第76話 エットレー収容所と帝国史
夜間飛行を続けている間、俺たちはお互いに自己紹介を済ませ、これまでの経緯を説明した。
俺たちがB級冒険者パーティ≪黒星≫を返り討ちにしたと話すと、オッドは感謝の言葉を述べた。どうやら彼も≪黒星≫には相当鬱憤が溜まっていたようだ。
連中を尋問した結果、どうやらブルタークに滞在する表側の工作員はこれで打ち止めらしい。後は裏の暗部たちがどの程度俺たちの事を認識しているかが問題だが、これも拷問の末、今日始末した人間以外に俺たちを特定できている者はいないと聞き出せた。
≪黒星≫の人族三人組が早期に俺たちと接触してくれたのが幸いしたのか、帝国暗部全体に情報が拡散する直前で仕留める事が出来た。これは嬉しい情報だ。
傘下の冒険者工作員がどうして音信不通なのかは、裏の暗部も別口で現在調査中らしい。カプレットでも俺たちは一切姿を見せていないので、恐らく俺たちまで辿り着く者は少ないだろう。
暫くエイルーン王国領内を飛んでいると、オッドから質問を受けた。
「イッシン、この乗り物は何人乗れるのだろうか?」
「通常は八人乗りだが、無理をすれば12人くらいはいける……かな?」
「そうか……」
オッドの表情が浮かない感じだ。
「ナタルの母親と弟、それにオッドの弟も含めて三人なら乗せられるぞ」
現在の乗員は六人でシートの空きは二名分ある。小さい子供なら少し詰めるとか、座り心地はいまいちだが荷台部分にも人を乗せられるので、まだまだ余裕だ。普通に飛行する分には大人12人くらいが限界だと俺は考えている。
それでもオッドが浮かない顔をする理由が分からないので尋ねてみたら、こんな答えが帰ってきた。
「私たちの家族以外にも、囚われている者を思うとな……」
確かに、そのエットレー収容所というのがどういった者向けの収容所かは知らないが、ナタルやオッドと同じように家族を人質に取って無理やり言う事を聞かせている連中が≪黒星≫以外にもいるかもしれない。
「確実に脱出させられるのは、お前たちの家族だけだろう」
「だが、そうなれば他の捕まっている者たちが……」
「悪いが俺たちの命が最優先だ。そこは譲れない」
乗せられる人員が限られている以上、考え無しに全員助けても後が辛いだけだ。帝国兵がどのレベルかは知らないが、そこらの冒険者より弱いとは到底思えない。中には≪黒星≫級や、下手をするとケイヤ級の精鋭が出てくる可能性もある。
それにその収容所は話に聞くと帝国領のほぼ中央にあるらしい。完全にアウェーな場所なのだ。
「そう、だな……」
いるかどうかも分からない他人の心配をするとは、オッドはかなりお人好しのようだ。ナタルにしてもそうだ。俺たちを逃がすような助言をしていたが、もしそれを素直に受け取っていたら、こんなチャンスも巡って来なかっただろう。
(人が好過ぎるから、利用されるんだよ……)
馬鹿だなとは思うが、それを食い物にしてあざ笑っているような連中は許せない。まぁ、俺たちに出来る範囲内でなら、二人の助けになりたいとは思っている。
だが無理なものは無理なのだ。
『ねえ、イッシン。やっぱり無理かな?』
そしてここにも、もう一人のお人好しがいた。佐瀬が念話越しに他の者も助けられないか尋ねてきた。
『その収容所を見てないから分からないが、多分無理だな。だって軍の施設だぞ?』
たった六人の冒険者で崩せるような甘い警備だとは思えない。正攻法では絶対に不可能だろう。
『でも、こっちはスキルやマジックアイテムも色々あるし、やれないかなぁ?』
シグネも出来れば助けたい派らしい。
(参ったなぁ、これで2票か)
『私は反対かな。流石に全員助けるのは無謀だよ』
ファンタジー好きな性格ではあるものの、意外にリアリストな名波は反対に1票を投じた。
これで俺が反対だと言えばイーブンだが、彼女たちは俺の意思を極力尊重してくれるのか、こういう時は俺が駄目だと言えば大人しく従ってくれる筈だ。
だが、頭ごなしに否定ばかりするのもどうかなとは思う。実際まだその収容所とやらを俺たちは見てすらいないのだから…………
『…………ひとつ、これならいけるかもという策はある。ある、が……正直やりたくない』
ぶっちゃけ捕まっている人たち全員を逃がすだけなら、全く手が無い訳ではない。恐らくその方法を使えば確実に全員逃がせられる。だがこれだけは絶対にやりたくないし、まず皆に反対される作戦だ。
『え? そんな裏技あるの!?』
『何々、気になる!』
『教えてー!』
だが口を滑らせたのが不味かったのか、三人はしきりに俺の作戦内容を聞きたがる。
(絶対に教えん! 言ったら引かれるに決まっているし……)
俺は彼女たちの追及を無視し続けた。
時刻は丁度真夜中0時ごろ、俺たちはそろそろ帝国領内に突入する所まで迫っていた。
正直眠くて仕方が無いが、夜中の内に越境しようという意見で一致したので頑張った。
俺はなんとか眠らないように操縦していたが、助手席にいる佐瀬は既に舟を漕いでおり、シグネに至っては後部座席を占有して横になって寝入ってしまっている。流石に子供にこの時間は厳しかったか。
他のメンバーもかなり眠たそうにしていたので、名波には先に眠って貰う事にした。着陸後、誰かが野営の警備をしなければならない。ここは名波と佐瀬辺りにお願いするとしよう。
(あかん、もう駄目……どこか着陸できるところ……)
俺が暗闇に支配された地上の様子を伺っていると、夜目が効くのかナタルが良いポイントを見つけてくれた。
「あそこなら人目を避けられそうだ。魔物はいるやもしれないが……」
「なら、そこでいいか。着陸するぞ」
こうして俺たちは初日にして帝国領に初めて侵入するのであった。
朝、俺たちは揃って食事を取った。
マジックバッグから出来立ての野菜スープや新鮮な果物を取り出していく。
「まさか野営地でこんな料理にありつけるとは……」
「そのマジックバッグ、まさか時間停止機能もあるのか!?」
俺は二人にもマジックバッグを見せる事に決めた。何時まで隠し事をしていても面倒だったのと、二人は超が付くほどのお人好しなので、秘密にしろと言えば墓場まで持って行ってくれそうだと思ったので、ここは敢えて教える事にした。
というか、昨日は非常に疲れ、俺もまともな食事を取りたかったので暴露した。
俺はブルタークで購入したブドウのような果実を食べながら、ナタルとオッドに帝国領内の簡単な歴史や地理などを学んでいた。
ガラハド帝国はバーニメル半島中央に位置する、半島内最大の軍事国家だ。
領土は王国の2倍ほど、兵の数は5倍以上だと推定されている。そんな帝国と王国は昔から何度も戦争を繰り返しており、よく無事で済んでいるなと思うところだが、それにはきちんとした理由があった。
その最大の理由は、帝国はあちこちの国に喧嘩を売っているからだ。
帝国は大きな川や湖は存在するものの、国土は内陸に位置する為、一切海に面していなかった。だからなんとしても海岸線を確保する為に、幾度も周辺国へ攻めていた。
ここまでは俺も知っていた情報だ。以下は今回初めて聞く内容である。
昔から海を欲していた帝国は、まず西にある小国を次々と侵略していったが、それが西側の国々に危機感を募らせたのか、現在の西バーニメル通商連合国誕生のきっかけを与えてしまう。
流石に纏まった国家の連合軍相手では帝国と言えども分が悪かった。現在では西側にほとんどちょっかいを掛けなくなっていた。
次に狙ったのが南に位置するタシマル獣王国への侵略だ。
これも最初は上手くいっていた。いくつかの要所を抑え、現在の国境線まで押し込んだそうだが、そこからピタリと止まってしまった。
西の侵略と似た結果で、当時はバラバラだった獣人の部族たちを一丸とさせてしまったのだ。
現在は屈強な獣王国からは狙いを少しずらし、同じ南部にある人族の国家を狙い始めている。既にズール王国は属国と成り果て、更に南にあるフトー王国を攻めている最中だ。この国には海があるので、落としきれれば念願の海岸線を確保できるのだが、隣国である獣王国の支援もあってか難航していた。
最後に帝国が目を付けたのが東部に位置するエイルーン王国だ。
ただ王国自体も海岸線が東部にしかないのと、その肝心な東は危険な森に覆われて、開拓にはまだ至っていない。帝国軍も何度か攻めてはいるものの、そこまで本腰を入れている訳ではない。
ならどうして王国に戦争を吹っ掛けてしまったのか……当時の為政者が愚か者だったのか、その真実は定かではなく、帝国史においても謎とされている。
ちなみに北部も海こそないが、ドワーフの王国やエルフの里など、頻繁に侵攻作戦を行っているようで、銀山を取ったり取り返されたり、森を焼き払ったり、代償に村や町を落とされたりと、年々争いの絶えない国らしい。
まさにほぼ全方位に喧嘩を売っている大変元気な国家がガラハド帝国だ。
「ん? 南西部は攻めてないのか? この地の沿岸は王国より遥かに近そうだが……」
「ああ、そこは半島の中でも飛び抜けて危険な魔物が棲んでいる地域だな。過去には竜種も確認されている。帝国軍と言えども迂闊に手は出せないよ」
「我々月光の里にも言い伝えが残っているな。半島の“北部にあるバーニメル山脈”、“南西部の森”、“東の森”には踏み入れるな、とね」
「ちょっと待て! 東の森も危険なのか?」
聞き捨てならない事を聞いてしまった。そこは俺が転移初日で踏み込んだ森だ。
「ん? あの森は魔物の古代種やエント種の王、それに巨人の王も生息する、極めて危険な場所だぞ?」
その話を聞いた佐瀬と名波は互いに表情を引きつらせていた。
(えーと、古代種って……もしかしてデストラムの事か? 恐竜みたいな奴だったし古代の種とも言えなくもない。エント種の王は絶対エンペラーエントだよな? んで、巨人の王って何よ? そいつだけは知らねえぞ!?)
どうやらあの森には、他にもまだ危険な存在がいるそうで、俺たちは肝を冷やすのであった。
「話を戻すが、南西部は魔物の巣だから帝国は攻め入らない。今最も過激な前線は南部と北部だな」
南部には広い平野があり、そこが帝国軍の主戦場となっているそうだ。
北部は砂漠や山脈地帯と逆にハードな立地条件が多く、戦争をするにも難儀する場所らしい。じゃあ、戦争すんなよ!
「王都は中央のやや北寄りにあり、そのすぐ北には大きな湖が広がっている。中央のやや南側には広大な森と標高の高い山、エットレー山があり、その麓にあるのがエットレーの町だな」
漸く話が繋がった。つまり俺たちが目指すのは帝国領の中央部からやや南、大きな森の近くにあるエットレー山周辺という訳だ。これは上空からでも見つけやすそうだ。
朝食を終えると俺たちは再びエアロカーを飛ばし、ひたすら西側へと進んだ。夜とは違い日中は人の目もあるので、少し高度を上げての飛行となる。
「地図を信用するなら、多分4時間も掛からずに着くと思うぞ?」
「すさまじい早さだな。陸路だと恐らく、国境線からでも馬車で5日間は掛かるぞ?」
「今日中に到着か……呆れたものだ」
改めて、空を飛ぶ便利さを思い知らされた。
予想通り4時間辺りになると広大な森林が見えてきた。
「あれが恐らく“豊穣の森”だ」
「豊穣の森と言うのか?」
俺は気になってオッドに尋ねた。
「ああ。何でも大昔に帝国の連中があの森を切り崩して、開拓しようとしたらしい。するとその年から不作続きになるわ、北部が砂漠化するわで“森の精霊の祟り”と恐れられたんだとか」
「あー、成程。開拓を止めた途端、豊作になったから豊穣の森?」
「その通りだ」
何とも昔話にありがちなお話だ。
俺は今の話でもう一つ気になった事を尋ねた。
「精霊って実在するのか?」
「…………分からん。月光の里の年寄り連中の中には信じている者もいるが、俺は見た事もないな」
「私も無いな」
オッドもナタルも精霊を信じていない様子だ。やはりオカルトの類なのだろうか?
そうだ! オカルトでもう一つ疑問が沸いた。
「アンデッドって見た事あるか? 俺はそれも見た事ないんだが……」
「「あるぞ」」
両者、口を揃えて肯定した。
「やっぱいるのかぁ……」
精霊はオカルト扱いだが、アンデッドは普通にいるのがこの世界の常識だ。
俺も存在だけは耳にしていたが、一度も見た事が無いので正直半信半疑であった。
「帝国は割かし多いと思うぞ。戦場跡地や簡易墓地なんかには、稀に出没して冒険者に討伐依頼が出る。後は連合国のダンジョンも有名だな」
「≪黒星≫の活動目的は王国への潜入だったから、我々には関係なかったがな」
「そうか、いるのかぁ……」
俺、ホラー物苦手なんだよなぁ……
雑談をしていたら、いよいよ目的地が近づいてきた。
「見えた! あれがエットレー山だ!」
ここらでは飛び抜けて標高の高い山が見えてきた。あそこの麓にエットレーの町があり、収容所は町から馬車で20分くらいの距離だと尋問した男からは聞いていた。
「町は……あれか。収容所とやらは何処だ?」
「仮にも軍事施設だろう? 人の往来はそこそこある筈だから、馬車が通れるような道がきっとある!」
しばらくエットレーの町上空を旋回させながら地上を観測していると、名波がそれっぽい施設を見つけた。
「あれじゃないかな?」
「……高い塀に囲まれた石垣の施設か。間違いないだろうな」
そこはエットレー山の麓付近にある森の中にひっそりと建てられていた。
俺は少し離れた場所でエアロカーを着陸させ、マジックバッグに収納する。
現在の時刻はお昼辺りだ。忍び込むには不向きな時間帯だが、俺たちには≪隠れ身の外套≫が4着もある。
「まずは偵察をしよう」
メンバーは、まず俺は確定として、出来れば佐瀬とシグネにも付いて来てもらいたい。佐瀬は潜入時に声が漏れないよう【テレパス】を用いたい。シグネは当然【解析】スキルが必要になるからだ。
後は索敵型スキル持ちの名波かナタルを連れていきたいが……
「佐瀬とシグネ、それとナタルは付いて来てくれ。他の二人は留守番だ」
スキルのレベルは名波の方が上だろうが、人質の確認をするのにナタルは必要だ。
「今回はあくまで偵察だけで、本番は今夜以降の予定だ。見つかったら即撤退、いいな?」
「「了解!」」
「…………ああ」
ナタルだけ返事がやや重かった。そりゃあ念願の家族が目の前にいるのかもしれないのに、逃げ帰りたくはないだろうが、俺たちの安全が最優先だから、ここは嫌でも承諾してもらう。
俺たち潜入班の四人は≪隠れ身の外套≫で姿を消すと、足音を立てないようにして収容所らしき場所へと向かった。
10分くらい歩き続けると、上空から確認した大きな石垣の壁が見えてきた。
『これが収容所かな? どこから入るんだろう?』
『時計回りに探していこう』
俺たちは左側に回り込むと、すぐに小さな門が見えた。その上には見張り台も有り、軽装の兵士らしき男が二人視認できた。
『あれは……小さいから裏門か? 見張りは二名か……シグネ』
俺はシグネに鑑定するよう頼むも、彼女は言われる前から鑑定していたようだ。
『二人とも闘力150、魔力50以下ってところだね。スキルも持ってないよ』
『え? そんなに弱いのか?』
想像以上の弱さに俺は肩透かしを食らった。
『ここは内陸で前線でもあるまいし、さして重要な拠点でもないのだ。見張りの兵士なら、その程度の実力だろう』
『そんなもんかぁ……』
ナタルの説明に俺は納得した。
それから俺たちは左回りに外壁を辿っていくと、もう一つ大きな門が有り、そちらにも外側からだと二名の見張りしか確認できなかった。
『この二人は闘力200くらい。片方は魔力100以上あるよ』
『国の兵士ってこんなに弱いのか?』
『ピンキリだが、雑兵ならこんなものだ。ブルタークの領兵も似たり寄ったりじゃないのか?』
ナタルがシグネに尋ねると、彼女は頷いた。
『うん、そんなもんだね。稀に凄く強い人もいるけど、大体弱っちいよ。あ、でも西の村で会った聖騎士さんや偉そうな兵士さん、騎士さんたちは皆強かったよ!』
多分ケイヤと西方軍のオズマ副団長に騎馬隊の事を言っているのだろう。あの辺りは王国の主戦力だろうから当然と言えば当然だ。
俺は見習い聖騎士であるケイヤの闘力が、推定6,000以上だと知っていたので、どうも他の兵も高く見積り過ぎていたようだが、もしかしてケイヤが特別なだけで、他は大したことないのだろうか?
(うーん、分からん。ここの内部を探れば、少しは疑問も解消するのか?)
とりえあず外壁を一周したので、俺たちはそのままジャンプして塀を飛び越えて侵入した。
(そもそもこんな塀、闘力高い奴なら簡単に飛び越せるだろうに……)
そこに見張りを置いていない時点で、この施設はそこまで重要ではないのか、又は闘力の低い者ばかり捕らえられているという事なのだろうか?
外壁の内部には幾つかの建物が有り、俺たちは一番手前の建物から侵入を試みた。
『……この辺りには人の気配がしない』
ナタルに確認してもらってから俺は扉をそっと開けた。音が漏れると嫌なので、念の為シグネに【サイレント】の魔法で消音してもらっている。
(もしかして俺たち、盗賊団を結成したら最強なんじゃないのか?)
透明マントに気配を探るスキルに消音スキル。お宝はマジックバッグに詰め放題でエアロカーで飛んでおさらばだ。……うん、絶対足が付かないな。
そんな邪な事を考えながら、建物の奥へと進んで行く。道中、兵士がこちらに向かってきたので、接触しないよう通路の脇に寄って事なきを得た。透明なだけなので触れられれば見つかってしまう。
『ここは兵舎か? いや、事務室になるのか?』
『人の気配が少ない建物だが、まだ日中だからな。兵は出払っているのかもしれん』
2階建ての建物を一通り確認し終えると、今度はすぐ隣の3階建ての木造家屋へ浸入した。
『こっちが兵舎だったな。ベッドや食堂もある』
『……ここに用はない。次に行こう』
次は少し古めかしい石造りの建築物だ。だがここには窓が無く、見張り付きの門が一つあるだけだ。
『多分ここが捕らえられている場所じゃないのか?』
『……だが、人の気配が殆どないぞ?』
『まだ日中だからな。恐らくだが、捕まっている人たちは何処かで働かされているんじゃないのか?』
『…………成程』
囚われている自分の家族が帝国に無理やり働かされている姿でも想像したのか、ナタルは顔を顰めていた。
『あっちの大きな建物から人の気配が沢山する!』
俺たちはナタル先導で最後の建物に向かうと、大きな作業場に着いた。そこには多くの人たちが何かしらの仕事を熟していた。
男たちは鉄製の何かを作らされているのか、熱い鉄をハンマーで叩き、女性や子供たちは裁縫や書き物、食材の皮むきなど、様々な種類の労働をしていた。
そしてその周囲には立ったまま何もしない兵士の姿が数人見えた。
『いた!? カトル! 母さん!』
ナタルの視線を辿ると、彼女と同じ狼族の女性と子供が二人揃って編み物をしていた。満足に食事も取れていないのか、少しやせ気味に見受けられる。
『あそこにいる子が、例のテオ君じゃない?』
働かされている者の半分が獣人族で、もう半分が若い人族のようだ。その中に只一人、エルフ族の少年が何やら調合のような真似事をしていた。
あの金髪の少年がオッドの弟であるテオ君だろう。
(見た限りシグネより幼い様に見えるが……実際は何歳だ?)
見た目大学生くらいのオッドが45才だったので、あの少年はあんな見た目でも、俺より年上の可能性もあるのだ。
『ねぇ、イッシン
『なに!?』
『うそ!?』
『……?』
シグネの言葉にナタルだけは意味が分からなかったようだが、俺と佐瀬は二人して驚いていた。
(……確かにここにいる人族の殆どが黒髪だ!?)
まさか日本人までもここに収容されているとは夢にも思わなかった。
『シグネ、【自動翻訳】スキルを持つ人たちの人数を教えてくれ!』
『んー、10…………20……27人だね! みんな闘力は50以下だよ』
(なんてこった! ナタルたちの家族三人救って終わりと考えていたが、まさか総勢30人の非戦闘員を助ける必要があるとは…………最悪だ!!)
ひとつの救いは、今のところ遭遇している兵士の全てが闘力1,000以下だという点だ。一番高い者でも800辺りだった。
ただし30人ばかりの女子供と、ついでに獣人族まで助けるとなると、難易度はかなり違ってくる。
『イッシン、どうしよう?』
『…………一度戻ろう』
≪隠れ身の外套≫は使い続けていると魔力を消費する。俺はともかく、佐瀬たちの時間は有限だ。ここは一旦外へ出て、作戦を練り直す必要があった。
――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――
Q:後で考えてから質問する事は可能でしょうか?
A:今ここで質問しないのなら、あなたの質問権は剥奪します ※この代表者はこれで質問権無し
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