第43話 交易街のギルド事情

 ギルドである程度の情報を仕入れた俺たちは一旦≪翠楽停≫へ戻る事にした。もう夜も遅いので、明日再び情報収集の後に行動開始だ。


「けど一体何だったのかしら、あのギルド長。急に私達の事を昇格するとか言って、結局無しになったし……」


 帰り道、佐瀬が憮然な態度で愚痴をこぼした。


 先程の出来事を思い起こす。ギルドに入ってギルド長と目が合ったと思ったら、突如俺たちの冒険者ランクを上げると言い出したのだ。


 無論、そんな無茶は通らなかったようで、彼は副ギルド長だという女ドワーフの職員に怒られていた。


「あの人、私たちの実力を見抜いて“使える”って思ったのかな? だから無理やり昇格させようとしたとか」


 名波が人差し指を立ててそう推察した。


「【鑑定】スキルなんかで俺たちの能力を視たって事か?」


「ううん、さっきのおじさんは【鑑定】持っていなかったよ」


 俺の問いに横からシグネが応えた。


「そういえば、さっき【鑑定】使ってただろ? ギルド長、そんなに強かったのか?」


「うん。スキルは沢山あって覚えきれなかったけど、闘力は9,999だったよ」


「「「9,999!?」」」


 シグネの【鑑定】スキルだと4桁まで計測できないので、恐らく実際はもっと上なのだろう。


 予想以上の強さに俺たちは声を上げた。


「はぇ~、流石にギルド長になると、化け物な数字だねぇ」


 名波が感心したように呟いた。


「スキルは何があったんだ?」


「んーとね。【斧マスター】と【剛力】、【魔法耐性】と……あ! あと【察知】もあったよ!」


 シグネの記憶によると、彼のスキル構成はほぼ前衛よりで、魔法や遠距離などはなかったそうだ。先ほど挙げたスキルの倍以上を習得していたそうだが、流石に全てを覚えきれなかったらしい。


(【斧マスター】に【剛力】って何だ? 【斧】ならスキル選択の時にあった筈だが……それの上位版か?)


 まだまだスキルに関しては知識が乏しいので要チェックだ。


「とりあえずダンジョンの位置が知れたのは大きいわね」


「ああ、思ったより遠い場所だったけどな」


 ここブルタークの街には二つのダンジョンがあるそうだが、正確には街の周辺といった方が正確だ。


 一つはここから北西にあるブルターク西方森林の中にあるブルタークダンジョン。そしてもう一つがオルクル川付近にある大森林の中にあるオルクルダンジョンだ。


 ブルターク西方森林……ブルタークの森とも呼ばれているらしいが、この街の西門か北門を出ればすぐに着く場所だ。ダンジョンまでの距離は徒歩1時間といったところか。


 反対にオルクルダンジョンは少し遠い。オルクル大森林までが3時間掛かるのと、そこから更に森の中を2時間掛けて進むのだそうだ。


 そんな森中のダンジョンに何時間も掛けて行く者がいるのかと尋ねると、思いの他にいるらしい。


 どうもオルクルダンジョンの方はどちらかというと上級者向けで、魔物こそランクが高めだが、その分見返りも大きいらしい。それにダンジョン付近には開拓村もあり、ギルドの出張所もあるので簡易的な準備や補給もそこで一通りこなせるそうだ。


 一方ブルタークダンジョンはというと、街に近いという立地条件から当然人気が有り、冒険者の数も多い。


 低階層なら魔物もそこまで強くはないので、ダンジョンの登竜門的な立ち位置を確立していると職員から教えて貰った。まず初めに行くとしたらブルタークダンジョンだと太鼓判を押されたほどだ。



「やっぱりどう考えてもブルタークダンジョンかしら?」


「ああ、そうだな」


 佐瀬の言葉に俺だけでなく、他の二人も頷いていた。


 早速明日準備を終えたら、もう一度ギルドで情報を確認してからダンジョンへ向かうとしよう。






「——お前たちはオルクルダンジョンの方がいいと思うぞ」


 翌日、突如横から現れたギルド長にそう言われた。


「え? え~と……」


「ちょっと支部長!? いきなりでイッシンさんが困惑しているじゃないですか!」


 準備を終えた俺たちは、ギルドの受付にダンジョンについて改めて話を伺ってみた。すると突如横からスキンヘッドの男、ここのギルドの支部長が顔を出して口を出してきたのだ。


「おお? 悪い、悪い。そういやぁ、まだ名前も名乗っていなかったな。俺はハワード。このギルドの支部長だ」


「……改めて、イッシン・ヤノです」


 昨日名字だけは名乗った筈だが、一応フルネームで再び挨拶をした。俺に続いて後ろで一緒に話を聞いていた三人もそれぞれ簡単に自己紹介をする。


「ほう? 家名持ちとはお前さん方、もしかして良い所の出か?」


「いえ、俺たちの住んでいた所は全員家名持ちなんで、一般人ですよ」


「ほーん。少なくともこの半島の出じゃねえな?」


 ハワード支部長の問いに俺は曖昧に笑ってごまかした。


「いや、詮索はすまい。それよりさっきの話だが、お前さんたちの実力ならブルタークダンジョンより、オルクルダンジョンの方が稼げるぞ?」


「……そうなんですか?」


 ここまでそうハッキリと言うからには、何か根拠があるのだろうか? 興味を抱いた俺は話を伺おうとしたが、受付の職員が口を出した。


「待って下さい、支部長! 彼らはダンジョンに不慣れだと聞いております。それに後ろの彼女たちはまだG級なんですよ!?」


 俺は一度カプレットダンジョンを経験済みだが、その殆どがベテラン冒険者であるマルコたち同伴の元での探索であった。他の三人は当然ダンジョン未体験だ。確かに正直言えば不安がある。


「別にランクはダンジョンには関係ないだろう? 他所の国は兎も角、この国ではダンジョンに入場制限を設けていないからな」


 ほう、これは新たな情報だ。どうやら他所の国では冒険者ランクによって入場を制限されているダンジョンもあるそうだ。やはりランクは上げられる内に上げておくべきだろうか?


「それでも、です! G級の彼女たちが一緒だと、間違いなく他の冒険者たちに絡まれますよ!?」


 冒険者はぶっちゃけ実力主義の世界だ。ランクが上だったり強そうな相手にはへりくだるのが冒険者の性らしい。そしてその逆もまた然りだ。俺たちは……残念ながら見た目も弱そうだし冒険者ランクも高くはない。


「ううむ、確かにお前の言うとおりだな。かといって勝手にランクを上げると、レッカラの奴、怒るしなぁ」


 レッカラとはもしや、昨日の女ドワーフの事だろうか。話によると彼女はここの副ギルド長らしい。どうも彼は彼女に頭が上がらない性格のようだ。


「ダンジョン探索でランク昇格ってできないんですか?」


 佐瀬がハワード支部長に尋ねた。


「まぁ、上げられる事もあるが一般的じゃあねえなあ。何せダンジョン内の魔物は基本、外には出てこない。稀に氾濫する事もあるが、氾濫時の防衛戦に参加するなら兎も角、普段の探索では昇格ポイントの対象にはならない」


「あれ? 以前知り合いがC級昇格の為に20階層を目指してましたけど、実績にはならないんですか?」


 疑問に思った俺も質問を投げかけた。


「いや、なるぞ。20階層なら恐らく転移ポイントまで到達したんだろう? ダンジョンのレベルにもよるが、それなら十分実績にはなる。ただしポイントとは別だ」


 どういう事かと詳しく尋ねると、どうやら冒険者は依頼を達成したり、討伐対象の魔物を倒すとポイントが加算される仕組みらしい。そのポイント計算は部外秘だが、一定数値を超えると昇級する仕組みのようだ。


 ただし累計ポイントで昇級できるのはD級までらしい。C級からはそれに加えて、冒険者の“箔”が必要なのだとか。


 というのも冒険者ギルドの方針としては、D級以下はどんどん増やしたいそうだが、逆にC級以上の高ランクには質を要求するようだ。高ランクの安売りはしない、というのがギルドの基本方針だそうだが、地方によって多少異なるらしい。


 C級以上に昇級したければ、累計ポイント以外にも、何か偉業を達成する必要がある。そうでなければ誰でも数さえこなせばC級以上になってしまう。それを現体制は良しとしないそうだ。


(成程。マルコたちteamコココは累計ポイントが足りてても、箔が足りなかったのか)


 だからこそのカプレットダンジョン20階層制覇という目標を掲げたのだ。その後、彼らが無事昇級できたかは知らないが、昇級試験を受ける条件が整ったという事だろう。


「……ですから最初はじっくり依頼を熟したり、難易度の低いダンジョンで慣らした方が良いと私は思うのですが……」


「……失礼ですが、ギルド長はなんで俺たちにオルクルダンジョンを勧めるんですか?」


 職員の話を遮って、俺はハワード支部長に尋ねた。


 昨日と今日のやり取りを見て、彼に悪意がない事は分かる。恐らく彼は、俺たちの実力なら問題ないと本気で思っているのだろう。ただし、それにこちらが合わせる理由はない。納得のいく答えが聞けるのなら、再考する価値はあると思うが……


「ぶっちゃけると、俺やギルドの為だな。お前さん達なら十分やれるってのは見れば分かる・・・・・・。こう見えて俺は元A級冒険者なんでな」


「「「「A級!?」」」」


 確かA級冒険者は、この国にも現在一人しかいない程の強者だった筈だ。元A級とはいえ彼が言うのなら、その読みもあながち間違っていないのだろう。


「……貴方やギルドの為、というのは?」


「そりゃあダンジョン探索から帰ったら、魔石なりドロップアイテムなり、不要な物はうちに引き取って貰えるんだろう? 本当なら高ランクな魔物の討伐でも頼みたいんだが、生憎この辺りの森は平和でな……ぶっちゃけダンジョン需要頼みなギルドなんだよ」


 思いっきり打算まみれであった。だが偽られるよりかは、いっそ清々しい。


「その割にはここのギルド、随分立派ですよね?」


「ここは交易都市だからな。商人の護衛依頼などは引く手数多だ。だからさっさとC級に昇級させて依頼も熟して欲しい所だが……。見たことろお前ら、護衛依頼なんかにはあんまり興味ない口だろう?」


「いやぁ、時間の掛かる依頼はちょっと……」


 効率よくお金が稼げるのなら考えるが、今の所ダンジョンか魔物相手に戦った方が良さそうだ。


「だろうな。戦闘の方は問題なさそうだが、護衛依頼をするにはもう少し経験積んだ方がよさそうだ」


 流石は元A級、随分とこちらの事を見抜いてくる。


 一応鹿江大学サークルの学生たちを護衛したという経験はあるが、対人戦はまだまだ不慣れだし、何よりこの世界の常識を俺たちは知らなさ過ぎる。よって護衛などの依頼は当分避けた方が無難だろう。


「なら話は決まりだな! おい、こいつらにオルクルダンジョンの情報を開示してやれ」


「ええ!? 大丈夫かなぁ……」


 職員は不安そうにしながらも、支部長命令とあってか俺たちにオルクルダンジョンについて教えてくれた。



 オルクルダンジョン


 最高到達階層は62階

 10階層毎にボス部屋と転移ポイント有り

 罠は少なめだが、その分魔物のランクが高め



 以上が大まかなダンジョンの情報だ。


「罠ってどういったものがあるんですか?」


「オルクルは接触タイプが多いそうですね。感知タイプはほとんど報告例がありません」


 接触タイプとは地面や壁など特定の場所に触れた際、発動する仕掛けの事だ。以前、斥候職シーカーであるコランコに教えて貰った事があるので、簡単なものなら俺でも判別ができる。


 感知タイプとは触れずにある箇所を通過したりするだけで反応し作動する罠の事を差す。この世界で感知するとなると、レーザーのような電子機器は当然存在せず、魔法絡みが大半だ。よって見極めるのもかなり難しい。


「イッシンは罠の知識はあるのか? あそこはそこまで凝った罠はなかった筈だが、一応簡単に予習はしておけよ? ま、俺みたいに【察知】スキル持ちなら楽勝だがな」


「【察知】って罠も見極められるの!?」


 ハワード支部長の言葉に名波が食いついた。


「なんだ、嬢ちゃんも【察知】スキル持ちか? ああ、あそこのダンジョンレベルなら、問題なくスキルで見破れるぞ」


「成程、それなら安心そうですね」


 支部長の言葉に受付職員が一番安堵していた。どうも強引にランク上のダンジョンを勧めた事に気を咎めていたようだ。



 結局、当初の予定を変更して俺たちはオルクルダンジョンを目指す事にした。今から出発すると到着時間は遅くなるだろうが、ダンジョン内で一泊するよりかは開拓村で寝泊まりする方が安全だろう。


 懸念としては他の冒険者たちに絡まれないかが不安だが、ハワード支部長は俺たちの実力を買っているのか、そこについては余り問題視していないようだ。一応困ったことがあれば“俺の名を出せ”と言われたが、逆に“やりすぎるな”とも釘を刺された。


 冒険者間のいざこざで“やりすぎるな”というのは、確か“殺すな”、“再起不能にするな”というニュアンスだったかと記憶している。


(最悪やりすぎたら・・・・・・蘇生とヒールがあるしね)


 腹黒い事を考えながらも、俺は探索に向けて最終準備をするのであった。




 急遽遠くのダンジョンに行くという事で、まずは宿に連絡する事にした。丁度受付ロビーには≪翠楽停≫支配人であるイアンさんがいたので、二週間以内には宿に戻る事を告げた。


 前金で14日間の宿代を支払った。これでいよいよ財布の中がすっからかんだ。後は軽食2回分取るくらいのお金しか残っていない。ダンジョン探索で何としても結果を出さねばひもじい思いをする羽目になる。



 準備を終えた俺たちは、いよいよオルクルの森を目指して街を出た。方角は東なので、俺たちはこの街に来た時と同じ東門から出立した。


「ここから歩きで3時間……結構掛かるわね」


 佐瀬がため息交じりにそんな事を呟く。


「多分もっと早く着くと思うぞ? 俺たち荷物はほとんどないし」


「あ、そっか!」


 俺たちの荷物は、基本マジックバッグに収納されている。突然の遠出ではあったが、そういう時にこのバッグは非常に便利だ。しかも重さは実質ゼロに近い。


 一応周囲の目を気にして、今はダミー用に大きなバッグを俺が背負っているが、中身はほぼ空っぽだ。本命は佐瀬が預かっている俺のマジックバッグの方なのだ。



 俺の予想通り、2時間弱でオルクルの森手前に辿り着いた。疲労もある程度ならヒールで回復できるのも大きかった。


 だんだん俺らもチートじみてきたな。え? 蘇生魔法があるから今更だって?


「こっからは私の番だね!」


 森の中は開拓村へと続く簡易的な道があるそうだが、魔物と遭遇しても面倒だ。先頭を名波にして俺たちは適度に魔物を倒したり、稀に道を外れて避けながら、1時間弱で件の開拓村へと辿り着いた。


「へぇ、開拓村って聞いていたけれど、思った以上にしっかりしてるじゃない!」


 確かに佐瀬の言うとおりであった。


 目の前に広がっている光景は、俺の知っているオイゲン開拓村(村長の名前がオイゲンさんだから)とはまるで別物であった。


 何よりも目を引くのは店が豊富であることだ。露店だけでなく、木造家屋の中にも武器屋や道具屋、それに酒場や食堂なんかも設けられていた。


(俺のいた開拓村なんて物々交換だったぞ……)


 あまりの格差に唖然としながらも、俺たちは店を周りながらダンジョンの話を聞いてみた。すると店員たちは思った以上に親切で、ダンジョンについて知っている事を教えてくれた。


 どうやらこの村はダンジョン需要で運営が成り立っているようだ。既にここの開拓村は正式な村に昇格する事が内々に決まっているのだそうだ。


(内々って……部外者の俺にめっちゃ話してるじゃん!?)


 無事村に昇格する際には、ここの村長がラパさんというらしいので、それにちなんでラパ村となるそうだ。開拓村の長の名がそのまま村の名前として扱われるのが、この地域では通例らしい。


 その後も俺たちは開拓村の店を回って、そろそろ日が傾き始めてきた。


「寝泊まりする建物があるらしいけれど、どうする?」


 当然無料ただではない。お金は先ほどまで全くなかったが、ここに来る道中倒した魔物の魔石や素材を出張所に売れば、一泊くらいの宿代にはなるだろう。


「でも、どっちにしろダンジョン内で寝泊まりするのは確定なんだよね? だったらもうダンジョン入っちゃおうよ」


 名波の提案に俺は顎に手を当て考える。


 ここのダンジョンは魔物のランクもそうだが、広さもそこそこあると聞いている。転移ポイントまで到達するにはどうしても日を跨ぐ可能性が高いことは事前調査で把握済みだ。


 宿泊道具もマジックバッグに仕舞って用意してある。


「確かに深い階層でいきなり野営するよりかは、一度試しに浅い階層で泊った方が無難かな?」


「でしょう?」

「う~ん。どちらにしろ野営するんだし、私も留美の意見に賛成」

「私もルミねえに一票!」


 佐瀬はいきなりの野営と聞いて少し躊躇ったが、どちらにしろ避けられない事なので名波の意見に賛同した。シグネは……この子はただ単に早くダンジョンに行きたいだけだな、うん。


 賛成多数で俺たちは丁度日が暮れるタイミングでオルクルダンジョンへ踏み込む事に決めた。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:女神アリス様はお幾つなのでしょうか?

A:お答えできません。それと女神に年齢を尋ねるものではありません。神罰を下しますよ?

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