第3話 男がいない

突然俺たちの前に現れた美しい女性、彼女の名前はエレナというらしい。

ここにはゴブリン村が最近できたので調査に来たのだとか。


普通のゴブリンは単体では見た目通り幼児並みの戦力しかなくたいしたことはないが、村が大きくなるとあのゴリラのような特殊個体が増えるのだそうだ。

そして力が増すと家畜や人を襲いさらっていく、さらわれた人間は辱められて最終的には殺されて食われるそうだ。

それは女も男も同じなんだとか、男も犯されるとは怖い話である。


そんなこんなでゴブリン村の近くにいるのは危ないとエレナさんに怒られつつ、村に連れて行ってくれるというのでそこに向かっている。


「よかったですね人に会えて」

「うん よかった」

「会っていきなり説教をしてきたときはびっくりしたけどいい人ですね」

「一方的な感じだけど超美人」

「そうですね」

リカちゃんのトーンが少しさがる。


「ところで貴方たちはあそこで本当は何をしていたんだ?」

「道に迷っていました」

「道?」

二人で神社に行ったら大きな炎を見て気が付いたら知らない世界で、とても困っていたとだけエレナさんには伝えた。

「理解に苦しむ」そんな顔をしていたと思うが仕方がないだろう。


村へ向かう道中何匹かあのクラゲが現れたがエレナさんがあっさり切り捨てていた。

あとは遠くに犬のようなオオカミのような獣を見たくらいだ。

村に着いたのは日が沈むぎりぎりだった。

村は規模は想像していたより大きく、木製の家が立ち並ぶ片田舎といったん感じだ。周りには大きな畑もあり道も整備されている。



今晩はエレナさんの家に泊めてくれるらしい、なんて親切なんだ。

村の奥にある周りより少し大きな家に案内してくれた彼女は報告があるのでと俺たちを残し出かけて行った。

「疲れましたね」

「一生分かってほど歩いたからね」

「他に人いないですね」

「確かに一人暮らしなのかな?ってことは独身?」

「だからって襲ったらダメですよ」

「俺がそんなことする人間に見える?」

「見えないですけど、ダメですよ」


しばらく談笑しながら座って待っているとエレナさんが帰ってきた。

「すまない、村長が話を聞きたいそうなので一緒にきてくれるか?」

そう言われ俺たちはエレナさんに連れられ村長のいる大きな集会所にやってきた。

奥にはこれまたグラマラスな美人が座っているではないか。

「初めまして村長のマリアです。エレナこの方たちのお名前は?」

「え?名前?」

「やっぱり、すみませんね。この子は昔から人の話を聞くのが苦手で」


「いえこちらも名乗らずすいません。私は神代拓矢といいます」

「私は山村りかです」

「お二人は森の奥の社から来たと聞きましたが本当ですか?」

「はい」

「異世界の方ですか?」

「たぶん」

ド直球で聞かれたので驚いたがここは正直に言うしかなかった。

エレナさんは俺たちのことを勢いで駆け落し、路頭に迷っているカップルだと思い込んでいたみたいだったが驚いてはいなかった。

この世界で異世界人はたまにやって来るのだという、マリアさんも遭遇するのは3度目だという。

1度目は子供のころ2度目はエレナさんを生んですぐ、そして3度目が俺たち。

(なんとこのグラマラスなマリアさんとエレナさんは親子だったのだ。いや問題はそこじゃない、見た目だ。どう見ても俺より少し年上のお姉さんだぞ)

しかも超がつく巨乳、見てくれと言わんばかりに見せつけてくるあの谷間。

マリアさんに視線をむけて会話をしている横で、リカちゃんの機嫌がだんだん悪くなって見えたのはきっと気のせいだろう。


途中から巨乳に気を取られて話があまり入ってこなかったが、しばらくはお二人の家で面倒を見てくれるらしい。

その後4人で家に向かい夕食をごちそうになった。

質素だが温かい食事が出てきたときは感謝で涙が出てきたほどで、リカちゃんも隣で泣いていた。

そして寝床はそれぞれ個室を貸してくれた、さすがは村長宅。

24時間以上寝ていなかった俺はその晩気絶するかのように眠りについた。


目が覚めるとそこは見慣れない天井、昨日保護してくれたエレナ家の天井だ。


朝日が昇ると同時に起きた俺は静かに外に出る、家の裏に井戸があったので顔とクラゲにやられた傷を洗う。

昨晩エレナさんに薬を塗ってもらったおかげで痛みはもうない、本当によく効く不思議な薬だった。

お風呂に入ってないので全身を洗いたかったが軽く体を拭く程度で我慢した。

タオルはどうしたかって?それは昨晩部屋に入るときにエレナさんがお湯の入った桶と一緒に貸してくれたものだ。

疲れていた俺は体をきれいにする余裕がなく倒れこんだので今にいたるというわけだ。


その後村を少し散策し、村人とも何人かすれ違いあいさつを交わす。

それにしてもこの村は女性が多い、そして皆美人だ。

というか男がいない、畑仕事をしているのも女性だ。

近くで戦争でもやっていて男たちが駆り出されているのだろうか。

それでも初老の男性くらいいてもいいがそれもいない、というか老人すらいない。

会う人会う人みな若々しく、老けて見えてもせいぜい村長のマリアさん程度。

(どうやら俺はまだ夢の中にいるらしい、戻ってもう一度眠りにつき今度こそ目を覚まそう)


家の前に戻るとエレナさんも起きていて剣の素振りをしていた。

プレートメイルを付けていたので昨日は気が付かなかったが、エレナさんもマリアさんほどではないがが巨乳だった。

力強くも美しい彼女の動きにいや巨乳の動きにしばらく俺は目を奪われた。


「おはようございます」 ゴンッ!

朝の挨拶と同時に頭に鈍い痛みが広がる。

エレナさんを見ていた俺をリカちゃんが後ろからやってきて桶で頭を殴ったのだ。

痛みで顔をしかめて彼女の方を見てしまった。

「あ、すいません痛かったですか?」

「殴るのはいいけど桶はダメでしょ桶は」

「殴るのはいいんですね」

「ダメだよ」

どうやら彼女も井戸で顔を洗ってきたみたいだ、それに服装が違う。

「あ、これですか?エレナさんが貸してくれたんです」

彼女は真っ白なワンピースを着てくるっと回って見せた。

エレナに負けじと胸を張った先が少しツンとして見えたのは気にしないでおこう。

(教えてもいいけど、きっと殴られる)


「お二人ともおはようございます」

剣の稽古を終えたエレナさんが声をかけてくる。

「昨日もそうでしたが先ほどの剣を持った動きすごいですね」

(今日は朝から目が癒される)

「エレナさんおはようございます」

「リカさんよかった、服お似合いです」

「本当にありがとうございます」

「私が子供のころに着ていたものなので、ちょうど良さそうなのでよかったです」

(確かに今のエレナさんがこれを着たら胸もスカート丈も大変なことになりそうだ)


その後、朝ごはんをいただきながら今後の話をする。

「ところでお母さま お二人は帰れるんでしょうか?」

最初に会った時と違いエレナさんの口調が丁寧になっている。

(母親の前では猫をかぶっているのか、最初のが演技だったのか?それより帰れるかどうかの話の方が先だな)

マリアさんはしばらく考え込み話してくれた。

「おそらく難しいでしょう、私が最初に会った異世界人の方はまだ東の町で暮らしていますし。2回めのかたはすぐに・・・お亡くなりになられて」

「えっと死因をお伺いしても?」

「私たちのもとを離れておひとりでいたところを運悪くゴブリンに」

「えっとじゃあ最初の方はまだ生きているんですよね、何をしているんですか?」

「それはお仕事という意味ですか?それならエレナと同じ冒険者ですね」

冒険者とはつまるところなんでも屋さんのことらしい。

畑仕事、荷物運び、家事手伝いなど様々なことをギルドに所属し仕事を請け負う人たちだという、要は派遣社員みたいなものだろう。

(ブラック労働環境間違いなしだな)

ただしエレナさんのように戦闘を得意とし、護衛やゴブリン退治などをする冒険者は

成功者も多く英雄と呼ばれる人もいるのだとか。

ちなみに東の町で暮らしている人は派遣のお仕事を細々として生活しているみたいである。

二人の話を聞いて少し下を向いてしまった俺にマリアさんがフォローをいれる。

「でも異世界人の方は過去に冒険者として英雄や勇者なんて呼ばれた方も何人かいた    

 みたいですよ」

「そうですね、物語にでてくる英雄は決まって異世界人でしたねお母さま」

でもそれはその人たちがすごかっただけで俺たちにはあまり関係ない話だろう。

現実的な思考をしている俺の横でリカちゃんは目を輝かせている。

(なんでこんなにうれしそうなんだ?英雄がいることに興味をもったのか?)


「それに異世界の方たちは決まって私たち以上に魔法の適性があるんですよ」

「お母さまそれは初めてお聞きしました。私たち以上とはすごいですね」

(魔法?私たち以上?それにしてもマリアさんは今日も谷間の主張が強すぎる)

「魔法が使えるんですか?」

リカちゃんが初めて口を開き嬉しそうに聞いている。

「ええ、この村も魔女の村と呼ばれているくらいですし」

(あぁ、だから男が見当たらなかったのか。あれ?俺はここにいていいのか?)


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