第55話 ワニサメパニック

「そっちへ回ったぞ!」


 巨大な狼が迂回して後方の佐瀬へ向かおうとしたので、俺は警告を発した。


「させないよ!」


 すかさず名波が佐瀬のガードに入る。巨大な狼の突進は彼女に防げそうもないが、上手く二振りの刃で斬りつけながら躱し、相手の動きを阻害する。


 そこへ佐瀬が魔法を畳みかけた。


「——【サンダーボルト】!」


 佐瀬の新技、中級魔法相当だと思われる雷の弾丸【サンダーボルト】が巨狼の身体を撃ち抜く。


 以前の俺がカプレットダンジョンにて単騎で挑んだBランクの巨狼ギガゼルが苦しそうに身体を屈めた。


 見事に魔法を撃ちこんだ佐瀬は安堵したが、それは少々早かった。


「気を付けろ! そいつの回復能力は半端ないぞ!」


 俺の檄に佐瀬は再び気を引き締めた。


 僅かな間に大分傷が言えたのか、巨狼は再び佐瀬に牙を剥こうとするも、そこへ名波とシグネが挟撃をする。


「君の相手は私だよ!」

「【スラスト】!」


 名波は新たに習得した【走力】スキルの効果か、速さで巨狼を翻弄し、その隙に今度はシグネが新たに得た戦技型の威力系スキル【スラスト】を繰り出した。


【スラスト】を発動して突きを放つと威力が倍増される、刺突系武器の技能スキルだ。


 グオオオッ!?


 再び傷が増え、ギガゼルが痛ましい悲鳴を上げる。そこへ俺が背後から跳躍して巨狼の首に狙いを定めた。


「————【スラッシュ】!」


 斬撃による威力系スキル【スラッシュ】が炸裂した。身体強化と合わせた一撃は流石の巨狼も耐えられなかったのか、首から鮮血を吹き出しながら絶命した。


 しばらく経つと死体が消え、そこでようやく俺たちは警戒態勢を解いた。


「ふぅ、流石にBランクになると手強いわね」


「これで二匹目……思ったより出てこないんだね」


 頻繁にBランク相手の戦闘では疲れてしまうが、31階層に入ってから38階層に辿り着くまで、このギガゼルでまだ二体目なのだ。どうやらそこまでBランクの出現数は少ないようだ。


「ドロップ品出たよぉ! 毛皮とお肉だね」

「Bランクは皆ドロップ品を落とすね。高ランクだとドロップ率も上がるのかな?」

「うーん、狼の肉って美味しいのかしら?」


 三人は慣れた手つきでドロップを回収し、それぞれの武器を手入れしながら会話をしていた。


(俺たちも大分戦い慣れてきた気がする)


 ここに至るまで色々な魔法やスキルを新たに習得した。



 昨夜シグネに鑑定して貰ったステータスは以下の通りだ。




 名前:矢野 一心 ※偽装 ()内が本当のステータス


 種族:人族

 年齢:30才


 闘力:835 (1,235)

 魔力:5,010 (99,999)

 所持スキル 【木工】【剣】 (【自動翻訳】【回復魔法】NEW【スラッシュ】)


 以下、未鑑定

 習得魔法 【ヒール】【キュア】【リザレクション】【ライト】【レイ】【ファイア】【ウォーター】【ライトニング】【ストーンバレット】NEW【ウインドー】




 名前:佐瀬 彩花


 種族:人族

 年齢:19才


 闘力:372

 魔力:4,571


 所持スキル 【自動翻訳】【雷魔法】【放出魔法】


 以下、未鑑定

 習得魔法 【ライトニング】【サンダー】【パラライズ】【テレパス】NEW【サンダーボルト】NEW【ライトニングエンチャント】NEW【ウォーター】




 名前:名波 留美


 種族:人族

 年齢:20才


 闘力:958

 魔力:370


 所持スキル 【自動翻訳】【感知】UP【短剣使い】【双剣】NEW【走力】NEW【弓】NEW【命中】




 名前:シグネ リンクス


 種族:人族

 年齢:14才


 闘力:606

 魔力:1,753


 所持スキル 【自動翻訳】【解析】【風魔法】【短剣】NEW【スラスト】


 以下、未鑑定

 習得魔法 【ウインドー】【ゲイル】【ウインドーバリアー】NEW【サイレント】




 以上が38階層到達時点での俺たちのステータスだ。




 まず俺のステータスだが、闘力が結構増えたので、偽装の数値も若干引き上げる事にした。魔力はそのまま現状維持だ。


 スキルは新たに【スラッシュ】という斬撃を強化するスキルを入手し、近接戦闘に磨きが掛かった。


 ちなみに【スラッシュ】は常時発動するタイプではなく、斬撃をするタイミングで意識して発動させる。


 この世界ではこれらを“技能スキル”と呼称し、【鑑定】なども同じ分類になる。


 逆に普段から自動で発動されるのが“適性スキル”だ。俺の【剣】や【回復魔法】、名波の【感知】など、大半が適性スキルに分類されるそうだ。


 更に付け加えるのなら、スキルは戦技型、魔法型、職人型、万能型などと様々なタイプに大別される。


 そして更に更にスキルは細かく分類され、剣術系、防御系、鑑定系、補助系など多岐にわたる。


(覚えられるか!!)


 俺の【スラッシュ】の場合だと正確な分類は、戦技型・威力系・技能スキルとなるそうだ。ただし、そんなのいちいち覚えている冒険者はいないとギルド職員が笑って話してくれたのを俺は思い出した。


 ちなみに佐瀬の【雷魔法】は魔法型・魔法系・適性スキル、名波の【感知は】索敵型・察知系・適性スキル、シグネの【解析】は情報型・鑑定系・技能スキル、といった具合だ。


 まぁ、技能スキルが任意発動、適性スキルが自動発動とだけ覚えておけばよい。



 それと新たに風属性最下級魔法【ウインドー】を習得した。


 これで俺は最下級だけなら闇属性以外の全属性を習得した事になるが、相変わらず下級以上の魔法を習得できる気配が見られない。回復魔法系は適性スキルの恩恵なのか、フルパワーでも制御できるのだが、それ以外はポンコツのままだ。


 それでも徐々に扱える魔力量が微増しているので、今後の成長に期待したい。




 佐瀬はスキルこそ代わり映えしなかったが、なんと魔法を三つも習得してみせた。


【ライトニングエンチャント】は中級の魔法で、自分や仲間の武器に雷を付属させる強力な魔法だ。これで水属性の相手に後れを取る事はそうそうなくなったと考えていい。


 そして何より大きいのが、パーティ内で初めて中級攻撃魔法だと思われる【サンダーボルト】を習得した事だ。


 雷魔法はレア属性な為、残念ながら詳細は分からないが、威力が明らかに増している事から間違いなく中級魔法だと思われる。中級にもなると王国軍の戦力としても一線級らしく、冒険者の中でも高位ランクのものしか習得していないと聞いている。


 先程のギガゼル相手には仕留めきれなかったが、実はあの巨狼は土の加護持ちだったのだ。相性の悪い属性相手でもあれだけの威力なのだから、やはり中級魔法は格が違う。


 それと水魔法の最下級魔法【ウォーター】も習得した。彼女にとっては雷属性以外の初習得とあってかなり嬉しそうだ。


 だが佐瀬が嬉しがっている本当の理由は、やはり風呂やトイレ事情だろう。今後好きな時に自分で水が出せるとあってか彼女は小躍りしていた。名波とシグネが恨めしそうにしていたのが印象的だ。




 名波は今回、ステータスが一番飛躍した。


 まずは闘力が激増し、いよいよ千の大台が見えてきた。うかうかすると俺も抜かされそうだ。


 それとスキルもかなり増えた。その数三つ!


 まず【走力】だが、これはどうやら常時発動しているようなので適性スキルのようだ。動きが更に機敏となった。


 それと遂に【弓】スキルを習得した。


 ダンジョン内が洞窟ばかりで余り活躍の場は無いが、ここにきて彼女の腕前が急上昇した。それというのも【命中】スキルも同時に習得したからだ。


 これもどうやら適性スキルのようで、弓だけでなく、短剣の投合もまず外さない。プロ投手顔負けのコントロールを身に着けていた。貴方の急所にストライク!


 ただ、これだけで終わらないのが彼女の凄いところだ。


 なんと所持していた【短剣】スキルが【短剣使い】に昇格したそうなのだ。


 最初は俺たちも気が付かなかったのだが、明らかに名波の短剣捌きが上昇しており、再度シグネに鑑定して貰った。すると【短剣】が【短剣使い】に少しだけ表示が変化している事に気が付いた。


(紛らわしすぎるだろう!?)


 どうやらスキルがレベルアップしたようで、彼女の双剣術はより習熟されたものと成った。最早近接戦闘だけなら闘力が上の俺でも勝てるか怪しい。


 ただし魔法は相変わらず未習得であった。彼女は半分諦めたのか、悟ったような眼をしていた。




 最後にシグネだが、彼女もレイピア主体となってからは闘力がメキメキ上昇していった。ダンジョンを移動する際は闘力の差が原因か、佐瀬一人だけ歩くのが遅れがちで、ひぃひぃ「置いていくな!」と文句を垂れているほどだ。


 佐瀬も少しは近接戦闘を経験した方がいいのかもしれない。



 シグネの話しに戻るが、彼女は俺と同じく戦技型・威力系・技能スキルを身に着けていた。


 その名も【スラスト】


 これは【スラッシュ】の刺突版で、突きを放つ際にスキルを発動せると、貫通力を向上させる優れものだ。


 これにより、余程の硬度でない限り彼女の剣は魔物の装甲を貫けるのであった。



 それと攻撃魔法ではないものの【サイレント】という変わった風魔法を習得した。


 これは周囲に防音効果のバリアーを張る補助魔法で、下級ではあるものの、なかなか便利な魔法であった。


 特に洞窟型ダンジョンのような音の響く環境下では、戦闘音が木霊すると近くにいる魔物も誘引しかねないので、そういう時には重宝されるありがたい魔法だ。


 風魔法はこのような便利な補助魔法が多いと聞いているので、パーティ戦闘では大変貢献度の高い属性魔法なのだ。



 以上が現状の俺たちの戦力だ。


 流石難易度の高いダンジョンだけあって、その分鍛錬も捗る捗る。この勢いで更に上を目指して進んでいきたい。




 俺たちは38階層も難なく突破し、遂に39階層に足を踏み入れる。今日で9日目の探索だ。時刻はまだ午前中なので、このペースなら今日中に40階層に辿り着き、ブルタークの街へ帰るのも十分に可能だ。


「……魔物、いないね」


 しばらく進んでみても、この階層には全く魔物の姿が見られなかった。


「んー、進路方向にも全然いなさそう。脇道に外れればいるけど、どうする?」


 これまでの探索傾向から、このダンジョンはそれ程入り組んでいないので、大体大きな道を真っ直ぐ進むのが最短距離っぽいのだ。わざわざそれを外れてまで魔物を探す意味はないだろう。


「いや、このまま階段を探そう」


「そうね。多分私たち以外の冒険者が先行しているのかもね」


 佐瀬の言う通り、その可能性は高そうだ。他の冒険者が魔物を倒しているから数が少ないのだろう。



 しばらく名波誘導の元ひたすら道を歩いていると、彼女はピタリと足を止めた。


「奥から六人、誰か来る」


 彼女が魔物の反応を察知した際には何人ではなく、何匹と表現をする。つまりは同業者という事だ。


「皆、警戒しつつも武器は抜くなよ? それと佐瀬、【テレパス】の用意をしてくれ」


「「分かった!」」

『OKよ!』


 三人がそれぞれ肉声と念話で伝えてくる。


(しかし六人、か…………)


 俺たちが警戒する中、謎の六人組はまっすぐこちらに歩いて向かっているらしい。


 やがて姿が確認できるまで近づくと……


「おや、君たちは……」


「≪千古の頂≫の……ヘルマンさん?」


 彼らは以前、開拓村での騒動で仲裁? を買って出たC級冒険者パーティ≪千古の頂≫であった。


(反応が六人という時点で、そうじゃないかとは思っていたが……)


 どうやら予想が的中したようだ。


「君たちも戻って来ていたのか」

「おいおい、もう39階ここまで上がってきたのかよ」

「とんだルーキーね……」


 彼らとはブルタークに戻る際に同行し、多少は気心が知れた面子だったので、佐瀬たちは警戒を解いたようだが、俺は疑問を感じていた。


(何で彼らが39この階で戻ってくる? 40階でボスを突破して転移陣を使った方が早いだろうに……)


 このダンジョンを多少でも探索していれば、今自分たちが進んでいるのか、それとも戻ってしまっているのかは大体把握できる筈。ここの常連である彼らがそれを間違う筈は無いのだ。


 現に魔物が少ないのは彼らが討伐して進んだ結果だろう。それが何故引き返して来たのか俺にはその理由が分からなかった。


 俺が黙っていると、彼らのリーダーであるヘルマンが顎に手を当てながら考え事をしていた。


「ふむ、彼らとならば…………いけるか?」


「……?」


 やがてヘルマンの中で答えが出たのか、顔を上げて俺たちに話しかけた。


「ひとつお願いがあるのだが、聞いて貰えないだろうか?」


「内容にも依りますけど、何です?」


 当然だとばかりにヘルマンは頷くと話を進めた。


「実はこの先、40階層のボス部屋を覗いたんだが、どうにも我々だけだと被害が出そうでね。恥ずかしながら、引き返している途中なんだよ」


「ああ、成程」


 漸く合点がいった。どうやら彼らはボス部屋の中にいる守護者を見るなり、これは厳しそうだと判断して引き返してきた途中な訳か。


 そこで俺はようやく警戒を解いて、しかし再び疑問が沸いたので尋ねてみた。


「……失礼ですが、C級の貴方たちが勝てない相手なんですか?」


「うーん、倒せはするだろうけど、苦戦は強いられるだろうな」

「ポーションを無駄に使いたくないしね」

「ああ、あれは相性が悪すぎる……」


 彼らはC級パーティとしての矜持はあるものの、それで怪我をしてはつまらないという冷静な判断力も持ち合わせていた。ポーション代だって馬鹿にはならない。大怪我を負えば赤字は確実だろう。


 その辺りの引き際は流石C級といったところだろうか。


「君たちはビッグジョーとウィンドシャークという魔物は知っているかい?」


「ビッグジョーは知りませんね。ウィンドシャークは聞いたことがあるので分かりますが……」


 確か他の冒険者から聞いた話だと、ウィンドシャークはCランクの魔物で、なんと空を飛ぶ鮫だそうだ。


 B級映画にでも出てきそうな魔物だが、魔法が跋扈する世界なので、水棲だとか重力だとか、そんなのは一切お構いなしだ。


 (これだからファンタジーってやつは!)



 俺が知りえる情報を話すとヘルマンは頷いた。


「概ね合っている。それとビッグジョーは大型のわにタイプの魔物だ。知っているかな、ワニ。川などに生息していて、口が大きい肉食動物なんだが」


 この世界には動物園や動物図鑑が普及している訳ではないので、一般人は生活に関係ない生き物の事なんかはほとんど知らない。その点、冒険者たちは彼らの生息域にも足を踏み入れるので、動植物に詳しかったりもする。


「ええ、知っていますよ。そいつの討伐難易度は?」


「Cランクだ。ビッグジョー単体なら問題ないのだが、取り巻きのウィンドシャークがどうにも苦手でね……」


 どうやら40階層のボス部屋はCランクの魔物が複数いるタイプのようだ。メインはビッグジョーなのだが、彼らが危険視しているのは、取り巻きのウィンドシャークの方らしい。


「あいつらは空を飛ぶ上に、名前で勘違いされがちだが水の加護を持っているんだ。だから火や水の魔法は効果が薄い。その代わり、彼女の雷魔法なら相性がいい筈だ」


「納得しました。つまりは共闘という事でしょうか?」


 俺の問いにヘルマンは笑みを浮かべた。


「察しが良くて助かるよ。もし、君たちが一緒に戦いたくないと言うのなら、それならそれで構わない。ただボスを撃破し終わったら、一度俺たちに声を掛けて貰えると転移陣が使えるから助かるんだけどね」


 ヘルマンたち≪千古の頂≫の提案を受け、俺たちは相談する事にした。


「俺はこの話を受けたいと思う」


 確かに俺たちは色々隠したい事情があるが、今後はそういかない事も増えてくると思う。それなら一度、ある程度信用の置ける者たちと共闘するのも有りだろう。


 それにC級冒険者の実力や戦い方を学べる良いチャンスでもある。俺たちだけで戦うのは何時でも出来るので、ここは是非とも挑戦してみたかった。


「「異議なし!」」

「私もOKよ」



 話し合いの結果、俺たちと≪千古の頂≫による40階層ボス攻略共同作戦が始まった。



 彼らの案内であっさり40階層のボス部屋前に到着すると、一度作戦内容を確認した。


「それじゃあビッグジョーは俺たちに任せてくれ。代わりに君たちにはウィンドシャークの相手をお願いする。報酬はパーティ毎に山分けで問題ないか?」


 パーティ合同依頼としては一番オーソドックスな分配形式だ。それだけ俺たちを同格と見てくれているのだろう。


「ええ、大丈夫です。それと俺は簡単な回復魔法なら使えます。緊急時でなければ、ポーションを使う前に一度相談してみてください」


「おお! それは助かるよ!」


 話を聞く限り、彼らはポーションを節約しているそうなので、ちょっとサービスしておいた。普段は【回復魔法】スキルを隠匿しているが、別に適性スキル無しでもヒール習得者はいるので問題ないだろう。



 準備を終えた俺たちがボス部屋に突入すると、情報通り中央付近にある地底湖の中から巨大なワニが顔を覗かせた。思っていた以上に大きい。その周囲にはウィンドシャークの姿が四匹見受けられる。一人一匹で丁度良い数だ。


「折角だから、私は弓を試すよ!」


 ここのところ近接戦ばかりだった名波は弓へと持ち替えた。シグネも久々に魔法を準備する。ウィンドシャークという名前だが、奴は風ではなく、水の加護持ちらしいので風魔法も通る。とんだ名前詐欺だ。


「私は当然雷魔法ね!」


「……俺はどうしよう?」


 俺も一応【ライトニング】を扱えるのだが、あまり大っぴらにしたくはない。流石にこんな希少属性持ちが二人もいると周囲の視線を集めてしまうだろう。


「ま、あの程度ならジャンプすれば届くかな?」


 無理そうなら佐瀬が一匹片づけるまで粘ればいいだけだ。


「行くぞ!」


 ヘルマンが声を上げると、まずは大きな盾を持った戦士、ラードンが突撃した。彼の戦闘スタイルは大きな盾で身を隠しつつ、ショートソードで切り結ぶ形のようだ。


「——【アイスバリアー】!」


 女魔法使いのアンナが魔法名を言葉にすると、ラードンの身体が薄い青色に輝いていた。これが以前シグネに教えてくれたバリアー系魔法なのだろう。ということは、これで彼に水耐性が備わった訳か。


 ガアアッ!!


 ワニは大きな口を開け、どうにかラードンを噛み砕こうと試みるも、魔法の効果もあってか守りを崩せずにいた。


 そこへ、ヘルマンを筆頭に残り三人の前衛職も距離を詰める。


 女槍使いのポーラが横からワニの頭に槍を突き刺すと、その合間を縫って矢が飛んできた。男弓使いのミケールが放った矢は、寸分違わずワニの目を貫いた。


 グアアッ!?


 堪らず悲鳴を上げる。ビッグジョーは水の中へ引き返そうと後退するも、そこへ男剣士グエンが前へ出た。


「逃がすか! 【脚力強化】!」


 彼がスキル名を唱えると、あっという間にワニの進路へ回り込み、もう片方の目を斬り割いた。


(あれは、確か【走力】の技能スキル版ってやつか!?)


 名波の【走力】が常時発動なのに対し、強化型・能力系・技能スキルの【脚力強化】は一瞬しか効果が出せないものの、速度の上昇効果は後者の方が上だ。


 いよいよビッグジョーに後がなくなると、トドメはやはりこの人、大剣持ちの鎧男ヘルマンだ。


「——【スラッシュ】!」


 俺の剣よりも二倍以上はある大剣から繰り出される【スラッシュ】は凄まじい威力で、ビッグジョーは頭部を切断されるとそのまま動かなくなった。


 流石C級、大型のビッグジョー相手でも単体なら瞬殺な訳だ。



 彼らが見事ビッグジョーを討伐したタイミングで、丁度こちらもウィンドシャークを一掃できた。


 え? 俺は何してただって? 彼らの戦闘を見ながらウィンドシャークにピョンピョンチクチク攻撃していたら、佐瀬があっという間に倒してくれました。


「ふふ、ウィンドシャークがあっという間に全滅とは、流石だね」


「そちらこそ、お見事です」


 ヘルマンからお褒めのお言葉を頂いたが、実質何もしていないに等しい俺に佐瀬が白い目を向けていた。だって彼らの戦い見たかったんだもん!


「それで、我々の戦い方が何かの参考になったかい?」


 あちらも俺の視線には気が付いていたらしく、俺は苦笑しながら適当に返事した。



 こうして初共闘戦はあっという間に閉幕したのである。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:あちらの世界は誕生して何年くらいなのでしょうか?

A:お答えできません

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