第42話 交易街ブルターク

 問題の関所とオルクル川を超え、俺たちを乗せた馬車は丁度一つ目の村を超えたばかりだ。この村は正式な駅馬車停留所ではないが、希望者がいれば乗降可能だそうだ。今回は誰もいないみたいなのでそのまま通過となった。


 三日目にして俺たちも大分馬車には慣れてきた。相変わらず佐瀬は辛そうにしていたが、そんな彼女はふと外へと顔を向けた。


「——ん? 何だろ?」


「どうかしたか?」


 様子のおかしい佐瀬に俺は声を掛けた。


「今一瞬、ピリって痺れたような……変な感覚があっちから」


 あやふやではあるが、彼女は何かを感じ取ったと言い、その不思議な感覚がしたという方角を差した。


「あっちは……北か? 名波、何か不審な気配を感じたか?」


 もしかして盗賊や魔物かと俺は警戒レベルを上げて彼女に質問した。


「ううん、何も感じなかったよ。でも、私のスキルも絶対じゃないから注意して」


 名波の所持スキル【察知】はかなり優秀だが、それでも抜けてくる者はいる。以前襲撃してきた≪隠れ身の外套≫を纏った冒険者たちがそれだ。隠密系のマジックアイテムやスキルも存在するのだ。


 俺たちは暫く警戒していたが、馬車は順調にブルタークを目指して進んで行く。


「……気のせいだったかしら?」


「うーん、どうかなぁ。私のスキルはこっちに悪意が向けられていないと若干精度が落ちるみたいだから、襲撃とかじゃないだけかもね」


「そう……」


 そんなやり取りがあったものの、馬車はいよいよ街の近くまで近づいたようだ。明らかに道幅が広くなり、地面もしっかり整地がされている。馬車が三台くらいはすれ違えそうだ。


 それと畑に牧場、民家も散見された。


 この辺りは正確にはまだ街の中ではないものの、周辺に住んでいる者も多くいるそうだ。噂によるとブルタークは大きな外壁に囲まれた街だそうで、見るのが非常に楽しみだ。


「あ! あれが街じゃない?」


 シグネの声に一同は前方へ目を向けた。まだかなり遠くだと思うが、街の外壁らしきものが確認できた。馬車が進むにつれ、次第にその壁の威圧感が増す。


「これは……っ!」

「すごっ!」

「うわっ、高い……」

「ふぇ~」


 外壁の高さは五階建てビルと並ぶくらいだろうか。高さ自体は現代日本ではさして珍しいものではないものの、それが街を覆うようにずっと広がっている壁となると重圧感が半端ない。


 自然の多いこの世界の風景ともミスマッチしており、なんとも奇妙な光景だ。



 駅馬車は街の手前までで、街道の横にある広場で降ろされた。ここはバスターミナルのようなものだろうか。


 改めて街の方を見ると、大きな門に入場の列ができていた。それぞれ馬車用と歩行者用で別れているみたいだ。


「俺たちも並ぼうか」


 最後尾だと思われる場所に俺たち四人は並んだ。時刻は夕方前という事も関係しているのか、そこそこ混みあっていた。


「あ、あれ! もしかして獣人!?」


 シグネが指を差す前方を見ると、俺たちから三人前の男性には耳と尻尾が生えていた。それに獣のように毛がふさふさで、どこからどう見てもファンタジー世界お約束の獣人族な見た目であった。


「……俺に何か用か?」


 どうやらこちらの会話が聞こえていたようで、獣人族の男は後ろにいる俺たちに振り返って声を掛けた。その表情を見て俺たちは再び驚く。口の隙間から見える立派な牙に鋭い目つき。その表情はさながら狼のようであった。


 不機嫌そうに尋ねる狼男に俺は慌てて弁明をした。


「す、すみません! 俺たち田舎から来たもので、獣人の方を見るのも初めてだったので……申し訳ない」

「ご、ごめんなさい!」


 俺が頭を下げるとシグネもそれに合わせた。


「……なら、良い。ここは気性の荒い同胞もいるから、言動には注意する事だな」


「ご忠告ありがとうございます」


 俺が再び頭を下げると狼男は前を向いた。


「ふぅ、これは注意が必要だな。ここは獣人族の他にエルフ族やドワーフ族もいると聞くから、対応には気を付けよう」


「うん。ごめんね、イッシンにい


「そこまで大きな問題にはならなかったんだ。次から皆で気を付ければいいさ」


 しかし獣人は思った以上にモフモフ感が満載であった。俺的にはアリだが、獣耳と尻尾だけ付けた人族よりの獣人も見てみたかった。


 そんな思いが届いたのかどうかは知らないが、並んでいる間にまさにそんな感じの獣人を見つけた。


「……あの人は体毛が無いんだね?」


 さっきの件もあり、名波が小声で俺に話しかけてきた。


「ううむ、種族や人によって差があるのか? もしくはハーフとか……」


 これも異世界あるあるだが、人族とそれ以外の種で子を成すと、ハーフとして生を受けるが、其れ故の弊害か、外見が他者と違ったりで迫害されるケースもある。


 それと言葉にも気を付けた方がよさそうだ。以前ケイヤから聞いた話では“亜人”呼びはご法度のようだ。亜人とは人型の魔物であるゴブリンやオークの事を差し、彼らとは生物学的に見ても全く違う人種なのだそうだ。


 その証拠に獣人族は死んでも魔石を生成しないし、ダンジョンにも出てこない。だから決して魔物に該当する亜人呼びをしてはいけないのだ。


(これは猶更、情報収集が必要だな)


 街に着いてまずしなければならない事は、やはりそれだろう。



 獣人の他にもドワーフ族と小人族らしき者も見掛けたが、エルフ族は見られなかった。


「後は確か……魔族と竜人族がいるんだっけ?」


「その二つの種族は数が少ないらしく、表にも中々出てこないそうだから、多分いないんじゃないかな?」


 名波とそんな会話をしていたら、ようやく俺たちの番がきた。と言ってもやる事は関所とほぼ同じで、俺たちは名前と来訪目的を告げてあっさり街中へ入る事ができた。



「うわぁ! 思った以上に綺麗だねぇ! それにレンガ? の家も多い!」


「本当に異世界に来たって実感したわ。 それに人も多いし治安もよさそう……いい感じね!」


 名波と佐瀬の感想に俺も心の中で同意した。


 今俺たちが立っているのは門を出てすぐの大通り沿いで、あちこちに人がいて治安もよさそうだ。


「私の故郷も似た雰囲気だよ! かなりレトロな感じだけど……私もこの街、好きかな」


 どうやらシグネだけは僕ら日本人とは少々違った感性のようだ。


 俺たち日本人は異世界の街といった感じだが、彼女にとってはどちらかというと、江戸時代にタイムスリップしたような感覚なのだろうか? ブルタークは西欧風の街並みであった。


「まず宿を探そう」


 俺たちは固まって街中を歩いた。小さい道は一旦無視してそのまま大通りを進むと、やがて十字路に差し掛かった。どうやら街の中央に大きな通りがクロスする形で設けられており、そこから細かい道やエリアに分かれているようだ。


 想像以上の広さに自力で宿を探すのを早々に断念した俺たちは、近くで暇そうにしている人を捕まえて道を尋ねた。


「ああ、そっちの地区は宿が多いよ。北側と東側にも宿はあるけど、俺は西側をお勧めするね」


「ありがとうございます」


 どうやら北は安宿が多いが、多少治安に問題があり、逆に東側は安全だが高級宿が多いそうだ。


 安心と値段を考慮した結果、俺たちは街の人に勧められた西側を探すと、いくつか候補の宿が見つかった。その中でどれにするかだが……


「お風呂がある場所が良い!」

「公衆トイレもあるみたいだけど、流石に宿にも欲しいわね」

「綺麗な所で寝泊まりしたい!」


 その条件だと一店舗に絞られる。ほぼ満場一致で、西側でも一番値段の張る宿を選んだ。多少懐具合が心配であったが、地球での生活を知ってしまった俺たちにとっては譲れないラインだろう。



 俺たちは南北を通る大通りから小道に入ってすぐの場所にある、そこそこ大きな宿≪翠楽停すいらくてい≫へと入った。


「いらっしゃいませ! お食事ですか? それとも宿泊で?」


「宿泊です。四名でお願いします」


 入った直後に挨拶してきた男性店員に俺は人数を告げた。生憎部屋は二人部屋が一つと大部屋が一つしか空いていなかったので、仕方なく俺たちは大部屋で四人纏めて宿泊する事にした。


 最悪俺だけ二人部屋か別の宿でもと思ったが、彼女たちが一緒でもいいと言ってくれた。まぁ、確かに男女で部屋を分けるのも今更かと思って同意した。


 ただし勘違いして手を出すような事だけはしない。特にシグネちゃんに何かあったらダリウスさんに何を言われるか……


 男性から女性スタッフに代わって案内され、俺たちは二階奥にある大部屋へと案内された。


 この宿自慢の部屋だそうで、ベッドは全部で六つあり、なんと風呂とトイレすらも付いていた。部屋も寝室とリビングっぽいものに仕切りで分かれているので、着替えの際や来客などにも対応できそうだ。


 その分、宿泊費は結構したが……これは早いところ冒険者活動を再開しなければと俺は心に誓った。


「ディナーは一階のレストランで用意されてるんだって! 早く行こう!」


 朝食と夕飯は事前に注文してさえいれば確実に用意してくれるそうだ。事前予約無しでも食料に余裕があれば簡単なモノを提供してくれるらしい。流石に値段が高い宿だけはある。



 俺たちは一階にある食堂で異世界の夕飯を楽しみながら、これからについて相談した。


「もぐもぐ……今日はもう寝るだけ?」


 見たことも無い魚料理に箸をつけながら佐瀬が俺に尋ねた。意外な事に、このバーニメル半島では箸の文化も根付いているようだ。


「いや、ここは街灯もあって夜遅くまで行動できそうだし、一旦ギルドの場所を確認しようかと……この肉、旨いな!」


「ほんと! 牛肉のステーキみたい! ギルドって24時間対応しているの?」


 柔らかい肉に舌鼓を打ちながら、名波も俺に質問を投げかけた。


「場所にもよるそうだけど、こんだけデカい街ならそうじゃないかな? ダンジョンのある街だし」


 カプレットの町もダンジョンがある為、冒険者ギルドは24時間対応をしていた。一部のサービスは夜間利用ができないが、依頼の報告や買取などは深夜でも受け付けている。


「ダンジョン!? そうだった、ここって二つもダンジョンがあるんだよね?」


 先程まで箸に苦戦していたシグネが俺に尋ねた。


「ああ、どっちも街の外らしいけどな。ダンジョンの場所や特徴も早めに仕入れておきたい」


 この街での当面の目標は、お金稼ぎ・移動手段の確保・冒険者ランクを上げる事だ。その為にはダンジョン攻略が最適だと俺は考えている。ダンジョン内の魔物は死体が消える為、素材こそ手には入らないが、魔石は落としてくれる。


 それと稀に魔物や宝箱から貴重なマジックアイテムが手に入る事もある。それらは当然売ればお金にもなるし、もしかしたら便利な乗り物なんかも手に入るやもしれない。


 それにダンジョンの到達階層が深ければ深い程、冒険者としての実績にも繋がる。以前俺が一緒だったマルコたち……パーティ名は忘れたけど、teamコココ(仮称)たちもC級昇格の為、ダンジョン探索をしていたくらいだ。


 彼らは無事C級になれただろうか。


「この街ってやっぱり貴族はいるのかしら? 私達ってその……結構目立つでしょう?」


 どうやら佐瀬自身も自覚しているらしく、不安そうな顔で尋ねてきた。


「うーん、流石に大きな街だし、地方貴族のように領主も勝手はできないと思いたいけど……そこら辺の情報も集めていきたいな」


「武器屋や道具屋もね! 装備は冒険の基本でしょう!」

「私も新しい武器や防具欲しい!」


 ほんのり甘い果実酒を堪能している名波と、箸を諦めフォークに持ち替えたシグネが二人揃って催促してきた。


「そんな余裕は当面ないよ。まずはここの宿代を暫く払い続けられるだけの資金を稼がなくっちゃ」


 手持ちの魔石やエント種の枝を売れば纏まったお金は手に入りそうだが、貴重な素材の為、あまり手放したくはない。



 夕飯を食べ終えた俺たちは部屋に戻っても話し合いを続け、まずは現状把握をしてみようとシグネにそれぞれのステータスを鑑定してもらう事にした。


 その結果は以下の通りだ。




 名前:矢野 一心


 種族:人族

 年齢:30才


 闘力:539

 魔力:9,999(【解析】によると99,999)


 所持スキル 【自動翻訳】【回復魔法】【木工】




 名前:佐瀬 彩花


 種族:人族

 年齢:19才


 闘力:158

 魔力:2,317


 所持スキル 【自動翻訳】【雷魔法】




 名前:名波 留美


 種族:人族

 年齢:20才


 闘力:247

 魔力:256


 所持スキル 【自動翻訳】【察知】




 名前:シグネ リンクス


 種族:人族

 年齢:14才


 闘力:206

 魔力:911


 所持スキル 【自動翻訳】【鑑定】【風魔法】【短剣】




「げ!? 俺、遂に30代か……」


 俺の誕生日は1月だが、この世界の暦で今は6月となっている。ただ、転移される直前、地球では4月だったが、転移してきたこの世界は既に9月だったので、ざっくり5カ月分くらいのズレが生じている。


(紛らわしい……)


 その為、こっちの世界換算で何日が俺の誕生日か分からなくなっていた。


「闘力、この中で一番低い……シグネちゃんよりも!?」


 佐瀬は魔力こそ俺に次いで二位の成績だが、近接戦闘の指標にもなる闘力において中学生のシグネちゃんに負けている事にショックなようだ。


「あははぁ、私なんか魔力もしょぼいし、闘力もシグネちゃんに追いつかれそうだよ……」


 一番しょげていたのは名波であった。


 彼女は闘力も魔力もパーティ内においては並であった。だが彼女の【察知】スキルには大変お世話になっている。そういった観点からも能力値だけでは測れない強みがある。


「魔力が結構上がって来たかな? 順調♪ 順調♪」


 一方シグネちゃんはというと、子供にしては驚異的な数値だ。魔力量もあと少しで4桁に到達する勢いを見せていた。


 喜んでいるシグネちゃんと対照的に落ち込んでいる二人に俺は言葉を掛けた。


「いや、闘力100超えの時点で、一般人レベルを超えているからね?」


 この世界では町に住む普通の大人が平均で闘力10前後だと聞いている。魔力量も同じくらいが平均なので、100以上の数値を叩き出している者は所謂、戦闘や魔法に関してのプロだ。


 それを考慮すれば彼女たちのレベルはかなり高い。その証拠にシグネちゃんが先ほど門で見張りをしていた兵士のステータスをこっそり鑑定したそうだが、闘力は200から300前後とそこまで高くはない。


 魔力込みだと彼女たちレベルなら、軍に志願すればちょっとしたエース扱いになるかもしれないのだ。


 ただし兵士と一口で言っても、ケイヤのような聖騎士を目指すエリート級だと、能力値も途端に跳ね上がる。確か彼女の魔力量は6千以上だと言っていた。しかも魔法より剣の方が得意だと言っていたので闘力はそれ以上だろう。


「まぁ、上には上がいるから、これからも訓練して強くなればいいじゃないか」


「……そうね! 魔力は勿論、闘力も伸ばしていくから!」

「私ももっと強くなりたい! 彩花、一緒に頑張ろう!」

「私も最強目指して頑張るよ!」


 シグネちゃんは一体何を目指しているのだろう? 今更ながら彼女を預かったのが心配になってきた。



 一度自分たちのステータスを確認した後、俺たちは冒険者ギルドへ向かう事にした。宿を出る際、最初に受付対応してくれた男性にギルドの場所を尋ねた。


 どうやら彼はこの宿の支配人オーナーだったようで、冒険者ギルドの場所を丁寧に教えてくれた。その際に24時間ギルドが開いていることも教えてくれたので、俺たちは彼に礼をしてから目的の場所へと向かった。


 ギルドの場所は大通りの交差する場所にあるらしく、俺たちは街灯で僅かに明るい夜の街並みを静かに歩いた。


「思ったよりも明るいわね」

「あの街灯は流石に火じゃないよな? 電気でもないだろうし……魔法か何かか?」

「その辺も追々調べないとだね」


 冒険者ギルドは目立つ場所にあったのですぐに分かった。さっきも通った筈だが、かなり大きく立派な建物だったので、ギルド支部だとは思いもしなかったのだ。


 ギルドに入ると、室内も広々としていて他所の支部とは大違いだ。時間帯の為か冒険者の数こそ少ないが、受付カウンター内にはそれなりの職員たちが働いていた。


「……上が喧しいと思ったら、二階は酒場なのかしら?」


「え? ああ、本当だ」


 どうやらここは一階がギルドの受付で、二階に酒場が併設されているようだ。まだ働いている職員がいるので、酒盛りをしている冒険者と隔離した方が精神衛生上いいのだろう。


 ただし上では大騒ぎしている者たちがいるのか、どんどん足踏みする音が聞こえてきて、天井を見上げる職員たちの顔は苛ついていた。


 すると奥の方に座っていた大柄な男が立ち上がり、そのまま二階へと向かっていった。


「あの馬鹿者どもめ! 馬鹿騒ぎをするなと、あれほど言ったのに……馬鹿が!」


 何度も”馬鹿”と連呼する大柄スキンヘッドの男は、ギルド職員と言うより寧ろ冒険者や山賊のように見えた。恐らく元冒険者なのだろう。


「……イッシンにい、あの人、すっごい強いよ!」


 どうやら彼女は勝手に彼の事を鑑定したようだ。


「シグネちゃん。あんまり大っぴらに鑑定するのは控えようね?」


 何時彼女の鑑定が露見されてトラブルになるか冷や冷やしているのだ。鋭い者だと視線を向けた直後に気付くらしいので、鑑定するには注意が必要だ。


「こら、馬鹿野郎ども! これ以上騒ぐなら二度と酒場を使わせねえぞ! この馬鹿ちんが!」


「た、大将!? そりゃあねえよ!」

「俺たち、ようやく20階層を突破したんだ! 折角の祝い事なんだから、少しくらいハメ外させておくれよぉ!」


「ああん!? そりゃあ目出度いなぁ……良し! だったらこの金で好きなだけ飲め! ただし! 下ではまだ職員たちが働いてんだ。もっと気を遣って静かに馬鹿騒ぎしやがれ、この馬鹿どもが!」


「「「いやっほーっ!!」」」

「あざーっす! 流石、大将は太っ腹だぜ!」


「だから大将じゃねえ! ギルド長か支部長と呼べ、馬鹿もんが!」


 スキンヘッドの男がそう釘を刺すと、冒険者たちは再び馬鹿騒ぎを始めたが、下に配慮したのか、足踏みは止めたようだ。


「あの人がギルド長……つまりギルドマスターってこと?」


「いや、ギルドマスターは冒険者ギルドの頂点だ。恐らく本部にいると思う」


 名波の問いに俺は首を横に振って説明した。


 冒険者ギルドはこの世界のあちこちに点在する中立で世界規模の機関だ。頂点はギルドマスターで、その下に幹部や各支部を統括するギルド長といった組織図だ。


 ちなみに出張所にギルド長は存在しない。カプレットやムイーニの町にもギルド長がいたのだろうが、俺は一度もお目に掛かった事が無かった。


 スキンヘッドのギルド長は俺たちの前を通過しようとすると、ピタリと足を止めてこちらへ顔を向けた。


「ああん? 小僧たち、見た事ない面だが……新人、にしてはやりそうだなぁ?」


「初めましてギルド長。俺は矢野と言います。今日この街に来たばかりの冒険者です。一応俺はD級、彼女たちはG級です」


 俺が無難に挨拶をすると、ギルド長は俺たちを値踏みするかのように観察した。


「ほぉ、D級に、G級ねえ……。ヤノ、お前は今日からC級、そこの三人はD級に昇格な」


「「「「えええっ!?」」」」


 突然の話に俺たちは揃って声を上げた。だがそこに待ったを掛ける者が現れた。


「ちょっと支部長! 何をまた無茶言っているのですか!? ギルドには昇級に関するルールがあるんです。ギルドの長がそれを守らなくてどうするんですか!」


 強面のギルド長に物怖じせず声を掛けたのは、なんとシグネよりも身長の低い女性であった。体つきは若干どっしりしているので恐らく小人族ではなくドワーフ族なのだろう。


 彼女がお説教を始めると、ギルド長は申し訳なさそうにこちらを向いた。


「す、すまん。やっぱさっきのは無しだ! だが、お前たちの腕なら直ぐ——」

「——ギルド長! まだお話の途中です! 大体、貴方はいっつも……」


 まだまだ彼女のお説教が続きそうだったので、俺たちは触らぬ神に何とやらとその場をそっと離脱すると、その様子を見守っていたギルドの受付に声を掛けた。


「あのぉ、すみません。今日到着したばかりの冒険者でして、色々情報を頂けたらと……あの二人の事も含めて」


「あはは……初めてだとビックリするかもしれないですが、あの二人がうちのギルド長と副ギルド長です……はぁ」


 受付の職員は苦笑いを浮かべながら説明すると、最後には溜息さえついた。なんとも不安なギルドであった。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:地球の宗教で信じられている神々は実際におられるのでしょうか?

A:それは異世界の情報とは何も関係ないのでお答えできません

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