変わらない日常

羽の枚

第1話

「さっむい」

 ふぅー。赤くかじかんだ手に息を吹き掛ける。


 ガラガラ


 教室の扉を開け、飛び交う挨拶を横目に自分の席がある窓際まで歩いていく。

 窓際というものは最高のようで最悪だ。換気のためとか言って、少し開いた隙間から風が吹き続けている。


 席に座るなり早速カバンから本を取り出す。

 手がかじかんで思うようにページがめくれない。が、気がついたらさっきまでの煩さが嘘のように静かになっていた。どうやら先生が来たようだ。


 いつものように短いSHRが終わり、皆がまた動き出す。それも横目に僕は再び本を読み進める。1冊本を読み終わるまでは、たとえ5分間という短い時間でもギリギリまで読み進める。


 1限と2限の10分。2限と3限の10分。

 4限は移動教室のため本を読むのは断念した。

 眠くなるような授業をあくびを堪えて耳を傾ける。あと3分。チラリと壁にかかった時計に目線をやる。


 キーンコーンカーンコーン


 昼休み。急いで教室に戻る。

 これも僕にとっては本を読む時間だ。友達と喋る時間ではない。お弁当をさっさと食べ終えた僕は再びカバンから本を取り出す。今度はすらすらと、でもじっくりと。ページをめくっていく。時々、独り言を呟きながら。


 ふっと意識が目の前から離れる。教室が少し煩くなってきた。もうすぐ予鈴がなるのか。

 教室の外にいた人たちがぞろぞろと戻ってくる。

 そろそろ授業の用意をするか。


 5限目。それは一番眠くなる時間帯だ。お昼ごはんを食べ、本を読み、極めつけには窓際という。お昼の陽が差し込んでくる。机に突っ伏すまではいかないが少し俯く。たまに顔を上げ周りを見渡す。視界に入る限り、3分の1以上が眠たそうにしている。いや、実際に寝ているかもしれない。どちらにせよ真面目に授業は聞いていないであろう。まぁ僕もその内の一人だが。これはもう仕方がないことだ。睡魔には抗えない。


 残念ながら睡魔との戦いは5限目では終わらない。10分の休憩時間で一度回復し、6限に持ち越される。だが、さっきと比べると少し僕の方が優勢だ。あくびは出るがノートに書く字はちゃんと読み取れる。綺麗かどうかは別として。


 少し眠気が覚めたからといって授業に集中できるわけでもない。取り敢えず黒板に書かれた字をノートに写すが、先生の言葉は右から左へと抜けていく。その代わり、こっそりと周りの観察をする。周りもさっきよりかは起きているひとが多いが2時間にわたり睡魔に負けているひとも何人かいる。

 そういえばどっかの記事で、自分よりも眠そうにしている人を見たら眠気が覚めるとか何とか書いているのを見かけた。

 効果はあるのか?逆に、眠そうなひとを見ていたら自分まで一緒に眠くならないのか?と、僕は思うが。

 これまた個人差があるのかもしれない。


 ふと思い出したことについて考えを広げていたら、チャイムがなる前に先生が授業を終わらせた。そしてさっさと教室を出ていった。

 この先生は基本授業の前後に号令をかけないからいちいち椅子から立たなくてもいい。めんどくさがりの僕にとっては一瞬神にも見える時がある。


 これで今日の授業は終わりだ。あとはSHRをして、即学校を出るだけだ。

 先生が教室に来るまでの間、本を開く。一昨日から読み始めた本。もう少しで読み終わってしまう。


 ペラッ ペラッ


「じゃあ、委員長さん号令お願いします」


 あぁ。あと少しだったのに。なんかこういう時だけ来るの早くないか。いつもは来るの遅いのに。

 これは気持ちの問題ではない。ちゃんと時計を見ながら時間を図っているから正確さを証明できる。と、僕は言える。

 まぁ誰もそんなこ聞いてこないから証明する場も無いが。暇が故の謎の自信だ。


 話も早く終わった。5分も無かったであろう。

「起立、礼、ありがとうございました」

 言い終わるか終わらないかの狭間で僕はもう扉に向かって足を一歩踏み出す。

 わざわざ走るほどでもないが少し早歩きで扉に向かい廊下に出る。


「うっ。寒い」

 廊下の窓が開いているせいか教室を出た途端、冷たい風が顔を掠めた。


 早く冬よ終われ。そして春よ早く来てくれ。

 夏でもいい。

 夏になったら今度は冬が恋しくなるだろうが。


 そんなことを考えながら今日も家路へと急ぐ。


 急いだところでまた明日がやってきては同じことの繰り返しだが。

 

 そんな日常も悪くはないと思う今日この頃。

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変わらない日常 羽の枚 @hanomai_mebuki

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