第69話 ソラから見た光景

 所変わって俺たちは鹿江大学体育会系サークルコミュニティ……長いので、以下“体育会系コミュ”の大広場にやってきた。


 それは俺とここの代表である武藤がこれから決闘をするからだ。


 当然受ける理由のない俺は断ろうとしたのだが、佐瀬が勝手に了承してしまった。


 あいつ、楽しんでいやがるな!?


「すまない、矢野氏。彼らにはこういった展開の方が手っ取り早そうなのでな」


 やっぱり確信犯か、乃木ぃ!!


 まさかの筋肉の裏切りにあった。


 ここの大広場は学生たちが模擬戦をするのによく利用され、俺たちと武藤たちがともに姿を見せると、それを見た学生たちが騒ぎ始めた。


「おい、もしかして武藤さんと乃木が戦うのか!?」

「おお、マジか!? 夢のカードだ!」

「どっちが勝つと思う? やっぱ武藤さんか?」

「いや、乃木の闘力は凄まじいって噂だぞ?」


 ギャラリーたちは勝手に試合の予想をし始めて盛り上がっているが、俺と武藤が中央に出て身体を解し始めると、周りは白け始めた。


「おいおい、あんな子供が戦うのか?」

「なんだ、乃木じゃねえのかぁ……」

「ねえ、あの白髪の子、ちょっと格好よくない?」

「えー、私は貧弱そうな子より、武藤先輩のような逞しい方が……」


 既に身体強化で五感を鋭くさせている俺は、周囲からの声が聞こえてくるが、今は目の前の男に集中をする。


 武藤司、元柔道の強化指定選手で体育会系コミュの代表でもある男。


 ステータスは敢えてシグネから聞かなかった。フェアじゃないからな。


(確か乃木のステータスは飛び抜けているって聞いていたから、それより下か? いや、でもスキル次第では油断ならないな)


 乃木のステータスは既に聞いてしまったので、これは不可抗力だろうが、彼の闘力は現在1,800越えだ。


 いや、ダンジョンにもいかず、そこまで上げるのはマジで凄いと思う。


 因みに俺の現在の闘力は2,800オーバーで名波は2,100辺りだ。三番目のシグネが闘力1,700くらいなので、乃木はシグネ以上、名波未満という事になる。


 ただし闘力で全てが決まる訳ではなく、魔法やスキル次第で当然戦力もひっくり返る。


(さて、こいつはどんなスキルを選んだ?)


 やはり元柔道選手なので、近接戦闘用のスキル、それも素手で戦える【体術】とか【身体強化】だろうか?


「それでは模擬戦————始め!」


 試合開始の合図と共に武藤がこちらへ迫ってくる。


 因みに今回は攻撃魔法無し、模造武器ありのルールだ。俺たちはお互いに木刀を手にしていた。しかも結構良い造りだ。流石は体育会系。


(けど、武藤も武器を持つとは意外だなぁ)


 てっきり柔道家らしく素手で来るかと思ったが、どうやら剣もいけるらしい。


「おらぁ!」


「くっ!」


 想像以上に鋭い一撃に、ガードした瞬間腕に痺れが走った。


 こりゃあ闘力1,500超えは確実か!?


「どうしたぁ! それでも佐瀬が認めた男か!」


「知らねえよ!」


 俺も負けじと応戦をする。俺の剣術は我流なので、あまり見栄えは宜しくはないが【剣】スキルで何とか形にはなっている。


 一方の武藤はと言うと、口調こそ荒っぽいが基本に忠実と言うのだろうか、とても洗礼された剣術のようにも思えた。


(こいつも【剣】スキル持ちか!?)


 しかし何度か打ち合っていくと、徐々に武藤の動きが悪くなってきた。どうやらかなり無理して身体強化を維持していたらしい。恐らく魔力量には恵まれなかったのだろう。


「悪いが負ける訳にはいかないんでね!」


 本当に、なんかもう本当に申し訳ないのだが、ここで負けると佐瀬が煩そうなので、俺の方も必死なのだ。


「くぅ、ここまでか……」


 結局武藤は一度も柔道技を使わず、俺に有効打をもらって勝敗は決した。


「そこまで! 勝者、イッシン!」


 まさかの番狂わせに観衆は沸いた。


「まさか武藤さんが負けただと!?」

「相手はあんなチビだぞ!?」

「おい! お前鑑定持ちだろう? あいつの闘力は一体幾つなんだ?」

「と、闘力は1,350だ。おかしいな。武藤さんの方がずっと上なんだが……」


(あ、それ偽装したままの数字だ。ごめんね)


 今度もう少し闘力の偽装数値を上げておくか。


「……完敗だ。お前ほどの男なら、佐瀬を任せられる」


「ええと、任せてください?」


 どう答えていいか返事に迷ったが、握手を求められたので適当に話を合わせて握り返した。


「けど、どうして柔道技を使わなかったんだ? 正直、寝技とかに持ち込まれると危なかったような……」


「ああ、俺はこの世界にきて柔道を捨てた。確かに柔道は素晴らしい武術だが、魔物相手には厳しいし、実際に刃物有りの相手では、やはり難しいからな」


 確かに今回はお互い木刀だったので、ある程度の被弾覚悟で迫る事も出来ただろうが、そんな実戦無視のやり方は彼のプライドが許さなかったのだろう。


 しかし、だとすると……


「こんな事聞くのはマナー違反かもしれないが、スキルを使えばもっとやり方があったんじゃないのか?」


 最初は【剣】のスキル持ちかと思ったが、何回か打ち合って気が付いた。武藤は純粋に自分の力で剣を振るっていただけであった。俺のようになんちゃって剣術で補正が入るような現象は見られなかった。


 俺が不思議そうに尋ねると、武藤は豪快に笑って答えた。


「ああ、俺のスキルは【木工】だからな。戦闘には使えん!」


「ええ!? なんでまた、そんなスキル選択を……」


「だって、あると便利だろう? 【木工】。いや、今は【木工(上級)】に進化しているぞ?」


「いや、そりゃあ便利だけどさぁ……」


 俺もそのスキル持っているから知っている。弓とか矢を作ったり、日曜大工にも超便利!


「ちなみにその木刀も、ここの拠点にある建物の殆どが俺様の手作りだ」


「うそーん!?」


 どうやらここの代表は、思った以上に変な奴であった。




 結局、当初の目的でもある“態度の悪い連中に釘を刺す”作戦は上手くいかなかったが、武藤と仲良くなったのは収穫であろう。これであちらも俺たちの主張を無碍にはしない筈だ。


 俺がそう話すと、乃木は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「いや、元々こういう作戦だったんだ。武藤を煽らせて矢野氏と模擬戦をさせて勝負に勝つってね」


 何だって!?


「あっちには【鑑定】持ちがいるからな。矢野君たちのステータスを見せびらかせば、少しは牽制になるだろう」


「騙すような真似をして申し訳ない」


 浜岡の言葉に続いて花木が頭を下げた。どうやらこうなる事は織り込み済みだったようだ。


「そういえば最後、武藤先輩に小声で話しかけていたようだけど、何て言ったの?」


「ああ、あの嘘ついていた奴に注意しろって言っておいたんだ」


 シグネに聞いたところ、あの話し合いの場にいた嘘つき野郎の名前は伊藤友樹というらしい。どうも花木たちも余り見た事がない学生で、素性が良く分からない陰湿な感じの男であった。


 素性が分からないと言えば、昨日の五人組である。


 なんとその連中、半月以上前に体育会系コミュを抜け出していたらしい。今では鹿江町で偶に顔を見かけるものの、どこでどうやって生活しているのか、武藤たちも与り知らないそうだ。


 しかもその五人だけでなく、多くの学生がこのコミュニティを去って行ったそうだ。


 元々我が強い集まりだったので、ある程度こちらでの環境に慣れだすと、独立したいと言って抜け出す学生も多かったそうだ。


 今では当時の半分程の人員となってしまった為、拠点の整備が遅れてしまっている状況だ。


(拠点がしょぼいのはその所為か!)


 ここの現状に得心いったが、すると新たな疑問も生まれてくる。


 じゃあ出て行った学生たちは一体何処で暮らしているのだろう?


 あの五人組の様子だと、バックに何者かがいるような素振りだったが、まさか他のコミュニティに所属しているのだろうか?


(どうも、きな臭いな……)


 色々解せない点はあるものの、これ以上は現状調べようもない。


 本気で調査する気なら、あの五人組がやってくるのをひたすら待って、≪隠れ身の外套≫で透明になって尾行してもいいのだが、正直そこまでの労力を割きたいとは思わない。


 現状では連中の態度がデカいだけなので、花木たちもそこまで必死に解決する気はないようだ。


 今回は一応体育会系コミュに釘を刺しておいたのと、彼らが別グループだという事が判明したので、それを町会長の五郎に報告して調査は一旦終了だ。



 俺たちは再びエアロカーで花木たちを拠点に送り届けると、コミュの学生たちに軽く別れの挨拶をした。


「矢野氏! 今度は俺もダンジョンに連れて行ってくれ」


「私も! 街の食材なんかを物色したいから!」


 エアロカーの存在を明かした乃木と中野に街への輸送の催促をされたものの、また次の機会という事で、俺たちは宮内一家を拾って鹿江町へ一旦引き返した。



「それじゃあ、二人ともまたね!」


「気を付けるんだぞ、シグネ」

「元気でね、シグネ」


 シグネは両親に別れを告げるとエアロカーに乗り込んだ。


 この乗り物のお陰でかなり行き来がし易くなったお陰か、三人の間にしんみりとした雰囲気はあまり感じられない。気軽に戻れるようになったしね。


 俺はエアロカーをゆっくり浮上させると、西の交易街ブルタークを目指して飛行させた。






 行きは5時間くらい掛かったが、帰りは4時間くらいで済んだ。


 これでも休憩を一度挟んで、そこまでスピードを出さずに飛行したのだ。


 それに帰りは少し趣向を変えて、簡単なマップ作りをしながら飛んでいた。と言っても別に詳細な地図を描いた訳では無いし、俺たちにそんな測量技術は無い。ただ空からでも分かるような目印を簡易的な地図に記載していって、空路を確立させようと考えての行動だ。


 これで次回飛ぶ時にはもう少し飛行時間を短縮できるだろう。



 ブルタークの街にある宿泊場所、≪翠楽停≫へと戻った時には日が暮れかけていた。


 俺たちは室内で、中野からの取引で得た海鮮料理を食べながら、今後の事について相談した。


「ここらで一度、ダンジョン探索に行きたいと思います」


 そろそろ資金に余裕が無くなってきた。


 俺たちが生活する分にはまだまだ余裕なのだが、大芝森プラザの人達との取引で、この国の通貨を用意すると約束してしまった。


 今後も似たような事態は考えられるし、何より俺の剣もそろそろ限界が来そうなので、纏まった資金が欲しかった。


(エアロカーが完成した今、次の研究もしたいしな)


 豊かな生活にお金が掛かるのは、どうやらどの世界でも同じようだ。






 今日は久しぶりに冒険者としての活動を再開する事にした。


 俺たち≪白鹿の旅人≫がダンジョン探索をする間、宮内一家に部屋を貸す事にしたが、健太郎は宿泊費をキチンと払いたいと申し出た。


 とは言っても今の彼に収入は無く、俺からお金を借りる形で、今日はとりあえず冒険者ギルドで簡単な依頼を熟そうと考えているらしい。


 しかも驚いた事に宮内家四人全員で、だ。


 健太郎は家族の参加に反対の立場だったが、何しろ彼ら一家のスキル構成は戦闘向きのものばかりであった。


 一番下の聖太君なんかはまだ8才だが、ギルドの規則上、年齢制限は設けられていないのと、同じ年で雑用を熟す見習い少年冒険者もいるにはいるので、そう珍しい話でもない。


 街周辺の弱い魔物相手なら、今の健太郎ならフォローできるかと考えて、俺は強く反対をしなかった。下手に家族バラバラになるより、全員一緒の方が安全かもしれないしね。


 それで健太郎も折れたのか、宮内家は俺たちと共に冒険者ギルドへ顔を出した。俺たちはダンジョン探索で暫く留守にする報告と、宮内家は健太郎以外の冒険者登録と、見習い向けの依頼確認だ。


「えー、冒険者証ってただの木の板じゃん!?」

「お姉ちゃん、このカード、名前ないよ?」


 姉の聖香と弟の聖太が、G級冒険者用に手渡された冒険者証を見てガッカリしていた。


 最初に渡される冒険者証はただの木片に管理番号が記載されただけの、仮の証明書であった。


 F級になると名前が刻まれ、E級で初めて鉄製となる。そこから昇級する度にデザインが凝っていき、B級になると銀製、A級が黄金の冒険者証となる。


 そしてS級と呼ばれる特別なランクにはミスリルが使われるという豪華仕様だ。ただしS級になるには余程の実力や功績が無いと認定されず、現在このバーニメル半島内では一人も存在しない。


 それほどスペシャルな称号なのだ。


(結局S級のSって「special」なのか? それとも「supreme」か「super」?)


 語源は知らないがS級とかAAAランクとか、とても格好良いと思う。AAAランクなんてないけど……



 ちなみに魔物にもAランク以上のランクが存在する。


 化物のAランクより更に格上のSランク、大国でも存亡を賭けて戦う必要のあるSSランク、国家が連合組んでも倒せるか滅びるかのSSSランク、絶対に刺激するなのEXランクだ。


 …………もう、この世界に安全な場所と言うのは存在しないのかもしれない。


 だが、それでも俺は震えて閉じこもる生活は御免だ。せめてそこらをうろつく化物、Aランク辺りは倒せるようになりたいと考えている。既に二度も遭遇しているしね。


 それ以上は基本ノータッチ。


 そもそも俺の本職はヒーラーだ。もし仮に、止むを得ない理由でSランク以上に挑む馬鹿がいたとしたら、遺体がまともな状態で戻ってきたら生き返してやらないでもない。まぁ噂を聞く限り、連中と戦えば骨一本残りそうにはなさそうだが…………



 自分にはどうする事も出来ない化物どもたちを気にし過ぎても仕方がない。それよりも今はダンジョンで如何に稼ぐかだ。その過程で更に強くなれば万々歳だ。






 この日、この世界リストアでは、人類史上初の試みが成されようとしていた。


『5、4、3、2、1————リフト、オフ!』


 凄まじい光と轟音を響かせながら、このファンタジー世界では異様な人工物の塊が宇宙へと打ち上げられた。


 旧アメリカ合衆国政府とNASAが協力して持ち込んだ小型人工衛星の打ち上げが、遂に成功した瞬間であった。


“異世界には手に持つか背負う分しか物を持ち運べない”


 この縛りにはかなり苦労をさせられたが、偶々組み立て前であったパーツを大急ぎで関係者たちが協力して持ち運び、現地のこの世界で組み立てて、ようやく完成に漕ぎつけたのだ。


 それでも足りない部品や人材はごまんとあったが、そこはファンタジー世界ならではの魔法技術で後押しした。現地で友好関係を築けた大国のバックアップも得て、遂に人工衛星を飛ばす事に成功したのだ。


 尤も、きちんと星の軌道に乗れるのか、何時落ちてくるのかはかなり未知数な為、宇宙から得られる情報を研究者たちは大急ぎで収集していた。


「チキュウの技術は素晴らしいな。こんな事も可能なのか……」


 現地協力者でもあるアレキア王国の宮廷魔法使いが感嘆の声を上げた。


「いやいや、Mr.エイジンの魔法には我々も驚かされております。まさに人知を超えた奇跡ですよ!」


 今回の打ち上げ責任者である将校がエイジンと呼んだ男は、ルルキア大陸でも指折りの大国、アレキア王国の宮廷魔法使いであった。


 彼は上級魔法を複数扱う程の手練れで、いずれ神級魔法にも届くのではと称される程の魔法使いだ。


「いや、私など所詮“人レベル止まり”だよ。本当の化物のような傑物を私は知っている。あれこそまさに神の与えた奇跡と言えよう」


 エイジンは嘗て戦場で目撃した神級魔法を思い起こしていた。あれは人が放っていいレベルの魔法ではない。周囲の者は、何時かはエイジンも至れるだろうと期待してくれているが、例えもう一度人生をやり直したとしても、己があの域に到達できる自信がなかった。


 だから研究職へと配置換えを希望したのだ。


 だが悪い事だけではなかった。自分は意外にこういった事に向いていたのだと気付かされた。それにそのお陰でこうして大変栄誉な研究に携わる事も出来たのだから。


「将軍! 見てください! 衛星カメラからこの星の大陸が映し出されております! 打ち上げは成功です!」


「「「おおおっ!!」」」


 周囲から歓声が沸き起こった。これで一歩、いや二歩前進した。


 地球からの一斉転移で各国勢力はランダムでこの世界へと飛ばされてしまった。アメリカ政府としては当然この事態を、指を咥えたまま静観する訳にはいかなかった。もしかしたら地球時代の敵性国家とご近所同士になった可能性もあるし、何よりこの世界の国が、我々転移者に牙を剥くかもしれない。


 幸いアメリカ政府は転移場所に恵まれ、アレキア王国と友誼を結ぶ事が叶った。後は現地周辺国家の状況や、旧世界他国勢力の転移先や情報を収集したかったのだ。


 その足掛かりとなるのが衛星からの観測であった。


 出来れば他国に駐屯するアメリカ駐屯軍とも合流を果たしたい。最低でもアラスカ、ハワイ、可能なら日本、韓国、ドイツの駐屯軍とも連絡を取りたいが、果たしてどのように統制されているのか、現状では分かったものではなかった。


「な、何だ!? これは……っ!」


 一人の研究者から驚きの声が上がり、気になった将軍たちはそちらへ駆けつけた。


 研究者が驚いていたのは、北にある大陸の映像であった。


「この大陸の南西を見てください! ほら、ここ!」


「な、何だ、この地形は……!?」


 研究者が指を差した場所は、まるで大陸というクッキーの生地を丸い型で切り取ったかのように、綺麗な半円を描いた沿岸が映し出されていた。


 何よりも驚くべき情報は、その半円が直径凡そ2,000マイル以上で、オーストラリア大陸の横幅とほぼ同じ大きさだからだ。


 一体どのようにすればこのような自然現象が起こるのだろうか。


「こっちも凄いです! 沿岸部が綺麗な直線ですよ!」


 別の大陸でも、何故か大陸の沿岸が途中から綺麗な直線を描いていた。その推定距離は5,000マイル以上……最早訳が分からなかった。


「その大陸はもしや……。そうか、これが噂に聞く≪カノームの無限断崖≫か」


 隣で衛星写真を一緒に眺めていたエイジンがボソッと呟いたのを将軍は見逃さなかった。


「エイジン殿、何かご存じなのですか!?」


「ふむ、古い言い伝えなのですがな……」



 それはここルルノア大陸から西にあるカノーム大陸の伝承だ。


 カノーム大陸は古くから人類が文明を築き、人類発祥の地とも噂される大地なのだ。


 今でこそ文明最盛の地はルルノアだと謳われているが、カノームは歴史ある国々が多い大陸で、古い遺跡からは現代技術でも再現不可能とされる人造のマジックアイテム、所謂魔道具が発掘されることもあるそうだ。


 そんな古い大陸には昔からの有名な神話がある。


 人の叡智に奢りを見せた大国が、一夜にして滅んだ物語だ。


 それを引き起こした死神の名は皇竜ザナーシド、現代でも討伐難易度EXランクとして恐れられる竜の王である。ここ数百年は姿を見せない事から、既に死んでいる説が有力だが、カノームにある全ての国では、彼の竜王に挑む行為は禁止されている。


 それというのもカノーム大陸の西岸にある、地平線の向こうまで続く平らな崖は、皇竜ザナーシドのブレスで出来たものだと言い伝えられているからだ。


 ずっと続いているように見える絶壁から、その地は≪カノームの無限断崖≫として、今では観光名所にもなっている。


「まさか、これを魔物が……一匹の生物が起こした現象とでも言うのですか!? ブレスで大陸を削って5,000マイル以上の断崖絶壁を生み出した、と……!?」


「あくまで言い伝えですが……討伐難易度EXの魔物なら、別に不思議な事ではないでしょう。半円の湾岸までは知りませんでしたが……」


 エイジンの言葉に将軍や研究者たちはごくりと息を呑みこんだ。


 彼はファンタジー世界で生を受け、魔法と言う不可思議な力を扱う人間だ。しかしその反面、考え方はとても合理的で、地球の科学についても直ぐに理解を深めていく程の頭の柔らかい傑物だ。


 そんな彼が言うのだから、これは決して世迷い事なんかでは無いのだと、その場にいる全員が、背筋の凍る思いで今の言葉を心の中に刻み込んだ。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:封建国家や君主制の国はありますか?

A:殆どの国がそうです

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