第14話シルバーウルフもワンパン
俺は坂上と先輩のふたりを連れて焼却炉の中に入ってきた。
佐藤先生はちょっと離れたところで俺たちの後ろをついてくるだけだ。
本当に同行するだけの人になるらしい。
俺たちもいないものとして基本的に扱うつもりだ。
「学園の敷地内にこんなのあったんだね」
「坂上も知らなかったんだ」
坂上にそう言ってると先輩が答えた。
「この焼却炉には近付くなって言われてるんだよ。そんな場所に近付く生徒はいないよ」
なるほどなぁ。
そう思いながら俺は配信の準備をしていく。
「あれ、配信するんだ」
坂上が先輩を見てた。
別にふたりはするつもりはないらしい。
「俺だけするよ。俺も念の為以上の意味は無いから」
今回のモンスターは特別だから。万が一を考えて配信をしてるだけ。
「先輩が唯一負けたシルバーウルフを相手にするんだ。俺も負けるかもしれないしさ。その時に誰かが救援要請してくれるようにさ」
「さすが白銀くん。配信をしてるのにそんなに深い意味があったなんて」
坂上はそう言ってきたが。
本来の配信というのはこういうことのためにしていたと聞くがなぁ。
俺はそのまま歩いていった。
するともう深夜に近い時間だというのにコメントが増えてきていた。
どうやらリスナーが見てくれているらしい。
"こんな時間に?"
"門限あるんじゃないの?"
門限の話は白光に限った話じゃない。
だいたいの学校は深夜とか夜のダンジョン侵入を禁止している。
「引率の先生がいる」
"なかなか許可降りないんじゃなかったっけ?"
"許可出るなんてシュヤちゃんはすげぇわ"
しばらく歩くと巨大な扉が見えてきた。
「けっこう短いダンジョンだな」
話には聞いていたけどかなり短かった。
そして、この奥でシルバーウルフが眠っているらしい。
"これなんのダンジョン?見たこともないけど"
"てかこの先なにいるの?"
俺は答えた。
「このダンジョンは隠しダンジョンみたいなもので、奥にはシルバーウルフがいる。いわゆるダンジョン移動型のモンスターだね」
"ダンジョン移動型のモンスター?"
"基本的にモンスターは生まれたダンジョンで一生を終えるけど、中にはダンジョンを移動するモンスターもいるんだって"
"そんなモンスターいるんだな"
"例外なく強いけどね移動できるタイプは"
そんなコメントを見ながら俺は扉を開けようとした。
しかし、開かない。
「あれ、鍵?」
俺がそう思ってるとコメントが着き始めた。
"探しに行くか"
"だな、鍵くらいスグ見つかるだろ"
みたいなコメントがつき始めたけど俺は例のメリケンを取りだした。
グッと装備するとコメント欄が加速する。
"なにすんの?"
"鍵取りにいくための準備やろ。戦闘も起きるだろうしな"
"なるほどなー"
そんなコメントの前で俺は扉を殴りつけた。
ゴン!
鈍い音を鳴らして扉はくるくる縦に回転しながらすっ飛んで行った。
バイーン。
吹っ飛んで行った扉が中にいたシルバーウルフに当たった。
"草"
"殴んなwww"
"本日の犠牲者1人目扉くん"
"扉ぶん殴る人初めて見た"
「グルゥ……」
顔から血を流しながらこっちを見てくるシルバーウルフ。
"めっちゃ怒ってそう"
"突然の暴力がウルフを襲う!"
"寝起きっぽくてかわいそう"
そのとき、先輩が動いた。
「こ、今度こそは」
そう言った瞬間俺は地面を蹴りつけてウルフに向かってった。
ブン!
スカッ。
俺の拳は空を殴った。
「グルゥ……」
避けられたらしい。
"今の速度に合わせたモンスター初めてだろ"
"やばっ、避けれんのかよ今の速度"
"このウルフ強えぞ"
俺も笑った。
「やっと、避けられるやつに出逢えた」
"シュヤちゃんがかつてない強敵にひとりで喜んでる"
"実際んとこやっと同格に出会えたってとこなんやろなぁ"
そのとき
「ガルゥ!」
飛びかかってきたウルフ。
その速度は早いけど
メキョッ。
「空中じゃ自由に動けないだろ?そんなに長く滞空してると避けれないよ?」
俺の拳は空中にいたウルフの額を捉えた。
「もっと小刻みに動かないとな」
ブン!
拳を振り抜くとウルフは横方向に回転しながら壁に激突した。
そして淡い光に包まれて消えていく。
【シルバーウルフを討伐しました】
"またwワンパンwww"
"相変わらず強えなぁ"
"ウルフが弱かったように見えてくる"
"↑初めてシュヤちゃんのパンチ避けたんだよなぁ"
"なお、攻撃は届かなかった模様"
俺はウルフを見てみたけどドロップアイテムはないようだった。
そのとき、先輩と坂上が近寄ってきた。
先輩が口を開いた。
「やっと強化魔法が使えたよ。ウルフが避けてくれたから」
そう言ってる先輩。
(おかしいな。体は強化された気がしなかっけど)
それで俺と先輩の距離を思い出していた。
けっこう開いていたから、魔法が届いてなかったんだなって思った。
まぁ、このことは言わなくていいか。
俺はそこで配信を止めた。
無事にシルバーウルフはやれたし。
そうしてダンジョンの奥に向かおうとしてると坂上が話しかけてきた。
「やっぱ強いよね白銀くん。格闘士だよ格闘士。珍しいけど」
たしかにこの世界じゃ格闘をメインにしてる冒険者は少ない。
「こんど私にも教えてよそのパンチ」
そう言ってくる坂上だけど。
「女の子がパンチすんの?」
うーん。
坂上がメリケンつけてモンスターぶん殴るところが想像できない。
「魔法でいいんじゃない?君は。そっちの方がかわいいよ」
思ったことを呟いた。
メリケンつけてモンスター殴る女の子より杖持って魔法使ってる女の子の方がかわいいし。
「か、かわいい?私が?」
そう聞いてくる坂上。
そのまま俺の手を取ってきた。
「あ、あのね。白銀くん」
「なに?」
「私白銀くんのこと好き」
そう言ってきた。
「え?ここで言うの?それ」
先輩も困惑してた。
俺も困惑する。
このタイミングでこんなこと言われると思ってなかったし。
「だってだって、このタイミングくらいじゃないとまた言えなくなりそうだし。私と付き合って欲しい」
なんて答えるべきか悩んだけど俺はこう言う事にした。
「悪いんだけど今はそういうこと考えたくなくてさ」
ビチ子のことだ。
俺の中でトラウマになってた。
「別に君のことが嫌いなわけじゃないんだけど。だからはっきり言うけど、坂上のことは可愛いと思うけど。また今度落ち着いてからでいい?」
俺にとってここが最大限の譲歩だと思ってる。
「う、うん。また今度でいいよ」
坂上がそう言うと今度は先輩がこう言った。
「白銀くん。私は卒業したら君のこと予約しようと思ってたんだけど?」
そう聞いてくる。
「えーっと、それはどういう?」
「婚約者として」
俺と坂上は同時に口を開いた。
「「えっ?」」
そのまま坂上と先輩に俺は言い寄られてしまうのであった。
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