第79話 矢野さんは沢山いる

「ナタル!?」

「ナタル姉ちゃん!?」


「母さん! カトル! よく無事で……っ!」


 ナタルは再開した家族と涙を流し、喜び合っていた。


「お兄ちゃん! 助けに来てくれたんだね!」


「テオ! 遅くなって済まない……!」


 オッドの方も弟と抱擁を交わし、感動の再開を果たしていた。


 だがナタルたちには悪いが、ここから一刻も離れたい。俺は少女の姿、イッコちゃんのままナタルに声を掛けた。


「再開の喜びは後。まずは収容所から離れる」


「そ、そうだな! 二人とも、歩けるか?」


 ナタルが母親と弟に身体の具合を尋ねた。


 現状囚人の中に歩けない程の重傷者はいない。昨日の内に俺が全員に治療を施していたからだ。


 ただし外働きの囚人たちは日頃身体を動かしているが、敷地内で働かされていた女子供に老人たちは体力も心許ない。今日の日中もしっかり働かされた後なので、1時間くらい進んだら一息入れた方がいいだろう。



 俺と同じく透明化を解いた佐瀬たちが周囲の見張りに付き、俺たちは名波を先頭に暗い森の中を進んだ。








 翌日、俺たちは相変わらず豊穣の森の中を歩き続けた。


 追っ手は来ていないが、何度か魔物の襲撃があった。明らかにヤバそうな相手は俺たちが討伐したが、ランクの低い魔物は脱走した人たちに極力戦わせた。武器は収容所からある程度の数を盗めたので、それを貸し与えた。


 今後もこの世界で生きていくには、ステータスが高いに越したことはない。それに今なら俺のチート【ヒール】付きの安心サポートだ。


 俺たちは希望者を募って魔物を狩らせてみる事にしたが、意外にも半数以上が戦ってみたいと口にしていた。一度地獄のような環境で暮らしていた所為もあるのか、彼らは弱いままでいるより、強さを求めていた。


「この蜘蛛の魔物は何だ!?」


「あれはバスタムスパイダー。一匹一匹は強くない。私たちが間引きする。残りを倒して」


「へぇ、嬢ちゃん詳しいんだなぁ」


 絶賛TS(trans sexual性転換)中の俺に、転移者である中年男は感心したように呟いた。


 結局俺は、帝国領内は白髪少女イッコちゃんのままでいく事にした。念話で名乗ってしまったワン・ユーハンにだけは、俺がイッシンの変装した姿である事を明かして驚かれたが、それ以外の人たちにはイッコちゃんで押し通すつもりだ。


 ナタルとオッドにも家族に話さぬよう口止めをしていた。


(極力今回の一件と俺たちを結び付けて欲しくないからな)



 俺たち脱走集団は、何度も休憩と野営を挟みながら、三日目には豊穣の森を抜ける事ができた。思っていた以上に広い森だったようだ。


 だがその甲斐もあってか、帝国からの追っ手は一度も無く、更に脱走組の人たちの闘力もかなり上がっていた。今なら彼らだけでも、小隊規模の帝国兵なら返り討ちにできるだろう。



 森を抜けて人目のない場所に野営地を作製すると、今後についてナタルやオッド、それとユーハンたちから相談を受けた。


「私は家族と共に、タシマル獣王国へ向かうつもりだ」


「俺も弟と一緒に彼らと行動を共にする」


 ナタルとオッドは獣人族の者たちと、そのまま南にある国境を超えるつもりのようだ。【察知】持ちのナタルがいれば人目を避けて越境する事は容易いだろう。


「イッシン、じゃない……イッコちゃん。俺たちは帝国領内に留まって、同胞を助けて回ろうと思っている」


 ワン・ユーハンは何と、希望者を募って帝国でゲリラ活動を続けるつもりのようだ。


 話によると、エットレー収容所に連れられた転移者たちのスキルは、帝国軍の鑑定士の元、外れスキルだと判定された者たちだらけで、人質要員として捕らえられていたそうだ。


 例えばユーハンの選択スキルは【魔法付与】で職人系スキルだ。


 帝国軍は即戦力で使える魔法系や戦技系、能力系のスキルを求めていたようで、それらのスキル持ちは帝国内でも重宝され、使えない異世界人は各地の収容所で捕らえられているらしい。


 ユーハンの父と兄弟も有用なスキルだと診断されたのか、家族バラバラで隔離されてしまったらしい。そういった者たちの動向を探り、自分たちのように不当な扱いを受けている者を解放していきたいと考えているようだ。


「偉いね、ユーハンは」


「そんな立派なモノじゃない。帝国への恨みも半々ってところさ。流石にこれ以上、イッコちゃんたちに頼りっぱなしは良くない」


 てっきりこれからも助力を頼まれるかと思っていたが、これは予想外だ。


 多分彼は頭の回転が速いから、これまでの俺たちの行動を見て、最後まで付き合う気が無い事を見抜いたのだろう。俺は変装したままだし、魔物との戦いもなるべく彼らに任せてきた。


 だからこそ、こちらが言い辛い話をユーハンから持ち掛けたのだ。もうこれ以上頼ったりはしないと…………だから俺も、少しだけ彼らに誠意を見せる事にした。


「これは餞別。遠慮せず受け取って欲しい」


 俺はマジックバッグから、武器や防具、それに食料と通貨を提供した。武器や防具の殆どは≪黒星≫などの襲撃者を返り討ちにして奪っていた物ばかりだ。流石にこれらを店に売ると足が付きそうだったので、マジックバッグの肥やしになっていたのだ。


「こ、これは……!?」


 俺たちはこれまでマジックバッグの存在を伏せてきた。これでユーハンは、俺たちが多くの物資を収納できる魔法やアイテムの類を持っている事を知ってしまった。


 これくらいの情報開示なら構わないだろう。エアロカーほど大きなものでなければ、小さいマジックバッグを持っている者も少なからず居るらしいし……


「正直助かるよ。本当にありがとう!」


「困ったら王国に来るといい。今のところ、王国では転移者狩りは行われていない」


 俺たちはナタルにオッド、それとユーハンに別れの挨拶をすると、人目を憚る様に森の中へと戻って行った。


 誰も見ていないのを確認すると、俺は久方ぶりに男へ戻った。


「ふぅ、気疲れが半端ないなぁ」


「ふふ、暫くイッコちゃんのままでも良かったのに」


 佐瀬が冗談めかしてそんな事を言ってきた。


「勘弁してくれ。とにかく、これで今回の一件は片付いた。王国へ戻ろう。突然離れちゃったから、ギルドにも宿にも顔を出しておかないとな」


「確かにそうだね」

「やったー! 久しぶりにお風呂に入れる!」


 俺たちはエアロカーに乗り込むと、進路を東に向けて飛び立った。






 何とか日が落ちる前にはブルタークの街へと戻ってきた。佐瀬たちは一刻も早く風呂に入りたかったのか宿へ直行し、俺だけがギルドに顔を見せに来た。


 何か変わりはないかギルド職員に声を掛けると、俺宛に伝言を預かっているそうだ。


「ケイヤ・ランニス様から言伝を預かっております。明日までにお戻りのようでしたら、南東地区にある宿、≪青鳥の枝≫に顔を出して欲しいと。夕過ぎから朝までなら、宿にいらっしゃるそうです」


 なんとケイヤからの言伝だ。ブルタークに来ていたのか!?


(南東地区って……貴族街じゃないか? そんな所に泊まってるのかよ……)


 流石は三女とはいえ、貴族令嬢様だ。



 流石に貴族街に行くのに、この汚れた格好は不味いかと考えた俺は、一旦宿に戻って武装をマジックバッグに収納し、なるべく小奇麗な服装で貴族街に向かおうとした。


「あれぇ? そんな恰好でどこ行くの? もしかしてデートかな?」


 名波が茶化すように尋ねると、俺はドキリと言葉を詰まらせた。その場には丁度風呂上がりの佐瀬も出てきて、こちらにジロリと視線を向けた。


「ありゃ? 冗談だったんだけど、もしかして……?」


「あんた、まさか娼館にでも行く気じゃないでしょうね!?」


「ち、違う! 誤解だ!! 俺はただ、ケイヤに呼び出されて……」


 なんて事言いやがるんだ! 娼館なんて、シグネの教育に悪いだろう!


 幸いシグネは入浴中だったが、俺はギルドでの伝言を佐瀬たちに伝えた。


「なんだ、別に一人で来いと言われた訳じゃないんでしょう? だったら夕飯を一緒に取りながら話し合いましょうよ!」


「あ、私もケイヤさんとお話したいかなぁ」


 む、確かにそれもそうか。


 全員で貴族街の高級宿に乗り込むのもあれなので、俺はケイヤをこちらへ誘いに一人で≪青鳥の枝≫という宿へと赴いた。



「おお、随分と高そうな宿だなぁ……」


 俺たちが宿泊している≪翠楽停≫もグレードが高い方だが、あちらは内装に力を入れており、外は地味な作りとなっていた。


 一方≪青鳥の枝≫はというと、外から見ても豪華絢爛で、まさに貴族や大商会向けの高級宿といった雰囲気だ。入り口には宿の警備をしているのか、武装した者の姿も見える。


 俺は若干気後れしながらも、大きな扉を開けて……いや、なんかフロントスタッフさんが先に開けてくれた。これが異世界リストア式の自動ドアか!?


「いらっしゃいませ。お一人様の宿泊でしょうか?」


 良かった。貧乏人は帰れと門前払いをせずに済んだようだ。服装はあれでも、なんか品のあるオーラでも自然と滲み出ちゃったかなぁ?


 俺の背後で警備の人がめっちゃ警戒しているのはきっと気のせいだ、うん。


「いえ、こちらに宿泊しているケイヤ・ランニスから連絡が欲しいと聞いて訪ねました。取次ぎは可能ですか?」


「……確認します。少々お待ちください」


 フロントスタッフの一人が奥へと消えると、そんな経たない内にケイヤと一緒にやってきた。


「イッシン! 良かった、連絡が着いたか!」


「ケイヤ、久しぶりだね」


 俺は挨拶を交わすと、早速皆で食事しないかと提案をした。ケイヤも食事はまだだったようで、こちらの提案を快く了承してくれた。本来ならケイヤはこの高級宿で提供される豪華な貴族向け料理を堪能できる筈だが、それを蹴ってこちらで一緒に食事を取ると言ってくれた。


(こいつは見返りに旨い地球の料理でもご馳走せねばな……!)


 確かカレーライスのストックがあった筈だ。あれは匂いが強くて街中で食べるのは少々危険だが……まぁ、風魔法で誤魔化せば大丈夫だろう。


 俺とケイヤは揃って宿に戻ると、三人は笑顔で迎え入れた。


「久しぶりね、ケイヤ」

「ケイヤさん、お久~」

「元気だった? ケイヤねえ!」


「ああ。三人も元気そうで安心した。色々積もる話もあるが……まずは私の要件を話しても構わないか?」


「ん? ああ、そうだな。食事まだだろう? 飯を食べながらにしよう。今日はカレーだ!」


「やったー! カレー大好き!」

「……かれー? チキュウの料理か?」


 俺はマジックバッグから、調理済みの温かいカレーと白米を、鍋と釜ごと取り出した。


「な!? まさかそれは……マジックアイテムか!?」


 そういえばケイヤに見せるのは初めてだったか。


 まぁ彼女には俺たちが異世界人である事も、最重要機密である蘇生魔法を扱える事も知られている数少ない人間だ。今更マジックバッグくらい、彼女に露見しても何も問題がない。


「冷めないうちに食べるぞ! この白米にカレー……スープを掛けて食べるんだ」


「うっ!? な、成程…………!」


 この国ではあまり香辛料強めの料理と言うのは流行っていない。ケイヤは最初こそ見た目に驚いて躊躇っていたが、一度口を付けると余程気に入ったのか黙々と食べ続けた。



 結局、彼女がカレー三人分を綺麗に平らげてから話し合いはスタートした。



「前にキャメル村……西にある村で私に逢っただろう?」


「ああ、あの≪三本角≫の騒ぎの時だな。確か≪三本角≫は帝国方面へ去って行ったんだろう?」


 俺の言葉にケイヤは頷いた。


「ああ、そうだ。私もこの目で確認したから間違いない」


「直接見たのか!? どうだった? やっぱ強そうだったか?」


「うーむ、デストラムよりかは威圧感を感じられなかったが……腕は立ちそうだったぞ? 魔法無しだと私でも危ないかもな」


「おいおい、近接戦闘でケイヤが負ける程の相手か?」


 やはりA級は一筋縄ではいかないらしい。


 だが俺の言葉にケイヤはムッとした。


「危険だと言っただけで、負けるつもりは無い! ただ一人で挑むのは避けた方が無難だな。今のイッシンたちなら……多分勝てるんじゃないか?」


「え? そう?」


「ああ、私も加わればデストラム相手でも後れを取らなそうだ。精進したようだな、イッシン」


 最初に出会った時はボロクソ言われた気もするけど、そんなケイヤに褒められると感慨もひとしおだ。


「少し話が逸れたな。問題は≪三本角≫の方じゃないんだ。実は奴を捜索している時に、ある者たちを見つけてな……」


「ある者たち? 盗賊?」

「帝国軍とか?」


 佐瀬と名波の言葉にケイヤは首を横に振った。


「君たちと同じチキュウ人だ」


「「「——っ?!」」」


 ケイヤの言葉に俺たちは目を見開いた。


「確か彼らは、ニホー……いや、ニオウ人、だったか?」


「もしかして日本人か?」


「それだ! ニホン人と名乗っていた。確かイッシンもそのニホン人だろう?」


「ああ」


 ケイヤには俺の経緯については殆ど全てを伝えている。どうやら俺が日本人だと名乗った事も微かに覚えていたらしい。


「聖騎士団の先輩も一緒だったのでな。流石に隠し通す訳にもいかず、上には報告済みだ」


「その日本人たちは、どうなったんだ!?」


 まさか帝国と同じように幽閉されているのだろうか?


「いや、彼らは既に王国内で拠点を作っていたので、現在はそのままそこで生活を送っている。何人かの兵を見張りに置いて、その場所は部外秘扱いとなっている。君たちも余り言いふらさないでくれよ?」


「……そんな事、私たちに教えて良かったの?」


 佐瀬が不安そうに尋ねると、ケイヤは微笑んで答えた。


「なに、君たちなら問題ないさ。イッシンには恩義があるからな。私は国に忠誠を誓った身だから祖国は裏切れないが、王国に仇なすような事でなければ、君たちには極力便宜を図ろう」


 ケイヤはこういう奴だ。


 しかし、王国は転移者たちをどうするつもりだろう?


「その拠点にいる日本人たちはどうなるんだ?」


「私にも分からないが、どうやら他の場所でも転移者は既に発見されていたそうだ。その者たちも全員、人目に付かないよう生活を送らせていると耳にした」


「ん? 何か強制的に働かせているとか、一部の人はどこかに連れていかれるとか、そんな事はないのか?」


「私が発見した人たちは、そこまで不当な扱いは受けていなかったぞ? まぁ、上の考えている事は私如きでは知りようもないが……」


 とりあえず現状は酷い扱いにはなっていないようで安心した。


 しかし、王国側は発見した日本人たちを極力外部へ漏らさず、扱いを保留しているかのように思える。王国の上層部は一体何を考えているのだろうか?


「ケイヤはこの事を俺に知らせに来てくれたのか?」


「ああ。それもあるが、私も発見者の一人で、ある程度の情報を得る立場になったんだが……あの拠点にいる者の中に、ヤノと名乗る一族がいるそうだ」


「へ?」


「ヤノとは君の家名だろう? もしかして君のご両親かと思って知らせようとしたのだ。名前はヤノ・タカシとヤノ・ケイコだ」


「あー、成程ね」


 どうやらそれでわざわざこの街まで来てくれたらしい。彼女曰く、7日間の休暇を貰ったそうだが、そんな事の為に貴重な時間を割いてくれたようで申し訳ない。


「ケイヤ、ありがとう。だが俺の両親の名は、真二シンジ小春コハルだ。姉は春香はるかな。それと……矢野という苗字の人は1万人……いや、下手をすると10万人以上はいるかもしれないぞ?」


「な!? そ、そんなに同じ家名があるのか!?」


 この世界リストアでの家名持ちは非常に少ない。国や地域によっては貴族だけという場合が殆どだ。まさかケイヤも地球にいる殆どの者が家名持ちだとは夢にも思うまい。


「悪かったな。手間を取らせて。だが日本人の情報は助かったよ。サンキューな」


「ああ、それなら良かった」


 本題を終えた俺たちは、以前キャメル村で逢った時は話しきれなかった様々な出来事を互いに語り合った。








 翌日、ケイヤは休暇の期限が迫っているという事で早朝挨拶に来て街を離れた。今はもっぱら王都で生活しているそうだ。


「王都! 一度は行って見たいわねぇ」


「私もー!」


「うーん、今は危険じゃないかな?」


 佐瀬とシグネは行きたそうにしていたが、俺と名波は反対意見だ。


「転移者の情報が伝わってるとなると、要所に鑑定使いが見張ってると思うぞ? 【自動翻訳】スキルがあれば“転移者だ!”って感じでな」


「あ~、確かに……」

「王都は厳しいかもね……」


 恐らくハワードギルド長が気付いたのも、ギルドの鑑定士から報告があったのだろう。俺はステータスを偽装できるマジックアイテムを、シグネは鑑定を阻害できるアイテムを所持しているから問題ないが、佐瀬と名波は見る者が見れば一発アウトだ。


「あと二人分、鑑定を防げるアイテムが欲しいわね」


 前回の≪黒星≫たちとの戦いで、二名がシグネの【解析】スキルを弾いていたから、てっきり阻害系アイテムを所持していると思っていた。だが尋問した結果、彼らは情報型偽装系スキルを所持している事が判明した。


 あの時得られた装備はマジックアイテムの盾を含めて、全てユーハンたちにプレゼントしてしまった。


「それも出来れば阻害じゃなく、偽装系を三つ欲しいな。ステータスが視れない状態で堂々と王都に入れるとは思えない」


 最悪、持ち物検査を要求される可能性も考えられる。そうなれば、より厄介な事態に陥ってしまうだろう。


「今日はとりあえず、鹿江町や大学コミュの様子でも見に行こうと思っているんだが……」


「そうね。中野先輩も街に来たがっていたし、あっちで買い物もしたいかも」

「はい! カレーが無くなりそうだから、補充したいです!」


 シグネは昨日で残り僅かとなったカレーに危機感を抱いているようだ。


(ケイヤ、いっぱい食べたからなぁ……)


 余程気に入ってしまったのだろう。


「あ、先に工房に寄ってもいいかな? そろそろ私の頼んだ包丁が出来上がってると思うの」


 名波は前回の探索で得た資金から、特注の包丁をドワーフの親方に依頼していた。しかもアダマンタイト製の包丁を、である。


“一体何を料理するつもりだ!?”


 ドワーフ親方に尋ねられた名波は正直に“武器として使う”と話すと、彼は更に驚いていた。困惑しつつも“頼まれた以上は良いモノを作る”と親方はその注文を引き受けてくれた。


 急な襲撃やら救出劇で間が空いてしまったが、予定通りなら既に完成している筈なのだ。



 俺たちは四人揃って工房を訪れると、丁度作業場に親方の姿があった。


「お? やっと来やがったな! てっきり、くたばっちまったのかと心配したぜ!」


 冒険者家業では良くある事らしく、工房に武器を依頼したまま依頼主が帰らぬ人となった話を俺たちも聞かされていた。


(まぁ、その為に全額前金で払ってるんだけどね)


 ちなみに依頼品は、半年以上経っても取りに来ないと勝手に売り払っていい事になっている。細かい期限は違えども、どこの国も似たような法律があるらしい。


「ほれ、前より少し重いが……どうだ?」


「…………ん! とっても良い感じだよ! ありがとう、親方!」


 名波は片手で器用に包丁をくるくる回しながら、その感触を確かめていた。


 アダマンタイトは魔力が通りにくい分、硬度に置いては最高峰の鉱石だ。やや重さがあるのが難点だが、闘力の上昇が著しい名波にとっては全く問題ないようだ。


「よし、それなら良かった。ほれ、武器に使うと聞いていたから、それ用の鞘も用意しといたぞ? 腰の背後に装着する感じだが、問題ないか?」


 名波は包丁の他に短剣を含めて二刀流スタイルとなっている。彼女が手に持っている短剣は≪降魔の短剣≫と言い、魔法を断ち切る効果のある魔剣だ。


 魔剣も腰の背後に鞘で収まっているので、包丁と合わせて丁度クロスする感じでの装着となる。


「わー、ルミねえカッコイイよ!」


「でしょう?」


 確かに男なら一度は憧れる、背後に剣二本をクロスさせての装着だ。名波自身も美人さんなので、二本同時に剣を引き抜く様も非常に絵になる。


(やべっ!名波さん、かっくいい!!)


 この場にいるほぼ全員が、名波の新装備姿に心を躍らせていた。やはり親方も剣を打つだけあって、少年心を擽られる二刀流にロマンを感じているようだ。


 ただ一人、佐瀬だけは若干困惑気味であった。








※以下は読み飛ばしても構わない情報です


主人公パーティは文字数も多いので一話一人ずつの紹介ですが、途中からざっくりした紹介に切り替える予定です。


◇◆◇◆ プチ情報(人物紹介) ◇◆◇◆


名前:矢野 一心 ※偽装 ()内が本当のステータス


種族:人族

年齢:30才


※70話時点のステータス


闘力:2,550 (4,923)

魔力:5,510 (99,999)

所持スキル 【木工】【回復魔法】【剣使い】【スラッシュ】 (【自動翻訳】【偽装Ⅰ】【腕力】)


習得魔法 【ヒール】【キュア】【リザレクション】【ライト】【レイ】【ファイア】【ウォーター】【ライトニング】【ストーンバレット】【ウインドー】【セイントガード】【クリーニング】



 本作の主人公で黒髪の特に特徴の無い青年。転移後は白髪の少年に変わる。原因は不明。鹿江町在住の元会社員で両親と一つ上の姉がいる。転移前は独り暮らし。


 転移の際に徳を積んだお陰か、女神アリスの恩恵(暴走?)を得て、尋常ではない魔力量を保有する。ただし魔法を扱う技術は並以下なので、回復魔法系以外は全力行使が不可能であるが、徐々に制御できる魔力量も増えてきている。


 この世界始まって以来、最高記録の魔力量保有者であるが、本人含め、ミカリス神以外はまだその事実に気が付いていない。


 イッシンは本来慎重な性格だが、時には無鉄砲な行動もとる。一度死にそうな体験をしたのと、チートヒールの存在でそのような性格に変貌してしまった。


 異世界物のアニメやゲームはそこそこ嗜んでおり、いつかこの世界を自由気ままに冒険してみたいと画策している。

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