第96話 リーダーは戦力外?

 西バーニメル通商連合国にあるダンジョンでストレス発散をした俺たちは、約二週間ぶりにブルタークへと戻った。


 ギルドに顔を出したついでにドロップ品を買取に出すと、王国では滅多に出ない魔物の素材も多かった為、職員に少しだけ不思議な顔をされたが、とくにツッコまれずに売り捌くことができた。


「総額で金貨91枚と銀貨20枚になります」


「「「「おおっ!?」」」」


 色々貴重な素材を売らずに残してもこの値段とは、これで当分お金には困らなそうだ。



 という訳で、翌日は久しぶりの自由日となった。


 もう既に俺たちを害せるような者はこの街にいないだろうと判断して、今日から各自単独行動を許可した。


 シグネは主力武器のレイピアが折れてしまったので、間に合わせの武器を買いに職人街地区へ、佐瀬と名波は一緒に商店街地区へショッピングに出かけた。


 俺はというと、前に新日本国からの視察団が泊まっていた宿へと赴いた。どうやらそこに第二回目の視察団が現在宿泊中らしい。昨日、魔導電波の圏内に入った途端、長谷川のメッセージが飛んできて知る事となった。


 今回俺たちに護衛依頼は来ていないのだが、都合が良ければ現地で挨拶したいという旨が記載されていた。どうも今回は長谷川氏も視察団に同行していようだ。




「これは矢野さん! わざわざご足労頂いて、すみません」


「いえ、こちらこそ遠出をしていたもので直ぐに返信もできず……無事来られたようで、なによりです」


 今回の視察団も前回同様14名である。ただし前は俺たち4人を含めてでの同数なので、今回はそれぞれ自衛官と官僚が2名ずつ加わっていた。何名かは前回と同じメンバーだ。


「あれから野党やマスコミも騒がしくて……少し早いですが、二回目の遠征を組んだんですよ」


「あー、それはまぁ、そうなるでしょうねぇ……」


 政府はエイルーン王国の街へ視察に出たことを公表したのだ。


 どうもトップの方からの指示らしい。ここ最近低迷していた支持率を至急上げたい算段のようだが、そのお陰で野党議員やマスコミも「遠征に参加させろ!」と突き上げを受けている状況らしい。


 現状はまだ情報不足なのと安全確認も取れていないので「NO!」と拒み続けているが、マスコミに世論操作された国民たちが、「自分たちも街に行きたい!」と騒ぎ始めているそうだ。


(なんだか、ややこしいことになってきたなぁ)


 今回の視察団の主目的は、移動手段である馬車の補充と、王族・貴族に関する情報収集である。まだ国交もしていない未知の外国に、国民を入れさせるわけにはいかないのだ。


 それと当然、物資の補給に外貨の獲得にも余念がない。


 その所為で、今回自衛官の皆さんはダンジョン攻略をしている暇がないそうだ。


 前回音頭を取っていた宇野事務次官は今回不在で、二回目のリーダーは防衛大臣政務官という肩書の人物が就いていた。正直、役職だけではどんな仕事をしている人か全く想像できない。


 その政務官の方針で今回の調査は街中を――――特に権力者をターゲットに情報収集することにしたそうだ。あまり貴族街を嗅ぎまわり過ぎて、領兵に目を付けられなければいいのだけど…………




 俺は長谷川と当たり障りのない会話と挨拶を済ませた後、外に出て街中にある武器屋を見て回った。


(何か目新しい武器はないかなぁ……)


 最近の俺の戦闘は、どうも決定打に欠けているような気がする。


 戦力外だとまでは思っていないし、いざという時の回復魔法があるのは、パーティとしても心強いだろう。俺は自身をそう評価している。


 だが冒険者活動に慣れてきた彼女たちにとって、俺という存在は必要不可欠なものから、あれば良いよね? くらいにランクダウンしている気もするのだ。


 勿論考えすぎだとは思うが、これは先輩冒険者としての矜持の問題だ。古い考え方かもしれないが、年上の男としても彼女たちには負けたくない!


 俺が頭を悩ませながら武器屋巡りをしていると、シグネとばったり会った。彼女は刀を入手するまでの繋ぎとして、新しいレイピアを購入していたようだ。


「あ、イッシンにい! 浮かない顔してどうしたの?」


「うーん、それがなぁ…………」


 少し躊躇った俺だが、自分の活躍の場が減っていることを遠回しな表現でシグネに相談してみた。矜持がどうのとかは、どうか忘れて欲しい。


 すると、彼女は俺の思いに賛同してくれたのか、何度も頷いていた。


「分かる! 分かるよ! 私も最近、出番が減った気がするんだよね!」


「え? そう? シグネは十分目立ってる気がするんだけど……」


 前回のボスもトドメを刺したのはシグネだ。


 一方の俺は……あれ? 前回の俺、一度もまともな攻撃、当たってなくね?


(やばい! このままだとマジで戦力外になるぞ!?)


 内心焦り出すと、俺の機微を感じ取ったのかシグネが親指を立てて口を開いた。


「大丈夫! イッシン兄も必殺技を覚えればいいんだよ!」


「ひ、必殺技……?」


「サヤカねえの雷魔法に、ルリ姉のような弓攻撃、それに負けない派手で威力の高い必殺技を編み出そうよ!」


「な、なるほど……」


 必殺技かぁ……。一理あるかもしれない。


 俺の攻撃魔法はどれも最下級で、威力はまぁまぁだが見た目が地味だ。佐瀬の魔法や名波の弓ほどの火力は無いのだ。


 ド派手な技といったら、周囲を巻き込んだ全力魔法攻撃による自爆技くらいしかない。もうあんな真似はしたくない!


 スキルも【スラッシュ】を覚えたが、要はただの全力斬りだ。ノームの魔剣で頑丈さだけは桁違いに上昇したが、実際の威力は微増しただけなのだ。


 あと、やっぱり地味!


「ううむ、必殺技…………」


「まずは技名から考えた方がいいよ! 格好いいやつ!」


「うむ、参考になった! ありがとうな、シグネ!」




 後日、ただの全力スラッシュを大声で「聖覇斬!」と叫んで発動させたら、佐瀬たちから「なにか新しいスキルを習得したのか?」と問われた。


 俺は「ただの技名だ」と返すと、二人は何も言わず、何故か生暖かい眼でこちらを見守っていた。


 後で少し冷静に自分を見返して、かなり恥ずかしい真似をしていたことに気が付いて技名を叫ぶのは止めた。


 ちなみにシグネは俺の技名を「某アニメキャラみたいで格好いい!」と褒めてくれたが、そのキャラクターがネット上で厨二病キャラの代表扱いされている事実を後で知ると、俺の心は更に深く傷ついた。


 以降、【スラッシュ】も無言か小声で放つことにした。








 二回目の新日本国視察団が街を去ると、俺たちは東の森方面のコミュニティを訪れた。


 鹿江町は相変わらず賑やかで、新東京にも負けじと徐々に発展を遂げていく。流石にビルは建っていないが、木造建築物が凄いペースで増え続けていた。


 最近では鹿江大学の体育会系諸君が町に来て、力仕事を請け負っていた。どうやら元柔道強化指定選手にして彼らの代表でもある武藤が「暇を持て余してるんなら働きやがれ!」と学生たちに発破を掛けたらしい。


 大変、ごもっともで…………


 それと武藤本人にも久しぶりに会ったが、彼は相変わらず【木工(上級)】スキルで木造建築造りを満喫していた。元とび職である鹿江町に住むご老人、小野寺に弟子入りし、本格的に建築技術を学んでいた。


 今では新しく建てられている建築物の殆どを彼が手掛けているらしい。


(その上、闘力もきっちり上がってるし、やっぱ地力が違うのか? 凄いなコイツ!)



 彼と会話をした際、少し気になる情報を聞いた。


 以前、鹿江町で嫌がらせ行為をしていた不良たちだが、どうやら今は鹿江モーターズの拠点で生活しているようなのだ。そこで用心棒気取りな真似事をしているらしいが、最近はその姿を見せない。


 それと、前回その一件で体育会系コミュを訪れた際、一人だけ虚偽の証言をしていた男、伊藤という人物も少し後になって姿を消したそうだ。


 乃木から忠告を受けた武藤は、それとなく伊藤を問い質したそうだが、それで居辛くなったのか、彼もまた鹿江モーターズの拠点に移ったとみられる。


(あそこのコミュニティは、なんか不穏なんだよなぁ……)


 いっそ≪隠れ身の外套≫で透明になって、内部の様子を探ろうかとも考えたが、これで何も無ければ俺はただの覗き魔だ。まだ実害が出ていないので……いや、出てからでは遅いのかもしれないが、そこまで俺たちが気にするような事でもない。


 今回もスルーすることにした。


 仮に何か仕掛けてきたとしても、順調に闘力を上げているダリウスさんや乃木、そこに武藤が加われば、不良学生如きどうにでもなると判断したからだ。



 鹿江町の知り合いたちに挨拶を済ませると、今度は文科系サークルコミュニティの拠点を覗いた。沿岸部にある拠点は少し見ない間にかなり立派なモノとなっていた。


 なんと浅瀬には桟橋までが設けられており、幾つかの小船も浮かんでいた。


「あれは俺たちが作ったんだ!」


 浜岡の話だと、武藤の協力もあったそうだが、基本的にはここの学生たちで作り上げたそうだ。流石にエンジンはまだ無理なので手漕ぎだが、闘力の高い者たちで漕ぐと結構スピードも出て、そこそこ沖にも行ける。


 お陰で漁獲量も増えて、料理のバリエーションがますます増えたらしい。今では鹿江町までのルートもすっかり開拓され、ちょっとした漁港町扱いになっているそうだ。


 しかもどこで調達したのか、彼らは馬車まで所有していた。


「アルテメや鹿江の町に行くのに便利だからな」


 学生の中に【ブリーダー】持ちがいたのか、世話や手懐けるのはそう難しくなかったようだ。皆楽しそうに馬の世話をしている。



 佐瀬と名波は学友とお喋りをし、シグネは海で遊んでいる間、俺は中野とある取引をしていた。


「魚料理と洋食をできる限り用意して欲しい!」


「事前に連絡を受けていたから結構な数を作ったわよ! それで……肝心の報酬は?」


「ああ、こいつがそうだ」


 俺が彼女に報酬として手渡したのは、魔石の魔力を電力に変換する装置だ。正式名称を魔導発電機と言うらしい。新日本国で開発され、販売されている代物だ。


 視察団で一緒だった魔法庁の朝山参事官も技術面で携わったという、今新東京で売れ筋の商品だそうだ。



 実は前回の視察団護衛依頼の報酬で、俺は新日本政府から新たに魔導発電機を5つと予備のスマートフォンも幾つか受け取っていた。俺たちは既に1つ持っていたので、現在は全部で6つある発電機の内、2つを中野たち学生に譲ることにした。


 ちなみにリンクス家にも1つ渡してある。これで俺たちの利用分1つを除くと、余りは2つだ。



「これでスマホの充電ができるのよね!?」


「ああ、念の為変換ケーブルも一式貰っているから使うといい。ただし充電するには魔石が必要だぞ?」


「それなら有り余ってるから問題無いわ!」


 日本人同士のコミュニティでは魔石に使い道はほとんど無く、近くのアルテメかムイーニの町で売り捌くくらいしか利用価値が無いそうだ。これで鹿江町の人たちもスマホの充電ができるだろう。



 報酬の料理を受け取った俺はマジックバッグに収納して鹿江町の港を散策すると、見知った者を浜辺で見掛けた。


「健太郎さん! こちらにいらしてたんですか!」


「おお! 一心君! 久しぶりだね!」


 宮内一家は海に遊びに来ていたようで、奥さんの聖子せいこ、長女の聖香せいか、長男の聖太しょうたも一緒だ。聖香はシグネと共に水遊びをしていた。


 聖太君は父親と砂浜で何やら力作を作っている最中だ。あれは……もしかしてブルタークの外壁か?


「そういえば、ネット記事読みましたよ。冒険者活動も続けているそうですね?」


「はは、出版社の目に留まってね。基本はフリーだけど偶に私の記事を買って貰っている」


 彼のスマホは予備のバッテリー共々節約に節約を重ね続けた努力の結果、電波が届くようになってからもまだ多少は残されていた。復活したネットを介して新日本国の出版社に記事を売り込んだら、大変好評だったそうだ。


 今でも不定期に記事を送りつけては、その報酬として日本国内の情報や、後日支払われる報酬金がプールされ続けている。健太郎自身は未だに新東京へと行った事がないからだ。


 いつか家族と一緒に新東京まで旅行に行こうと計画しているらしい。その際には出版社から旅費をふんだくると話していた。


 彼らには既にエアロカーの存在も知られているので、新東京付近まで送っていくかと提案するも断られた。健太郎は何時までも俺たちに甘えていられないと考えており、まずは自分たちの力だけで街への来訪を試みたいそうだ。


 そういった体験談も記事に生きるらしい。


 当面の目標はD級冒険者に昇進するのと、ブルタークの街まで自力で帰還する事だそうだ。


 既にこの地域の取材は一通り行ったようで、今は新天地への移住も計画しているのだとか。最初は単身赴任を想定していたが、家族の大反対にあって、全員一緒に同行するらしい。


 驚いたことに宮内家全員が冒険者登録を済ませていた。特に長女の聖香はシグネの影響か、冒険者活動にやる気を見せており、今では光属性の中級魔法【セイクリッドランス】を習得したようだ。


(何それ!? 俺、そんなの覚えてない!)


 尤も俺の選択スキルは【回復魔法】、聖香のスキルは【光魔法】なので、同じ属性の適性スキルでも、彼女の方が攻撃魔法を習得し易い条件は揃っていた。


 ただ、それを考慮しても、この短期間で中級魔法にまで到達するとは……


(才能は佐瀬並だな……)


 シグネと無邪気に遊ぶ聖香の姿を見て、俺は末恐ろしさを感じていた。魔力量こそ現状は大したこと無いが、これから冒険者として魔物を倒し続ければ、追々にでも増えていくだろう。



 俺は外で精力的に活動を続けようとしている宮内家に感銘を覚え、別れ際に貴重な魔導発電機の1つを健太郎にプレゼントした。


「これが噂の!? こいつがあれば、外での報道活動も十二分に熟せるぞ!」


 健太郎にはとても感謝をされた。もう携帯のバッテリー残量も残り僅かで、そういった理由でも、一度新東京へ行ってみたかったらしい。


「シグネちゃん、またね!」


「聖香ちゃんも冒険者活動、頑張ってね!」


 魔導発電機でスマホの充電ができれば、シグネと聖香も気軽に通話が可能になるので、こちらとしてもメリットがあった。聖香も健太郎経由で情報を得ているのか、探索者制度も随分気になっていた様子で、これで魔物図鑑アプリを存分に利用できると無邪気に喜んでいた。


 早速魔物図鑑アプリを調べたいのか、俺の写真をせがまれた。シグネといい、この子といい……俺は新種の魔物じゃないよ?


 なお、探索者以外の者が魔物の情報をアプリで送信しても、履歴には残るそうだが、探索者ポイントは1ptも増えない。それでも無償で情報提供をする者は結構いるそうだ。




 宮内家に別れを告げると、俺たちはエアロカーでブルタークに帰還した。








≪翠楽停≫に戻り、宿で夕飯を食べ終わった後、俺は皆にある提案をした。


「デバル王国へ行かないか?」


 俺の言葉に三人とも頭にハテナマークでも浮かべているのか、揃って首を横に傾げた。


 どうやら国名では少し分かり難かったようだ。


「ああ、すまん。ドワーフ王国のことだ」


「「「あ~……」」」


 正式名称はデバル王国だが、ブルタークに暮らす者のほとんどは“ドワーフの国”とか“ドワーフ王国”と呼ぶ。それほど王国民には馴染みのない国であった。


 別にデバル王国は鎖国している訳ではなく内向的な国でもないのだが、エイルーン側としてはそこまで重要視している国ではないみたいだ。鉱石の採掘や質の高い鉄器類の取り扱いもあるが、そういった品々は商人が仕入れてくるので、貴族などの富裕層はさして気にならないのだろう。


 王国にも幾つか鉱石を採掘できる場所が有り、現状そこまで資源に困っている訳でもない。帝国とは違い、支配地域を広げるよりかは内側の発展に心血を注いでいるのだ。


 一方、ガラハド帝国とデバル王国との仲は非常に悪い。


 帝国が人族主義的なのも要因の一つだが、最大の理由は帝国北部にあるドワーフ領との国境線での争いだ。


 デバル王国から見て最南端の場所に、鉱石類が大量に採掘できる山脈地帯が連なっている。その山々の領有権争いで帝国とは長い間、戦争状態にある。


 今現在でも散発的に争いは起こっているが、皮肉にもその山脈が天然の盾にもなっており、そこまで大きな戦争には発展していない。


 帝国軍がドワーフ領の鉱山にちょっかいを仕掛けることもあれば、またその逆もあるそうで、二国間の緊張は高まる一方であった。



「そんな国に行っても大丈夫なの?」


「街にまでは被害が出ていないそうだ。王国の冒険者なんかも、良い武器を求めてわざわざドワーフ王国に足を運ぶ者もいるそうだぞ?」


「武器!? 私、ドワーフに日本刀作ってもらいたい!」


 ドワーフの武器と聞いてシグネが真っ先に反応した。


 俺もそのつもりでドワーフ王国行きを提案した。


 最初は長谷川経由で日本人の刀鍛冶を紹介して貰おうと考えていたが、それは早々に断念した。新東京でも探索者たちがこぞって刀を欲するらしいのだが、今のところ腕の良い職人は探索者ギルドの方でも見つかっていない状況らしい。


 そもそも刀鍛冶は日本の西側に多く分布しているらしく、東京を主とした新日本国のコミュニティには、名のある刀匠は残念ながら参加していなかったそうだ。


 そこで腹案として考えていたのが、腕の良い刀匠は諦め、ドワーフの職人にお願いをすると言う案だ。最初は職人街のドワーフ親方にも尋ねたのだが、自分よりドワーフ王国の方が腕利きが沢山いると教えてくれたのだ。


(折角ミスリルを手に入れたことだし、どうせなら腕の良いドワーフ職人に使ってもらいたいからな)


 それともう一つ別の理由もある。ものづくりの得意なドワーフなら、ゴーレム工学にも詳しいのではないかと考えたからだ。



 その辺りの事情も説明すると、佐瀬と名波も賛同してくれた。


「良いんじゃない? ドワーフの工芸品とかにも興味あるし」

「私も予備武器買っちゃおうかなぁ?」




 翌日、俺たちは早速エアロカーでドワーフの国、デバル王国を目指した。








 デバル王国は帝国の北に位置する。


 残念ながらエイルーン王国とは隣接していないが、北方民族自治区とは接している。オルクル川の本流を使って、ドワーフの船が南にあるタシマル獣王国と交易していることは知っていたので、川沿いに飛んで行けば間違いなく辿り着けるはずである。


「恐らくこの辺りからドワーフ領のはずだ」


 北方民族自治区の殆どは森や山に囲まれた土地である。新東京のある平野部は例外だが、獣人族やエルフの部族は森の中での生活を好むからだ。


 その広大な森が急に途切れ、平地が続くようになった。伝え聞く話によると森と平地の境が自治区とドワーフ領の国境線となるらしい。


 しかも嬉しいことに、国境での関所の類は一切見られなかった。これだけ平地が広いと、どこからでもお入りください状態なのかもしれない。



 ドワーフ領に入ってからも暫くオルクル川沿いにエアロカーを飛行させていくと、結構大きな街を発見した。


「あれがドワーフの街じゃないかな? 川に船着き場も見えるし」


「近くに降りてみよう」


 俺は人の目が届きそうにない適当な場所に目星を付けると、エアロカーをゆっくり降下させていった。


 そこから徒歩で20分くらい進むと、件の街が見えてきた。ブルタークなどと違い大きな外壁は一切ないが、その分建物の数も多く、とても人口の多そうな街に見えた。


「ドワーフ族がいっぱいだね!」


「そりゃあドワーフの国だからな……」


 街へ進むと俺たちに向けられる視線は多かった。どうやら人族が珍しいようだ。


 それでも全くいない訳ではないのか、街の中に進むと俺たち以外にも人族の姿をちらほら見ることができた。


 だが、その半数が地球からの転移者であるらしい。


『あの人も地球人だね。【自動翻訳】あるもん!』


 念話越しにシグネが度々報告を送ってくれる。ただし日本人の姿は少ないようで、殆どがロシア系か中国人だと思われる。


『あちらから接触してこない限り、とりあえず放置だ。まずは宿を探そう』


 街で見かける転移者たちはこの世界に馴染んだのか、とくに負の感情は見られない。今回の目的は武器とゴーレム技術の情報なので、彼らのことはスルーした。



 ドワーフの建物は少し天井が低いくらいで、そこまで風変わりでもなかった。俺たちは風呂付きの、少し高そうな宿を予約した。


 その後は、さっそく街中の調査開始である。








◇◆◇◆ プチ情報(人物紹介) ◇◆◇◆



名前:宇野正義うのまさよし

選択スキル:指揮


 元最年少の防衛大臣で小山派筆頭。「ロリコン総理の変」にて小山総理は転移直前で異例のスピード辞任。その余波で宇野も内閣を追い出され、現在は領域外調査庁の事務次官を務めている。


 政治家の前は元一等陸尉の軍人で、付加特技の一つレンジャー課程も修めていた。


 領域外調査庁は探索者ギルドの管轄なので、要職から外されたのをいいことに、何かと理由を付けては探索者の真似事をしてステータスを上げていた。


 別に小山元総理とはプライベートでも会っており、二人は何かと情報の共有を行なっている。




名前:長谷川真はせがわまこと

選択スキル:鑑定


 新日本政府領域外管理局の課長職を務めている眼鏡の男。イッシンとのメールでのやり取りの後、≪白鹿の旅人≫関連の窓口役を務めている。


 宇野とは防衛大時代の先輩後輩の間柄で、長谷川自身は自衛官に向いていないのを早期に悟り、防衛大を中退して一般の国立大学に入り直してから努力して官僚となる。


 そこで宇野と偶然の再会を果たし、現在の関係に至った。


 官僚たちの間では珍しい【鑑定】スキル持ちだったのと、中退したとは言え元防大生という経歴が取り上げられ、新たに立ち上がった防衛省の外局、領域外管理局への課長職となる。


 現在は探索者ギルドの方でも引っ張りだこで、宇野とは違って中々に忙しい苦労人でもある。




名前:大石孝蔵おおいしこうぞう

選択スキル:健康


 領域外管理局の次長で、イッシンたち≪白鹿の旅人≫が初めて新東京に訪れた際、情報共有の場に居た一番偉い人。長谷川直属の上司に当たる人物。


 年齢による体調に不安を感じ、【健康】スキルを選択する。




名前:舘岡たておか防衛副大臣

選択スキル:健康


 現在は宇野の上司に当たる人物だが、転移前は元部下という微妙な間柄。年齢は舘岡の方がずっと上である。イッシンたちが自衛隊の基地でデモンストレーションを行う前に挨拶してきたおじいちゃん。


 政治家たちの多くが新たな世界リストアへの転移に不安を覚え、大抵の者が【健康】スキルを選択している。


 最近身体の調子が良くなってきたので、本人は効果があったと選択したことに満足しているが、文明レベルが下がって運動する機会が増えたのと、食事に脂っこい食べ物や糖分が減ったのが最大要因だとは気が付いていない。




名前:朝山静歌あさやましずか

選択スキル:光魔法


 新たに立ち上がった魔法庁の参事官を務める女性。元々研究職の人間で、魔法科学分野で大きな貢献をした女傑でもある。


 本人は魔法という未知の現象に興味を抱き、スキル選択は魔法系にすると早期に決めていた。火や水魔法は分かり易そうだったので、名称からして謎の多い【光魔法】か【闇魔法】の二択で悩んだが、ダークサイドに陥らずに光側を選んだ30代独身女性、家事のできる彼氏募集中!

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