第74話 裏切りの女拳闘士

「なぁ、いいだろう? 少しくらい見せてくれても」


「お断りよ。冒険者がそう簡単に手の内を見せると思う?」


 俺は少しだけ佐瀬たちに近い場所へ移動した。この位置なら会話もしっかり聞き取れる。


「そこを何とか! 噂の≪雷帝≫様の雷魔法、見せてくれよ!」

「まだ日が暮れるまで十分時間がある。なぁ、外に行こうぜ?」

「俺たちも代わりに便利な魔法を披露するからさぁ」


 男たちは次々に佐瀬へ語り掛けた。さっきから口調だけは低姿勢だが、段々と表情に苛立ちが見え始めた。


「おい、ナタル! お前からも頼んでくれよ!」


 男たちは後ろで見守っているだけであった狼族の女冒険者にも援護を頼んだ。


「……私からもお願いする。そう時間は取らせないし、秘密も厳守する」


「私たち、買い物で疲れたのよ。正直、今から外には、ねぇ?」


『イッシン! これ、何時まで会話を引っ張ればいいの!?』


 俺の“時間を引き延ばせ”というオーダーをしっかり熟している佐瀬は、そろそろ気疲れしてきたのか、悲鳴を上げていた。【テレパス】を維持し、念話をしながらの同時会話はそれだけ神経を削るのだろう。


『こうなったら連中の要求を受けよう。多分こいつら襲ってくるけど、大丈夫か?』


 理由までは分からないが、あちらは俺たちを外でどうにかしたいらしい。それもきっと穏便ではない遣り方で…………


『正直、そっちの方が楽……私は賛成よ!』


 佐瀬がうんざりした声で俺の意見に賛同した。


『赤い布を腕に巻いている男の人が闘力2,300くらいで【盾】スキル持ちだよ。女狼さんが闘力3,500くらいで【察知】【体術】持ちだね!』


 シグネが改めて彼らのステータスを共有してくれたので、俺も屋根の上にいた連中の情報を伝えておく。上に潜んでいた二人は正直全く強くなかったが、持ち物に毒薬を持っている危険な連中だ。


『毒ならイッシンの【キュア】があるから脅威じゃないわね』

『他の二人が鑑定を弾いてるから油断は出来ないよ!』


 シグネの言葉には俺も同意見だ。もし戦うなら率先して正体不明な二人から始末をしたい。


『矢野君。この四人以外は多分もういない。それと……女狼さんはこちらに敵意を持っていない気がする』


『なんだって?』


 確かに先程彼女は俺の存在を仲間に伝えず、上の二人も見殺しにしていた。最初は下の連中と関係ないのかと思っていたが、もしかして彼女一人だけが不仲なのか?


“悪い事は言わない。一刻も早くこの街を出た方がいい”


 女狼さんは俺とシグネにそう言っていた。これはこいつらが絡んでくるという彼女からの警告だったのだろうか?


『……女狼さんの相手は一旦俺に任せろ。もし戦闘になったら、佐瀬たちは鑑定を弾く二人から優先して排除してくれ』


『『『了解!』』』


 念話越しに作戦を纏めると、佐瀬は仕方が無いといった演技をしながら男たちの要求を受け入れた。


「あー、もう分かったわよ! 本当に一回だけだからね! 人目の付かない場所の方が助かるんだけど?」


「おお! ありがてえ! なら早速こっちだ! 来てくれ!!」


 やっと頼みを聞き入れた彼女たちに安堵した男たちは、佐瀬たちを北門へと誘導した。


(まさかスラム街に行く気じゃないだろうな?)


 あそこだと少なからず人目が心配だったが、流石にそれは杞憂だったようで、男たちは街道から少し西側に外れると、ブルターク西方森林の中に踏み込んだ。


「ちょっと! まさか今から森の中に入る気?」


 思わず佐瀬から本音が漏れ出た。


「心配ない。浅い場所だし暗くなる前には戻れる」

「お前さんらも他人に魔法を見られるのは嫌なんだろう?」


「ま、いいけど……」


 外出予定の無かった佐瀬は普段着で服の汚れが気になるのか、かなり不満げな様子であった。


『名波、周囲の状況はどうだ?』


『大丈夫。他に誰もいない。少し遠くに魔物の反応があるくらい』


 どうやらこれ以上の伏兵はいないようだ。恐らくさっきの二人が後ろから襲い掛かる算段だったのだろうか?


 暫く森の中を歩くと、男たちは急に足を止めた。この位置は森の木々だけでなく、大きな岩もあって身を隠すには最適な場所だ。本来はその障害物の影から屋根の二人組が襲い掛かる予定だったのかもしれない。


 もしくは佐瀬の魔法を警戒して遮蔽物の多い地を選んだか、どちらにせよ、この程度の地形戦なら俺たちもダンジョンの森林エリアで散々体験済みだ。


 男たちが足を止めると、狼女はゆっくり佐瀬たちの背後に回り込んだ。丁度俺が潜んでいる付近だ。


『名波、狼女さんの敵意は依然変わらずか?』


『うん、全く敵意を感じないよ』


 この情報は信用していいのか些か不安だが、俺は直ぐに出られる準備をしつつも、様子見を続けた。


「くく、ここまで来ればもう安心だ」


「へへ、良い感じに人目がない場所だなぁ」


 男たちは下卑た笑みを浮かべると、それぞれ武器を構えた。


「……最初からこういうつもりだったのかしら?」


 佐瀬たちもゆっくりと得物を取り出すと、男たちと背後にいる狼女へ鋭い視線をぶつけた。


「すまないが……やむを得ぬ事情だ。大人しく言う事を聞いてくれれば悪いようにはしない」


 狼女は申し訳なさそうに口を開くも、それを男の罵声が遮った。


「テメエは黙ってろ! さて、お嬢ちゃんたち……本題だ」


 男たちはゆっくり佐瀬たちを包囲するようにポジショニングすると話を続けた。


「東部で出会った冒険者パーティ、≪黒山の霧≫と≪黒竜の牙≫に心当たりはあるな?」


「「「——っ!?」」」


 男が口にした冒険者たちに佐瀬たちは目を見開く。


 それはかつて俺たちと死闘を繰り広げて、最終的に手を掛けた冒険者パーティの名だ。


 シグネだけは直接の面識こそないものの、パーティ内でこの情報はしっかり共有しておいた。あまり子供に聞かせる話ではなかったが、今後冒険者を続けていく以上、何時かは血生臭い事にも首を突っ込む日が来るだろうから敢えて教えておいたのだ。


『そうか!? こいつら、≪黒星≫か!?』


 ブルタークの街でも、その一件で≪漆黒の蛇≫というパーティに襲撃を受けそうになった。逆に返り討ちにしたが、戦闘の前に彼らが口を滑らせた協力者らしき者の名が≪黒星≫だった。


 事前に≪黒星≫の情報は調査済みで、人族三人に獣人族とエルフ族の合計五人組のB級冒険者パーティだとは聞いていた。エルフ族の姿が見えないのと四人だけだったので気が付けなかった。


「……あんたたち、≪黒星≫ね? 確かエルフのお仲間もいるって聞いていたけれど……どこかに隠れているのかしら?」


「おい、質問しているのはこっちだぜ? まぁ、後でベッドの上で無理やり吐かせるのも楽しそうだがなぁ」


「——っ!」


 下種な返答に佐瀬の視線に鋭さが増す。


「テメエら、こっちでも≪漆黒の蛇≫を殺ったな? 連中が持っていたマジックアイテムはどうした?」

「そこのおチビちゃんが着けているイヤリングだけじゃなく、他にも持ってるんだろう?」


「——っ!?」


 シグネが耳に着けているものは≪不視のイヤリング≫と言い、≪漆黒の蛇≫を返り討ちにした際に奪取した物だ。流石に仲間内のマジックアイテムは把握していたようだ。


「それで? 貴方たちも私たちに倒されて、マジックアイテムを貢いでくれるのかしら?」


「ざけんな! このアマ!」

「骨までしゃぶり尽くされるのはテメエらの方だ!」


 それが引き金の合図となり、男たちは一斉に動き出した。佐瀬が【ライトニング】で近づいてくる男に先制攻撃をしようとするも、男が外套の中から小盾を取り出すと、見事に魔法を防がれた。


「魔法を防いだ!?」


「馬鹿め! こいつもマジックアイテムだ!」


 どうやら隠し持っていた為、シグネの鑑定から逃れていたようだ。流石はB級冒険者、実践慣れしていやがる。


「こいつは私が受け持つ!」


 魔法を所持していない名波が小盾持ちの男に急接近する。包丁と魔剣の二刀流で男のショートソードと盾を相手に斬り結んだ。



 シグネは槍使いの男と距離を取りながら戦闘を繰り広げていた。互いの武器の間合いは完全に向こうが上だが、シグネには風魔法があるのと、エアーステップによる空中二段ジャンプで相手を翻弄する。


 フリーになった佐瀬は標的を大剣使いの男に切り替えた。男は接近するのが難しく、岩の影から怒声を上げた。


「おい、ナタル! テメエもさっさと加勢しやがれ!」


「……ああ」


 ナタルと呼ばれた狼女は低い声で応答し頷くと、ゆっくり佐瀬たちの方角へ向かって行く。武装や【体術】スキルから察するに手甲で戦う拳闘士だろうか?


 そこへ透明なままの俺が割って入ろうと近づくと、【察知】スキルで把握しているのかナタルはこちらへ視線を向けてきた。


(やっぱりコイツ、透明状態の俺が視えている!?)


 だが何故かナタルは俺の方に視線を向けるだけで、迎撃する素振りを一切見せない。それどころか、急いで加勢する気もないようで、ゆっくり彼女たちの元へ歩み寄った。


「安心しろ。私はお前たちに加勢する」


 彼女は俺に対してなのか静かにそう呟くと、名波の方へ駆け出した。


『イッシン! 留美の援護を!』


 1対2になりそうな親友を心配して佐瀬が俺に念話を送るも、俺はナタルの傍で透明状態を維持したまま様子を伺った。


『名波の方は大丈夫だ! お前は大剣を足止めしろ!』


『く、分かったわよ!』


 俺と佐瀬がそんな会話を繰り広げていると、ナタルはあっという間に名波に近づき、彼女と戦っている男の子盾を拳で弾き飛ばした。


「ぐぁ! な、なにを——」


 ——するのだ、と言う前に名波が隙だらけの男の首を降魔の短剣で斬り飛ばした。


「ナタル!? テメエ……っ!」

「裏切りやがったな!!」


 その様子を見ていた二人の男がナタルに罵声を浴びせた。


「ふざけるな! 貴様らの仲間になった覚えは、これまで一度たりともない!」


 彼女は怒気と共に魔力を全身に籠めると、恐るべき速さで今度は岩陰に隠れていた大剣使いに肉薄していった。


「貴様ァ!! こんな真似して家族が無事でいられると思うなよ!!」


「心配は無用だ! 私たちに付いていた監視の目は消えた。後はお前たちを倒して家族を救い出すだけだ!」


「く、何時までも出て来やがらねえと思っていたら、使えない裏の奴らめ……っ!」


 恐らく俺が事前に始末した二人の事を言っているのだろう。やはり連中とグルだったようだ。

 

 大剣使いは必死に後退しながらナタルに剣を振るっていたが、それを彼女は上手い具合に拳に纏った手甲で去なし、男の懐へと踏み込んで拳を腹へ叩きこむ。


「ぐふっ!?」


「家族を人質に取られなければ、貴様ら帝国人なんかに遅れは取らん!」


「ち、畜生…………」


 大剣男は地面に伏した。


 残るは槍使いのみとなった。


「くそ! やってられるか!」


 不利を悟ると槍使いは逃げ出した。だが既に背後には透明なままの俺が周りこんでいた。


「よっと!」


「なぁ?!」


 足を引っかけると、面白い位に男はすっ転んだ。倒れて呻き声を上げる男から槍を取り上げ、俺はマジックバッグから≪魔力封じの腕輪≫を取り出すと、男の腕に装着させた。


「な!? こいつは……!」


「お仲間が持っていた、お探しのマジックアイテムだ。ほら、返すぜ?」


 ≪魔力封じの腕輪≫は相手の魔力使用を阻害する働きがある。魔法は勿論、身体強化にも影響を及ぼし、他人以外には基本取り外す事が出来ない呪いの腕輪だ。


 これだけだと不十分かもしれないので、【ライトニング】で軽く弱らせ、ロープを取り出してキッチリ縛った。ついでにナタルに腹パン喰らって呻いている男も拘束した。


 もう一人は完全に死んでいる。これで無事制圧完了だ。


(……いや、まだもう一人残っていたか)


 俺はナタルと呼ばれていた狼女さんを見た。


「えーと、ナタルさんと言ったか? 連中は倒れたが、俺たちと交戦する意思はあるのか?」


「ない。寧ろ君たちには恩義さえ感じている。良ければ私の分かる範囲で情報提供しよう」


 俺はチラリと佐瀬の方に視線を送った。


『今の言葉に嘘はないみたい』


 どうやら本当らしい。


「成程、彼女は≪審議の指輪≫を所持しているな? なら私の言葉が真実か分かって、却って好都合だ」


 今のやり取りだけで佐瀬が嘘を見抜けるマジックアイテムを所持している事を悟られてしまった。


「おっと。元はそちらの持ち物だったか。迂闊だったな」


「そいつには私も散々苦汁を嘗めさせられたからな。時間も惜しいし事情を説明しよう」



 そこから彼女が語り出したのは驚くべき事実であった。


 まず最初に語られたのは、≪黒星≫が帝国のスパイであったという話だ。彼ら人族三人は帝国の情報部に所属する軍人で、主に王国内の工作をし易くする為の、言わば表の暗部らしい。


 ちなみにさっき街中で俺が屠った怪しい二人が裏の暗部となる。彼らは稀にこうして作戦時に共闘する事もあるそうだ。


 狼女さん改めナタルさんは元々獣王国出身の冒険者で、家族を帝国軍に攫われ、止む無く≪黒星≫のサポートを手伝わされていた。


 ちなみにこの場にはいないエルフ族のオッドという青年も同じ理由で無理やり従わされているそうだ。


 今までは裏の暗部たちの監視も厳しかったので抜け出す機会に恵まれなかった。だが最近何故か暗部が忙しいらしく、人手不足なこの機に反旗を翻したそうだ。


「ちなみに君たちが倒した、で合っているのかな? ≪漆黒の蛇≫、≪黒山の霧≫、≪黒竜の牙≫も全員≪黒星≫傘下の工作員たちだ」


「そういう事か……」


 他はともかく、≪黒竜の牙≫だけは暗部失格だろう。裏の癖に悪目立ちし過ぎだ。


 俺がそう伝えるとナタルは苦笑しながらも、「そういう騒がしい駒も利用できる場面がある」だそうだ。デメリットの方が大きい様に思えるけどね。


 元々、何か問題があれば真っ先に切り落とされる連中なのだろうと、俺は最早この世にはいない愚かな冒険者たちに憐みの感情を抱いた。


「そのエルフのオッドさんはどこにいるの?」


「連中の言いつけで、今頃カプレットの町を調査中だ。君たちや失われたマジックアイテムの行方を追ってな」


「彼も≪黒星≫側……帝国側ではない、と?」


「ああ、私と同様に弟が人質に囚われている。私は母親と弟の二人だ。だからそろそろ私も助けに向かいたい」


 話を聞く限り、彼女らの家族は帝国暗部の手の内なのだろう。しかし、捕まっている場所を把握できているのだろうか?


 するとナタルはロープで縛られている二人の男に近づいた。


「おい、貴様ら! 殺されたくなければ家族の居場所を吐け! 今直ぐに、だ!」


「ぐ、誰が……吐くかよ! この犬っころが!」


 悪態ついた男の顔をナタルは蹴り上げた。


「ぐあっ!?」


「喋らないと痛い思いをするだけだぞ? 家族はどこだ?」


 うわぁ、いつの間にか拷問を始めちゃったよ!?


 これは流石にシグネには見せられない。


「あー、三人はちょっと外れていてくれ。それと佐瀬は指輪貸して」


「うー、あんま見たくないけれど、アンタは残るんでしょう? なら、私も残るわよ」


 佐瀬に続いて名波とシグネも頷いたが、その表情は優れなさそうだ。


「俺は居た方がいいだろうからな。でも、お前らまで無理する必要はないぞ? 正直、俺も逃げ出したい」


「うう、じゃあ私は離れているね」


 何時になくシグネが弱気であったが、その方が絶対に良い。いくら冒険者でも、こんな事には慣れて欲しくはない。


「ごめん、イッシン。それじゃあ私もパスする」


 佐瀬も我慢していたようで、シグネを連れてこの場を離れていった。彼女から≪審議の指輪≫を受け取り、一応念話の届く範囲で【テレパス】を維持したまま待機してもらう。


「名波はいいのか?」


「……大丈夫」


 彼女は三人の中でも覚悟が決まっているというか、さっきも躊躇わずに一人を始末した。お陰で形勢も完全にこちらに流れた訳なので、彼女のこういった強いメンタルには俺たちも助けられている。


 俺たちがそんなやり取りをしている間に、二人の男たちはナタルに何度も痛めつけられていた。


「くひゅっ! ぐっ……」

「うぁ…………」


「ち、これ以上は無理か……っ!」


 ナタルが悔し気に身体を震わせた。


 彼女自身こういった嬲る行為は嫌いなのか、よく見ると急所は外しているように思える。それが相手を思ってなのか、大事な情報源を失わないようにの気遣いなのかは分からないが、尋問素人の俺でも分かることがある。


(この人、拷問めっちゃ下手だなぁ……)


 脅して殴って問い質すをひたすら拳や蹴りで繰り返しただけだ。


 確かにそこらのゴロツキ相手なら問題ないだろうが、仮にも軍の情報部に籍を置いて、他国で活動するほど覚悟の決まった連中だ。普通のやり方で堕とせる筈がない。


「あー、ナタルさん。ちょっと俺に任せてもらえません?」


「何? しかし、君にそこまで甘える気は……」


「いや、こっちにも色々事情がありまして、ちょっと向こうにいる二人と一緒に待っていてもらえます? 出来れば見られたくない事もあるので」


「…………分かった。君たちには恩がある。任せよう」


「お任せを」


 ナタルは最早虫の息の男たちを一瞥すると、佐瀬たちの方へ離れていった。


「矢野君、どうするの?」


「まぁ、俺にしかできないやり方をすると言うか……」


 本当に……本当に気が進まないが、このままでは彼女の家族は報復として殺され、後味の悪い結果だけが残る。


 それに俺としても彼らから聞き出したい事は山ほどあった。


「おい、今度は俺が尋ねる番だ」


「ぐ、くく。殺したきゃあ、殺せ!」

「テメエらみたいな甘ちゃんに、ぐぅっ……話す事は何一つねえ!」


 これだけ痛めつけられたのに啖呵を切るとは、流石は軍の暗部にしてB級冒険者といったところだろうか。敵ながら見事なものだ。


 これは拷問素人の俺がいくら正攻法で尋ねたとしても、彼らは聞き入れてくれないだろう。


「……分かった。じゃあ、まずはお前から死ね!」


「へ?」


 だから正攻法でも搦め手でもなく、裏技で行く事にした。


 俺は男の顔面にゆっくり短剣の剣先を近づけると、そのままスロースピードのまま突き刺していった。


「ぐぎゃああああああっ!?」


 当然男は絶叫を上げて暴れるも、やがて短剣が脳に到達したか激痛が限界を超えたか、全く動かなくなった。


「て、テメエ! 一体何を……っ!」


「生憎俺は“生かさず殺さず”なんて器用な真似は出来ないからな。だから“殺して生き返して”をする事にした」


 俺は残っている男にそう告げると、先程絶命したばかりの男の身体を【ヒール】で癒し、身体の破損を治した上で久しぶりに【リザレクション】を唱えた。


(ぐ、やはり結構魔力を持って行かれるなぁ)


 この分だと休憩無しなら出来てあと三回だろうか。まぁ、俺は魔力回復も早いので、何とかなるだろう。


「かはぁ!? お、俺の顔……あれ? 俺、生きて……なんで!?」


 最早助かるまいと思っていた男は、自分が蘇生魔法を掛けられた事に気づかないまま酷く狼狽していた。


 一方、すぐ横で今起こった奇跡を目の当たりにした男の方は、口を大きく開けて呆けていた。


「それじゃあ、もう一度お前を殺す。話したくなったら何時でも言えよ?」


「え? ちょっと待て。待って——ひぎゃああああっ!?」


 俺はさっきと同じようにナイフをゆっくり刺していき、絶命すると再び【リザレクション】を施した。


「ひ、ひぃ!? また生き返ってる!? ど、どうなってやがる!!」


「だから言っただろう? 殺して、生き返してを繰り返すと。これを終わらせたければ、どうすればいいか……分かるよな?」


「や、止めてくれ! は、話す! 何が聞きたいんだ!?」


「お、マジで? それじゃあ名波。こっちのまだ一度も死んでいない・・・・・・・・・・・方を奥に連れて行ってくれ。情報を精査したいから、バラして尋問しよう」


「分かったよ、矢野君」


 名波は唖然としたままの男を奥へ引きずって行った。


「それじゃあ、さっさと話せ。俺たちに絡んだ目的、ナタルさんたち家族の居場所、帝国の情報などなど、洗いざらい全部だ」


「は、はぃいいいっ!!」


 男も≪審議の指輪≫の効果を知っているのか、それからは素直に色々吐いてくれた。


 あらかた情報を聞き出した男を始末し、今度は別の男を尋問する。そちらは名波が何か脅していたのか、【リザレクション】を使うまでもなく全て暴露したので、楽に死なせてやった。


(……やはり拷問なんて胸糞悪いだけだな)


 だが、それだけの価値がある情報を聞き出せた俺たちは念話で佐瀬たちを呼び戻した。








――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:あちらの世界に犬はいますか?

A:います

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