第116話 奇妙な依頼
「――【サンダー】!」
轟音と稲光と共に、目の前の魔物が一瞬で黒焦げになった。
佐瀬の放った雷魔法は音が響くのか、遠くにいた好戦的な魔物も誘引してしまったが、それで全く問題が無かった。何故なら今回の依頼内容は村付近に潜む魔物の間引きであったからだ。
「来た! 結構大きいのも釣れてるよ!」
「数が面倒だね……ゴーレム君も出しておく?」
「いや、俺たちだけで大丈夫だろ」
見たところ厄介そうな個体はマンモスのような魔物一匹だけだ。恐らくあれはBランクのランドモスだろう。加護も魔法もないと聞いているが、その巨体だけで討伐難易度Bランクまで押し上げられた獰猛な魔象である。
(ま、俺たちの敵じゃないけどな)
俺はノームの魔剣に魔力を籠めると、大地を揺らしながら迫りくる魔象の突進を躱し、まずは左前脚を斬りつけた。
ブモオオオッ!?
切断とまではいかないまでも、かなりの深手を負わせられたのか、魔象は土煙を上げながら前のめりに倒れ込んだ。こうなってはただのデカい的だ。
「――【サンダーボルト】!」
「――【ショット】!」
佐瀬と名波の魔法と魔弓による波状攻撃でランドモスはあっという間に絶命した。
その他の細々とした魔物もシグネの風魔法【ストーム】で粗方片付いた。
「……うん、ここらにいる魔物は一掃したよ!」
「よし! これで依頼完了ね!」
連合国に来てから十日程経つが、俺たちは次々に依頼を片付けた。今日の討伐依頼で5件目となり、俺たちは村長から依頼達成のサインを貰うと、最寄りの町ゼトンへと帰還した。
「依頼達成、確かに受理致しました。買取はこちらの札を持ってお待ちください」
ゼトンの町にある冒険者ギルドで依頼達成報告をし、手に入れた余分な魔物の素材を全て売り払う。低ランクの魔石は若干飽和状態だが、牙や皮などの魔物素材は何処かで使う機会もあるかもしれないので、ある程度の数をマジックバッグにストックしておいた。
ギルドの隅で買取査定を待っていると、一人の冒険者が話しかけてきた。
「よぉ、相変わらず依頼達成が凄まじく早いな。流石はB級ってところか」
声を掛けてきた男の名はジャックと言い、ここゼトンの町を拠点とするC級冒険者だ。
「ああ、向こうからわんさか襲い掛かって来たからな。探す手間が省けたんだ」
「いやいや、あのチラッと見えた大きな牙、ランドモスのだろう? そこらの木っ端冒険者じゃあ倒せねえって!」
ランドモスの象牙も薬の素材になるらしく一本分はキープしたが、かなり大きかったのでもう一本は売り払う事にした。久しぶりの大物に職員たちは快く引き取ってくれた。
「ま、これでお前さんらが正真正銘B級だって事は嫌でも知れ渡るだろう。この前絡んできた連中も二度と突っかかって来ないだろうさ」
一週間前にこの町に来て、ゼトン支部での登録をした際、またしても自称腕自慢の冒険者たちが絡んできたので、これまた何時もの様に返り討ちにしたのだ。
その時、地元冒険者だというこのジャックという中年冒険者が俺たちに話し掛けてきたのだ。
最初は少し警戒していた俺たちだったが、ジャックは気さくで良い奴だ。彼からは連合国内の様々な情報を教えて貰った。その見返りに彼の依頼も少しだけ手伝ったりしたが、ジャックはベテランC級冒険者らしい見事な実力を持っていた。
ハッキリ言ってこの前絡んできた自称B級冒険者より余程腕が立つと思うのだが、なぜ彼がC級でハオル如きがB級なのかさっぱりであった。
それを本人に話したら納得のいく答えが返ってきた。
要はあのハオルという男は金や権力でB級冒険者という地位を買っていたのだ。あくまでこれはジャックの想像だが、ほぼ間違いないと断言していた。
どうも連合国では冒険者のランクすら金で買えるらしいのだ。この事実は国内で長年活動している冒険者たちなら誰もが知っている裏情報だそうだ。
俺も始めは“まさか”とも思ったが、中立公正な立場を謳うギルドと言えども、その土地の権力者や国とは切っても切れない縁というものが少なからずあるのは知っている。
実際に俺たちもブルターク付近にあった開拓村の出張所で似たような経験をした。言われてみれば納得ではある。
だが何故そんな張りぼてのランクを欲するのかというと、それはこの国特有の事情が影響している。
この国は選挙の投票権を金で買える上に、位の高い冒険者であれば投票権数も増やせる仕組みだ。つまり上級冒険者になると、その者の発言権もより強まる事になる。
勿論たかが金持ちのボンボン一人がB級になったくらいで政治の情勢を動かせるような力は無いが、それがパーティ、もしくはクラン単位ならどうだろうか?
上級冒険者を多く擁する巨大なクランであれば無視できない勢力となる筈だ。目ざとい政治家連中はそんな有望クランをバックアップし、自分たちの子飼いにしているらしい。
その最たる例が、この前俺たちと揉めた≪西方覇道≫というクランだそうだ。
「でも気を付けろよ? ここオース地区には三大クランの一つ≪猛き狩人≫の連中が幅を利かせているからな。あいつらと揉めるようだと、ちと面倒だぜ?」
「ああ、それは前にも聞いたよ。なるべく穏便に活動するさ」
ジャックから聞いた話しだと、連合国には大きく分けて五つの巨大武装勢力が存在するらしい。
まずは三大クラン≪西方覇道≫、≪猛き狩人≫、≪海人連合≫といった冒険者集団だ。
≪西方覇道≫は一番の大所帯で、連合国のあちこちで傘下のパーティが活動しているそうだが、カイン率いる主力のA級パーティは主に首都ニューレを拠点にしている。
先程名前の出てきた≪猛き狩人≫は、俺たちが今いるオース地区と呼ばれる森林の多い地で、主に魔物相手の狩りで戦果を挙げている好戦的な集団だそうだ。ここのクランリーダーもA級冒険者らしい。
≪海人連合≫は主にニューレ港を中心に、海上や海辺付近で活動している一風変わった冒険者集団らしい。そこのボスもA級冒険者なのだそうだ。
驚いた事に連合国は8人のA級冒険者が存在するそうだ。内訳は4人が≪西方覇道≫で≪猛き狩人≫に3人、≪海人連合≫に1人だそうだ。
(王国なんか、たった一人だけなのにな……)
俺も会った事は無いが、エイルーン王国唯一のA級冒険者は御年を召した女性らしい。現在は長期不在中らしいので、どこかで亡くなったのではないかと専らの噂だ。
三大クランの他には最高連合評議会の下部組織である≪連合警察≫と≪連合義勇軍≫の勢力が非常に強い。こちらはどちらも国家組織だが、警察の方は治安維持が主任務で、義勇軍はガラハド帝国などの敵対国に対しての武装組織である。
詳しい組織図や動員数などは俺にも分からないが、特に連合義勇軍は建国史に出てくるあの”義勇軍”からあやかって設立された由緒ある組織だそうで、連合国最大勢力となる。
「お、査定が終わったようだ。それじゃあ俺たちはこれで」
「おう! 嬢ちゃんたちも、また一緒に飲もうぜ!」
「あはは……機会があったら……」
ジャックは良い奴だが、酒癖が悪い点だけは玉に瑕だ。前回は散々うざ絡みされたので、彼とは二度と酒を飲まないと俺たちパーティは密かに心に誓いあっていた。
「あ、≪白鹿の旅人≫の皆さん! ちょっと良いですか?」
買取金額を受け取り宿に戻ろうとしたところ、何度か会話をした受付嬢から声を掛けられた。
「どうしたんです?」
「皆さんにお願いしたい依頼があるんです。ここから西にあるパナムの町はご存じですか?」
「確かここと同じようにオースの森が近くにあって、ギルド支部のある町でしたよね?」
俺はジャックから聞いたうろ覚えの情報を必死に脳内でかき集めて返答した。
「そうです。正式にはそこのギルドからの依頼なのですが、パナムの町から南下して森の浅い箇所に開拓村があります。その近辺の調査をして頂けませんか?」
受付の依頼内容に俺は少しだけ疑問に思った。
「何でパナムの町で依頼を出さないんです? 確かそこって彼らのホームだったんじゃぁ……」
先程ジャックから注意しろと言われたばかりの≪猛き狩人≫が拠点としている町がパナムなのだ。
「仰る通りなのですが、≪猛き狩人≫は討伐任務なら兎も角、調査依頼になると、そのぉ……少々問題がありまして……」
なんとも歯切れの悪い回答が返ってきた。
「えーと、それは戦う力はあっても調査には不向きな冒険者だという事?」
「平たく言えば……そうですね」
どうやら≪猛き狩人≫の冒険者たちは脳筋集団のようだ。
「ちなみに調査の目的は? 魔物だったら倒して終わりなのでは?」
それなら腕自慢の冒険者たちだけでも事足りるだろう。一体何を調べるのか、そちらも気になってしまった。
「それが最近、魔物や動物たちも開拓村付近から姿を消してしまったんです。更に異常気象の所為か、あの辺りは例年より気温もかなり下がっておりまして……今年は畑の収穫物も壊滅的で、食べる物にも困っている状況らしいんです」
「もしかして……魔物の動向だけでなく、その異常気象とやらも調べろと?」
「はい。魔物や動物たちが姿を見せないのと因果関係があるのかは分かり兼ねますが……」
それは何とも曖昧な調査内容だ。流石にこんな依頼は御免だな。
「正直、それだとちょっと……長期間の依頼は受けたくないんですよ」
「……はぁ、ですよねぇ」
受付嬢は深い溜息をつくと肩を落とした。それを遠くで見守っていたのか、彼女の上司が口を挟んできた。
「それなら、こういった形なら如何でしょう。開拓村への物資の運搬と期間限定での調査、どうです?」
彼はこの支部の副ギルド長で、開拓村の惨状には心を痛めていたそうだ。何でもこの支部にまで開拓村から支援要請が来たらしい。
そこで村への食糧運搬と、ついでに短期間での森の調査を纏めて俺たちに依頼したいと提案してきたのだ。
俺たちは連合国でも小型マジックポーチの方は遠慮なく使用していた。その俺たちなら大量の食糧を運べると考えての提案だろう。
「調査の方は一週間の期限を設けます。これでどうでしょうか?」
「うーん、三日間ならいいですよ」
ここ最近の俺たちは、僅か十日足らずで依頼を5件達成させている。そんな俺たちにとって、一つの依頼に一週間掛けるのは効率が悪すぎるのだ。妥協して三日が限界だ。
俺たちの状況はギルド側も理解しているのか、物資の運搬プラス現地での三日間の周辺調査という形でギルド側が折れた。
「でも、調査だけなら何も俺たちに頼らなくても、他の冒険者でもいいのでは?」
「あそこの森は奥に行くほど手強い魔物が多いんです。上級冒険者でないと調査でも任せられませんよ」
なら、それこそ≪猛き狩人≫を……いや、彼らは調査に不向きだったか。わざわざ隣町にいる俺たちに指名が来たのにも納得だ。
「明日、朝に指定した商店の前に来て下さい。運んでいただく食糧と馬車を用意しておきますので」
エアロカーがあるから馬車は断ろうかと考えたが、隣町まで四時間で行けるそうなので、今回は大人しく陸路で向かう事にした。
翌朝、指定された商店に向かうと既にギルド職員が待っており、店前には物資が山積みになっていた。俺たちの小型マジックポーチに詰められるだけ物資を詰め、更に馬車の荷台にも食料を積んでパナムの町へと出発した。
御者はギルド職員が引き受けてくれたので、俺たちはのんびり馬車に揺られながら時を過ごす。
「ねぇ、気温の低下の調査って言われても、実際何を調べればいいのかしら?」
「俺もさっぱり見当がつかん」
佐瀬の問いに俺は秒で降参した。
魔物のいなくなった原因なら、他に強い魔物が出たからだとも思うが、それなら未だ開拓村が無事なのも少し妙な気もする。
だが気温の変化なんて大きな事象の要因など、どうやって調べればいいのか皆目見当もつかなかった。
「魔物が魔法で周囲を凍らせてる、とかじゃないかな?」
シグネが推理するも名波がすかさずダメ出しをした。
「それなら他の人もすぐに気が付くんじゃないのかなぁ?」
「んー、駄目だぁ! 分かんない!」
「ま、ここで考えたって分からないわよ。現地に行ってからね」
「ギルドに報告する手前、何かしらの成果は欲しいけどね……」
最悪、三日間何も見つからなくても依頼自体は達成だ。だがその異常気象とやらが局地的に起こっているのは若干気に掛かる。
(開拓村か……無事だといいけど……)
俺は半年以上前に起こった惨劇を思い出し、少し憂鬱な気分になってしまった。
西バーニメル通商連合国は大きく十地区に分かれて統治されている。それぞれに代表統治者が存在し、そんな彼らが政治のかじ取りを行なっていた。
各地区の裁量権は各代表統治者に与えられており、それはまるで領地持ち貴族のような存在であった。ただし、この役職には当然任期があるのと、家族に継承できない点が貴族とは大きく異なっていた。
だが連合国には古くからの名家が有り、余程の事がない限りはその何れかの名家が代表者へと選出される。それほどの地位と資金を彼らは独占していたのだ。
そんな名家の一つタイロン家も、古くからオース地区の代表者を選出する一族であった。
「タイロン代表! このままでは開拓村はおろか、周辺の村々も冬を越せません!」
オース地区にある村の長からの陳情に、オース代表統治者であるミノフ・タイロンは表情一つ変えずに返答した。
「分かっている。だが予算にも限りがあるのだ。今は順番に各被害地区への支援物資を送らせているところだ。君の村にもいずれ向かわせる。もうしばらく辛抱せよ」
「くっ……わ、分かりました。そういう事、でしたら……」
口ではそう言いつつも、不服そうな顔をしたまま村長は退室した。その様子を近くで見ていた側近がミノフへと話し掛けた。
「旦那様、本当に支援をされるので? あの者はタイロン家に不信感を抱いている輩だと聞いておりますが……」
「ん? 当然無視するに決まっているだろう。あの者は我が一族の政敵に票を投じた男だぞ? あの村の支援など永遠に後回しだ」
ミノフはニヤリと顔を歪ませた。
去年のオース地区代表選挙では、あの村長はミノフではなく、対抗馬であった商家の当主に全ての票を入れていた。本来他人が誰にどのくらいの票を投じたかなど分からない筈だが、そこは古くからの名家、タイロン家の威光で、有力な投票者の動向は全て把握をしていた。
「丁度良い機会だ。タイロン家に異を唱える輩はそのまま飢え死にさせてくれる! ≪猛き狩人≫にも”そのまま動くな”と命じておけ!」
「は、心得ております」
オース西部で起こっている異常気象をミノフは利用する事にした。元々オース地区は農耕地が少なく、食料の殆どを隣接地区からの輸入で賄われていた。仮に作物の収穫が激減したところで町への被害は軽微となる。
ただし自給自足が原則の農村地区に至っては死活問題であった。
「私に恭順する村には最低限の支援を送れ。それ以外は一切無視をしろ! 私は出掛けてくる」
「かしこまりました、旦那様」
これで今日の仕事はお終いだとミノフは立ち上がると、年の割に盛んな性欲を満たすべく花街へと繰り出すのであった。
連合国の最南端に位置するオースは十地区で最も広い地区となる。ただしオース地区の殆どの土地が未開拓地である森や山などで、平地だけ見ると十地区中で最も土地が狭いという弱点も抱えていた。
そして一番の問題点は魔物の多さだ。
南部に隣接しているマナラハ王国との間には、バーニメル山脈ほどではないが、広大なオース山とオースの森が広がっている。そこは魔物の棲み処となっている為、開拓は勿論の事、通り抜けることも難しい天然の緩衝地帯となっていた。
ただ冒険者や魔物の素材を必要とする商家にとっては大切な資源でもあり、オースの森付近にある町にはそれぞれ冒険者ギルドの支部が存在する。
俺たちがいたゼトンや、今向かっているパナムもそんな町の一つだ。町の規模としてはパナムの方が大きい。
(ブルターク街未満、ムイーニ町以上ってところか……)
ざっくりと馬車から見た町の感想がそれだ。
「それにしても、連合には転移者の姿は見えないわね」
佐瀬の呟きに俺は確かにそうだなと考えさせられた。
俺たち地球人が一斉転移してから既に一年以上が経過している。転移者たちも活発的になり、エイルーン王国やデバル王国ではあちこちで見掛けた。ガラハド帝国にも転移者たちがいるのを確認できたが、ここ連合国ではその噂すら全く聞かない。
「んー、帝国みたいに何処かで囲ってるとかじゃないよね?」
「この辺りには飛ばされなかったのかなぁ?」
「……女神様のする事は俺にも分からん」
オース地区は別として、それ以外の土地ならば、連合国は人族にとっては住み易そうな環境ではある。転移者が連合国内に居ないのは偶然か、それとも何か意図があってのものなのか、俺には全く判断がつかなかった。
「それにしてもカータさん遅いわね。ここの支部に挨拶だけしてくるって行ったきり、戻って来ないけど……」
カータというのはここまで俺たちを案内してくれた御者で、ゼトン支部のギルド職員でもある。
町に到着するとカータは冒険者ギルドの傍に馬車を止め、そのまま建物の中に入って行った。俺たちがギルドの中に入ると、また無用な争いごとを招きかねないので外で待機していたのだ。
「…………仕方がない。ちょっと中の様子見てくる」
三人には外で待ってもらい、俺だけギルドの中へと入る。すると直ぐにカータ氏の姿が見えた。何やら大きな声で揉めていたので直ぐに見つかった。
「――だから、その食料は開拓村の分だと何度も説明しているでしょう!」
「こちらの支部は、そんな事まで頼んでいない! 我々が要請したのは森の調査だけの筈だ!」
どうやら開拓村に運び入れる予定の食糧について、カータとパナム支部の職員とで揉めているようだ。
「大体あそこの開拓村はこちらの管轄だ! ゼトン支部が依頼を受諾する方がおかしいのだ!」
「だったら調査依頼もそちらでやったらどうなんだ! それにそちらの支部に支援を頼んだら後回しにされたと依頼主が泣きついて来たんだぞ! だから
「だから統制局の命令だと言っているだろうが! 支援の順番は全て上が決めているんだ! 開拓村はずっと後だ!」
「何時から冒険者ギルドの上が統制局になったんだ! 我々は中立的立場の組織だぞ!?」
ヒートアップする彼らのやり取りを聞いていた俺は何となくだが話の流れを察してしまった。要は食糧支援には何か政治的な意図が介在しているのか、地元のパナム支部を飛ばしてゼトン支部が動いてしまった事に文句があるようだ。
(統制局ってのは、お役所的な場所だったか? だとすると、そこのトップは恐らく代表統治者……噂の評議会の重鎮って事か!?)
話には聞いていたが、中立の冒険者ギルドでさえ口出しできる権力だとは、これは想像以上に質が悪そうだ。
「そちらが持ってきた食料は他の町へと回して貰おう。開拓村よりも優先すべき場所は他にもある」
「依頼された品を他所へ流せと言うのか!? ギルドの信用を潰す気か!?」
「そちらこそ我々の信用を損ねる気か? この件は代表直々の指示なのだぞ?」
やはりオース代表統治者が絡んでいる案件のようだ。
だが、流石にこの状況は俺たちも看過できない。
「失礼、カータさん。何時まで経っても戻らないので迎えに来ましたよ」
「ああ、イッシンさん! すみません、お待たせして……」
カータは俺の顔を見ると少し冷静さを取り戻したのか、詰め寄っていたパナム支部の職員から離れた。
「……とにかく、我々は既に開拓村から依頼を受けている身です。ゼトン支部の依頼である以上、それ以上の介入は止して頂きたい」
「……後悔しますぞ? この件は統制局に報告させて頂く」
「報告する相手を間違えておりませんかね? こちらこそ、ギルド本部に訴えさせてもらおう!」
結局折り合いが付かなかったのか、カータは報告する義理だけは果たしたと、そのままギルドを去ろうとしたので、俺も彼の後に続いた。そんな俺にパナムの職員が背後から声を掛けてきた。
「そこの君! 依頼を中断するのなら今の内だぞ? そのまま依頼を続けると、きっと不幸な目に遭う」
「……具体的にはどんな目に?」
「イッシンさん!?」
足を止めて振り返った俺に、カータは慌てて近寄った。脅された俺が依頼を放棄するとでも思ったのだろうか。
「そうだなぁ。最近は食うに困った連中も増えてきた。食糧を輸送する馬車など、盗賊の格好の餌食だろうさ」
「あ、あんたという人は……っ!」
ほとんど脅迫に近い言葉を垂れ流すギルド職員に、カータは怒りを込めて睨みつけた。
「成程。なら、その盗賊も纏めて討伐しておこう。治安維持は冒険者の務めだからな」
「なっ!?」
「イッシンさん……!」
思わぬ俺の口撃にパナムのギルド職員は顔を真っ赤にして暴言を吐いた。
「ふん! 己の力量も弁えぬ冒険者が! せいぜい後悔するのだな!」
「……行きましょう、イッシンさん」
「ええ。どうやらここはギルド支部ではなく、どこぞの犬の飼育小屋だったようです」
俺の言葉を侮辱と捉えたのか、他のギルド職員や冒険者たちも一斉にこちらを睨んできた。
ギルド職員同士の口論は他の者も当然見ていたが、その半分が関わりたくないという者で、残り半分がカータの事を馬鹿にするような目で見物していた者たちしかいなかったのだ。
どうやらパナム支部は完全に権力者の犬へと成り下がってしまったようだ。
「……はぁ。話には聞いていたが、まさかこれほど腐っていたとは……」
カータも辛い立場なのか、思わず愚痴を零す。
「心中お察しします。ま、不心得者が来たら任せてください。A級冒険者でも来ない限りは全員返り討ちにしてみせますよ!」
「ふふ、私も君たちの戦果を見ていなかったら“何を馬鹿な”と思ったでしょうが……期待しておりますよ」
そうと決まれば早速開拓村へ食糧を届けようと俺たちは馬車を走らせるのであった。
◇◆◇◆ プチ情報(スキル紹介) ◇◆◇◆
スキル名:【腕力】
タイプ:強化型
系統:能力系
分類:適性スキル
レベル:1
主な所持者:イッシン
腕力が向上する。一般人がこのスキルを習得すると、村一番の腕相撲チャンピオンになれる。
スキル名:【怪力】
タイプ:強化型
系統:能力系
分類:適性スキル
レベル:2
主な所持者:イッシン
腕力が大幅に向上する。一般人がこのスキルを習得すると、街一番の腕相撲チャンピオンになれる。
スキル名:【剛力】
タイプ:強化型
系統:能力系
分類:適性スキル
レベル:3
主な所持者:ハワード
腕力が超向上する。一般人がこのスキルを習得すると、国一番の腕相撲チャンピオンになれる。
スキル名:【金剛力】
タイプ:強化型
系統:能力系
分類:適性スキル
レベル:EX
主な所持者:不明
腕力が超超向上する。一般人がこのスキルを習得すると、世界一の腕相撲チャンピオンになれる。
過去にスキル習得した者が竜種を素手で投げ飛ばしたと言い伝えられている。
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