第8話 星空と燃える空

 道中ひと悶着あったものの、俺たちは予定通りゴブリン村の少し手前で野営をしている。

野営といってもテントなどを準備するわけでもなくただ草原に陣取り夜明けまで時間をつぶすだけなのだが、エレナとニナは二人でゴブリン村の偵察に行ってしまった。

「拓矢はあの動き誰に教えてもらったんだ?」

「え、エレナさんだけど」

「エレナは剣士だ、あんな動き見たことないぞ」

「そ、そうだったかな。俺も必死だったんでどうやったか覚えてない、ははは」

「本当か?私の師匠も似たような動きをしたことがあってな、もしかしたらと思ったが」

「ちなみに、その師匠というのはどんな人ですか?」

(まさかロリババアじゃないだろうな)

「長老のルミナ様で始祖様の弟子だったんだ」

「長老・・・あったことないな。すごい人なのか」

「その長老たちもすごいが始祖様はもっとすごい、かつて魔王を倒した勇者パーティーの大聖女様だったからな。私もいつか会ってみたいよ」

「始祖様って会えるのですか?」

「そうだぞリカ、実はまだご存命で伝説級のお方だ」

始祖様についてリカちゃんが食いついたことでカトレの始祖様についての語りが止まらない。

カトレが言うには始祖様は数年に1度長老たちの前にだけ現れる神のような存在だとか。

聖女なのに前衛に出て戦い、勇者より強く、さらにすべての武器を扱い、バトルマスターや不死身の聖女など様々な二つ名を持っていたそうだ。

(あのロリババアが化け物だってことは再確認できたが、話が誇張され過ぎているような気もするな)

カトレの始祖様語りをリカちゃんは目を輝かせて聞いていた。

しばらくしてエレナとニナが戻り、始祖様伝説はさらに盛り上がってしまい、作戦の話をし始めたのは日が暮れた頃だった。



ゴブリン村には確認できただけで約40体のゴブリンがいて、そのうち特殊固体が5体。

特殊固体とは以前見た体格の違うゴリラのような固体やそれ以上の危険性を持ったゴブリンだそうだ。

「特殊固体が5体か、クイーンはいたか?」

「わからない」

「でも増殖速度から考えるといる可能性はあります」

「クイーンがいなくなればゴブリンの増殖は止まるんですか?」

「いや止まらない、奴らは異種生殖ができるんだ。ほかの生物を犯し種を植え付け、増殖するやばい奴らだよ」

「だから奴らは絶対殲滅」

「でないとまた魔王の一人が復活してしまいまいます」


ゴブリンはかつていた魔王の一人が戦闘兵として生み出した魔王の複製の失敗作。

失敗作だが他の生物を苗床に増殖する最悪の生物。

魔王が滅ぼされた後も生き残りが世界に散らばりいまだに絶滅できない。

時には国が亡ぶほどやばいのだとか。

男の魔王の複製のため通常オスしか生まれないが稀にメスが生まれ、それが大増殖のきっかけにもなり、さらにクイーンから生まれるゴブリンは血が濃く特殊固体になりやすく、それが繰り返されることによって約200年周期で魔王が復活しているという。

「男でも捕まれば純潔を守れない恐ろしい奴、拓矢気をつけて」

「拓矢なら今回の奴らに捕まりはしないだろうから安心しろ」

「リカさんは私が守りますから大丈夫ですよ」

「ということで作戦だが4つに分かれて村を囲み奇襲をかける。私とニナと拓矢が単独で前三方から特攻をかけて数を減らし、逃げ出した奴を外側でエレナとリカが処理してくれ」

「あの?俺一人はちょっと無謀なんじゃないか、初陣だぞ?」

「尻さえ守ってれば大丈夫だ、いざとなったら逃げてもいい。あの速さがあれば余裕だろう」

「もし掘られてもすぐに洗えば問題ない。ニナに任せて」

「神代さん頑張ってください」

「やられても私も浄化魔法をかけますので大丈夫です」

(女は異世界も頭が腐ってるやつが多いのか?ゴブリンの攻撃イコールあれなのか?そんなわけないだろ)

「わかった。頑張るよ」


夜間の見張りは3人で交代でやってくれるそうで、俺とリカちゃんは初めての戦闘に備えて休んでいた。

休むといっても野営は二人とも初めてなので寝付けない、カトレは周囲の偵察に行きニナはもう寝ているがエレナは起きて見張りをしてくれている。

「リカちゃん大丈夫?」

「何がですか?」

「今からのゴブリン退治や、ほらここに、異世界に飛ばされてさ」

「いろいろ思うことはあるんですけど、私、異世界に憧れてたんですよね」

「本当に?」

「本当です。神代さんこそ大丈夫ですか?」

「俺は別に彼女とかいたわけでもないし、家族とも疎遠だったし、仕事は早く辞めたかったからさ、ある意味よかったんじゃないかな」

「仕事辞めたかったんですね。大変そうでしたもんね」

「そう、不便だけどこっちの生活の方が健康的だよ。いろいろ楽しいしね」

「ほんと、女性に囲まれて嬉しそうにしてますよね。それに彼女できそうじゃないですか、カトレさんにあれ誘われてましたし・・・」

「いやないよ、それは」

「本当ですか?美人ですよ?胸も大きいし。じゃあ、どんな人ならいいんですか?」

「リカちゃんみたいな人かな」

「あ、そうですか、ありがとうございます」

(あれ?ものすごく冷たい対応だな。また冗談だと思われているのか?)

「お二人とも、なんだか楽しそうですが少しでも寝た方がいいですよ」

エレナさんは会話は聞こえてないがどうやら空気が読めない人みたいだ。

「すいませんエレナさん、緊張して寝れなくて」

リカちゃんは本当に緊張しているのだろう、だが俺違う。

フィオナとの基本朝まで続く修行と以前から昼夜逆転生活を送っていたせいで俺は完全な夜行性になっている。

睡眠時間もこっちに来てから、いや魔力を開眼してからあまりとらなくなった気がする。

「ちょっと用を足してきます」

そう言って俺はみんなから少し離れて行った。

やはり異世界、野営の焚火以外に明かりが一切ない。

星がとてもきれいに見える。

(以前から思っていたことだがあの星の形は、星座は前の世界と同じに見えるな)

俺は星座にはあまり詳しくなかったが、オリオン座くらいは知っていた。

それと同じものを俺は今夜空に見ている。

用を足したあともしばらく一人で散歩をしながら異世界について考える。

依然の世界と似たところもあるが圧倒的に魔力という存在が違いすぎる。

文化レベルは西洋の中世より少し進んだくらいだ、でもあの村だけでは正直判断ができない。

正直まだまだ分からないことだらけである

エレナさんたちのところに戻るとリカちゃんは横になり眠っていた。


「拓矢さんはリカさんのこと大事にしているのですね」

「どうしたんですか?いきなり、もしかしてリカちゃんとなにか話しました?」

「ふふふ、内緒です。でもこの仕事が終わったらお二人は村を出た方がいいかもしれないですね。私たちの村は・・・ちょっと拓矢さんには危険ですから」

「知ってます」

エレナさんは驚いた顔をしていたが、ロリババアのことは伏せて、村の女性が男の魔力を狙っていることやその搾取方法にも気が付いていることを正直に伝えた。

最近は村の掟が大きく変わり昔に比べればかなり良くなったと、俺が今無事なのがその証拠ですと慌てていたが、はたして本当に無事なのだろうかと疑問を感じざる負えない。

(とはいえ村を出る提案は賛成だ。ゴブリンを殲滅したらリカちゃんと話をしてみよう)


俺は焚火を見ていたらいつの間にか寝ていた。


「拓矢さん、リカさん起きてください」

どのくらい寝たかはわからないが俺が起きた時、空が燃えていた。

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