第94話 ラジカルダンジョン

 ブルタークに戻ると、シグネがダンジョンに行きたいと騒ぎ出した。どうやら自分だけ探索者資格を貰えなかったことが相当堪えたのか、その鬱憤を冒険者活動で晴らしたいそうだ。


 前回のブルタークダンジョン探索は期間も限られていたので、若干物足りないとは俺も感じていた。


「それじゃあオルクルダンジョンに行く? それともブルターク?」


「……いや、どうせなら少し変わった場所に行かないか?」


 俺がとある場所を提案すると、全員快く賛同してくれた。








 ————と言う訳で俺たちは今、西バーニメル通商連合国にある、ラジカルダンジョンに来ている。



 西バーニメル通商連合国


 バーニメル半島最西端に位置する、帝国に次いで領土の広い経済大国である。


 古くはカデン王国という王制の大国であったが、貴族が民衆を唆して王家に叛乱を企て、国家が分裂。主導した貴族が王権を掠め取ろうとしたが、自らが煽った民衆の決起によりその貴族も覆没。


 以降、様々な勢力による戦乱の時代が続いた。


 その頃、当時まだ王国であったガラハドが帝国に名称を改め、情勢不安定な西へと侵攻を開始した。それに危機感を覚えた西の各代表たちが同盟を組んで帝国軍を撃退する。


 それが西バーニメル通商連合国の始まりとなった。


 この国最大の特徴は、この世界では稀な貴族制度を有していないことである。では国民は皆平等なのかと問われると、全くそうとは言えない。


 口の悪い者の言い方だと、”この国の政権は金で買える”と噂されている。


 実際には資金力だけでなく、人望や権力など必要なモノは多々あるのだが、金の力が圧倒的に大きい。連合は貴族に変わって大商家などの金持ちたちが集まってまつりごとをしている国家だそうだ。


 これなら貴族制度の方がよっぽど分かり易い。



 それともう一つ挙げられる、この国の特徴はなんと言っても西岸にある巨大な港町だろう。


 西バーニメル通商連合国は昔から造船技術や船での交易が進んでおり、半島外の大陸中央部や、他の大陸からも人材・物資・技術が流れ込んでくる。


 この半島で一番文明の進んだ国家だと噂されている。



 その国に俺たちは今いた。当然エアロカーで飛んで来たので不法入国だ。


 途中で降りて、きちんと関所で越境しても良かったのだが、なるべく短時間で移動してきた痕跡を残したくなかったので、今回は街やギルドには殆ど寄らず、直接ダンジョンにやってきた。


 西バーニメル通商連合国の東部にラジカルという街があり、その傍にダンジョンがあることは事前調査で把握済みだ。空路で少し位置を特定するのに手間取ったが、無事ダンジョンの入り口を見つけた俺たちは、早速ラジカルダンジョンに挑もうとしていた。


 ちなみにブルタークのギルドや長谷川氏には長期間不在になることは告げてある。物資も大量に用意したので、これで心置きなくダンジョン攻略に取り掛かれる。


「しゅっぱーつ!」


 見慣れぬ女子供の冒険者パーティに周囲の冒険者たちは怪訝な表情を向けていたが、俺たちは何食わぬ顔でダンジョンへと踏み込んだ。




 ラジカルダンジョン


 最高到達階層は49階層、やや上級者向けの洞窟型ダンジョンである。


 ボス部屋は10階層毎で出現し、守護者の魔物は固定である。転移ポイントは5階層毎と、再トライし易い構造のダンジョンではあるが、上級者向けなのには理由がある。


 このダンジョンに棲息する魔物の大半が、とても堅いのだ。


 主に土の加護持ちが多いことに起因するが、中でも注目すべきはゴーレム種が高頻度で出てくる点にある。


 実はこれこそ俺がこのダンジョンを推した理由のひとつだ。


 俺は今、オリジナルゴーレムの研究を行っている。研究とは少々大げさな言い方かもしれないが、自作ゴーレムのアイデアと素材が欲しく、以前からこのダンジョンのことは気になっていた。


 それに、ここでなら何か閃きが浮かんでくるかもしれないと期待していたからだ。


 雷魔法使いの佐瀬には少々厳しいダンジョンだが、風属性持ちであるシグネの鬱憤を晴らすにも丁度いいかと思って提案してみたのだ。




 ダンジョンに入ると、低階層はEランクの魔物が殆どで、稀にDランクが現れるくらいだ。20階層くらいまでは、俺たち≪白鹿の旅人≫には全く問題にならない。


 21階層になると洞窟の天井が高くなり、幅も広くなる。この傾向だと、恐らく大型の魔物がいるのだろう。


「前方に1匹、大きいのがいるよ!」


 姿を見せたのは、以前オルクルダンジョンで戦った、至ってノーマルなゴーレムである。


「なんだ、コイツか!」


 シグネは風魔法【ゲイル】を放つと、ゴーレムをあっさり撃破する。


 以前はこの魔法で真っ二つにされてもしぶとく動いていたゴーレムだが、今のシグネの魔力だと粉々に破壊されて一発KOとなった。


 突風で岩の塊のようなゴーレムが粉々とは相変わらずの謎現象だが、それほど魔法において属性との相性は重要視される。


 ドロップは……残念ながら無しだ。


 この階以降からゴーレムをよく見かけるようになり、稀にゴーレムの粘土という素材を入手することが出来た。ゴーレム研究者たちによると、この粘土を使ってゴーレムを製造するのが基本らしい。


「素材はどのくらい必要なの?」


「今はそんなに要らないかな。研究用があれば十分で、まだ本格的に作る気はないからな」


 それに、まだこの素材を使うと決めた訳ではないので、研究用と小型のゴーレム作成用に確保出来れば、それで十分であった。




 ゴーレムや他の魔物を狩りつつ、俺たちは何日か掛けて40階層まで到達する。


 ここのボスは討伐難易度Bランク、ロックゴーレムという難敵が待ち構えていた。今までのゴーレムより倍以上大きい上に、なんと土属性の魔法攻撃まで使用してくるのだ。


 遠距離攻撃手段を持ち、かといって足元に行くと踏みつけ攻撃が待ち構えている。おまけに頑丈で、かなり厄介な相手だ。


 だが、今の俺たちならBランクの魔物であれば十分対応できる。


「行くぞ!」


 俺の号令と共に全員ボス部屋へと浸入する。相手が巨大な魔物とあって、ここのボス部屋はかなり広い。


「——【ゲイル】!」

「——【ウインドーカッター】!」


 佐瀬とシグネが先制攻撃の風魔法、突風の風の刃をぶちかます。二人とも右脚に狙いを絞った。


 雑魚のゴーレムとは違い、破壊こそできなかったものの、ロックゴーレムは大きくバランスを崩して片膝をつく。


 そこへ名波が胴体目掛けて【ショット】スキルを併用して魔力の籠った矢を放った。なんと矢は貫通してロックゴーレムの胸部に風穴を開けた。相変わらず俺の魔力を籠めた矢の威力はバグっている。


 3人に後れを取るまいと俺は駆け寄ると、ジャンプして巨大ゴーレムの頭部を狙った。


「——【スラッシュ】!」


 切断は出来なかったが、頭部にヒビを入れる。


 技能スキル込みでの一撃はロックゴーレムの防御を突破するようだ。流石は頑丈が取り柄なノームの魔剣と言ったところか。


 全員一通りの攻撃を加えてかなりの損傷を与えたが、それでもロックゴーレムはゆっくり立ち上がって態勢を整えようとしていた。これがゴーレム種の怖い点である。


 彼らは痛みや恐怖とは無縁の存在なのだ。


『イッシン、離れて!』


 佐瀬の念話が届き、俺はすぐにロックゴーレムから離脱した。そこへ再び佐瀬とシグネが魔法を放つ。今度も右脚狙いだが、学習したのかゴーレムは右腕でガードした。


 だが、その代償に奴の右腕は吹き飛んだ。


「——なら、今度はこっち!」


 名波の二射目は左腕狙いだ。両腕を吹き飛ばして攻撃手段を減らそうとしたのだろうが、矢が小さい為、貫通こそしたが左腕大破とはいかなかった。


 俺は再度接近戦を試みるが、今度は相手の迎撃態勢もバッチリだったので、踏みつぶさんとゴーレムの右足が迫ってくる。


「ほいっと!」


 身体強化を施した俺のスピードは、油断でもしない限りロックゴーレムのスピードでは捕まる心配はない。


 俺がロックゴーレムの注意を引き付けている間に、佐瀬とシグネは次々に風魔法で頭部や胴体部分を狙った。もう動きを封じることは止めて、二人は倒しにかかり始めた。


 それに負けじとロックゴーレムも小破した左腕を突き出す。魔力が集まっていることから、多分土魔法を放つつもりだ。


「させないよ!」


 名波が再び左腕を打ち抜く。その反動で狙いが逸れたのか、誰もいない明後日の場所に岩の散弾が撃ち込まれた。だが、思った以上の威力だ。


(あれはロックバレットか? 随分大きいな!?)


 巨大ゴーレムが放ったからか、それとも魔力が高いのか、通常のロックバレットより3倍以上は大きい岩が外壁に撃ち込まれて轟音を響かせる。


 あれはまぐれ当たりでもしたら危険だ。


「その腕……もらうぞ!」


 俺の方への注意力が無くなったのか、隙を見せたロックゴーレムの左腕を【スラッシュ】で切断する。全方位に集中できない点は、ゴーレムも生物も同じようだ。どこかに視覚センサーでも存在するのだろうか?


 両腕を失ったゴーレムだが、まだまだやる気の構えだ。


 しかし、そこからはワンサイドゲームであった。


 どうやら魔法は手からしか出せないようで、相手は巨大だが愚鈍な足で踏みつぶすか、後はその巨体を倒してぺしゃんこにするくらいしか取れる攻撃手段がなかったからだ。


 ただ心臓部のコアか動力源の魔石を破壊するまでは活動していたので、倒し切るのに時間が掛かる。


 通常魔物は死んだ時、その魂と引き換えに魔石を体内に発生させるが、不思議なことにゴーレムは活動中から既に備わっているのだ。故に、ゴーレム製作において魔石は研究者たちの間でも注目されている。


 ダンジョン産のゴーレムは弱点であるコアと魔石が体内にランダムで埋め込まれているらしく、それらを破壊するか、活動できないくらいボディを大破させないと、何時までも動き続けようとするのだ。


 ゴーレムのコアや魔石を調べてみたいが、ダンジョン産の魔物は倒せば魔石を残してすべて消える。それはゴーレムとて例外ではない。


 コアの方も是非欲しいが、ドロップで出たという情報は耳にしたことが無い。仮に出るのだとしてもコアは相当希少なのだろう。


 ようやくコアか魔石でも破壊できたのか、ゴーレムは活動を停止しようとしていた。見るも無残な姿に敵ながら哀れにも思う。


(ダンジョン産だから仕方が無いんだろうけど、普通そこまで破壊されたら、俺ならゴーレムに撤退命令を出すね)


 プログラムする命令も、ゴーレム制作にとっては重要なファクターだ。ハードとソフト、どちらにも気を付けなければならない。しかし、ダンジョン産のゴーレムに撤退の二文字はないのだ。


 巨体なゴーレムは完全停止し、魔石と宝箱、それとドロップ品を残して消えていった。




「宝箱とドロップ品、両方ゲットね!」


 さっそく宝箱の中を佐瀬が覗くと、そこからなにか小さな物を取り出した。


「なに、これ? 小さい袋……?」


 佐瀬が不思議そうにその袋を持ち上げると、他の全員が驚いた表情でそれを見た。


「ま、まさか……!」

「もしかして……!」

「ま、マジックバッグだよおおっ!?」


 さっそく鑑定したのか、シグネが叫んでいたので間違いなさそうだ。


「え!? これもマジックバッグなの!? イッシンのより、随分小さいように思えるけど……」


「えっとねぇ……正確には小型マジックポーチ、だって! 収納サイズは3.6立方メートルって書いてある!」


 シグネは鑑定の上位である【解析】を習得しているので、アイテムの詳細な性能も視る事が出来るのだ。


 ちなみに、鑑定結果は以下の通りだ。




名称:小型マジックポーチ


マジックアイテム:秘宝トレジャー


効果:見た目以上の物を収納できる

最大容量は3.6立方メートルで、外界の凡そ1/3の速度で時間が経過するが生きた生物は収納できない。取り出しは手の届く範囲内で行え、入り口の大きさは無視できる




「3.6立方メートル……大きいような、少ないような……」


「時間経過も1/3かぁ……生ものだと腐っちゃわないかなぁ?」


 佐瀬とシグネは若干不満そうだが、それでも十分高性能だと思う。きちんと収納するモノを管理すれば、かなり便利なアイテムだろう。


 何よりこのアイテムには、それ以上の価値があった。


(もし俺のチートマジックバッグが露見したら、この小型ポーチをスケープゴートにすればいい)


 例えば上級貴族やら王族などに俺のマジックバッグを渡せと要求されたら、最悪この小型ポーチを身代わりに差し出せばいい。ただでやるつもりは更々無いが、これでマジックバッグの使用もハードルが随分と下がった。


 ちなみに、どんな安物のマジックバッグでも、金貨にしてざっと80枚はくだらないそうだ。しかも常に品薄状態の超人気アイテムなので、金があってもすぐに購入できるわけでもない。


 小型といえども、商人たちからしたら垂涎物だろう。


「誰が持つの?」


「んー、俺以外だろうけど、希望者はいる?」


 俺は既に十分なマジックバッグを所持しているので、辞退して他の3人に譲った。


 当然3人とも手を上げたので、ジャンケン勝負となる。



「勝ったー!!」


「ぐぅ!」

「うぬぬっ!」


 勝者は名波となった。きっと佐瀬とシグネは、さっきポーチの性能にケチを付けたから負けたのだろう。



 ちなみにドロップの方は巨大なゴーレムの粘土の塊であった。


 微妙……コアの方が欲しい……!




 丁度良いタイミングだったので、転移陣で一旦外に出て、適当に人目の無い場所で野営をする。


 ここのダンジョンは5階層毎に転移ポイントがある為か、出入りする冒険者も多く、女子供のパーティが近くで野営をすると、どうしても他の冒険者に絡まれてしまうのだ。


 連合国には不法入国している身なので、出来れば目立つ行為は避けておきたい。今回はその辺りにだいぶ気を遣った。




 翌朝、俺たちは再び転移陣を使って40階層へと踏み込む。ここのボスの復活時間は不明だが、覗いてみたらまだ留守だったので41階層へと進む。


 ここから先はBランクの魔物も普通に出てくる階層なので、難易度が一気に跳ね上がる。


 道中、以前乃木と一緒に戦ったロックライノスなども出てきたが、そこまで苦戦することなく先へ進むことが出来た。



 ダンジョン探索をして13日目、遂に俺たちは最高到達階層とされる49階を超えて、50階層のボス部屋前までやってきた。


「ここのボスを倒さないと最高記録タイなのよね?」


「ああ、そうなるな」


 守護者のいる階層は、ボス部屋の先にある転移陣に到達しない限り、攻略したとはカウントされない。50階層攻略は前人未到との情報なので、当然ボスもちゃんと在宅中だ。


「絶対記録を更新するぞー!」


「あはは、記録更新しても、ギルドには報告できないけどねぇ……」


「ガーン!?」


 度重ねて言うが、俺たちは不法入国をしている身で、目立つ気は毛頭ない。例え新記録を打ち立てても、そのまま黙って王国に戻るつもりだ。



 俺たちは強敵のボスに挑む前、恒例となるステータスの確認を行った。




名前:矢野 一心 ※偽装 ()内が本当のステータス


種族:人族

年齢:30才


闘力:7,209

魔力:10,510 (99,999)

所持スキル 【木工】【回復魔法】【剣使い】【スラッシュ】NEW【探知】 (【自動翻訳】【偽装Ⅰ】【腕力】)


以下、未鑑定

習得魔法 【ヒール】【キュア】【リザレクション】【ライト】【レイ】【ファイア】【ウォーター】【ライトニング】【ストーンバレット】【ウインドー】【セイントガード】【クリーニング】




名前:佐瀬 彩花


種族:人族

年齢:20才


闘力:1,682

魔力:17,530


所持スキル 【自動翻訳】【雷魔法】【放出魔法】【魔法強化】


以下、未鑑定

習得魔法 【ライトニング】【サンダー】【パラライズ】【テレパス】【サンダーボルト】【ライトニングエンチャント】【ウォーター】【サンダーバリアー】【コミュナス】【ウォーターバレット】【ウォーターヒール】【ウインドー】【ゲイル】【ライトニングアロー】【マナウェーブ】【アイスバリアー】NEW【ストーム】NEW【ヒール】




名前:名波 留美


種族:人族

年齢:20才


闘力:7,320

魔力:805


所持スキル 【自動翻訳】【感知】【短剣使い】【双剣使い】UP【俊足】UP【弓使い】UP【的中】【スラッシュ】【探知】【隠密】【ショット】NEW【偽装Ⅰ】




名前:シグネ リンクス


種族:人族

年齢:15才


闘力:5,117

魔力:6,914


所持スキル 【自動翻訳】【解析】【風魔法】【短剣】【スラスト】【剣】【魔法付与】【カリスマ】NEW【ブリーダー】NEW【自然】


以下、未鑑定

習得魔法 【ウインドー】【ゲイル】【ウインドーバリアー】【サイレント】【エアーステップ】【ウォーター】【ウインドーカッター】




 以上である。



 俺の闘力が遂に7千を超えた。


 7千越えという数値は俺の中で小さな目標の一つであった。


 開拓村時代、聖騎士見習いのケイヤは、魔力が6千以上、闘力はそれ以上だと言っていたのを、俺はずっと覚えていた。


 せめて彼女よりは闘力を上回ってやろうと必死に鍛錬に励んでいたが、その機会を得るより先に村があんなことになった。


 実際の彼女のステータスは教えてくれなかったし、今現在は更に腕を上げているのだろう。だが、どんなに少なく見積っても闘力7千以上は確実だと思われる。


 俺の想像だと闘力1万以上はあると見ているが、まず当面の目標が最低予想値の7千であった。それを遂に達成できたのだ。かなり嬉しかった。


 それと同時に闘力の偽装を止めた。そろそろ隠すメリットより、デメリットの方が大きくなってきたからだ。弱い闘力のB級冒険者だと舐められる。ある程度の実力を見せる必要はあるのだろう。


 ただし、魔力の方は流石に自重した。実際に回復魔法以外は微妙だしね。



 そしてお楽しみの新スキルや魔法に関しては【探知】を習得……以上である。


 スキルたった一つというのは無念だ。ここ最近、新たな魔法の習得も伸び悩んでいるので、ちょっと改めて戦い方を考えたい。




 次に佐瀬だが、相変わらず闘力は伸びが悪く、その分魔力がかなり上昇している。魔力1万7千オーバーだと、そろそろ貴族に目を付けられないかが心配な数値になってきた。


 シグネの話だと、俺以外で佐瀬より魔力量が上の人間を今まで見た記憶が無いそうだ。


 魔法の方も新たに2種類を習得している。


 中級風魔法【ストーム】と最下級光魔法【ヒール】だ。


「私がまだ覚えてない風魔法!?」

「【ヒール】だと!? 俺の存在意義アイデンティティが……!」


 シグネと俺は佐瀬の習得魔法に強い危機感を抱いた。




 名波も闘力が凄まじく上昇していた。というか、ついに俺の闘力が抜かされた。


 これには俺のささやかな目標達成の感動も一瞬で吹き飛んだ。ぐぬぬ……!



 新スキルは【偽装Ⅰ】を覚えていた。このスキルは【鑑定】だけでなく【解析】すらも妨害できる優れものだが、ステータスの改竄までは出来ない。


 俺も【偽装Ⅰ】スキルは持っているが、実際にステータスを改竄しているのはマジックアイテム≪偽りの腕輪≫のお陰だ。


 ただ【偽装Ⅰ】というスキル名なので、恐らく【偽装Ⅱ】に進化すれば改竄が可能になるのではと俺は睨んでいる。今後の進化に期待だろう。



 名波は他に3種類のスキルも進化していた。


【走力】は【俊足】に、【弓】は【弓使い】に、【命中】は【的中】にそれぞれ進化した。恐らく弓を使う場面が増えたからだと推測される。


 ただし、魔法の方はというと————


「魔法ほしい、魔法ください、スキルより魔法を……魔法魔法魔法……」


 ————お察しください。




 最後にシグネだが、前回の視察で馬をしょっちゅう可愛がっていた成果か、いつの間にか【ブリーダー】スキルを入手していた。効果は動物と心を通わせる……らしい。いまいち詳細の分からないスキルだ。


 ちなみに魔物相手だと敵意が強すぎて、心を通わせるのは難しいそうだ。ダンジョン産の魔物に関しては殺意100%で話し合いの余地すら無いらしい。


「うーん、このスキルで魔物をテイム出来たらなぁ」


【テイム】スキルは別にあるので、恐らく無理だと思われる。今のところ人間が飼育している動物くらいにしか効果がなさそうだ。


 それと【自然】という、これまたよく分からないスキルも習得していた。


「これって確かスキル選択の中にあったやつよね?」

「ああ、俺も覚えてる。効果が未知数過ぎて、ネットでもボロクソに言われてた謎スキルだな」


 このような謎スキルは結構多い。【勇者の卵】スキルもそうだが、多分このスキルを選択した人もかなり少ないだろう。


 しかし、本当にこの子は変なスキルを習得していくなぁ……


「私、ポ〇モンマスターになる!」


「だからテイム出来ないって!?」


 あと、その発言は危ないので止めてください。



 ちなみにシグネはこのダンジョンに入ってから魔法の使用が増えたので、魔力がぐんぐん上昇している。闘力も周囲の冒険者よりかなり高い。


 スキル構成はちぐはぐなように見えて遠近両方いけるし、魔法もスキルの数も充実している。


 実は一番バランスの良いオールラウンダーなのかもしれない。




 以上でパーティの戦力分析は終了!


 準備を終えた俺たちは、扉の奥にいるボスを確認した。


 見た目は普通のゴーレムのように思えるが、長い間討伐されていない50階層の守護者である。


 ≪古の番人≫と呼称される、守護者にしてネームドモンスターでもある。実際にシグネが鑑定して表記された種族名はラビリンスガーディアン、ゴーレム種のAランクモンスターであった。








◇◆◇◆ プチ情報(人物紹介) ◇◆◇◆



名前:武藤司

選択スキル:木工


 鹿江大学体育会系サークルコミュニティの代表者。元々柔道の強化指定選手でかなり強い。ただし、異世界行きが決まると早々に柔道を捨て、スキルも個人的に気になっていたDIYを楽しむべく【木工】スキルを選択する。今では【木工(上級)】へと進化も果たしている。


 学生時代、佐瀬に告白するも見事玉砕した過去を持つ。




名前:伊藤友樹

選択スキル:???


 イッシンたちが体育会系コミュニティに赴いて不良学生の件で問い詰めた際、一人だけ≪審議の指輪≫に反応していた嘘つき学生。鹿江町コミュ周辺で揉め事を起こしていた学生たちと、一体どういった関係かは謎のまま。




グループ名:元体育会系サークルの不良5人組


 鹿江町周辺で度々問題行動を起こす迷惑な連中。口は悪いが、直接的な暴力は振るっておらず、町も対応に苦慮している。元々体育会系コミュ所属であったが、今は拠点を抜け出して、何処で寝泊まりしているかも不明。


 最近は乃木だけでなく、武藤も町に出入りする頻度が増え、彼らはなりを潜めている。

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