第97話 忘却のガーディアン

 初日は情報収集に注力し、日が暮れたので宿に戻った。


 色々なお店の情報も聞けたが、この街にも冒険者ギルドがあったので、そこで最低限の情報を仕入れることも出来た。



 この街の名はオッサヴァという交易が盛んな街だ。


 北方民族自治区から獣人やエルフたちが、稀にエイルーンからも人族が買い物で遠来するらしく、逆に川を利用して遥か南方にあるタシマル獣王国まで交易船を出すこともあるそうだ。


 ドワーフ領のほぼ中央部に位置するこの街は帝国との争いも無縁らしく、そこまで人族への風当たりも強くはない。それに最近、人族の移住者も増え始めているので、俺たちもそこまで目立っていなかったのが幸いだったのか、ギルドで絡まれるようなイベントも発生しなかった。


 ドワーフ族の気性は荒っぽいと聞くが、別に性格が悪いわけではない。寧ろ根が正直な者が大半だそうだ。ただ口が悪いのと、思ったことをズバッと言う性格なので、人によっては苦手な相手だろう。


(まぁ、ドワーフにも色んな性格の人がいるんだろうけど……)


 それでもその国や種族独自の気風というものは確かに存在する。



 二日目はいよいよ本格的に鍛冶屋とゴーレム工学の研究者探しだ。だが、これが中々に苦労させられた。


 まず鍛冶屋だが、街にある数がとても多いのだ。


 本当にそんな数の工房が要るのかと小一時間問い詰めたくなるほど、街のあちこちで金槌を打つ音を響かせている。ドワーフの鍛冶好きは二次元での想像通りなようだ。


(まるで日本の歯医者や美容院並だなぁ)


 少ないよりかはマシなのだが、こうも多いと逆にどの工房を選んでいいのか非常に困ってしまう。それとなく腕の良い職人を尋ねると、何処もかしこも「自分が一番だ!」と主張する。


 う~ん、これは困ってしまった……


「工房選びは時間が掛かりそうだなぁ」


「だったらイッシンにいたちは先にゴーレムの情報を調べたら? 私一人でも平気だよ?」


 流石に初めて訪れる街をシグネ一人で散策させるのは躊躇われるので、予備武器の購入を考えていた名波も同行させた。


 俺と佐瀬ペアはゴーレムの情報を探すことにする。



 だがこっちの方は、逆に全くと言っていいほど手掛かりが掴めなかった。



「ゴーレム? さぁ……興味ねえなぁ」

「魔法関連の知識はどうにも、のぉ?」

「多分ドワーフで詳しい奴なんか、いねえんじゃねえか?」


 どうもゴーレム工学は鍛冶と言うよりも、寧ろ錬金術寄りの技術に該当するらしく、ものづくりのエキスパートであるドワーフたちだが、魔法も絡んだりする技術になると、途端に数を減らしてしまうのだ。


「どうやら当てが外れたようだ……」


「もう少し探してみましょうよ。中には変わり者のドワーフもいるかもよ?」


 佐瀬の提案に頷いた俺は、午後も街中で聞きまわる事にした。



 そして遂にとある店で手掛かりのような情報を掴んだ。


「そういえば、何年か前にゴーレムの残骸を丸ごと買い取った記憶があるなぁ」


「ゴーレムの残骸!?」


 それは非常に珍しい事であった。


 ゴーレムとは元々、失われた古い文明時代に造られたガーディアンだとされている。きっと大昔に製造された重要施設での警備ロボットのような存在なのだろう。


 稀に古い遺跡の奥に生きたゴーレムが発見されることもあるのだが、その倒したゴーレムの残骸は非常に価値が高く、国や研究所の者が即座に買い取ってしまい、普通の市場に出回ることなど殆どない。


 ダンジョンではそこそこ見掛けるゴーレム種だが、ダンジョン内で倒した魔物は全て消えてしまう。一部のパーツがドロップ品として得られるくらいで、ゴーレムの仕組みなどを内包したままの貴重な残骸など、今では手に入ることも難しいのだ。


「それって、何処で手に入れたか分かります!?」


 少し興奮した俺が尋ねると、店主は真剣に思い出そうとしてくれた。


「確か北にあるキモの山岳遺跡から……だったな。だがあそこは危険な場所だし、遺跡内も既に調べ尽くされ、残っているモノは何もなかったと思うが……」


「結構です。場所を教えてください!」


 店主から遺跡の大まかな場所を聞いた俺は感謝の礼として、商品を幾つか購入してから店を出た。


「そこの遺跡を調査するのよね? もしかして今から?」


「流石に準備はするよ。それにあの二人に黙って調べに行ったら、絶対に後から文句を言われる」


 何せ異世界の古代遺跡だ。ファンタジー物が大好きな名波やシグネが、そんな面白そうなイベントを見逃すわけがない。




 翌日、俺の予想した通り二人も興味津々で、4人揃ってエアロカーに搭乗し、街から北にあるというキモの山岳を目指した。


「二人の武器は何時完成するんだ?」


 名波とシグネは昨日の内に良さそうな工房を見つけたのか、既に武器の依頼を行っていた。どうもそこのドワーフ職人とシグネが意気投合した結果らしい。


 ドワーフたちは日本刀の製造法は知らないと思うが、俺はシグネに≪模写の巻物≫を貸していた。そのマジックアイテムの巻物には俺が日本から多くの知識をコピペした“一心ファイル”の内容も記載されている。


 その中には日本刀の製造過程も入れておいたのだ。


 俺自身そこまで日本刀に拘りは無いが、やはり異世界物の武器と言えば人気の武器でもある。一応入れておいて大正解であった。


 巻物には日本語で記載されているので、シグネは【自動翻訳】で読めるだろうが、ドワーフには理解不能な言語だろう。


 そこでシグネがスマホで何処からか動画を拾ってきて、ドワーフに刀の製造過程を見せたらしい。ドワーフは動画内容よりスマホの存在そのものに驚いて興味を引いていたが、マジックアイテムということで押し通したら、スンっと表情を変えたそうだ。


 どうやら魔法関連の技術に興味が無いというのは本当の事らしい。ミスリルなどを用いる魔剣はセーフなようだが、あまり脳を働かせるような魔法技術を嫌う傾向にあるらしい。


 その辺りは同じドワーフ族でも、元魔導士で頭の良いレッカラ副ギルド長とは、性格も大きく全く違うようだ。寧ろ国を出た彼女の方が異端なのかもしれない。


 そんな性格でキチンと刀工の技術が伝わったのかは謎だが、そこはドワーフの力量を信じる他あるまい。



「初めての武器だから一週間は時間欲しいって言われたよ」


「それでも一週間なんだ。十分早いと思うが……」


 実際武器の製造にどの程度掛かるのかは知らないが、それだけの期間で良い武器が手に入るのなら幾らでも待つつもりだ。


 オッサヴァの街は思ったより住みやすいし、ありがたい事に新日本国からの魔導電波も圏内範囲だ。暇つぶしにネットを見る事も可能である。


 最近ではリストアチャンネルなる動画配信サービスも始まり、日本人探索者たちが活動内容を次々にアップして広告収入を稼いでいる。


 ちなみにリストアとはこの世界の名だが、一般人にはあまり馴染みのない名前らしい。大体の平民は自分の生まれた土地でそのまま一生を終えるからだ。せいぜい周辺国の名前を覚えるくらいだ。


 博識な冒険者や商人たちにはリストアや他の大陸名を知っている者もいた。俺たち転移者は女神アリスのQ&Aで聞いていたので、全員がこの世界リストアの名を知っていた。


 そのリストアチャンネルは現在、新日本国政府の監視下に置かれ、許可された内容のみアップされているが、それでも娯楽としては大変好評らしく、動画サイトの登録者数は日に日に増している。


 ドワーフの街オッサヴァでも極少数の転移者が動画サイトを知ってはいるが、殆どの者は既にスマホのバッテリー切れを起こしており、ネット情報を拾える者は限られていた。




「キモの山岳って何処にあるの?」


 名波が空からの景色を眺めながら俺に尋ねる。


「どうもオルクル川の源頭……水源地にあるらしい。だからこの川を上って行けば……あ、見えてきた!」


 遠くに薄っすら見えてきた、あの山がそれらしい。今日は生憎の空模様で雲が多く、上空からでも近づくまでは山が全く見えなかった。


「遺跡はどの辺り?」


「そんなに標高の高い場所じゃないとは聞いているが…………あれがそうか?」


 木々や岩肌ばかりの山であったが、一カ所明らかに自然で出来たモノではない異物を発見する。どうやらあれがキモの山岳遺跡のようだ。



 周囲には魔物の気配のみらしく、人の気配が無いのを確認した俺たちはエアロカーを着陸させる。その際、こちらへ襲ってきた魔物が数体いたが、速攻で返り討ちにする。どいつも討伐難易度Dランク前後といった実力だろうか。


「本当に魔物だらけね」


「多分調べ尽くしてから放置されたんだろう」


 周辺は整地も全くされていない。これでは馬車の往来も難しいだろう。


「勿体ない! 貴重な遺跡なのに……!」


 現代の地球人たちの感性とは違って、この世界の者は昔の遺物を大切に保全しようとする意識はまだ低いのだろう。だがそれも仕方ないことかもしれない。そういった行動は得てして、余裕のある立場の者だからこそ実行できるのだ。


 まだまだ未開の地が多く、民の生活水準も低い状況では、自然や遺跡の保護よりも、どうやって自分たちの暮らしを良くするかに心血を注ぐ。


 それは当然の考え方だ。


 そして、そういった過去の人々の努力があってこそ、現代に暮らす我々には他に目を遣る余裕が生まれたのだ。現代の生活環境で育った俺たち日本人と、この世界の人たちとの価値観を一緒に考えてはならない。



「まずは周囲の魔物を間引こう。それからゆっくり遺跡を調べようか」


 俺たちは名波レーダー指示の下、周辺に潜んでいる魔物たちを狩り尽くした。一番強くてもCランクの魔物だったので、一時間もあれば彼女の探知内に引っ掛かる存在は一掃した。



 その後は各自好きなように遺跡内を見て回る。



 俺は崩れかけている壁面に刻まれた文字を見ていた。


(うーむ、翻訳が働かん。【自動翻訳】スキルでも解読不可能な文字か……)


 女神アリスの説明によると、確か【自動翻訳】は一定以上の使用者がいない言語は解読不能だったはずだ。それと暗号の類も翻訳がされない。


 つまりこの文字は使用者が非常に少ない失われた言語、もしくは暗号という事だ。


(暗号ではないよな。というか、暗号なんて壁面に刻むか? 普通……)


 まぁ、ゴーレムの知識には関係なさそうなので、他の場所を調べることにした。だが、どこにも重要そうな手掛かりは見られなかった。



「ねえ! こっちに地下へ潜る階段があるわよ!」


 佐瀬の報せを聞いた俺たちは彼女の下に集まる。確かにそこには、だいぶ傷んだ下り階段が続いていた。どうやら地下にも部屋があるらしい。


「おお! お約束な感じだねぇ♪」


 名波はこういったシチュエーションが好きなのか、臆せず下へと降りていく。【感知】スキル持ちの彼女が降りたということは、罠の類は無いのだろう。


「——【ライト】!」


 俺が魔法で光を作ると、名波は素早く右の方を振り向いた。


「…………何かいる!」


「え? まだ魔物が残っていたの?」


 佐瀬が尋ねると名波は首を横に振った。


「分かんない。けど、さっきまでは確かに気配を感じなかった。急に反応が出た……? ちょっと感知しにくい……あっちの奥にいる!」


「…………警戒しながら進もう」


 名波が感知しにくい存在となると、厄介な相手かもしれないが、どうやら一匹だけのようだ。


 俺は更に魔法で光源を増やして暗い地下通路を照らすと、右に続いている通路を進んでいった。


「あれ? 行き止まり?」


 右側には小さな部屋の跡が残っているくらいで、他に通れそうな場所は無かった。もしかして別ルートから先に進めるのだろうか?


「ねぇ、これってもしかして道だったんじゃないの?」


 佐瀬が指摘した場所は一見壁のように見えるが、灯りを照らしてよく観察すると、どうやら天井が崩れて、土で道が塞がれているだけのようだ。


「…………掘り返してみる?」


「ここまで来たんだから、やってみようよ!」


 天井が更に崩落しないかが心配だが、いざとなれば闘力や魔力のゴリ押しで脱出できるだろう。


 それに名波が捕捉した魔物らしき反応は、ずっと同じ場所に留まったままなようで、特に動きを見せていないままだ。


 俺はマジックバッグからスコップを取り出すと、採掘作業を開始した。




「こ、これはきつい……!」


 いくら闘力が高いと言えど、慣れぬ採掘作業に俺は30分でギブアップした。だがかなり掘り進めることが出来た。


「代わるよ!」


 名波にバトンタッチして俺は休息をとる。


 狭い場所なので一人ずつしか掘り起こす作業が出来そうにない。名波も30分経たずにバテたので、彼女にヒールを施してから再び俺が挑戦する。



 佐瀬とシグネもちょこちょこ参加してくれたが、俺たち以上に体力は無く、余り戦力にはならなかった。




 穴掘りを開始して四時間ほど、ようやく崩落した道が開通した。


「あー、マジでしんどい……!」


「あっ! 例の反応がこっちに向かってくる!」


 大の字で横になる俺に、名波から非情な宣告がもたらされた。


「うげっ! このタイミングでかよ!?」


 慌てて身体を起こして剣を抜く。気休めにヒールを掛けるが、怪我などはともかく疲労した体力は僅かにしか回復しない。



 やがて足音と共に姿を見せたのは、俺の背丈位の小柄なゴーレムであった。


「ゴーレム!?」

「先手必勝!」


 佐瀬が雷魔法を準備しようとするが、それに俺は慌てた。


「待て待て! なるべく傷つけないよう無力化してくれ!」


「ええ!? それ……無理じゃない?」


 佐瀬の言い分も理解できる。


 ゴーレム種は動力部分を破壊しないと、例え手足をもぎ取られようとも命令を実行する為に動き続ける。そんな相手を傷つけずにだなんて、我ながら無茶な注文だというのは自覚していた。


「まずは俺が動きを止める! ある程度は壊してもいいから!」


「ああ、もう!」


 佐瀬に文句を言われる前に、言い出しっぺの俺が前に出た。


(くそぉ! もう腕に力が入らねえぞ!?)


 慣れぬ採掘作業で俺は疲労していた。


 それでも、なけなしの力でゴーレムの攻撃を俺は剣で防いだ。ノームの魔剣は頑丈さが取り柄なので、そこらのゴーレムパンチでは傷ひとつ付かない。だが……


「ん? こいつ……思ったより弱いぞ?」


 名波の【感知】を一度とはいえ掻い潜った相手なので警戒していたが、パワーは非力であった。ゴーレムは腕力では勝てないと判断すると距離を取って掌をこちらへかざす。


 あれは魔法を使うゴーレムが見せる動作だ。


(こいつ、魔法使い寄りの性能なのか!?)


 だが、そこから繰り出された魔法は最下級魔法【ファイア】で、俺の魔法耐性でもあっさりレジストに成功した。


「隙あり!」

「えい!」


 いつの間にか背後に回り込んだ名波とシグネが二人掛かりでゴーレムを取り押さえる。ゴーレムはじたばたもがいているが、彼女たちの拘束からは全く逃れられないようだ。


「あら? 本当に弱っちいのね」


 佐瀬の出番無く、ゴーレムの捕獲に成功した。


「しかし……こいつ、どうしよう?」


 小柄なゴーレムは多分、魔石に籠められている魔力、動力エネルギーのようなものが切れるまでは永遠に動き続けるだろう。


 流石にそこまでは付き合いきれない。


 試しにそのままマジックバッグに納めようとするも、やはりゴーレムと言えども稼働中は収納不可なようである。機械やマジックアイテムというより、生命体として認識されているのだろう。


「生命体……もしかしてヒールやリザレクションが効くのか?」


 俺は試しにゴーレムの指を一本斬り落として【ヒール】を掛けた。すると指は見事に修復される。回復魔法が効いたのだ。


「んー、若干直りが遅い様に感じるが、治療は可能なのか……」


 少し考えてから俺は、ゴーレムの頭を綺麗に斬り飛ばす。それでもゴーレムは活動を続けていたので、コアや動力源は胴体かそれ以外の箇所にあるのだろう。


 続けて腕と脚を順々に斬り落としていくと、右脚一本残した段階でゴーレムは停止した。


「なんか……可哀そう……」

「あんた、残酷ねぇ……」


「そこ、うるさい! これも大事な研究だ!」


 以前俺は回復や蘇生魔法、マジックバッグの実験と称して、ゴブリン君たちに何度も協力(強制)をして貰った経緯がある。流石にシグネや佐瀬たちには詳細を説明できない。



 二人がか弱いゴーレム相手に同情している最中、名波だけは文句も言わずにゴーレムをちゃんと押さえてくれた。ありがとう! 心の友よ!


 しかしコアや魔石を斬った感触は無かったが、ボディの破損が大きくなると不全を起こすのか、ピクリとも動かなくなってしまった。そこはダンジョン産のゴーレムと同じようだ。


 それとも何か致命的な箇所でも知らない間に破壊してしまったのだろうか?


(ん? こいつにも生命力のようなエネルギーを感じる)


 俺は至近距離だと、生物の生命エネルギーのような何かを感じ取ることができた。このエネルギーが僅かでも死体に残っている限り、蘇生が可能なのだと、俺は幾度の経験でそのことを理解していた。


 試しにゴーレムにリザレクションを施すと、一度復活して動き出したが、頭部と手足が三本外れたままなので、しばらく動いた後、急速に生命エネルギーを消費しながらまたすぐに停止した。


 これもゴブリンたちと同じようだ。折角生き返らせても身体が破損し過ぎていたら即死するのだ。


「うわぁ、イッシンにい、マッドサイエンティストだ!」

「あんまり虐めんじゃないわよ!」


「ええい! 人類発展の為に必要な犠牲なのだ! 邪魔するんじゃありません!」


 どこかのマッドな博士のような台詞を吐いた俺は、その後も何度か検証を重ねた後、一旦残骸ごとマジックバッグに収納した。


 生命エネルギーが残留している状態でも、死に体なら収納できるのは、ゴブリンたちでも実証済みだ。


 人は…………死体なら収納出来るのは知っているが、その後蘇生魔法を試したことが無かったかな?



 その日はもう遅かったので、俺たちは宿に戻ることにした。




 翌日からは各自、自由行動となった。オッサヴァの情勢も大体分かり、危険が無いと判断したからだ。


 佐瀬とシグネはオッサヴァの街を観光するようだ。俺はついでにドワーフ王国内の情報を入手するよう彼女たちに頼んでおいた。



 俺は再び遺跡に赴き、他に何か手掛かりがないか調査をする。今回は名波にも付き合ってもらった。


「ん、魔物の反応は無いね」


「昨日は恐らく俺の魔法に反応したんじゃないかな? 【ライト】を出した途端に反応が出たようだし」


 恐らくゴーレムは稼働スイッチのON/OFFが可能なのだろう。何か起動条件を踏むか侵入者が現れると稼働し、外敵を排除しようと試みる。昨日は魔法の行使がトリガーになったのだ。


 だが途中の道が崩落していたのもあってか、以前調べた探索チームとゴーレムはバッティングしなかったのだろう。


「他にもゴーレムがいないか調べてみよう」



 だが、そう何度も上手く事は運ばず、どうやら抜け道もゴーレムも打ち止めのようだ。


その日は街に戻り、翌日からは名波も自由に行動してもらった。



 シグネと名波の武器が完成するまでの間、俺は街の近くで一人、ゴーレム研究に勤しんでいた。


 驚いたことに何度かゴーレムの破壊と治癒、蘇生を繰り返していると、どこかで命令系統でも切り替わったのか、ゴーレムが急に大人しくなり始めたのだ。しかもこちらの言うことを聞いてくれるではないか!


 詳細は不明だが、恐らく魔石に酷似した魔力を貯蔵していた箇所を一度破壊したのが原因なように思える。ハード面は直せても、ソフトの方が駄目になったのだろう。



「あんたが拷問したからゴーレム君の精神こころが折れたんじゃない?」


 佐瀬が冗談交じりにとんでもないことを口にするが、決してそんな事は無い……はずだ。はず……だよね?



「しかし、このままじゃあ戦力にはならないなぁ」


 ハッキリ言ってこのゴーレム……クソ弱い!


 恐らくDランクの魔物相手でも簡単に返り討ちにされそうだ。これでは当初考えていた夜警用ゴーレムとしては全く意味を成さない。


 ここは、このゴーレムを改造して色々と強化を施す他あるまい。これまで無駄に溜め込んだ貴重な素材が山ほどある。やり過ぎて壊れたら【ヒール】や【リザレクション】もあるしね。



 俺は皆には内緒で、ゴーレム大改造計画を密かに推し進めるのであった。








◇◆◇◆ プチ情報(人物紹介) ◇◆◇◆



名前:小山小太郎

選択スキル:察知


 日本の元総理大臣であったが「ロリコン総理の変」で転移直前にて辞任した男。


 現在は一応政治家ではあるものの、一線からは退いており、後ろ指をさされる生活を送っている。幼い孫娘がいるが、あの発言以降口を聞いてくれなくなった。


 それでも元小山派の者たちからは未だに親しまれており、政治家としては優秀な存在でもある。




名前;蛭間大門

選択スキル:カリスマ


 地球時代では日本の総務大臣を務めていたが、「ロリコン総理の変」で思いも寄らぬ総理の座を得た野心的な男。


 最初は念願かなって喜んでいた新日本国初代の蛭間総理だが、異世界では予期せぬ事が度々起こり、徐々に支持率を下げていく。


 現在では辞め時すらも考えるまでに疲弊してしまっている。




名前;横島裕司

選択スキル:指揮


 元国家公安委員会委員長で、宇野に代わり防衛大臣に就任した男。蛭間派の派閥でもある。


 新東京のワイバーン襲撃事件以降、マスコミからも叩かれ始め、蛭間同様窮地に立たされている男。前任の宇野をあまり快く思っていない。




名前:ラド

種族:獣人族(犬族)


 北方民族自治区内にある森の中で暮らしている犬族の獣人。犬族の里では警備隊長のような役目に就いており、付近を通る不審な者たちへ警告をする場合もある。


 最近では日本人が持ちこんだ料理にすっかり魅了され、里の長を説得して新日本国へ歩み寄ろうとしている。




名前:夕風族の長老

種族:エルフ族


 北方民族自治区内にある夕風族の集落の長。見た目は30代に見えるが、実年齢は150才ほど。これでも歴代の長老の中でも若い方だと言われている。


 シグネが気に入られた女エルフのポーション売り、トレイシーは長老の孫にあたる。孫に甘い性格故か、人族へのきつい態度を少しだけ緩和させ、新日本国の者と対話を試みる。

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