第9話 有名配信者に世界最強認定された、コラボする

土曜日。


「ふぁ〜」


あくびしながら寮の部屋を出たが。


ガラーんとしてた。


(みんなダンジョンに行ってるんだな)


そんなことを考えながら部屋の前にゴミ袋を置くことにした。


寮に入る前にゴミについては説明された。


これをこうして置いていると用務員さんが回収してくれるそうだ。

で、これからどうしようかと考えた。


(みんなダンジョン行ってて残ってるの俺だけでやることないよな)


ガサガサ。

そのとき袋の音を鳴らして誰かがこっちに向かって歩いてきてた。


メガネをかけた猫背の冴えない男の人だった。


名札を見てみると【佐藤 大我】って書いてあった。


その人も俺を見てきていた。


「あれっ、ダンジョンに行ったって聞いたんだけどな。珍しいこともあるもんだ。ってレベルやば。最強じゃん」


そんなことを言いながら俺が置いたゴミ袋を回収してデカい袋の中に詰めていた。


どうやらこの人が用務員らしい。まだ話しかけてくる。


「君さ、暇だったりする?ここにいるってことはダンジョンに行く必要が無いって感じだよね?」


そう聞いてくる佐藤さん。


「昨日のうちに行ったんで。まぁ、今日は特にやることないですけど」

「ならひとつ頼まれてくれないかな?」


そうして佐藤さんは俺に金を渡してきた。

二万円。


(いきなりなんだ?!)


そう思ってたら話を続けられた。


「この近くにゴミ捨て場があるんだけどさ、そこに行ってくれない?30分後くらいにさ」

「なぜ?」

「人が待ってるんだよね。本当は俺と待ち合わせしてたんだけどさ、この後急用が入っちゃってさ」


何言ってんだこの人。


「じゃあ俺が行っても意味無くないですか?」

「いや、行くのは俺じゃなくてもいいんだよね実際のとこ。なんか言われたら俺に言われたって言えばいいよ。それで納得してくれるからさ」


そう言うと俺の肩にポンと手を乗せてきた。


「よろしくー。安心して君にもきっと意味のあるものになるからさ。あと、帰ってきたら奢るよ。寿司でも焼肉でも、食べたいもの考えといてね」


そう言って歩いていった。

部屋の前に置いてあるゴミ袋を回収していく。


(不思議な人だな)


まぁいいや。

ゴミ捨て場に向かってみるか。その用事とやらを代わりにやってあげると奢ってくれるらしいし。


そうしてゴミ捨て場まで歩いてくると女子生徒が待ってた。

髪の毛銀色で長くてすっごい目立つ。


これは余談だけど派手な髪色は薄暗いダンジョンでも味方の視認性を上げる、という効果もある。だから有名冒険者や職業冒険者ほど髪は染める。味方に攻撃したり、されないようにという意味があるから。


「あれか?」


そう呟いて小走りで近寄ってみたらその子は俺を見た。


「あれ?佐藤先生は?」

「その人にここに向かえって言われたんだけど」


来る人が違うことで気でも悪くしないだろうか?って思ったけどそういう様子も見せずに黙り込む女の子。


「うーん」


唸ってからこう答えた。


「うん。分かったよ」


と、軽めの返事。


「あの佐藤先生が選んだってことは君もやり手なようだしね」


そう言って歩き出す女の子に聞く。


本来であれば佐藤先生を待っていたのに、なんで俺になってもいいんだろう。


「ほんとうに俺でよかったの?」

「うんいいよ」


なんだか釈然としない俺はスマホを取りだして【佐藤 大我】で検索してみることにした。


すると


「え?世界最強?」



【佐藤大我とは、人類最強の冒険者である】



という記事がでてきた。

写真付きで、その写真はあの冴えない人のものだった。


「そうだよ。数年前に佐藤先生は世界を取ったんだよ。でも用務員がぴったりだってことでずーっと用務員してるけどね」


(へー。そんなすごい人だったんだな)


さすが名門だ。

用務員も世界最強じゃないと務まらないのだろうか。


「佐藤先生は見分けられるんだってさ。強い人が、それで君を自分の代わりに選んだ、ってことは、君なら世界最強の代わりにふさわしいって思われたんだよ。つまり君も世界最強ってこと」


そう言われて俺は叫んだ。


「えぇっ?!」


なんだかとんでもないことになりそうだなぁ。


元々世界最強の冒険者がやることになってた用事……俺に出来るのか?っていう気持ちがあった。


女の子についていってると途中で俺の顔を見てこう言った。


「あ、私白光学園3年の神原。よろしくね」

「先輩だったんですね。俺は白銀です」


俺が今2年だからこの人は先輩だ。


女の子とか思ってた自分を殴りたい。


「先輩に見えなかったかな。まぁいいけど。よろしくね白銀くん」


どんどん先輩は歩いていく。


「どこ行くつもりなんですか?」

「地下の大迷宮」


そう言われて衝撃がはしったようだった!


(いずれ行こうと思ってたとこじゃないか)


それがこんなに早く行くことになるなんて。


あの日坂上を助けたより先の階層に行ってみたいって俺は思ってた。


そう考えたらいい機会な気がする。


「でも、なんでそんなところに行くんです?」

「卒業試験だよ。知らない?白光学園には卒業試験があって、冒険者志望ならダンジョンに行くって話」

「それで地下の大迷宮へ?」

「うん。行先は私が選んだ」


そう言ってこう続けてくる先輩。


「卒業試験は基本的にパーティで受けるんだけど。学生じゃ私のレベルについて来れる人がいなくてね。それで佐藤先生に同行を頼んだの。でも代わりに君がきた」


うぅ……。

プレッシャーかかるよなぁ。


あの人世界最強の冒険者って話らしいし。

俺に代役が勤まるのかどうか、ほんとに心配になってきた。


「あっ、そうそう。私動画サイトのチャンネル持っててさ」


スっ。

神原さんはスマホを俺に見せてきた。


そこにはチャンネルが映ってた。


【ルリンチャンネル】

チャンネル登録者数:100万人


「ひゃ、100万人?!」


俺の何倍もの登録者数に驚く。


これ有名配信者ってやつじゃん?!


「今回もダンジョン配信の方させてもらうから、よろしくね」


そう言ってる神原先輩に聞いてみた。


「あっ、自分も配信していいですか?」


そう言ってみると神原先輩はニヤッと笑ってこう言ってきた。


「君も配信者なんだ。ならコラボってわけ?よろしくね。なんて呼べばいい?」


そう聞かれて答えた。


「シュヤでよろしくお願いします」


俺はもう配信者としての立ち振る舞い方を覚えていた。


「じゃ、よろしくね。シュヤくん。佐藤先生よりすごい活躍期待してるから」


人の悪い笑みを浮かべる先輩だった。

期待がかけられてるよな。

ほんとにヘマはやれなくなってしまった。


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