第10話 もっと驚かせる

ダンジョンに入ると手際よくドローンを飛ばして撮影の準備を開始していく神原先輩。


「あーてすてす」


神原先輩の方は配信を始めたようだ、それで配信が出来ているのを確認してから本題を切り出し始めた。


「ごめんね。佐藤先生来れなくなっちゃった」


読み上げソフトが起動しているので、嫌でも耳に入ってくる神原先輩のリスナーのコメント。


"そうなのか。佐藤先生の活躍見たかったかなー"

"世界最強の冒険者の活躍なんて普段見れないしな"

"るりちーの配信で佐藤先生見れると思ってたのに残念"


(うぐ……佐藤先生ってそんなに期待されてたんだな)


幸薄そうな顔で、覇気がなくて、冴えない感じの顔だったけど、本当に評価は高いらしい。


"でも、ここ【地下の大迷宮】だよね?"

"やっぱそうだよな。普通学生ひとりでくるような場所じゃないと思うけど"

"ってことは?佐藤先生はいないけど?"


そこまでリスナーに予想されて神原先輩は口を開いた。


「そだね。佐藤先生は来れなくなったけど代理がきたよ」


そこでドローンのカメラが俺の方を向いた。


「シュヤくんです。私も初対面だけど、あの佐藤先生に選ばれてるから強いと思うよ」


そう説明されてリスナーたちの反応は意外といいものだった。


"佐藤先生に選ばれたんなら期待できるよなぁ"

"あの佐藤先生の推薦なら余裕でしょ"

"シュヤくん!ぜひともるりちーを導いておくれ!"


そのとき小声で神原先輩が俺に耳打ち。


「なんか、しゃべってあげて」


俺は慌てて口を開く。


「よ、よろしくお願いします!」


"おう。良きにはからえ"

"肩の力抜けよwww"


と。ここまでは好印象なようだ。


今のところはなんとかなりそうな雰囲気。


だが。


"佐藤先生の代わり、ねぇ"

"世界最強の代わりになれるんかねぇ"


中にはまだまだ俺に対して不信感を持っているやつもいた。


でもそんな奴を諭すリスナーもいた。


"るりちーとコラボできてるの妬んでるだけだろ"

"見苦しいわねぇ嫉妬は"


そんなリスナーを鎮める神原先輩。


「喧嘩やめてね。私泣くよ?グスグス。楽しく配信したいもん。グスグス」


"泣かないでるりちー"



るりちーファン一号

¥10,000

泣かないでるりちー



いわゆるスパチャを貰ってた。


「うん。諭吉おじさんの顔見てたら泣きやめそう!」


(ふーん。スパチャってこういうふうに貰うんだな)


俺はあまり学習しなくてもいいようなことを学んでしまったかもしれない。

まぁでも、どこかで役に立つかもしれないし覚えておこう。こういうテクニックはね。


"んで実際んとこシュヤくんは使えるん?"


「さぁね。まぁでも私は佐藤先生を信じてるから」


そう言いながら歩いていく神原先輩。


俺もドローンを浮かべて配信を開始した。


"るりちーとコラボしてんのかw"

"シュヤちゃん手は出したあかんで。るりちーのファンヤバいの多いからw"

"ガチ恋勢だっけ?"

"あー。ほら今までコラボしたことないからなーあの人"


どうやら俺はそんな人とコラボしてるらしい。


(俺にとっても向こうにとっても初めてってことなのか)


そんなことを思って俺は神原先輩に声をかけてきた。


「るりちー先輩」

「なに?」

「俺、ほんとにコラボっていうの初めてで、優しくしてくださいね」


神原先輩は顔を赤らめてこう言った。


「それ、私のセリフなんだけど?優しくしてね?シュヤくん?」


神原先輩の配信の読み上げソフトが荒ぶっていた。



「しかし、どうしようかなぁ」


神原先輩が呟いてた。


それに反応するリスナーたち。


"たしかに、このダンジョン難易度高いからねー。緻密に計画立ててきたよね?"

"るりちーが杜撰な計画でくることなんてないのにね"

"そういえば佐藤先生ってなんできてないの?"


神原先輩に目を向けられた。


「それは聞いてないの?」


俺は首を横に振った。


「急用が入ったとしか聞いてないですよ」


"急用(サボりたいだけ。ちょうど強そうなのいたから送ったろ)"

"あの人ならそれなんだよなぁ"

"そのサボりで計画ご破算になんのほんと草生える"


「ほんとだよね。人間としての性格あんまりよくないよね」


神原先輩が愚痴り始めた。

どうやら人間としては嫌いなほうらしい。


「特にこの先のミノタウロスなんて私が補助魔法使って佐藤先生に硬い皮膚ぶち抜いてもらうつもりだったのに。最悪」


今の言葉で分かったことがある。


(この人サポーターなのか)


ガッツリ攻撃系じゃないらしい。


まぁ女の人が剣や槍持って突撃してモンスターぶっ殺すとこなんてあんまり想像できないけど。


「さて、問題ですシュヤくん」


そこで急に神原先輩が俺を見てきた。


「今の会話を聞いてたら私が戦闘でなにを担当するか、分かるよね?」

「サポーターですよね」

「ピンポーン。じゃあ私が君に何を求めるかも分かるよね?」


簡単だ。

今いない役割のやつは


「アタッカーですよね」

「花丸っ!」


まぁ、初めからそうするつもりだったけど。


そう思っていたらコメント欄にコメントがついてた。


"シュヤちゃんの全力パンチ見せないとなぁ"

"あのパンチ見たら絶対こいつらビビるわ"

"余裕ぶってる、るりちーが驚く顔みたいわ"


そのコメントを見て思った。


(たしかに神原先輩はここまで感情を出してきてないよな)


よし。


「あの人びっくりさせようか」


もちろん、戦いを通してね。


"そうこなくっちゃなシュヤちゃん!"


って事で俺はアイテムポーチからメリケンを取りだした。


それを手に装備する。


それを見ていた神原先輩が聞いてきた。


「保護用だね。君もマメだね。防具なんてつけてる人もうほとんどいないのに。リスナーの人たちも彼を見習うといいよ。どんな怪我が事故に繋がるか分からないから装備はちゃんとつけようね」


リスナーに教えるように口にしていた。

どうやら防護用と思っているらしいが。


俺のメリケンが防御用のものだと、自分の知識をひけらかしながらリスナーに語っていた。


「いえ、武器ですよ」


神原先輩が笑った。


「君面白い冗談を言うよね。メリケンを使って物理で殴る冒険者なんて見たことも聞いたこともないんだけどなぁ」


そう言ってる神原先輩の前で俺は近くの壁を裏拳で殴った。


ボコォッ!

盛大にへっこんだ壁。


それを見てポカーンとする神原先輩。


「見ての通り攻撃用ですよ」

「ど、どうやらそのようだね」


初めて俺に動揺の顔を見せる神原先輩。


"顔引きつっとるw"

"そら、そうだわなw"

"剣で戦います!槍で戦います!が主流の中ひとりパンチしてるんだもんwww"


そうしてしばらく歩いてたらこの前も見た扉の前にたどり着いた。


俺は見るのは2回目だけど。


「初めて見たなぁ。これがミノタウロスの部屋に繋がる扉ねぇ」


神原先輩は初めて見るらしい。


俺は1回来たことがある、とか言えばどんな反応するんだろうか?


でも


(ミノタウロスを殴って倒した方がびっくりするかもな、この人)


俺の目的はこの人をびっくりさせて撮り高を求める方向にシフトしていた。


この人をびっくりさせたい。


間抜けな顔を全国に流させてやりたい!


って思ってたら先輩が口を開いた。


「私の成績があがるようにがんばってね。いちおー卒業試験だから」

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