第24話

僕はレイラさんの家の中の寝室を見つけて、眠りこけたレイラさんをそこに運ぶ事にした。


「し、失礼します……。」


僕はレイラさんの肩を担いでベッドまで運ぶ。

僕の趣味はインドアなものだけど、それ一辺倒にならない為に一応運動はしている。

その一応人並みの体力を活かしてレイラさんをベッドまで運んだのだけど……。


「う〜ん……おしっこ……。」


「え……。」


こ、ここまで来てトイレ?仕方ない、運んであげよう……漏らさせる訳にはいかないし。

そう決意した僕は、寝室から再びリビングに行き、リビングからトイレまで向かった。

レイラさんの肩を担ぎながらもなんとかトイレのドアを開き、トイレに彼女を座らせる。


「ん〜……」


「ちょっと!?僕外出ますから!」


レイラさんは突然ズボンをおろそうとしたので、僕は急いでトイレを出る。

そしてトイレの外で待つこと数分……トイレにしては長いな……と思った僕は、まさかレイラさんトイレの中で寝てるのでは!?と思い、急いでドアを開け……ようとしたのだけど……。


「いや、犯罪だから!」


的なツッコミを自分にし、しかしレイラさんをトイレの中で1晩放置する訳には……と葛藤してると、トイレの中からレイラさんが自力で出てきた。


「よ、良かった〜……」


「う、う〜ん……」


「うわっ……!」


トイレから出てきたレイラさんは、僕によりかかる。今度こそ完全に眠りについたのかな……。

でもとりあえずトイレから出てきてくれたのは良かった。僕も罪を犯さずに済んで良かった。

でも、もうレイラさん歩けそうにないし……こうなったら!


「ふんぬ〜……!」


お姫様だっこ、それ以外にレイラさんを運ぶ方法が思いつかなかった。

プラモデル同好会の同級生の虎田鎧(とらたがい)君の母親が介護士をやってるって、鎧君から聞いた事あったっけ。

介護士って大変そうだし、そういう人は尊敬するべき存在だよな、と今の僕は思っている。


「ふぅ……。」


その後、なんやかんやで僕はレイラさんをベッドまで運ぶ事ができた。疲れたし、もう帰るか……


「いや、今この家にいるのレイラさん1人じゃん……誰が戸締りするんだ?」


そう、僕が帰ってしまえばこの家にいるのはレイラさん1人だけになってしまう……そんな考えが脳裏によぎったのだ。

そのレイラさんは寝てるし……鍵を借りて、外側から鍵を閉めるのはどうだろうか?いや、勝手に人の家の鍵を持っていくのはダメだ。

こうなったら、僕がこの家に朝までいるしか無いのか……?



1夜が開け、朝が来た。


「うぅ〜ん……あれ……私いつの間に寝ちゃって……って、え!?」


僕はレイラさんの声で目を覚ます。昨日の夜、家に帰るか悩んだ結果、僕はレイラさんの家で泊まらせてもらう事にしたのだ。


女の子一人だけの家に男が勝手に泊まるのは悪い事だと思ったけど、僕はレイラさんの事が心配で仕方なかったんだ……そんなのも言い訳でしかないけど。

だからせめてと言うかなんと言うか、僕は床で眠る事にした。


「ああ……おはようございます。」


「なんでキュートくんが家にいるの!?帰ってなかったの!?」


「それは……眠くなっちゃったから……ですかね。人の家で勝手に寝ちゃってすみません……。」


「まさか……私が戸締りもせず勝手に寝ちゃったから、戸締りししてない私を1人にさせない為にって事じゃ……ないよね?」


ギクッ……その通りですレイラさん。

でも言ったらレイラさんは僕に謝ってくるよな。


「そ、そういうのじゃ無いですよ!僕なんて気の利かないダメ男なので、そんな事考えもしませんでした……はは。」


「目が泳いでるよ!私の言った通りなんでしょ?」


「そ、それは……。」


「それなら……ごめんキュートくん!私が勝手に寝ちゃったばかりに……キュートくんをこんな硬い床の上で眠らせる事になって……でも、ソファーがあるんだからそれ使っても私怒らなかったよ?なんならお客さん用のベッドが押し入れの中にあるし……言ってくれれば良かったのに……。」


「レイラさん……気を使ってくれてありがとうございます。」


レイラさんは優しいな……こんな美人の女性にこんな優しくされるなんて、前いた世界では滅多に無かったし……。

この人は僕のことを思ってくれてこんな事を言ってくれた……それはとてもありがたい事だ。


「でも、一応お詫びはさせて!君を1晩床で眠らせるなんて事しちゃった訳だし……私にできる事ならなんでも言ってね!」


「な、なんでも……?」


そ、それは貴方みたいな人が言っていいセリフじゃないような……でも……うーん……お詫びか……。


「しばらく考えさせてください。思いついたらその時は頼らせてもらいます。」


「分かった!あ、それと、昨日キュートくんに聖青石で作ったニッパーを渡したでしょ?あれは商人のおじいちゃんからタダで貰ったものだから、気負わないでね!」


「は、はい。」


聖青石をタダであげたのか、商人のおじいちゃん……どんな人なんだろう。

それはそうと、その日はレイラさんに別れを告げて宿に帰った。

僕が肉食男だったら、あの晩にレイラさんに……とか考えたけど、僕みたいなヘタレが大人の女性に手を出せる訳無いし、そもそもあちらも僕なんかに気がある訳無いか!

そんな異世界と同じぐらいファンタジーな事は考えるのやめて、いつも通りプラモデル作りをしよう!


そして、それからまた時間が流れていった。その間も僕はプラモデルをおもちゃ屋に入荷したり、リサエルさんやレイラさん、ロゼさんと店で会ったりもして、異世界での生活は過ぎていって……その日、異世界に召喚されてから1ヶ月が経過した。


「召喚者保険は今日までとなっております。今日からは宿を出るか、お金を支払っての宿泊をするかのどちからを選んでください。」


「え……。」


1ヶ月経ったという事は……そう、宿にタダで住めなくなったのだ。どうする僕!?

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