第11話 辺境の冒険者
一カ月前、自国の最東端で起こった騒動に関する報告書を読み終えたアルバート・ロイ・エイルーン国王は、目の前にいる宰相と、この件の責任者である文官を顰め面で見た。
「結局、この一件の責は誰にあるのか。この報告書にはそこが書かれておらぬが? お主が答えよ」
王は青い顔をした、責任者である文官を指名して問い質した。
「そ、それは……現在も、証言を精査しているところでございまして、まだ……」
ハッキリとせぬ物言いに王は苛立ちながらも我慢していると、横から宰相が口を挟んできた。
「恐れながら陛下。此度の件はランニス家とデルーム家との諍いが発端となりますが、その原因はデルームの長男にございます」
「余はそやつに問い質したのだが……。お主、宰相の言う事に間違いはないか?」
再び問われ、文官は震えながらも首を縦に振り「間違いございません」と答えた。王宮通いの文官といえども、この国のナンバー2である宰相とは位に差がありすぎる。堂々と否定出来る訳がなかった。
「……ふん、確かに事件の直前、大勢の兵を連れてこのケイネスとかいう阿呆が森へ向かったのは裏が取れている。だが肝心のこやつは行方不明……まあ、状況から察するに死んだのであろう? では、責任は一体誰が取るのだ?」
「そ、それは……」
再びまごつく文官に嫌気が差した王は議論する事を止めた。
「もうよい。この件は余が裁く。お主、もう退室してよいぞ?」
「は、ははぁ! し、失礼致します!」
漸く退室の許可が下りた文官は、慌てて執務室から出て行った。その姿を見ていた王は呆れた様子で宰相に問い質した。
「おい! なんであんな見習い小姓のようなオドオドとした奴が開拓管理の統括をしておるのだ? さっさと首にして別の物を用意せよ!」
「恐れながら陛下。ああ見えてあの男、コボルト並みの臆病さ以外は優秀なのですよ。どうかお慈悲を……」
「…………なら、図太い文官を統括に置いて、奴を補佐に付けさせろ。あれでは上級貴族の傀儡だぞ! 全く……」
愚痴をこぼしながらも、アルバート王は先ほど目を通した報告書を再度見た。
「しかし、あの森にAランク上位の魔物がいようとは……報告によれば討伐者も不明とあるが、何か情報はないのか?」
「申し訳ございません。人相などはランニス家の者が確認しておるのですが、該当する人物の発見には、未だ至ってはおりません」
件の魔物を倒した功労者は、討伐を終えると直ぐに行方を眩ませたそうだ。その容姿は10代後半と若く、この辺りでは珍しい真っ黒な黒髪の青年だという。
実はこの報告はケイヤが作為的に誤情報を入れていた。確かに見た目は10代の矢野一心だが、実際の年齢は29才で鑑定にもそう出る。そして何より今の彼は白髪だ。一心はこの世界に転移した際、瀕死の状態から蘇った影響か、元の黒髪が白髪へと変化していた。
その事を本人から聞いていたケイヤは、事件後の報告では黒髪の少年だったと偽ったのだ。いくら恩人とはいえ、自分も国に仕えている身で全く出鱈目な事を言う訳にもいかず、保険の意味でもそう答えた。万が一露見した時には“黒髪から白髪に変わった”と言い逃れする腹であった。
「まあ、よい。出てこないという事は表舞台に立ちたくないという意思表示だろう」
恐らくA級冒険者以上の実力者だと思われる逸材だが、出てこない者を探し回るほど王国も暇ではない。
「それとデムール男爵家は領地を没収。降格は見送るが家督はマシな者に継がせてキースは隠居させろ!」
「は! しかし、保守派が黙ってはいないかと思いますが?」
「下らん! 保守派でも革新派でも誰でも構わぬから、もっと使える代理の者に統治させよ! 余の眼鏡に適う者を推薦できねば、あそこは当面王領地とする旨を侯爵どもに伝えておけ!」
「は! 陛下の仰せの通りに」
宰相の返事に、これでこの件は終いだと区切りをつけると、そういえば気になっていたことを王は尋ねた。
「そういえば宰相。今年は西やルルノア大陸からの商人がまだ来ておらぬというのに、塩や香辛料の価格が安いのは何故だ? どこかで新たな卸しルートでも見つけたのか?」
王の問いに宰相はピクリと眉を動かすも、声色はそのままに淡々と答えた。
「どうやらそのようなのですが、出所がまだはっきりと掴めておらぬのです。何でも南の方からかなり品質の高い塩を売る商人が現れた、と申しておりました」
「南……北からではないのか? それは意外な所から出てきたな」
エイルーンの南側はタシマル獣王国という獣人の国家が存在する。沿岸部の多い国とされているが、彼らは王国や帝国と比べるとやや文明開発が遅く、船などでの交易は殆ど行っていない。また商売にも興味の無い部族が多い為、南方から塩が出回る事は大変珍しかった。
一方王国の北側は北方民族自治区という国扱いではないものの、エルフや獣人たちの集落が点在しており、人族にとっては基本不可侵な領域となっている。
とはいっても、それはあくまで政治的、軍事的な意味であり、個人的な往来や商売のやり取りをしている集落も存在するので、そこまで封鎖的な場所という訳ではない。
彼ら北方民族の住む更に北には広大な森とバーニメル山脈が連なっており、人の足でそこを通り抜けるのはなかなか至難の業だ。
その更に北には人族たちが支配する広大な領土があり、半島内よりも一歩も二歩も先へ進む文明国家が点在する。メルキア大陸の中央部と呼称され、バーニメル半島の国々は田舎者扱いされているのが現状だ。どうしても山脈越えがハードルを高くしており、中央部との行き来が少ないのがネックとなっていた。
偶に船や命知らずの山越えをして来た商人たちから、中央の商品や情報を仕入れてはいるが、港町を持たない王国には中央との関わり合いがほとんどない。
「分かった。その件は引き続き調査させよ。それと最近教会の連中が活発的なようだが、何かあったか?」
「はて……教会、ですか?」
ここメルキア大陸に宗教は大小あれど、最大勢力と言えばオールドラ聖教だ。
この世界の宗教は、その殆どが創造神ミカリスを讃えた集団である。その中でもオールドラ聖教は最も歴史が有り、信者の数も一番多い一大宗教だ。国によっては、聖教以外は全て邪教扱いされるくらいには各地で普及されている。
ここバーニメル半島にはそこまで信心深い国家は存在しないが、それでも町や村のあちこちに教会が建てられており、冒険者ギルド・商業ギルドと並んで世界規模の組織となっている。
その教会だが、最近少々動きがおかしいのだ。司教クラスの急な配置換え。集会の頻度上昇。最近では西バーニメル通商連合国に大教区長が視察に来たという情報も掴んでいた。
このバーニメル半島は、残念ながら人族の支配領域の中でもどちらかというと地方と呼ばれるような立地であった。そんな半島に教会の幹部クラスが来る事は稀で、過去で二例目となる珍事だ。
「申し訳ございません。大教区長が西にいらしていた事は知っていたのですが、理由についてまでは存じ上げません」
宰相の返答に王は顔をしかめた。アルバート王は王政以外の教会やギルドといった勢力、特に宗教には異常なまでの警戒心を抱いていた。
「ううむ、何事も無ければよいが……」
時は少し遡り、イッシンとケイヤが別れたあの日、世界の各所ではとんでもない大騒ぎとなっていた。
「猊下! こ、これを見てください!!」
振り返ると枢機卿が慌てた様子でこちらへと駆け寄る。その姿にオールドア聖教の教皇は既視感を覚えた。そういえば半年以上前にも似たような事があったのだ。まさかと思い彼の手に持つものを見ると、それは持ち出し禁止のマジックアイテム、聖書であった。
「枢機卿、またそれを持ち出してくるとは……もしや?」
それを見た教皇は叱りつけるより先に彼の話に耳を傾けた。
「そうです! 遂に、あの『
「おお!! して、その魔法名は……!?」
教皇が尋ねると、枢機卿は今更ながら周囲の視線を気にし始めた。聞き耳を立てている者はいないようだが、念のため口にはせず、直接彼に聖書を開いて見せた。
「――――っ!? やはりか!! おお、大いなる創造神ミカリスよ! 遂に私たちは貴方様からの贈り物の一つを取り戻せたのですね!」
聖書は光属性の魔法限定で、この世全ての魔法名が記載された魔導書だ。そこの十二番目の欄にはこう書かれていたのだ。
――――リザレクション 習得者:1名――――
「名称から察するに復活呪文で間違いありません」
小声でそう補足した枢機卿に教皇は頷いた。
「そうでしょうね。枢機卿、改めて各地へ調査に出ている信徒に指示を出してください。“使者様は奇跡の魔法を所持しておられる”と」
「御意!」
またしても慌ただしく去っていく枢機卿の後姿を見送ると、教皇は今後の展開について頭を巡らせた。
(失われた十二番目の魔法は大方我々の予想通り、どの組織よりも我々が一歩抜きんでている筈だ)
だが光属性魔法が記載されている魔導書を所持しているのは、何も教会だけではない。聖書や、更に上位版である魔法書を所持していれば、十二番目の
死者蘇生の復活魔法
それに飛びつかない権力者などいる筈もない。今頃、聖書や魔法書を所持している組織は大慌てで捜索に打って出るだろう。十二番目の魔法使い捜索を――――
「……間違いないのだな?」
「はい、陛下。十二番の
メルキア大陸中央東部に位置するバハームト王国でも、欠番魔法について大騒ぎであった。この国には国宝となる魔法書が存在する。魔導書の中でも最高峰である≪魔法書≫は属性問わず全ての魔法名と所有者の数が記載されている。
「やれやれ、魔法使いの大量出現に続いて今度は禁忌の魔法とは、神もお遊びが過ぎる。困ったものだな」
王の軽口に周りは苦笑した。本来ならば混乱に陥りそうな事態だが、そんな中でも笑みを浮かべている者がちらほらいるのには理由があった。
「これもチキュウから来たという異世界人の仕業なのでしょうか?」
「さて、どうだかなぁ……。それに彼らは最下級の魔法しか持っていないという話ではなかったか?」
メルキア大陸でも最大規模を誇るこの国では、遂に地球人の情報を入手していたのだ。
「あくまでこちらの世界に来る時点では、という話でしたな。中には才覚のある者もいるとは聞いておりますが、今は良くても中級魔法止まりです」
半年以上前に起こった、最下級魔法の習得者が大幅に増えた事件。バハームト王国はその原因を突き止める事に成功した。それは今でも信じがたい事実だが、別の世界に住む者たちが一斉にこの世界へ移り、その際に創造神ミカリスと比類するという女神からスキルを授かったという話であった。
しかもその総人数は80億人超えという、何とも馬鹿げた数字である。この世界の人口など知りようも無いが、女神の話ではこの世界の総人口以上の人があちこちに飛ばされて来ていると異世界人たちは証言するのだ。
それが真実だとしたら魔法書に記載のある習得者人数が激増したことにも得心がいく。魔法書が壊れたという話の方がまだ信憑性がありそうだが、実際に国内の隅々を見回らせると、それらしい集団を幾つも発見したのだ。これではその荒唐無稽な話も信じる他あるまい。
「陛下、この件どうされます?」
当然十二番目の魔法習得者を捜索するのだろうと考えていた大臣たちだが、王は思いもしない返答をした。
「放っておけ。流石にこれだけのヒントでは探すだけ時間と労力の無駄だ。それよりも異世界人を集めて保護させよ! それもできるだけ他国には内密にで、だ」
確かに死者蘇生の魔法は魅力的だが、それは個人的な感情だけであり、国全体として考えればそこまで価値がある訳でもない。
十二番目の魔法は恐らく、というか間違いなく神級魔法だ。噂では神級魔法はその桁違いの威力故に、その消費魔力量も膨大だと耳にしている。そこまでの魔力を使って生き返せる人数は何人だ? もし一人だけだというのなら目も当てられない。
それなら上級魔法を何発も撃って大勢の敵を殺す方が戦争では遥かに効率的だ。それにそんな奇跡みたいな魔法使いを囲ったところで、他の勢力から執拗に狙われるのが関の山だ。死者を蘇らせる魔法使いを守るのに屍の山を築いていては何の意味もないのだ。
(まぁ、娘や息子が死んだら、その時には血眼で探してみるか)
ハバームト王はそんな事よりも、異世界人の持つ知識の方に興味があったのだ。
開拓村での悲劇から一カ月後、ケイヤと別れた俺は北西部にある町を目指した。
念の為、男爵領であるムイーニを避け、俺はカプレットと呼ばれる辺境町へと辿り着いた。そこもムイーニと似たような環境下に置かれ、町の東部には未開拓の危険な森が存在した。
ただしデルーム男爵領のような開拓村は無く、その森は主に冒険者たちの探索場所としてのみ利用されているだけであった。その森は浅い場所でも多くの魔物が散見されているので、今の状況ではとてもではないが開拓などできない。
俺は腕磨きと資金稼ぎを兼ねて、その危険な森を散策していた。お陰で今は冒険者ランクもE級となっており、もう少しでD級に昇格するのではという段階にまできている。
D級になると一端の冒険者扱いで、依頼の選択肢も増えるので馬鹿にはできない。D級なら商人の護衛依頼なんかもギリギリだが受けられるレベルだ。
(まぁ、今のところ護衛の類は受けたくないけど、昇級はしておきたいな)
未だ胸を張って自分の身を守れるとは断言できない腕前だし、まだまだこの世界の常識も欠けているかもしれない。そう考えてこのカプレットの町で研鑽を積み重ねているが、そろそろ次のステップへ踏み込みたいと考えていた。
丁度そんな事を考えている時であった。
森の奥から人と魔物らしき騒々しい声が聞こえてきた。
「くそ! 俺がこいつらを押さえる! お前は町へ戻って応援を呼んで来てくれ!」
「一人でなんて無茶よ!? それに、怪我をしたコランコも置いてだなんて……っ!」
不穏な気配を感じ取った俺は、すぐにそちらへ様子を見に行ったのだが、どうやら怪我を負った冒険者たちが魔物の群れ相手に奮闘しているようだった。ただし形勢はあまりよくはない。先ほどの会話を盗み聞きしていた俺は助力する事にした。
「おい、E級冒険者だ! 助けが必要か?」
「――っ!? 助かる!!」
「お、お願い!!」
そう答えたのは、一人で複数の魔物を相手取っている剣士の男と、ローブに身を包んだ女冒険者であった。その傍には一目見て重傷だと思われる男の姿も見える。合計三人組の冒険者パーティであろう。
俺はこの町で購入した安物の剣を鞘から抜くと、剣士を挟み込もうとしていた狼タイプの魔物へ斬り込んだ。
グルゥ!?
軽傷だが、傷を負った魔物は警戒したのか俺から距離を取った。そこへチャンスとばかりに背後の女冒険者が声を上げた。
「君、左へずれて!!」
「――っ!」
彼女の意図を感じ取った俺は咄嗟に左へステップした。その直後――――
「――――【ブレイズ】!」
力強い炎の弾丸が先ほどの狼へ向けられて放出された。【ブレイズ】とは火属性の下級魔法であり、最下級魔法【ファイア】より一つ上のランクに相当する攻撃魔法だ。下級とは言ってもその効果は十分で、討伐難易度の低い魔物相手であれば必殺の威力となる。
意表を突かれた狼は直撃し、全身炎に包まれながら転げまわるも、その内力尽きてそのまま動かなくなった。
「よし! そのまま俺は左のルプスたちを押さえる! 一匹任せてもいいか!?」
「ああ、問題ない!」
剣士の言葉に俺は力強く頷く。
こいつらの名前はルプスという狼タイプの魔物だ。討伐難易度はDランクと俺の冒険者ランクより上だが、こいつらに関しては群れている事が多く、それを加味しての難易度設定だ。タイマンであればE級でも問題ない相手だという事を俺は知っていた。
(さっきまで四匹相手に一人で前衛を張っていたのか。彼は多分D級以上だろうな)
それに背後にいる彼女も魔法使いとして優秀なのだろう。最下級魔法を扱える者はそこそこいるが、冒険者界隈では下級魔法の習得こそが魔法使いを名乗る最低条件なのだそうだ。
さっきの攻撃魔法を見るに、魔力量や技術力も高そうだ。優秀な魔法使いなのだろう。
形勢は完全にこちらへと傾いた。元々二人の能力も高かったのだが、怪我人を抱えた上での人数差に苦戦を強いられているだけであった。仮に剣士の指示通りに魔法使い一人だけ離脱したとしても、もしかしたら勝ちは拾えていたかもしれない。そう思わせるくらいには剣士の男も強かった。
残りのルプスを倒した俺は剣を収めると、剣士の男がこちらへ近づいてきた。
「助かった。俺はマルコ、冒険者パーティ名は≪雷名の炎≫だ。町に戻ったら後で改めて礼をさせてくれ」
そう告げると男は怪我をしている男を背負った。
「悪いが解体する時間も惜しい。そいつらの素材は好きにして貰って構わないから、先に失礼するぜ」
一刻も早く仲間を治療院に連れていきたいのであろう。そんな彼らに俺は声を掛けた。
「俺は回復魔法を扱える。見せてくれないか?」
「本当か!? 頼む!」
「お願い! わき腹を大きく斬り割かれているの!」
容態を伺った俺は念の為、他に傷が無いかを確認した後に【ヒール】を発動させた。以前ケイヤから教わったが、回復魔法は患者の状態を確認した方が、その分魔力量も抑えられ、効果も上昇すると聞いていた。
だが俺は回復魔法だけに関しては、その膨大な魔力量を惜しみなく注ぐことができる。もしこれが緊急なら手順を省いたかもしれないが、一応周囲の目を気にする事にして、一般的な治癒魔導士の真似事をしてみせたのだ。
「おお!? 傷があっという間に……っ!?」
「これが【ヒール】!? 【ミドルヒール】じゃないの!?」
俺の魔力量と効果は異常だったのか、二人は驚いていたが俺はそれに苦笑いを浮かべるだけではぐらかした。
治療を終えた俺は二人から物凄く感謝され、治療代を払うと言われたのだが遠慮した。だがそれを不服と思った剣士のマルコは、それならルプスたちの解体作業を手伝わせてくれと提案し、俺は了承した。
先輩冒険者たちの解体作業を生で見られる上に、その素材も全て俺の物となるのだ。これは非常に有り難かったので遠慮なくその提案を受け入れた。
「へぇ、三人ともD級冒険者なんだ。てっきりC級かと思ったよ」
怪我をしていたもう一人も目を覚まし、問題なく解体作業を終えた俺たちは、町へ向かう道中雑談を交わした。
この三人、≪雷名の炎≫は同じ村の出身でずっと一緒に冒険者をしているそうだ。リーダーの男剣士であるマルコ、女魔法使いのココナ、それと怪我をしていた男は
「まぁ、D級になってから長いからな。もうちょっとでCに届きそうなんだが……」
開拓村にいた元冒険者であるマックスからも話を聞いていたが、D級は年季さえ重ねれば普通は成れると言っていたが、C級からは冒険者活動の量よりも、質の方を審査されるらしい。よってなかなかC級に上がれず、燻ぶっているベテラン冒険者も多いそうだ。
だが彼らの年齢は俺よりも年下で二十代前半だ。それでCの手前だとすれば、かなり有望な冒険者だと言えた。
「しかしこっちの方も驚いたぞ。イッシンが俺らより年上だって方がな……」
「本当ですね。その外見で29才って、エルフ族じゃないですよね?」
マルコの言葉に同意して頷いたのは、すっかり怪我の治ったコランコだ。
彼らは俺の実年齢が29才だというと酷く驚いていたが、それも無理はない。俺自身よく分からないが、この世界に来て瀕死状態から復活したと思ったら、どうみても10年分くらいは若返っていたのだ。
最初は無理やり回復した副作用と思っていたが、もしかしたら地球からの転移者は全て若返って復活するという特典でもあるのだろうか? 一人で転移したうえ、未だ誰一人地球人と遭遇していない俺には判断しようもなかった。
「それに冒険者活動を始めてまだ半年というのも驚きです。以前はどこかで傭兵でもしていらしてたんですか?」
「いや、ちょっとだけ自警団に参加していたくらいだ。きっと師匠が優秀だったんだろう」
開拓村の自警団と一緒に訓練したり、狩りに連れて貰った事はあるが、特別な何かをした訳ではない。強いて言うならケイヤに多少、武術の心得を習った程度で、その練度もまだまだ未熟だが、あの一件以来俺は訓練を欠かす事はしなかった。もう力不足で泣きを見るのは御免だったからだ。
それにしてもコランコの口調は丁寧だ。冒険者同士は基本溜口で、俺も彼らが年下だと分かると互いに気兼ねなくフランクな口調となったが、コランコだけは敬語のままだ。
最初は命の恩人である俺に遠慮しているのかと思ったが、どうも彼は普段からこんな喋り方らしい。何でも将来を見据えて、貴族からの依頼もある時にうっかり口を滑らせないよう普段から丁寧な言葉使いを心掛けているそうだ。それもあってか、このパーティでの交渉事は基本彼が請け負っている。我がパーティの頭脳だとマルコは彼の事をそう紹介していた。
そろそろ町が見えてきたというタイミングで、紅一点であるココナがマルコに声を掛けた。
「ねえ、マルコ。イッシンならあの件、丁度良いんじゃない?」
「――――っ!? 成程、確かにそうだな!」
「ええ、僕も良いと思います」
ココナの言葉にマルコとコランコも頷いていた。その様子に俺は首を傾げた。
「実は俺たち、この町にあるダンジョンに挑戦中なんだが、ちょっと戦力不足でな。募集を掛けてはいるんだが、中々いい奴が見つからないんだ」
「ダンジョン!?」
詳しく話を聞くと、彼らは元々ダンジョン攻略が目当てでこの町へと来たらしい。何度か挑戦したそうなのだが、どうしても人手が足らず、攻略が捗っていないそうだ。今回森に来ていたのは、人数募集をしている間の繋ぎとして、魔物の討伐や素材収集をしているだけであった。
そこへ不運にも討伐難易度Cランクの魔物、アサシンクーガーに奇襲され、何とか撃退するもココナを庇ったコンラコが重傷を負い、町へ戻る最中にルプスの群れと遭遇した、という経緯らしい。
「どうだ? 一緒にダンジョン探索してみないか?」
彼らの提案に、俺は即座に頷いた。
――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――
Q:異世界の神様のお名前を教えていただけないでしょうか?
A:ミカリス
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