第58話 名前付き

 まさかの事態にギルド職員は困った表情を浮かべていた。


「うーん、依頼主まで顔見知りとは……。いえ、これも人徳という事で、評価するべきなんでしょうね」


 サポート役の冒険者だけでなく依頼主も知人とあってか、試験官の職員は少し思うところがあるようだが、知り合った経緯を聞くと納得したようだ。



 今回の任務はカーク商会の馬車を無事目的地であるキャメル村へ送り届ける護衛任務だ。


 キャメル村はここブルタークから西にある田舎村で、近くにはこの国最西端である要塞町フランベールが存在する。


 要塞町フランベールはガラハド帝国領付近にある町で、そこには対帝国守りの要である要塞があるそうだ。


 そこを統治するのは子爵家で、代々帝国軍の侵攻を防いできた由緒ある家柄だそうだ。


 フランベールはその性質上、兵舎や訓練場が多く、当然駐屯する兵の数も多い。ブルターク程ではないにしろ、そこそこ栄えた町だそうだが、どうしても食料の自給率が不足がちなのだそうだ。


 そこで出番なのがブルタークの商人だ。


 町の分だけならともかく、近隣の村までは食糧も行き届かなくなりがちで、そこにカーク商会のような食材を扱う商人が卸しに行くという訳だ。


 その話を聞いた俺は「村で畑を作ればいいんじゃない?」と逆に思ったが、どうもあの周辺の土地は農業に適していないのと、土地柄か兵に志願する若者が増えて農民の数が減少傾向にあるそうだ。


 その点は子爵家も対応しているそうなのだが、色々しがらみも有り遅々として対策が進まないそうだ。


 まぁ、おかみの考えは俺ら庶民には分かりませんな。



 少し長くなったが、西側の事情と今回の商売に関しての背景はこんなところだ。




「それじゃあ参りましょう」


 カークの合図に俺たちは出発した。


 今回のメンバーは俺たち≪白鹿の旅人≫四人とteamコ……もとい≪雷名の炎≫三人、依頼主のカークに御者とお供の奴隷が四人


 そして今回の試験官であるギルド職員が一名と総勢12人の大所帯だ。


 馬車は合計二台で何れもカークの所有するものだ。片方は以前見た簡素な馬車だが、もう一台は屋根もついているしっかりとした造りだ。


 先頭が屋根付き馬車で、御者の席には奴隷の青年と名波が配置していた。彼女の【感知】スキルが今回の肝だ。なるべく視界の広い配置場所という事で彼女自らがその場所を指定した。


 屋根付き馬車の中は四人乗りで、商人カークと奴隷一人、それとギルド職員にココナが座席に座っている。


 一方二台目の簡素な馬車には、御者席に奴隷の男と俺、荷台の端には食材と一緒に佐瀬、シグネ、マルコ、コランコが同席していた。


 ただしマルコたちは基本手出しをしない。軽く助言くらいなら問題無いのだが、魔物や賊への対処は一切放置だ。そこを助言や助太刀された時点で減点対象らしい。


「ふわぁ、長閑だねぇ……」

「そうね。馬車にも大分慣れてきたわ」


 シグネと佐瀬は馬車の後部でのんびりくつろいでいた。一方俺はと言うと————


「——なるほど。手綱はこう持つんですね」


「そうだよ。馬は賢いからある程度は言う事を聞いてくれるし、勝手に道を進んでくれる。でも臆病な馬には注意が必要だよ?」


 性格にもよるらしいが、臆病な馬だと蛇やFランクの魔物を見ただけで取り乱す馬もいるそうだ。するといきなり暴走、なんて事態にもなりかねない。そこは御者の操縦技術でカバーするしかないそうだが、生き物相手に絶対はないと注意された。


 俺は奴隷の御者にあれこれ馬の操縦技術を学んでいた。流石に今回の任務期間中だけで覚えるのは難しいだろうが、知っておいて損はないだろう。



 その後、何回休憩を挟んで一行は順調に進んだ。俺たちは平気でも馬が疲れてしまうので、適度な休息が必要であった。



 初日は何も問題がなく、日が暮れると野営の準備に移った。


「護衛任務の食事は、基本的に依頼主と冒険者は別ですね。人にもよりますが……」


 ギルド職員がアドバイスを送ってくれた。


 食事や寝泊り等は依頼主によって完全に分けたり、逆に行動を共にしたりとケースバイケースだが、今回は顔見知りという観点から、あえて別れるように職員がそれとなく口出しをした。


 カークとしては俺たちと友好を深めたいと考えていたらしく、少し残念そうにしていた。


 一方俺たちは少しほっとした。それというのも……


「お腹減ったぁ!」

「そうね。まさかお昼ご飯抜きとはね……」


 そう、この国の人々は朝夜だけ食事を取り、昼は無しか軽く摘まむくらいがデフォルトであった。開拓村を出てからは俺も毎日昼飯を食べていたので失念していた。


 馬の休憩時間に合わせて店で買った干し肉をかじっていたものの、腹の足しにもならなかった。


 現代人は一日三食がすっかり習慣となっているようだ。


「夜ごはんが別々なのは有難いな。人目を気にせず温かい物を食べられる」


 おにぎりはまた今度の機会で、俺たちはあまり匂いの強くない物をチョイスして夕食を取った。


 ただし、食事が別々とはいえ気が抜けない。護衛任務はしっかり継続中なので、最低一人以上は周囲の警戒をしなくてはならないのだ。


 四人揃っての晩飯とはいかなかったが、俺たちは交代で満足のいく食事を取り、後片付けを始めた。


 どうやらカークたちはマルコたちと食事をしていたようで、向こうも寝る準備を始めていた。


「それでは≪白鹿の旅人≫の皆さん。宜しくお願いします」


「ええ、任せてください」


 ここからが護衛任務の一番辛い所だ。俺たちは当番を決めると交互に睡眠と見張りをすることにした。


 流石に夜警にはマルコたちも参加するが、外敵の索敵や指示出しは全部俺たち側で受け持つことになる。


 最初は佐瀬と名波にお願いして、俺とシグネが睡眠を取る事となった。




「イッシン、時間よ」


「……ん、りょーかい」


 いつの間にか時刻になったようだ。佐瀬と名波が眠そうにしていたので、俺はシグネを起こして彼女たちと見張りを交代する。


 俺が所定の持ち場に着くと、そこにはコランコがいた。彼は斥候職シーカーなのでこういった時には頼もしいのだが、逆に彼に先を越されないよう一生懸命警戒せねばと余計なプレッシャーも掛かってしまう。


 そんな俺の様子を見兼ねたコランコは笑っていた。


「大丈夫ですよ。この辺りは魔物や賊も殆ど出ません」


「……それでも居眠りする訳にはいかないからな」


 だがそれを聞いて少し肩の力を抜いた俺は光魔法【ライト】で灯りを出すと、そのまま近くに浮かせて読書タイムと洒落込むことにした。


「こういう時、光魔法は便利ですね。それは魔法の教本ですか?」


「ああ、街で買ったんだけど、分かるのか?」


「昔、挑戦した事があったんですけど、どうやら私に魔法の才はなかったようです」


 コランコは残念そうに呟いていた。


 暫くすると彼も交代の時間なのか、今度はココナが警戒に就いた。


「あんた、その光ずっと出しているの? 相変わらず、とんでもない魔力量ね」


「相変わらず、下級以上の魔法はノーコンだけどな」


 俺は視線を本から彼女に移すと苦笑を浮かべた。


「あ、それ! もしかして魔法関連の本!? へぇ、あんたガーディー語が読めるのね」


 ガーディーとはこの半島内に普及している通貨の名称でガーディー通貨と呼ばれている。元ガーデ王国から広まったとされる通貨だそうで、恐らくガーディー語というのもガーデ王国の母国語なのだろう。


「……これはガーディー語なのか?」


「あんた、知らないのに読んでるの?」


 訝しげな表情を浮かべるココナに俺は慌てて言い訳をした。


「て、適当に読める範囲を眺めているだけだ! いいだろ、別に……」


「ふーん、要するに格好付けね」


「うぐっ!?」


 なんか俺は、“読めもしない本を澄まし顔で読んでいるフリしている痛い奴”扱いされてしまった。だが今更「スキルで読めます」なんて言うのも無理だし、うぐぐ…………


「ところで、あんたの相棒バディが随分静かだけど、あれ、大丈夫?」


「え?」


 俺はシグネの方を振り向くと、彼女は座ったままこっくり舟を漕いでいた。し、シグネちゃん!?


「……これは減点ね」


「そんな殺生な!?」


 思わず声を荒げるも、あまり騒がしいと依頼主やギルド職員も起きてしまうので俺は声を潜めた。


「俺は起きててちゃんと見張りしてるんだからセーフだろう?」


「うーん、まあそうね。今回は許してあげる」


 試験官でもないのにココナは偉そうであった。どうやらパーティ名を忘れていた事をかなり根に持っているようだ。


(しかし、やっぱ夜営は問題だなぁ……)


 最近俺が懸念していたのは、今後の夜営方法についてであった。


 ダンジョン内はそうそう近くに魔物がリポップする事は無いので安心なのだが、こうした野外だと、何時不測の事態に陥るか分かったものではない。


 それに街中だって決して安全とは言えないのだ。襲撃計画を企てていた≪漆黒の蛇≫の一件もある。夜はなるべく安心してぐっすり眠りたいのだ。


 夜の見張りで居眠りをしてしまったシグネをあまり強くは責められない。彼女はまだ中学生で成長期だ。そんなシグネを夜遅くに見張りに立たせる俺たちがおかしいのだが、そこは前世界とこの世界の事情が違う上に、彼女自らが冒険者の道を目指しているのだから、一概に否定できないところもある。


 そこで俺は、“ファンタジー世界なんだから魔法で解決できるんじゃね? ”という発想に思い至った。


 現時点で考えているのはゴーレムを作って代わりに見張らせる計画だ。


 ただこれが中々難しそうだ。ゴーレム関連の技術はある程度確立されているらしく、既に製造もされているそうだが、操縦ならともかく、自動となるとハードルが一気に上がるのだ。


 それも技術面と資金面、両方ともであった。


 まず技術がまだまだ拙く、自動運転だと“前に進んで停まる”くらいの動作が限界らしい。しかもそのレベルのゴーレムを作るのに、人型サイズにするだけで金貨100枚は飛ぶ計算だ。流石に今すぐ着手するのは不可能だ。


 だが俺はその技術面について、改善の余地があるのではと考えていた。


 まだ触りの部分しか読んではいないが、ゴーレムの基本技術はどうやら、核となる魔石を中心に指令を送って身体を動かすといった単純な仕組みのようなのだ。


 そこに俺は地球現代医学で判明している情報を元に改良できないか考えていた。


 例えば五感等をゴーレムに付加させて反射で自律行動できるようプログラムできないかと思っている。それならいちいち魔石を通さずとも即座に動けるし、なんなら魔石の数を増やせばいいじゃないと、素人考えだが色々アイデアは浮かんできた。


 当然魔石の数を増やせば、なんて浅い考えはこの世界の人間でも既に思いついているのだろうが、何が問題なのかは試してみない事には始まらない。


(どちらにしろ、これは長い実験期間が必要だし、お金も大分掛かりそうだな……)


 俺は一先ず本を閉じると、しばらくシグネを寝かせたまま警戒に集中するのであった。






 護衛任務二日目、予定では午後にはキャメル村に到着となる。


「——っ! 右の草陰から魔物、数は三匹!」


 先頭の馬車にいる名波から声が上がると、俺たちは得物を手に取って警戒した。


 慌てて御者たちはそれぞれ馬車を停止させる。


 俺たちは数時間ぶりの地面に降りて名波が指摘した草むらを睨むと、そこから三匹の狼が現れた。


「ルプスだ!」


 討伐難易度Dランクのルプスが三匹揃って襲い掛かってきた。お目当ては俺たち人間か馬の肉だろうか。多分馬肉の方が美味しいだろうからきっとそっちだろう。


「ほいっと!」

「貰った!」

「——【ライトニング】!」

「ああ!? 出遅れた!」


 俺と名波がサクッと撃退し、最後の一匹は佐瀬の魔法で片が付く。シグネは戦う相手が居らず不満げだ。


「おお! 流石ですね!」


「どうやら戦闘に関しては全く問題がないようですね」


 カークとギルド職員が俺たちを褒め称える。


「カークさん、倒した魔物ですが、どうしましょう?」


「素材は当然イッシンさんたちの物ですよ。解体作業は危険がないようでしたら自由にしてください」


 討伐した魔物の権利は当然倒した冒険者たちにある。ただし今は護衛任務中なので、旅に支障がある場合は解体作業を放棄しなければならない場面もでてくる。


 今回は危険もなく、時間もあるという事でカークさんの許可も得た。俺たちは気兼ねなく解体作業を開始した。


「なんか久しぶりね」


 佐瀬の言う通り、最近は死体の残らないダンジョン探索ばかりだったので、この作業も随分久しぶりに感じられた。


 俺たちは荷物にならない程度の素材を回収し終わると残った遺体を燃やし、残ったモノは馬車道から離れた場所に埋めて再び馬車へと戻ってきた。【ウォーター】で汚れた武器や手を洗うと、これで準備が完了だ。


「死体の処理も問題ないようですね」


 ギルド職員が満足げに頷いていた。


 街道などで倒した魔物の死体は、できるだけ道から外れた場所が望ましい。そうでないと血の臭いで他の魔物を誘引してしまうからだ。


 その為、わざわざ埋める用の小さいスコップも購入していた。本当はもっと大きいスコップもあるのだが、マジックバッグに収納しているので、怪しまれないように使い分けている。対策に抜かりなし!


 今回は人目もあるので小さい方の出番だ。


「では参りましょう」


 一行は再びキャメル村へ進み始めた。




 暫くすると、名波が再び警戒の言葉を発した。


「後方から……人? 四人が凄い速さで来る」


「——っ!? 馬車を止めてください!」


 慌てて御者は再び馬車を止める。


「更に増えてる! これは……馬に乗っているのかな? 六、七人…………」


「おいおい、まさか盗賊団じゃないだろうな?」


 流石の事態にマルコたちも動きを見せた。


 やがて後ろから近づいてくる一団の姿が見えた。どうやら全員鎧を着込んでいるようだ。あれは————


「——違う! 騎馬隊だ!」

「馬車を道の横に!」


 マルコの声にカークは慌てて御者に指示を出した。停まっていた馬車はのろのろ動き出すと、馬車道の端へと寄せていく。そこへ騎馬隊の一団が通過していった。


 全員が鎧を装着していたが、内二名程は色違いの綺麗な白い鎧を着込んでいた。その一人は女性であった。


「——っ!?」

「うわぁ!」

「凄い迫力……!」


 鎧を着込んだ騎馬隊が猛スピードですぐ横を駆け抜けていく。なかなか経験できない事態に、騎馬隊が去っていった後でもシグネたちは興奮していた。


「さっきのは、まさか……っ!」


 そんな中、俺は一人だけ別の事を考えていた。


 一瞬の事だったが彼らとすれ違った際、一人の女騎士と視線があった。彼女は長く青色の髪をした美しい女性であった。


「ケイヤ……まさかこんな所で再会するとは……」



 その名は以前、俺が開拓村にいた時世話になった見習い女騎士であった。






 気を取り直して俺たちカーク商会キャラバンは目的地であるキャメル村を目指した。


 ほぼ予定通りに村へ到着すると、入り口付近には数頭の武装された馬が柵に繋がれていた。村の出入り口にも複数の人影がおり、そこに先程の騎士らしき姿も見えた。


 どうやら彼らとは同じ目的地だったようだ。



 俺たちが村へ近づくと、騎士より少し見劣りした武装の兵士が声を掛けてきた。


「そこの馬車、止まれ! この村には何をしに来た!」


「これは、お疲れ様です。私はブルタークの商人、カークというものです。この村には定期的に野菜などの食料品を卸しておりまして、今日もそれで参りました」


 代表してカークが馬車の外に出て挨拶をする。


 すると兵士の表情が少し柔らかくなった。


「そうか。お前が例の野菜売りか。話は聞いている。そのまま通れ!」


 兵士に誘導される形で馬車はゆっくりと村の中へと入る。俺たちも馬車から降りると、カークの元へ二人の男が近づいてきた。


「ああ、カークさん! 今日も予定通りに来て頂いて、いつもありがとうございます」


「はい、村長。これが私の仕事ですからな」


 どうやら片方の老人はキャメル村の村長のようだ。


 もう片方の男は騎士とは違う、少し立派な鎧を着込んだ兵士であった。そちらの方にはカークにも覚えがないらしく、村長へ疑問の視線を送った。それを察した村長が隣にいる兵士を紹介してくれた。


「こちらのお方はフランベールの副団長様です」


「フランベール西方軍の副団長、オズマだ。貴様が野菜売りの商人だな? 貴様に頼みがあるのだ」


 頼みたいと言いながらもその口調は尊大であるが、この国の上級兵士はどこもそれが当たり前の態度らしく、商人であるカークはにこにこ笑みを浮かべたまま耳を傾けていた。


「しばらく我々西方軍もこの付近で任務に就く為、その分食品を多く卸して欲しいのだ」


「かしこまりました。追加する量は如何程でしょう?」


 カークは詳しい事情などは聞かず、副団長の要請に頭を下げた。面倒事になりそうだと思ったのか、はたまた尋ねても何も答えてはくれないだろうと察したのか、そのまま深入りせずに要望を伺った。


「二十人分だが、村人よりも大食らいが多いので、そこは配慮して貰いたい」


「心得ております。ひと先ずは持ってきた分を全て卸しまして、街へ戻り準備が整いましたら又こちらへと馬車を向かわせます」


「頼んだぞ」


 用件を伝えると副団長オズマは一度だけ俺たちの方に視線を向けると、直ぐにその場から去っていった。


 改めてカークは村長へと事情を尋ねる。


「一体何事ですかな?」


「どうやら危険な魔物が出たらしく、あれよあれよという間に兵士様たちが来られたのだ」


 村長曰く、まず始めに村の狩人がここより北の森で、一匹のオーガを発見したらしい。


 オーガとは討伐難易度Bランクの亜人で、オークみたいに大勢で群れる事はないものの、その強さは一線を画する。


 当然、村の狩人レベルでは手に負えず、すぐに冒険者ギルドに依頼しようとしたらしいが、たまたま見回りに来ていた兵士がいたので、一応その事を報告したのだそうだ。


 そこまで聞いて俺やマルコたち、それとギルド職員は首を傾げた。


(確かにオーガは難敵だろうけど、これがそんな大騒ぎになるレベルか?)


 Bランクの魔物なら、高位の冒険者パーティであれば討伐するのは難しくはない。実際俺たちもBランクの魔物を倒している訳だし、これだけ多くの兵士が動員される理由が思い至らない。


 村長は話を続けた。


「それがオーガといっても変わり種なようで、狩人が姿形を話した途端、兵士様の目付きが変わりましてな……」


「その、特徴とは?」


「うちの者の話だと、頭に角が三本生えていたそうだが——」

「——三本角、ですって!?」


 横で静かに話を聞いていたギルド職員が驚きの声を上げた。どうやら彼には心当たりがあるようだと、村長たちの視線が集まった。


「ごほん、失礼。その魔物はもしかしたら、名前付きネームドの通称≪三本角≫かもしれません」


「「「ネームド!?」」」


 そこまで聞いて俺も初めて事態の深刻さが伺えた。


「ねえ、ネームドって何?」


 佐瀬が俺に尋ねてきた。



 名前付きネームドとは、通常は種族名で呼称される魔物とは別に、特別強く見た目が個性的な魔物の事を指す。


 冒険者や兵士などが何度か討伐を失敗したり、甚大な被害を与えた魔物ほど、渾名や賞金が付くことがある。



 俺が説明すると佐瀬は少し納得したようだが、事態は彼女が想像している以上に深刻だろう。


 冒険者などがその場の勢いで名付けするような雑魚のネームドもいるが、この事態を見るにその≪三本角≫は、恐らく高額な賞金が掛けられている大物だろう。


「≪三本角≫はその名の通り、三本の角が生えたオーガ種です。通常のオーガは二本角ですからね」


 通常種とは違った特徴があるのもネームド条件の一つだ。俺たち人族から見たらゴブリンやオークなんか、どれも全く同じに見えてしまうからだ。いくら強い個体でもそれでは判別しようがない。


「その強さは尋常ではなく、幾つもの村が被害に遭い、B級冒険者パーティも返り討ちにされている危険なオーガなのです」


 ここまで説明して、村長や佐瀬たちもようやく事態の深刻さが分かったようだ。


「冒険者ギルドでも高額な討伐報酬が掛けられている賞金首です。その推定難易度はAランクとされています」


「「「Aランク!?」」」



 余裕だと思われたC級昇格試験がまさかの事態となってしまい、俺は深い溜息が出るのであった。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:あちらでは何歳から成人でしょうか?

A:国や種族によりますが、人族に関しては地球の感覚より少し若いです

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