第68話 乃木ぃいいいい!?

 花木たちとの話し合いを終えた俺は、今度は中野に捕まって様々な物資を交換した。特にマスタードのような香辛料は非常に喜ばれ、食材ではないが布や糸も好評であった。


「いやぁ、助かったわ! はい、これ! 報酬の料理よ!」


 なんと大きな鍋ごと美味しそうな海鮮スープを貰った。古くなった鍋を町で買い換える予定だとかで、マジックバッグ持ちの俺相手なら丁度いいと、そのままプレゼントしてくれたのだ。


 他にもコミュニティで育てたハーブや釣れた魚の切り身や貝類など、ブルタークでも手に入りにくいモノを入手できたので、こちらとしても大満足な取引だ。


「ねえ、ちなみにこの世界では見かけない、日本産の野菜とかって、街ではお金にならないかしら?」


 中野曰く、貰ってばかりだと心苦しいので、彼女なりにこちらの通貨を稼げないかと考えていたらしい。そこで思い至ったのが、日本独自の野菜や果物を街で卸すという計画だ。


 ある程度の作物の種は園芸部がこの世界に持ち運んでおり、今では殆どの畑が軌道に乗り始めているそうだ。鹿江町にいる老人たちの協力もあってか、互いのコミュニティでは稲作にも着手しているそうだ。


「私たちが商品を提供して、矢野君が街で売り払う。そして私たちにお金や現地の食材・物資を持ち帰る。勿論、矢野君には仲介手数料を支払うわ」


「いいね! たが手数料は金銭じゃなく、海産物や料理で欲しい」


「交渉成立ね!」


 俺たちは握手を交わす。


 これで日本の食事には今後も困らなそうだ。彼女たちの作る料理のレパートリーを増やす為にも、街でしっかり食材を調達せねばなるまい。いや、寧ろ彼女をエアロカーで街に案内して、直接品を見て貰った方が早いような気もした。


 まだ彼らにエアロカーの存在は伏せているが、明日には一部の人間に公表するつもりだ。



 最低限の用事を済ませた後は、日が暮れる前まで学生たちと交流を深める事にした。


 佐瀬と名波は相変わらず学生たちに囲まれており、俺たちの冒険譚を聞かせているのか、女性陣だけでなく、男子学生も耳を傾けていた。


 稀に「矢野、許せねえ!」「矢野、俺と変われ!」など呪詛のような言葉が聞こえてくるので、俺は近づかないようにした。



 海の方へ顔を出すと、浅瀬でシグネたちリンクス一家が水遊びをしていた。砂浜ではゲン爺が学生たちと木刀で模擬戦をしていた。武術の心得があるとは聞いていたが、70過ぎとは思えない動きで学生たちを指導していた。


 凄いな、ゲン爺!



「矢野氏! ダンジョン探索について話を聞かせてくれ!」


 俺の姿を発見した乃木が話しかけてきた。


 乃木だけでなく、警備班や戦闘のできる女子学生もダンジョンに興味を抱いているようだ。俺はブルタークの街にある二つのダンジョンの話を交えつつ、こちらの状況もそれとなく聞いてみた。


 乃木たちは鹿江町だけでなく、何度か現地の町であるアルテメにも顔を出しているらしい。あのヘンテコ鑑定士の所属する、ギルドの出張所がある田舎町だ。


 この拠点付近にいる危険な魔物は粗方討伐できたらしく、今では稀にDランクの個体を見かけるくらいで、町の往来も大分楽になったそうだ。


 俺たちが開拓した時にはCランクのアサルトベアーが何頭か棲息していたが、ここ1カ月の間、全く姿が見えなくなったらしい。


 最近の事件といえば、近くの浅瀬に討伐難易度Cランクの甲冑クラゲが出たくらいだそうだ。


(甲冑クラゲ!? この辺りに出るのか!!)


 以前エアロカーのフロントガラス素材として欲した魔物だが、エレキスネールの殻で代用出来たので、今では探す必要がなくなっていた。


 だが、エアロカーの備品の予備として甲冑クラゲの傘はあった方が良いだろうし、乃木も久しぶりに俺と共闘したいと言ってきたので、急遽俺たちは海に出る事にした。


 そこにシグネたちも加わり、俺たちは浅瀬にいる魔物をひたすら狩っていくのであった。






 そろそろ日も暮れる時間なので、俺たちは学生たちに別れを告げ、一度鹿江町へと飛んで戻ってきた。


 宮内一家とも合流し、町に建てられた大きな食堂で一緒に食事をした。


「この町は良いね。娯楽施設は少ないが、居住区の設備は大芝森とは比較にならない!」


 この町は水道も完備され、今では風力発電や、鹿江大学サークル協賛で魔力による発電も研究し始めている。驚いた事に、一部の施設では電気が通り始めているそうだ。


 尤もまだまだ電圧不足で、転移の際に持ち運んだ数少ない電化製品のバッテリーを少しずつ充電していくのが関の山らしい。


 まずは各家庭で冷蔵庫やエアコンを完備させるのが当面の目標だそうだが、まだまだ道のりは遠いようだ。



 お互いに町や拠点の様子を語り合っていると、食堂に新たな客が舞い込んできた。


「お! 珍しい! 若い子いんじゃねえか!」

「しかも超美人だぜ!」


「げ、あいつら……っ!」


 店の中に入ってきた五人組の青年を見て、佐瀬があからさまに嫌な顔をした。


「ん? よく見たら佐瀬ちゃんじゃねえか!」

「ホントだ! そんなコスプレしてっから、気付かなかったぜ!」

「名波ちゃんもいるぜ? こいつはいいや!」


 どうも彼らは佐瀬や名波の知り合いのようだ。鹿江大学の学生だろうか? しかし、彼らの姿は今まで見た記憶がない。


(……成程。こいつらが例の問題児どもか?)


 店員や他の客の反応を見るに、ビンゴなようだ。


「おう、俺たちこの子らの知り合いでな。ちょっと席譲ってくれや」

「良く見たらこっちの子も超可愛いぜ?」

「おいおい、流石にそれは犯罪だろ。ロリコン野郎!」

「ば、馬鹿っ! 違うって!」


 男たちはゲラゲラ笑いながら、俺をどかそうとでもしたのか肩に手を掛けたが、それを払いのけた。


「何だ、このガキ? 妙な髪色してやがんな?」

「文句あんのかぁ? 俺たちの闘力見たら、チビっちまうぜ?」

「子供はママのおっぱいでもしゃぶってろ!」


 何というテンプレートな悪たれ共だろうか!


 念の為、俺はシグネに視線を向けると彼女は鼻で笑っていた。どうやら相手にならないステータスなようだ。


 ここは思いっきりマウントを取る事にした。


「お兄さんたち、あんまり大声出すと他のお客さんに迷惑だから、他所行きなよ」


「んだとぉ!? おい、ガキ! 上等な口利くじゃねえか!」

「テメエには関係ねえだろ? 俺は佐瀬ちゃんたちに用があるんだ」

「ほら、粋がってねえでさっさと失せろ!」


(……ふむ、思ったより頭が回るのか、すぐに手を出さないのか?)


 五郎町会長やゲン爺の話では態度こそ横柄だが、まだはっきり悪事を働いたという情報は無いそうだ。そこが逆に扱いかねている要因でもあるらしい。


(いっそ暴力沙汰でも起こしてくれれば簡単なんだが……)


 ここは俺でなく、彼女たちに頑張ってもらうかと、俺は佐瀬に目配せした。


「私もアンタたちに用はないんだけど? ほら、帰った、帰った」


「あ、店員さーん! 料理の注文いいですかー?」


 佐瀬が心底嫌そうに手を振ってジェスチャーをすると、名波も彼らを無視するかのように追加の注文を始めた。


「テメエ、少し面良いからっていい気になってんじゃねえぞ!」


「あら、まだいたの? 少し面の良い女なんか放っておいて、さっさとお家に帰ったら?」


「彩花、こっちの焼き鳥も美味しいよ!」


「ホントだ! 塩もいけるわね!」


 めちゃくちゃ煽る佐瀬に、無視を決め込んでいる名波。そんな彼女たちの態度に男たちは肩を震わせていた。


「こいつッ!」


 拳を握った男が前に出ようとする。俺たちパーティメンバーは何時でも動けるように待ち構えていたが、意外な事に連れの男が引き留めた。


「おい、やばいって! 暴力は無しって言われてんだろう!」


 男は小声で忠告したつもりだろうが、店内は俺たちのやり取りを見守っている為か喧噪も少なく、こちらにもしっかり聴こえた。


(言われた? 誰かの指示で暴力行為を止められているのか?)


 俺と同じ疑問を感じたのか、佐瀬はポケットの中に手を入れると男たちに話しかけた。あれはもしかして……


「あれ? 口だけなの? それともこんな世界に来てまでも、先輩の言いつけが怖くて、手が出ないとか?」


「ああ? テメエ、マジでいい加減にしろよ!」

「先輩は関係ねえ! 俺らを怒らせると、女でも許さねえぞ!」


「ふーん、何でこんな所で騒ぎを起こすのか、理由でもあるのかと思っていたけれど……」


「う、うるせえ! テメエみたいな性格悪い女は、こっちからお断りだぜ!」

「あー、白けた、白けた。他で飯食おうぜ!」

「夜道には気を付けろよ! 佐瀬ぇ!!」


 男たちは脅し文句を残してそのまま去って行った。その様子を佐瀬は不敵な笑みを浮かべたまま見送った。


「どうやら暴力行為を禁止している存在がいるようね。でも、サークルの先輩とかではなさそうよ」


 やはり佐瀬は≪審議の指輪≫を使っていたようだ。話しかけた際、ポケットの中に入っている指輪の反応を確かめたのだろう。


「あの会話だけじゃあ、あんまり情報は引き出せなかったか」


 言葉の虚偽を判定できる≪審議の指輪≫は、理性的な会話をする者にこそ真価を発揮するのだが、ああいった語彙力の低い輩に対しては逆に効果が薄い。口の回る嘘つき相手には絶大な効果があるんだけどなぁ……


 まぁ、ここ最近の迷惑騒動に何か裏が有りそうだと分かっただけでも一歩前進だろうか。


「それと私の性格が悪いとか、お断りってのも嘘ね。きっと私に興味津々よ。後、夜道に気を付けろって脅しも本当ね。連中、一体何をするつもりかしら?」


「……その情報、要る?」


 佐瀬がポケットに手を入れている時には、迂闊な事を話さないよう俺は心に誓った。


 事情を上手く呑み込めていないダリウスさんたちに、先程のやり取りについて解説をする。健太郎はジャーナリストの観点から≪審議の指輪≫の存在に酷く動揺していた。


「そんな事、私に話してしまって良かったのかい?」


「そういったマジックアイテムの存在はいずれ世間でも知れ渡るでしょうし、逆に黙ったまま後で知られると信頼関係が破綻しますからね……」


 例えば宮内一家に≪審議の指輪≫を秘匿したまま親睦を深めたとする。お互いに浅い関係ならまだしも、人間というものはコミュニケーションを取り続ければ嘘の一つや二つくらいはするだろう。それで円滑に関係を構築できるのなら、軽い誇張、善意の嘘の一つくらいは安いものだ。


 だが後で相手が嘘を見抜けると知ったら、果たしてどうなるだろうか?


 自分は何か致命的な事を口走っていないか、そもそも相手は信頼に足る相手だったのかと考える。今後の関係にヒビが入るのは確実だ。


 だからここで暴露した。


 全くの他人なら兎も角、ある程度仲の良い知り合いにはオープンにするべきマジックアイテムだろう。


 それにもう一つの理由もある。


 ここにいるメンバーは俺たちの抱える重要な秘密を知り過ぎた。その秘密をキチンと守ってくれているのか、「俺たちは何時でも確認できるぞ」という裏のメッセージでもある。


 我ながら悪辣だとは思うが、隠したままよりかはマシな関係が築けるだろう。


 そこまで考えを巡らせたのか、健太郎が顔を引きつらせながら俺に語り掛けた。


「君はきっと“いい政治家”になれるよ」


「冗談でしょうけど、お褒めの言葉として受け取っておきます」


 彼の言う“いい政治家”とは、多分国民思いの優しい政治家という意味ではなく、国の為に少数を切り捨てる冷酷な為政者という意味合いの方だろう。


(俺が優先すべきはパーティメンバーとその周りだけだ。他は知った事じゃない)


 俺は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。



 食堂でのひと悶着は、宮内一家には少し怖い思いをさせてしまったが、佐瀬の動じない切り返しに他のお客さんは喝さいを上げた。


「良い啖呵だったぞ、お嬢ちゃん!」

「若造共が、ざまあみろ!」


 酔っ払っているお年寄り連中にお酒を勧められて、佐瀬は顔を赤くしながらチビチビ飲んでいた。


 ちなみに佐瀬もいつの間にか誕生日を迎えて二十歳になっていた。実際の誕生日は2月だそうだが、異世界に転移した際、日付もずれてしまっているので結構分かり辛い。本人も鑑定のステータスで気付いたくらいだ。


 名波もとっくに二十歳の誕生日を迎えていたようだが、当時は生活の維持だけで大変だったらしく、祝っている余裕もなかったそうだ。


 佐瀬が誕生日を迎えていた事を知った俺たちは、慌てて追加注文を頼んで佐瀬に色々飲み食いさせた。そんなもんだから彼女は早い段階で酔い潰れてしまった。


 仕方なく俺が背負う形でリンクス家まで運んだ。






 翌日、今日はダリウスとジーナはそれぞれ仕事があるそうで、代わりに宮内一家を鹿江大学サークルの拠点まで連れて行った。


「うわぁ、海ぃ!」

「綺麗な海ぃ!!」


 殆ど人が踏み込んでいない異世界の海を見て、宮内家の子供たちは大はしゃぎだ。比較的浅い場所は魔物もいなく安全だそうだが、念の為護衛に学生を付けてもらった。


 ここで宮内一家をしばらく預け、代わりに俺たちは花木たち主要メンバーをエアロカーに乗せて、例の体育会系コミュニティの拠点に赴く事となった。


 同行するのは代表の花木とサポートに浜岡、乃木の三人だ。エアロカーの存在を公にしたくはないので、人数を絞って貰った。


 昨日も利用した森の広場でエアロカーを初お披露目すると、花木たちは口をポカーンと開けたままであった。


「あ、相変わらず矢野さんは奇想天外ですね」

「すげえな、魔法……っ!」

「うむ、流石は矢野氏だ!」


 どやぁ……!


 作るのに苦労した愛車を褒められて、俺は大満足であった。アタッチメントを製作したシグネちゃんと二人揃ってドヤ顔である。


 早速エアロカーに搭乗し、俺たちは件の拠点を目指して飛行した。


「もう少し南の……あそこだ!」


 そこは鹿江町の割とすぐ傍にあったが、思ったより寂しい拠点であった。鹿江町と比べると仕方ないのかもしれないが、他のコミュニティと比較しても一段劣るような寂しさを感じる。


(いくら脳筋だからって、建物が少なすぎないか? 人手は十分足りている筈だろう?)


 何か違和感を覚えながらも、俺たちは付近にバレないよう着陸すると、徒歩で拠点へと向かった。当然アポなしだ。


 拠点の近くに来ると、流石に向こうもこちらの接近に気が付いた。


「おい、あれ……乃木だ!」

「乃木だと!?」

「おーい、乃木が殴り込みに来たぞー!」


 何故か代表の花木より乃木の方が目立っていた。同じ筋肉愛好家同士、マッスルセンサーが働いているのかもしれない。


 そんな馬鹿な事を考えていると、奥から大きい筋肉……青年がやって来た。


「花木に浜岡もか。乃木まで引き連れて、何の用だ?」


「君たちだってうちの拠点にアポなしで来るだろう? 今回は代表と話がしたくて来た」


「……付いて来い」


 大柄な青年は寡黙なのか、それ以上は語らず歩き始めたので俺たちも付いて行く。


 道中こちらを興味深そうに何人かの学生が視線を向ける。体育会系と言うと男臭い印象だが、当然女子学生もおり、ギャラリーたちは顔を知らない俺とシグネについてあれこれ語り合っていた。


「何、あの子? 超可愛くない?」

「こっちの世界の子供かなぁ? 金髪だし」

「白髪の男の子もめっちゃ好みなんだけど!」


 俺が鼻の下を伸ばしていると、佐瀬がどさくさに紛れて蹴りを入れてきた。


 酷くない!?


「おお! 佐瀬ちゃんと名波ちゃんだ!」

「相変わらずあの二人は可愛いなぁ!」

「俺、今から文化系コミュに鞍替えしようかな」


 佐瀬がこちらを見てドヤッと笑みを浮かべた。


 え? これ、俺蹴り返してもいいの?



 やがて一番奥にある小屋に辿り着くと、寡黙な大柄の青年はノックした。


「代表、客です」


「おう! 入って貰え!」


 部屋の中に入ると武骨な木製テーブルに椅子のような丸太が置かれており、そこに何人かの学生たちが集まっていた。


「花木、あっちの世界ぶりだなぁ。堅苦しい性格は治ったか?」


「君も相変わらず不躾な男だな、武藤」


 先ずは代表同士が軽い挨拶を交わす。


『武藤司先輩、柔道部の部長で五輪の強化選手に指定されていた逸材よ』


 佐瀬が念話で相手方の情報を教えてくれると、花木と浜岡、それに乃木がピクリと身体を動かした。


 この話し合いの場を設けるにあたって、俺たちは佐瀬の【テレパス】と≪審議の指輪≫の情報をオープンにした。まだ念話に慣れていない三人は、佐瀬の声が脳内に響くと無意識に反応してしまうのだろう。



「————で? お前ら、何しに来た?」


 二人の短い挨拶が終わると、いよいよ本題へと移った。


「鹿江町コミュニティでの件だ。君たち最近あの町によく顔を出すそうじゃないか。だが評判が良くないぞ? 町会長さんからも相談を受けた」


 ピクリと武藤は眉を動かす。


「知らんな。本当にうちの者なのか? お前ら、何か聞いているか?」


 武藤は同席していた同じコミュニティの三人に問い質した。


「さぁ、俺も知らないぞ」

「私も知らなーい」

「知らん。何かの間違いじゃないのか?」


『武藤先輩はセーフ。三人目はアウト!』


 どうやら武藤はこの件を本当に知らないようだ。だが一人怪しい奴が現れた。


 佐瀬の情報を念話で聞いていた花木は再び質問をする。


「昨日もそこにいる佐瀬さんたちが実際に絡まれた。最後は脅すような発言までしたそうだ。それでも心当たりはないのか?」


「……佐瀬は美人だからな。だが、脅したというのは頂けねぇなぁ……。おい、お前ら。本当に知らないのか?」


 上手い具合に武藤が質問を投げかけてくれた。


「いや、俺は初耳だ」

「えー、佐瀬さんの被害妄想じゃない? 私、知らなーい!」

「おいおい、俺たちを疑ってるのか? だから本当に知らないって!」


『やっぱり三人目が嘘つきね。それと私が美人ってのも本心みたい』


 最後の要る?


「だそうだ。こっちとしても一方的な証言だけで仲間を疑う訳にはいかねえ。が、今後そういった事が起こらないよう、目を光らせておく。話は以上だな?」


「ちょっと待ってくれ! それだけで「はい、分かりました」にはならねえだろ!? キチンと犯人を特定して——」


「——浜岡ァ! テメエ、仮にその犯人探しをするとして、ちゃんとした証拠はあるんだろうな? まさか佐瀬の証言だけじゃあねえよなぁ?」


「うっ!」


 流石に元柔道強化指定選手とあってか、武藤の凄味に浜岡は言葉を詰まらせた。


 武藤はため息をつくとこう述べた。


「こっちとしてもヤンチャな奴らが多くて手を焼いてんだ。代表なんて立場に座っているが、俺はいちいち全員の行動を管理するような真似はしねえぞ? だからテメエらも勝手にしろ。馬鹿やった奴が出たら遠慮せず痛い目に遭わせてやるんだな」


「そんな暴力的な真似、出来るか!」


 花木が文句を言うと、武藤はニヤっと獰猛な笑みを浮かべた。


「おいおい、ここはもう日本じゃないんだぜ? 誰がどんな権利で馬鹿どもを裁く? 気に喰わない奴がいたら自衛するか逃げるしかないだろう?」


 かなり乱暴な物言いだが、確かにこの男の言う通りなのかもしれない。尤も、この男が逃げを選択するようなタマには見えないが……


「ところで、さっきから気になっていたんだが、そこの白髪と金髪のチビ助共は何だ? もしかして町の人間か?」


 ほう、この男は俺たちの事を“異世界人”とは言わずに“町人”と呼ぶのか。さっきの発言といい、どうやら完全に日本への未練を断ち切っているようだ。ここを自分の住むべき世界と捉えている証左だろう。


「ああ、この可愛い女の子はリトアニアから転移してきた子で……」


 これまで沈黙を保っていた乃木が突如俺たちの紹介を始める。


「……こっちの白いのは佐瀬の彼氏だ」


「「はあああああああっ!?」」


 いきなりな乃木のぶっこみに俺と佐瀬が二人揃って声を上げた。


「ほ、ほほう? そいつは……ちょっと聞き捨てならねぇなぁ……!」


 今まで全く動揺を見せていなかった武藤がここに来て、まさかの態度を見せ始めた。凄い形相でこちらを睨んでいる。


『あー、矢野君。武藤先輩はね、以前彩花に告ってフラれたの』


『乃木ぃいいいい!?』


『あ、ごめん、矢野氏。俺、何かやっちゃいました?』


 どうやら話し合いはもう一波乱ありそうだ。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:あちらの世界にも民主主義的な国はあるのでしょうか?

A:あります

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