第90話 北方民族

 北方民族自治区の大半は、広大な森や山に覆われた未開拓地となっており、その中には多くの民族・部族が集落単位で生活を送っている。


 その為、場所によっては習わしに大きな違いもあり、土足で彼らの領地に踏み入るような真似をすると、最悪武力行使される危険な場所でもあった。


 北方民族自治区の南端には平地も存在するが、そこから先は深い森が広がっている。ここからは俺たちも慎重にならざるを得ないだろう。



 森の手前で一夜を過ごした俺たちは、翌朝に森の中へと踏み込んだ。


 ここからは馬車道も無く獣道になってしまうので、馬車は速歩はやあしから常歩なみあしへと速度を落とす。


 それと操縦者以外の者は馬車から降りて左右に展開した。魔物の襲撃に即応する為だ。


 名波が操縦している馬車を先頭に、俺が操る馬車は後方に入れ替えた。少しでも早く【感知】スキルで前方の安全確認を取れるような配置だ。


「森の中でもお馬さん、ちゃんと進んでくれてるね」


「俺たちと一緒なら安全だと分かるのかもな。賢い子たちだ」


 変に愛着を持ってしまったが、この子らは何れ返さなければならない馬だ。購入することも可能だが、流石に馬の面倒を見るなど無理だ。


「お利口だね、シロジカオー」


「シロ……なんだって?」


「シロジカオー! この子の名前だよ! 日本では馬の後に”オー”を付けるんでしょう?」


「え? ちが……というか、名前付けちゃったのか!?」


「うん。鑑定したら名前もシロジカオーになったよ! ちなみに前方の子はタビビトオーね!」


「あー、さいですか……」


 これはあれだろうか? この子らを返却する際、シグネに駄々を捏ねられるイベントが発生するのだろうか?


 シグネには借りているだけだと伝えていた筈だが……俺は言い知れない不安を抱いた。








「前方、左から二匹来るよ!」


 森の奥へ入ると予想通り魔物とのエンカウント率も増えた。


 林の奥から姿を見せたのは、ブレイズドッグ二匹である。


 Cランクの魔物が二匹とあってか、馬たちも怯え始めたが、佐瀬と名波が魔法と弓矢で瞬殺して近づかせなかった。


「あぅ、私の出番……」


「ごめんねぇ。でもお馬さんの為にも、早く倒した方が良さそうだったから」


 名波は御者席から素早く矢を取り出してブレイズドッグを仕留めてみせた。やはり森の中では頼りになる存在だ。


 佐瀬も馬に気を遣って音の少ない【ライトニング】で一匹倒した。死体はとりあえずマジックバッグに収納させて先を急ぐことにする。


「でも、さっきからCランクの魔物ばっかりだねぇ」


「多分だけどD以下の弱い魔物は、俺たちを避けてるんじゃないかな?」


 東の森でもあったが、俺が魔力を垂れ流している時は魔物の姿が全く見えなかったのだ。それでも強い魔物は逆に立ち向かってくるのだが、Bランク以上の魔物となると、棲息数が少ないのか、未開の地と言えども、そう滅多に出てこないようだ。


「今の内に強い魔物を間引きしておけば、政府の要人を案内する際に楽が出来ると思うけど……」


「確かにそうね」


 魔物の生態は詳しく知られていないが、どうやら自然発生と繁殖の2パターンがあるようだ。


 ただし野生の魔物はダンジョンと違い、すぐにリポップはしないので、倒した分だけその地は平穏になっていく。野生の魔物もこの地が危険だと悟れば自然と姿を消していくだろう。



 日もだいぶ高くなったので、俺たちは昼食を取った。本日は新東京で購入したうどんだ。宿で作って収納していたのだ。マジックバッグから取り出すと出来立ての熱々だ。


「これ、鹿江町でも食べた! 美味しいよね!」


 シグネは麺類がお気に入りなのか、嬉しそうにずるずる啜っていた。外国人の中には麺を啜る音が苦手な人もいるそうだが、シグネは気にならないようだ。


「うーん、私は濃いの苦手かも……」


 佐瀬は関西風がお好みらしく、文句を言いながらも完食していた。


 ちなみに俺は濃い方が好みだ。名波はどっちでもいけると言っていた。



 腹ごしらえを終え小休止していると、名波が急に立ち上がった。


「あっちの方角から三人、誰か来るよ!」


「北方民族か?」


 俺たちは何時でも動けるように立ち上がったが、武器は納めたままだ。この地に住む民族だとしたら、余計な刺激を与えない方が望ましいからだ。



 やがて犬耳を頭に生やした獣人族の男が三人、こちらへと近づいてきた。


「お前たち、この森に何用だ?」


「森を抜けた先にある場所に用があって来た!」


「そんな所に何用だ?」


「あー、すまんがそれは言わなければならないのか?」


 俺が逆に尋ねると、犬族の男は眉を顰めた。


「森を荒らすようならば、我らの領地を通す訳にはいかない!」


「貴方たちの領地を通らなければ問題無いのか? 具体的にどの辺りを通ったら駄目なのか、教えて欲しいのだが…………」


「集落の場所を教えるような真似は出来ない! 答えろ! 何用でお前たちは森の先を目指す!」


 うーん、話しが戻ってしまったが、ここは少し折れる事にした。


「森を抜けた先にある街に用がある!」


 あまり日本国の場所を仄めかす様な発言はしたくなかったが、案内する際にもどうせまた近くを通るのだから仕方がない。


「何? この先の街、だと?」

「そんなモノ、ある筈なかろう!」


 虚言だと思われたのか、男たちの顔がより険しくなった。だが、これは紛れもない事実なので、俺は根気よく会話を続けた。


「嘘じゃない。森を抜けた先、平野部に街が出来ている。俺たちはそこに用がある。これでここを通っても問題ないか?」


「待て! その証拠は? 何族のなんて名前の街だ!」


「証拠と言っても、俺たちは実際にその街に入ってるしなぁ……。しかし、そっちは名乗らず領地も教えずで、俺たちには街の情報を教えろとは……随分一方的じゃないか?」


「な、何だと!?」


 男たちは不機嫌な表情を隠しもしないで牙を剥き始めた。それを見た女性陣も身構えるが、俺はそれを手で制し、ゆっくり彼らの元へ歩み寄った。


「俺の名前はイッシン! ブルタークの街に住むB級冒険者だ! 貴方たちと争うつもりは無いし、領地に押しかけるつもりもない。ただ穏便にこの森を通行したいだけだが、どうすれば納得して貰える?」


 俺の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、男たちは彼らだけで相談を始めると、先程会話をしていた男がこちらに歩み寄った。


「俺の名前はラド! 犬族の戦士だ! 冒険者とは、確か戦いを生業とする者だな?」


 どうやら最低限の王国内の情報は知っているらしい。


「そうだ。俺たちはこの先の街に住む人間を、エイルーン王国の街まで護送するのが任務だ! 君たち犬族に敵対する気は毛頭ない!」


「…………分かった! 少しだけ道を案内する! ついて来い!」


 男はそう告げると背を向け歩き始めたので、俺と名波は慌てて馬車に乗り込み、馬をゆっくり走らせて、彼らの後に続く。


『罠、じゃないわよね?』


『多分大丈夫だとは思うけど……一応警戒しておいてくれ!』


『了解! 私が先頭を行くね!』


 暫くの間、俺たちは無言でひたすら犬族の後を付いて行った。向こうもこちらと余計なお喋りをするつもりは無いらしく、黙々と森の中を歩いていく。


『シグネ、彼らのステータスはどんなもん?』


『闘力は1,000以上あるけど、魔力は200もないよ! それと一人だけ【走力】のスキル持ちだね!』


 その程度ならあっさり制圧できるだろうが、獣人族は基本的にフィジカルが高いので油断はならない。


「あ、右前方から魔物が一匹来るよ!」


 名波が犬族の男たちにも聞こえるように叫んだ。それを聞いた男たちの耳がピクリと動く。


「何? …………本当だ!」

「俺たちより早く気が付くとは……スキルか!?」


 俺と名波は馬車の操縦をしているので、佐瀬とシグネが彼らに近づく。


「私たちが戦おうか?」

「任せてー!」


「む! …………分かった」


 ラドと名乗った男はシグネの方を見ると一瞬顔を顰めたが、大人しく引き下がった。もしかしたら子供を戦わせる事に忌避感を抱いたのかもしれないが、こちらの戦力を見定めようとして思い直したようだ。



 やがて現れた魔物の姿を見ると、犬族の一人が声を上げた。


「あれは!? アサシンマンティスだ!!」


 確かCランクのカマキリの魔物だったか。初めて見る魔物だが、噂だと技能系スキルを使ってくる厄介な相手だと聞いている。


「二人とも! そいつは【スラッシュ】を使ってくるらしいぞ! 近接戦闘には注意しろよ!」


「じゃあ、まずはこいつね! 【パラライズ】!」


 佐瀬は試しとばかりに麻痺の魔法を仕掛けるも、アサシンマンティスは一瞬怯んだだけで、直ぐに硬直を解いた。


「んー、やっぱ虫系は麻痺が効きづらいのかしら?」


「じゃあ、今度は私の番だね! 【ウインドーカッター】!!」


 キシャアアアッ!!


 巨大カマキリは風の刃を感じ取ったのか、避けようとするも腕が一本切断された。


「——【ライトニング】!」


 すかさず佐瀬が連撃を浴びせ、流石に今度は堪えたのか、巨大カマキリは隙を見せた。すかさずシグネが急接近してレイピアで頭部を突き刺す。


「まだ生きてるよ!」


 名波の警告が飛ぶ。虫型の魔物はしぶとくて厄介なのだ。


 だが既に佐瀬が動いていた。【ライトニングアロー】をカマキリから大きく右に外れたコースへと打ち込む。


 明後日の方向に魔法を飛ばした佐瀬に、犬族たちは困惑しているが、あれは味方シグネに当てない為の配慮だろう。


 アロー系の魔法はホーミング機能が有り、弧を描くように魔法は軌道を変え、巨大カマキリへと直撃をした。今度こそアサシンマンティスは絶命したようだ。


「結構厄介な魔物ね」


「そうだねぇ」


 流石に彼らのいる場でマジックバッグは使えないので、死体を丸々回収とはいかない。魔石と素材になりそうな腕の刃部分を切り取り、馬車へと積み込んでいく。


 そんな俺たちのやり取りを、犬族のラドたちは尻尾をぶんぶん振りながら驚いてみていた。


「信じられん! アサシンマンティスが、こうも一方的に……っ!」


「あんな魔法は見た事が無いぞ!?」


 どうやら俺たちの実力を理解したようだ。これで向こうも迂闊な真似はしてこないだろう。



 それからは彼らも態度を改め、俺たちに話し掛けるようになってきた。なんでも獣人族の殆どは、力ある者に対して尊敬の念を抱くのか、強い相手には態度を豹変させることがあるそうだ。


 今回はそれが良い意味で作用した。


 それでも流石に自分たちの棲み処までは教えてくれなかったが、この付近の森を荒らさない限りは自由に通行しても良いと彼らにお墨付きをもらった。


 しかも、ありがたいことに、この辺りの大まかな地理まで教えてくれたのだ。


 どうやら、ここから東側に寄り過ぎると、他の部族のエリアや山脈にぶち当たるようだが、川が見えたらそれに沿う形で北上し、浅瀬エリアから東に進めば簡単に森を抜け出られると教えてくれた。


 それでも歩きだと3日間くらい掛かるそうだが、これが森を抜け出て平野に出る最短ルートらしい。


 俺たちは犬族の三人に礼をして別れると、言われた通りに東へ少し進み、川を発見してからは、それに沿う形で馬車を進めていった。


 途中で日が暮れたので、川から少しだけ距離を取って野営準備を始める。あまり水場に近すぎると、魔物が水を飲みにくる可能性も考えられたからだ。



 夕食を済ませてまずは俺とシグネが夜警の当番となる。相変わらず夜のシグネは眠たそうにしていた。


「うぅ、眠いよぉ……」


「きついようだったら、少し寝てても良いぞ?」


「ううん、もう少し……頑張る」


 シグネが頑張っている間、俺は読書をしながら見張りもする。流石に名波ほど鋭くは無いが、魔物が近づいてきたら本を読んでいながらでも気が付ける。


 隠密効果のある魔法やスキルを使われたらアウトだが、それならそもそも本を読んでいなくても気が付けない。警戒することは大事だが、四六時中緊張しっ放しなのもよくないと、俺は冒険者の先輩であるteamコココの三人から学んだ。


「その本……確かゴーレムの本、だっけ?」


 シグネの問いに俺は頷いた。


「ああ、ゴーレム工学の基礎って本だな。既に読んだやつだけど、もう一度読み返してる」



 ここ最近忙しくて手を付けられなかったが、俺は護衛用のゴーレムを作れないか考えていた。


 例えばこんな夜警の際、俺たち全員が安心して寝られるくらいには高性能な護衛ゴーレムを傍に置いておきたいと思っている。


 だが、なかなか技術構想が思い浮かばず、俺は改めて基礎を読み返すことにした。


(魔石は幾らでも用意できるし、大きさもマジックバッグがあるから問題ないんだ! ネックなのは、やはりゴーレムの強さと知能、それとやはり命令系統か……)


 ゴーレムの強さを底上げするのは、最悪マジックアイテムでも装備させればどうにかなりそうだが、最大の問題である自動制御……ゴーレムの知能をどうやって向上させるか、考えが纏まらなかった。


 ゴーレムの基本は、まず心臓部となる核に、動力となる魔石、ボディの素材、それと体内を循環させる血液のような流体素材が重要だと書かれている。


 そこに色々オプションを加えていくのが近代ゴーレム工学の主流だそうだが、自動制御のオプションとなると、本当に単純な命令くらいしか与えられないのだ。



 例えば「俺たちを守れ!」という命令をゴーレムは受け付けない。指示が大雑把すぎるからだ。


「あれをこうやって攻撃しろ!」、「あの攻撃をこうしてガードしろ!」くらい明確でないとゴーレムが判断できず、かといって逆に複雑すぎる命令だと覚えきれずに途中で止まってしまうそうだ。人造のゴーレムはそこまで賢くはない。


 ゴーレム工学最大の難関は、動作の命令系統であると言われている所以だ。


 仮に最先端の人造ゴーレムを作って「俺たちの護衛をしろ」と具体的且つ詳細な命令を指示しても、賊の攻撃を一、二度防いだ後は、待機状態に移行して動かなくなってしまう。三手目以降の命令を覚えきれないか、臨機応変な対応ができないからだ。


 それが今のゴーレム工学の限界だ。これでは護衛として役立たずだ。


(まぁ、一、二度攻撃を防ぐだけでも価値はあるだろうが、予期せぬトラブルにどこまで対応できるか……俺たちが安眠できる為には、もっと複雑な命令を与えられるゴーレムが必要だな)


 漠然とした構想はあるのだが、まだ検証出来ていないのと、手持ちの素材では不足だ。そして何より、ゴーレムの知識が少なすぎる。


(どこかに野良ゴーレムでもいれば、教本通りの素材が手に入るのだが……ん?)


 やけに静かだと思ったら、シグネはこっくりこっくり舟を漕いでいた。


 俺は読書を一旦止め、交代の時間まで一人で夜警を続けるのであった。








 翌日、翌々日と俺たちは犬族の助言通りに森の中を進み、遂に平野に出ることに成功した。


「ここは日本の街がある場所と同じ平地かしら?」


「念の為、空から確認してみるか」


 周囲に人の目が無いのを確認すると、エアロカーを取り出して上空から観測をした。佐瀬と名波には馬車を見てもらい、シグネと二人で上空から陸地を覗き込む。


「あ! あったよ!」


「確かに新日本国の街、新東京だな」


 平地なら馬の速度も上げられるので、急げば今日中に街へ辿り着けそうだ。


 俺たちは留守番している佐瀬たちの元へ戻り、マジックバッグから自作の旗を馬車に取り付け東へ進んだ。


 旗は白字で大きな赤い丸が描かれている。そう、日本国旗だ。


 馬車で向かえば現地人と勘違いされる恐れもあるので、事前に日本国旗を身に着けるよう長谷川にお願いされたのだ。


 まぁ、たいした労力でもなかったので、言われた通りにしてみた。本日中に辿り着けそうだとも、先程連絡を入れておいたので、これで問題無いだろう。



 暫く馬車を進めていると、日本人探索者だと思われる男女グループの姿が見えた。馬車に乗っている俺に驚いたのか、声を掛けてくる。


「き、君たちは……その馬車、どこで手に入れたんだ!?」

認識証ドッグタグを身に着けていないようだが、探索者なのか?」


 どうやら俺たちを同業だと勘違いしたようだが、探索者証を身に着けていないので不審に思っているようだ。


(うーん、このままだと前回の二の舞だが、どう説明するべきか……)


 長谷川には、外部からの人間だという情報は極力伏せて欲しいと言われているが、揉めそうなら一部開示していいとも言われている。


「あー、すみません。俺たちは探索者じゃないんですけど、政府関係者でして……詳細は言えないんです。申し訳ない」


 俺が素直に頭を下げると、探索者たちはそれ以上追及をしてこなかった。


「そうか。街に戻るなら護衛しようか?」


 男の提案に断ろうとしたが、この先も他の者に同じ質問をされそうなので、それなら認識証持ちの彼らと共に行動したほうが賢明なのではと俺は考えを改めた。


「それじゃあ、お言葉に甘えてお願いできますか? 同乗していただいても結構ですので」


 俺がそう答えると、彼らは燥ぎだした。


「そうか! 俺たちも街に戻るところだったし助かるよ!」

「俺、馬車に乗るのなんて初めてだ!」

「私もよ!」


 一応護衛という名目で同乗させるので、御者席には最低一人乗ってもらう。


 操縦する俺の隣には探索者パーティ≪カスケード≫のリーダーである前島が座り、後部座席にはシグネと女魔法使いの清水、名波の馬車には佐瀬の他に、女ヒーラーの三城と男盾使いの岡が同乗した。


 彼らは男二人、女二人とバランスの取れたパーティのようだ。




 新東京へ向かう道中、俺たちは自分たちの素性を教えることが出来ない旨を伝えた上で会話をしたが、彼らはそこを気にする素振りも見せず、俺たちに色々と語ってくれた。



「へぇ、前島さんはもうD級の探索者なんですね?」


「ああ! 俺は仲間に恵まれたからね。みんな、ファンタジーに興味のある同志だし、以前から魔法やスキルの練習をしていた連中ばかりなんだ」


 探索者制度はもう既にスタートしており、中には既にB級へ到達している才覚ある者もいるそうだ。


 長谷川から聞いた情報だと、探索者制度は元々、森に住むエルフ族から聞き出した“冒険者”をモデルに作られた制度なようだ。その為、ランクも似通っていて、F級スタートで最高がS級なのも全く同じだ。


 ただし資格やら昇級やらの条件は全く違うので、ランクが一緒でも一概に同じ強さとは言えないかもしれない。こっちの冒険者はそもそも試験なんてなくてもF級になれる。


 まだスタートして日が浅いので、パーティ単位でD級に届いているグループは数が少ないらしい。


「へぇ! 探索者のマッチングアプリなんかもあるんだ!」


 後ろの方からシグネの楽しそうな声が聞こえてくる。


「ええ、そうよ。私たちは知り合い同士で組んだけど、そういうパーティ募集の仕方もあるわ!」


 どうやらシグネも清水から色々話を伺っているようだ。


 こちらの情報は伏せているというのに、なんだか申し訳ない気持ちで一杯だ。



 彼ら≪カスケード≫のメンバーと交流を深めながら馬車を進めていると、あっという間に人類踏破領域に近づいてきた。この辺りは魔物も少なく、新日本国が主張する領土となっている。


 すると、領域内を巡回中だった自衛隊員たちが、俺たちの姿を捉えた。



 自衛官が近づいてきたので、俺は馬車の速度を緩めていく。


「失礼、矢野さんご一行で合っておりますか? ご一緒に居る方は……?」


「近くで我々を護衛してくれた探索者パーティ≪カスケード≫の皆さんです」


「ああ、成程。後は我々が護衛を引き受けますので、どうもお疲れ様です」


 自衛官の対応に前島たちは困惑しながらも、ここまで来れば危険など皆無なので、彼らは大人しく馬車から降りた。


「ありがとうございました! 探索、頑張ってください!」


「ああ。矢野君たちも、よく分からんが頑張ってくれ!」


 彼らは最後まで深入りせず親身になってくれた。せめてもの礼として幾つかの魔石をプレゼントすると、最初は遠慮していたが最後には受け取ってくれた。



 前島らと別れると、今度は自衛官の誘導で馬車を新東京の方へと走らせた。



 こうして俺たちは、4日間という割と短い期間で新東京へ辿り着くのであった。








◇◆◇◆ プチ情報(人物紹介) ◇◆◇◆



名前:ラパ

種族:人族


 オルクルダンジョン近くにある開拓村の村長。ダンジョン付近にある唯一の補給ポイントなのを良いことに、来訪する冒険者やギルド職員たちに対して高圧的な態度を取っていた。


 最近は副ギルド長のレッカラが監査に入り、出張所のギルド職員もラパに対して耳を貸さなくなった。


 開拓村は近々村へと昇格する事が決まっている。その際の名前はラパ村となる予定。




パーティ名:≪オルクルの風≫


 オルクルダンジョンにある開拓村出身の冒険者五人組。全員がD級冒険者で、長い間活動しているも、なかなかC級へ昇格できずに燻ぶっていた。


 ラパ村長の誘いもあり、オルクルダンジョンを主な活動場所としているが、微妙な稼ぎで村の中でも少々肩身が狭い思いをしている。




パーティ名:≪千古の頂≫


 C級冒険者ヘルマンがリーダーで、ブルターク支部内でも期待されている冒険者チーム。最近の主な稼ぎ場所はオルクルダンジョン。イッシンたちを除くと、現在最もオルクルダンジョンで稼いでいるパーティでもある。


 ずっと頂点に、という思いを込めて、パーティ名を≪千古の頂≫と命名した。




名前:ヘルマン

種族:人族


 ≪千古の頂≫のリーダー。全身鎧と大剣を扱う冒険者。フル装備での冒険者は珍しく、それだけの稼ぎを叩き出す実力者。後もう少しでB級に届く。




名前:ラードン

種族:人族


 ≪千古の頂≫の盾役タンクである大盾使い。イッシンたちと共闘した際にドロップしたマジックアイテム≪巨人の大盾≫を使い、より守りに磨きが掛かった。




名前:アンナ

種族:人族


 ≪千古の頂≫で唯一の魔法使い。得意属性は水魔法で火力は無いが、防御やサポートに長けている。




名前:ポーラ

種族:人族


 ≪千古の頂≫の一員で女槍使い。アンナとコンビで活動していたところをヘルマンに勧誘されて加わった。




名前:ミケール

種族:人族


 ≪千古の頂≫の一員。弓を使うも、本業は斥候役シーカーである。




名前:グエン

種族:人族


 ≪千古の頂≫の一員。剣を扱う。イッシンたちとの共闘戦でボスにトドメを刺した人。

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