第114話 西バーニメル通商連合国
西バーニメル通商連合国はバーニメル半島で唯一の王や貴族が存在しない国家となる。そうなった経緯を語るには、まずこの半島内の歴史から知る必要がある。
かつてバーニメル半島には、巨大な国家ガーデ王国が存在した。
ガーデ王国は半島の西部をほぼ手中に収め、更に南部と東部にも勢力を伸ばし続け、バーニメル全ての地を支配するのも時間の問題だと謳われていた国家だ。
だがそんな栄華を極めた王国も、ある若い王に代替わりした途端、一気に衰亡することになる。
その若い王は野心が強く、従来の王権以上に己へと権力を集中させ、それに異を唱えようとする者は、例え上級貴族でも粛清し続けてきた。
そんな愚王の態度を貴族たちは恐れながら、自らも真似し始め、民はより一層虐げられるようになった。
一部の民が決起し反乱を起こすのは当然の帰結であった。
勿論それに激怒した王はただちに民を粛正するよう貴族に命じ、各地の反乱は多くの血を代償に収まりつつあった。だが翌年も、そのまた次の年も反乱は起こり、遂には一部の貴族までもが王に刃を向け始めた。
ただちに討伐軍が編成され、半島のあちこちが戦火に晒された。
最終的には公爵家の裏切りが決定打となり、ガーデ王国はその若き愚王を最後に、僅か一代で滅亡するのであった。
西バーニメル通商連合国は、かつてガーデ王国の王都が置かれていた地でもある。
国家が滅亡しても貴族たちは次の覇権を巡ってその地で争い続けた。やがてそんな状況に辟易とした民衆たちが立ち上がり、義勇軍を結成。その義勇軍は王や貴族を名乗る権力者たちを悉く打ち破り、こうして平民たちだけの国が初めて誕生したのだ。
「へぇ、だからこの国に貴族はいないのね」
「それじゃあ、連合国の方が住みやすいじゃん!」
佐瀬は俺が聞いた歴史に感心し、シグネはそんな連合国に好感を抱いたようだ。
だが、そう旨い話はなかった。
「それがそうでもないらしいんだ。確かに貴族はいないが、連合国には評議会がある。どうもそこがかなりの権力を持っているらしい」
正式名称は最高連合評議会といい、連合国の各地方から選ばれた代表者たちの集う国の行政機関だ。
連合国は全部で10地区に別れ、各選出代表者たちが政を行なっている。各地方での裁量権はその代表者たちに委ねられているが、国の政策についてはその代表者たちの案や決によって施行される。それが評議会だ。
では、その代表者たちは一体どのようにして選ばれているのかというと、これまたこの世界では珍しい選挙が執り行われていた。
ただし、その選挙方法はビックリ仰天な内容だ。
投票権は15才以上なら誰しもが持ち、同時に立候補するのも自由だ。ここまでは普通のように思えるが、問題は投票の仕方だ。
投票は金で買える。これは比喩でも何でもなく、実際に法律でそう定められているのだ。本来一人一票分の投票権に加え、金貨1枚で票を追加購入する事が可能だ。つまり金持ちが金貨100枚を行政に納めれば、101人分の投票権を得られるというのだ。
そんな投票、金持ちだけが得をするのではないかと思うだろうが、他にも投票を増やす方法は存在する。
例えば冒険者はランク毎に一人分の投票権が変わり、B級冒険者だと50人分の投票権を与えられるそうだ。勿論、国内に住んできちんと納税している冒険者のみが対象だ。外国人である俺たちにはそもそも投票権自体が存在しない。
他にも職種や実績に応じて投票権の多寡が変わり、市民から不満が出ないようにしているが、俺としては金持ちたちの出来レースだと思っている。どう考えても上級の冒険者になるよりかは、金持ちが金を払った方が簡単だし有利だからだ。
国民の大半も同じ考えではあるようだが、この不平等な投票形式を変える為には、やはり選挙を勝ち上がるか、後は反乱でも企てるしか方法がない。だが、昔のガーデ王国時代ほど連合国政府は悪政を敷いてはおらず、金持ち以外に力ある者にもある程度の優遇措置を施している。その最たる例が冒険者だ。
その為、金も力も権力もない市民たちは反乱しづらい状況下に置かれている。過去の反乱では王や貴族という分かり易い政敵があったが、今の連合国ではそれが少しぼやけてしまっているのだ。これでは政変も起こしようがない。
それに為政者側も、あからさまな悪政を敷いては自身の支持率を失いかねない。低支持率のまま次の選挙に勝ち上がるには、より多くの金貨を必要となる為、彼らも下手な真似は出来ない。なんとも歪ではあるが、一応の抑止力という訳だ。
そんな形で連合国は自称平等な国として繁栄し続けてきた。選挙の度に金持ちたちは投票権を買い、多額の金を国に納め続けている。それが国家繁栄の為ならばと、国民たちはその行いを黙認し続けてきたのだ。
それに実際この半島内で一番文明が進んでいる国として、国民たちは自国を誇りに思っていた。
「だからここでは貴族じゃなく、大商家の金持ちや町の有力者に注意しなければならない。特に評議会連中と義勇軍には気を付けろ」
貴族に変わって金持ちどもが特権を得ている訳だ。
「うげぇ。また面倒な……」
「あははぁ、なんか思ってたのと大分イメージ違うねぇ」
佐瀬と名波はお互い嫌そうに表情を顰めていた。
公国からの関所を抜けた俺たちはそのまま南下して、最寄りの町で一泊した。そこで今後の具体的な方針について話し合った。
「じゃあ、首都の港町を観に行くってことで……」
「「「賛成!」」」
西バーニメル通商連合国と言えば、やはり大きな港町だろう。特に首都のニューレはバーニメル半島の玄関口とも称され、大陸中央部だけでなく、稀に他の大陸からも大きな商船がやってくるほどの大きな港を保有していた。
それ故、田舎のバーニメルにいち早く文明の先端技術が流れてくるのが連合国最大の強みだ。内陸に位置するガラハド帝国はそれを羨み、どうにか沿岸部が手に入らないかと四方に攻めているのだが、連合西部の守りは特に固く、現在連合と帝国は長い間冷戦状態であった。
「定期便の様子も見て、可能なら大陸中央部や他の大陸にもいずれ行って見たいな」
「エアロカーじゃ無理なの?」
「んー、同じ大陸内なら問題ないだろうけど、他の大陸は正確な場所が分からないしなぁ」
海洋を渡るつもりなら、せめて方角だけでも分からなければ、最悪ずっと海の上を彷徨い続ける羽目になる。
(確か16kmくらい沖に出れば水平線だけになる、だったか?)
あくまで地球文明化での高い建築物などが海岸近くにある事を前提にしての計算だったはずだ。この世界の建築物はどれも低いが、エアロカーの飛ぶ高度を考慮すると同じくらいなのだろうか?
(いや、そもそも惑星の大きさが違うんだ! 地球時代の情報は当てにならないな)
とにかくこの世界が球体である以上、沖に出るとあっという間に海しか見えなくなるので、空路とはいえ無策で大洋超えはしたくない。
「私、大きな船に乗ってみたい!」
「船かぁ。この世界の技術力だと、やっぱり帆船? それとも魔法で動くのかな?」
名波の質問に俺は答えられなかった。
この世界の渡航はそこそこ危険だと噂には聞いていたが、その詳細までは俺も知らなかったからだ。
(海には魔物や海賊なんかが出るのか? それとも技術的な問題か? よう分からんな)
こればかりは港町に行って見てからのお楽しみだ。
俺たちの話は船から冒険者活動へと変わる。
「この国にも有名なダンジョンはあるんだよね?」
「ああ、ラジカルダンジョンや常夜ダンジョン、後はメッセン古城ダンジョンが有名かな」
シグネの問いに俺は幾つか有名なダンジョン名を口にした。
「ラジカルって前に行ったゴーレムだらけのダンジョンよね? 常夜とメッセン古城ってどんなダンジョンなの?」
佐瀬の言葉に俺は言い淀んだ。
実は両ダンジョンにはある共通項があるのだが、どうもそれを口にするのは憚れた。
だが意外にも、名波の口から説明がなされた。
「どっちもアンデッドが多いダンジョンなんだって。常夜ダンジョンはその名の通り、常に夜型のダンジョンで、メッセンの方は珍しい古城タイプのダンジョンらしいよ!」
どうやら名波は独自に情報を集めていたようだ。
「へぇ~!」
「面白そう!」
シグネはともかく、佐瀬も珍しく興味を持ち始めた。
「で、でもアレだぞ? アンデッドとか気持ち悪いし、きっと面白くないぞ?」
「あ、大丈夫。私、結構オカルトとか好きだし、スプラッターも平気よ!」
「ジャパニーズお化け屋敷、とっても楽しかったよ!」
消火しようと試みたが、どうやら油を注いでしまったようだ。
そう、何を隠そう俺は霊だとか怪異だとか、そういった実体のないものが苦手なのだ!
(幽霊とかおっかねえじゃん! 光魔法で倒せるって聞いてるけど、なんか呪われそうだし! キュアで呪いって祓えるのか!?)
俺が内心冷や汗をかいていると、どうも表情に出てしまったのか、佐瀬がニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
「もしかして、イッシン怖いのぉ?」
佐瀬に図星を指され、名波とシグネもそれに続く。
「え!? そういうの苦手だったんだ! 意外……」
「大丈夫! 私が御祓いしちゃうからね! ナムナム……」
「ち、ちがうし! 死者を嬲るような行為に、俺は懸念を抱いてですねぇ……」
色々誤魔化して言い訳してみたものの、「それなら大丈夫だよね!」というシグネの一言で、両ダンジョンの攻略が決定してしまった。とほほ…………
翌朝、俺たちは例の如く人目の付かない場所でエアロカーに搭乗し、西岸地区にある首都ニューレを目指した。
「む、あれか?」
「うわ、大きい……」
上空からでも巨大な街の様子が伺えた。あれがこの半島最大規模を誇る港町、首都ニューレか……
例の如く人目の付かない場所にエアロカーを着陸させたが、ニューレ周辺は人や民家が多く、首都からだいぶ離れた距離に降りた。
「首都周辺はかなり整備されているようね。これじゃあ魔物や野盗なんかも出ないわね」
「もしかして、首都は冒険者の需要がないのかな?」
「どうだろう。大きい街なら雑用仕事は幾らでもあるだろうし、海になら魔物の一匹くらいいるんじゃね?」
「海賊いるかも!」
シグネは海賊を倒して海賊王になりたいと豪語していた。
(シグネちゃん! それ、絶対街中では言わないでね!)
武装した集団である俺たちが「海賊王になりたい」と発言すれば、間違いなく危険分子として兵に連行されるだろう。折角の港町なのに牢屋見学だけは御免だ。
結構な時間を歩いたが、ようやくニューレへ到着した。この辺りは魔物や戦の脅威が無いのか、王国の街で見かけるような外壁はどこにも見当たらなかった。街の出入りも自由な様で、俺たちはそのまま港の方を目指した。
「凄い人だね! それに綺麗なお店もいっぱい!」
「建物も王国と違って文明的ね。ほとんどレンガだしガラスもあちこちに使われてる!」
レンガの建物やガラスは王国の王都やブルタークにもあったが、店舗の数は勿論、建物の材質もまるで違う。ガラスなどより透明感があり薄いのだ。やはり連合国の文明は他の国々より一歩先に進んでいるのだろう。
しかも大陸中央部や他の大陸にはもっと文明的な国家があるそうだ。
(魔法文明の先進国家か……これは俄然観に行くのが楽しみになって来た!)
海の方角を目指してひたすら進むと魚市場が見えてきた。先ほど見て回った店にも魚は取り扱っていたが、この辺りの物産は何処を見ても魚、魚、貝と海藻、それと魚である。
「でっか!? こんな魚が近海で泳いでいるの!?」
まるでマグロのように大きな魚に佐瀬が驚いていると、それを見た元気な店主が教えてくれた。
「そいつはムジカさ! この時期はこの辺りを回遊するんで有名な魔物だな。今朝獲れたてで美味しいぞ!」
どうやら魔物に該当する魚のようだ。
俺は陸の魔物については殆どの知識を詰め込んでいたが、流石に魚の魔物については詳しくなかった。王国も海に縁が無い為、冒険者たちからあまり情報収集ができなかったのだ。
「ちょっと写真撮ってもいいですか?」
「ん? シャシン? なんのこっちゃ?」
シグネの問いに店主は首を捻ったが、瞬時に絵を描くマジックアイテムだと説明すると、商売の邪魔にならなければ好きにしろと許可をもらった。
「そんなの写真に撮ってどうするんだ?」
「この魔物、多分まだ未登録だよ! 魔物図鑑アプリで投稿するの!」
「ああ、成程ね」
新日本政府主導の下、探索者たちは魔物図鑑アプリで情報のやり取りを行っていた。未登録の魔物ならば情報提供だけでもそこそこの探索者ポイントが付与される。
シグネはまだ探索許可証を所持していない為、ポイントは関係ないが、アプリで図鑑を埋めたり眺めたりするのが好きな様で、こうして定期的に魔物の情報提供をしているそうだ。
俺たちは店主に礼を言ってムジカの切り身を購入すると、更に街の奥へと進んだ。
やがて港に辿り着くと、そこには多くの船が停泊しており、次々と荷が船に積み込まれ、別の場所では逆に荷下ろしが行われていた。
「へぇ、思った以上に大きな船が多いのね」
「んー、全部帆船かなぁ?」
「すごーい! 格好いい!」
確かガレオン船と言うのだろうか。複数の帆を持つ大きな木造の船があちこちに停泊中であった。他には複数のオールで漕ぐような背の低い船や、小さな小舟も港に停泊中である。沖合には何隻も小舟が浮かんでいた。あれは漁でも行っている最中なのだろうか。
「これのどこかに中央部や大陸横断の定期船があるのかな?」
「あっちに立っている人に聞いてみよう!」
名波は暇そうにしていた船乗りらしき男を掴まえて色々尋ねていた。それを俺たちは遠くから見守っている。
「あ、猫がいる! 可愛い!」
暇を持て余していたシグネは水揚げした魚狙いの猫でも見つけたのか、フラフラとそちらの方へと向かって行った。佐瀬も猫に興味がありそうであったが、親友が戻るまでは大人しくその場で待っていた。
「ふふ、ちょっと赤毛で可愛いね。君はこっちの世界のネコ君かなぁ? それとも私たちと同じ、地球からやってきたのかなぁ?」
少し小柄な赤毛の入った野良猫をシグネは撫で回しながら語り掛けた。当然こちらの言葉など分からないのだろうが、赤毛の猫はされるがまま大人しく撫でられ続けていた。
思いの他大人しい猫をあやしながら、シグネは何時もの日課でなんとなく【解析】スキルでそれを視た。
名前:ミケアウロ
種別:魔物
サイズ:小型
人以外の生物は【鑑定】や【解析】でもこの程度の情報しか視れないのは知っていたが、珍しい事にこの個体には名前が付いているようだ。しかも驚いた事に、ただの猫だと思っていたら魔物であった。
「あれれ? 猫ちゃん、魔物なんだ。どこかで聞いた名前のような……」
少し考えるも思い至らず、それよりも名前があるという事は誰かに飼われているのかと思うと、シグネは残念な気持ちの方が強かった。
「名前持ちじゃあ飼えないよね。あ、ルミ
シグネは勝手にミケと名付けた赤毛の猫に手を振ると、イッシンたちの下へ戻って行った。
ナァ~!
先程まで人形のように大人しかった猫は、別れを惜しむかのように可愛い鳴き声を上げた。
船乗りの男から話を聞いてきた名波が戻ると、シグネも猫とじゃれるのを止めてこちらへ戻ってきた。
「この先に渡航の予約ができる場所があるみたい!」
「へぇ、まだ海を渡る気はないけど、先に情報だけでも仕入れてみるか」
俺たちは船乗りの男が教えてくれた場所を目指す。
そこは二階建ての大きな建物で、雰囲気としてはブルタークの冒険者ギルドを少しお洒落にした感じであった。ここで渡航の受付や荷物の登録なども行っているらしい。
室内に入り窓口らしき場所にいた女性スタッフに話を聞いてみた。
「中央部や他の大陸への移動ですか? 承っておりますが、それぞれこれくらいの費用と期間が掛かります」
良くある質問なのか、受付スタッフはそれぞれの港への渡航費用と期間を纏めたリストを取り出して見せてくれた。
「んー、中央部の最寄りの港までは最速で二日間かぁ」
「天候によっては三日かかる場合もございます。その際も渡航料金は一緒ですが、食事代だけが別途加算されます」
客船は思った以上にしっかりしているのか、個室も選べて食事も提供されるらしい。ただし三日目以降からは食事代だけ取られる仕組みのようだ。
「あれ? ここに書いてあるけど、冒険者だと安くなるの?」
「はい。有事の際にご協力頂く事が前提条件となりますが、階級によって運賃が値引きされます」
「有事の際って魔物が船を襲う際の迎撃?」
「魔物もそうですが、稀に海賊も出ますので」
「――海賊!?」
案の定、シグネが食いついた。
それを見た受付は海賊の存在を恐れているのだと勘違いし、気を遣う様に語り掛けた。
「ちゃんと護衛専門の冒険者も船にいますので大丈夫ですよ。本当に手が回らない場合のみの予備戦力としてのお値引き価格です」
確かに護衛依頼の代金としては微妙な値引き金額だが、何も起こらなければ安くなるのだから有難い。
それからも受付から色々話を伺い、新たな情報を得る事が出来た。
まずここニューレ港から定期便が出ている箇所は全部で5つ。同じメルキア大陸内で3カ所、それとルルノア大陸に2カ所だ。
ルルノアとはここからずっと西にある文明の進んだ大陸で、連合国はその大陸の国と交易して発展を遂げてきたのだ。
ただし別の大陸だけあって渡航にはかなりの日数を要する為、定期便も一カ月に1本程度とかなり少ない。当然費用も掛かるが俺たちなら十分払える額だ。
同じ大陸内での他の港で一番最寄りなのはダルトゥという港町だ。バーニメル半島の北部を蓋する形でそびえ立つバーニメル山脈。そこを越えてすぐの場所にある国の港だ。一番近くて一番安い。定期便の数も多く、一日に1便はどこかの商家から出航しているそうだ。
(思っていた以上に往来が盛んだな)
俺が耳にした話しでは、もっと船の本数が少ないと聞かされていたが、やはり同じ半島内でも西と東では情報に齟齬がある様だ。噂は所詮噂だったか。
他の定期便の港もメルキア大陸の北側、しかも西寄りで、ニューレから距離が近い箇所にしか定期便が出ていないらしい。やはり航行距離の問題が大きいのだろう。
「南側ルートはないんですか? 獣王国にも港町はあるって聞きましたが……」
「一応船は出ておりますが、定期便はないですね。南側は浅瀬が多かったり海賊も頻繁に出ますので、一部の商家くらいしか船を出しておりません。あまりお勧めはできませんね」
このようにバーニメル半島近海の貴重な事情を聞く事が出来た。
(鹿江大学の学生たちが本格的に港町を起こす気なら、この情報は貴重だろうな)
今度顔を出したら花木たちに教えてあげようと、俺は受付に質問を続けるのであった。
船のチケットも買わず長時間質問を続けた所為か、流石の受付女性も若干顔を引きつらせていたが、迷惑料としてチップを出したら笑顔に戻った。この国は金で投票権すら買えるらしいし、俺もそれに倣い、彼女のご機嫌を金で買う事にした。
用を済ませて船の案内所を出る。
「この後はどうするの? 先に宿でも探す?」
「んー、まずはギルドに顔を出そう。これから連合国内で活動する訳だし、挨拶くらいはね。宿もギルドで聞けばいい」
「それもそうね」
この街のギルドの場所もさっきの受付からちゃんと聞いていた。中心広場から若干北寄りの場所だそうだ。建物も大きかったのですぐに見つかった。
「大きい!?」
「ブルターク支部より大きいな……。流石は半島一番の港町だ」
中に入ると思った以上に冒険者の数が多かった。混雑するような時間帯ではない筈だが、受付にはどこも列ができていた。しかしよく見ると一つだけ短い列があったので、そこの最後尾へ並ぶ事にした。
並んで大人しく待っていると、後ろから知らない男に怒鳴られた。
「おい、お前ら! ここは上級冒険者専用の列だ! 他所の列へ行け!」
「ん? 上級冒険者? 俺たちB級だけど?」
巷で言う上級冒険者とはB級以上の事を指し示す。ちなみに中級がCとD級でそれ以下が下級冒険者、もしくはルーキーや見習いといった呼称をされる。
「テメエらがB級? 嘘を言え! いいから他所へ並びな!」
その男もB級らしく、胸元から銀色の冒険者証をぶら下げていた。ちなみに俺たちは全員服の内側かポケットなどにしまっている。新日本国での探索者制度のように、活動中でも別に冒険者証を見える位置に出しておく必要はない。
「嘘じゃないよ! ほら、これ見て!」
嘘つき呼ばわりされてムッとしたのか、シグネもプンプンしながら銀色の冒険者証を提示した。それを見た男の目付きが険しくなった。
「まさか偽造までするとは……とんだ連中だな!」
「はぁ!? 何イチャモン付けてんのよ! これは正真正銘本物よ!」
シグネに続いて佐瀬と名波も提示して見せた。俺も彼女らに続いて懐から冒険者証を取り出す。
だが、それでも男は引き下がらなかった。
「お前らみたいな女子供がなれる程、B級は甘くはねえんだよ!」
その男の言葉に賛同したのか、周囲の何人かが頷いていた。
「確かに、あいつら見た事もねえし、B級だなんてホラだろう?」
「あのおチビちゃんがB級になれるんなら、俺様はS級だぜ!」
「また冒険者証を偽造した連中か……。しかも堂々とギルドに顔を出すとは……」
冒険者証の偽造が多いとは聞いていたので疑われたのだろうか?
確かに俺たちの見た目は若い女子供のパーティだから侮られるのは分かる。だが普通に考えればギルドで偽造した冒険者証を堂々と見せる筈もない。
(こいつら正気か? そんなすぐバレる嘘、本気でつくとでも思ってんのか?)
ここの冒険者たちの頭の悪さに、逆に心配になってしまうが、何と言われようと俺たちがB級な事実には変わらないし、ギルドの受付にでも見せれば解決する話だ。
「さぁ! 分かったらとっととそこをどけ!」
「……いや、全く意味わかんないし。偽物かどうかは受付に見せれば分かるだろう? 大人しく俺たちの後ろに並んで待っていろよ」
「なっ!? テメエ……俺が誰だか分かって言ってんのか!? ≪西方覇道≫のハオル様だぞ!」
「「「「…………誰?」」」」
俺たちは一ミリも聞いた覚えの無い名に、お互いの顔を見合わせた。
◇◆◇◆ プチ情報(スキル紹介) ◇◆◇◆
スキル名:【命中】
タイプ:強化型
系統:射撃系
分類:適性スキル
レベル:1
主な所持者:ミケール
射撃、投擲の命中精度が増す。
スキル名:【的中】
タイプ:強化型
系統:射撃系
分類:適性スキル
レベル:2
主な所持者:名波
【命中】の進化版スキル。動かない的であれば必中する。
スキル名:【精密射撃】
タイプ:強化型
系統:射撃系
分類:適性スキル
レベル:3
主な所持者:不明
有効射程圏内であれば、針の穴も通す程の精密射撃を行える。
スキル名:【百発百中】
タイプ:強化型
系統:射撃系
分類:適性スキル
レベル:EX
主な所持者:不明
射撃系のユニークスキル。例え嵐の中でも相手が避けない限りは必中する。壁や地面などに跳躍させて狙う事すらも可能。射撃、投擲に関しては未来予知に近い能力を得る。
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