第10話 遠のく思い

ゴブリンロードの襲撃によって全滅しかけた俺たちはロリババアの気まぐれに助けら

れた。


俺に施していた刻印には魔力を解放したら場所をロリババアに知らせる機能が隠してあったらしい。


契約で魔力開眼を隠すことにしていたので契約違反を瞬時に見抜けるようにしていたとロリババアはあとで説明してくれた。


だがそのおかげで俺たちは助かった。


ロードを消した後ロリババアは周囲にいたゴブリンに対し殲滅という名の八つ当たりをしていた。


「ニナ、みんなは?」

「大丈夫、ニナ回復魔法得意」


ニナの回復魔法によってカトレ、エレナ、リカは一命を取り留め、今はまだ寝ている。


といってもあのロードは最初から殺す気はなかったみたいだが。


「くそ、あのゴブリンどものせいでわしの計画が台無しじゃ」

「計画って何のことだ?」

「そんなの拓矢育成計画に決まっておろう」

(ゲームみたいに言うなよ)

「いや、お前が魔法とかもっと早く教えてくれてれば何とかなったんじゃないのか?」

「ん?付け焼刃の魔法でどうにかなる相手じゃなかったじゃろ。それにしても最近の若い奴らは情けない、のう毒聖女ニナ。もっとしっかりせい」


どうやらニナの二つ名は毒聖女でエレナと同じ聖魔法使いだったのだ。


(毒聖女ってどんな二つ名だよ。でも納得はできる)


「た、た、た・く・や。このは?」


ニナが目を潤ませながら俺に聞いてくる。


「さっきも言ったろ、妖怪ロリババアだ」

「馬鹿もん!わしは美少女フィオナ様じゃ!」

「あれ?お前正体隠してたんじゃないのか?」

「しまったぁぁぁ、さっきのは嘘じゃ。忘れろ小娘」

「始祖フィオナ様、納得、最強」


「ところでなんで正体隠してるんだ?村のやつらみんなお前の子孫だろ?」

「ん?滅多に会えない存在の方がカッコよかろう。それに俗世に関わり過ぎると面倒なんじゃ」

(俺にはガッツリ関わってるくせに何言ってるんだ?)


その後フィオナが村まで転移魔法で送ってくれたのはいいのだが、今すごく気まずい雰囲気の中にいる。


村に戻った俺たちは倒れた3人を救護所に運び、フィオナ、俺、ニナ、それとフィオナに呼び出された村長マリアと長老のルミナ5人で今後について話をしている。


フィオナが不機嫌な顔をしているのでとても空気が重い。


俺以外の3人はフィオナに頭が上がらずかなり委縮してしまっている。



「今回の件、どうするつもりなんじゃ?ロードごときに勝てぬ3人、間違えば馬鹿魔王が復活しておった状況、わしの拓矢を・・・いや異世界人二人をいきなり危険にさらした失敗、どれも最悪じゃぞ」


(フィオナがすごくもっともらしいことを言っている)


「申し訳ございません始祖様、まずは我らの失態を手助けいただいたこと誠に感謝いたします」

「ご指摘いただいたこと弁解のしようもありません、わが娘エレナと他2名もう一度鍛え直させます」

「ニナ頑張る」


(こういう時は空気になるのが一番だと俺は知っている)


「では以下の条件で許してやろう」


このババアは最初から落としどころを用意したうえできっと話を進めている腹黒ババアだ。


フィオナが出してきた条件はこうだ

・今回始祖フィオナが現れたことは秘密にすること

・ゴブリンロードはたまたま通りかかったルミナがニナと拓矢の協力を得て倒したことにすること

・拓矢は死の淵に立たされたことで魔力開眼したということにすること

・これらすべてここだけの秘密にすること、倒れていた3人にも話してはいけない


「それとマリア、エレナと異世界の娘を教会のエリクトのところに送り修行させて来い。カトレはルミナお前が何とかしろ」

「始祖様、ニナも教会行く」

「お前はワシが鍛えてやる。秘密を知った人間は傍に置いておった方がいいからの、体を一から作り直してやる」

「ニナ感激」


「ちょっと待てババァ・・フィオナ。リカちゃんも教会に行くのか?」

「そうじゃ、それが小娘のためじゃ。ハッキリ言ってお前に守られながらじゃ強くはなれん」

「でも俺が強くなれば彼女は強くなくても・・」

「では次は助けんぞ、ゴブリンに犯され喰われた姿をお前は見たいのか?」


何も言えなかった、この世界は以前の世界とは比べ物にならないくらい過酷な世界だ。


目の前で3人の女性が倒れ、殺されかけた上に俺はリカちゃんを守れなかった。


救護所で寝ていた3人はその日の夕方までには全員目が覚め、マリアに事の顛末を聞かされていた。


俺は話し合いが終わった後いつもの湖のほとりで眠っていた。


これからのこと、リカちゃんとのこと、わからないことだらけである。


(せっかく死に戻ってリカちゃんとやり直せそうになっているのに、離れ離れになるなんて、運命って変わらないんだな)


「でニナはなんでここにいるんだ?」

「始祖様、ニナに拓矢監視、命令。悪い虫つかないよう見張る」

「そうか、もうすでに妖怪ロリババアがついてるけど取ってくれるか?」

「それは無理」

「ところで教会ってどんなところだ?」

「安心しろ拓矢、教会女の巣窟、幼少期に3年修行したエレナの性格見ればわかる」


(リカちゃんにほかの男の心配はないが、俺との恋路は遠のくってことだな)


その晩3人の様子を見に行ったとき、エレナとリカちゃんは俺の顔を見るなり泣きだし、カトレは悔しそうに笑っていた。


そこからの展開は早かった、エレナとリカちゃんは教会行きを二つ返事で了承した。


「リカちゃん必ず俺も強くなって迎えに行くよ」

「神代さん、私も負けませんよ、私が強くなってあなたを迎えにいきます」

「拓矢さんまた必ず会いましょう」

「ええ、エレナさん。リカちゃんをよろしくお願いします」


「リカ、拓矢は私が監視、あっちもしっかり管理する」

「ニナさんお願いしますね」


ニナが毒聖女ということでリカちゃんは安心しているようだがいいのか?


どうみても痴女聖女だぞ?


異世界に来て20日目、エレナとリカちゃんの旅立ちを見送ることになるとは異世界はわからないな。


ちなみにカトレはというとルミナとすでに修行の旅に出たらしい。


「さて俺も頑張るか」

「ニナも負けない」

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