第41話 銀河系出身の冒険者です!

 次の日も俺たちは駅馬車を利用する事に決めた。


 この町からなら本日中にブルタークの街へ到着するらしい。幸いこの辺りは道も大分整備されてきているので、そこまで揺れる心配もないだろう。


 馬車に乗って暫く経過すると、目の前には雄大な大河が見えてきた。


「うわぁ、これは凄い……」

「ほんとね……」


 ここまで大きい川はそうそうお目に掛かれるものではない。しかも川は全く汚染されていないのか、澄んでいて綺麗であった。


「すっごーい! こんな大きな川、渡れるの!?」


「お嬢ちゃんたちはオルクル川を見るのは初めてかな? この川はバーニメル半島でも最大級の大河なんだよ」


 同乗している親切なおじさんが教えてくれた。


 オルクル川はバーニメル三大河川でもある南北に続いている大河だ。北はドワーフの国やエルフの森、南は獣王国まで広がっている川だ。


 ドワーフの国は運河としても利用しているが、流れが急な場所や危険な魔物もいたりするので、あまり多くの船は運行されていないらしい。


「この先、もう少し北に進むと川幅が少し狭くなっている場所がある。そこに橋と関所があるんだよ」


「へぇ、おじさん物知りだね。ありがとう!」


 シグネの笑みにおじさんもにっこり微笑んだ。こういう時、物怖じしない彼女の性格は非常に助かる。


「ねぇ、関所だって。大丈夫なの?」


 隣で名波がひそひそと俺に尋ねてきた。


「ああ、多分問題ない。ただ鑑定されるかもしれないし、軽く質問もされるそうだから、嘘だけは言うなよ?」


 そこら辺も事前に情報収集済みだ。


 北オルクル関所。ブルタークへ向かう際にどうしても通過しなければならない橋の上に設けられている関所の名称だ。そこでは簡単な身元確認と、多少の通行税を取られるようだ。


 まず身元確認だが、冒険者は冒険者証を見せるだけで問題無いそうだ。そもそもこの国にいる者の大半が身分証なんか持ち合わせていないし、王政府もそこまで細かく記録していない。だから殆どの者は名前と出身地を告げるだけで素通り状態だ。


 俺と佐瀬、それに名波は冒険者証に名前が記載されているので問題ないが、シグネだけはG級冒険者証だと名前ではなく管理番号しか記載されていない。よって名乗る必要があるのかもしれないが、噂によるとチェックはそれだけのようだ。


 ただし関所には稀に鑑定士もおり、名前など不一致な鑑定結果が出た場合には取り締まりの対象となる。だから偽名はご法度なのだ。


 逆に言えば、名前や質問さえ偽らなければ、一般人は荷物検査すらないゆるゆるな関所らしい。別に国境沿いという訳でもないので厳しくはない。関所の主要目的は商人から関税を得る為だからだ。


 だから通行税も俺たち一般人は少額で済む。普通にしていれば何も問題はない……筈なのだ。万が一【鑑定】で魔力量を視られたら大騒ぎになりそうだが、【解析】ではない限り、見られても精々9,999までだ。


 そのレベルなら確かに貴重ではあるものの、国内にも何人かはいるらしいし、冒険者ギルドに所属していれば原則国が強引な勧誘をすることはできない……そうだ。


 曖昧な情報ばかりだが、ここは鑑定士がいない事をただ祈る他あるまい。




 暫くすると大きな橋が見えた。石材で作られているのか、かなり立派な大橋だ。あれを大河の上に建設するのは、この世界の文明レベルでは大変そうだが、高位な土魔法使いを複数動員すれば、無理でもないのかもしれない。。


 関所の前には俺たちの他にも複数の馬車が停まっていた。この大河はエイルーン王国を東西に二分するかのように流れている。どうしても東側から西へ行くのにはここか、南にもう一カ所ある関所を渡る必要があるのだ。


「次は私たちの番のようね」


 順番待ちをしていると、いよいよ俺たちの馬車の番が来た。


「そこの君から順番に名前と出身地、それと渡河する目的を述べなさい」


 そう指示を出す武装した兵士の横には、ローブを着た文官らしき者も同行していた。もしかして彼は鑑定士か何かだろうか?


 あれこれ考えている内に俺たちの順番が回ってきた。


「名前はイッシン・ヤノ、出身は銀河系です。目的は冒険者活動の為です」


「ふむ……貴方は家名持ちなのか? それにしてもギンガケイとは……失礼だが聞き慣れぬ国だ」


 俺の自己紹介に兵士は首を捻っていた。それもそうだ。そんな国はこの世界には存在しないだろうからな。


 俺たちが素直に出身地を答えなかったのには理由がある。万が一、エイルーン王国が既に他の転移者とコンタクトを取っているとしたら、”地球”や”日本人”というワードで俺たちの素性が露見されてしまうからだ。


 地球人たちが転移して既に半年以上が経過している。この世界の為政者たちならとっくにその事を把握している可能性が高い。ただ彼らが我々元地球人をどのように認識しているのかが不明慮だ。


 仮にこれが逆の立場だったら最大限警戒する筈だ。他所の世界から自分たちより文明の進んだ異世界人が大挙して押し寄せてきたのだ。果たしてどう思うだろうか?


 かといって出鱈目な出身地を告げるのも控えた。もしかしたら虚偽を判別するような魔法やマジックアイテム、もしくはスキルなどで見破られてしまう恐れがある。


 だからこそ「銀河系出身です」と正直に・・・話したのだ。


 (別に嘘は言っていない。まぁ、俺たちも君たちも、どこかの銀河系の出身だろうけどね)


 この世界に宇宙という概念がまだ無いのは、騎士としての高等教育を受けていたケイヤで確認済みだ。これで騙し通せるだろう。


「ええ、ここよりずっと遠い地です。それと俺は家名持ちでも貴族ではありませんよ。他の三人も同様です。俺たちの故郷ではそれが普通なんです」


「……成程」


 少し神経質すぎかもしれないが、俺たちはまだこの国の事を良く知らない。迂闊に「異世界人です」なんて情報は暴露しない方が身の為だろう。問題なさそうなら後から正直に話せばいいだけだ。


 後の三人も同じように冒険者証を見せながら名前と出身と目的を正直に・・・告げた。それが一通り終わると俺たちはそれぞれ通行料を支払った。


「よし、問題無し! 速やかに通りなさい!」


「お疲れ様です、兵士さん」


 御者は頭を下げると馬車はそのまま橋を渡り始めた。橋は馬車がすれ違う事が出来る程の幅があった。俺たちが東へ渡るのと同様に、反対側からも検問を抜けた馬車が西へと向かって行く。中には徒歩で進む人もいるが、殆どの者が馬車で移動しているようだ。


「問題なかったわね」


「ああ、ちょっと緊張したよ」


 佐瀬の言葉に俺も息を吐きながら答えた。


 どうも兵士の反応を見る限り、俺の魔力量は鑑定されなかったようだ。鑑定士は貴重な人材なので、この関所には配属されていなかったのか、偶々非番だったのかは分からないが正直助かった。


 流石に国境の検問はここ程温くはないだろうが、仮に所持品を調べられたら俺のマジックバッグが露見してしまう恐れもある。騒ぎにならなかったのなら万々歳だ。


 昨日出会った錬金術店の女エルフ、トレイシーさんの話では、マジックアイテムは上から2番目の伝説レジェンド級どころか、そこから3ランク下の秘宝トレジャー級が発見されただけでも大騒ぎになる代物らしい。


 大国などは上から4番目のランク、超越エピック級くらいならあるそうだが、普通の国では5番目の秘宝トレジャー級でも立派な国宝扱いだそうだ。


 つまり俺のマジックバッグは絶対他人に見せられないという事だ。


(しまったなぁ。見られちゃってるんだよなぁ……斎藤にも……)


 野放しにしたのは間違いだっただろうか? 俺はそれとなくカプレットの町で奴の様子を探ろうとしたが、半日だけでは見つけられなかった。もう既にくだばったか、他の町に行ってしまったのだろうか?






 一方その頃、鹿江大学文科系サークルコミュニティを追放された斎藤は、カプレットの町に滞在していたが、偶々矢野達とはすれ違いで出会う事はなかった。


 今日も彼は森には入らず、その周辺で採集活動を行っていた。主にポーションの素材となる薬草が目当てだ。だが中々思うように集まらない。


 森の中に入ればもう少し量も増やせると思うのだが、どうしても二の足を踏んでしまう。斎藤は魔物と戦うのが怖かったのだ。


「くそぉ! 僕にもっとマシなスキルがあれば……っ!」


 それでも何とか今日の食い扶持分くらいを稼いだ斎藤はギルドの建物を出ると、ふと路地裏に奇妙な三人組の姿が見えた。


 別にこの町では珍しくもない、腕自慢の男たちのように思えたが、一人だけ場違いな男が混じっているのが気にかかる。その男はまるで商人のような装いで一人だけ浮いていたからだ。


 だが彼が気になったのはそこではない。ガタイのいい男が持っている一枚の布切れだ。


「あ、あれは!?」


 それは以前、自分があの矢野とかいう冒険者から盗んだ、姿を消すマントにそっくりであった。


 思わず鑑定しようとして斎藤は気が付く。どうやら長い間見過ぎてしまったようだ。男たちの視線がこちらへ向いた。


「——ひっ!?」


 何か良くない気配がした斎藤は急いでその場から逃げ出した。だがその行為も良くなかった。これでは何か疚しい事があると言っているようなものだ。


 だから男たちが彼の後を追うのは、最早必然であった。


 斎藤は無我夢中で走ったが、それもよくなかった。気が付いたら完全に人気のない場所に出てしまった。正確には男たちにその方向へ逃げるよう誘導されていたのだが、必死であった斎藤はそれに気付く事はない。


「よぉ、随分慌てて逃げたなぁ。俺たちの事を知っているのか?」


「あ、うぁ……」


 完全に取り囲まれた斎藤は腰が抜け、その場に座り込む。


「おい、人が聞いてるだろう? どうして逃げたんだ? さっさと——言いやがれ!」


「ぐぎゃぁっ!?」


 思いっきり腕を蹴られた斎藤は悲鳴を上げた。だがこの辺りに人気はまるで感じられない。ここに来て斎藤は漸く己の失態に気が付いた。


「おー、おー、痛そうだなぁ? だが質問に答えてくれないと、どんどん怪我する箇所が増えていくぞぉ?」


 ガラの悪い大柄な男が獰猛な声で脅迫をする。それで斎藤の心はすっかり折れてしまった。


「ひ、ひぃ! ごめんなさい! ごめんなさい! そ、そのマントが気になって……それで……っ!」


「……マントだぁ?」


 男は不思議そうに自分が身に着けている外套を見つめた。


「……おい、お前。それが何なのか……知っているな?」


 そこでずっと奥の方で静観を決め込んでいた商人風の男が声を掛けた。さっき遠目で見た時には普通の表情であったが、今の男はこの中でもとびきり鋭い目つきをしていた。


「ひぃいいい! し、知っています! 僕、以前に同じ物を見た事があって……それで、鑑定しようと……ごめんなさいぃ!」


「「「…………」」」


 斎藤の言葉を聞いた男たちは一斉に黙り込んで考え始めた。


「おい、こいつは……」

「ああ、ようやく尻尾を掴んだか……」

「おい、小僧。こいつをどこで見かけた?」


「そ、それは……っ!」


 斎藤は思わず言い淀む。その事を正直に話せば、矢野という男は兎も角、佐瀬や拠点にいるであろう学生たちにも被害が及ぶ。彼のほんの僅かに残されている良心が、真実を語る事に口を噤んだのだ。


 だがこのまま何も喋らなければ自分は殺されてしまう。だから——


「も、森に落ちていた。東の森の中だ!」


 ——斎藤は嘘をついた。


 だが、これこそが本日最大の過ちであった。


 商人風の男は斎藤を凍るような目付きで見つめると、そのままあろうことか、無事な方の腕を掴んでへし折った。


「ぐぎゃあああああっ!? ど、どうしてぇ!? ぼ、僕は本当にぃ!」


「……どうやら俺は心底舐められているようだなぁ。今度は足の骨を折ってやろうか?」


 最早斎藤が耐えられるのはここまでであった。何故かは分からないがこの男には嘘が通じない。そう考えた斎藤は男の質問に正直に答えていった。


「や、矢野だ! 矢野という男が持ってた!」


「ヤノ? 名前だけじゃあ、分からねえんだよ! もっと必死に脳みそ働かせて答えやがれ!」


 正直に話したにも関わらず、あろうことか男は先ほどの宣言通り、斎藤の右足を踏みつけて膝の骨を折った。


「うぎぃいい“い”!? も、もう止めてぇええ!!」


「うるせえ! ぎゃあぎゃあ喚く元気があれば、もっと情報をよこしやがれ!」


 そこからはまさに地獄絵図であった。斎藤は男の暴行に悲鳴を上げながら、許しを請うように情報を話していった。


 矢野という白髪の少年がマントを持っていたという事。


 自分がそれを盗んだが、取り返されてそのまま別れた事。


 そして彼は恐らく東の森の中にいるという事。


 だが最後の言葉は、斎藤本人は真実だと思って口にしたが、白髪の少年が二日前にこの町を出て東に向かった所を男は目撃していた。


 それを嘘だと勘違いした男は力任せに斎藤の胴を蹴り飛ばした。


「テメエ! また嘘をつきやがって!」


「…………」


 男は何度も蹴り飛ばすも、斎藤はだんまりであった。それを不審に思った周囲の男が止めに入った。


「お、おい! よせ! それ以上は……」


「はぁ、はぁ……。ちっ、くだばっちまったか」


「全く。もう少し情報を引っ張れただろう? お前は頭に血が上るとすぐこれだ」


 止めた男も斎藤を死なせた事を咎めたわけではなく、単に情報源を失った責を問うただけであった。


「……まぁ、いい。少なくとも≪黒竜の牙≫と≪黒山の霧≫の件にあの白髪のガキは絡んでいやがる。今はそれで十分だ。≪隠れ身の外套≫の場所も割れたしなぁ」


 残り一着となった貴重なマジックアイテムだ。できれば早急に取り返したいが、徐々に熱が冷めてきて頭が回るようになってきた男は考え込んだ。


「リーダー、それならさっさとあいつら追おうぜ! 多分、東ってことはブルタークだろう?」


 冒険者活動をするとなると、十中八九あの街だろう。万が一間違っていたとしても、パーティメンバー含めてあの容姿は非常に目立つ。後を追うのは簡単だ。だが……


「……いや、まずは様子を見る。それに俺が関所を渡るのは少しリスキーだからな」


「なんなら俺たちだけで行ってぶっ殺して来てもいいぜ? あの野郎の連れはどいつも良い女だったからなぁ。楽しみってもんだぜ」


「馬鹿が! 油断するな。もしかしたら”牙”と”霧”、総勢六人を返り討ちにしたかもしれない冒険者なんだぞ?」


「ま、まさか!?」

「”牙”のぼんくら共は兎も角、”霧”もまとめて倒したっていうのか!?」


 男もまさかとは思うが、状況的には白髪の少年に恥をかかされた”牙”が”霧”に助力を申し出て共闘した可能性が高いのだ。


 そうだとしても、流石に≪隠れ身の外套≫は舐めていた為に使わなかったのだろうが、どちらにしろ、それらのアイテムも全てあの白髪冒険者に回収されてしまった。そこまでされて黙っている程、うちの組織は甘くはない。


「……あの街なら≪黒星≫のテリトリーだろう? あいつらに任せよう」


「あんなガキに≪黒星≫を!? 第一、俺らの言う事を聞くか?」


「……分からん。無理なら俺がなんとか関所を超える。いいか? それまでは絶対に手を出すなよ?」


 商人風の男は二人に強く念を押した。物言わぬ姿となった斎藤の事は、既に彼らの眼中にはなかった。






 地球とも異世界リストアもまた異なる別次元にある豪邸の室内で、自称地球の女神である観測者アリスは目を血ばらせながら超高速で指を動かしていた。


 地球に飛来してきた流星群による破壊は何とか峠を越えた。魔法というチート能力を封じられた地球でもアリスはやれる範囲の超常現象を駆使して地上への被害を最小限に収めた。


 その結果————惑星そのものの崩壊は免れたものの、あちこちで天変地異が起きていた。今はずっとその後始末に追われている状況だ。


「ぬおおおおおお! 気温がどんどん下がっていくぅ!」

「ああ!? またマグニチュード10.0の局地的大地震が!?」


 アリスは自らが見守ってゆっくり築き上げてきた地球が大好きだ。それは人類だけでなく、動植物や観光名所、人が作った建築物にまで幅広く及ぶ。


「ああ、ピラミッドが崩れちゃう! それだけは止めてぇえええ!!」


 だから必死にそれらを守ろうと全神経を集中させていた。もう地球上の生物全てを転移させてから半年以上は経過したが、彼女は未だ一睡もしていないのだ。


 そんな彼女の横で先ほどまで惰眠を貪っていたもう一人の観測者、自称リストアの唯一神ミカリスが声を掛ける。


「ふわぁ~、まだやってるのアリス? もう諦めて魔法解禁しちゃおうよ! もしくはまた初めから文明作り直そ?」


「ミカは黙ってて! ああ!? シュケリッグ・ヴィヒルが大津波で崩れていくぅ!? うわあああああん!」


 阿鼻叫喚な同僚を尻目に、ミカリスは瞼を擦りながら自分の観測している世界、リストアへと視線を送った。


「うん、やっと地球人も現地人と交流し始めてきたかな? でも、思った以上にみんな奥手だねぇ。全然町や村に足を運ばないし」


 余計な混乱を避ける為、スタート位置を人気のいない場所にしたのが不味かったか、地球人たちはどれも生きるのに精いっぱいなようで、ミカリスが期待していた積極的な文化交流が全く進んでいない状況であった。


 それが最近になって漸く解消され始めてきた。


 既に何人かは大きな街に入り込んで生活をしているし、とある大国なんかは異世界人の存在に気が付いたのか、必死に囲い込もうと躍起になっていた。


「おや? ここは日本政府のコミュニティだっけかな? へぇ、随分面白そうな事やってるねぇ!」


 だがミカリスは基本何もしない。余程の事がない限りミカリスはただひたすら観測しているだけだ。


 偶に魔物やダンジョンを生成するのにポイントを消費させているが、それも殆ど自動操作で、基本的には不干渉を貫いている。


「あ、これって日本刀男に斬られた彼じゃん。なんか髪白くなって若返ってない?」


 以前、アリスと一緒に転移作業を行っていた際、若干・・贔屓した青年だ。今の姿は最早少年と呼べるくらいの外見だが、彼は確か死にそうだったところをアリスが勝手に初期ステータスを弄っていたのだ。


 通常特殊な条件が揃わなければステータスを直接弄る事はできないが、彼は転移直後のボーナスという機会を生かして、アリスが勝手にステータスUPボタンを連打していたのだ。


 ふと気になったミカリスは彼のステータスを視る事にした。確かあの時は瀕死状態を何とかしようとアリスが、彼の体力や力を僅かに上げていた筈だ。その後、魔力がどうとか…………


「…………え? なにこれ?」


 そこに記載されていた数値にミカリスは凍り付いた。正直力とか体力など、どうでも良くなっていた。だって魔力が……



 魔力:3,304,901



「え? え? 何これ? 魔力330万!? あれれぇ?」


 ミカリスは咄嗟に原因だと思われる同僚の方に顔を向けた。


「いよっしゃー! アリス様に掛かれば台風如き、へっちゃらよ! ああ!? こいつ、隣の台風とくっついて巨大化した!? ざっけんじゃねーよ!!」


 さっき以上にヒートアップしていた今の彼女に声を掛ける勇気はミカリスにはなかった。


 再び彼のステータスを凝視する。どう見ても魔力330万オーバーだ。確かこの世界の過去最高魔力数値が150万程だと記憶しているので、彼はそれを大幅に更新したものと思われる。


 明らかに異常な数値だ。


「…………ま、いっか。二度寝、最高!」


 ミカリスは同僚の断末魔を子守唄に、再び眠りにつくのであった。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:時を操る魔法はありますか?

A:お答えできません。魔法やスキルはあまり一般的な常識には含まれませんので、各々現地で情報を集めてください。以降、魔法・スキル関連の質問を禁じます。

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