第7話 尊厳をかけた勝負
俺たちは今ゴブリン討伐に向かっている。
異世界に来て15日目、魔力開眼をした俺は昼間はエレナさんと剣の修業、夜にはフィオナにしごかれ魔力を研鑽する、そんな日々を3日間ほど送っていたのだが、今日は朝から様子が違う。
俺とリカちゃんはエレナさんに連れられて村の外れに向かっている。
「突然なんですが、今からお二人にはゴブリン村の殲滅に付いてきてもらいます。」
「え?ゴブリン村ってもしかして俺たちが最初に会った場所ですか?」
「そうです」
エレナさんは何度かゴブリン村の偵察に行っていたらしいが、あれからゴブリンの数が倍になり危険度が増しているそうなのである。
そこで冒険者であるエレナさんと他2名に声がかかり、ついでに実戦経験をということで俺たちも同行することになったらしい。
他2名との待ち合わせ場所に向かう途中、俺は剣を、リカちゃんは槍をエレナさんから貸してもらう。
「あれ?リカちゃん槍なんて使えるの?」
「神代さんが見てないだけでちゃんと訓練してたんです」
待ち合わせ場所に到着すると女性が二人待っていた。
「エレナ遅いぞ」
「エレナは時間通りカトレとニナが少し早かっただけ」
「すみません二人とも、このお二人が今日同行する拓矢さんとリカさんです」
「初めまして、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、リカです」
「おう、カトレだ、よろしくな」
「ニナ」
カトレは筋肉質で野性味あふれる格闘家、ニナは小柄な双剣使いという感じだろうか。
しかしこの村は美魔女こそいても俺たちの知る魔女っぽい人はまったくいない、その疑問はリカちゃんも思っていたようで二人に問いかける。
「お二人も魔法使いなんですよね?」
「ああ、私は火魔法が得意だぞ」
「ニナは毒」
「そう、なんですね」
「私たちは魔法に頼った戦闘はしないんです。だからこそリカさんにも槍術を修業してもらっているんです。これは始祖様から続く教えなんですよ」
「そうだなエレナなんか伝説の始祖様に憧れて戦う聖女様だもんな」
「やめてください、私はまだ未熟者なので聖女様とは程遠いんです」
「強い体なくして強い魔法はない」
(始祖様とはきっとあのロリババアのことだろう。今の話であのロリババアが俺に身体強化以降、魔法のマの字も教えずひたすら戦闘訓練という名のしごきを続けてる理由がなんとなくわかった)
「では行きましょうか」
道中ゴブリン討伐の作戦を簡単に教えてくれた。
移動は徒歩で行い、村の少し手前で野営をする、明日の夜明け前に奇襲するそうだ。
(ものすごくざっくりだが現地でまた詳しい戦法は立てるそうだ)
ちなみにエレナとカトレはいとこで、ニナと三人は同い年で昔からの友達らしい。
というか魔女の村は基本的に全員が血縁関係にあるのだろう、恐ろしい村だ。
「ところで拓矢はいつ開眼する?」
「そうだ、気になってたんだ。どうなってんだエレナ?」
「拓矢さんも頑張ってますし、ね、拓矢さん・・」
「内緒でエレナがすれば解決」
「そうだ、一緒に住んでるんだろ?やっちまえ」
「私は聖魔法使いですよ。それに掟は絶対です」
「じゃあリカが手伝えばいい、こうやってシュシュっと」
ニナが何かを握るそぶりをしてリカを見つめる。
「え?私が手伝えばなんとかなるんですか?」
「ちょっと皆さんその話題はやめませんか、リカちゃん気にしないで」
(どうなってるんだこの女たちは?最悪じゃないか)
「そうだった本人が目の前にいたな、ゴブリン戦の前に今から開眼したらどうだ?私が見ておいてやるぞ」
「ニナも是非見学」
「リカちゃんこの人たちの話はあまり気にしたらダメだからね」
「そうです、リカさん気にしなくていいです」
話が理解できていないリカちゃんは何やら考え込んで俺を見て問いかけてきた。
「もしかして開眼するための方法や条件があるんですか?」
「おおあるぞ知らなかったのか?」
「それ以上喋ったらゴブリンの餌にしますよ」
「お?半端者がずいぶん強気だねぇ、できるならやってみなよ」
「カトレ、その辺にしてください」
「いや止めないね、私は強者にしか従わないことにしている。止めてほしければ私をねじ伏せてみな半端者」
(ロリババアとの修行で少しだけ自信はついていたが、いまだにエレナさんに勝てない俺ではこの女にも勝てないだろう。だが、俺の尊厳を傷つけ、リカちゃんも巻き込もうとしているこのバカ女・・・)
「じゃあここで戦いますか?俺が勝ったら従ってもらいますよ。ただし、俺が負けたら言う通り開眼してあげますよ」
「乗ったその勝負!エレナ邪魔するなよ」
「え?拓矢さん落ち着いてください。冷静に、カトレも止めてください」
(俺はいたって冷静だ、勝てればよし。負けてもロリババアとの約束を破るだけ、開眼済みの俺はオ〇ニーはしない、馬鹿めクソ女)
「ゴブリン戦も控えているし、素手の勝負でいいですか?」
「ああ、なんでもいいぜ。私はもとから素手だ、なんならその剣使ってもいいぜ」
「いえ結構です、ねじ伏せます」
「開眼もしてもいない童貞が」
捨て台詞を吐いたカトレは俺に向かって襲い掛かってくる。
格闘家というから何か拳法のような型のある戦い方をするのかと思ったが、ようは力任せのごり押し戦法。
(まるでザン〇エフだな)
殴りかかるというより俺を掴んで捕獲しようとする動き、捕まればやばそうだけれど、エレナさんやロリババアに比べれば動きはかなり遅い。
「逃げるのだけは得意みたいだね」
(ロリババアにひたすら殴られしごかれているからな、これぐらいできるさ。さて、あいつの技を少し真似てみるか、と言ってもただのものすごく速い正拳突きだけど・・・脚に魔力を集中させ加速する一歩で懐に進む、そのまま魔力を拳に流して当たる瞬間に爆発させるイメージっと)
カトレと少し距離を開けた俺は彼女が次の攻めに移ろうと前に動きだした瞬間、一気に彼女の懐に飛び込みその勢いのまま拳をみぞおちめがけて繰り出す。
カトレの腹筋はまるで鉄のように固い、だが続く二撃目で彼女の腹筋を破りみぞおちに拳が沈み込む。
「拓矢やる」
「すごいです。私には手加減していたんでしょうか」
「神代さんはやるときはやるんです」
「カトレはここから、でもいつもやり過ぎる」
「そうですね」
俺の拳を食らったカトレは後ろに飛び退き片膝をつく。
こちらを睨んで深呼吸をしたと思った次の瞬間、カトレの姿が消え俺の背後に襲い掛かる。
とはいえ俺も油断はしていない、想定済みの動きだ。
カトレの襲い掛かる右手を瞬時に掴み、彼女の勢いを利用して後ろに回り手首を捻り首を抑え制圧する。
(これもロリババアに教わった。いや、やられた技だけどあいつとの修行、役に立ってるな)
「ねじ伏せましたよ。俺の勝でいいですか?」
「いやまだだ」
そう言ったカトレの体が魔力の熱を帯びていく。
火傷しそうな熱さに制圧を解きカトレから離れ距離を取ったその時。
「もう終わり時間がない、カトレの負け」
俺たちの間に割って入ったニナが魔力をまといカトレに剣を向ける。
「ち、これからもっと熱い戦いをするところなんだが」
「それは仕事が終わってベットの上でやるといい」
カトレを止めに入ってくれたと思っていたニナがまたふざけたことを言っている。
ニナの言葉を聞いたカトレは魔力を解き、こちらに歩み寄る。
「わかった、拓矢の勝ちでいい。あのことは黙っといてやる。それと勝った褒美に私を一晩好きなだけ抱かせてやるぞ。」
「ニナは二人を観察する」
(まったく、なに勝手に話を進めてるんだこの二人は?確かに魅力的な話ではあるが・・・)
「いえ、結構です。あのことを黙っているだけで十分です」
「遠慮するな、私は強い男が好きだ、お前ならベットの上で下になってやってもいいと言っているんだぞ」
(上とか下とかやめてくれ、リカちゃんの視線が痛いんだよ)
「拓矢もったいない、カトレの絞め付けは最強、普通の男は1分ともたない」
「だからやらないっていってるでしょ。エレナさん何とかしてくださいこの二人」
「リカさん、あの二人は冗談がすきなんです。気にしないでおきましょう」
「エレナさん、本当に冗談なんですか?私には本気に聞こえるんですが」
「それにエレナさんも私に内緒にするんですか?あの事っていう開眼の条件のことを」
「すいません、とても私の口からは、なんとういか説明できないんです。ごめんなさい」
「神代さん!教えてください。私なんでも協力しますよ」
「リカちゃん、俺は大丈夫だから、ね」
尊厳をかけた勝負に勝った俺は本当に尊厳を守れたのだろうか。
その後リカちゃんになんどもしつこく質問されたが、約束通り三人ともごまかしてくれたのだが、彼女をのけ者にしたことでしばらくまともに口を聞いてくれなくなったのは言うまでもない。
「私にだけ内緒だなんてひどいです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます