第52話 安寧の代償

「遅いぞ! 何時まで待たせるんだ!」


 ローブ男の後を追い、古い建物の窓から様子を伺うと、内部から男の怒鳴り声が聞こえてきた。


(あの男は、どこかで……)


 怒っている青年の姿を見た俺は、ふと記憶の片隅に引っかかるものを感じた。


『あいつ、カプレットの町で例の冒険者を探していた商人じゃない?』


 佐瀬の念話で俺は完全に思い出した。


 確か俺たちが殺した冒険者パーティ≪黒竜の牙≫の行方を追っていた商人だ。名前をヘンリックと言っただろうか、何故かシグネの鑑定を弾いた謎の男であった。



「あいつら、一度宿に戻った後、またすぐに出掛けたんだよ! 一応確認しようとさっきまで後をけていたんだ」


 ローブ男は自称商人の青年に言い訳をしていた。


『あ、今は鑑定できる! 名前は“パトリック”、闘力は……402!? 魔力は150だって!』


 思ったより高い数値に俺たちの間に緊張が走る。だが十分倒せる範囲内だ。闘力だけでも佐瀬以外は全員が上回っている。


 しかし、なぜ今は鑑定出来るのだろう? シグネのスキルが【解析】に昇華したからか、それとも偽装系の仕掛けを使っていないだけなのか……後で考察してみたい。


 だが、今はそれよりも気になることがあった。


『あいつ、確かヘンリックって名乗ってたよな?』


『うん、間違いないよ。やっぱり偽名だったんだね』


『闘力も高いし、商人ってのも怪しいわね』


 俺たちは何時でも戦える準備をしながら様子を伺っていた。


 どうやら室内には合計三人いるようだ。商人と偽っていたパトリック、尾行者のローブ男、それとガタイのいい男がもう一人いた。全員のステータスを確認してもらったが、あの中ではパトリックの闘力が飛びぬけている。口ぶりからしても恐らく彼がリーダーだろう。


「なに? 連中は今、宿の方にいるんだろうな?」


「ああ、住宅街の肉屋の近くにあるボロ宿だ。あそこなら警備もザルだし問題ねえ」


「……ふむ、≪黒星≫は当てにならんだろうし、今夜にでも襲撃するか? それとも、もうしばらく……」


 こくせい? 話の内容からして人か団体名だろうか?


 しかしいよいよ物騒なワードが飛び出てきた。


『あいつら、やっぱり私たちを狙っているようね!』


『でも、なんであの人たち、私たちを狙ってるんだろう?』


『前に話したと思うけど、あの人たちが探してる≪黒竜の牙≫って冒険者たちが私たちに襲ってきたから返り討ちにしたの』


『あ、そっか! 敵討ちに来たんだね』


 あいつらがそんな殊勝な性格だとは思えないが、あの一件で俺たちが狙われているのは確かだろう。冒険者同士が徒党を組んで結成されるというクランの同輩なのだろか?


「なあリーダー! ≪黒星≫なんかいなくても、俺たちだけでやっちまおうぜ! 次の仕事はどうしたって≪隠れ身の外套≫が3着は必要なんだろう?」


「油断するな。恐らくあいつらは“牙”だけじゃなくて“霧”も始末してるんだ! 正面から戦えば俺たちでも分からないぞ!」


「け、あんなガキに小娘ども。大した事ねえって! どうせ”霧”も油断したんだろうさ!」


「ま、寝込みを襲えば余裕だろう」


 リーダーであるパトリックは慎重そうだが、他の二人は放っておけば今日中にでも襲い掛かってきそうな勢いだ。


『“牙”って≪黒竜の牙≫の事よね? “霧”は透明マントを着ていた三人組の事?』


『多分な。ギルド証には≪黒山の霧≫って書いてあったから間違いない』


 俺は以前森の中で死体を処分した際に、連中の所持品を一通り確認していた。そこには所属しているパーティ名も記載されていた。あの連中が”牙”と”霧”なのだろう。


「……分かった。それなら今夜決行だ。ただし、何人かは生かしておけよ? ≪隠れ身の外套≫の確保が最優先だが、一応あの馬鹿どもの行方も聞き出したいからな」


「よっしゃあ! 勿論だぜリーダー! あんな上物、すぐ殺すのは惜しいからな!」


「くく、今夜が楽しみだぜ」


 どうやらよからぬ事を考えている連中の会話に、女性人たちの表情は険しくなった。


『……そろそろ倒しちゃわない?』


『うん、やっちゃおう!』


 佐瀬と名波は今すぐに暴れたい気分なようだ。


 俺はシグネに視線を送ると、最終確認をした。


『シグネ。前にも話したと思うけど、俺たちは止むを得ず人を殺している』


『う、うん……』


 彼女をパーティに迎え入れた後、この世界がどれだけ危険なのかを理解してもらう為に、過去の刃傷沙汰については一通り説明をしていた。


『今後も恐らくこういった事が起こるかもしれない。別に無理して人を殺せとは言わないが、躊躇った所為で仲間が傷つくのは御免だ。だから俺は……今回も相手を何人か殺す!』


『——っ!?』


 俺がはっきり言葉にすると、シグネは息を飲んだ。


『迷いがあるのなら、このまま外で待っていろ。できれば俺も君に手を汚して欲しくはない。ダリウスさんたちにも顔向けできないしな』


 俺が優しく諭すように語り掛けると、シグネは少しだけ俯いた後、顔を上げた。


『……私も戦うよ! その、相手を殺す覚悟は……まだないけど、それでもイッシン兄たちを守りたいから!』


『……すまん、正直助かる。でも、無茶だけはするなよ?』


 風魔法であれば殺傷能力も低いので、制圧には向いているのかもしれない。だが、シグネには悪いが俺は三人を殺す気で相手をするつもりだ。手加減をする理由は無いし、生き延びられて色々俺たちの情報を領兵にでも話されたら厄介だ。


『よし、行くぞ!』


 そう声を掛けると、俺だけマントを脱いでそれを名波に渡し、堂々と正面玄関から侵入した。


「――っ!? 誰だ!」

「テメエは……白髪のガキ!?」


 まさか標的自らやってくるとは思っておらず、男たちは驚いていた。


『向こうが手を出すまで、まだ動くなよ? ギリギリまで情報を絞り出す』


 俺は念話で佐瀬たちに待つように話しかけると、三人の男たちに対峙した。


「よお、こんな所で何の相談だ? どこかに夜襲をしかけるって聞こえたんだけどなぁ」


「ち、聞いていやがったか。テメエ、後をつけられたな?」


「す、すまねえ。リーダー……」


 パトリックは舌打ちして仲間を非難すると俺に語りかけた。


「よお、坊主! 他の三人はどうした? お前一人だけか?」


「お前たち三人相手するのに俺一人で十分だ。仲間は宿で休んでいるよ」


 俺が不敵に笑うとパトリックから笑みが消えた。


「他の仲間も近くにいる。もしかしたらマントで透明になっているかもしれない。注意しろ!」


「ちぃ!」

「わ、分かった!」


『『『——っ!?』』』


 流石に≪隠れ身の外套≫を知っているだけあって、こちらの作戦を瞬時に見抜かれるも、それでもこちらの優位は揺るがないと気を引き締め直す。佐瀬たちも我慢して待機していた。


 それにしてもコイツ、俺が質問に答えた直後に周囲を警戒し始めた。それに指示にも迷いが無い。どうやら以前予想していた虚偽が分かるスキル、ないしはマジックアイテムを所持している可能性が高い。シグネの鑑定だと、こいつはスキル【剣】しか習得していないので、多分マジックアイテムの方だ。


 ここはひとつ鎌をかけてみるか。


「そんなにビクビク警戒しなくても、お前らなんか俺一人で十分だ。あのこくせい・・・・も大した事なかったしな」


「な!? テメエ、まさか《黒星》も!?」

「B級冒険者だぞ!? テメエみたいなガキが……っ!」

「——馬鹿野郎! こいつの出鱈目だ! 乗せられるんじゃねえ!」


 はい、情報提供ありがとうございます! まさかこんな手に引っ掛かるとは思いもしなかった。しかし、こいつらの他にもまさかB級冒険者にお仲間がいるとは……少し厄介だな。


「クソが! 騙しやがって!」


「あれれぇ? どうして嘘だと思うのかな? もしかして、嘘でも見破れるマジックアイテムなんて、持っているのかなぁ?」


 俺の言葉に手下二人の視線が自然とリーダーの方に向く。はい、これも確定っと。


「……もういい。こいつは始末しろ! どうせ女共も釣られて姿を見せる!」


 パトリックが命令を下すと、手下二人は動こうとした瞬間——一人が吹き飛び、もう一人は痙攣した後に倒れた。


「うわぁっ!?」

「んぎゃああああっ!?」

「——な、なにぃ!?」


 シグネの風魔法と佐瀬の雷魔法による先制攻撃で、あっという間に孤立したパトリックは思わず足を止めた。その隙を逃さず俺はパトリックに剣を振るう。


「——くそガキ共がぉ!」


 一瞬視線を切らしたとはいえ流石にこちらを警戒していたか、パトリックは俺の一撃を危なげなく防ぐ。


「舐めるな! 小僧ぉ!」


 それどころかこちらに反撃して一度間合いを取ると、懐からポーションを取り出して電撃で倒れている仲間にそのまま叩きつけた。


 瓶が割れポーションで身体を濡らすと、なんと気絶していた男が目を覚ました。


「う、うーん……」


「何ぼさっとしている! 早く起きて女を始末しろ!」


 驚いた事にポーションは飲むだけでなく、ああいった使い方もあるようだ。


(傷口に掛けても効果があると聞いてはいたが、あんな雑な使い方でも効き目があるのか!?)


 完全に目を覚ました男は自分に雷魔法を浴びせた佐瀬に怒りの炎をたぎらせた。


「このクソアマがぁ! ぶっ殺す!」


 佐瀬が再び雷魔法の準備に入ろうとすると、そこへ割って入ったのは、ギリギリまで透明になっていた名波であった。


「ぐげっ!?」


 名波は佐瀬に向かってくる男の喉元を短剣で一突きすると、すぐに弓に持ち替えて、今度はシグネに吹き飛ばされた男に矢を放った。


 いつの間にかシグネに迫っていた男も同じく喉に矢を貫かれて絶命した。


(名波、ナイスだ!)


 初めての修羅場に緊張気味のシグネと、殺し合いに躊躇している佐瀬のカバーを彼女は完ぺきに熟して見せた。


 確かに俺たちの実力ならこの連中を生かして制圧する事も可能だろうが、さっきのポーションのような不意打ちも考えられる。予期せぬ事で仲間を危険に晒すくらいなら、俺も手を汚す事を躊躇わない。


(……いや、偽善だな。俺はただ単に、こいつらを生かして帰したくないだけだ)


 俺たちには何かと秘密が多すぎる。こいつらを捕らえて兵舎に突き出しても、最悪今度はこちらが領兵と事を構える形になるかもしれないのだ。


 俺たちの安寧の為に殺す。きっと名波も同じ気持ちなのだろう。あの時佐瀬を死なせた俺たちは、他の二人よりも少しだけ覚悟を決めていた。


「ち、畜生! こんな筈は……っ!」


 パトリックも俺の半分以下の闘力でよく善戦した。【剣】のスキルもそうだが、それ以上に戦闘の経験が豊富なのだろう。


 だが、今度はお前らが俺たちの経験値かてとなる番だ! どうせ今までも自分たちの都合で何人も手を掛けてきたんだろう?


「ぐふっ!?」


 俺は力任せに相手の剣を弾くと、返す刃でそのまま喉を斬り割いた。名波に倣って悲鳴を上げさせないよう狙ってみた。どうやら上手くいったようだ。


 パトリックも倒れ、この場には俺たち四人だけが立っていた。シグネは……顔を真っ青にして震えていた。無理もない。


「……名波、そのまま透明マントで二人を連れて先に宿へ戻ってくれ。今日は念の為、さっきのボロ宿の方な」


「……うん、分かったよ」


 この中で一番落ち着いていそうな彼女に佐瀬とシグネを任せる事にする。


「……イッシンは、どうするの?」


「俺は後始末だ。ああ、無理をするな。手伝わなくていいから、今日はゆっくり休め」


 佐瀬が俺を手伝おうとしたので止める。そんな青い顔をしたまま無理しても、精神がもたないだろう。


 俺がやんわり説得すると彼女は頷いた。


「……分かった。ごめんね」


「謝る理由はどこにもないよ」


 寧ろこんな血みどろな状況に巻き込んだのはこちらの方だと言いかけたが、あえて口にはせず、俺は手を振って彼女たちを見送った。


「……さて、まずは所持品を調べるか」


 仏の荷物や装備品を物色する様はまさしく野盗のそれだ。本当はシグネの【解析】スキルがあれば便利なのだが、流石にあんな顔をした彼女に頼むのは酷だろう。


 俺は男たちの身ぐるみを剥すと、怪しそうな物を片っ端から調べていった。


「この指輪は怪しいな。この腕に巻いている布は……お、布の下になんか着けているな」


 俺はパトリックから腕輪のような物を取り外した。布で巻いて隠してあるのが尚更怪しい。


(成程、こういう隠し方もアリか)


 鑑定スキルは基本、視えないモノには効果がない。結果だけ見ればこいつらは、俺の為になる情報を色々と与えてくれた訳だ。


(ん? こいつが持っているのは、もしかして≪隠れ身の外套≫か!?)


 まさか、もう一着補充できるとは思ってもみなかった。


 こいつらも尾行するなら透明になればいいのにと思うが、逆にローブ男が【尾行】のスキルを持っているからこそ、こっちのガタイのいい目立つ男の方が所有していたのかもしれない。


 どの道、【感知】持ちの名波には透明でも存在を気付かれるだろうが、最早後の祭りか。


 更に物色すると、ポーションや短剣、それに怪しい薬まで出てきた。それと冒険者証も発見した。


「三人ともC級か。パーティ名は≪漆黒の蛇≫……また“黒”が付いているな」


 もしや“こうせい”とやらも“黒せい”なのだろうか? まさか“黒”が付くパーティ全てが同じグループではないよなと俺は考えながらも、次はこの遺体をどうしようかと考えた。


「……ま、とりあえず収納しておくか」


 俺はマジックバッグで三人の遺体を収めると、早速新たな≪隠れ身の外套≫を使って透明なまま宿へと向かった。


 部屋に近づくと、どうやら【感知】で気が付いたのか、名波が扉を開けて出てきた。


「……矢野君?」


「正解。良く気が付いたな」


 【感知】で気付かれたらしい。俺は透明マントの効果を切ると姿を現した。


「それ、どうしたの?」


「連中がもう一着持ってた。二人は?」


「シグネちゃんは寝ちゃったよ。彩花も横になってる」


「そうか。名波も無理するなよ?」


 二人も心配だが、俺は二人も直接手を掛けた名波が一番心配であった。


「……大丈夫。気分は悪いけど、無理はしていないから」


「そっか……すま…………いや、ありがとうな」


 俺は「すまない」と謝ろうとしたが、代わりに礼を言った。いくら言葉で取り繕うが、俺も名波も人殺しだ。だから俺だけでも彼女の行いを肯定しようと考えた。


「矢野君もね。事後処理、お疲れ様」


 そう言った彼女の笑顔は普段通りであった。






 翌日、何時もより遅めに活動を始めた俺たちは、再び西にある人気のない場所にやってくると、昨日の冒険者たちから得た装備品をシグネに鑑定してもらった。


「おお! これもマジックアイテムだね! すごい!」


 シグネは腕輪を見ながらニコニコしていた。どうやら一晩経ってシグネも佐瀬も吹っ切れたようだ。


 連中は後ろ暗い事を専門とする冒険者だったのか、その所持品もそれ関連の品が多かった。



 以下が、彼らの持っていたマジックアイテムだ。




名称:審議の指輪


マジックアイテム:希少レア


効果:相手の嘘を見破れる

嘘をついている相手に反応して腕輪が軽く振動をする。ただし本人が嘘をついていると認識していなければ動作しない




名称:偽りの腕輪


マジックアイテム:希少レア


効果:ステータスを偽装できる

本人の意思で自由に書き換え可能。偽装中は魔力を消費する。高位の鑑定スキルや等級が上位のマジックアイテムでは誤魔化せない




名称:不視のイヤリング


マジックアイテム:希少レア


制作者:オリゴン


効果:着用者への鑑定を妨害する

偽装中は魔力を消費する。高位の鑑定スキルや等級が上位のマジックアイテムでは誤魔化せない




 秘密の多い俺たちにはどれも便利なアイテムである。パトリック君、本当にありがとう!


 だがそれ以外の所持品については少々扱いに困ってしまう。


 三等級ポーション、二等級ポーション、商人ギルド証、痺れ薬、眠り薬、毒薬、麻薬、etc.


「……物騒な物ばかりね」


「商人ギルド証の登録は“ヘンリック”なんだね」


「ああ、冒険者証も偽名だったぞ」


 話し合いの結果、麻薬は処分して、それ以外の品は一旦マジックバッグにしまっておく事にした。どうせいくらでも収納できるのだから、何かの為に取っておくことに決めた。




 次に議題となったのが、手に入れたマジックアイテムを誰が所持するかだ。


 まず嘘を見破るという≪審議の指輪≫だが、これは佐瀬が身に着ける事にした。


 最初は何かと交渉ごとに立たされる俺が持つべきという意見もあったが、もし嘘があった場合、こっそり念話で相談や通達できる【テレパス】持ちの佐瀬が適任だろうという事で彼女に身に着けて貰う事にした。


「……この指輪、ださくない?」


 死んだ男の指輪をはめるという行為に抵抗感があるようだ。


「手袋をはめるとか、あるいは身に着けずに持っているとかならどうだ? あいつも鑑定対策なのか、指にはめずポケットに入れていたぞ?」


「……成程」


 渋々納得してくれたようだ。


 指輪も所持さえしていれば正常に機能する事が判明したので問題なさそうだ。



 次に≪偽りの腕輪≫だが、これは満場一致で俺が身に着ける事となった。


「あんたの魔力数値は隠した方がいいでしょう」

「「異議な~し!」」

「……お、おう」


 とりあえず魔力量を5,000辺りにしておいて、闘力も少しだけ下げておいた。スキルも舐められない程度に誤魔化して、以下のように偽装してみた。




 名前:矢野 一心  ※偽装 ()内が本当のステータス


 種族:人族

 年齢:30才


 闘力:673 (973)

 魔力:5,010 (99,999)


 所持スキル 【木工】【剣】 (【自動翻訳】【回復魔法】)




【木工】は隠す理由が無いし、【剣】くらいはあってもいいだろう。魔力は大幅に落としてもかなり高めだが、なんとなく佐瀬の数値より低くしたくなかった。


 闘力も-300にしておいた。仮に敵対者に視られても、これで計算違いをしてくれるなら儲けものだ。もっと低くしてもいいのだが、あまり下げ過ぎても舐められるだけなので、このらくらいにしておいた。




 最後に≪不視のイヤリング≫だが、これは誰に着けるかで少々揉めた。


 効果は鑑定を妨害するという能力なので、既にステータスを偽装している俺は辞退した。名波も不要という事で佐瀬とシグネが候補になったのだが、お互いが相手に必要だと主張するのだ。


 佐瀬は希少な雷魔法を習得しているので、あまり周りに知られたくはない。一方のシグネも大変貴重な【解析】の使い手だ。情報収集という点においては正に要となるスキルだろう。


 どちらも伏せておきたいが、最終的にはシグネにイヤリングを着けて貰う事にした。


 既に佐瀬は開拓村の一件で雷魔法を使って大暴れしているし、隠す事によって使いにくくなるのは逆にマイナスだ。


 それならいっそ、情報をオープンにして佐瀬には思う存分雷魔法を使ってもらおうと方針転換することにした。


「ありがとう、サヤカねえ!」


 イヤリングを受け取ったシグネは笑顔だったが、一方の佐瀬はホッとしていた。どうやらイヤリングのデザインもお気に召さなかったらしい。


 こうして俺たちは思わぬ形で情報戦においても強化する事ができた。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:転移先に水や食料は十分にあるのでしょうか?

A:そう困らない場所に転移させるつもりです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る