第8話 帰り道で見かけた

ダンジョンを進んでると扉が見えてきた。


「ボス部屋かな」


今までの経験上で言うならばこういう扉があるとこは基本的にボス部屋だ。


"GO"

"つかボスまでくんの早すぎだろ"

"【悲報】ワイ最前線冒険者ここまでこれずに無事死亡した模様"

"成仏せぇ"

"隙があれば自分語りすなww"


コメントを見ているが重要そうなコメントはないので扉を開けた。


きいいいいいっ。

中に入るとそこにいたのは


名前:オークレジェンド

レベル:3586


「グォォォォォォォォォォ!!!!!!」


吠えてる。


"強そう(小並感)"

"強いんやろなぁ"

"苦戦するんやろなぁ"


そんなコメントが出ているが俺の戦い方は変わらない。


制服を脱いでリミッターを外した。


日常生活でリミッターが外れていると思わぬ暴走が起きる可能性があるから常にリミッターはオンにしている。


「【パラライズ】」


ビリッ!

無事に魔法による麻痺は通って動かなくなるオーク。


''魔法w使えたのかw''

'''つか魔法がボス相手に効くって初めて知ったw''


「俺を満足させてくれるモンスターはどこにいるんだろうな」


俺がダンジョンに初めて足を踏み入れた時、ゴブリン相手にもギリギリの戦いをしていた。

しかし、勝てば勝つほど俺はレベルが上がる。


そして俺は強くなり、相対的に敵は弱くなる。


今だってそうだ。


【パラライズ】だけで敵は動けなくなる。

そして


グッ。

足に力を入れて、ダン!


踏みこんで


「【ザ・インパクト】」


オークの腹にパンチを入れる。


「グオォ……」


シュぅぅぅぅ……。

オークは光となって消えていく。


"またワンパンwww"

"やばすぎw"


消えていったオークの死体を見て俺は呟く。


「モンスターがみんな弱すぎる」


"……"

"……"

"……"


コメントが静まりかえった。

どうしたんだろう?


「急にチャット止まったけどどうしたの?」


そう聞くと一気にコメントの勢いが帰ってきた。


"モンスターが弱い× 。シュヤちゃんが強すぎる〇"

"レベル3000で雑魚扱いされるモンスターくんに涙を禁じ得ない"

"見てる方はけっこうスカッとするんだよなぁ"

"ミノタウロスも今のオークも明らかに強いんだよなぁ……"


「はぁ」


ため息を吐いて俺は次のフロアに向かうことにした。


「あーどっかにいないかなー。俺とギリギリの戦いをしてくれて負けてくれるやつ」


"んじゃ、地下の大迷宮に行くしかないんじゃね?"

"せやな。やっぱ地下の大迷宮よな"

"あそこ以外はレベル変わらんやろ。最果ての塔もヤバいはずなんやけどここで物足りんのなら地下行くしかないわ"


そんなコメントが続く。


俺は決心した。


「次は地下の大迷宮行ってみよっかな。まぁでも行くとしたら長期間休み取れるタイミングかなぁ」


"流石に学園の方も心配よな"

"正直言うとダンジョンもいつなくなるか分からんし冒険者も不安よな"

"こんだけ強くてもダンジョン消えたらほぼ無価値になるもんな"


リスナー達は俺の内心を察してくれているらしい。


ありがたい限りだ。


「ま、次配信決まればまた告知するよ」


俺はそう言って次の扉を開けて部屋の中に入った。


分かってはいたけど


「セーフルームね」


俺をワクワクさせてくれるようなモンスターがいなくて少し肩を落としたが、笑顔でこう言った。


「見てくれてありがとーお疲れ様ー。ドラゴンハート欲しい人はギルド前にきてね」


"おつー"

"おつ!"


俺はそんなコメントを見ながら配信を切った。


そして転移結晶に触れてギルド前に移動することにした。


ギルド前につくと突っ立ってドラゴンハートの配布を開始した。


どこのギルド前かは配信で伝えていたが


(多いな……)


ザワザワ50人くらい集まってた。


で、俺が取ってきたのは10個、あきらかに足りなかった。


(すぐなくなっちゃうと、来てくれた人に申し訳ないよな)


俺はそう思ったので錬金術で増やすことにした。


(いやー。良かったよ錬金スキル覚えておいて)


そうして増やしながら渡していると、リスナーのひとりが聞いてきた。


「あれ、そんなにフルーツ取ってたっけ?あきらかに多くない?」


その質問に答える。


「錬金で増やしてるよ。錬金術にはアイテムを増やす技もあるからね」

「おぉぉぉぉ!!まじか!さすがシュヤちゃん!錬金術も使えるんだ!すげぇや!」


俺がフルーツを渡すとその人も、そのあとの人もみんな喜んでくれた。


よく、飲食業の人が客の喜ぶ顔とか言ってるけど


(こういうことだったんだなぁ)


って思えた。

無事に集まってくれた人にはフルーツを配り終えたので今日は解散を言い渡す。


あんまり集まってるとギルドにも迷惑だからね。


集まってくれたリスナーの笑顔を見てルンルン気分で帰っていたところだった。


(うわっ、ここ立ちんぼ通りじゃん)


普段は行かない場所に行ってたせいで道に迷って例の立ちんぼ通りにきていた。


引き返すか悩んだけど、実は俺そこそこ方向音痴で 無事に帰れるか分からない。


(この前と同じ帰り方するしかないよな)


そう思って歩いていたら嫌なものを見た。


「そう!聞いてくれる?ほんと最悪!ネットのアンチが『性病』ってめっちゃ書いてきてキショいんだけど!もうやだ!ゴウくんに癒してもらうもん!」


そんなことを電話越しに叫んでいる女が見えた。


顔も見なくても言動で分かる。


(ビチ子か。まだ立ちんぼしてんだなあいつ)


ほんとうに最悪なものを見たので引き返そうかと思った時だった。


スピーカーがオンになっているのか話し相手の声がこっちまで聞こえる。


『今まで黙って聞いてたけどさ。あんたほんと性格悪いよね。もう電話しないでくれる?』


つーっつーっ。


通話が切れたらしい。


「なによあいつ」


イライラした様子で足踏みしはじめたビチ子。

それから


タッタッタッ。


走る音。

そちらを見てみるとオレンジ髪、ゴウがビチ子の前に立ってた。


「あっ、来てくれたんだねゴウくん!」


そう言って飛びつこうとしていたビチ子にゴウは冷たく言い放った。


「俺に寄るなよ」

「えっ……」


ゴウはスマホを取り出すとビチ子に見えるように操作していた。


「お前の連絡先全部消すから。二度と近寄んなよ俺に。連絡もしてくんな。白光学園にも近寄るな。気分悪いんだよ。お前の声が、顔が」


ここまでスマホの音声が聞こえてきた。


【連絡先を消去しました。ブロックリストに追加を行いました。着信拒否設定を追加しました】


顔が真っ青になっていたビチ子に精神的に追撃するゴウ。


「そんなやつだと思わなかった。それと、修也にも近付くなよお前」

「修也?誰それ。私が知ってる男の子はゴウくんだけだよ?!」

「俺の友達だよ。それからてめぇみたいなゴミクズの幼なじみでいてくれた聖人だよ」


ブン!

ゴウがビチ子を殴っていた。


ドサッ。

倒れ込むビチ子。


「スッキリしたわ。じゃあなブス。もう二度と視界に入ってくんな。次近付いたら白光学園に対処してもらう」


ビチ子にそう吐き捨てたゴウ。

それから最後にトドメの一撃を放っていた。


「お前のこともうネットでかなり話題になってる。クソ女だってバレてるよ。誰か味方になってくれるといいな?」


そのままゴウは去っていった。


俺がいたことには気付いていなかったようだ。


今のゴウのビチ子への制裁でなんだか気持ちが軽くなった気がした。

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