第124話 アンデッド失格

 連合国の首都ニューレには、国の運営方針を決める統制局本部が存在する。


 国の最高決定機関は各地区の代表統治者が集う最高連合評議会だが、彼らは普段自らの地区を治めている為、日頃の運営を行っているのは評議会から推薦された統制局本部の幹部たちである。


 本部局長を始め、大臣クラスの官僚たちは全員、各代表統治者の親類関係で席が埋められていた。現在はメッセン地区を治めるエンニオ代表統治者の長男、ガルシュ・エンニオが、その本部局長を務めていた。



 ガルシュを始め、本部の幹部たちが定例会議をしていた丁度その頃、ニューレにその第一報は届けられた。




「……は? 済まない、聞き間違えたようだ。もう一度報告してくれ」


「ふ、フランジャール地区に、討伐難易度EXランクの七災厄しちさいやくが出現しました!!」


「「「…………はぁああああっ!?」」」


 局員の報せを聞いたガッシュや幹部たちは、人生で一番大きな声を出した。


「ま、待て待て! フランジャール、だと!? それは……事実なのか!?」


 そう真っ先に尋ねた財務長官はルンドヴァル家当主の弟にあたり、彼の家はフランジャール地区を治めている名家だ。


 自分の生まれ育った故郷に七災厄が現れたと聞いて、顔色を真っ青にしながら問い質した。


 いや、彼だけではない。七災厄は大国ですら滅ぼす程の力を持った伝説の魔物だ。ここにいる全員の血の気が引いていた。


「間違いありません! 第一発見者のギルド鑑定士と統制局所属の鑑定士含め、二名が鑑定して視たと報告にあります!」


 報告内容を聞く限り、最早見間違いなどという線は薄いだろう。俄かには信じられないが、どうやら聞き間違いでも夢でもなかったようだ。


「そ、それで……現れたのは……どいつなんだ?」


 本部局長のガルシュは声を震わせながら尋ねた。それと同時に、七災厄について知っている自身の朧気な記憶を脳内に巡らせていた。



 七災厄しちさいやく


 メルキア大陸だけでなく、全世界を震撼させる程の力を持った伝説級の魔物たちの総称である。



 冥王メルクリア


 世界樹ユグドラシル


 赤獅子ミケアウロ


 海王リヴァイアサン


 皇竜ザナーシド


 鬼王ズゥ・オーガ


 不死鳥フェネクス



 どの個体も国家レベル……いや、連合を組んでの総力戦でさえも太刀打ちできなかった化物たちである。


 特に上記の五体、冥王、世界樹、赤獅子、海王、皇竜は討伐難易度EXランクとされ、殆どの国家で手出し厳禁、アンタッチャブルな存在とされてきた。


(海王と世界樹は無い! フランジャールに海は無いし、世界樹はそもそも動かない……筈だ!)


 常識外れな化物たちの生態など、正確な情報は誰にも分からない。何かの気紛れで島の様に大きな海王が陸に上がることも、山のような巨木の世界樹が移動することだってあり得るかもしれない。


 だが、過去の記録を参考するに、その可能性は限りなく低いだろう。


 残るは冥王と皇竜、そして赤獅子が浮上するが、冥王と皇竜であるならば最悪だ。伝承では、かのアンデッドは人類に悪意を振りまき、ドラゴンの皇帝は大陸の形すら変える程のブレスを吐いたとも言い伝えられている。



(冥王と皇竜は止めて! 冥王と皇竜だけは止めてくれええっ!!)


 心の中で祈りながら部下の報告を待った。


「ミケアウロです! 発見されたのは、赤獅子ミケアウロです!」


「はぁぁ……っ!」

「ふぅぅ…………」


 局員の報告に、それを聞いていた者たちは一斉に安堵のため息を漏らした。どうやら考えていたことは皆同じだったようだ。赤獅子であるのなら、そこまで悲観することも無い。


「ま、まぁ、ミケアウロなら……」


「かの赤獅子なら、刺激さえしなければ問題ない……筈だな? そうだよな?」


「え、ええ。その通りかと……」


 七災厄はどれも伝説的な魔物で、中には長年報告例が挙がらない個体もいることから、既に死んでいるか、そもそも存在していないのではないかという議論も度々浮上する程の存在だ。


 その中でも取り分け発見報告が多いのは、海王と世界樹、そして赤獅子だ。




 海王リヴァイアサンは海に棲息し、大型船の船乗りや乗船客が稀に見たという報告を挙げている。近づかなければ無害に等しい魔物だが、至近距離で見た者や攻撃されて生き残ったという証言は一切無い。




 世界樹ユグドラシルは人類史が始まって以来、ずっと同じ場所に居続けている。あれは樹木の魔物エント種の祖とされており、世界樹の森から一歩たりとも出たという記録は一切無い。


 故に遠くからであれば何時でも観測することは可能だが、世界樹のテリトリーを侵犯した者は生きて戻れない。




 そして件の赤獅子であるが、この個体は縄張りも持たず、また出現する場所も法則性が全くない。しかもどうやって移動しているのか謎だが、複数の大陸での報告例も挙がっているのだ。


 赤獅子ミケアウロは小さな猫の姿をしているが、容姿に騙され迂闊に危害を加えようとすると、その周辺を灼熱の炎で灰燼と化してしまう恐ろしい魔猫だ。


 度々上がる報告によると、毛の色や尻尾の長さなどが若干異なることから、姿を変えられるだとか、代替わりをしているなどと噂されているが、真相の程は分からない。




「で、赤獅子は今どこにいるのだ!?」


「それが……フランジャール地区にある宿場町ヘーロを西側に出た後は消息を絶っております!」


「に、西側だとぉ!?」

「赤獅子がこっちに来るというのか!?」

「馬鹿か!? ニューレは首都だぞ! さっさと北側にでも誘導させろ!」

「何を言う! メッセンは我が家の地区だ! 帝国のある東側へ追いやるのが妥当であろうが!」

「血迷ったか!? 相手はあの赤獅子だぞ!? 追い立てたりなどしたら、連合国の領土が燃やし尽くされてしまうぞ!」



 まさかの事態に定例会議は荒れに荒れ続けた。



 結局、その日は碌に話し合いが進まず、ひとまずは赤獅子捜索部隊を設立する事だけが決まり、定例会議は閉幕となった。








 メッセン古城ダンジョン探索二日目、俺たちは引き続き孤児たちの育成に注力した。マジックバッグに死蔵していた短剣や防具を無償で与え、更にはエント種の素材で弓や杖を作ってプレゼントした。


 かなりの大盤振る舞いである。



 実は昨日の夜、寝ている子供たちを見ながら、俺と佐瀬は孤児たちの対応について話し合っていた。


「この子たちを支援してあげたい!」


 何もずっと面倒を見る訳ではない。ただ短い間だけでも子供たちの力になれたらと、佐瀬は俺に頭を下げてまで助力を願い出たのだ。



 俺としては、最初こそ関わり合わない方が賢明だと思っていたのだが、少し考え方を改めた。


 今ここで甘やかして、金や装備を貸し与えても、この先彼らが真っ当な人生を送れるかは不透明だ。ましてやずっと帯同してまで責任を負うような真似は到底出来ない。だから半端な真似はするべきではないと思っていたのだが……


(だからどうした! 未来の事なんて誰にも分からないし、僅かな助けで自立して立派な大人に成長するかもしれない!)


 それを色々と理由を付けて子供たちを避けるのも、少し違う気がするなと思い始めたのだ。


 だから今回はいっそ開き直る事にした。


 甘やかし上等! こんなに幼くて可哀そうな境遇の子供たちを放っては置けない。ルード兄妹は親を病気で亡くしてから住む所を追い出され、それでも必死にスラムで泥を啜りながら生きてきたそうだ。


 そんな彼らを甘やかして批難できようか?




 という訳で、今日までは彼ら五人をとことんバックアップし、見習い冒険者として生活していけるように育成することにしたのだ。


 戦闘はなるべく子供たちに任せ、俺たちはその都度アドバイスを送る。



「そうだ! 常に仲間の位置を意識しろ! それと絶対に無茶だけはするなよ? 怪我してポーションを使ったら赤字確定だからな! だからって怪我したら我慢するなよ? 危なくなったら躊躇わずポーションを使え!」


「はい、師匠!」


 俺に二番目の弟子が出来た。自称一番弟子のタカヒロたちは元気だろうか? また無茶をして、どこかで野垂れ死んでいないといいが……




 こうして俺たちのダンジョン探索二日目はあっという間に過ぎ去った。今日は日が暮れる前にダンジョン外壁の西口まで戻り、彼らを外まで送り届けた。



「いいか? D級に昇級するまでは、エリアはレベル1までにしておけよ? 決して無理はするな! それと何時かは冒険者を引退するんだから、貯金はしっかりしておけよ」


「うん! 色々ありがとな! 師匠! 姉ちゃんたちも!」

「先生、ありがとう……!」

「ダンジョン探索、頑張ってね!」


「アンタたちもしっかりね! 身体はこまめに洗うのよ? 元気でね!」



 笑顔で腕を振りながら去って行く彼らを俺たちは見届けてから、再びダンジョン内へと踏み込んだ。


「さて、遅れた分を取り返しますか!」


「そうね。日が暮れるまであと1時間程……」


「これくらいならレベル2のエリア手前まで行けるんじゃないかな?」


「よーし! 私も頑張るよぉ!」



 改めて≪白鹿の旅人≫の古城ダンジョン攻略、スタートだ!



 俺たちは宣言通り、その日の内にレベル2エリアの手前まで到着すると、そこで一夜を明かした。




 翌朝、早速レベル2のエリアへと浸入する。さっきまでは廃屋が散見していた平野だったが、ここから先は地面も石畳となり、建物の数も増えてきた。ただどの建物もボロボロであった。


「明らかに雰囲気が変わったわね。ここからがレベル2って事かしら?」


「うん。私の【感知】にも反応した。ほんの僅かにだけど、エリアの境界が判別できるっぽい」


「相変わらず神スキルだな……」


 だが、お陰で迷う心配は減りそうだ。


 これで常時発動タイプの適性スキルなのだから恐れ入る。俺も探知系より察知系スキルが欲しかった。



 その【探知】スキルを発動させると、遠くに今まで感じた事のない気配を捉えた。


「あれは……人かしら?」


 佐瀬も目視で気が付いたようだ。


「ううん、あれも魔物みたい」


 遠くからゆっくり何者かが近づいてきた。


「げっ!?」


 ようやく外見がハッキリすると、俺は思わず声を上げた。


「うわぁ、グロい……。あれってゾンビだよね?」


 ルード少年から授業料代わりにダンジョンの情報は大体聞いていた。あれは討伐難易度Dランクのゾンビだ。恐らく全米で最も有名なアンデッドではなかろうか?


 映画やゲームでは様々なタイプが存在するが、この世界のゾンビは人が腐ったような状態で動きも少しだけ遅い。だが、その分パワーとタフネスさはあるらしい。


「うぅ、臭い……。私、パス……」


「あははぁ……。私も、ちょっと……」


 死体から放たれる悪臭にシグネと名波が早々に音を上げた。


「ええ!? それじゃあ、私が魔法でさっくり倒す?」


 初めての魔物だし、それもちょっとどうだろう?


 普段なら初見の魔物相手は、どういった行動をするのか、俺たち前衛がちょっかいを掛けて様子見していたのだ。


 …………致し方ない。


「俺がやろう。ちょっと試したいこともあるし」


 俺が一歩前に出ると、ゾンビは鈍足ながらもこちらへ駆けてきた。ゾンビの攻撃を軽快に躱した俺は背後に回り込み奴の頭部を鷲掴みにする。


「とりあえず【ヒール】!」


 俺の十八番である回復魔法をゾンビに掛けてみた。すると……ゾンビは何事もなかったかのように俺の手を払いのけ、再びこちらへ襲い掛かった。


 それを見ていた佐瀬は困惑していた。


「えぇ……どうして【ヒール】?」


 佐瀬の発言に対して、今度は名波とシグネが不思議そうな顔をした。


「え? ゾンビは普通【ヒール】するでしょ?」


「アンデッドだよね? だったら【ヒール】だよ!」


「え? えぇ……」


 佐瀬、またしても困惑である。


「いや、だってこいつら死者じゃん? アンデッド系は回復魔法でダメージ入るかなって……」


 ゾンビの攻撃を躱しながらも俺は言い訳をした。


 最近のゲームはあまりやらないので知らないが、昔のRPGなんかはアンデッドに回復魔法でダメージが入るのは定番であった。この世界は多少ゲーム要素が見え隠れするので、もしかしたら行けるかもと思ったが、どうやら当てが外れたようだ。


「そうだ! ポーションならいけるかも! えい!」


 俺は惜しげもなく三等級ポーションを瓶ごとゾンビにぶん投げた。瓶が割れ、ポーションまみれになったゾンビは……めちゃくちゃ元気に怒ってた。


 解せぬ…………


「何やってんのよ!? ポーション無駄にするくらいなら、あの子たちに上げればよかったのに!」


「しょ、しょうがないだろう! これも必要な検証だ! おら!」


 俺は振り上げたゾンビの腕を斬り飛ばすと、再び背後に回り【ヒール】を施した。すると……腕が再生され完治してしまった。


 解せぬ…………


「だから何やってんのよ!? あんた正気!?」


「う~む、こいつらアンデッド失格だ。【レイ】!」


 光属性の最下級魔法で上半身を吹き飛ばした。流石にここまでだとゾンビも活動停止するようだ。残った下半身も消え失せて、その場には魔石だけが残った。


 俺はトボトボと佐瀬の元へと戻った。


「何故か回復魔法でダメージは与えられなかった」


「何故か!? 当たり前でしょう!!」


「いやいや、矢野君。【リザレクション】ならいけるかも!」


「おお!? まだそれを試していなかったな!」


「だから何でそれが効くと思うの!?」


「「「え? 蘇生魔法はアンデッドに効くでしょう?」」」」


「いやいやいや……」



 結局、回復系魔法ではどうあってもゾンビにダメージを与えられず、佐瀬に怒られた俺たちは真面目にゾンビたちを駆逐していった。




 ダンジョン探索四日目、俺たちは未だレベル2のエリアを彷徨っていた。


「……想像以上に広いダンジョンね」


「外から見たらそれ程でもないのに……」


「多分マジックバッグのように空間がおかしなことになってるんだろう」


 そもそもダンジョンは階層型だろうがエリア型だろうが、物理法則ガン無視の構造となっている。登山しながらダンジョンを下って行った時は頭がおかしくなりそうであった。


 今日も北米ゲームさながら、大量のゾンビ狩りをしながら進んで行くと、奇妙な家屋を発見した。そのボロ家屋はこのエリア内で見るどれよりも大きな建物で、更にその周辺には冒険者たちが大勢待機していたのだ。



 気になった俺たちは興味本位で尋ねてみた。


「あのぉ、ここって何かあるんすか?」


「ん? お前らは古城ダンジョン初めてか? ここはボス部屋だ」


「ボス部屋!?」


 話には聞いていたが、本当に出入口とは関係なさそうな場所にボス部屋が設けられていた。恐らくここにいる連中は守護者を倒すために順番待ちをしているのだろう。


 ここの守護者がどの程度の間隔で再出現リポップするかは知らないが、通常なら一度倒したボスは数時間以上その場を留守にする。これだけの冒険者が待っているとなると、仮に今から俺たちが並んだとしても、戦えるのに数日を要するだろう。



「うわぁ、ここはスルーだねぇ」


「そうね。流石に何日もこんな所で足止めされたくないわ」


 並ぶという事はそれなりに美味しい相手なのだろうが、流石に時間の浪費でしかない。


 ここの守護者討伐は諦め、俺たちは次のエリアを目指した。ルード君情報だと、もうそろそろレベル3の出入り口である目印の塔が見える筈だ。








 ボス部屋から1時間歩いた場所に目印となる崩れかけた塔が見えた。これは城の見張り塔なのだろうか? 石畳もここまでで、ここから先は墓地が増えるエリアとなる。


 新たなエリアへ踏み込んだ瞬間……空が急に暗くなった。


「え? 何これ?」


「急に……夜になった!?」


 この情報は聞いていなかった。


 佐瀬の腕時計で時間を確認しても、まだ日が暮れる前である。どうやらエリアが変わると空の時間帯も変化が起こるらしい。臆病な俺はすっかり肝が冷えてしまった。


「夜の墓地……流石に私も怖くなってきたかも……」


「ちょっと雰囲気あり過ぎだねぇ……」


「ひぇぇ……」


 これには俺だけでなく女性陣もビクついていた。


「あ、またゾンビかな?」


「ホントだ。こっちに走ってくるよ……んん?」


「なんか……速くない?」


 さっきまでの鈍間なゾンビと違い、明らかにスピードが速い元気な個体が現れた。


「あいつ、グールだよ!」


 すかさずシグネが鑑定して知らせてくれる。


「ちっ! ゾンビの上位種か!」


 俺は迫りくるグールを躱すと空いている左手をかざした。


「とりあえず【ヒール】!」


「だから【ヒール】すんなし!」


 またしても怒られた。


 そしてグールも怒ってる。どうやら挑発行為には使えそうだ。


「よっと!」


 グールの払った左腕を斬り飛ばした。だがグールには痛みが無いのか、すかさず回し蹴りを繰り出してきたので、その右脚も切断した。


 流石に体勢を崩したのか、その場に倒れ込む。残った手足で暴れるグールに注意しながら頭部を切断する。それでもしばらく動いていたが、全ての手足を斬り飛ばすとやがて動かなくなり消え失せた。


「やっぱりタフだなぁ。高火力の魔法で倒した方が早いのか?」


「新手が来たよ! 今度は少し毛色が違うみたい」


 名波の視線の先を追うと、そこにはゴーストのような半透明のもやが蠢いていた。ただし人型の幽霊というより、もっと大きくておどろおどろしい化物の霊だ。


(何あれ? 超怖いんですけどぉ!?)


 不気味で近づきたくないのと、明らかに物理攻撃が効かなそうな外見なので、咄嗟に【レイ】で吹き飛ばしたい衝動に駆られたが、俺はその気持ちをグッと抑え込んだ。


「うーん、仕方がないけど……一度だけ近接戦闘を試してみるかぁ」


 相手がどういった魔物なのか観察する必要がある。でないと今後似たような上位種が出てきたら後手に回るかもしれないからだ。


 その靄の化物はこちらに飛んでくると、そのまま掴みかかろうとしていた。取っ組み合いは望む所なので、こちらも相手の両腕を掴んで抑え込む。


「ついでに【ヒール】!」


「だから【ヒール】すんな!?」


 またしても怒られた。


 ウオオオンッ!


 靄の化物も怒っていた。【ヒール】は……効果無さそうだ。


「ざっけんな! アンデッドの癖になんで回復魔法が平気なんだよ!?」


 俺も怒った。


「こっちにも化物が出たよ!」


 名波の方にも靄の化物が出たらしく、試しに短剣や包丁で攻撃していた。


「こいつらの名前、ガースだって! タイプはアンデッド・ソウルって鑑定に出たよ!」


 どうやらアンデッドにも種類があるようで、こいつやゴースト、ウィル・オ・ウィスプはアンデッド・ソウルという分類らしい。


 ちなみにスケルトンはそのまま、アンデッド・スケルトンというタイプであった。


 俺をボコスカ殴りつけるガースだが、力はスケルトン以下だ。正直言って全く痛くない。攻撃が通じていないと悟ったガースは一度距離を取ると、何やら怪しげな紫色の光を発して俺にぶつけてきた。


「何だ? 魔法攻撃、か?」


 まさか呪いじゃないだろうなと俺は警戒し、こちらも少し間合いを取って身体を確認する。だが特に何も変化は見られなかった。


「……もういいか。そりゃ!」


 魔力を籠めたノームの魔剣をガースの頭部に振るうと、あっという間に霧散して消えた。どうやらこいつもゴーストと同じで、魔力を使った攻撃には弱いらしい。



 他の三人も色々試し終わったのか、残りのグールやガースを討伐し終えた。



「うぅ、何だか気分が悪いかも……」


「私も……身体が重く感じるよぉ……」


「ん? 何か攻撃を受けたか? こっちは紫色の変な光を浴びせられたが、何も起きなかったぞ?」


 名波とシグネが具合悪そうにしていたので尋ねてみると、名波はガースの攻撃を何度も受けたら気持ち悪くなり、シグネは俺と同じ変な光を浴びてから身体の動きが鈍くなったそうだ。


 念の為、【ヒール】や【キュア】を試してみると、シグネだけが【キュア】で身体の怠さが解消された。


「これ、絶対デバフだよ!」


「……もしかしたら、あの光が噂の【カース】なのかもな」


 闇属性には呪いを掛けるデバフ呪文、【カース】という魔法が存在するらしい。呪いと言っても命に係わるような代物ではないそうだが、身体能力が低下すると聞いたことがある。魔族や悪魔などが得意な魔法だそうだ。


「あれ? それじゃあ私の気分が悪いのは?」


「さぁ、何だろう……?」



 名波の体調不良は最初こそ原因不明であったが、ゴーストやガースと何度も交戦していく内にようやく判明した。


 どうやら連中はこちらを攻撃する際、魔力も一緒に奪うらしい。名波の体調不良は魔力を使いすぎた時の症状とそっくりであったのだ。


 試しに魔力回復ポーションを飲んでみたら一発で回復した。


 この情報は大きい。痛くないからと何度も相手の攻撃を受けていると、肝心なところで魔力不足に陥り、足元をすくわれかねないからだ。


(ま、俺の魔力量なら、いくらタコ殴りにされても減らないけどね)


 恐らく俺の魔力は減る量より回復量の方が上回っているのか、ガース数体に袋叩きにされても全く影響が出なかった。しかも俺の無駄に高い魔力量が功を奏しているのか、【カース】の呪いも受け付けないようだ。


「……もしかして、俺ってアンデッドと相性いいのでは?」


 これで【ヒール】でもダメージが入れば最高だったのにと、俺は心の中でぼやいた。

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