも加わって、その威力は中級魔法にも匹敵する。しかも【ライトニング】は速射が可能なのだ。


 佐瀬の容赦のない連射電撃攻撃を受け、ようやくトライスケルターが彼女に近づいた時には、既に頭や手足がいくつか欠けていた。


(もはやダブルスケルター……いや、トライは確かラテン語だから……デュオスケルター?)


 名称の是非はともかく、佐瀬の先制攻撃で骸骨は二体分の化物へとランクダウンし、トドメを任された名波にとってはイージーな相手へと成り下がってしまった。


「カルシウム不足だよ!」


 相手の攻撃を躱してコアを突き刺した。トライスケルターは骨をボロボロと地面に落とし、魔石だけを残して全て消え去って行く。


「二人でも楽勝だね」


「じゃあ、今度からソロで倒そうよ!」


 シグネの宣言通り、俺たちはトライスケルター相手にタイマン勝負を持ち掛けた。Bランクの魔物相手にソロなど、昔なら考えられない行為だが、今の俺たちなら造作もない。



 トライスケルターの他にも魔法が得意なアンデッド・キャスター種、リッチが現れたので、それもソロでの戦闘を試した。


 リッチは闇属性や火属性の魔法を好んで使用してきた。余裕だろうと思って様子見していた俺たちは、そこでちょっとした苦戦を強いられた。



「うわっ!? 急に真っ暗になった!?」


 恐らく視界を阻害する魔法を受けたのだろう。


「闇魔法の【ブラインド】か!? 多分これで治るはず……キュア!」


 俺の【キュア】も大概チートで、魔力を多めに籠めればどんな状態異常も回復できるのだ。これで治せなかった病気やデバフは今のところ存在しない。恐らくこの魔法、癌すらも治せるんじゃないだろうか?


 ただし魔力の回復手段はないので、敵の魔力ドレイン(シグネ命名)攻撃には注意が必要だ。魔力ドレインは今のところソウル系とキャスター系のアンデッドだけが使ってくる技みたいだ。


 敵のブラインド攻撃には驚かされたが、ネタが割れればリッチも大した相手ではなかった。








 ダンジョン探索六日目、レベル4のエリア内部はルード少年も詳細を知らないようなので、俺たちは虱潰しに廊下を探し回った。


 すると、ようやく先に進めそうな出入口を発見した。


 やたら豪華な飾りつけをされた大扉を見つけたのだ。



「この先がレベル5エリア……」


「討伐難易度Aランクの魔物もいるんだよね?」


「ああ、流石にここからはお遊び無しだ!」


 ゴーレム君も取り出しての総力戦である。



 そういえば、夜営時にゴーレム君が寝ずの番をしていた際、アンデッドと何度か交戦してきたが、魔力ドレイン攻撃を受けると動力源に籠められている魔力貯蔵量が大きく消費されてしまうのだ。


 どうもソウル系やキャスター系のアンデッド相手は、勝てはするものの苦手なご様子だ。


 その代わりスケルトン系やゾンビ系には滅法強い。ちょっとやそっとの力や技ではゴーレム君の装甲はぶち破れないのだ。近づいて潰してお終いである。


 まさしく力こそパワー!



 豪華な大扉を潜り抜けると、その先もやはり通路であった。ただし、先程までとは打って変わって、通路には見事な装飾があちこちに散りばめられていた。本来この城の区画は、王族や上級貴族しか踏み込めないような格式ある場所なのだろうか?


 そもそもこの古城はダンジョンなので、この城が本当に実在していたかは定かではない。



「この金の飾りって持って帰れないのかなぁ?」


「うーん……だめ、外れない……」


 うちの女性陣は蛮族さながら、立派な黄金の飾りつけを剥ぎ取ろうとしていた。だがどうやら装飾類もダンジョンの壁扱いなようで、闘力1万相当ある名波のフルパワーでもビクともしなかった。


(こら、そこ! ゴーレム君に剥ぎ取らせようとするんじゃありません!)



 少し緊張感が緩んでしまったが、改めて俺たちは真っ赤な絨毯の敷かれた通路を進み始めた。



 そういえば、この通路にある壁や窓はどこも朽ちておらず、汚れなども一切見当たらない。古城というより、まるで現役のお城のような雰囲気だ。俺はかつてエイルーン王国で招待されたハイペリオン城を思い起こした。


(……あれ? よく考えたら俺、結局城内には入れてもらえなかった気がする)


 あの時は城の横にある訓練場と、同じ地区にある研究所に足を運んだだけで、城の中は入ったことも無い。



 考え事をしながら歩いていると、前を歩いていた名波の足が止まった。


「……いる。この先、一匹!」


 彼女の言う通り、通路を曲がった先には首の無い大きな甲冑が仁王立ちして待ち構えていた。


「デュラハンか!?」


「うわぁ、随分メジャーなのが出たねぇ!」


「格好いい! 強そう……!」


 ファンタジー大好き組はテンションアゲアゲである。佐瀬も雰囲気から油断ならない相手だと感じ取ったのか、静かに杖を構えて魔法の準備を開始した。


「【ライトニングアロー】!」


 佐瀬は初手から中級魔法をぶっ放した。


 魔法発射と同時に、両手剣を構えていたデュラハンは、その大きな体型からでは想像できない速さで躱そうとしたが、アロー系は誘導弾なので直前で曲がり、回避しきれずに少しだけ被弾した。


 そこへ俺と名波が左右から畳みかけた。


「「――【スラッシュ】!」」


 二人同時に技能スキルで威力増しの斬撃をお見舞いするも、デュラハンは甲冑の上に装備している籠手で防ぎ切った。防御は相当硬いらしく、切断こそできなかったが、籠手にヒビを入れることには成功した。


「二人とも、離れて!」


 背後から聞こえてきたシグネの声に、俺と名波は直ぐにその場から散る。


 その直後、後ろからゴーレム君がデュラハンにタックルを敢行した。衝撃で少しだけ後ろに仰け反ったデュラハンだが、倒れずに踏みとどまると、驚いた事に両手剣をゴーレム君へ振り下ろして反撃してきた。


 そのカウンター攻撃は片腕できっちりガードしたゴーレム君だが、右腕にひび割れができてしまった。


「なあっ!?」

「とんでもないパワーね……!」


 頑丈さを誇るゴーレム君に傷を負わせるとは……


 どうやら単純な能力値ではゴーレム君並みか、それ以上のようだ。


「これなら効くかしら? 【パラライズ】!」


 搦め手の麻痺魔法を放つも足止めにはならず、デュラハンは佐瀬に構わず、近くにいた名波の方へと接近してきた。


「留美!?」


 狙われた親友に佐瀬が悲鳴を上げるも、名波は冷静にデュラハンの攻撃を避けた後に、アダマンタイト製の包丁でひび割れた籠手に一撃を入れて大破させた。多分【カウンター】スキルの効果が発揮したのだろう。


 俺も負けじとノームの魔剣で背後から強襲を仕掛ける。だがあっさり両手剣で弾かれてしまった。そのまま今度は俺をターゲットに定めたのか、デュラハンが連撃を繰り出してきた。


(こいつ……【剣】スキル持ちか!?)


 パワーも然ることながら、戦い方にも隙が無い。俺の剣が悉く防がれて、逆にこちらは生傷が増えていくばかりだ。恐らく剣でのタイマン勝負だと、今の俺では勝ち目が薄い。


「させないよ! 【ゲイル】!」


 シグネの風魔法が丁度デュラハンの踏み込んだ右脚に被弾し、僅かだがバランスを崩す。


「そこだ! 【スラッシュ】!」


 渾身の一撃でデュラハンの両手剣を大きく弾くと、至近距離から左手で【レイ】をぶちかます。


 ――っ!?


 初めて嫌がるそぶりを見せた。どうやらこいつも光魔法は苦手なご様子だ。


 更に追い打ちをかけるべく名波が援護射撃をする。いつの間にか短剣から弓に持ち替えており、精霊の矢筒から取り出した矢でデュラハンを射抜いた。


 そこで衝撃の光景が目に映った。


「「「えっ!?」」」


 矢はいとも簡単にデュラハンの硬い装甲をぶち抜いて、左肩から先を吹き飛ばしたのだ。


「うっそぉ!?」


 あまりにも呆気ない。


 これには放った本人の名波も驚きの声を上げていた。


(そうか! あの矢は俺の回復魔法の魔力を籠めた矢だ。つまりは光属性……破魔矢なんだ!)


 俺はマジックアイテムなどに魔力を練り込む際、少量なら特に問題無いのだが、大量に魔力を送るとなると、魔力操作が苦手で制御ができなくなるのだ。


 そこで大量の魔力を特定のアイテムに籠める際、制御の得意な回復魔法の要領で魔力を送る場合がある。その手法だと、不思議と暴走しなくて済むのだ。


 エンペラーエントの枝の加工時や、エアロカーやゴーレム君への動力源の供給、そして≪精霊の矢筒≫に自動補充される矢に魔力を籠める際もそれに該当する。


 今回は恐らくそれが上手い具合に作用したのだと思われる。予め矢筒に入っている6本分には、俺の尋常ではない魔力が、光属性として籠められているのだ。


 精霊の矢筒から矢を抜くと自動的に補充される仕組みで、再び矢に魔力を籠める必要がある。だが、最初の6本だけでも十分であった。



「名波! 俺の魔力を籠めた矢は闇特効だ! じゃんじゃん当てちまえ!」


「――っ!? なるほど……了解だよ!」



 そこからは勝負にもならなかった。


 2本目、3本目と立て続けに放った矢でデュラハンの身体は半壊し、最後はゴーレム君の左ストレートで粉々になって消えた。


 どうやら右腕を壊されてゴーレム君の怒りボルテージも上がっていたようだ。



「あ、ドロップだ!」


 すかさずシグネが鑑定する。


「首無し甲冑の破片……これって素材に使えるのかな?」


「あんだけ頑丈な鎧の破片だ。ゴーレム君の補強パーツに使えるかもな」


 ここまでの道中で幾つかの素材をドロップしたが、ゴーレム君に利用できそうな代物は見つかっていなかった。デュラハンの素材なら十分役目を果たせそうだが、この破片だけでは量が足りないので、今後のドロップに期待するとしよう。




 少し休憩した後、俺たちは更に奥へ進む。


 すると今度はスケルトン種が姿を見せた。ただのスケルトンにしては豪華な装備に赤いマントを身に纏い、手には立派な槍も持っていた。


 あれもAランクの魔物なのだろうか。


「スケルトンリッター、だって」


 シグネが鑑定して名前を教えてくれた。


(リッター……骸骨の騎士ってことか)


 俺たちが戦闘態勢を取ると、スケルトンリッターは瞬時にこちらへ突撃してきた。


(はやっ!?)


 何とか初撃を剣で防ぐも、即座に繰り出された二撃目は避け切れず右腕を狙われる。事前に展開していた【セイントガード】の障壁ごと腕を貫かれ、俺は後退を余儀なくされた。


「ぐっ!? もらっちまった!」


 どうやら【セイントガード】は光属性な為、アンデッド相手だと紙装甲になるらしい。光と闇は互いに相性が良すぎる所為か、守勢に立たされると不利になるみたいだ。


(なるほど……特効持ちなのはお互い様ってか……)


 すぐに【ヒール】で右腕を治療する。その間はシグネが前衛を受け持っていてくれた。


「うわわっ! こいつの攻撃、速いよ!?」


 シグネは【エアーステップ】を駆使して立体的に逃げながら相手の高速刺突攻撃をどうにか凌いでいた。


「そこっ!」


 名波は俺が再補充した光属性の矢をスケルトンリッターに放ったが、何と奴は槍で撃ち落とそうとした。だが、その槍も闇属性判定だったのか、あっけなく破壊されてしまう。


「ありゃりゃぁ……」

「これは酷い……」



 その後はワンサイドゲームであった。


 武器を失ったスケルトンリッターは素手で必死に抵抗してみせたが、ゴーレム君に絞殺されてゲームセットだ。


 光の矢、つおい……


「うーん、これは訓練になるのかなぁ?」


 思った以上にバランスブレイカーな自身の弓と矢を見て、名波は首を傾げた。


「と、とりあえず、このまま行けるところまで進んでみようぜ!」



 少し卑怯にも思えるが、俺たちは破魔矢チートを活用しまくって、どこまで行けるのかを一度試してみた。その結果――――



 ――――半日でボス部屋の前まで辿り着いてしまった。




「……余裕だったわね」

「最後のリッター君は惜しかったんだけどねぇ……」

「ああ、片腕失っても必死に矢を避けながら善戦していたからなぁ……」

「憐れ……南無南無……」


 闇特効のあの矢は控え目に言っても反則だ。


 大型のデュラハン君だと的にしやすく初撃でほぼ詰むし、スケルトンリッター君も俊敏さが仇になるのか、大半が矢を撃ち落とそうと試みて武器を失い、やはり詰む。


 なんか後半はアンデッドたちが可哀そうに思えてくる程のアドバンテージを感じた。



「ここのボスは確かSランクなんだよね?」


「そうらしいな。リッチ系みたいだけど、詳細は分からん」


 一回目の探索でここまで来られるとは思ってもいなかったのだ。そもそも俺たち以外にここまで来られる冒険者も中々居ないらしいので、レベル5の守護者はロイヤルリッチだという情報くらいしか得られなかったのだ。



 豪華絢爛な扉をそっと開けて中の様子を探る。


「……まぁ、当然留守じゃあないよなぁ」


「居るねぇ……暗くて姿は良く見えないけど……」


「どうするの? 挑戦する?」


 討伐難易度Sランクは未知の領域だ。本来ならまだ勝てないと思うのだが……


「……破魔矢で何とかならないかな?」


「どうだろう? 撃たせて貰えるか……そもそも当たるかなぁ?」


「試してみて、駄目なら諦めようよ!」


「……だな」


 ダンジョンのボスは逃げる事が可能だ。エリア型の古城ダンジョンでも守護者から撤退可能なのは調査済みである。



 少しだけ、ほんの少しだけ魔が差して、この扉の手前から射ぬきたい衝動に駆られるも、卑怯な行為をダンジョンは決して許さないだろう。ボスが手出しできない外側からの攻撃はダンジョン側からペナルティが科せられる筈だ。


 ペナルティ内容は様々らしいが、よく聞く事例が、ボス部屋やもっと厳しい場所に強制転移させられるとか、あるいは絶対出てこないはずのボスが部屋から出て来るといった恐ろしい現象を引き起こすそうだ。


 ギルドでもそういった行為は厳重に禁止とされていた。


(……うん、絶対に止めておこう)



 覚悟を決めた俺たちはボス部屋へと踏み込んだ。


 相手もこちらを認識したのか、ゆっくり地面すれすれに浮かび上がりながら、近づいてきた。


「あれは……やはりロイヤルリッチか? 随分と豪華な衣装を身に纏っているようだが……」


「うん、ロイヤルリッチで合ってる! 王様リッチだね!」


 成程、情報通りだった訳だ。


 俺たちがそれぞれ武器を構えると、あちらも臨戦態勢を取ったようで、凄まじい魔力の波動を感じた。流石はSランクと噂されるアンデッド・キャスター種だ。


 ロイヤルリッチは煌びやかな杖をこちらに向け、そこに魔力を集中させた。やはり闇属性の魔法を放つのだろうかと警戒していると――――


 ――――名波の放った矢がロイヤルリッチの頭部をぶち抜いた。


 ロイヤルリッチは頭部を失い、デュラハン状態となったままふよふよと浮かんでいた。


「あれ? まだ死なないのかな? もう一発!」


 名波は無慈悲にも二射目を胴の真ん中に命中させた。


 すると今度こそ致命傷だったのか、豪華なローブごと地面に崩れ落ち、しばらくして消え去った。


 その場には見たことも無い大きさの魔石や素材と宝箱が二つ取り残されていた。


「「…………」」


「わ……わああ! やったねぇ、ルミねえ……」


「う……うん。すごく……つよかったねぇ……」


 二人がわざとらしく取り繕うが、記念すべき初のSランク戦はひどく呆気なく終了した。


 この破魔矢……ここだとチート過ぎませんかねぇ!?


「……これ、ダンジョンからのペナルティ……無いよな?」


 不安そうに尋ねる俺に誰も答えてはくれなかった。








「ゴホンっ! 気を取り直して……お宝タイーッム!!」

「いええええええぃ!!」


 何はともあれ、俺たちは前人未到であったレベル5エリアに君臨するボスを倒したのだ。メッセン古城ダンジョンにおける新記録である。


 しかも、今回は魔石とドロップ品に加え、なんと宝箱が二つも出たのだ。


(もしダンジョンマスターなる存在がいるのなら、足を向けて寝れねえなぁ!)


 こんなに楽に倒せて報酬までもらえて、ありがたや、ありがたや……



 名波とシグネはウキウキしながら宝箱を開けようとしていた。ちなみに罠はなかったらしい。


「Sランクの魔物を倒した報酬だし、ちょっと中身に期待しちゃうかなぁ……」


 まず一つ目の宝箱から出てきたのは……どこかで見た覚えのある巾着袋だ。


 それを鑑定したシグネが驚いていた。


「――っ!? これ、イッシンにいのと同じ、マジックバッグだよ!?」


「「ええええええっ!?」」


「マジか……」


 いきなりとんでもないものを引き当ててしまった。


 俺のマジックバッグは使用前に、自らの魔力を籠める事により、その魔力量で最大容量や効果が変わるという代物であった。だからこそ伝説レジェンド級なんていうデンジャラスなアイテムに格上げされてしまったのだ。


 ちなみに、まだ魔力を籠める前のデフォルト状態だと以下の通りの鑑定結果が出た。




名称:マジックバッグ(未使用)

マジックアイテム:秘宝トレジャー


効果:見た目以上の物を収納できる

中に手を入れ魔力を籠めると、その多寡で性能が変化する




 本来なら秘宝トレジャー級であるマジックバッグが、俺の底なし魔力を籠めると以下の通りである。




名称:マジックバッグ

マジックアイテム:伝説レジェンド


効果:見た目以上の物を収納できる

最大容量は1,510万立方メートルで、外界の凡そ1/187,200の速度で時間が経過するが生物や形のない実態のモノは収納できない。取り出しは手の届く範囲内で行え、入り口の大きさは無視できる




 以前より魔力量が増えた恩恵か、俺の所持していたマジックバッグより僅かに性能が上昇し、やはり伝説級アイテムへと変貌を遂げてしまった。


(うわぁ、更に危険なアイテムが増えちまったよぉ……)


 このレベルのマジックアイテムだと国家レベルの取り合いに発展してもおかしくないそうだ。だが危険物だと分かっていても、魔力量を手加減するだなんて勿体ない真似はできなかった。



 このマジックバッグの扱いについては話し合いジャンケンの結果、シグネが所持する事に決まった。俺と名波は既に持っているので辞退していた。


 ジャンケンに負けて、唯一マジックバッグ系アイテムを所持していないことになる佐瀬はかなり落ち込んでいた。




 次の宝箱から出たのは、一冊の本である。


「え? 何これ?」


「えっとねぇ……魔法書、だって」


「魔法書? 魔導書じゃなくて魔法書?」


 魔導書なら噂で耳にしたことがあるが、魔法書というのは俺も初めて聞いた。


「これ、凄いよ! 全ての魔法が載っている本、だって!」


「「「ええええええっ!?」」」


 ちなみに、魔法書の鑑定結果はこう出た。




名称:魔法書

マジックアイテム:超越エピック


効果:全ての魔法がこの書に記されている

あらゆる属性の魔法名と習得者の人数が記載されている魔導書




 どうやらケイヤから話に聞いていた魔導書と似たモノのようだ。


 魔導書自体の存在は噂されてはいたが、それを所有するのは国家や大きな組織だけな様で、個人所有しているという情報は一切聞かないし、オークションにも出回っていないそうだ。


 魔導書については一般人にまで詳しい性能は伝えられていなかったのだ。



「これも持っていると知られちゃあ、ヤバい系かしら?」


「ヤバい系だろうね……」


 レアなアイテムを入手するのは嬉しいんだけど、どんどん爆弾が増えていくのはどうしてだろう?


 後は≪ロイヤルリッチの遺灰≫がドロップしたくらいだが、この灰は一体何に使えるのだろう?



 呆気ないボス戦ではあったが、報酬は破格だったので深く気にしない事にした。

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