女神な悪魔様 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 女神な悪魔様

登場人物

ナレ:ナレーション

美優(みゆ):婚約者にけちょんけちょんにされた女

悪魔:セーラ。尋常じゃないくらいの美女



ナレ:その日女は、ひどく酔っぱらっていました。だから、家の中に突如(とつじょ)現れたその存在を、なぜかすんなりと受け入れてしまったのです

悪魔:私を呼び出したのは貴様か

美優:え?

ナレ:ボワッという音とともに、いきなり女の目の前に現れたのは八頭身モデル体型のド美人。ちなみにその正体は悪魔。が、そんなこと泥酔女が知るはずもなく、出るとこは出て引っ込むところはしっかり引っ込んだその完璧なプロポーションに、女は一瞬で目が釘付けになりました

美優:しゅごい…

ナレ:悪魔はそんな女に対して鼻を鳴らします

悪魔:ふん、ずいぶんみすぼらしい顔をしているじゃないか。数十年ぶりに私を呼び出したのが貴様のような奴だとはな

美憂:お姉さん、誰ですか?

ナレ:女は「こんなべっぴんさん、私の知り合いにいたっけ」という疑問を抱きつつも、上から下まで舐め回すように悪魔を凝視しました

悪魔:な、なんだ貴様、そんなに見るな。見世物(みせもの)ではないぞ

ナレ:女の態度に悪魔はちょっと引きました

美優:だって綺麗なんですもん。こんなに綺麗な人、私人生で初めて出会いました

悪魔:は?

ナレ:悪魔は体型もさることながら、顔面も恐ろしいほど整っていました。切れ長の涼しげな瞳も、筋の通った高い鼻も、艶やかに色づくその唇も、すべてが完璧に配置されていたのです

美優:ほんと、綺麗

悪魔:……(わざとらしい咳払い)

ナレ:悪魔は女の視線に引きつつも、自分の役割を果たそうと話を促します

悪魔:ま、まあいい。召喚に応じてやったんだ、早く貴様の願いを言え。もちろん、その『代償』は払ってもらうがな

ナレ:代償、のところで悪魔は殊更(ことさら)に凄んで女を見ましたが、女はその笑みにさえ胸の高鳴りを感じました

美優:なんですかその凶悪な笑顔。心臓に悪いですもっとください!

悪魔:貴様、気は確かか?

ナレ:今度こそ、悪魔は完全に引きました。が、召喚された以上、召喚者の願いを叶えないと魔界に帰れないという掟(おきて)があるため、悪魔は必死に自分を奮い立たせます

悪魔:じゃなくて!願いだ願い!貴様の願いを言え!

美憂:願い?願いですか?

悪魔:そうだ

美優:私がお姉さんに願うんですか?

悪魔:ほかに誰に願うって言うんだ

美優:願い…願い…それって、なんでもいいんですか?

悪魔:ああ、なんでもいいぞ。私にできないことなど何一つないからな

ナレ:豊満な胸を殊更(ことさら)に張り、悪魔は答えました。その際、二つの果実がたわわに揺れ、女はごくりと生唾を飲みました

悪魔:…な、なんだか視線が気持ち悪いが…もういいからさっさと願いを言えっ

ナレ:たまらず悪魔が吐き捨てると、女はぽつりと呟きました

美憂:じゃあ…頭を

悪魔:ん?

美憂:頭をなでてくれませんか?あなたは悪くないって、なでてくれませんか?

悪魔:は?

ナレ:女の発言の意図がわからず、悪魔は怪訝(けげん)な顔をします。しかし女は、それを見て自分が調子に乗りすぎたのだと解釈し、願いを変えました

美優:あ、やっぱり要求デカすぎましたね、すみません。じゃあ、マスカラどこのメーカーの使ってますか?教えてほしいです。すっごくきれいなセパレート…

悪魔:貴様は何を言ってるんだ?

ナレ:にじりよる女に半歩、悪魔の身が下がりました。この悪魔、割と何でもできるタイプの悪魔です。怖いものなど存在せず、魔界ではとにかく恐れられており、彼女の姿を見ただけで失神する者もいるとかいないとか。そんな悪魔を怯(ひる)ませたことなど露(つゆ)も知らず、女はぷーっと口を膨らませました

美優:ええ、これもダメですか?なんでもいいって言ったのに。…あ、じゃあ朝ごはんのメニューを教えてほしいです。何食べたらそんなに艶々なんですか?肌も髪も、なにもかもが素敵

悪魔:おい、じりじり近寄ってくるな。これ以上近づいたら消し炭にするぞ

美優:ほんと、お姉さん綺麗ですね…私もお姉さんくらい綺麗だったら、あんなこと言われずに済んだのかなぁ

悪魔:貴様、ほんとに何を言って

ナレ:戸惑う悪魔をよそに、女はここである一つの仮説を立てました

美優:ああこれ、夢ですか。ですよね、じゃなきゃお姉さんみたいなウルトラ級美女がいきなり目の前にやってくるとかないですもんね。でも夢ならマスカラのメーカーくらい教えてくれてもいいのに

悪魔:夢などではなく

美優:夢、夢かぁ…どこまで夢なんだろ。奏多(かなた)に別の本命彼女がいたことも夢?私の家で二人で抱き合ってたのも全部、夢?…なわけないかぁ、あんな生々しい夢あるわけないもんね

悪魔:おい、貴様

ナレ:夢だと結論付けた女は、悪魔そっちのけでひたすらに語ります

美優:ねえお姉さん、お姉さんみたいな美人さんだったら「お前みたいなブスと誰がほんとに結婚するかよ」って吐き捨てられることもないんでしょ?いいなぁ、私も美人だったらなぁ

美優:私、何がいけなかったんですかね。「調子に乗るな」って、プロポーズまでしてもらって調子に乗らない女なんていますか?全部遊びだったなら、なんでプロポーズなんてするんですか。「一生大切にする」って言ったくせに。あんな軽い一生がありますか

悪魔:お前

美優:「元カノのほうが相性がよかった」って、「お前に色気が足りないからだ、俺は悪くない」って、そんなことまで言われて…私、何がいけなかったんですかね…ただ家に帰っただけなのに…私だって、知りたくて知ったわけじゃないのに

ナレ:思わず下唇を噛んだ女の頭に、柔らかい悪魔の手が乗りました

悪魔:(頭をなでながら)お前は悪くない

美優:あ…

悪魔:お前は悪くない。悪くない

ナレ:きっぱりと言い切る悪魔。優しくてあたたかな手。その瞬間、女のすべてが決壊しました

美優:あ…あああ…お姉さん…っ

悪魔:よしよし、好きなだけ泣け。全部吐き出してしまえ

美優:好きだったの。本気で好きだったの!プロポーズもすっごく嬉しくて、なのに

悪魔:よしよし

美優:奏多のバカぁぁぁ!バカぁぁぁ


0:数分後


ナレ:ひとしきり女が泣いた後、悪魔が耳元で囁きます

悪魔:その男が憎いか

美優:憎いです

悪魔:殺したいほどにか

美優:殺し…あ、いえ

ナレ:物騒な単語に驚いて、女は顔を上げました

悪魔:怖がらなくていい。思ったことを素直にそのまま口に出してみろ

美優:…いいの?

悪魔:ああ。お前の本心を吐き出せ

美優:…殺したくなんかない。というかすんなり死ぬなんて許せません

悪魔:ほう、死よりもさらに上を望むか

美優:義両親にも友達にも職場にもバレて色んなものを失ったらいい。ついでに薄毛とワキガと水虫とEDに死ぬまで悩んで一日3回小指をタンスに打ち付けて悶絶(もんぜつ)する毎日を送ればいい

悪魔:お前、見かけによらず物騒(ぶっそう)な奴だな

美優:夢だからいいでしょう

悪魔:ああ、何を望んだっていい

ナレ:微笑む悪魔はこの上なく美しく

美優:ありがとう、お姉さん。お姉さんは女神様なんですね

悪魔:女神、か。初めて言われたな

美優:女神様、もう少しだけ、このまま頭なでてもらってもいいですか?

悪魔:いいさ。私をここに呼んだのはお前だ。お前の望みはすべて叶えよう

美優:へへ、いい夢だなぁ…

ナレ:泣きつかれた女は、満たされたように眠りに落ちました


0:美優、眠りに落ちる。


ナレ:眠りに落ちた女をベッドに横たわらせると、悪魔は一言、こう呟きました

悪魔:さてと。仕事を始めようか


0:翌朝。


ナレ:翌朝、カーテンの隙間から差し込む光で目覚めた女はうーんと伸びをします

美優:今何時

悪魔:8時34分だ

美優:えっ!?

ナレ:当然、独り言のつもりで発した女。しかしまさかの返答。女は死ぬほど驚いて声のする方へ振り向きました

美優:えええ!?超絶美人女神さまぁぁ!?

悪魔:朝から騒がしい奴だな

美優:え、どゆこと!?昨日のあれは夢じゃなかったの!?

悪魔:貴様、朝はパン派か

美優:えっ

悪魔:パン派かと聞いている

ナレ:状況が全く飲み込めない女でしたが、聞かれたことには素直に答えます

美優:あ、はい…食べないこともありますけど

悪魔:それは愚策(ぐさく)だ

美優:はい?

悪魔:朝こそしっかり食べろ。できればパンより米を食え。さらに懐(ふところ)が許すならフルーツや生野菜など生のものを食せ

美優:な、何の話です?

ナレ:ぽかんとする女に、眉を顰(ひそ)める悪魔

悪魔:貴様が聞いたんだろう、「朝ごはんのメニューを教えろ」と。まあ、私には食事など不要だからわからなかったからな、この目の前にある端末を使って【検索】とやらをさせてもらった結果で話すが、美しくなりたいのならまずは食生活、次に運動を見直すことだ。特に朝食は一日の活力に

美優:(遮って)ちょ、待って待って待ってください!

悪魔:(ムッとして)なんだ

ナレ:せっかく一晩じっくり調べた結果を披露しようとした悪魔は、出鼻をくじかれてちょっと不機嫌になりました。ですが、女が今一番知りたい情報は朝食の有用性などではなく

美優:あの、ごはんの話はいったん置いとかせてください。お姉さん、誰ですか!?

ナレ:超絶美人の正体でした

悪魔:あ?ああ、名乗っていなかったか。私はセーラだ

美優:セーラさん

悪魔:ああ、気楽に呼ぶとよい。で、朝ご飯の話に戻すが

美優:待って待って戻さないで

悪魔:なぜだ。貴様が知りたいというから一番美に良い献立を一週間分も考えてやったのだぞ

美優:それはありがとうございます後でメモ取りながら聞きます!でもまずはその他もろもろ聞かせてください

ナレ:女の必死の懇願(こんがん)に折れることにした悪魔

悪魔:ふむ。まあよかろう。で、何が聞きたい

美優:えっと…とりあえず、どうやって家に?

悪魔:どうやって、とは?

美優:鍵です!私の部屋、どうやって入ったんですか!?

悪魔:ああ、それはな

ナレ:にやりと笑い一歩踏み出した悪魔は、次の瞬間女の背後に回っていました

美優:えっ、あれ!?今目の前にいましたよね!?

悪魔:うむ。いわゆる瞬間転移というやつだな

美優:瞬間転移って、そんなファンタジーな

悪魔:信じぬか?信じぬなら信じぬでよいが、私に貴様の持つ常識は一切通用しないぞ。鍵などという概念すら不要だ。ほらこの通り、壁も抜けられるぞ

ナレ:そういって悪魔は、女のワンルームの壁に半身を埋め込みながら笑いました

美優:ひっ

悪魔:信じたか?

美優:は、はひ

悪魔:素直でよろしい

ナレ:とりあえず飲み込むしかない、と自分を納得させ、女は次の質問へと移ります

美優:それであの、セーラさんはどうして我が家へ

悪魔:どうしてって…人を呼び出しておいてそれはないだろう

美優:え?

悪魔:貴様が私を呼び出したのだぞ?

美優:え、私が?

悪魔:貴様、そのフランス人形をどこで手に入れた?

美優:フランス人形?

悪魔:これのことだ

ナレ:悪魔はベッドの下に無造作に置かれていた人形を恭(うやうや)しく取り上げて女に見せました

美優:え、何この人形。私知らないです

悪魔:知らない?ではなぜこれがここにある

美優:って言われても

悪魔:本当に知らないのか?

ナレ:悪魔が顔を近づけると、女は慌てて記憶を引っ張り出しました

美優:あ、ちょっと待ってください、なんか見覚えある気がしてきた。…あー…昨日私しこたま飲んで…ゴミ置き場歩いてるときに…そうだ!この人形が捨てられていて。なんだか可哀そうになっちゃって

悪魔:なるほど。捨てられた自分と重ねて哀れに思い拾ってきた、と

美優:そうです。…え、あれ捨てられたって、え?

悪魔:貴様、家に帰ってからのことは覚えてないのか

美優:えっと…家じゅうの缶ビール飲み干して…それで…

悪魔:全く。そんなただれた生活を送りながら美を求めるとはおこがましい

美優:あ、すみません

悪魔:貴様にありったけの酒を飲まずにいられなくした犯人だがな…死んだぞ

美優:え

悪魔:死んだ

美優:死んだって…え、奏多が?

悪魔:ああ。死んだ。社会的に、だがな

美優:え?どういうことです?

ナレ:ぽかんとする女に呆れながら、悪魔が種明かしを始めました

悪魔:本当に覚えていないのだな。貴様が昨夜私に願ったのだろう、浮気の件を周囲の者全てにバラし、ついでに薄毛とワキガと水虫とEDにしろと。ああもちろん、1日3回タンスに小指を打ち付けるというリクエストも叶えておいたぞ

美優:私、そんな恐ろしいこと言いました?

悪魔:ああ、言ったな

美優:それが叶っちゃったんですか?

悪魔:叶っちゃったな。これがその証拠だ

ナレ:悪魔は女の枕元にあった携帯を女に見せました。そこには「俺が悪かった、許してくれ」「愛しているのはお前だけだ」「やり直そう、もう浮気はしないから」という男からのメッセージが大量に入っていました

美優:なにこれ

悪魔:奏多とやらは随分と忙しそうだぞ。友人や親にも自分の行いが全てバレ、今は本日2度目の『タンス小指』に悶絶している真っ最中だ。貴様も見るといい

ナレ:そういうと、悪魔はパチンと指を鳴らしました。瞬間、女の脳裏に足の小指を押さえてうずくまる男の姿が浮かび上がりました

美優:わぁ

悪魔:口で伝えるより手っ取り早く伝わるだろう?皆にも同じ方法で男の悪行を脳みそからダイレクトに伝えておいた。人間どもの集める証拠よりもよほど鮮明でリアルだぞ

美優:痛そう…

悪魔:男が不憫(ふびん)か?

美優:いえ…ザマアミロって思っちゃいました

悪魔:ふふ、そうかそうか。やはり貴様は面白い!

ナレ:悪魔は女の返答に満足げに笑うと、さて、と女を射抜くような目で見つめました

悪魔:私は自分の仕事を果たしたぞ

美優:あ、はい、ありがとうございました

悪魔:これで契約成立だ。報酬をいただこうか

美優:報酬

悪魔:そうだ。願いを受け付ける前にも言っただろう、代償を払えと

美優:あ…

ナレ:悪魔の言葉に、女の顔に怯えが浮かびました。どうやら昨日の悪魔とのやり取りをおぼろげながら思い出してきたようです

悪魔:さて、では何をもらおうか

美優:あ…貯金全額ならそこの引き出しの通帳の中に

悪魔:私がこの世界でしか使えない金など欲すると、本気で思っているのか?

美優:ですよね。じゃあええっと、寿命とか?あ、臓器は流石に持ってかれると生活に支障をきたすので腎臓一つくらいで勘弁してもらえると嬉しいんですけど

ナレ:冷や汗をかきながら祈るポーズを取る女に、悪魔の口角が上がりました

悪魔:そうだなぁ…それでは、これをもらって行くとするか

ナレ:凶悪な笑みを浮かべながら、悪魔はまたパチンと指を鳴らしました。瞬間、女の体が光りだし…

美優:え、え、えっ

悪魔:貴様の脂肪、もらってゆくぞ

美優:えええええ!?

ナレ:発光が終わるころには、女の体が2段階ほどスリムになっておりました

美優:あ、あのセーラさん、これって

悪魔:貴様は太りすぎだ。標準体重でもよかったが、そんなに美を欲するのであれば美容体重でよかろう。脂肪だけきっかり10キロほど吸い取ってやったわ

美優:め…女神様ぁぁぁぁ

ナレ:女は悪魔を拝み倒し、涙を流しながら喜びました。そんな女を「ふん」と鼻で笑い、悪魔は続けます

悪魔:向上心のないバカは嫌いだ。もう一度今日と同じ体型に戻ることがあれば、今度はこの吸い取った脂肪を逆に引っ付けてやるから覚悟しておけ。あと、男を見る目も磨くのだぞ

美優:はい、はい!精進いたしますぅぅ

悪魔:あ、あとこれは美肌によい朝食メニュー1週間分だ。では、励め

美優:はいっ!

ナレ:こうして悪魔は言いたいことを言い終え、無事に悪魔界へ

悪魔:あ、その前に一つだけ

ナレ:戻る前に追伸を残してゆきました

悪魔:その人形は後生大事に飾れ。ほこりなどは定期的に払うのだぞ

美優:はい!女神様!!

悪魔:うむ、では

ナレ:満足げにうなづいた悪魔は、こうして今度こそ魔界に戻ってゆきました。残された女は人形を大事そうに抱きしめ、もう一度「ありがとう、女神様」と呟くと身支度を始めたのでした

ナレ:その後、女は悪魔に減らしてもらった体型を維持し、また健康的な食生活を積極的に取り入れ美肌を手にし、数年後金持ちの優しく誠実な男性と結婚し、たいそう幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし






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