第25話

召喚者保険の切れた今、僕に突きつけられた選択肢は2つ。

宿に宿代を払い続けて泊まり続けるか、新たな住居を見つけるかだ。

悩みに悩んだ末に僕が導き出した答えは……。


「宿屋の店主さん!今までありがとうございました!」


「追い出しておいてなんですが、どこか宛はあるんですか?」


「きっと見つかりますよ。」


「きっと……ですか。良いところが見つかる事を祈ってます。」


「それじゃ!」


僕が選んだ選択、それは「宿を出ていき、新たな住居を手に入れる事」だ。

きっと見つかる、と言ったが、なんの宛も無い訳じゃなく、目星は付けてある。

僕はその場所を借地する為に、地主さんの住む大きな屋敷へと向かった。


「この土地をお借りさせていただきたいんですけど……。」


「えー、東区3番地1-7 ですね。まず初めに……」


僕は土地を貸してくれる地主さんと色々とやり取りをして、最終的に土地を借りる許可を得るまでに漕ぎ着けた。

こんな体験人生で初めての僕は、地主さんに色々と分からない事を教えてもらって、なんとか土地を借りる事ができた。

そして僕は、アルデッサの東区あるその土地に足を運ぶ。


「ここが僕の新たな住居……。」


まぁ借りたのはあくまで「土地」であって、そこには家も何も建ってない更地だったんだけどね。

でも問題は無い。僕にはプラスチックマスターがある。


「一から生成……リビング、キッチン、寝室、トイレ、お風呂はこんな配置で……よし!」


僕はプラスチックマスターを開き、「一から生成」を選択、画面内で家の完成図を設計した。

建築のけの字も知らない僕だが、「こんな家に住みたいなー」と言う願望を形にしたような設計図を作ってみる。

設計図は1時間程で完成し、僕の理想の我が家の設計図はこうして完成した。


「それじゃあ……生成!」


そして僕は、いよいよプラスチックマスターの力で我が家を生成する。

空中に現れた魔法陣から、ドロドロに溶けたプラスチックが放射され、それが家の形を形成していき、ドロドロだったプラスチックは家の形を形成していく。


そうしてプラスチックの我が家は着々と形成されていき、生成開始から10分程で、これから僕が住む家は完成した。


「これが僕の家……!」


プラスチックの家……最初は強度的な問題があるからどうなんだろうと思ったけど、それについては問題無い。

僕はプラスチックマスターのスキルを使い続けた事で、新たに「プラスチックマスター補助スキル[プラスチック耐久強化]」を得たのだ。


それによってプラスチックの耐久力を強化し、ただのプラスチックの家は、地震や家事に強い強化プラスチックの家へと変貌した。

さらに補助スキルによって、トイレには防汚性が付与されて、キッチン周りには火と水に強くなっているはずだ。

水道のパイプは通ってたので、それはそのまま使わせてもらった。

これからは1ヶ月ごとに土地代と水道代、合わせて銀貨5000枚を支払う事になる。

ガスはこの世界にはまだない。


宿代は1日銀貨80枚で、1ヶ月泊まるとなるとかなりの金額になるから、それよりは土地を借りた方が正解だったよな。

そう思いつつ、僕は新居の中は期待通りの物になっているかどうかを確認する。


「おぉ〜……!!」


プラスチックの色は見栄えの良さを重視した結果、クリーム色の色彩を選んだ。

それによって僕の家はかなり良い見栄えの内観になっていた。

家具とかは……これから買い揃える必要があるな。後で家具屋に行こう。


あと、1人で住むからには料理ができなくちゃいけない。

お店に惣菜やパンは売ってるけど、やっぱり生きていく上で料理はできなくちゃな。

ともかく、僕の要望通りの家をプラスチックマスターが作ってくれて、僕は満足だ。

とりあえず早急に必要なのは今夜の食事と眠るベッドと、歯ブラシとタオルと……よし、全部買いに行くか。


そう決意し、家を出ると……そこには子供連れの女性がいた。僕の家に何か用かな?


「ど、どうしたんですか?」


「昨日は家なんて建ってなかったのに1日でこんな立派な家が建つなんて……魔術かスキルのお陰かしら?」


「そ、そうですね……。」


「でも、この家なんか変な匂いがするわ。私この辺に住んでて、買い物に行く度にここを通るんだけど、その度にこんな匂いを嗅いでたら堪らないわ!ね〜?」


「くさ〜い!!」


奥さんも子供も、この家を臭いと言っている。確かにこの家から「プラモデルの袋を開けた時の匂いをさらに強くした」みたいな臭いがする……。

でもしばらく経てばこの臭いは消えるよね?ほっといてもいいよね?


「す、すみません……でもしばらくしたら臭いは消えると思うので……。」


その日はそう言い訳して、奥さんを言い聞かせて納得してもらえた。けど……。

あれから1週間が経過した。その間僕はいつも通りの生活を繰り返したのだけど……家の臭いは一向に消える事は無かった。


「ちょっと!まだ臭いじゃないの!?どうしてくれるの!?」


「す、すみません……!」


とは言われても、僕にはどうすれば良いか……臭いを消すスキルでも無いものなのか……。


「ママー!便利屋冒険者なら、この匂いを消してくれるんじゃないの?」


「そうね!あの人にできない事は無いものね!」


便利屋……冒険者だって……!?

僕は少年が言ったその一言に興味を持ち、奥さんに話を聞いてみる。


「そ、その人はどこにいるんですか?」


「便利屋冒険者って言うんだから、冒険者ギルドにでもいるんじゃないかしら?その人、冒険者の服にこびり付いたモンスターの獣臭も1時間で落とせるって評判なのよ。」


「分かりました!ありがとうございます!」


奥さんからそう聞いた僕は、早速冒険者ギルドに向かう。

便利屋冒険者……一体どんな人なんだ!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る