第1章 魔女の村編
第2話 第一村人発見
異世界の宙に浮くクラゲにやられた右手が痛い。
幸いなことにクラゲの毒は触れたところ以外に影響はなく右手だけで済んでいる。
クラゲの不意打ちに懲りた俺は上着を着て右手をコートで巻いている。
(これなら次遭遇してもワンパンだぜ 弱点もわかったし)
クラゲには核がありそれをつぶせば死ぬ。
無我夢中で踏み潰した際に俺が発見したクラゲの弱点である。
問題はクラゲではなくリカちゃんである
クラゲを撃退した後もしばらく泣き続け、今は俺の左手にクラゲのごとく巻き付いて離れない。
俺たちは今、腕を組んで草原を歩いているのだ。
よほど怖かったのだろうか、それとも俺がくそがーって叫びすぎたせいだろうか。
でもあれは仕方がない、痛みで俺も必死だったのだ。
「大丈夫だよ、これぐらいなら」
「死ぬかと思ったんです、そしたら怖くなって」
リカちゃんの巻き付きに毒はないが心が毒されていく、いやこれは元からか。
怖がりながら腕によりかかる彼女も可愛い、食べてしまいたい。
そういえばそろそろお腹も空いてきたな、それはきっと彼女も同じはず。
お互い昨晩のまかない飯から食事をしていないのだから
俺たちは森と草原の境目を南に向かって進んでいた。
なぜ南かというと、適当なとりあえず動けば何かに当たるだろう精神である。
クラゲによって痛い目を見た俺は細心の注意を払って進む。
森沿いを歩くといっても木々の陰からは4,5mは離れて歩いている。
森からも何かが襲ってこないとは限らない、それでも森沿いを歩くには理由がある。
それは食料である。
草原より森の方が食べられる木の実などがありそうという単純な考えだ。
だが食べられる木の実なんてのはそうそうあるものではない。
しばらく歩いたが何もない、絶望的に何もないのである。
生えている木はシダに似た大木とよくわからない広葉樹が少し。
「少し休もう、ここなら大丈夫そうだよ」
ちょうど座れる岩場を見つけたのでそこに腰掛ける。
「神代さん」
「なに?どうしたの?」
座って休もうとせず彼女がもじもじしながらこちらを見ている。
「トイレ行きたいです」
自分はリカちゃんが寝ている間にこっそり用を済ませていたのですっかり失念していた大問題である。
「えっと、じゃあ俺は草原の方を見ているので、どこか視界にはいらないその辺でどうぞ」
「ここじゃ無理です」
そう言って俺をにらみ彼女は森の大きな木の裏に隠れていった。
(草原の方を見ているとはいったけど姿も気配もわからないのは心配だな、5分経っても戻らなかったら様子を見に行こう。いや10分か?いやいや長すぎだ、3分だ3分で見に行こう)
しかし彼女は俺が不謹慎な妄想をしている間にすぐに戻ってきた。
「神代さんこれ」
「!!!?」
(いくら食べ物がないとはいえ俺に彼女のナニを食せと?リカちゃんがそれくらい追い詰められていたなんて)
不謹慎な妄想が抜けない俺はリカちゃんをまともに見ずに、いや見れずにいた。
俺が不謹慎な妄想をしているだろうと気が付いた彼女は、強めの口調で手に持っているものを見せてきた。
「神代さん!こ!れ!」
「ん?これはブルーベリー?」
「あ!やっぱりそうですよね 食べれると思います?」
「じゃあ俺が毒見するよ」
そういうと1つもらって食べてみる。
「ちょっとすっぱいけど食べれるよ、俺の知ってるブルーベリーだ」
「あっちにたくさんありましたよ」
用を足しに行ったついでに食べ物を見つけてくるとはなんという豪運。
リカちゃんに連れられて行った木陰にあったブルベーリーをつまみつつ、今後のことを考える。
(まずは水場と寝床の確保が最優先かな、寝床は最悪あの神社に戻るとしても、あの場所にとどまるのはなんとなく危険な気がするが)
無意識にブルーベリーを探しながら歩いているとリカちゃんから声がかかる
「神代さんそっちはダメです!」
リカちゃんが真剣な顔でこちらを向いている。
リカちゃんの強いまなざしで俺が進む方向に彼女がいた聖域があるとすぐに気が付いたが、いたずら心で、いや興味本位で無視をしてしまう。
「ダメって言ってるでしょこの馬鹿」
当然、顔を赤くしたリカちゃんに背中を引っ張られて聖域からは遠のいていく。
「お腹は満たされた?」
「う~ん、少し物足りないですけど贅沢は言えない状態ですしね」
「どうする?もう少し歩いてみる?それとも戻る?」
「神代さんに任せます」
「じゃあもう少し頑張ろうか」
「はい」
お腹が満たされ機嫌も直ったのかリカちゃんは俺から少し離れて歩いている。
(それとも先ほどのやり取りがまずかったか?)
たしかに女の子のトイレ事情をいじったのは最悪だった、反省して今後に生かさねば。
しばらく歩くと俺たちはついに川を発見した。
水場は生命にとって大事な場所だ。
人のいる集落もこの川沿いに行けばたどり着ける可能性はある。
もし人がこの世界にいればの話だけれど、とはいえ人以外の危険な生物も水場の近くにやって来る可能性も捨てきれない。
クラゲ以降、生物らしいものには会ってはいないが油断はできない。
あとは下流にいくか上流に行くかだが川の幅的にここは川上。
この川を下り海、もしくは湖を目指すのがいい気がする。
「リカちゃんこの川の流れに沿って下って行こう」
「わかりました」
「でもちょっと待って」
「神代さんもトイレですか」
「違うよ」
そう言って森の中に少し入っていく。
森から出てきた俺は2本の棒、木の枝を持っていた。
「はいこれ」
「これで神代さんを殴れってことですか?」
「そうそうって違うよ」
(いつものリカちゃんに戻っているようでホッとする)
「これでさっきのクラゲをやっつけるんですね」
「そういうこと」
「でもやっつけなきゃいけないのはクラゲだけじゃないと思う。他にも危険な生物はいるだろうしクラゲみたいに毒持ちもいる。できるだけ戦いたくはないけどもしもの時はこれで応戦するしかない。危なそうなやつがいたらすぐに逃げよう、これは逃げれない時ようの保険」
「わかりました、頑張ります」
私もう無理ですって泣かれたらどうしようかと思っていたけど、彼女はそんな弱い人間ではなかった。
川沿いを歩き始めて、いまだ生物とは出会っていない。
クラゲは遠くに1匹浮かんでいるのを見たが無視をした。
太陽は真上を通り過ぎていて、時刻は14時ってところだろう。
携帯の時刻と合ってはいるが正直信用はできない。
(もし神社に戻るならここら辺が折り返しだけどどうするか、草原を斜めに抜ければ早く戻れるけど)
「神代さんあれ見てください、あれ!」
嬉しそうにリカちゃんが指をさす方向には煙らしきものが見えていた。
少し先の川の対岸にある雑木林の奥から煙が昇っている。
「リカちゃんここからはもう少し注意していこう」
「どうしてですか?人がいるかもしれないんですよ」
「もしその人がこちらに好意的じゃなかったら?」
「あ・・・」
「それに宙に浮く灰色な人かもしれないよ」
「なんですかそれ宇宙人ですか?」
「そう見つかったらリカちゃん食べられちゃうかもしれないよ」
「それは困ります」
「だから人を見つけてもこちらに気づかれたらだめだよ」
「わかりました」
「まずは見つからないようゆっくり行こう」
(まぁ見つかっても間に川があるから逃げる余裕はあるだろう、でも本当に宙に浮いてたら・・・それは考えないでおこう)
雑木林が見える対岸に到着し岩陰に隠れながら遠目で奥を確認する。
(確かに人らしきナニかはいる、でもなんだか違和感がある)
「人いますね」
「うん、でも子供しかいなくない?」
「確かにみんな小さいですね」
「あ!一人こっちに来ますよ」
どうやら川に水を汲みに来たようだ
川に来た人らしき者の特徴はこうだ
背は小さく幼児並み、衣服は腰布のみ、そして肌の色は緑色。
(おいおいゴブリンじゃねぇかよ、第一村人がゴブリン村の住人ってどういうことだよ)
「緑色でしたね 灰色じゃなかったです」
「う~ん、ゴブリンは無視した方が無難かな」
「でももしかしたら良い人たちかもしれないですよ」
「いや腰布だよ腰布!どう見ても文明レベル激低でしょ、ゴブリンって言ったら女性をさらって犯すのが定番なんですよお嬢さん」
「たしかに、それは困ります。神代さんより危険じゃないですか」
「え?俺の事少しでも危険だと思ってたの?」
「冗談です、信用してますよ」
(それはそれでなんだか釘を刺されたようで嫌なんだが)
その後も俺たちはゴブリン村をしばらく観察していた。
「一人だけ少し大きいのがいますね」
「うん、しかも筋肉やばそう。ゴリラじゃんあれ」
「もし戦ったら勝てないですかね?」
「木の棒じゃ無理だよ。せめて刃物がいる」
「貴方たちここで何をしているんだ?」
目の前のゴブリンに集中していた俺たちの後ろから不意に声をかけてくる女の声。
驚いた俺はリカちゃんの方を見て彼女と目を合わせゆっくり声の主に目を向ける。
「あ、驚かせてすまない。でもここは危険なところだ、すぐに離れた方がいい」
プレートアーマーを着た美しい女性が馬にまたがり俺たちの前に現れたのである。
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