第2章 無人島編

第12話 サバイバル

目の前には砂浜と大きく広がる海。


俺は今無人島にいる。


そして隣にはリカちゃんではなく毒聖女がいる。


「なあニナ、ここはどこだ?」

「知らない」

「そういえばニナは双剣をいつも持ち歩いてたよな?」

「ない、始祖様盗った」


魔女の村では修行にならないとロリババアに文句を言ったら、突然無人島に投げ出されてしまった俺たちはここで三ヶ月間生活することが修行になるらしい。


ただし、武器も食料もない。


俺は自由に魔法を使っていいとババアは言っていたがそもそも俺は魔法自体使えない。


隣にいるニナもババアによって今まで覚えていた魔法は使えないよう封印魔法がかけられている。


「本当に魔法使えないのか?」

「聖なる炎よ・・・・ダメ、魔力なくなる、無理」

「でも魔力自体は感じるし、身体強化はできるよな?」

「できる、当たり前」


俺たちはまず食料を探しつつ周囲の状況把握をすることにした。


無人島と言っていたので狭いかと思っていたが奥には山もあり、ただの小島ではないように感じる。


それとまだ遭遇したわけではないが、魔獣や動物の魔力を感じるとニナが言っていた。


「肉いる、肉食べたい」


気候は過ごしやすいが風が吹くと少し肌寒い。


日中でこれなので夜はもっと冷えるかもしれない、そう思っていた矢先、雪が少しちらつく。


「早めに安全な寝床を確保しないといけないな」

「愛の巣作る、でも交尾ダメ」

「ああ、部屋は2つ欲しいな」


こんなとき洞窟でもあればいいのだがそう都合よくはいかない。


海から少し離れたところに見晴らしのいい高台があったのでそこを当面の活動拠点とすることに決め家づくりを始める。


身体強化した状態で魔力を纏った拳で木を切れないか試してみる。


何度かの打撃で木を倒すことはできたが、ささくれていてあまりいい材料になりそうにはない。


俺が木を倒すのを見ていたニナが勝ち誇った顔でこっちに来る。


「拓矢、お手本」


そういってニナは隣にあった木を魔力を込めた手刀で切り倒す。


「ニナすごい、もっと切ってくれ」

「教えるから拓矢やる、ニナ肉係」


ニナが言うには魔力は操作次第でどんなものにも変化するらしい。


「魔力行使させたもの、炎、毒、癒し、それが魔法」


魔法使うには見て、体感して、理解する必要があり、それを補助するのが詠唱らしい。


ロリババアも似たようなこと言っていたがニナの方がわかりやすいな。


「で手刀で木を切るにはどうしたらいい?なんて魔法だ?」

「魔法違う、魔力基礎、基礎変化、でも一番難しい」


あれは無詠唱の無系統魔法のようなものと俺は理解したが、どうやらニナの無詠唱魔法は封印されていないみたいだった。


試しに「ニナ毒の手刀やってみて」というとあっさり木を溶かし切っていたので間違いないみたいだ。


つまりあのロリババアは既存の人に教えられる詠唱魔法ではなく、自分たちでオリジナルの無詠唱魔法を生み出させ、ニナの言う魔力の基礎を鍛えさせたい、そのための無人島サバイバルなんだと初日で気がついてしまった。


だが言うは易し、魔力変化のコツをニナに聞こうとしたのだが。


「肉狩ってくる」


そう言い残し山の方に消えて行った。


その後はひたすら「手は剣」だと念じながら手刀をふるったがうまくはいかない。


できないことに今は時間を使えないので仕方がなく、家の構造を頭で設計しながら細い木や長い枝を探す。


釘もネジもないので木の皮を削り紐代わりにし細い木を縛りテントの骨組みのように立てていく。


あとは、はっぱのついた枝や背丈の高いイネ科っぽい草を探し集め屋根にする。


日が暮れる前には、とりあえず雨と雪はしのげるテントが完成した。


雨風と言わなかったのは隙間が多く入り口が開いたままだからである。


ところで狩りに行ったニナはというと、立派な鹿を狩って戻ってきていたが、肝心の火がないので毒で調理できないか試そうとしていたので全力で止めた。


「ところで下処理で血抜きや内蔵出したり捌いたりはしないのか?」

「丸焼き、焼けばなんでも大丈夫」

「いや火がないから焼けないだろ」

「生でかじって食べればいい」


仕方がないのでニナとシカの処理をすることにする。

シカを持って海に行きニナに頭を切ってついでにお腹も裂くよう指示を出す

そのままシカが流されないよう岩場に固定して海水につけて血抜きをしながら内臓を引っ張り出す。


木にぶら下げてやってもよかったのだが、血の匂いで獣や変な虫が湧くと嫌なので内蔵を洗う目的もあり海に来ている。

たしか、どこかの猟師も血抜きは小川につけてやると聞いたことがある。


前世の知識が役にたっている、とはいえシカを捌いたことはなく知識だけで、大型魚と思えばグロくはない、よく切れる包丁があればなおよかったんだが。


「ニナ、細かく切れる?」

「できる」


そういうと人差し指、いや爪に魔力を集中させていく。

腹の切れ目から皮を削ぐよう指示すると上手に削いでくれる。


(大雑把かと思っていたけど細かい作業は得意なんだな)


シカを解体し終わったのはちょうど太陽が海に沈む少し前だった。

目の前には肉の塊はあるが肝心の火がない。

隣にいるのがカトレだったらすぐに火が出てきそうなのだが。


「そういえばカトレは無意識に火を出してたよな」

「カトレ火得意、ニナ苦手」

「コツとか聞いたことないの?」

「熱く燃える自分を燃やす、ニナ理解できない、毒簡単、血で敵殺すイメージ」


(やっぱり魔力をイメージで変化させるのか、魔力を熱く高温になるイメージ)


俺は指先に魔力を集め火をイメージする。


(火は何かが燃える、何が燃えてるんだ?ガス?酸素!それに炭素。確かガスは炭素と水素の化合物だったような、それが酸素と結合して水と二酸化炭素になって・・)


具体的な火のイメージと燃える炎の熱さを思い出す。


「拓矢、青い炎!」

「ああ、出たね」


火を作りだせたことで調理と夜の間の暖をとる焚火が用意できた。


焼いたシカ肉は海水につけていたおかげで多少塩味は効いていたが野性味あふれる味だ。


「お腹いっぱい肉最強」

「ニナのおかげだな、明日も頑張ろう」

「奥に肉たくさんいた、明日もっとでかい肉狩る」

「いや、今日の分もまだ食いきれてないのにいらないよ」


余った肉はテントの中に干してあるので今晩は肉を見ながら眠ることになるな。


「ところで危険そうなやつはいたか?」

「奥の奥、魔力感じた。でも大丈夫、こっちこない」

「なんで言い切れるんだ?」

「こっち獲物いない、ニナたちだけ」

「そうかニナが言うなら信じるよ」

「任せろ、ところで拓矢、今日抜かないのか?」

「抜かない、寝言は寝て言え」

「そうか、ならニナ寝る」


その晩俺はなかなか寝付けなかった。






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