第51話 第四回検証会

「貴方たちとは、今後とも良い関係でいたいわ。それじゃあね、シグネちゃん」


「うん! イーダさん、またね!」


 二人は満面の笑みを浮かべて別れを告げていたが、その胸の内は全く違ったモノだろう。別に彼女も悪い人ではないだろうが、あまりあっさり信用し過ぎるのもどうかと思った。


 シグネの【解析】スキルはおそらく希少なので、周囲に知られると面倒事に巻き込まれそうな気もする。


「ちょっとシグネ。あんまりスキルをバラさない方がいいわよ?」


「ほえ? 念話でしか話してないよ?」


 どうやらさっきの発言で【鑑定】以上のスキルを持っていると自白したことに気付けていなかったようだ。


「いや、そうじゃなくて……んー……まぁ、いいか」


 佐瀬は早々にシグネの説得を諦めた。


 希少なスキルは秘密にした方がいいのだろうが、それで行動を制限されるのも面白くはない。佐瀬自身も昨日、希少な雷魔法をド派手に披露してしまった手前、強くは叱れないのだろう。


(うーん、どこら辺までがセーフなのか分からんもんね)


 今回は貴重な人材と懇意になったという事で良しとしておこう。




 それから俺たちは場所を商人街地区へと移した。


 商人街は街の北東側にある。そのエリアに踏み込むと、街の活気は更に膨れ上がった。


「うわー、どこも賑わっているねぇ」

「見た事のないモノがいっぱい!」

「ここは食品を扱っているお店が多いのね」


 北通りから商人街へ入ると、そこは食材の宝庫であった。地球で見た事のある魚や野菜もあるのだが、全く見た事がない奇抜な食べ物も多く存在した。あの赤黒い葉は毒々しいが食べられるのだろうか……


 見ているだけだとお腹が空いてきたので、俺たちは屋台で出している野菜のスープと焼き肉を注文した。


「この肉美味しい! 豚肉みたい!」

「ホントね。養豚場でもあるのかしら?」


 名波と佐瀬が美味しそうに肉とスープを口にしていた。


(あれ? この肉って……?)


 どこか覚えのある味に俺は困惑していると、横からシグネが呟いた。


「…………このお肉、オーク肉って鑑定で出たんだけど」


「「んぐっ!?」」


 それを聞いた佐瀬と名波は喉を詰まらせた。そこで吐き出さなかったのは彼女たちの意地だろう。


「あ、でも意外に美味しい」


 一方爆弾を投下した下手人は一口食べると、気に入ったのかそのまま焼き肉を頬張った。


「……まぁ、美味しい事は美味しいけど……」

「郷に入れば、だね……」


 二人も恐る恐る口にしたが、最後まで完食していた。どうだ! 旨いだろう?


「こうなってくると、一度将軍肉とやらも食べてみたかったわね」

「はは、今更だよぉ」


 ギルドで買取に出す際、俺は1kgでも自分たち用に残そうと主張したのだが、1:3で却下されたのだ……畜生!



 食事を終えて通りの奥へ進むと、今度は衣服や装飾を扱っているエリアに変わった。衣服は大半が古着だが、中には高級志向な新品オンリーの店もある。ただし中には来店を拒否される店も多々あった。


「申し訳ございません。当店は一見お断りでして……」


 台詞こそ申し訳なさそうだが、表情は明らかに”冒険者風情が!”と侮っているように思えた。


 当然、そんな店はこちらからお断りだ。


「失礼な店ね!」


 佐瀬大明神はお怒りのご様子である。


「あっちにも綺麗な服が売ってるよ!」


 女性陣はその後もアパレル店を見つけては、店内を物色していた。


(ううむ。女性の買い物は長いと聞くが、噂は本当だったのか!?)


 母や姉以外に女性と買い物した経験が皆無な俺にとっては都市伝説だと思っていたが、やはり男性よりかはそれなりに時間が掛かるようだ。


 尤も男だって自分の興味がある物なら何時間掛けてでも店を見て回るだろう。俺も小遣いが少なかったガキの頃にはゲーム選びで時間を消費したものだ。




 結局その日は買い物だけで時間を費やした。




 翌日、俺たちはギルドに顔を出して、掲示板に張り出されている依頼票を眺めていた。


「採集に護衛依頼、討伐に護衛、それと護衛……」


 護衛依頼ばかりであった。


 採集に討伐依頼もあるが、どれも低ランク向けで報酬もかなり安い。やはりダンジョンが一番稼げそうだ。


「お? お前ら、なんか仕事探してんのか?」


 すると、ひょっこりハワード支部長が顔を覗かせた。


「いえ……やっぱダンジョン探索の方が良さそうですね」

「ギルド長は、お仕事しなくて平気なの?」


「うぐっ!? ば、馬鹿! 今は休憩中だ!」


 悪意の無いシグネの言葉が刺さったのか、支部長は狼狽えた。どうやらサボり確定のようだ。


「この辺で人目を気にせず訓練できる場所ってあります?」


「あん? 訓練ならここの横に大きな屋内修練場があるが……人目につかない場所、か……」


 ここの冒険者ギルドは本当に大きい。今いる建物の他に修練場と広い買取スペースのある建物の合計3棟が隣接した形だ。


「なら、街の外しかないな。西や北の方なら人の通りも少ないし、農地も無いからお勧めだぞ」


「西か北ですね。ありがとうございます」


 支部長に礼を述べると、早速街の西側へと繰り出した。ここら辺の土地勘はないので、とりあえず最初は道なりに進み、途中から街道を大きく外れて人気のない岩だらけの草原へと向かった。




「——という訳で、第四回検証会の始まりだああああ!!」

「わああああああ! パチパチパチ!」


 突然の宣告にシグネだけがノリよく拍手で付き合ってくれたが、名波は戸惑っており、佐瀬に至っては冷たい視線を向けていた。


「え、えっとぉ、第三回まではいつ開催を……?」

「何アホ言ってんの? 暑さで頭やられたのかしら?」


「そこぉ! 素面で返されると困るから、いちいちケチつけない!」


 ちなみにマジックバッグ、蘇生魔法、【パラライズ】で三回ともゴブリン君たちにご協力(強制)頂いている。今度あったらお礼に巣を潰しておこう。


「そういえば、シグネは【解析】を手に入れたんだよな? 改めて今持っている所持品の鑑定を頼めるか?」


「了解です、ドクター!」


 未だノリノリなシグネはマジックバッグからアイテムを取り出すと、次々に鑑定していった。彼女の新スキル【解析】は鑑定の上位互換で、特にアイテムや素材などは詳細に視られるようになったそうだ。



 そこで新たに判明したのが以下の通りだ。




 まずは最重要のマジックバッグ。


 効果は大体俺の検証した通りだったが、一番気になったのは内部の時間経過だ。やはり完全に時間停止している訳ではなく、ゆっくりとだが時間経過をしているようだ。


 そこは予想通りだったのだが、時間遅延が予想以上に大きかった。


 外界の凡そ1/182,500で時を刻む。ざっくり計算すると2日経過する事に凡そ1秒くらい時が進む。


(……ほぼ止まっているのと一緒じゃん!?)


 1年入れっ放しでも2分かそこらだろ? どうやらほぼ時間停止状態だと考えて差し障りなさそうだ。


 それにしても、あれだけゴブリン君たちが体を張ってくれたというのに、彼女の鑑定一発で全て分かってしまった。ゴブリン君たちには悪い事したな…………でも、あいつら人襲う害虫だし、やっぱどうでもいいや。


 それと“生物や生物や実体のないモノは収納できない”という一文があったが、これは恐らく魔法や気体、液体の事を指すらしい。


 水や空気はそのまま収納できないが、器を用意するだけで収納可能であった。そこら辺は【解析】でも明記されていなかったが、既に実証済みだ。でなければポーションやスープも収納できまい。今後の為にも入れ物を多めに用意しておくべきだろう。


 それと魔法はどうあっても収納できなかった。マジックバッグで相手の魔法攻撃を収納なんてズルは出来ないらしい。


 実験という名の佐瀬による【ライトニング(手加減?)】で俺が身体を張って(強制で)試したが、やはり駄目だった。


 そうそう、今回の【解析】でマジックバッグの限界量も把握できた。なんと約1,500万立方メートルだそうだ。


 そう言われても俺はあまりピンと来なかったが、佐瀬の話では東京ドームが124万立法メートルらしいので、それの10倍以上あるという計算だ。よく東京ドームの大きさなんて覚えていたな……


 しかし改めて考えると、とんでもない数字だ。マジックバッグの収納限界量は今後も気にしなくてよさそうだ。




 次に気になったのは≪隠れ身の外套≫だ。


 以前の効果説明欄は“装着者の身を隠す“だけだったが、【解析】により具体的な能力が分かったのだ。


“着用時は魔力を消費し続けているが、姿や魔力を断つ。ただし匂いや音は消せず、スキルで見破られることもある”


 ぼんやりと分かっていた事だが、これではっきりとした。≪隠れ身の外套≫は確かに強力だが、あまり過信しすぎると危なそうだ。いざという時以外は使用を控えるとしよう。




 それとダンジョンで入手したばかりの≪降魔の短剣≫も実に興味深い。


 効果が“魔法を斬れる短剣”だけだったのが、更に“斬れる魔法には上限があり、中級以上からは効果を削ぐ事しかできない”も付け加えられた。


 これも佐瀬の【ライトニング(手加減!)】により名波が実際に試した。流石に素早い雷魔法を斬るのには苦労していたが、その甲斐もあって名波は≪降魔の短剣≫をそこそこ使いこなせるようになった。


 というか、今更だけど俺の【ウォーター】で実験した方が殺傷能力が低く安全なのではと思い始めた。




 更に面白いのが昨日入手したばかりの≪火撃の腕輪≫だ。これには何と“製作者:イーダ”と鑑定結果の記載が増えていたそうだ。


 どうも人の手で作られた物なら製作者まで見れるように進化したらしい。流石は【解析】スキルだ!




「そして問題がこいつか……」


 俺は黒い大玉を抱えて呟いた。


 勿論こいつも鑑定してもらったが、結果は以下の通りだ。




 名称:魔法の黒球


 マジックアイテム:希少レア


 効果:魔力を込めて球を飛ばす

 使用される魔力量は膨大で、チャージしてストックする事も可能。込めた分だけ出力も上がり操作の難度も上昇する




 なんともピーキーなアイテムだが、俺はこれに一つの可能性を見出した。それは使用する魔力を回復魔法の要領で扱う事だ。


 この手は一度キラーエントの枝で実戦しているので、恐らく可能だろう。だがまた暴発したら危ないので俺はわざわざこの平原にやってきたのだ。


 今日はこの実験の為に来たと言ってもいい。


 俺が試そうとすると、三人は慌てて後ろにある大岩に隠れた。巻き添えを避ける為だ。避難した佐瀬から念話が届く。


『ねえ、ただの飛ばす弾丸なら魔法で十分じゃないの?』


『それには同意見だが、こいつは戦闘に使う気はないんだ』


『……?』


 先に説明してもいいのだが失敗しては意味がないので、とにかく挑戦してみる事にする。


 俺は黒玉にヒールを掛ける要領で魔力を注ぎ込むと、ゆっくり両手を玉から手放した。すると黒玉は————俺の意思通りにその場で浮かんだままだ。どうやら狙い通り、回復魔法と同じ感覚なら俺でも制御できそうだ。


 (んー、このテクニックを戦闘でも応用できればなぁ……)


 エント種の枝を加工した時に気付きを得てから、俺は色んな事を試した。身体強化を回復魔法で……火属性魔法を回復魔法で……結果は全て駄目であった。


 身体強化は無属性? の純粋な魔力しか受け付けないのか、属性を付与すると全く発動しないし、火属性を回復魔法の光属性で? 意味が分からん。当然失敗した。


 今現時点で回復魔法時の魔力を代替え出来るのは、エント種の枝の加工を除くと一部のマジックアイテムだけだ。だからこそ≪魔法の黒球≫には可能性を見出した。


「……よし、そのままゆっくり進め」


 これも思い通りに進み、その後しばらく操作を続けて徐々に速度も上げてみた。うん、きちんと操作できているな。


 その様子を見た三人が岩陰から姿を見せてこちらにやって来た。


「これで実験成功って事?」


「……いや、これは前段階だ。よっと!」


 俺は頭上に浮いている黒玉に手を掛けると、そのままぶら下がってみせた。


「よし、このまま……行け!」


 俺が進む意思をみせると、黒玉は俺をぶら下げた状態のまま、全く速度を落とすことなく進み続けた。


「よっしゃあ! 実験成功だ!」


 思った通り、こいつはかなりの馬力がある。人を運んでも全くスピードが落ちていない。俺はぶら下がった状態のまま三人の所へ戻ると、シグネが飛び跳ねていた。


「うわっ! うわぁ! 面白そう! 私も乗ってみたい!!」


「おう、いいぞ! まだお試しだから低空で飛ばすからな」


 シグネがぶら下がると、俺は黒玉に指示を出した。その辺をぐるぐる飛んで周っているだけだが、シグネは楽しそうだ。


「まさか……あれで乗り物を作る気!?」


「お? 鋭いな! ああ、あれで空飛ぶ車みたいなモノを作りたいんだ」


 先に答えを言われ、俺は頷いた。


「確かにあれなら何人か乗せて飛べるかも……。でも座席とか車体はどうするの?」


 名波の問いに俺はニヤリと笑みを浮かべた。


「こいつを使おうと思っている」


 俺がマジックバッグから取り出して見せたのは、巨大なエンペラーエントの幹であった。


 こいつは元々Aランクの魔物だったエンペラーエントの一部だ。エント種の枝は膨大な魔力量を必要とするものの、魔力との親和性も高く自在に形も変えられるので、魔法の杖等に使われる優れものだ。


 頑丈で軽いので、空飛ぶ乗り物に向いていると俺は考えていた。


「若干軽すぎないかが心配だが……まぁ、作って試してみれば分かるさ」


 俺は巨大な幹に手を触れると魔力を込め、素材の加工を始めた。






 夕刻、俺たちは街へと戻る道中であった。


「あー、楽しかった! レイピアの訓練もできたし、私は大満足かな!」


「そうね。あそこなら魔法の特訓もできて、いい場所見つけたわね」


「≪火撃の腕輪≫も試せたしね! 魔法を撃つ感覚ってあんな感じなんだね!」


 初めて魔法を使うという体験を味わった名波は嬉しそうに会話を弾ませた。


 一方、思いのほか加工に手こずった俺は少し疲れていた。


「まさかあんなに魔力を使うとは……あれ、俺以外に加工できる奴いんのか?」


「幹を車体サイズに切り離すだけでも半日掛かったからね。完成は暫く先かな?」


 何とか魔力による形状変化で幹の一部を切り取る事に成功した。流石にあの巨木全てを乗り物に当てる訳にはいかないので、必要分の大きさに切り分けたのだ。その作業だけでも半日掛かってしまった。


「ま、切り離したサイズなら宿の室内でも取り出せるから、時間を見つけてコツコツ作業を進めるよ」


「ふふ、頑張ってね」


 佐瀬に励まされて俺は苦笑いを浮かべた。




 西門を通過して街を歩いていると、ふと名波が立ち止まった。


「……彩花、【テレパス】使って」


 小声でボソッと呟いた。様子のおかしい友人に佐瀬は念話で尋ねた。


『何かあったの?』


『多分、視られてる。門を入った辺りから、後方の建物。振り向かないで』


 名波の念話越しによる忠告に、俺たち全員に緊張が走る。


『……【察知】、いや【感知】が人混みの中で働くって事は、俺たちに悪意を持っている、という事だな?』


『……多分』


 名波に尋ねた俺は少し考えると、ある作戦を立てた。


『このまま宿に戻って泊まる場所を特定されても厄介だ。今日はひと先ず別の宿を取ろう』


『『『了解!』』』


 俺たちは何食わぬ顔で偶々近くにあった宿を一泊だけ予約すると、部屋に入ってから声を潜めて相談した。


「で、まだ追跡者はいるのか?」


「うん、宿の入り口付近に居る。どうする?」


「…………相手の素性が知りたい。こういう作戦はどうだ?」


 俺の作戦案に三人は同意してくれた。




 まず佐瀬と名波の二人だけで、再び街中に出向いた。時刻はそろそろ夜になるが、人通りの多い場所を選べば女性だけでも大丈夫だろう。


 そしてその後を俺とシグネが≪隠れ身の外套≫を着たまま二人の後を追った。


『今、私たちの右斜め後ろ、40メートル辺りにいるよ』


『確認した。追跡者は一人だな?』


『多分そう』


 名波が指摘した通り、怪しいローブを着た男が佐瀬たちの様子を伺っていた。


『シグネ、鑑定できそうか?』


『待って。顔が隠れてると少し時間が……よし、出たよ!』


 身体の一部が隠れていると鑑定できなかったり、時間が掛かってしまうらしい。だがこちらは透明になりながらだったので、向こうも自分が視られているとは思わなかったのか、無事に鑑定ができた。


『名前はオノフレオ、28才、闘力は305、魔力82だね』


 闘力はそこそこあるが、正面から戦えば問題ない相手と言えた。


『あ、この人スキル【尾行】を持ってる!』


『げぇ、異世界に来てまでストーカーかぁ……』

『キモいスキルだね』


 スキル名だけでストーカー扱いは可哀そうだが、まあ実際に現在進行形でストーキングしている訳だしな……よってギルティ!


(それにしても厄介そうなスキルだな……能力も未知数だし……)


 最悪、この場を巻いてもずっと追ってこられる可能性もある。最初は泳がせて背後関係を洗いたかったが、こいつは今夜で決着を付けたい! でないとこの先安心して眠る事が出来ないだろう。


『多少リスキーだが、二手に分かれてみないか? 俺が佐瀬、シグネが名波をカバーして、そのまま街を回ってさっきの宿に戻る』


『オーケー!』

『平気だよ!』


 二人から許可を得た俺たちは直ぐに行動を開始した。


 佐瀬と名波は自然を装ってその場で単独行動に移った。実際にはそれぞれ俺とシグネが付いているのだが、追跡者から見たら襲うのに絶好のシチュエーションとなった。


(街中くらいの広さなら【テレパス】が有効なのも把握済みだ。さぁ……どう出る!?)


 だが意外にも、相手はそのまま佐瀬の方を選択して後を付けたまま、一向に手出しする様子を見せなかった。


『ちっ、意外に根性無しね!』


『あははぁ、本当は襲われない方がいいんだけどね』


 名波はこっそり俺と合流すると、彼女にも≪隠れ身の外套≫を手渡した。マントは三着分しかないので、佐瀬一人だけが歩いて他の三人が透明になりながら追跡者の後ろを追っている形だ。


『多分、気付かれていない、よね?』


『ああ、恐らく観察だけに留めてるんだろう』


 だとしたら、どこかのタイミングで誰か別の者と交代するか、どこかに報告へ戻ったりする筈だ。それならそれで大元が叩けてラッキーだ。単独犯ならそのまま奴の居住地を暴き出した後に問い質せばよい。



 遂に何も起きぬまま佐瀬が先ほどの仮宿に戻ると、男は暫く考え込んだ後、その場を離れようとした。


『佐瀬、奴に動きがあった! こっそりこっちに合流してくれ!』


『いよいよね!』


 結構好戦的な性格の佐瀬は宿を出ると、追跡者を尾行している俺たちと合流した。マントは話し合いの結果、名波が脱ぐことになり、他のメンバーが透明になりながら先行して位置を知らせる。マントを着用していないと、お互いの姿が見えないのが難点だ。


『あの人、職人街の方に行くよ!』


 シグネの指摘通り、奴が向かう先は職人街のそれも奥の方であった。あそこは外の貧民街ほどではないが、そこそこ治安の悪い場所となる。いよいよあいつの素性が怪しくなってきた。


 しばらく尾行していると、ローブ男は一件のボロい建物の中に入っていった。いくら透明になっているとはいえ、ここから先は慎重さが求められるだろう。


(一体どこのどいつなのか……ハッキリさせてやる!)


 俺たちは名波の到着を待ってからその家屋へと浸入を試みた。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:あちらの世界の人々はミカリス神の存在をご存じなのでしょうか?

A:信心深い者の中には神の存在を知っている者もいます

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